(平成23年12月6日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が相続により取得した土地について、原処分庁が1画地として評価すべきであるなどとして更正処分等をしたのに対し、請求人が当該土地は建物の敷地と国道拡幅後に残った空き地であるから2画地として評価すべきであるなどとして、同処分等の一部の取消しを求めた事案である。

(2) 審査請求に至る経緯

イ 請求人は、平成19年11月○日(以下「本件相続開始日」という。)に死亡したE(以下「本件被相続人」といい、本件被相続人の死亡により開始した相続を「本件相続」という。)の共同相続人のうちの一人であり、本件相続に係る相続税について、平成20年12月26日に、別表1の「当初申告等」欄のとおり記載した期限後申告書を提出した。
ロ 原処分庁は、本件相続に係る相続税の調査に基づき、平成22年8月20日付で、請求人に対し、別表1の「更正処分等」欄記載のとおりとする更正処分及び無申告加算税の賦課決定処分をした。
ハ 請求人は、上記ロの各処分を不服として、平成22年10月13日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、同年12月13日付で、いずれもその一部を取り消す異議決定をした(以下、異議決定によりその一部が取り消された後の更正処分及び無申告加算税の賦課決定処分を、それぞれ「本件更正処分」及び「本件賦課決定処分」という。)。
ニ 請求人は、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成23年1月13日に審査請求をした。

(3) 関係法令等

 別紙2のとおりである。

(4) 基礎事実

 以下の事実は、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。
イ 本件相続に係る共同相続人は、いずれも本件被相続人の子である請求人、F及びGの3名である。
ロ 本件被相続人が所有していたa市b町○番3の土地は、平成15年2月25日に、国道c号(以下「本件国道」という。)の拡幅に伴いその一部68.79平方メートルが国土交通省H地方整備局に買い取られた(以下「本件収用」という。)。
ハ 上記イの共同相続人間において、平成20年12月22日に遺産分割協議が成立し、請求人は、a市b町○番1の土地332.81平方メートルの持分33,281分の8,655、同番2の土地97.38平方メートルの持分全部及び同番3の土地146.07平方メートルの持分全部などを取得した(以下、a市b町○番3の土地146.07平方メートルと同土地に隣接する同番1の土地の一部86.55平方メートルの合計232.62平方メートルの請求人取得分に係る土地を「本件A土地」、a市b町○番2の土地を「本件B土地」、本件A土地と本件B土地を併せて「本件各土地」という。)。
ニ 本件A土地は、南東側で本件国道、南西側で市道d号線(以下「本件南西側市道」という。)にそれぞれ接しており、J国税局長が定めた平成19年分財産評価基準書によれば、本件国道及び本件南西側市道に付されている路線価は、それぞれ105,000円及び90,000円である。
 なお、本件A土地が本件南西側市道に接面する距離は13.5mである。
ホ 本件B土地は、南西側で本件南西側市道、北西側で市道e号線(以下「本件北西側市道」という。)にそれぞれ接しており、J国税局長が定めた平成19年分財産評価基準書によれば、本件北西側市道に付されている路線価は90,000円である。
 なお、本件B土地が本件南西側市道に接面する距離は8.115mであり、本件北西側市道に接面する距離は12.0mである。
ヘ 本件各土地の位置関係は、おおむね別図のとおりであり、a市b町○番3の土地のうち本件国道側の別図網掛け部分44平方メートルを、以下「本件a土地部分」という。また、本件A土地には、本件相続開始日において、おおむね別図のとおりの場所に、請求人の配偶者であるK(以下「本件配偶者」という。)が所有する家屋番号○番3の2階建て建物(以下「本件建物」という。)が建っていた。

(5) 争点

イ 本件A土地は、1画地として評価すべきか否か。
ロ 本件各土地の本件南西側市道に接面する部分は、評価通達24−6に定めるセットバックを必要とする宅地の評価が適用されるか否か。

トップに戻る

2 主張

(1) 争点イについて

イ 原処分庁
 本件A土地は、その全体が本件配偶者が所有する建物の敷地として利用されていることから、これを1つの評価単位(1画地)とするのが相当である。
ロ 請求人
 本件A土地は、別図のとおり、本件建物の敷地として使用貸借していた部分188.62平方メートルと本件収用後に未利用の状態であった空き地部分である本件a土地部分との2つの利用単位からなっているので、それぞれ別の評価単位として評価すべきである。

(2) 争点ロについて

イ 原処分庁
 本件南西側市道は、建築基準法第42条第2項に規定する道路(以下「2項道路」という。)に当たるが、将来、建物の建替え時等に同法の規定に基づき本件各土地の一部を道路敷きとして提供しなければならないか否かについては不知である。
ロ 請求人
 本件南西側市道は、2項道路であり、将来、建物の建替え時等に建築基準法の規定に基づき本件各土地の一部を道路敷きとして提供しなければならないので、本件各土地の本件南西側市道に接面する部分は、評価通達24−6に定めるセットバックを必要とする宅地の評価を適用すべきである。

トップに戻る

3 判断

(1) 法令解釈等

イ 相続税法第22条は、相続によって取得した財産の価額は、同法に特別の定めがある場合を除き、当該財産の取得の時における時価による旨規定しているところ、ここでいう時価とは、当該財産を取得した日において、それぞれの財産の現況に応じ、不特定多数の当事者間で自由な取引が行われる場合に通常成立すると認められる価額、すなわち、客観的な交換価値をいうものと解される。
 しかしながら、客観的な交換価値は、必ずしも一義的に確定されるものではないから、課税実務上は、相続財産の評価の一般的基準が評価通達によって定められ、そこに定められた画一的な評価方式によって相続財産を評価することとされている。これは、相続財産の客観的な交換価値を個別に評価する方法を採ると、その評価方式、基礎資料の選択の仕方等により異なった評価額が生じることが避け難く、また、回帰的かつ大量に発生する課税事務の迅速な処理が困難となるおそれがあること等から、あらかじめ定められた評価方式によりこれを画一的に評価する方が、納税者間の公平、納税者の便宜、徴税費用の節減という見地からみて合理的であるという理由に基づくものと解される。
 そうすると、相続財産の評価は、評価通達に定められた評価方式によらないことが正当として是認されるような特別の事情がある場合を除き、課税の公平の観点から、原則として、評価通達の評価方式に基づき評価する方法には合理性があると認められる。
ロ 評価通達7−2は、土地を評価する場合における評価単位について、宅地は、1画地の宅地とする旨定めているところ、この取扱いは、現実の宅地の利用状況に基づき価額が形成されていることを踏まえて評価する趣旨であると解される。
ハ 別紙2の5のとおり、2項道路に接面する宅地は、その道路の中心線から左右に2mずつ後退した線が道路の境界線とみなされ、将来、建物の建替え等を行う場合にはその境界線まで後退して道路敷きとして提供しなければならないことから、評価通達24−6で定める「建築基準法第42条第2項に規定する道路に面しており、将来、建物の建替え時等に同法の規定に基づき道路敷きとして提供しなければならない部分を有する宅地」、いわゆるセットバックを必要とする宅地とは、幅員4m未満の2項道路に接面する宅地をいうと解される。

(2) 認定事実

 請求人提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
イ 本件A土地等の状況について
(イ) 本件配偶者は、昭和56年12月に、本件被相続人から本件収用前のa市b町○番3の土地及び同番1の土地の一部の上に建っていた店舗兼居宅の建物の贈与を受け、それと同時に、本件被相続人から当該建物の敷地を使用貸借することとなった。
(ロ) 本件配偶者は、本件収用に伴い、平成15年3月に、上記(イ)の建物のうち、本件a土地部分及び本件収用により買い取られた土地部分の上に存在していた店舗部分を取り壊した。本件建物は、この取壊し後に残った居宅部分である。
(ハ) 本件配偶者は、上記(イ)の建物の店舗部分を取り壊した後も、本件建物の敷地を本件被相続人から引き続き使用貸借していた。
 なお、本件収用の前後を通じて、上記(イ)の建物の店舗部分が存在しなくなったこと以外に、本件a土地部分の利用状況に変化はない。
(ニ) 本件配偶者は、平成16年1月に請求人住所に転居し、同年3月以降、本件建物は、本件配偶者の子らにより居宅として使用されていた。
 なお、本件配偶者の子らが本件建物を使用開始した前後を通じ、本件相続開始日に至るまで、本件A土地の利用状況及び権利関係に変化はない。
ロ 本件南西側市道及び本件北西側市道の状況について
(イ) 本件南西側市道の幅員は3.64mであり、本件北西側市道の幅員は2.73mである。
(ロ) 本件南西側市道及び本件北西側市道は、いずれも昭和31年○月○日付L県知事公告により2項道路の指定を受けた。

(3) 判断

イ 争点イについて
 上記(2)イの各事実によれば、本件A土地及び本件収用により買い取られた土地部分は、本件被相続人が本件配偶者へ贈与した店舗兼居宅の建物の敷地として、本件収用まで全部を一体として利用されており、本件収用に伴い当該建物の店舗部分が取り壊された後も、本件a土地部分は、その土地上に建物が存在しなくなったこと以外に、本件収用の前後を通じて利用状況に変化はなく、また、本件配偶者の子らが本件建物を使用開始した前後を通じ、本件相続開始日に至るまで、本件A土地の利用状況に変化はないことからすると、本件a土地部分を含む本件A土地は、本件収用後も引き続き、その上に存する本件建物の敷地として全部を一体として利用されていた宅地であるとみるのが相当である。
 また、上記(2)イの各事実によれば、本件配偶者は、本件被相続人から店舗兼居宅の建物の贈与を受けると同時に、本件被相続人から当該建物の敷地を使用貸借することとなり、当該建物の店舗部分を取り壊した後も、本件建物の敷地を引き続き本件被相続人から使用貸借していたのであり、本件配偶者の子らが本件建物を使用開始した前後を通じ、本件相続開始日に至るまで、本件A土地の権利関係に変化はないのであるから、本件a土地部分を含む本件A土地は、本件収用後も引き続き、その上に存する本件建物の敷地として全部を一体として、本件配偶者が本件被相続人から使用貸借していた宅地であるとみるのが相当である。
 以上によれば、本件a土地部分を含む本件A土地は、評価通達7−2の定めに基づいて1つの評価単位(1画地)として評価すべきである。
ロ 争点ロについて
 上記(1)ハのとおり、評価通達24−6の定めが適用されるセットバックを必要とする宅地とは、幅員4m未満の2項道路に接面する宅地をいうと解されるところ、本件各土地が接面する本件南西側市道は、上記(2)ロのとおり、2項道路であり、かつ、幅員4m未満の道路であることから、本件各土地は、セットバックを必要とする宅地であると認められるため、評価通達24−6の定めに基づいて評価すべきである。

(4) 本件各土地の相続税評価額(評価通達の定めに基づいて算定された価額をいう。以下同じ。)について

イ 本件A土地
 上記(3)ロのとおり、本件A土地の本件南西側市道に接面する部分について評価通達24−6の定めを適用すべきであることから、本件南西側市道についてセットバックを必要とする地積を算定すると、上記(2)ロ(イ)によれば、本件南西側市道の中心線から2mに不足する幅員距離が0.18mであり、上記1(4)ニによれば、接面距離が13.5mであるから、その地積は2.43平方メートルとするのが相当である。
 これにより本件A土地の相続税評価額を算定すると、別表2の「審判所認定額」欄の「相続税評価額」欄記載のとおり18,776,147円となり、原処分庁が算定した相続税評価額18,914,457円を138,310円下回る。
ロ 本件B土地
 原処分庁は、別表3の「原処分庁主張額」欄記載のとおり、本件北西側市道についてセットバックを必要とする地積を7.20平方メートルとし、本件南西側市道に接面する部分について評価通達24−6の定めを適用せず相続税評価額を算定しているが、上記(2)ロ(イ)により求められる本件北西側市道の中心線から2mに不足する幅員距離0.635m及び上記1(4)ホのとおり本件北西側市道に接面する距離12.0mを基に、本件北西側市道についてセットバックを必要とする地積を算定すると7.62平方メートルとなり、また、上記(2)ロ(イ)により求められる本件南西側市道の中心線から2mに不足する幅員距離0.18m及び上記1(4)ホのとおり本件南西側市道に接面する距離8.115mから本件北西側市道に係る分と重複する幅員距離0.635mを差し引いた7.48mを基に、本件南西側市道についてセットバックを必要とする地積を算定すると1.35平方メートルとなる。よって、本件B土地のうち本件北西側市道及び本件南西側市道についてセットバックを必要とする地積は、上記合計の8.97平方メートルとするのが相当である。
 これにより本件B土地の相続税評価額を算定すると、別表3の「審判所認定額」欄の「相続税評価額」欄記載のとおり8,437,683円となり、原処分庁が算定した相続税評価額8,552,439円を114,756円下回る。

(5) 本件更正処分について

 上記(4)のとおり、本件各土地の相続税評価額に誤りが認められ、請求人の取得財産の価額及び各相続人の取得財産の価額の合計額がそれぞれ減少することとなるから、それに基づき請求人の納付すべき税額を計算すると、本件更正処分の額を下回る。
 したがって、本件更正処分は、その一部を別紙1「取消額等計算書」のとおり取り消すべきである。

(6) 本件賦課決定処分について

 上記(5)のとおり、本件更正処分の一部が取り消されることに伴い、請求人の無申告加算税の額を計算すると、本件賦課決定処分の額を下回るから、本件賦課決定処分は、その一部を別紙1「取消額等計算書」のとおり取り消すべきである。

(7) 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

トップに戻る

トップに戻る