(平成24年3月13日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が、遺産分割に係る和解成立を内容とする民事調停法の決定がなされたことを基因として、相続税の更正の請求をしたところ、原処分庁が、更正をすべき理由がない旨の通知処分及び増額の更正処分をしたことから、請求人が、更正処分等は財産の分割について誤った判断の基に行われたものであるとして、同処分等の全部の取消しを求めた事案である。

(2) 審査請求に至る経緯

イ 請求人は、平成17年1月○日に死亡したJ(以下、「本件被相続人」といい、本件被相続人の死亡により開始した相続を「本件相続」という。)の相続人であり、本件相続に係る相続税(以下「本件相続税」という。)について申告書に別表1の「申告」欄のとおり記載して法定申告期限までに申告した。
ロ 原処分庁は、これに対し、原処分庁所属の調査担当職員の調査(以下「本件調査」という。)に基づき、平成20年11月17日付で別表1の「第1次更正処分」欄のとおりの本件相続税の更正処分(以下「本件第1次更正処分」という。)をした。
ハ その後、請求人は、本件相続税について、平成22年5月21日に、別表1の「更正の請求」欄のとおりとすべき旨の更正の請求をした。
ニ 原処分庁は、これに対し、平成22年11月24日付で、更正をすべき理由がない旨の通知処分(以下「本件通知処分」という。)及び別表1の「第2次更正処分」欄のとおりの本件相続税の更正処分(以下「本件第2次更正処分」という。)をした。
ホ 請求人は、本件通知処分及び本件第2次更正処分に不服があるとして、平成22年12月24日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、平成23年2月24日付でいずれも棄却の異議決定をした。
ヘ 請求人は、異議決定を経た後の本件通知処分及び本件第2次更正処分に不服があるとして、平成23年3月16日に審査請求をした。

(3) 関係法令の要旨

イ 国税通則法(平成23年法律第114号による改正前のものをいい、以下「通則法」という。)第23条《更正の請求》第1項第1号は、納税申告書を提出した者は、当該申告書に記載した課税標準等若しくは税額等の計算が国税に関する法律の規定に従っていなかったこと又は当該計算に誤りがあったことにより、当該申告書の提出により納付すべき税額が過大であるときは、当該申告書に係る国税の法定申告期限から1年以内に限り、税務署長に対し、その申告に係る課税標準等又は税額等につき更正をすべき旨の請求をすることができる旨規定している。
ロ 通則法第70条《国税の更正、決定等の期間制限》第1項第1号は、更正は、その更正に係る国税の法定申告期限から3年を経過した日以後においては、することができない旨規定している。
ハ 相続税法(平成18年法律第10号による改正前のものをいう。以下同じ。)第32条《更正の請求の特則》柱書は、相続税について申告書を提出した者は、同条各号のいずれかに該当する事由により当該申告に係る課税価格及び相続税額が過大となったときは、当該各号に規定する事由が生じたことを知った日の翌日から4月以内に限り、納税地の所轄税務署長に対して、その課税価格及び相続税額につき通則法第23条第1項の規定による更正の請求をすることができる旨規定している。
 そして、その事由として、相続税法第32条第1号は、同法第55条《未分割遺産に対する課税》の規定により分割されていない財産について民法(第904条の2《寄与分》を除く。以下同じ。)の規定による相続分の割合に従って課税価格が計算されていた場合において、その後当該財産の分割が行われ、共同相続人が当該分割により取得した財産に係る課税価格が当該相続分の割合に従って計算された課税価格と異なることとなったことを規定している。
ニ 相続税法第35条《更正及び決定の特則》第3項本文は、税務署長は、同法第32条第1号から第5号までの規定による更正の請求に基づき更正をした場合において、当該請求をした者の被相続人から相続又は遺贈により財産を取得した他の者につき同法第35条第3項各号に該当する事由があるときは、当該事由に基づき、その者に係る課税価格又は相続税額の更正又は決定をする旨規定し、同項第1号は、当該事由として、当該他の者が、同法第27条《相続税の申告書》若しくは同法第29条《相続財産法人に係る財産を与えられた者に係る相続税の申告書》の規定による申告書を提出し、又は相続税について決定を受けた者である場合において、当該申告又は決定に係る課税価格又は相続税額が当該請求に基づく更正の基因となった事実を基礎として計算した場合におけるその者に係る課税価格又は相続税額と異なることとなることを規定している。
 そして、相続税法第35条第3項ただし書は、同法第32条第1号から第5号までの規定による更正の請求があった日から1年を経過した日と通則法第70条の規定により更正又は決定をすることができないこととなる日とのいずれか遅い日以後においては、更正又は決定をすることができない旨規定している。
ホ 相続税法第55条本文は、相続により取得した財産に係る相続税について申告書を提出する場合又は当該財産に係る相続税について更正若しくは決定をする場合において、当該相続により取得した財産の全部又は一部が共同相続人によってまだ分割されていないときは、その分割されていない財産については、各共同相続人が民法の規定による相続分の割合に従って当該財産を取得したものとしてその課税価格を計算するものとする旨規定している。
 そして、相続税法第55条ただし書は、その後において当該財産の分割があり、当該共同相続人が当該分割により取得した財産に係る課税価格が当該相続分の割合に従って計算された課税価格と異なることとなった場合においては、当該分割により取得した財産に係る課税価格を基礎として、納税義務者において申告書を提出し、若しくは同法第32条の更正の請求をし、又は税務署長において更正若しくは決定をすることを妨げない旨規定している。

(4) 基礎事実

 次の事実については、請求人と原処分庁との間に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。
イ 本件被相続人の法定相続人は、養子である請求人、長男Kの代襲相続人であるL、M及びN並びに長女であるP、二女であるQ、三女であるR、三男であるS及び四男であるTの合計9名である(以下、これら9名を併せて「本件相続人ら」という。)。
ロ 遺言者を本件被相続人とするU法務局所属公証人V作成の平成16年8月○日付遺言公正証書(平成○年第○号。以下「本件遺言」という。)の内容は、要旨次のとおりである。
(イ) 本件被相続人は、新たに設立される財団法人W会に対して、別表2に記載の各財産及びX銀行に対する預金債権のうち50,000,000円を寄附する。
(ロ) P、Q、R及びSに、それぞれ現金2,000,000円を相続させる。
(ハ) 上記(イ)及び(ロ)の財産を除く、本件被相続人の財産全部をTに相続させる。
ハ 請求人、L、M、N及びQは、T、P、R及びSを被告として、本件遺言が無効であることの確認を求める訴訟を平成17年7月○日にY地方裁判所u支部(以下「裁判所」という。)に提起した(以下、当該提起に係る事件を「本件訴訟」という。)。
ニ 本件相続の開始後、財団法人W会は財団設立のための条件を満たさなかったことから設立されず、平成19年3月○日、特定非営利活動法人W会(以下「W会」という。)が設立された。
ホ 本件訴訟については、裁判所により、平成○年○月○日に、次の(イ)ないし(ヘ)を主な内容とする民事調停法第17条《調停に代わる決定》の決定(以下「本件民事調停決定」という。)がなされた(以下、本件民事調停決定における和解条項を総称して、「本件和解条項」という。)。当該決定の告知を受けた日から2週間以内に本件相続人らから裁判所に異議の申立てがなかったので、上記決定が確定し、裁判上の和解と同一の効力をもつこととなった。
 なお、本件民事調停決定において、本件遺言が無効であることの確認はなされていない。
(イ) 本件被相続人の財産は、請求人、L、M、N、Q及びSのグループ(以下「請求人グループ」という。)、T、P及びRのグループ(以下「Tグループ」という。)並びにW会がそれぞれ取得する。
(ロ) W会は、別表3−1に記載の各財産を取得する。請求人グループ、Tグループ及びW会は、当該各財産をW会が取得することについては、本件遺言における本件被相続人の遺志を考慮してのことであり、遺産からの寄附行為として行われるものであることを確認する。
(ハ) W会は、別表3−2に記載の各財産を取得する。W会が当該各財産を取得することについては、上記(ロ)同様、本件遺言を尊重してのことである(以下、本件被相続人の財産のうち、W会が取得することとなった各財産を総称して「W会財産」といい、W会財産を除く財産を「その他財産」という。)。
(ニ) 請求人グループは、別表4−1、別表4−2及び別表4−3に記載の各財産を取得する。
(ホ) T、P及びRは、請求人、L、M、N、Q及びSに対し、別表4−4に記載の物件の各名義変更(書換)手続に協力する。
(ヘ) 請求人グループ、Tグループ及びW会は、本件和解条項に定めた遺産分割を前提として、請求人グループ及びTグループの各内部における遺産分割については、別途協議することを確認する。
ヘ 請求人グループは、本件民事調停決定を受けて、本件被相続人の財産のうち請求人グループが取得することとなった財産(別表4−1、別表4−2及び別表4−3に記載の各財産)などについて、請求人グループ内で協議を行い、要旨次の合意が成立した(以下、当該合意を「本件分割協議」という。)。
(イ) 別表4−1に記載の財産はLの所有とする。
(ロ) 別表4−2に記載の財産は請求人の所有とする。
(ハ) 別表4−4に記載の物件はL名義に変更する。
(ニ) LはQに対し、不動産の代償金として金2,000万円を支払う。
(ホ) 別表4−3に記載の財産、合計金額16,080,385円については、次のとおり各人が取得することとする。
 A 請求人は、4,000,000円
 B Lは、1,080,385円
 C Mは、1,500,000円
 D Nは、1,500,000円
 E Qは、4,000,000円
 F Sは、4,000,000円

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2 本件通知処分の取消しの求めについて

 請求人は、当初、本件相続税について、W会財産を本件被相続人の財産に含めないで別表1の「更正の請求」欄のとおりとすべき旨の更正の請求をし、これに基づき本件通知処分の取消しを求めて審査請求をしたところ、後記3の(2)の「請求人」欄のイのとおり主張を転換した上で、本件通知処分の取消しを求めている。
 そうすると、審査請求において、その請求の利益があるか否かは納付すべき税額を基準として判断すべきところ、仮に請求人の上記主張に理由があるものとして、請求人の本件相続税の課税価格及び納付すべき税額を計算すると別表1の「請求人の主張」の「課税価格」欄及び「納付すべき税額」欄のとおり、それぞれ○○○○円及び○○○○円となり、これらは、いずれも本件第1次更正処分の課税価格○○○○円及び納付すべき税額○○○○円(別表1の「第1次更正処分」の「課税価格」欄及び「納付すべき税額」欄)をそれぞれ上回ることとなるから、請求人の上記主張は、むしろ本件通知処分を正当とする主張と解さざるを得ず、本件通知処分についてなされた審査請求は請求の利益を欠く不適法なものである。

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3 本件第2次更正処分の取消しの求めについて

(1) 争点

 本件第2次更正処分は、他の共同相続人の相続税法第32条第1号に基づく更正の請求を前提とした適法なものか否か。

(2) 主張

原処分庁 請求人
 本件第2次更正処分は、次のとおり、相続税法第35条第3項に基づく適法なものである。  本件第2次更正処分は、次のとおり、誤った判断の基に行われたものであり、その全部が取り消されるべきである。
イ 本件民事調停決定及び本件分割協議に基づき、その他財産について、分割が確定したことから、Lは修正申告書を提出したものであり、M、N及びS(以下、併せて「Mら」という。)については、更正の請求をすることができると判断したものである。
 また、W会財産については、本件相続税の課税財産となるものの、各相続人の相続する割合は未定であり、本件民事調停決定後も未分割である。
 そのため、各相続人の課税価格の計算においては、W会財産を具体的公平な分配により、すなわち、実際に各相続人が取得したその他財産の価格の割合に照合する形で分配することが、最も合理的である。
 そうすると、各相続人の課税価格は、取得したその他財産の価格とW会財産を分配した価格の合計価格となり、これにより、更正の請求書を提出したMらは、課税価格、相続税額が過大となることから、相続税法第32条第1号の事由に該当し、課税価格、相続税額が過少となる請求人については、同法第35条第3項の規定に基づき本件第2次更正処分を行ったものである。
イ 本件民事調停決定及び本件分割協議のとおり、本件被相続人の財産をそれぞれ取得することとなったところ、このうち、W会財産については、本件相続開始後は、遺産の全てをTが支配し、実質取得していたものであり、本件民事調停決定後も、請求人グループが取得した財産以外については、Tが支配していることに変わりがないから、本件民事調停決定の時点で分割が行われ、全てTが取得したので、Tに課税すべきである。
 なお、W会財産は本件相続税の課税価格の合計額に含まれる。
ロ 本件被相続人の財産として、本件相続税の課税価格に算入しているZ社に対する建物譲渡代金の未収金(以下「本件未収金」という。)及びe社に対する貸付金(以下「本件貸付金」という。)については、まる1本件和解条項の別紙財産目録に表示されていないだけで、本件被相続人の財産にならない旨の記載はないこと、まる2請求人は、本件未収金について、支払の事実等が確認できる資料はない旨申述し、支払の事実等が確認できる証拠書類を提出しなかったこと、まる3請求人は、本件貸付金について、e社の借入金勘定に計上されている旨申述したことからすると、本件被相続人の財産として相続税の課税対象であることが認められる。
 したがって、これらを本件相続税の課税価格の合計額から除く必要はない。
ロ 本件被相続人の財産として、本件相続税の課税価格に算入している本件未収金及び本件貸付金(以下、併せて「本件未収金等」という。)については、本件相続開始の時において存在しないから、本件和解条項の別紙財産目録から削除されたものである。
 したがって、これらは、本件相続税の課税価格の合計額から除くべきである。

(3) 判断

イ 法令解釈
(イ) 相続税法第32条柱書は、同条各号のいずれかに該当する事由により納付すべき税額が過大となったときは、その分割が行われたことを知った日の翌日から4月以内に限り、通則法第23条第1項の規定による更正の請求ができると規定し、相続税法第32条第1号は、同法第55条の規定により未分割財産について、民法の規定による相続分の割合に従って課税価格が計算されていた場合において、その後当該未分割財産の分割が行われ、共同相続人が当該分割により取得した財産に係る課税価格が、当該相続分の割合に従って計算された課税価格と異なることとなったことを事由として掲げている。つまり、相続税法第32条第1号に基づく更正の請求は、まる1まず、同法第55条の規定に基づいて、未分割財産について、民法の規定による相続分の割合に従って課税価格が計算されていること、まる2次に、当該未分割財産が分割されたこと、まる3そして、当該分割の結果に従って相続税の課税価格を計算すると上記まる1の課税価格と異なることとなったこと、という要件を充足する必要があることから、仮に上記まる1の要件を満たしている場合であっても、上記まる2及びまる3の要件を満たさない場合には、同号の更正の請求の要件を満たさないこととなる。
(ロ) 相続税法第35条第3項は、相続財産の全部又は一部が未分割であるとして、同法第55条の規定に基づく相続税の申告がされた後に、遺産分割協議が成立したことなどの理由により、当該申告に係る課税価格及び相続税額が過大となった者が、同法第32条の規定に基づく更正の請求をした場合には、税務署長は、当該更正の請求に基づいて(減額)更正をする一方で、当該更正の請求をした者の被相続人から相続により財産を取得した他の者に対しては、通則法第70条所定の更正又は決定に係る期間制限が経過した後であっても、更正又は決定することができるとするものである。このような相続税法第35条第3項と同法第32条との関係からすれば、同法第35条第3項の規定に基づいて行う更正処分は、同法第32条の規定による適法な更正の請求に基づいて(減額)更正処分が行われたことを前提とするものであると解するのが相当である。
ロ 認定事実
 原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
(イ) 請求人及びMら(以下、併せて「請求人ら」という。)の本件相続税の課税価格及び税額の計算の推移
A 原処分庁は、本件調査に基づき、平成20年11月17日付で、本件相続税について、その他財産については、本件遺言によって帰属が確定しているから、相続税法第55条の規定の適用はないとして、また、W会財産については、本件遺言の効力が生じないから、同条の規定の適用があるとして、請求人に対しては本件第1次更正処分をし、M及びNに対してはそれぞれ減額の更正処分をした。
 本件第1次更正処分並びにM及びNに対する当該各更正処分では、いずれも別表5の「請求人」、「M」及び「N」の各欄のとおり、W会財産については、民法第900条《法定相続分》第1号に規定する法定相続分(以下「法定相続分」という。)により、その他財産については、本件遺言に基づいて本件相続税の課税価格が計算されている。
B Sは、本件調査を受け、本件相続税について、平成21年2月2日に、修正申告書を原処分庁に提出した。
 Sのこの修正申告(以下、この修正申告と上記AのM及びNに対する各更正処分を併せて「本件修正申告等」という。)では、別表5の「S」欄のとおり、W会財産については、法定相続分で、その他財産については、現金2,000,000円を取得したとして、本件相続税の課税価格が計算されている。
C 請求人らは、本件民事調停決定及び本件分割協議を基因として、平成22年5月21日に、原処分庁に対してそれぞれ更正の請求をした。
 請求人らの各更正の請求は、本件第1次更正処分及び本件修正申告等において未分割としたW会財産及び本件未収金等を、本件被相続人の財産に含めないで本件相続税の課税価格が計算されている。
D 原処分庁は、上記Cの請求人らの各更正の請求のうち、Mらの各更正の請求については、相続税法第32条第1号に規定する事由に該当するとして、平成22年11月24日付で、それぞれ減額の各更正処分をするとともに、請求人の更正の請求については、同日付で、本件通知処分を行うとともに、同法第35条第3項に基づき本件第2次更正処分を行った。
 当該減額の各更正処分及び本件第2次更正処分では、まる1本件民事調停決定に基づき、請求人らが取得することとなったその他財産については、本件分割協議により請求人らが取得することとなった財産の価額で、まる2W会財産については、上記まる1により請求人らが取得したその他財産の価格の割合で分配した価額で、請求人らの本件相続税の課税価格が計算されている。
(ロ) 本件民事調停決定に至る経緯
A 本件訴訟の裁判において、平成19年頃から、裁判所は、和解協議を行うために請求人グループ及びTグループの代理人に対し、本件被相続人の遺産目録を作成し、当該遺産目録を基に、請求人グループ、Tグループ及びW会の間で、和解協議を進めるよう指揮し、和解協議は本件民事調停決定まで続いた。
B 和解協議では、W会財産については、本件遺言における本件被相続人の遺志を考慮し、本件遺言を尊重して、W会が原則として取得することとされ、その他財産については、請求人グループとTグループとの間で、協議を進めた。
C 本件民事調停決定に至る和解協議の過程で、W会財産について、まる1本件相続人らのうち、自分に帰属すると主張した者はおらず、まる2本件相続人らから、誰に帰属するものかを明らかにする証拠書類の提出もなく、まる3本件相続人らの間で、どのように分割するかといった協議をすることもなかった。
ハ 争点について
(イ) 相続税法第35条第3項の規定に基づく更正処分が適法になされるためには、前提として、上記イのとおり、他の相続人につき、同法第32条の規定による適法な更正の請求に基づく(減額)更正処分が行われなければならない。この点、原処分庁は、上記(2)の「原処分庁」欄のイのとおり、上記ロの(イ)のCのMらの各更正の請求が、相続税法第32条第1号の事由に該当する旨主張していることからすると、Mらの各更正の請求が適法なものであることを前提とするものと解される。
 そこで、相続税法第32条第1号に基づく更正の請求は、上記イの(イ)のまる1ないしまる3の要件を充足する必要があるところ、Mらの各更正の請求が、同号の事由に該当する適法なものであるか否かについて検討すると、次のとおりである。
A その他財産について
 本件修正申告等におけるMらの本件相続税の課税価格のうち、その他財産部分については、上記ロの(イ)のA及びBのとおり、本件遺言に基づいて計算されており、そもそも、相続税法第55条が適用されていないので、上記イの(イ)のまる1の要件を満たさないこととなる。
B W会財産について
(A) W会がW会財産を取得したことについて
a まず、上記1の(4)のニのとおり、財団法人W会は財団設立のための条件を満たさず設立されなかったことからすると、本件遺言のうち上記1の(4)のロの(イ)については、その効力が生じないものと解するのが相当であり、そうすると、W会財産については、民法第995条《遺贈の無効又は失効の場合の財産の帰属》の規定により、本件相続人らに共有で帰属することとなったと解される。
b 次に、本件民事調停決定において、上記1の(4)のホの(ロ)及び(ハ)のとおり、本件相続人らが、W会財産はW会が遺産からの寄附によって取得したものであることを確認しているところ、これについては、上記aのとおり、W会財産は、本件相続人らに共有で帰属していたことを踏まえれば、本件相続人ら全員の総意により、本件相続人らが、同人らに共有で帰属しているW会財産をW会へ寄附したと解するのが相当であり、本件民事調停決定における上記1の(4)のホの(ヘ)の条項によれば、W会財産は、当該寄附によりW会が取得したことを前提として、請求人グループが取得した財産及びTグループが取得した財産についてのみ、本件民事調停決定後にそれぞれのグループ内での遺産分割を行うことが確認されていることからすると、W会財産については、当該寄附をもって、つまり本件民事調停決定をもって分割されたとみるのが相当である。この場合において、W会財産が、どのような割合で分割されたかについては、上記ロの(ロ)のA及びBの本件民事調停決定に至る和解協議において、同Cのとおり、本件相続人らの間で、W会財産がW会に帰属することについて争いがなかったことからすると、W会財産が法定相続分の割合と異なる割合でW会へ寄附されたと解する事情はないから、W会財産は、本件相続人らの法定相続分の割合でW会に寄附され、その割合で分割されたとみるのが相当である。
(B) 上記イの(イ)のまる1ないしまる3の要件について
 W会財産について、上記イの(イ)のまる1ないしまる3の要件を満たしているか否かを検討すると、次のとおりである。
 まず、本件修正申告等におけるMらの本件相続税の課税価格のうちW会財産部分については、上記ロの(イ)のA及びBのとおり、法定相続分で計算されているところ、これは上記イの(イ)のまる1の要件を満たしていることになる。
 また、上記(A)のbのとおり、W会財産については、本件民事調停決定をもって分割が確定したとみるのが相当であるから、上記イの(イ)のまる2の要件を満たすこととなる。
 しかしながら、上記(A)のbのとおり、W会財産は、本件相続人らにおいて、法定相続分の割合で分割されたとみるのが相当であり、これに基づき、MらのW会財産部分に係る本件相続税の課税価格を計算すると、別表6のMらの各人欄の「W会財産部分に係る課税価格」欄のとおりとなる。他方、本件修正申告等におけるMらのW会財産部分に係る本件相続税の課税価格は、別表5のMらの各人欄の「W会財産部分に係る課税価格」欄のとおりである。これらによれば、MらのW会財産に係る課税価格は、本件民事調停決定の前後において変動がないこととなるから、W会財産については、上記イの(イ)のまる3の要件を満たさないこととなる。
C 上記A及びBのことからすると、Mらの各更正の請求は、いずれも相続税法第32条第1号の要件を満たすものとは認められない。
D 原処分庁は、上記(2)の「原処分庁」欄のイのとおり、W会財産については、本件民事調停決定後も未分割であるため、本件相続人らの課税価格の計算においては、本件相続人らが取得したその他財産の価格の割合に照合する形でW会財産を分配することが、最も合理的である旨主張する。
 確かに、上記ロの(イ)のDの分配の方法で本件相続人らにW会財産を分配した場合、分配後の本件相続人らの各課税価格に各人のW会財産の価額が占める割合、つまり負担比率は、本件相続人らの全員について等しくなる。
 しかしながら、上記Bの(A)のbのとおり、W会財産は、本件民事調停決定をもって分割されたとみるのが相当であり、本件相続人らの法定相続分でW会に寄附され、その割合で分割されたとみるのが相当であるから、原処分庁の主張には理由がない。
E 請求人は、上記(2)の「請求人」欄のイのとおり、本件相続開始後は、遺産の全てをTが支配し、実質取得していたものであり、本件民事調停決定後も、請求人グループが取得した財産以外については、Tが支配していることに変わりがないから、W会財産は、Tに課税すべきである旨主張する。
 しかしながら、上記Bの(A)のbのとおり、本件民事調停決定において本件相続人らがW会財産はW会が遺産からの寄附によって取得したものであることを確認しており、さらに、本件民事調停決定に至る過程において、本件相続人らの間で、W会財産がW会に帰属することについて争いがなく、当審判所の調査によってもTが取得したことを明らかにする証拠は認められないから、請求人の主張には理由がない。
(ロ) 上記(イ)のCのとおり、Mらの各更正の請求が、いずれも相続税法第32条第1号の要件を満たすものとは認められないから、適法なものとは認められない。
ニ 本件第2次更正処分について
 以上のとおり、Mらの各更正の請求は、相続税法第32条第1号による更正の請求の要件を満たすものとは認められず、また、同条第2号ないし第5号の各規定による更正の請求の要件を満たさないことも明らかであるから、本件第2次更正処分は、相続税法第35条第3項の要件を満たさない。
 また、本件においては、通則法第70条の更正の期限を徒過していると認められるから、本件第2次更正処分が、同法第24条の更正として適法となる余地もない。
 したがって、その他の請求人の主張を判断するまでもなく、本件第2次更正処分は、違法なものであるから、その全部を取り消すべきである。

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