(平成24年3月21日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、建物を賃借し転貸を行っていた審査請求人(以下「請求人」という。)が、当該建物の明渡しに際して建物所有者から受領した金員について、原処分庁が、当該金員は不動産所得に係る業務の収益の補償として取得した補償金に当たることなどを理由に、その全額を不動産所得の収入金額に算入すべきであるとして、所得税の更正処分等を行ったのに対し、請求人が、当該金員は転借人とともに当該建物を明け渡すに際して受領した単なる明渡し料又は協力金であり、その全額が一時所得に該当するなどとして、同更正処分等の一部の取消しを求めた事案である。

(2) 審査請求に至る経緯

イ 請求人は、平成20年分の所得税について、青色の確定申告書に別表の「確定申告」欄のとおり記載して、法定申告期限までに申告した。
ロ 原処分庁は、これに対し、平成22年12月3日付で、別表の「更正処分等」欄のとおりの更正処分(以下「本件更正処分」という。)及び過少申告加算税の賦課決定処分(以下「本件賦課決定処分」といい、本件更正処分と併せて「本件更正処分等」という。)をした。
ハ 請求人は、平成23年1月14日、本件更正処分等を不服として異議申立てをしたところ、異議審理庁は、平成23年3月11日付で棄却の異議決定をした。
ニ 請求人は、平成23年4月11日、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして審査請求をした。

(3) 関係法令の要旨

イ 所得税法第26条《不動産所得》第1項は、不動産所得とは、不動産、不動産の上に存する権利、船舶又は航空機の貸付け(地上権又は永小作権の設定その他他人に不動産等を使用させることを含む。)による所得(事業所得又は譲渡所得に該当するものを除く。)をいう旨規定し、同条第2項は、不動産所得の金額は、その年中の不動産所得に係る総収入金額から必要経費を控除した金額とする旨規定している。
ロ 所得税法第34条《一時所得》第1項は、一時所得とは、利子所得、配当所得、不動産所得、事業所得、給与所得、退職所得、山林所得及び譲渡所得以外の所得のうち、営利を目的とする継続的行為から生じた所得以外の一時の所得で労務その他の役務又は資産の譲渡の対価としての性質を有しないものをいう旨規定し、同条第2項は、一時所得の金額は、その年中の一時所得に係る総収入金額からその収入を得るために支出した金額(その収入を生じた行為をするため、又はその収入を生じた原因の発生に伴い直接要した金額に限る。)の合計額を控除し、その残額から一時所得の特別控除額を控除した金額とする旨規定している。
ハ 所得税法第37条《必要経費》第1項は、その年分の不動産所得の金額の計算上必要経費に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、不動産所得の総収入金額を得るため直接に要した費用の額及びその年における販売費、一般管理費その他不動産所得を生ずべき業務について生じた費用の額とする旨規定している。
ニ 所得税法施行令第94条《事業所得の収入金額とされる保険金等》第1項は、その第2号において、不動産所得を生ずべき業務を行う居住者が受ける当該業務の全部又は一部の休止、転換又は廃止その他の事由により当該業務の収益の補償として取得する補償金その他これに類するもので、その業務の遂行により生ずべき不動産所得に係る収入金額に代わる性質を有するものは、不動産所得に係る収入金額とする旨規定している。

(4) 基礎事実

 以下の事実は、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。
イ 請求人は、平成19年当時、J社から、a県b市d町○−○に所在する地下2階・地上6階建てのビル(以下「本件ビル」という。)のうち、地下1階部分、地下2階部分及び中2階部分(以下、これらを併せて「本件貸室」という。)を賃借していた。
ロ 本件貸室は、昭和30年代から、請求人の実父であるKが本件ビルの前所有者であるL社から賃借していたが、後に、請求人が賃借人となり、昭和46年頃から、請求人によってM社に転貸され、平成19年当時は、転借人であるM社によって焼鳥店舗として利用されていた。
ハ 請求人は、平成19年当時、N社の会長であり、M社の代表取締役であった。
ニ 請求人とJ社は、平成19年10月29日付の「賃貸借契約解約合意書」と題する書面に記載された、要旨次のとおりの約定で、本件貸室の賃貸借契約を解除することを合意した(以下、この賃貸借当事者間の合意を「本件賃貸借解約合意」という。)。
(イ) J社は、請求人に対し、本件貸室の明渡しを平成20年1月10日まで猶予し、請求人は、J社に対し、平成20年1月10日限り、次の(ロ)のまる2の1億4,400万円の支払と引換えに、本件貸室を現状有姿のまま明け渡す。
(ロ) J社は、請求人に対し、明渡し補償金として1億6,000万円(以下「本件受領金員」という。)及び請求人が預託していた保証金敷金817万4,000円の合計額1億6,817万4,000円の支払義務のあることを認め、これを、まる1本件賃貸借解約合意の締結時に1,600万円、まる2平成20年1月10日限り本件貸室の明渡しと引換えに1億4,400万円、及びまる3平成20年1月31日限り817万4,000円に分割して支払う。
(ハ) J社は、本件貸室に係る賃貸借契約上のJ社の地位を、同契約上のJ社の義務を承継することを条件に、本件貸室の所有権とともに他に譲渡することができるものとし、請求人は、これに異議を述べない。ただし、この場合、J社は、特別の意思表示がなくとも、新承継人の請求人に対する一切の義務につき、新承継人と連帯して履行する。
ホ J社は、本件賃貸借解約合意に基づき、請求人のP銀行e支店の普通預金口座(以下「本件請求人口座」という。)に、平成19年10月29日に16,000,000円、平成20年1月10日に151,745,835円(上記ニの(ロ)のまる2及びまる3の合計額152,174,000円から平成20年1月1日から同月10日までの本件貸室の賃料等428,165円を差し引いた金額)を順次振り込み、本件賃貸借解約合意の約定どおりの支払をした。
ヘ なお、J社は、平成19年10月31日、Q社に対して本件ビルを売却した。そのため、以後は、Q社が本件貸室の所有者兼賃貸人となり、J社は、本件賃貸借解約合意(上記ニの(ハ))に基づき、同合意によるものを含む本件貸室の賃貸人としての一切の義務をQ社と連帯して履行する者となった。
ト 一方、請求人とM社は、本件賃貸借解約合意の成立後、平成19年11月1日付の「賃貸借契約解約合意書」と題する書面に記載された、要旨次のとおりの約定で、本件貸室の転貸借契約を解除することを合意した(以下、この転貸借当事者間の合意を「本件転貸借解約合意」という。)。
(イ) 請求人は、M社に対し、次の(ロ)の1億3,628万円を支払い、M社は、請求人に対し、平成20年1月10日までに本件貸室を現状有姿のまま明け渡す。
(ロ) 請求人は、M社に対し、明渡し補償金として1億3,628万円(以下「本件支払金員」という。)を、まる1平成19年11月30日に1,000万円、まる2平成20年1月31日に1億2,628万円に、分割して支払う。
チ なお、本件支払金員は、次のとおり、本件受領金員相当額を、請求人がM社から支払を受ける家賃収入(次のAの転貸料の額)と、請求人がJ社に対して支払う賃借料の額(次のB)を基に計算した、請求人とM社の各割合(次のD及びE)に応じてあん分計算をするなどして算出されたものである。
 請求人がM社から支払を受ける家賃収入 1,500,000円(月額)・・・A
 請求人がJ社に支払う賃借料       1,175,016円(月額)・・・B
  A−B                324,984円・・・C
  C÷A(請求人の割合)        0.217・・・D
  1−D(M社の割合)         0.783・・・E
 M社の造作費未償却分に係る損失補填  11,000,000円 ・・・F
 本件支払金員(1億6,000万円×E+F)  1億3,628万円

リ 請求人は、本件転貸借解約合意に基づき、本件請求人口座から、M社のP銀行e支店の普通預金口座(以下「本件M社口座」という。)に、平成19年11月29日に1,000万円、平成20年1月25日に1億2,628万円を順次振り替えて、本件転貸借解約合意の約定どおりの支払をした。
ヌ 請求人及びM社は、平成20年1月10日付で、本件貸室を明け渡した。

トップに戻る

2 争点

 本件受領金員は、不動産所得に該当するか、一時所得に該当するか。

トップに戻る

3 主張

原処分庁 請求人
(1) 本件受領金員のうち、本件支払金員に相当する金員について
 本件支払金員は、請求人がM社から本件貸室を明け渡してもらうために、M社に対して支払った金員であるから、所得税基本通達37−23《不動産所得の基因となっていた建物の賃借人に支払った立退料》により、請求人の不動産所得の金額の計算上必要経費に算入されるべきものである。そうすると、本件支払金員に相当する金員は、請求人の不動産所得に係る必要経費に算入される金額を補填するための金額であるから、所得税基本通達34−1《一時所得の例示》の(7)の注書きにより、請求人の不動産所得の計算上総収入金額に算入されるべきである。
(2) 本件受領金員のうち、本件受領金員と本件支払金員に相当する金員との差額(以下「本件差額金員」という。)について
 本件差額金員は、次のまる1及びまる2の理由により、請求人の不動産所得に係る業務の収益の補償として取得する補償金その他これに類するものに当たる。
まる1 請求人のM社に対する本件貸室の転貸によって得られる収入を基に、算定されている。
まる2 M社が本件貸室を明け渡した後に別の場所で営業を再開するか否かが不明な状況の下で、請求人が取得したものであるから、請求人が転貸人の地位に基づいて得た収入である。
(3) したがって、本件支払金員に相当する金員及び本件差額金員のいずれも、所得税法施行令第94条第1項第2号に掲げる、不動産所得に係る収入金額に代わる性質を有するものに当たるから、本件受領金員は、不動産所得に該当する。
(1) 本件受領金員は、賃貸借契約に基づいて賃借人から受領したものではないから、不動産所得には該当しない。
(2) 請求人は、J社との明渡し交渉の当初は、本件貸室を明け渡すに際して、J社から受領する金員を、M社の再開店費用に充てるつもりであった。
 しかし、請求人がJ社から実際に本件受領金員を受領した時点では、M社が別の場所で営業を再開するか否かが不明な状況にあったため、J社と請求人との間で、同金員の趣旨についての取決めをしておらず、請求人としても、その時点では本件受領金員をどのように使用するかを決めていなかった。
 したがって、本件受領金員は、請求人が転借人であるM社とともに、本件貸室から退去するための単なる明渡し料又は協力金であり、営利を目的とする継続的行為から生じた所得以外の一時の所得で労務その他の役務又は資産の譲渡の対価としての性質を有しないものであるから、一時所得に該当する。
(3) 仮に、本件受領金員のうち、本件支払金員に相当する金員が、原処分庁の主張(1)のとおり、請求人の不動産所得の金額の計算上総収入金額に算入されるべき金額であるとしても、本件受領金員の性質は上記(2)のとおりであるから、少なくとも、本件差額金員については、上記(2)と同様の理由で、一時所得に該当する。

トップに戻る

4 判断

(1) 法令解釈

 所得税法第26条第2項及び同法第37条第1項の各規定によれば、不動産所得に係る必要経費に算入すべき金額は、それに対する補填の有無に関わらず、不動産所得の金額の計算上必要経費として控除することとされている。このことからすると、不動産所得に係る必要経費に算入すべき金額に相当する補填金の支払を受けた場合に、その支払を受けた金額を不動産所得に係る総収入金額に算入しなければ、所得の性質や発生の態様によって異なる担税力に応じた公平な課税を目的とする所得税法の立法趣旨を損なうことになる。したがって、当該支払を受けた補填金についても、不動産所得に係る総収入金額に算入すべきであると解される。

(2) 認定事実

 請求人提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
イ 平成18年末頃、J社の親会社であるR社は、本件ビルが老朽化したことなどを理由に、その周辺の物件を購入した上で、本件ビルを新しいビル(以下「新規ビル」という。)に建て替えることとし、当時、本件ビルの所有者であったJ社は、請求人に対し、本件貸室の明渡しを求めて、交渉を開始した。
ロ 当該交渉は、主として、当時R社の従業員であったSと、当時N社の従業員兼務の取締役であり、請求人個人の代理人を務めていたTとの間で行われた(以下、J社側の交渉担当者をまとめて「J社側」、また、請求人側の交渉担当者をまとめて「請求人側」という。)。
ハ 当該交渉の一環として、平成19年5月、J社側は、請求人側に対し、要旨次のとおりの条件で、本件貸室の明渡しを求めるとともに、新規ビルに入居する場合の条件(店舗面積、賃料、階数)を提示した。
(イ) 本件貸室を退去する場合、J社は、請求人に対し、8,000万円を支払う。
(ロ) 本件貸室を退去して新規ビルに入居する場合、J社は、請求人に対し、本件ビルの建替え期間中の、焼鳥店の営業補償として2,000万円を支払う。
ニ 請求人側は、上記ハの(イ)及び(ロ)の両提案について検討したところ、新規ビルへの入居については条件が折り合わないとして断念し、本件貸室を明け渡すこととした。
 その結果、本件貸室の転借人であるM社も、本件貸室を退去することとなったが、同社が退去後に他所で焼鳥店を再開するためには、少なくとも1億2,000万円ないし1億3,000万円程度の費用がかかるものと見込まれた。
ホ 以上の状況を踏まえて、請求人側は、J社側に対し、上記ハの提案につき、M社が他所で焼鳥店を再開するには8,000万円では足りない旨、また、請求人は本件ビルの他の賃借人と比べて賃借期間が長く、それだけJ社に貢献してきたのであるから、その意味でも本件貸室の明渡しに際して請求人が受領する金員が8,000万円では少ない旨を伝えた。
ヘ J社側は、上記1の(4)のヘのとおり、Q社に対する本件ビルの譲渡期限が迫っており、早急に本件貸室の賃貸借契約の合意解除をする必要があったため、請求人側の上記ホの意向を踏まえて、1億5,000万円位であれば支払える旨を請求人側に伝えた上、更に交渉を続け、平成19年10月初めころ、請求人との間で、本件貸室の明渡しに際して1億6,000万円を請求人に支払う旨の、口頭の合意(本件賃貸借解約合意)をした。
ト なお、請求人は、上記ハからヘまでの交渉の際には、J社から受け取る金員をM社の営む焼鳥店の再開費用に充てるつもりでいたが、J社との間で、本件受領金員の支払及びその支払金額についての上記ヘの合意(本件賃貸借解約合意)をした時点では、M社が他所で焼鳥店を再開できるかどうかが未定であり、再開に要する費用の額の算定ができない状態であった。
 そこで、本件賃貸借解約合意の成立後、請求人は、税理士に依頼して、本件貸室の賃借料の額と転貸料の額を基に、上記1の(4)のチのとおりに本件受領金員を分配する案を作成し、これに基づいて、同ト及びリのとおり、M社との間で、同社による本件貸室の退去に伴い本件受領金員の一部に当たる本件支払金員を支払う旨の、口頭の合意(本件転貸借解約合意)をし、当該合意に基づく本件支払金員の支払をした。

(3) 当てはめ

イ 本件支払金員の取扱いについて
 本件支払金員は、本件貸室の転貸人である請求人が、同貸室の転借人であるM社が同貸室から退去することに伴い、同社に対して支払った金員であるから、請求人の不動産所得に係る必要経費に算入すべき金額である。
ロ 本件受領金員の所得区分について
(イ) 本件受領金員のうち本件支払金員に相当する金員について
A 上記1の(4)のニのとおり、本件賃貸借解約合意においては、本件受領金員の性質及び使途等が特定されていないものの、上記(2)のハないしヘのとおり、J社側と請求人側との間で本件受領金員の金額が決定した経緯は、請求人側が、一貫してM社による焼鳥店の再開を念頭において交渉を進め、そのために必要と見込まれる金額を踏まえて、J社側に対して支払金員の増額を要求し、最終的には請求人側の意向に沿った金額での合意(本件賃貸借解約合意)をするに至り、他方で、J社側においても、当初からM社が焼鳥店を再開することを想定して、本件貸室の明渡しに際して支払う金員の額を請求人に提案し、請求人側から、他所で焼鳥店を再開するには足りないなどとして同金員の増額を要求されると、その意向に沿って大幅に増額した支払金額を再度提案し、その額をやや上回る金額で最終的な合意をするに至ったというものである。
 このような交渉の経緯からすると、請求人側も、J社側も、少なくとも本件受領金員の一部は、請求人からM社に対して支払われる金員に充てられることを認識しながら交渉を進め、最終合意に達したものと認められるし、上記1の(4)のホ及びリの本件請求人口座及び本件M社口座の入出金状況によれば、請求人が、現に、本件受領金員の一部を本件支払金員に充てたことも認められる。
B 以上の交渉から支払に至るまでの過程によれば、本件受領金員の内容が、その性質及び使途等に応じて明確に区分されているとはいえないものの、本件受領金員のうち本件支払金員に相当する金員は、本件支払金員を補填する趣旨で支払われたものとみるのが相当である。
 そうすると、本件受領金員のうち本件支払金員に相当する金員は、まさに不動産所得に係る必要経費に算入すべき金額に相当する補填金であるから、上記(1)のとおり、不動産所得の収入金額に該当する。
(ロ) 本件受領金員のうち本件差額金員について
A 他方で、上記1の(4)のニのとおり、本件賃貸借解約合意においては、本件受領金員の性質及び使途等が特定されていないところ、本件受領金員は、上記(2)のヘ及び上記(イ)のAのとおり、請求人側がM社による焼鳥店の再開に要する費用を念頭において、当初のJ社の提案金額に対し増額を要求したのに対し、J社側は、本件ビルの譲渡期限が迫っており、本件貸室の賃貸借契約の合意解除を急いでいたため、請求人側の請求額を受け入れて1億6,000万円を支払う旨の合意をするに至ったものである。そうすると、その交渉過程において、請求人が、M社による焼鳥店の再開にかかる費用以外のものを求めていたとはいえないから、本件差額金員は、請求人の不動産所得に係る業務の収益若しくは本件支払金員以外の必要経費の補償等ではなく、その性質及び使途等について特定されていない金員であると認められる。
B これに対し、原処分庁は、本件差額金員は、請求人のM社に対する本件貸室の転貸によって得られる収入を基に算定されており、請求人が転貸人の地位に基づいて得た収入であるから、請求人の不動産所得に係る業務の収益の補償として取得する補償金等に当たると主張する。
 確かに、本件差額金員は、上記1の(4)のチのとおり、本件貸室の賃借料の額と転貸料の額を基に計算されているが、請求人が本件差額金員を受領することとなったのは、上記(2)のトのとおり、J社から受け取る本件受領金員の金額が決まった時点ではM社による焼鳥店の再開ができるかどうかが未定であったこと、また、それ故に、請求人がM社に支払う本件支払金員の金額も未確定であったことが原因であり、上記1の(4)のチの分配基準は、請求人が本件受領金員を受け取った後、M社に対して支払うべき本件支払金員の金額を算出するための便法として用いられたに過ぎない。また、上記Aのとおり、本件受領金員に係る交渉を経て本件支払金員の分配に至るまでの経緯からすると、請求人が、本件転貸借解約合意後に失うこととなる転貸料収入の補償の目的で本件差額金員を得たとは認められないから、本件差額金員が請求人の転貸人の地位に基づいて得た収入であるとはいえない。
 したがって、本件差額金員は、請求人の不動産所得に係る業務の収益の補償として取得する補償金等には当たらない。
C 以上によれば、本件差額金員は、営利を目的とする継続的行為から生じた所得以外の一時の所得であり、労務その他の役務又は資産の譲渡の対価としての性質を有しないものに該当するから、一時所得の収入金額に該当する。

(4) 不動産所得の金額及び一時所得の金額

 以上のとおり、本件受領金員のうち本件支払金員に相当する金員は不動産所得の収入金額、本件支払金員は不動産所得の必要経費の金額、本件差額金員は一時所得の収入金額であるから、これらを前提とすると、別表の「審判所認定額」欄のとおり、請求人の平成20年分の不動産所得の金額及び一時所得の金額は、それぞれ○○○○円及び○○○○円となる。

(5) 本件更正処分

 上記(4)を前提とすると、請求人の平成20年分の所得税の総所得金額及び納付すべき税額は、いずれも別表の「審判所認定額」欄のとおり本件更正処分の額を下回るから、本件更正処分は、別紙「取消額等計算書」のとおりその一部を取り消すべきである。

(6) 本件賦課決定処分

 上記(5)のとおり、本件更正処分はその一部を取り消すべきであるから、国税通則法第65条《過少申告加算税》第1項の規定により過少申告加算税の額を計算すると○○○○円になるところ、同法第119条《国税の確定金額の端数計算等》第4項の規定により、過少申告加算税の額が5,000円未満であるときには、その全額を切り捨てることとなるから、本件賦課決定処分は、その全部を取り消すべきである。

(7) その他

 原処分のその他の部分については、当審判所に提出された証拠資料等によってもこれを不相当とする理由は認められない。

トップに戻る

トップに戻る