(平成24年1月25日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、原処分庁が、審査請求人(以下「請求人」という。)の外国子会社は、後記(3)のイの租税特別措置法第66条の6《内国法人に係る特定外国子会社等の留保金額の益金算入》第1項に規定する特定外国子会社等に該当し、同条第4項に規定する要件を満たさないから、同条第1項に規定する課税対象留保金額に相当する金額は、請求人の所得の金額の計算上、益金の額に算入すべきであるなどとして、法人税の更正処分等を行ったのに対し、請求人が、同項の規定は適用されないとして、同処分等の全部の取消しを求めた事案である。

(2) 審査請求に至る経緯

 平成17年6月1日から平成18年5月31日まで、平成18年6月1日から平成19年5月31日まで、平成19年6月1日から平成20年5月31日まで及び平成20年6月1日から平成21年5月31日までの各事業年度(以下、順次「平成18年5月期」、「平成19年5月期」、「平成20年5月期」及び「平成21年5月期」といい、これらを併せて「本件各事業年度」という。)の法人税について、審査請求(平成23年1月26日請求)に至る経緯及び内容は、別表1のとおりである。
 以下、平成22年8月31日付でされた本件各事業年度の法人税の各更正処分及び過少申告加算税の各賦課決定処分を、それぞれ「本件各更正処分」及び「本件各賦課決定処分」という。

(3) 関係法令

イ 租税特別措置法(平成18年5月期については平成18年法律第10号、平成19年5月期については平成19年法律第6号、平成20年5月期及び平成21年5月期については平成21年法律第13号による各改正前のもの)第66条の6第1項本文は、同項各号に掲げる内国法人に係る外国関係会社(同条第2項第1号に規定する、外国法人で、その発行済株式の総数のうちに居住者及び内国法人が有する直接及び間接保有の株式の数の合計数の占める割合が100分の50を超えるものをいう。)のうち、本店又は主たる事務所の所在する国又は地域(以下「本店所在地国等」という。)におけるその所得に対して課される税の負担が本邦における法人の所得に対して課される税の負担に比して著しく低いものとして政令で定める外国関係会社に該当するもの(以下「特定外国子会社等」という。)が、昭和53年4月1日以後に開始する各事業年度において、その未処分所得の金額(同項第2号に規定する「未処分所得の金額」をいう。)から留保したものとして、政令で定めるところにより、当該未処分所得の金額につき当該未処分所得の金額に係る税額及び法人税法第23条《受取配当等の益金不算入》第1項第1号に規定する剰余金の配当、利益の配当又は剰余金の分配の額に関する調整を加えた金額(平成18年法律第10号による改正前の租税特別措置法第66条の6第1項は「当該未処分所得の金額につき当該未処分所得の金額に係る税額及び利益の配当又は剰余金の分配の額に関する調整を加えた金額」と規定する。以下、改正の前後を通じて、未処分所得の金額につき上記各調整を加えた金額を「適用対象留保金額」という。)を有する場合には、その適用対象留保金額のうちその内国法人の有する当該特定外国子会社等の直接及び間接保有の株式の数(平成19年法律第6号による改正前の同項は「株式の数」を「株式」と規定する。)に対応するものとしてその株式の請求権の内容を勘案して政令で定めるところにより計算した金額(以下「課税対象留保金額」という。)に相当する金額は、その内国法人の収益の額とみなして当該各事業年度終了の日の翌日から2月を経過する日を含むその内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上、益金の額に算入する旨規定(以下、上記各改正の前後を通じて、同項の規定による課税の特例を「外国子会社合算税制」という。)し、「同項各号に掲げる内国法人」として、同項第1号は、その有する外国関係会社の直接及び間接保有の株式の数の当該外国関係会社の発行済株式の総数のうちに占める割合が100分の5以上である内国法人を掲げる。
ロ 租税特別措置法(平成21年法律第13号による改正前のもの)第66条の6第3項は、同条第1項各号に掲げる内国法人に係る特定外国子会社等(株式若しくは債権の保有、工業所有権その他の技術に関する権利、特別の技術による生産方式若しくはこれらに準ずるもの若しくは著作権の提供又は船舶若しくは航空機の貸付けを主たる事業とするものを除く。以下、特定外国子会社等が株式若しくは債権の保有、工業所有権その他の技術に関する権利、特別の技術による生産方式若しくはこれらに準ずるもの若しくは著作権の提供又は船舶若しくは航空機の貸付けを主たる事業としないことを「事業基準」という。)がその本店所在地国等においてその主たる事業を行うに必要と認められる事務所、店舗、工場その他の固定施設を有し(以下、特定外国子会社等がその本店所在地国等においてその主たる事業を行うに必要と認められる事務所、店舗、工場その他の固定施設を有していることを「実体基準」という。)、かつ、その事業の管理、支配及び運営を自ら行っているものである場合(以下、特定外国子会社等がその事業の管理、支配及び運営を自ら行っているものであることを「管理支配基準」といい、特定外国子会社等がその本店所在地国等においてその主たる事業を行うに必要と認められる事務所、店舗、工場その他の固定施設を有し、かつ、その事業の管理、支配及び運営を自ら行っているものである場合を同条第4項において「固定施設を有するものである場合」という。)における同条第1項の規定の適用については、同項中「調整を加えた金額」とあるのは、「調整を加えた金額から当該特定外国子会社等の事業に従事する者の人件費として政令で定める費用の額の100分の10に相当する金額を控除した金額」とする旨規定している。
ハ 租税特別措置法(平成18年5月期及び平成19年5月期については平成19年法律第6号、平成20年5月期については平成20年法律第23号、平成21年5月期については平成21年法律第13号による各改正前のもの)第66条の6第4項本文は、同条第1項及び第3項の規定は、同条第1項各号に掲げる内国法人に係る同条第3項に規定する特定外国子会社等がその本店所在地国等において固定施設を有するものである場合であって、各事業年度においてその行う主たる事業が同条第4項各号に掲げる事業のいずれに該当するかに応じ当該各号に定める場合に該当するときは、当該特定外国子会社等のその該当する事業年度に係る適用対象留保金額については、適用しない旨規定している。
 そして、租税特別措置法第66条の6第4項第1号は、上記「同条第4項各号に掲げる事業」として、卸売業等(以下「第1号事業」という。)を掲げ、上記「当該各号に定める場合」として、特定外国子会社等の行う主たる事業が第1号事業に該当するときは、その事業を主として当該特定外国子会社等に係る同法第40条の4《居住者に係る特定外国子会社等の留保金額の総収入金額算入》第1項各号に掲げる居住者等以外の者との間で行っている場合として政令で定める場合、また、同法第66条の6第4項第2号は、上記「同条第4項各号に掲げる事業」として、同項第1号に掲げる事業以外の事業(以下「第2号事業」という。)を掲げ、上記「当該各号に定める場合」として、その行う主たる事業が第2号事業に該当するときは、その事業を主として本店所在地国等において行っている場合として政令で定める場合をそれぞれ掲げている。
 以下、租税特別措置法第66条の6第4項に規定する外国子会社合算税制の適用を除外する要件を「適用除外要件」といい、同項第1号に掲げる事業を主として特定外国子会社等に係る同法第40条の4第1項各号に掲げる居住者等以外の者との間で行っている場合として政令で定める場合に当たることを「非関連者基準」、同法第66条の6第4項第2号に掲げる事業を主として本店所在地国等において行っている場合として政令で定める場合に当たることを「所在地国基準」という。
ニ 平成19年法律第6号による改正前の租税特別措置法第66条の6第6項は、同条第1項に規定する内国法人が同条第4項の規定の適用を受ける場合には、当該内国法人は、確定申告書にこれらの規定の適用がある旨を記載した書面を添付し、かつ、その適用があることを明らかにする書類その他の資料を保存しなければならない旨規定し、平成22年法律第6号による改正前の同条第6項は、同条第4項の規定は、確定申告書にこれらの規定の適用がある旨を記載した書面を添付し、かつ、その適用があることを明らかにする書類その他の資料を保存している場合に限り、適用する旨を規定している。

(4) 基礎事実

 次の事実は、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。
イ 請求人等の概要
(イ) 請求人は、昭和62年6月○日に設立され、a市に本店を置く、○○○○の成型、加工及び販売等を目的とする株式会社である。
(ロ) P社は、平成15年に設立され、L国のc区にその本店が所在する外国法人であり、P社の平成17年1月1日から平成17年12月31日まで、平成18年1月1日から平成18年12月31日まで及び平成19年1月1日から平成19年12月31日までの各事業年度(以下、順次「P社平成17年12月期」、「P社平成18年12月期」及び「P社平成19年12月期」という。)の終了の時において、その発行済株式の総数3,500,000株のうちに請求人が有する株式の合計数2,099,997株の占める割合が約59.9%(小数点以下1位未満の端数を切り捨てた後のもの)、平成20年1月1日から平成20年12月31日までの事業年度(以下「P社平成20年12月期」といい、P社平成17年12月期、P社平成18年12月期及びP社平成19年12月期とを併せて「P社各事業年度」という。)の終了の時において、その発行済株式の総数3,500,000株のうちに請求人が有する株式の合計数2,449,998株の占める割合が約69.9%(小数点以下1位未満の端数を切り捨てた後のもの)であったから、租税特別措置法第66条の6第2項第1号に規定する外国関係会社に該当するとともに、同条第1項第1号に規定する、内国法人(請求人)に係る外国関係会社であり、本店所在地国等におけるその所得に対して課される税の負担が本邦における法人の所得に対して課される税の負担に比して著しく低いものとして政令で定める外国関係会社に該当する特定外国子会社等であった。
ロ ○○○○協議書等の作成及び営業免許
(イ) P社は、平成16年7月13日付で、Q社との間で、要旨次のとおり記載された賃貸借契約書(以下「本件第一賃貸借契約書」という。)を取り交わした。
A Q社は、P社に対し、f工業団地にある工場建物、宿舎及び守衛室を賃貸する。
 その賃貸期間は賃貸料起算日から10年とする。
B Q社は、その責任において、高圧線の提供、変圧器の設置、給水管の引込み、貨物用エレベーターの設置並びに排水溝の引込み及び工場内の排水システムとの接続を行う。
C Q社は、P社が企業設立のための営業許可証を申請するに当たり協力し、P社と地方の当局部門との関係調整を的確に行い、P社の生産が阻害されないように確実を期する。
D P社は、変圧器より後に設置される一切の電気設備、工場の給排水及び消防等の設備を設置する。
E P社は、法律に依拠して所定の期限までに労働者に給与を支払い、毎月10日までに当月分の賃貸料及びその他Q社に納付すべき費用を納付する。
F 工場建物、宿舎、守衛室の月額賃貸料は○○○○(通貨)とする。
 P社は従業員管理費を納付する必要はない。
G 賃貸期間の満了後、工場区画内の固定内装設備(ただし、固定生産設備を除く。)はQ社の所有に帰するものとする。
(ロ) P社は、平成17年1月27日付で、Q社との間で、要旨次のとおり記載された協議書(以下「本件○○○○協議書」という。)を取り交わした。
A P社とQ社は、電子機器等の組立部品(以下「本件部品」という。)の加工業務について、次の内容について合意した。
B P社は、無償で加工生産に必要な設備を提供し、Q社の工場に搬入する。
 設備総額は○○○○(通貨)であり、当該無償設備の所有権はP社に帰属する。
C P社は、設備をQ社の工場に搬入した後、速やかに技術者をQ社の工場に派遣して、取付け、調整及び技術指導を行う。
 P社の技術者に係る賃金、出張費、電話代、生活用電気代及び食費・宿泊費はP社が負担し、Q社は便宜を図る。
D P社は、無償で、全ての原材料、補助資材及び包装材を提供する。
 また、労働部門を通じて労働者を雇用し、加工した製品は全てP社に輸出して引き渡される。
E Q社は、P社に対し、建物及び用地を提供し、常に投資環境を整備し、P社の関連部門の審査、許認可、登録の手続に協力し、P社の工場の日常事務の管理に協力する。
F 1年目の加工費総額は、_(通貨)であり、2年目以後の加工費総額は、1年目を基礎として増額し、年増加率は10%を下回ってはならない(上記下線部分は空欄となっており、金額の記載がない。)。
G P社とQ社は互恵堅持の原則に基づき友好的な協議を経て、加工の工納費については、初回の契約は試験生産契約とし、試験生産期間を3か月、工納費は人数によって計算し、毎月1人当たり○○○○(通貨)を下回らないこととする。
 試験生産期間満了後の工納費は、実際の出荷数量と契約で確定した工納単価によって計算する。
 製品の加工単価は、サンプル確認後協議の上で決定する。
 毎月1人平均の工納費は○○○○(通貨)を下回ってはならない。
H Q社は建物及び用地を提供し、その賃貸料及び用地の使用料はP社が工納費の中から支払う。
I 原材料、補助資材及び完成品の運搬雑費はP社が負担する。
J P社は、原材料、補助資材及び包装材の搬入並びに完成品の搬出に対して総合保険を掛け、生産設備及び工場における原材料、補助資材、包装材、工場における製品及び完成品について財産火災保険を掛ける。
 以上の保険料はP社が負担する。
K 企業は、労働者の募集、職種の調整、建物設備等については、「労働安全衛生管理条例」及び「L国消防条例」に従って実施する。
(ハ) P社は、平成19年2月7日付で、Q社との間で、要旨次のとおり記載された賃貸借契約書(以下「本件第二賃貸借契約書」という。)を取り交わした。
A P社は、Q社に対し、e町f工業団地○区○セクション東側に次の建物の建築を注文する。
 上記建物の内訳は、標準3階建て構造の工場建物1棟、5階建て宿舎1棟、守衛室1か所であり、その賃貸期間は賃貸料起算日から10年とする。
B Q社は、平成19年9月30日までに、工場建物、宿舎、守衛室、工場区画を囲む塀、道路を完成させ、P社の使用に供する。
C Q社は、その責任において、高圧線の提供、変圧器の設置、給水管の引込み、貨物用エレベーターの設置並びに排水溝の引込み及び工場内の排水システムとの接続を行う。
D Q社は、P社が企業の計画的な建設作業を行うに当たり協力し、P社と地方の当局部門との関係調整を的確に行い、P社の生産が阻害されないように確実を期する。
E P社は、変圧器より後に設置される一切の電気設備、工場の給排水及び消防等の設備を設置する。
F P社は、法律に依拠して所定の期限までに労働者に給与を支払い、毎月10日までに当月分の賃貸料及びその他Q社に納付すべき費用を納付する。
G 工場建物、宿舎、守衛室の月額賃貸料は○○○○(通貨)とする。
 P社は従業員管理費を納付する必要はない。
H 賃貸期間の満了後、工場区画内の固定内装設備(ただし、固定生産設備を除く。)はQ社の所有に帰するものとする。
(ニ) P社は、Q社から、平成17年4月頃、上記(イ)のA及び(ロ)のBの工場としてL国g県d市e町f工業団地に所在する工場の提供を、平成19年9月頃、上記(ハ)のAの工場として同市e町f工業団地○区○セクション東側に所在する工場の提供をそれぞれ受けた。
 それらの工場の名称はいずれも「S工場」とされた。
 以下、P社が上記各時期にQ社から提供を受けた工場を「S工場」という。
(ホ) d市は、平成17年4月18日、S工場について、責任者をj、営業範囲を電子機器等の組立部品及び輸出入とする旨の内容の営業許可証を発行し、その後、平成19年9月5日及び平成21年6月30日、上記と同様の内容の営業許可証を発行した。
(ヘ) P社は、平成17年4月頃及び平成19年9月頃、Q社から提供を受けたS工場でP社が無償供給した原材料によって製造された、本件部品の販売を開始した。
(ト) P社は、平成21年3月26日付で、Q社との間で、要旨次のとおり記載された加工業務継続協議書(以下「本件継続協議書」という。)を取り交わした。
A 本件○○○○協議書は平成22年1月30日に期限が到来するので、P社及びQ社は、本件部品の加工業務を継続することに合意し、本件○○○○協議書の期限を10年延長して平成32年1月30日までとする。
 また、P社及びQ社は、次の事項について、本件○○○○協議書の内容を改正及び補充することに合意した。
B P社が工場の経営及び運営を行う。
C 本件継続協議書の発効後、1年目の加工費の総額は○○○○(通貨)とし、2年目以降の加工費の総額は毎年10%増加するものとする。
D 本件継続協議書の有効期間中は、工場内の労働者の人数に基づいて加工費を計算し、1人当たりの毎月の加工費は○○○○(通貨)を下回らないものとする。
E 企業は、労働者の募集、職種の調整、建物設備等については、「労働安全衛生管理条例」及び「L国消防条例」に従って実施する。
F P社は、輸出入業務の代行費用として工納費の総額の5%相当額を支払う。
G P社は、港の建設資金として工納費の総額の0.2%相当額を支払う。
ハ 確定申告の状況
 請求人は、P社平成17年12月期におけるP社に係る課税対象留保金額に相当する金額を、平成18年5月期の所得の金額の計算上益金の額に、P社平成18年12月期におけるP社に係る課税対象留保金額に相当する金額を、平成19年5月期の所得の金額の計算上益金の額に、P社平成19年12月期におけるP社に係る課税対象留保金額に相当する金額を、平成20年5月期の所得の金額の計算上益金の額に、P社平成20年12月期におけるP社に係る課税対象留保金額に相当する金額を、平成21年5月期の所得の金額の計算上益金の額にそれぞれ算入せず、本件各事業年度の法人税の確定申告書をそれぞれ法定申告期限内に提出した。
 その際、請求人は、いずれの確定申告書にもP社が租税特別措置法第66条の6第4項の規定の適用がある旨を記載した同条第6項に規定する書面を添付しなかった。

(5) 争点

  1. 争点1 外国子会社合算税制は、租税回避行為がある場合に限定して適用されるか否か。
  2. 争点2 P社各事業年度においてP社が行う主たる事業は、第1号事業である卸売業と第2号事業である製造業のいずれに該当するか。
  3. 争点3 P社各事業年度においてP社が行う主たる事業が第2号事業である製造業に該当する場合、P社はその事業を主として本店所在地国等で行っていたといえるか否か。
  4. 争点4 租税特別措置法第66条の6第4項の規定は、同条第6項に規定する書面が添付されている場合に限り適用することができるか否か。

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2 主張

(1) 争点1(外国子会社合算税制は、租税回避行為がある場合に限定して適用されるか否か。)

請求人 原処分庁
 外国子会社合算税制は、内国法人が法人の所得あるいは法人の特定種類の所得に対する税負担がゼロあるいは極端に低い国又は地域であるタックス・ヘイブンにおいて、租税回避を行うことを防止するという政策目的の達成のために設けられた当分の間適用される特別措置であるから、その点で租税回避行為(課税要件の充足を避け、租税負担の不当な軽減又は排除をするために異常な法形式を選択すること)がある場合に限って適用される規定であることは明らかである。
 また、P社が、経済的合理性のある○○○○制度に従い経済的合理性のある活動を行っているにも関わらず、形式的に外国子会社合算税制を適用することは、国際化の流れから我が国の企業が海外に進出して実態のある経済活動を行うことについて配慮し、正常な海外投資活動への外国子会社合算税制の適用を制限し、国際競争力を衰退させないとの適用除外要件の立法趣旨にも反する。
 したがって、外国子会社合算税制は、内国法人に租税回避行為がある場合にのみに適用すべきであり、経済的合理性があり、外国子会社合算税制の適用により我が国の国際競争力を弱めるような事態が生じる場合には適用されない。
 仮に、請求人が主張するように、P社が、経済的合理性のある○○○○制度に従い、経済的合理性のある事業活動を行ったのであり、その事業活動を内国法人が租税回避を行うために利用したものではないとしても、外国子会社合算税制は、適用除外要件を充足していなければ、適用されるのであり、租税回避行為がある場合に限定して適用されるものではない。

(2) 争点2(P社各事業年度においてP社が行う主たる事業は、第1号事業である卸売業と第2号事業である製造業のいずれに該当するか。)

原処分庁 請求人
 P社が行う主たる事業は、次のとおり、第2号事業である製造業に該当する。
イ 法人税法及び租税特別措置法には卸売業及び製造業の定義規定はないから、その用語の一般的な意義並びにその用語が使用されている規定の立法趣旨及び目的等を勘案して解釈すべきであり、特定外国子会社等の営む事業が租税特別措置法第66条の6第4項第1号に掲げる事業に該当するかどうかは、原則として日本標準産業分類(総務省)の分類を基準として判定する旨定める租税特別措置法関係通達(法人税編)(昭和50年2月14日付直法2−2の国税庁長官通達。以下「措置法通達」という。)66の6−17《事業の判定》も同様の趣旨で定められたものと解される。
 そして、日本標準産業分類で業種の意義の大要が示されているとおり、一般的な意義における卸売業とは、有体的商品を購入し、最終消費者以外の事業者に販売する事業であり、これに対し原材料の加工等など販売業務に付随して行う軽度の加工、取付修理の範囲を超えて有体的商品に物理的又は化学的な変化を加え、新製品を製造し、これを販売する事業は、製造業であって、一般的な意義における卸売業の範囲を超える。
ロ また、非関連者基準が適用される第1号事業は、卸売業等の事業活動が必ずしも本店の所在する国又は地域に限定されない国際的なものであって、地場経済との密着度を基準としてその地に所在することの経済的合理性を認定することが困難な事業として予定しているものと解されるところ、原材料の加工等を行う場合には、そのための工場建物や設備等の購入又は賃貸借、労働者の雇用、エネルギーや消耗品等の購入などの資本投下が必要となり、地場経済と密接な関係を有することとなるから、非関連者基準が適用される卸売業に区分する理由はない。
ハ 原材料を購入して、その加工等を外部に委託し、完成品を引き取って自己の名称で最終消費者以外の事業者に販売する事業は、当該完成品の販売者によって購入された原材料に物理的又は化学的変化を加えているから、有体的商品を販売するという事業であっても、卸売業と全く同じ事業であるとはいえないのであり、販売者が原材料の加工等を行っているのであれば、その事業は第1号事業に規定する卸売業には含まれない。
 そして、加工等の委託には様々な形態があること、また、特定外国子会社等が行う事業を卸売業とその他の事業に区分する趣旨が、所在地国基準は、本店所在地国等において資本投下を行い、その地の経済と密接に関連して事業活動を行っている場合には、その地に所在していることについて十分な経済的合理性が推認し得るとの認識に基づき、外国子会社合算税制の適用を除外する基本的理念に立脚した原則的な基準であると解されるのに対し、非関連者基準は、卸売業等の事業については、その事業活動が必ずしも本店所在地国等に限定されない国際的なものであるとの観点から、その事業を主として関連者以外の者との間で行っている場合には、本店所在地国等で事業を行うことにつき十分な経済的合理性があるとしたものであることからすれば、販売者が加工等の事業を行っているかどうかは、委託加工契約書に加工等を委託する旨の記載があるかどうかのみで判断することは相当とはいえず、販売者が加工等のための資本投下を行ったかどうか、販売者が加工等を行うことに伴う経済活動を行っているかどうかなどの観点から判定することが相当であり、事業がその事業を行う者の計算において行われる経済的活動であることからすれば、販売者がその原材料の加工等を自己の計算において行っているかどうかにより判定することが相当である。
ニ 本件では、P社は、S工場に対して本件部品の加工を委託し、完成品を販売する事業を行っていると認められるところ、P社は、まる1S工場の運営権、人事権、管理権を有し、S工場へ設備を搬入した後、速やかに技術者を派遣し、設備の据付け、調整及び技術指導を行い、当該技術者の工賃、旅費、電話代金、生活用電気及び食事宿泊費用を負担することとされていること、まる2原材料、副資材及び包装材を無償で提供し、労働者を派遣していること、まる3P社の所有する加工設備一式を無償提供し、S工場の工場建物等をQ社から賃借していること、まる4原材料及び完成品等に係る保険料を負担することとされていること、まる5S工場の工場建物等の賃借料やS工場における加工等の原価を自己の原価として処理していることからすれば、P社が自己の計算において、原材料を仕入れ、加工等を行っていると認められるから、P社の主たる事業は第2号事業である製造業に該当する。
 P社が行う主たる事業は、次のとおり、第1号事業である卸売業に該当する。
イ 第1号事業又は第2号事業に掲げる事業のいずれに該当するかは、措置法通達66の6−17により日本標準産業分類を基準として判定するものとされている。
 そして、卸売業とは、有体的商品を購入して販売することを意味するところ、P社はS工場から本件部品を仕入れ、それを他に販売する事業を行っているものであり、その点で、P社の主たる事業は第1号事業である卸売業に該当する。
ロ また、P社は請求人から完成品を仕入れ、当該完成品を第三者に販売しており、その点からしても、P社の主たる事業は第1号事業である卸売業に該当する。

(3) 争点3(P社各事業年度においてP社が行う主たる事業が第2号事業である製造業に該当する場合、P社はその事業を主として本店所在地国等で行っていたといえるか否か。)

原処分庁 請求人
 P社は、次のとおり、その事業を主として本店所在地国等で行っていたとはいえない。
イ 租税特別措置法第66条の6第1項において租税の負担が著しく低い「地域」に本店又は主たる事務所が所在する外国関係会社も、外国子会社合算税制の対象とされた趣旨は、租税の負担の著しく低い、いわゆるタックス・ヘイブンとして著名なグレートブリテン及び北アイルランド連合王国(以下「英国」という。)領バミューダ、同ケイマン諸島、同ヴァージン諸島など、一般的には必ずしも租税の負担が著しく低いとはいえない「国」のうちで租税の負担の著しく低い特定の「地域」に所在する外国関係会社について、外国子会社合算税制の適用対象に含めることとしたところにあると解されている。
 このような趣旨に加えて、租税特別措置法第66条の6第4項が、外国関係会社が特定外国子会社等の要件を満たしている場合に同条第1項により課税対象留保金額を益金の額に算入するとの法律効果が生ずることを前提とした上で、同条第4項に規定する適用除外要件が充足された場合には、同条第1項の規定を「適用しない」という例外を定めたものであるという同条第1項と第4項との条文の構造、対応関係に鑑みると、同条第1項との関係で、特定外国子会社等の本店又は主たる事務所が租税の負担が著しく低い「地域」に所在する場合には、同条第4項との関係でも、特定外国子会社等がその事業を主として本店又は主たる事務所の所在する当該「地域」において行っていることを要すると解される。
ロ c区は、M国からL国に返還されたものの、c区基本法により、「c区」とされ、従前の政治・経済制度等は返還後50年間は維持するいわゆる「一国二制度」の原則が適用されており、税制上も、L国への返還後も独自の課税体制が維持継続され、L国本土からの課税は実施されておらず、しかも、租税の内容についても、まる1L国本土においては、企業所得税、個人所得税等の「所得税類」、増値税、消費税等の「流通税類」、不動産税、車船税等の「財産及び行為税類」等を主要な税とし、企業所得税の基本税率は○%(平成20年4月1日開始事業年度からは○%)等というものであるのに対し、まる2c区においては、c区内で提供した労働役務等の対価に課される給与所得税、c区内で生じた営業に係る所得に課される法人所得税及びc区内にある土地や建物等の不動産から生ずる賃貸収入所得に課される資産所得税から構成され、c区外に源泉のある所得は非課税であり、法人の法人所得税は、法人がc区で所得の源泉となる営業活動を行っている場合に課税の対象となり、基本税率は○%(平成20年4月1日開始事業年度からは○%)であるなど、L国本土とは異なる独自の租税制度を有し、かつ、その租税の負担は世界的にも最も低い水準にあるものと認められる。
 また、c区がL国へ返還された後の平成10年2月には、L国の税務当局とc区との間で、L国本土とc区との二重課税の回避を目的とするL国・c区二重課税防止取扱協定が調印されたが、同協定第7条第1項においては、それぞれの「権限ある当局」は、L国においては、○○局であり、c区においては、c区政府○○局長(又は権限を与えられたその代理者)である旨規定されており、課税権を行使する当局もそれぞれ異なることが明示されている。
ハ 以上のことから、c区は、外国子会社合算税制の適用上、L国本土とは税制が異なり租税の負担が著しく低く定められた「地域」に該当すると解される。
 そうすると、P社は、その事業の本質的行為である製品の加工等を本店所在地であるc区ではなく、S工場が所在するd市e町f工業団地において行っていたから、その事業を主として本店の所在する地域であるc区で行っていたとはいえない。
 P社は、次のとおり、その事業を主として本店所在地国等で行っていたといえる。
イ c区は国際的にも事実上もL国の一部となっており、他の国に属する地域ではなく、法令上もc区はL国の一部ではないとする根拠規定が存在しない以上、納税者の法的予測可能性を保証し、租税法律主義の要請に応える趣旨からも、c区とL国は一つの国と解すべきである。
ロ 原処分庁は、租税特別措置法第66条の6第1項において租税の負担が著しく低い「地域」に本店又は主たる事務所が所在する外国関係会社も、外国子会社合算税制の対象とされた趣旨は、「国」単位のみで外国子会社合算税制を適用するものとした場合、英国領ケイマン諸島などのタックス・ヘイブンにおいて外国子会社合算税制の適用がない結果となるため、ある「国」のうちの租税の負担の著しく低い特定の「地域」に所在する外国関係会社も外国子会社合算税制の適用を行うためであるとする。
 しかし、所在地国基準の趣旨は、事業活動の経済的合理性の判定又は租税回避か否かの判定をするための基準であり、特定外国子会社等の本店所在地国において資本投下を行い、その地域の経済と密接に関連して事業活動を行っている場合には、その地域にいる経済的合理性が推認できるため、外国子会社合算税制は適用されないところにあるから、ここにいう「国又は地域」の同一性はその地域と政治的経済的に密接に関連しているか否かによって、判断すべきものと解される。
 また、原処分庁は、L国・c区二重課税防止取扱協定の規定上課税権を行使する当局が異なると主張するが、それはL国・c区二重課税防止取扱協定の問題であって、所在地国基準の適用に当たりc区とL国を別の国又は地域と解する合理的な根拠はない。
ハ 本件においては、P社は、L国の○○○○制度に基づき、c区にある会社がL国において製品製造を委託するものであり、かつ、L国の一部であるc区において資金調達、製造物の販売管理を行い、S工場から本件部品を仕入れるなど、L国とc区は地域の経済的観点からは極めて密接に関連しているから、仮にP社が行う主たる事業が第2号事業である製造業に該当するとしても、P社は、その事業を主として本店所在地国等で行っていたといえる。

(4) 争点4(租税特別措置法第66条の6第4項の規定は、同条第6項に規定する書面が添付されている場合に限り適用することができるか否か。)

原処分庁 請求人
 仮に、適用除外要件が満されていたとしても、平成19年法律第6号による改正前の租税特別措置法第66条の6第6項が、同条第4項の規定の適用を受ける場合には、確定申告書に同項の規定の適用がある旨を記載した書面を添付しなければならない旨規定し、平成22年法律第6号による改正前の同条第6項が、同条第4項の規定は、確定申告書に同項の規定の適用がある旨を記戴した書面を添付する場合に限り、適用する旨規定していることからすれば、同条第4項の規定は、同条第6項に規定する書面が添付されている場合に限り適用されるものである。 イ 租税特別措置法第66条の6第6項は、平成19年法律第6号による改正により、同条第4項の規定の適用がある旨を記載した書面を添付している場合に限り、同項の規定が適用されると規定されたものである。
 このような改正の経緯からすれば、少なくとも平成19年法律第6号による改正前は、租税特別措置法第66条の6第6項に規定する書面の添付は行政上の便宜のために求められていたにすぎない。
ロ また、外国子会社合算税制の趣旨は、租税回避の防止であり、懲罰的な側面も否定できない課税であることから、書面添付がなされていないだけで課税を許容することは、納税者に対し過大な負担を与えることとなり、妥当ではない。
ハ 以上のことから、租税特別措置法第66条の6第4項の規定は、同条第6項に規定する書面が添付されている場合に限り適用されるものではない。

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3 判断

(1) 争点1(外国子会社合算税制は、租税回避行為がある場合に限定して適用されるか否か。)

イ 外国子会社合算税制は、内国法人が、法人の所得等に対する租税の負担がないか又は著しく低い国又は地域に子会社を設立して経済活動を行い、当該子会社に所得を留保することによって、我が国における租税の負担を回避しようとする事例が生ずるようになったことから、課税要件を明確化して課税執行面における安定性を確保しつつ、このような事例に対処して税負担の実質的な公平を図ることを目的として、一定の要件を満たす外国法人を特定外国子会社等と規定し、これが適用対象留保金額を有する場合に、その内国法人の有する株式等に対応するものとして算出された一定の金額を内国法人の所得の金額の計算上益金の額に算入することとしたものであり、租税特別措置法第66条の6第1項において外国子会社合算税制が適用される特定外国子会社等を定義した上で、同条第4項において適用除外要件を定め、特定外国子会社等が独立企業としての実体を備え、かつ、その本店所在地国等で事業活動を行うことについて十分な経済的合理性がある場合には、同条第1項の規定を適用しないとして、課税要件を具体的かつ明確に定め、その適用範囲を国際的な租税回避行為の事案に限定するとともに、法の適正な執行が担保されるようにした規定であると解され、同条がそれ以上に、「租税回避行為がある場合」といった要件まで要求していないことは、条文の文言上、明らかである。
 また、租税法規は、多数の納税者間の税負担の公平を図るため、法的安定性が強く要請されることから、その解釈は原則として文理解釈によるべきであって、文理解釈によっては規定の意味内容を明らかにすることが困難な場合に初めて、規定の趣旨、目的に照らして、その意味内容を明らかにするという目的的解釈が行われるべきところ、租税特別措置法第66条の6は、上記のとおり、その文理からいって規定の意味内容を明らかにすることが困難であるということはできない。
 したがって、外国子会社合算税制は、租税回避行為がある場合に限定して適用されるべきであるということはできない。
ロ 請求人は、上記2の(1)の「請求人」欄のとおり主張するが、上記イのとおり、外国子会社合算税制は、租税回避行為がある場合に限定して適用されるべきとはいえず、この点に関する請求人の主張には理由がない。

(2) 争点2(P社各事業年度においてP社が行う主たる事業は、第1号事業である卸売業と第2号事業である製造業のいずれに該当するか。)

イ 法令解釈
 外国子会社合算税制は、上記(1)のイのとおり、内国法人が、法人の所得等に対する租税の負担がないか又は著しく低い国又は地域に子会社を設立して経済活動を行い、当該子会社に所得を留保することによって、我が国における租税の負担を回避しようとする事例が生ずるようになったことから、特定外国子会社等が適用対象留保金額を有する場合に、その内国法人の有する株式等に対応するものとして算出された一定の金額を内国法人の所得の金額の計算上益金の額に算入することとしたものであるが、他方、特定外国子会社等の本店所在地国等における事業活動が正常なものとして経済的合理性を有する場合にまで外国子会社合算税制の対象とすることは、我が国の民間企業の海外における正常かつ合理的な経済活動を阻害することになり妥当ではないことから、租税特別措置法第66条の6第4項は、課税要件を明確化して課税執行面における安定性を確保しつつ、正常かつ合理的な経済活動につき外国子会社合算税制の適用を除外する目的で、当該特定外国子会社等が独立企業としての実体を備え、かつ、その行う主たる事業が十分な経済的合理性を有すると考えられる一定の場合に関して、具体的かつ明確な要件を定めて、例外的に、外国子会社合算税制を適用しないことを認めたものであると解される。
 この租税特別措置法第66条の6第4項が、外国子会社合算税制の適用除外の要件として、事業基準、実体基準及び管理支配基準のほかに、その行う主たる事業に応じて、非関連者基準又は所在地国基準を規定している趣旨は、まる1本店所在地国等において資本投下を行い、その地の経済と密接に関連して事業活動を行っている場合には、その地に所在していることについて十分な経済的合理性の存在を推認し得ることから、第2号事業が主たる事業の場合については、その事業を主として本店所在地国等において行っている場合として政令で定める場合に該当するときは、所在地国基準を満たすものとして、適用除外を認めるが、まる2第1号事業が主たる事業の場合については、その事業活動が必然的に国際的にならざるを得ず、これらの事業を営む特定外国子会社等に対して地場経済との密着性を重視する所在地国基準を適用することには無理があり、それよりも、その事業の根本が関連者以外の者との取引から成っているか否かという基準によって事業が十分な経済的合理性を有するか否かを判断するのが適切であると考えられたことから、第1号事業が主たる事業の場合については、所在地国基準によるのではなく、その事業を主として当該特定外国子会社等に係る関連者以外の者との間で行っている場合として政令で定める場合に該当するときは、非関連者基準を満たすものとして、適用除外を認めることとしたものと解される。
 そして、非関連者基準又は所在地国基準のいずれが適用されるかを決するための特定外国子会社等の「主たる事業」の判定に当たっては、第1号事業(卸売業等)と第2号事業(製造業等)の社会通念上の意義を基礎として、外国子会社合算税制の適用除外要件の趣旨、目的を考慮して解釈することが必要であり、本件で争点となっている卸売業か製造業かの区分についていえば、一般的に、卸売業が自ら製品を製造することなく、他者が製造した製品を購入して販売する事業であるのに対して、製造業が自ら製品を製造した上で販売する事業であることからすれば、両者の区分は事業者が自ら製造行為を行っているといえるかどうかにより区分するのが相当であり、上記のとおり、第2号事業が主たる事業の場合においては、本店所在地国等において資本投下を行い、その地の経済と密接に関連して事業活動を行っているときに、その地に所在していることについて十分な経済的合理性の存在を推認し得るとして、所在地国基準を定めていることからすれば、事業者が自ら製造行為を行っているといえるかどうかは、事業者が締結した契約の形式など、その表面的な法形式に則して判断するのは妥当ではなく、製造行為を行うために必要な物的設備及び人員を管理、支配しているかどうか、製造した商品の品質、納期などを管理しているかどうかとともに、当該製造に係る損益を自らに帰属させているかどうかを総合的に検討して、社会通念に照らして、実質的に判断するのが相当である(措置法通達66の6−17もそのような趣旨を定めたものであると解することができる。)。
 また、特定外国子会社等が複数の事業を営む場合に、そのいずれの事業が主たる事業であるかについては、対象となる事業年度におけるそれぞれの事業活動の客観的結果として得られた収入金額及び所得金額、使用人の数並びに固定施設の状況等の具体的かつ客観的な事業活動の内容を総合的に考慮して判断するのが相当である。
ロ 認定事実
 請求人提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
(イ) P社の事業の概要
 P社の総勘定元帳、「生産指示書」(以下「本件生産指示書」という。)、「P社取引概要図」及びP社各事業年度においてP社の「支配人」(Manager)であったkの当審判所に対する答述によれば、P社各事業年度において、P社が行っていた事業は、まる1無償で原材料をS工場に供給し、S工場にて当該原材料を貼付、裁断等して製造された本件部品を、c区にあるT社等に販売するとともに、まる2本件部品と同様の製品を請求人等から仕入れ、T社などに販売するなどというものであったことが認められる。
(ロ) P社の本店事務所における業務
 P社がyと取り交わした賃貸借契約書、V社宛の賃貸借契約更新の申入書、「c事務所」と題する書面及びP社撮影に係る「写真説明書」によれば、P社は、P社各事業年度において、その本店所在地(c区)に存する建物の2室を賃借して本店事務所及び倉庫として使用し、現地採用した従業員3名又は4名を本店事務所に配置して、原材料及び部品等の保管並びに入荷検査及び出荷作業等の業務を行っていたことが認められる。
(ハ) P社の役員
 P社がc区政府機関に届け出たP社の年次報告書(Annual Return)の写し、平成18年1月26日付c区移民局宛のP社の滞在期間の延長申請書の写し、平成20年5月7日付のP社の取締役会議事録及び同年6月5日付のP社の株主総会議事録によれば、まる1平成15年2月26日、m、n及びqがP社の取締役(Director)にそれぞれ就任したこと、まる2平成17年2月28日、nがP社の代表取締役(Managing Director)に就任したこと、まる3平成20年1月13日、qが取締役を死亡退任し、rが取締役に就任したこと、まる4同年6月頃、nが代表取締役を退任し、rが代表取締役に就任したこと、まる5同年8月5日、nが取締役を退任し、同月6日、tが取締役に就任したことが認められる。
(ニ) S工場の組織、運営等
 平成18年8月15日付で改正された「S工場 ISO組織図」、平成19年5月25日付、同年11月22日付、平成20年5月20日付及び同年9月22日付で改正された各「S工場 組織図」並びに「品質保証体系図」から、平成18年8月15日以降のP社各事業年度において、S工場に関する役職として、S工場を統括管理する者として「代表取締役」が、代表取締役の下に「総支配人」が、総支配人の下に「L国側工場長」及び「工場長」がそれぞれ置かれ、その下に営業課、製造課、品質保証課、総務課等の各課が置かれていたこと、平成18年8月15日付で改正された「S工場 ISO組織図」から平成20年5月20日付で改正された「S工場 組織図」までは、上記(ハ)のとおり、P社の代表取締役であったnが、平成20年9月22日付で改正された「S工場 組織図」では、上記(ハ)のとおり、同年6月頃、P社の代表取締役となったrが、それぞれS工場の代表取締役とされていること、平成18年8月15日付で改正された「S工場 ISO組織図」から平成20年9月22日付で改正された「S工場 組織図」までは、rがS工場の総支配人、uがS工場の工場長とされていること、また、請求人の賃金台帳一覧及び総勘定元帳並びにr宛の海外給与超過支給分の返金の件と題する電子メールから、r、uは、いずれも、遅くとも平成17年6月以降、P社の従業員等であったこと、i、kなど、いずれもP社の従業員がS工場の各課の責任者とされており、それらの者がS工場の営業課、製造課、品質保証課、総務課等の責任者として営業、製造、品質保証、納品、総務、人事、財務等の業務に従事していたことが認められ、これらの事実から、S工場はP社の従業員等によって運営されていたことが認められる。
 そして、請求人提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査によっても、「S工場 ISO組織図」が改正された平成18年8月15日頃にS工場の運営体制が大幅に変更されたという事情は認められないから、S工場が本件部品の加工生産を開始したP社平成17年12月期についても、S工場はP社の従業員によって運営されていたものと認めるのが相当である。
 なお、「S工場 ISO組織図」、各「S工場 組織図」及び「品質保証体系図」について、kは、当審判所に対し、これらはP社の従業員がL国から就労ビザを取得するため又は「ISO 9001」の認証の申請のために作成されたものである旨答述する。
 しかしながら、kは、「S工場 ISO組織図」、各「S工場 組織図」及び「品質保証体系図」がS工場の実態と異なっていた旨の答述をしたわけではない上、これらがP社の従業員がL国から就労ビザを取得するため又は「ISO 9001」の認証の申請のために作成されたものであるとしても、それらの申請はS工場の実態に即して行うものであるし、とりわけ就労ビザの申請に対して、L国当局の調査を受け得ることを考慮すれば、あえて実態と異なる「S工場 ISO組織図」、各「S工場 組織図」及び「品質保証体系図」を作成するなどして就労ビザ等の申請をすることは考えにくいから、「S工場 ISO組織図」、各「S工場 組織図」及び「品質保証体系図」に記載された内容はS工場の実態と合致していたものと認めるのが相当である。
 したがって、kの上記答述は、P社各事業年度においてS工場がP社の従業員等によって運営されていたとの上記認定に影響を与えるものではない。
(ホ) S工場の労働者に対する給与の支払等
 Y銀行c支店のP社名義の預金口座からZ銀行のR社名義の預金口座への送金確認書、Z銀行d支店の加工貿易に係る外為決済調査用保管資料、Z銀行の顧客口座入金通知書、平成20年12月分の「S工場給与管理台帳」(以下「本件給与管理台帳」という。)及びkの当審判所に対する答述から、平成20年12月において、S工場にはL国側工場長をしていたjを含む169名のL国人労働者が勤務していたこと、P社は、Y銀行c支店のP社名義の預金口座からZ銀行のR社名義の預金口座に送金していたこと、R社は、同預金口座からZ銀行e支店のS工場名義の預金口座に送金していたこと、P社は、同預金口座からS工場のL国人労働者の各預金口座に振り込む方法で、S工場のL国人労働者に給与を支払っていたことが認められる。
 また、本件給与管理台帳には、L国人労働者を職員、事務員、工員などの職種に分類した上、それぞれの基本給、職位手当、皆勤手当、月賞金、各種控除等を基にして、それぞれの給与の額を算出していたことが記載されていることから、L国人労働者の給与の額は、各L国人労働者の職種、勤務状況等に応じて算出されていたものと認められるところ、本件給与管理台帳の様式に鑑みれば、以前から同様の様式の給与管理台帳が作成されていたものと認めるのが自然であるから、平成20年12月分以外のP社各事業年度においても、L国人労働者の給与の額は、各L国人労働者の職種、勤務状況等に応じて算出されていたものと認めるのが相当である。
 そして、P社は、P社平成20年12月期の総勘定元帳において、S工場に勤務するL国人労働者の平成20年1月分の給与を平成20年1月31日付で「Z銀行・1月分労働者給与」として自らの費用に計上しているところ、請求人の関与税理士法人に所属し、請求人を担当するwは、原処分に係る調査の担当者に対し、P社各事業年度に係るP社の所得税の各申告書(以下「本件各申告書」という。)に記載された人件費の総額は、本件各申告書の附属書類に記載されたP社の役員、従業員及びS工場の労働者の給与の合計額である旨申述していることから、P社は、P社各事業年度において、S工場に勤務するL国人労働者の職種、勤務状況等に応じて算出されたL国人労働者に対する給与を自己の費用として計上していたことが認められる。
(ヘ) 加工生産設備、費用等
A 上記1の(4)のロの(ロ)のBのとおり、P社は、Q社との間で、S工場で加工生産に必要な設備を無償で提供する旨の本件○○○○協議書を取り交わしているところ、本件○○○○協議書以外にS工場で本件部品の加工生産に必要な設備の使用料に関する証拠書類がないことからすれば、P社は、S工場で本件部品の加工生産に必要な設備を無償でS工場に提供していたと認めるのが相当であり、P社は、本件部品の加工生産に必要な設備を無償で提供するとともに、上記1の(4)のロの(ヘ)のとおり、原材料も無償で供給し、本件部品が製造されていたと認められる。
B 本件各申告書の附属書類である所得税計算書(Profits Tax Computation)並びに損益計算書(Profit and Loss Account)及びその明細書によれば、P社は、P社各事業年度の税引前当期利益を別表2−1から別表2−3までのとおり、国外取引(Offshore trading。ただし、P社平成17年12月期の損益計算書上で「Trading」(国内取引)と記載されている税引前当期利益の金額は、それに係る所得金額の全てが国外取引に係る非課税所得として申告されていることから、当該税引前当期利益の金額は国外取引に係るものと認められる。)、国内取引(Trading)及び製造(Manufacturing)の取引形態に区分して損益を計算し、製造に係る売上原価(Cost of sales)は、期首製品棚卸高(Opening finished goods)、製造原価(Manufacturing Costs)及び期末製品棚卸高(Closing finished goods)が記載されているところ、その明細書から製造原価の明細は別表3のとおりであったと認められる。
 そして、減価償却費の金額(別表3のまる6欄)は、固定資産減価償却明細表(Depreciation on fixed assets)に基づいて計算されているところ、kは、当審判所に対し、当該固定資産減価償却明細表に記載した固定資産は、「c区本店の固定資産」欄に記載したもの以外は全てS工場に設置した固定資産である旨答述していることから、P社は、S工場工事費、金型、プレス機械(Press Machine)、ラミネート機械(Laminate Machine)などS工場に設置した設備及び加工生産に必要な設備を自己の資産として計上した上、P社の当期利益の計算上その減価償却費を含めて製造原価の減価償却費に計上し、c区の税務当局に対する税務申告をしていたこと、固定資産減価償却明細表によれば、P社各事業年度における「c区本店の固定資産」欄に記載された固定資産の取得価額の総額は、○○○○(通貨)から○○○○(通貨)であるのに対し、それ以外の固定資産の取得価額の総額は、○○○○(通貨)から○○○○(通貨)であること、減価償却費以外の「仕入」(原材料に係るもの)、「直接賃金」、「下請費」、「鋳型費」、「包装材」、「賃借料」、「水道光熱費」、その他の間接経費などの費用についても、同様に、S工場の費用が計上されていたものと認められる。
 なお、P社平成17年12月期の製造原価には、処理加工費(別表3のまる8欄)が計上されているが、後記Cのとおり、P社は、P社平成17年12月期にS工場で本件部品が製造されるまでL国g県h市所在のX社の工場の一部を賃借して機械を持ち込んで生産していたこと、P社平成17年12月期の処理加工費は、○○○○(通貨)にすぎず、P社平成18年12月期以降には計上されていないことからすれば、処理加工費は、S工場の費用ではなく、X社の工場における製造についての費用が計上されたものと推認される。
C c区の税法上、c区における製造業者がL国本土における製造行為に関与していると認められる場合、当該製造行為に係る所得金額のうち50%を非課税所得として認める旨の取扱いが行われていたところ、本件各申告書及びその附属書類である所得税計算書から、P社は、P社各事業年度において、別表4のとおり、製造(Manufacturing)に区分した税引前当期利益に係る所得の50%を非課税所得とし、課税所得の金額から当該非課税所得の金額を控除して申告したことが認められる。
 そして、P社平成17年12月期の所得税の修正申告に係る修正所得税計算書(Revised Profits Tax Computation)は、P社平成17年12月期の所得税計算書に記載された製造(Manufacturing)の税引前当期利益(Profit before taxation)の額○○○○(通貨)を、加工工場分の○○○○(通貨)と「X factory」分の○○○○(通貨)とに区分し、「X factory」に係る所得金額の50%を非課税所得としない修正をしたことが認められるところ、請求人の関与税理士法人に所属する○○○税理士の原処分に係る調査の担当者に対する申述及びkの当審判所に対する答述から、「X factory」は、P社が、d市へ工場を移転するまでL国g県h市所在のX社の工場に機械を持ち込んで生産した分の損益区分の表示であること、しかし、P社は、「X factory」の利益に係る所得について、c区の税務当局が要求する書類を提出できなかったため、非課税所得と認められないとの指摘を受けたことから、P社平成17年12月期の所得税の修正申告を行ったことが認められ、したがって、P社平成17年12月期の損益計算書の製造の区分に記載された売上高(Sales)、売上原価(Cost of sales)には、S工場の売上高及び売上原価の他、X社の工場での生産に係る売上高及び売上原価が含まれていたことが認められる。
(ト) P社における製造(Manufacturing)とその他の取引の割合
 本件各申告書の附属書類である損益計算書によれば、P社の製造(Manufacturing)と国内取引(Trading)及び国外取引(Offshore trading)の売上高(Sales)、売上原価(Cost of sales)の金額は、別表2−1から別表2−3までのとおりであり、P社の売上高のうち製造が占める割合は、P社平成17年12月期は79.6%、P社平成18年12月期は75.5%、P社平成19年12月期は83.9%、P社平成20年12月期は86.6%であり、P社の売上原価のうち製造が占める割合は、P社平成17年12月期は76.9%、P社平成18年12月期は69.2%、P社平成19年12月期は78.1%、P社平成20年12月期は83.6%であったことが認められる。
ハ 判断
(イ) P社の製造行為の有無
A 事業者が自ら製造行為を行っているといえるかどうかは、上記イのとおり、製造行為を行うために必要な物的設備及び人員を管理、支配しているかどうか、製造した商品の品質、納期などを管理しているかどうかとともに、当該製造に係る損益を自らに帰属させているかどうかを総合的に検討して、社会通念に照らして、実質的に判断するのが相当である。
B これを本件についてみると、上記ロの(ニ)のとおり、P社の代表取締役がS工場を統括管理するS工場の代表取締役になり、また、それ以外のP社の従業員は、総支配人、工場長及びその下の各課の責任者となって、製造及び品質管理に当たるほか、営業、納品、総務、人事、財務等の業務にも従事して、これらの者がS工場を運営していたのであるから、注文者として本件部品を発注し、その品質管理をしていただけということはできない上、上記ロの(ホ)のとおり、P社は、職種、勤務状況等に応じて算出されたS工場の労働者の給与を各L国人労働者の預金口座に振り込む方法によって支払っていたこと、上記ロの(ヘ)のAのとおり、本件部品の加工生産に必要な設備及び原材料は全てP社が提供及び供給していたことをも考え合わせれば、P社は、S工場で本件部品の加工生産を行うために必要な物的設備及び人員を管理、支配し、製造した商品の品質、納期などを管理していたということができる。
 また、上記ロの(イ)のとおり、P社は、P社が無償で供給した原材料によってS工場で製造された本件部品をT社などに販売していたことからすれば、上記ロの(ト)の損益計算書の製造(Manufacturing)に係る売上高(Sales)は、S工場で製造された本件部品の販売に係る売上げが計上されているものと認められること、製造(Manufacturing)に係る売上原価は、上記ロの(ヘ)のBのとおり、期首製品棚卸高(Opening finished goods)、製造原価(Manufacturing Costs)及び期末製品棚卸高(Closing finished goods)が記載されているだけで本件部品(製品又は商品)に係る仕入れは記載されていないことからすると、P社は、本件部品を自らの製品として販売していたことが認められる。
 加えて、上記製造原価には、「仕入」(Purchases)、「直接賃金」(Direct wages)及び「減価償却費」(Depreciation)として、それぞれ上記のS工場に無償で供給された原材料、上記ロの(ホ)のS工場のL国人労働者の給与及び上記ロの(ヘ)のBのS工場の加工生産設備に係る減価償却費が計上されていることが認められ、P社は、上記ロの(ヘ)のBとおり、これらの売上高及び売上原価(製造原価)に基づき、製造(Manufacturing)に係る税引前当期利益を計算していることからすれば、S工場の損益を自らに帰属させていたということができる。
 以上を総合的に検討すれば、P社は、S工場(P社平成17年12月期についてはX社の工場を含む。)で自ら製造行為を行っていたものと認められる。
C これに対し、P社がQ社との間で取り交わした本件第一賃貸借契約書、本件第二賃貸借契約書、本件○○○○協議書及び本件継続協議書には、P社は従業員管理費を納付する必要はない(上記1の(4)のロの(イ)のF及び(ハ)のG)、P社は加工生産に必要な設備を提供する(上記1の(4)のロの(ロ)のB)など本件部品の加工生産はS工場が主体として行い、P社はそのための加工生産設備の提供などを行うものとも読める約定があり、上記1の(4)のロの(ロ)のF並びに(ト)のC及びDのとおり、加工費についての約定も一部空欄ながらも存在する。
 しかしながら、本件第一賃貸借契約書及び本件第二賃貸借契約書のように、P社がS工場を賃借する(上記1の(4)のロの(イ)のA及び(ハ)のA)、Q社は、P社の生産が阻害されないように確実を期する(上記1の(4)のロの(イ)のC及び(ハ)のD)など、本件部品の加工生産の主体がP社であることを前提とする約定があるほか、本件○○○○協議書にもS工場のL国人労働者の雇用や給与に関する約定(上記1の(4)のロの(ロ)のD及びG)などS工場が生産主体であるとすれば不自然な約定が存在するのであり、これらの約定を矛盾なく説明することは困難であることからすれば、P社が自ら製造行為を行っているといえるかどうかを判断するため、製造行為を行うために必要な物的設備及び人員を管理、支配しているかどうか、製造した商品の品質、納期などを管理しているかどうかとともに、当該製造に係る損益を自らに帰属させているかどうかを総合的に検討するに当たり、本件第一賃貸借契約書、本件第二賃貸借契約書、本件○○○○協議書及び本件継続協議書の約定を参酌するとしても、その約定に重点を置くことが相当とは認められない。
 そして、本件について、製造行為を行うために必要な物的設備及び人員を管理、支配しているかどうか、製造した商品の品質、納期などを管理しているかどうかとともに、当該製造に係る損益を自らに帰属させているかどうかを総合的に検討すれば、上記Bのとおり、P社が自ら本件部品の製造行為を行っていたものと認められる。
(ロ) 主たる事業の判定
A 特定外国子会社等が複数の事業を営む場合に、そのいずれの事業が主たる事業であるかについては、上記イのとおり、対象となる事業年度におけるそれぞれの事業活動の客観的結果として得られた収入金額及び所得金額、使用人の数並びに固定施設の状況等の具体的かつ客観的な事業活動の内容を総合的に考慮して判断するのが相当である。
B これを本件についてみると、上記ロの(ト)のとおり、P社の売上高のうちに製造が占める割合は、P社平成17年12月期は79.6%、P社平成18年12月期は75.5%、P社平成19年12月期は83.9%、P社平成20年12月期は86.6%であり、P社の売上原価のうちに製造が占める割合は、P社平成17年12月期は76.9%、P社平成18年12月期は69.2%、P社平成19年12月期は78.1%、P社平成20年12月期は83.6%であり、P社各事業年度を通じて製造に係る売上高及び売上原価が高い割合を占めていたことが認められる。
 また、日本人の役員及び従業員を除くP社の本店事務所の使用人の数は、上記ロの(ロ)のとおり、現地採用の従業員が4名程度であるのに対して、S工場のL国人労働者の数は、上記ロの(ホ)のとおり、平成20年12月当時169名、本件第二賃貸借契約書を取り交わして工場1棟の提供を受ける前はその半数と仮定しても約80名となるのであり、以上からP社のほとんどの者がS工場に勤務し、製造に係る業務に携わっていたこと、上記ロの(ヘ)のBのとおり、固定資産減価償却明細表に計上された固定資産のほとんどがS工場に設置した製造に係る設備であることがそれぞれ認められる。
 このような状況を総合的に考慮すると、P社は、P社各事業年度において、製造業を主たる事業として行っていたと認めるのが相当である。
(ハ) まとめ
 以上からすれば、P社各事業年度においてP社が行う主たる事業は、第2号事業である製造業であったと認められる。
ニ 請求人の主張
(イ) 請求人は、上記2の(2)の「請求人」欄のイのとおり、P社はS工場から本件部品を仕入れ、それを他に販売する事業を行っているものであり、その点で、P社の主たる事業は第1号事業である卸売業に該当する旨主張する。
 しかしながら、上記イのとおり、卸売業か製造業かの区分は、一般的に、卸売業が自ら製品を製造することなく、他者が製造した製品を購入して販売する事業であるのに対して、製造業が自ら製品を製造した上で販売する事業であることからすれば、両者の区分は事業者が自ら製造行為を行っているといえるかどうかにより区分するのが相当であり、事業者が自ら製造行為を行っているといえるかどうかは、製造行為を行うために必要な物的設備及び人員を管理、支配しているかどうか、製造した商品の品質、納期などを管理しているかどうかとともに、当該製造に係る損益を自らに帰属させているかどうかを総合的に検討して、社会通念に照らして、実質的に判断するのが相当である。
 そして、本件において、P社が行う主たる事業が製造業と認められることは、上記ハのとおりである。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
(ロ) また、請求人は、上記2の(2)の「請求人」欄のロのとおり、P社は請求人から完成品を仕入れ、当該完成品を第三者に販売しており、その点からしても、P社の主たる事業は第1号事業である卸売業に該当する旨主張し、その証拠として、請求人がP社に宛てた「PACKING LIST」と題する文書(以下「本件納品書」という。)を提出する。
 しかし、本件納品書には「○○○○」、「○○○○」、「○○○○」などの品名が記載されているところ、本件生産指示書には原材料として「○○○○」、「○○○○」、「○○○○糊付き」などが記載されていることからすれば、本件納品書に記載された物品は本件部品を製造するためにP社が請求人から購入した原材料であると考えられること、また、P社が請求人から仕入れた当該物品を他に転売していたとしても、上記ロの(ト)のとおり、P社各事業年度におけるP社の売上高のうち、国外取引(Offshore trading)及び国内取引(Trading)に係るものが占める割合は20%前後にすぎないから、P社が行う主たる事業が製造業であるとの認定を覆すものではない。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。

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(3) 争点3(P社各事業年度においてP社が行う主たる事業が第2号事業である製造業に該当する場合、P社はその事業を主として本店所在地国等で行っていたといえるか否か。)

イ 法令解釈
 租税特別措置法第66条の6第1項は、租税の負担が著しく低い「国又は地域」に本店又は主たる事務所の所在する特定外国子会社等について外国子会社合算税制を適用する旨規定しているところ、同項において「国」だけではなく「地域」を含めて定義された趣旨は、例えば、租税の負担の著しく低いタックス・ヘイブンとして著名な英国領バミューダ、同ケイマン諸島、同ヴァージン諸島など、一般的には必ずしも租税の負担が著しく低いとはいえない国においても一定の地域については租税の負担がない又は税率が著しく低く設定されている場合も存在することから、そのような地域に所在する特定外国子会社等についても外国子会社合算税制の適用を及ぼすことを可能とするためであると解される。
 そして、このような租税特別措置法第66条の6第1項の趣旨に加えて、同条第4項の規定は、内国法人に係る外国関係会社が同条第1項所定の特定外国子会社等の要件を満たしている場合に、同項所定の課税対象留保金額の益金算入の法律効果が生ずることを前提とした上で、同条第4項に規定する適用除外要件が全て充足された場合には、同条第1項の外国子会社合算税制を適用しないという例外を規定したものであるという、同条第1項と同条第4項との条文の構造、対応関係に鑑みると、同条第4項第2号に規定する地域は、同条第1項に規定する地域と同義であると解するのが相当であるから、同条第4項第2号の地域も、特定の国の中で特に租税の負担がない又は税率が著しく低い一定の地域を意味するというべきである。
 したがって、特定外国子会社等の本店又は主たる事務所が租税の負担が著しく低い「地域」に所在する場合、当該特定外国子会社等が租税特別措置法第66条の6第4項第2号に規定するその事業を主として本店又は主たる事務所の所在する地域において行っている場合に該当するか否かは、特定外国子会社等の本店又は主たる事務所の所在する地域とその事業を主として行っている国又は地域の税制に同一性があるかどうかを基準として判断すべきである。
ロ 判断
(イ) c区は、M国からL国に返還されたが、c区基本法により、従前の政治・経済制度等は返還後50年間維持することとされ、高度の自治権を有する特別行政区として行政権、立法権、独立した司法権が存在する、いわゆる「一国二制度」の原則が適用されることとなった。
 そのため、課税面においても、L国への返還後も独自の課税体制が維持継続され、c区の税率は世界的にも低く設定されている。
 以上からすれば、c区とL国とは、税制が全く異なるのであり、上記(2)のハのとおり、P社は、P社各事業年度において、その主たる事業である製造業を主として本店が所在するc区とは税制の同一性があるとはいえないL国で行っていたのであるから、P社は、P社各事業年度において、その事業を主として本店所在地国等で行っていたとはいえない。
(ロ) 請求人は、上記2の(3)の「請求人」欄のとおり、c区がL国の一部ではないとする法令は存在しない、所在地国基準が規定された趣旨から租税特別措置法第66条の6第4項第2号の「国又は地域」の同一性はその地域と政治的経済的に密接に関連しているか否かによって判断すべきであるなどとして、c区とL国を別の「国又は地域」と解するべきではなく、P社は、その事業を主として本店所在地国等で行っていたといえる旨主張する。
 しかしながら、上記イのとおり、租税特別措置法第66条の6第4項第2号の「地域」とは、特定の国の中で特に租税の負担がない又は税率が著しく低い一定の地域を意味し、同号の規定を適用するに当たって同一の「国又は地域」に当たるかどうかの判断は、税制の同一性を基準として判断すべきである。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。

(4) 争点4(租税特別措置法第66条の6第4項の規定は、同条第6項に規定する書面が添付されている場合に限り適用することができるか否か。)

 上記(3)のロの(イ)のとおり、P社は、その主たる事業として製造業を本店所在地国等で行っていたとはいえず、租税特別措置法第66条の6第4項第2号に規定する所在地国基準を満たさないのであるから、同条第6項に規定する書面が添付されている場合に限り適用することができるか否かを判断するまでもなく、本件においては、同条第4項の規定の適用はない。

(5) 本件各更正処分

イ 課税対象留保金額
 P社は、P社各事業年度の終了の時において、上記1の(4)のイの(ロ)及び上記(3)のロの(イ)のとおり、特定外国子会社等に該当し、その事業を主として本店所在国地等で行っていたとはいえず、適用除外要件である所在地国基準を充足していないから、請求人の本件各事業年度において外国子会社合算税制を適用することは適法である。
 そうすると、P社の各課税対象留保金額は、請求人の本件各事業年度の所得の金額の計算上益金の額に算入すべきこととなるが、当審判所の調査によれば、平成18年5月期及び平成19年5月期(P社平成17年12月期及びP社平成18年12月期が対応する。)について、原処分庁が主張する各課税対象留保金額に計算誤り(人件費の10%相当額の控除漏れ)があると認められる。
 そこで、当審判所が請求人の本件各事業年度の所得の金額の計算上益金の額に算入すべき請求人に係るP社の各課税対象留保金額を計算すると、それらの額は、別表5−1から別表5−4までの「審判所認定額」欄の「課税対象留保金額の円換算額」欄のとおり、平成18年5月期が○○○○円、平成19年5月期が○○○○円、平成20年5月期が○○○○円、平成21年5月期が○○○○円となる。
ロ 所得の金額
(イ) 平成18年5月期
 平成18年5月期の所得の金額は、別表6−1の「審判所認定額」欄のとおり、「更正処分直前の所得金額まる1」欄の額○○○○円に「特定子会社等の課税対象留保金額の益金算入額まる2」欄の額○○○○円(上記イの平成18年5月期の課税対象留保金額)を加算した額○○○○円(「所得金額まる3」欄の額)となる。
(ロ) 平成19年5月期
 平成19年5月期の所得の金額は、別表6−2の「審判所認定額」欄のとおり、「更正処分直前の所得金額まる1」欄の額○○○○円に「特定子会社等の課税対象留保金額の益金算入額まる2」欄の額○○○○円(上記イの平成19年5月期の課税対象留保金額)を加算し、「事業税の認容額まる3」欄の額○○○○円(上記(イ)の平成18年5月期の所得の金額に標準税率を乗じて計算される事業税の額のうち当該所得金額の増加額に対応する事業税の増加額)を減算した額○○○○円(「所得金額まる5」欄の額)となる。
(ハ) 平成20年5月期
 平成20年5月期の所得の金額は、別表6−3の「審判所認定額」欄のとおり、「更正処分直前の所得金額まる1」欄の額○○○○円に「特定子会社等の課税対象留保金額の益金算入額まる2」欄の額○○○○円(上記イの平成20年5月期の課税対象留保金額)を加算し、「事業税の認容額まる3」欄の額○○○○円(上記(ロ)の平成19年5月期の所得の金額に標準税率を乗じて計算される事業税の額のうち当該所得金額の増加額に対応する事業税の増加額)を減算した額○○○○円(「所得金額まる5」欄の額)となる。
(ニ) 平成21年5月期
 平成21年5月期の所得の金額は、別表6−4の「審判所認定額」欄のとおり、「更正処分直前の所得金額まる1」欄の額○○○○円に「特定子会社等の課税対象留保金額の益金算入額まる2」欄の額○○○○円(上記イの平成21年5月期の課税対象留保金額)を加算し、「事業税の認容額まる3」欄の額○○○○円(原処分庁が認定した額と同額)及び「寄附金の損金不算入額の過大額まる4」欄の額○○○○円(原処分庁が認定した額と同額)をそれぞれ減算した○○○○円(「所得金額まる7」欄の額)となる。
(ホ) まとめ
 上記(イ)及び(ロ)のとおり、請求人の平成18年5月期及び平成19年5月期の各所得の金額は、それぞれ○○○○円及び○○○○円となり、これらの額は、いずれも平成18年5月期及び平成19年5月期の各更正処分のそれらの額を下回るから、当該各更正処分は、いずれもその一部を別紙1及び別紙2の「取消額等計算書」のとおり取り消すべきである。
 また、上記(ハ)及び(ニ)のとおり、請求人の平成20年5月期及び平成21年5月期の各所得の金額は、それぞれ○○○○円及び○○○○円となり、平成20年5月期の所得の金額は、更正処分のその額を上回り、平成21年5月期の所得の金額は、更正処分のその額と同額となるから、当該各更正処分はいずれも適法である。

(6) 本件各賦課決定処分

 上記(5)のロの(ホ)のとおり、平成18年5月期及び平成19年5月期の各更正処分は、いずれもその一部を取り消すべきであるから、過少申告加算税の基礎となる税額は、平成18年5月期が○○○○円、平成19年5月期が○○○○円となるが、これらの税額の計算の基礎となった事実が当該各更正処分前の税額の計算の基礎とされていなかったことについては、国税通則法第65条《過少申告加算税》第4項に規定する正当な理由があると認められる場合には該当しない。
 そして、国税通則法第65条第1項の規定に基づいて過少申告加算税の額を計算すると、平成18年5月期が○○○○円、平成19年5月期が○○○○円となり、これらの額は平成18年5月期及び平成19年5月期の過少申告加算税の各賦課決定処分の額をいずれも下回るから、当該各賦課決定処分は、いずれもその一部を別紙1及び別紙2の「取消額等計算書」のとおり取り消すべきである。
 また、上記(5)のロの(ホ)のとおり、平成20年5月期及び平成21年5月期の各更正処分はいずれも適法であり、当該各更正処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が当該各更正処分前の税額の計算の基礎とされていなかったことについては、国税通則法第65条第4項に規定する正当な理由があると認められる場合に該当しないから、同条第1項の規定に基づいてされた平成20年5月期及び平成21年5月期の過少申告加算税の各賦課決定処分は、いずれも適法である。

(7) その他

 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によってもこれを不相当とする理由は認められない。

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