(平成23年9月28日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が、相続により取得したJ社の株式(以下「本件株式」という。)の評価について、配当還元方式で評価して相続税の申告をしたところ、原処分庁が、J社の株主であるK社は、財産評価基本通達(昭和39年4月25日付直資56ほか国税庁長官通達。ただし、平成20年3月14日付課評2−5ほかによる改正前のものをいい、以下、「評価基本通達」という。)188《同族株主以外の株主等が取得した株式》の(1)に定める請求人の同族関係者に当たることから、類似業種比準価額で評価すべきであるとして更正処分等を行ったことから、請求人が、K社は同人の同族関係者に当たらないとして、当該更正処分等の全部の取消しを求めた事案である。

(2) 審査請求に至る経緯

イ 請求人は、平成19年12月○日(以下「本件相続開始日」という。)に死亡したP2(以下「本件被相続人」という。)の相続(以下「本件相続」という。)に係る相続税の申告書を別表1の「申告」欄のとおり記載して、法定申告期限までにE税務署長に提出した。
ロ E税務署長は、本件相続に係る相続税の納税地の所轄税務署長がF税務署長であったため、当該相続税の申告書を同税務署長に移送した。
ハ F税務署長は、原処分庁所属の調査担当職員(以下「調査担当職員」という。)の調査に基づき、平成22年4月21日付で課税価格及び納付すべき税額を別表1の「更正処分等」欄のとおりとする更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分をした。
ニ 請求人は、これを不服として、平成22年6月16日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、本件株式の評価に当たり、K社は同人の同族関係者であると判断したが上記ハの更正処分において採用した業種の選択に誤りがあるとして、別表1の「異議決定」欄のとおり、同年9月14日付で、更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分の一部を取り消す異議決定をした(以下、異議決定により一部が取り消された後の更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分を、それぞれ「本件更正処分」及び「本件賦課決定処分」という。)。
ホ 請求人は、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成22年10月12日に審査請求をした。

(3) 関係法令等の要旨

 別紙のとおりである。

(4) 基礎事実

イ 相続関係について
 本件相続に係る共同相続人は、本件被相続人の配偶者である請求人並びに子であるP3、P4、P5、P6及び孫であるP7である。
ロ J社について
(イ) J社は、g市h町○−○にその本店を置き、金属製品及び消防器材の製造及び販売等を目的とする法人であり、昭和25年9月○日に設立された。
(ロ) J社の本件相続開始日における発行済株式数は9,200,000株であり、資本金は460,000,000円である。
(ハ) 本件株式について
A J社は、定款において、本件株式の譲渡に際し、取締役会の承認を要する旨定めている。
B 本件株式は、評価基本通達168の(3)に定める「取引相場のない株式」である。
(ニ) J社の株主について
A 本件相続開始時点の前後における、J社の株主は、別表2のとおりであり、筆頭株主グループの議決権割合が30%未満であるから、同族株主のいない会社に該当する。
B J社の各株主は、1株につき1個の議決権を有する。
(ホ) J社の機関について
A 本件被相続人は、K社の設立時において、J社の代表取締役であり、以後、本件相続開始時までその地位にあった。
B 請求人は、平成8年11月にJ社の取締役に就任し、本件相続開始日後の平成20年1月7日に、P8とともに、J社の代表取締役に就任した。
C J社は、平成21年11月24日に、取締役の選任等を議案として臨時株主総会を開催した。同日、請求人が単独の代表取締役となった。
ハ K社について
(イ) K社は、g市h町○−○(J社と同所)にその本店を置き、金銭の貸付業、株式投資業等を目的とする法人であり、平成16年2月○日、有限会社として設立された。
 なお、会社法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律第2条第1項及び第2項の規定により、この法律の施行日(平成18年5月1日)以後は、会社法の規定による株式会社として存続するものとされている。
(ロ) K社の本件相続開始日における発行済株式数は3,000株であり、資本金は3,000,000円である。
(ハ) K社の出資者(社員又は株主)の設立時から本件相続開始日までの出資の状況は別表3のとおりである。
ニ 本件被相続人からK社に対する株式の譲渡について
 平成19年8月1日、本件被相続人は、自己が所有する本件株式のうち725,000株を1株当たり75円、合計54,375,000円でK社に譲渡した。
 なお、K社の本件株式の取得資金は、本件被相続人が代表取締役であるG社よりの借入金である。
ホ J社の持株会について
 J社には、J社に10年以上勤続の従業員を対象とするJ社従業員持株会、同じく20年以上勤続の従業員を対象とするJ社○○持株会がある。

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2 争点

 本件株式の評価に当たり、K社は評価基本通達188の(1)に定める請求人の同族関係者に該当するか否か。

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3 主張

(1) 原処分庁

 以下の理由から、K社の出資者は、社員総会又は株主総会(以下「株主総会等」という。)の議決権行使も含め、K社の経営事項の決定を本件被相続人及び請求人に委ねていたものと認められ、法人税法施行令第4条第6項に規定する本件被相続人又は請求人の意思と同一の内容の議決権を行使することに同意している者に該当するから、K社は、同条第2項及び第3項の規定により、評価基本通達188の(1)に定める請求人の同族関係者に該当すると認められる。そうすると、請求人及びその同族関係者のJ社における議決権割合は15%以上となり、請求人が取得した本件株式は、同通達188に定める「同族株主以外の株主等が取得した株式」には該当しないこととなるから、配当還元方式で評価することはできず、類似業種比準価額で評価することとなる。
イ 本件被相続人は、J社の持株会社であるK社を設立するに際し、自ら設立費用を負担して部下であるJ社の役員や従業員に出資させ、K社の出資に譲渡制限を設け、本件被相続人の出資金はK社の出資の譲受人に引き継がれていくものとすることにより、K社を実質的に本件被相続人の支配下においていた。
ロ K社は、設立以来一度も株主総会等や取締役会を開催せず、K社の出資者が株主総会等の開催を要求したこともない。
ハ 本件被相続人が自己の所有する本件株式をK社に売却したのは相続税対策のためであり、K社が本件株式を第三者に売却するおそれがなかったからである。
ニ K社は、本件相続開始日後に開催されたJ社の臨時株主総会において、K社の株主や役員でもない請求人に、K社が有するJ社の株式に係る議決権行使を委任した。

(2) 請求人

 以下の理由から、K社の出資者は、本件被相続人又は請求人の意思と同一の議決権を行使することに同意している者と認めることはできないから、K社は、評価基本通達188の(1)に定める請求人の同族関係者に該当しない。したがって、請求人及びその同族関係者のJ社における議決権割合は15%未満となり、請求人が取得した本件株式は、評価基本通達188に定める「同族株主以外の株主等が取得した株式」に該当し、配当還元方式で評価することとなる。
イ K社は、J社及びその関係会社(以下「J社グループ」という。)の株主の安定化、株主の経済的利益の獲得、従業員の勤労意欲のアップ、従業員の定着化を目的として、本件被相続人とJ社の役員等が検討して設立したものであり、本件被相続人のために設立したものではない。
ロ J社グループでは、同様の目的から、H社、J社従業員持株会、J社○○持株会を設立しており、K社設立時には、既にJ社従業員持株会がJ社の筆頭株主になっていた。
ハ K社の出資者は、K社への出資が、効率の良い確実な投資になり、会社のためにもなると考え、自らの意思で、自らの預金から支出して出資を行っている。
ニ K社の出資者は、K社から配当金を受領し、確定申告も行っている。

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4 判断

(1) 認定事実

 請求人の提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
イ K社の設立の経緯、目的等について
(イ) K社の定款には、会社の目的として、まる1金銭の貸付業、まる2株式投資業務、まる3前各号に付帯する一切の業務と記載されているが、K社において、金銭貸付業、株式投資業務が行われた事実はない。
(ロ) J社の役員又は従業員であるP9らの原処分庁に対する申述によれば、以下の事実が認められる。
A 本件被相続人は、生前に、持株比率が15%を切るかどうかで相続の場合の株式の評価が全然違うと話し、持株比率を15%未満とすることを望んでいた。
B 本件被相続人は、本件被相続人一族、J社従業員持株会等の持株比率を変えないようにする必要があるが、J社の従業員が退職した際に、当該従業員の所有する本件株式をJ社従業員持株会等で買い取る資金が集まらないこともあるので、一時的な受け皿として本件株式を引き受けるため、K社を設立させた。
C 資本金3,000,000円は、すべて、本件被相続人が出捐した。その際、本件被相続人は、設立時の出資者に、「税金のかからないお金なので、その代わり、次のK社の出資者においていってほしい」と指示した。
D J社を退職した者がK社の出資を所有しているのは好ましくないと考え、平成19年6月に、K社と同社の出資者との間において、J社を退職する場合は、退職日をもってK社が指名した者に1口1,000円で同社の出資を譲渡する旨の合意書を取り交わした。なお、「K社が指名した者」というのは、本件被相続人及びJ社の役員がJ社のベテラン従業員の中から候補者数名を選び、本件被相続人が決定した者である。
(ハ) この点、P9らは、異議審理庁に対しては、K社の設立は、J社の役員又は従業員であり、K社の設立時の出資者でもあるP10、P9及びP11が相談して決めたものであり、本件被相続人の意見によるものではない、設立の目的は、J社の株主の安定化と従業員の定着化である等と申述している。
 しかしながら、J社の株式を同社の従業員に帰属させて同社の経営の安定を図るためであれば、既に存在するJ社従業員持株会、J社○○持株会による株式の所有で十分にその目的を達するものであり、このほかにK社を設立する必要はないこと、同人らは申述の変遷の理由につき、前回なぜそのように答えたかわからない、今回は税理士から渡された手元にある資料を見ながら申述していると述べるのみで、何ら合理的な説明をしていないことからすれば、同人らの異議審理庁に対する申述は信用できない。
ロ 本件被相続人のK社への本件株式譲渡について
 本件被相続人は、上記イの(ロ)のAのとおり、持株比率を15%未満とすることを望んでおり、相続税対策の一環として、本件被相続人一族の持株比率を15%未満として、同人が所有する本件株式の相続税における評価方法を配当還元方式とするため、同人の所有する本件株式を、同人及びその一族が出資者となっていないK社に譲渡することとし、また、本件株式の取得資金のないK社に対しては、同人が代表取締役であるG社から貸付けを行うことにより、本件株式の譲渡をするに至った。
ハ K社の出資者について
(イ) K社の出資者は、別表3のとおりであり、いずれもJ社の役員又は従業員である。
(ロ) K社の定款には、以下の定めがある。
A 第6条 当会社の株式を譲渡により取得することについて当会社の承認を要する。
B 第7条 当会社は、相続その他の一般承継により当会社の株式を取得した者に対し、当該株式を当会社に売り渡すことを請求することができる。
(ハ) K社の出資者は、J社を退社した際には、K社の株式に関する権利を失う旨の説明を受けていた。
(ニ) K社の出資者は、K社との間で、J社を退職する場合は、退職日をもって、K社が指名した者に1口1,000円(額面)で、K社の持分を譲渡する旨合意し、合意書を作成していた。
ニ K社の組織等について
(イ) K社は登記簿上、J社と同じ場所に本店をおいている。
(ロ) J社の建物に、K社独自のスペースや、K社独自の机等備品はない。
(ハ) K社の取締役は、設立以降、いずれもJ社の役員又は従業員である。
(ニ) K社が雇用している従業員は存在しない。
(ホ) K社においては、本件被相続人の死亡する前も死亡した後も株主総会等や取締役会が開催されたことはなかった。
 また、K社の出資者から、株主総会等の開催を要求されたこともなかった。
(ヘ) K社の取締役は、K社から役員報酬を受け取っていなかった。
(ト) K社は、特段の事業を行っていなかった。
ホ K社の収益等について
(イ) K社の損益計算書によると、K社の収入に占める本件株式の配当金の割合は、平成21年2月期末が約93%及び平成22年2月期末が約94%である。
(ロ) K社の貸借対照表によると、K社の総資産に占める本件株式の金額の割合は、平成20年2月期末が約84%、平成21年2月期末が約84%及び平成22年2月期末が約83%である。
ヘ J社の株主総会等における議決権行使について
(イ) J社は、本件被相続人の生前は株主総会等を開催したことがなく、その死亡後においても、平成21年11月24日の臨時総会まで、株主総会を開催したことがない。
(ロ) 平成21年11月24日、K社は、J社の株主総会におけるK社の議決権の行使を、請求人に委任した。
 なお、上記委任について、K社の出資者に対する説明はなかった。
(ハ) 請求人は、K社の出資者になったことも役員になったこともない。

(2) 当てはめ

イ 相続税法第22条は、相続により取得した財産の価額は、特別の定めがあるものを除き、当該財産の取得の時における時価による旨規定しているが、すべての財産の客観的交換価値は、必ずしも容易に把握し得るものではないから、課税の実務上は、財産評価の一般的基準が評価基本通達によって定められ、同通達によらないことが正当と是認されるような特別の事情がある場合を除き、これらに定められた画一的な評価方法によって、当該財産の評価をすることとされており、当審判所も、当該財産の価額は、税負担の公平、効率的な租税行政の実現等の観点からみて同通達により評価することが合理的であると解する。
ロ そこで検討するに、上記のとおり、
(イ) K社は、J社の株式を一時的な受け皿として引き受けるために設立されたものであること、K社の収益のほぼすべてが、本件株式によって生ずる配当金であり、総資産の大部分が本件株式であること、平成19年以降、本件被相続人は、同人及びその一族の将来の相続税対策のため、同人らのJ社における議決権割合を15%未満にすることを目的として、同人が出資者を決定することができるK社に自らの所有するJ社の株式を譲渡することとし、K社の法人格を利用したことが認められること、K社は、J社と同じ場所に本店を置いているが、J社の建物にK社独自のスペースや備品等は存せず、K社が雇用している従業員も存しないこと、K社においては、社員総会又は株主総会、取締役会が開催されたことはないことからすれば、K社の出資者が、K社の経営や意思決定に関心や興味を有していたとは考え難い。
(ロ) また、K社の出資者は、いずれもJ社の役員又は従業員であり、J社を退社した後は、K社の出資者たる地位を失うことになっていたこと、K社の設立時の出資金の出捐者は本件被相続人であり、K社の出資者及び出資の譲受人は、いずれも、本件被相続人がこれを決定することができたことが認められることからすれば、K社の出資者が、J社の代表取締役であった本件被相続人の意に添った対応をすることが容易に認めることができる。
(ハ) そして、K社は、本件被相続人の死亡後開催されたJ社の取締役を選任する重要なJ社の株主総会において、K社が所有しているJ社の株式に係る議決権行使を、K社の出資者でも役員でもない請求人に委任していることが認められる。
 以上を総合勘案すれば、K社は、その設立目的、出資者、組織、活動等のいずれの点からみても、J社の代表取締役であった本件被相続人に代表されるJ社の創業家の強い支配下にあり、K社の出資者は、K社の意思決定をいずれも、本件被相続人及び請求人に代表されるJ社の創業者一族の意思に委ねていたものと認められるから、K社の株主総会等における議決権の行使についても、本件被相続人及び請求人に代表されるJ社の創業者一族の意思と同一の内容の議決権を行使することに同意していた者と認めるのが相当である。
ハ そうすると、請求人は、法人税法施行令第4条第6項の規定により、K社の株主総会において全議決権を有し、かつ、K社の唯一の出資者であるとみなされることから、同条第3項の規定により、K社を支配していることとなる。よって、K社は、同条第2項の規定により同人と特殊の関係にある法人に該当し、評価基本通達188の(1)に定める請求人の同族関係者に該当すると認められる。
ニ 取引相場のない株式が、評価基本通達188に定める「同族株主以外の株主等が取得した株式」に該当するか否かは、株式を相続した後の議決権の数により判定することとされているところ、本件株式の所有状況は別表2の「本件相続開始後」欄のとおりであり、請求人とその同族関係者(同族関係者にはK社を含む。)が有する議決権の数は2,096,520個で、J社における議決権割合は15%以上(22.79%)となる。
ホ したがって、請求人が本件相続により取得した本件株式は、評価基本通達188に定める「同族株主以外の株主等が取得した株式」には該当しないから、配当還元方式で評価することはできず、同通達178及び同通達179の(1)の定めにより評価することとなる。

(3) 本件株式の1株当たりの評価額について

 上記(2)のホのとおり、本件株式の価額を算定すると、別表4−1から別表4−6(2)のとおりであり、本件株式1株当たりの価額は、別表4−4のとおり、類似業種比準価額の2,292円となる。

(4) 本件更正処分について

 以上の結果、請求人の本件相続に係る相続税の課税価格及び納付すべき税額を算出すると、それぞれ別表1の「異議決定」欄の金額と同額になるから、本件更正処分は適法である。

(5) 本件賦課決定処分について

 本件更正処分は、上記(4)のとおり適法であり、また、本件更正処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が本件更正処分前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、国税通則法第65条《過少申告加算税》第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、同条第1項の規定に基づいてされた本件賦課決定処分は適法である。

(6) その他

 原処分のその他の部分については、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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