(平成24年2月22日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、消費税簡易課税制度選択届出書を提出した審査請求人(以下「請求人」という。)の被合併法人が、課税標準額に対する消費税額から控除することができる課税仕入れに係る消費税額をいわゆる本則課税方式により計算したことについて、原処分庁が、当該課税期間は、基準期間等における課税売上高が50,000,000円を超える分割等に係る課税期間には該当しないから、当該課税仕入れに係る消費税額は、いわゆる簡易課税方式を適用して計算することになるとして更正処分等をしたのに対し、請求人が、同処分等の全部の取消しを求めた事案である。

(2) 審査請求に至る経緯

イ D社は、平成21年4月1日から平成22年3月31日までの課税期間(以下「本件課税期間」という。)の消費税及び地方消費税(以下「消費税等」という。)について、確定申告書に次表の「確定申告」欄のとおり記載して、法定申告期限までに申告した。

区分
項目
確定申告 更正処分等
課税標準額 ○○○○円 ○○○○円
仕入税額控除の額 ○○○○円 ○○○○円
納付すべき消費税額 ○○○○円 ○○○○円
納付すべき地方消費税額 ○○○○円 ○○○○円
過少申告加算税の額 - ○○○○円

ロ E税務署長は、原処分庁所属の調査担当職員の調査に基づき、本件課税期間の消費税等について、平成23年3月25日付で上記イの表の「更正処分等」欄のとおりとする更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分をした。
ハ D社は、これらの処分を不服として、平成23年3月31日に、異議申立てをしたところ、異議審理庁は、平成23年5月30日付で棄却の異議決定をした。
 なお、D社は、平成23年4月1日に、請求人に吸収合併され消滅したので、請求人が異議申立人であるD社の地位を承継した。
ニ 請求人は、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成23年6月22日に審査請求をした。

(3) 関係法令の要旨

 別紙のとおり。

(4) 基礎事実

 以下の事実は、請求人及び原処分庁の双方に争いはなく、当審判所の調査の結果によっても、その事実が認められる。
イ 請求人は、昭和37年12月○日に設立され、平成18年10月○日に請求人とF社が共同して設立したGホールディングスによってその発行済株式の100%を保有されている法人である。
ロ D社は、平成19年12月○日に、Gホールディングスの100%出資によりDコンサルティングの商号で設立され、平成20年12月1日に、D社に商号を変更した。
ハ D社は、平成19年12月19日付で、合併前の請求人(以下「合併前請求人」という。)との間で譲渡日を平成20年1月4日とする事業譲渡契約を締結し、この契約に基づき、合併前請求人から、同日現在存在する合併前請求人の事業の一部であるコンサルティング部門の什器備品等の譲渡対象財産を譲り受けた(以下、上記ロのGホールディングスの100%出資によるD社の設立及び当該事業譲渡契約による合併前請求人の事業譲渡の行為を「D社設立形態」という。)。
ニ D社は、平成20年3月31日に、平成19年12月○日から平成20年3月31日までの課税期間を適用開始課税期間とする消費税法第37条第1項に規定する届出書(以下「簡易課税制度選択適用届出書」という。)を提出した。
ホ D社は、平成20年5月30日に、平成19年12月○日から平成20年3月31日までの課税期間(以下「D社基準期間」という。)の消費税について、課税標準額に対する消費税額から控除することができる課税仕入れに係る消費税額(以下「控除対象仕入税額」という。)を消費税法第37条第1項に規定する計算方式(以下「簡易課税方式」という。)により算定して申告した。なお、D社基準期間の課税売上高は○○○○円であった。
ヘ Gホールディングスの平成19年4月1日から平成20年3月31日までの課税期間の課税売上高は○○○○円であった。

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2 争点及び主張

(1) 争点

 D社設立形態は消費税法第12条第7項第3号に規定する分割等に該当せず、本件課税期間の控除対象仕入税額を簡易課税方式により算定すべきか否か。

(2) 主張

原処分庁 請求人
 D社設立形態は、次の理由により、消費税法第12条第7項第3号に規定する分割等に該当しないから、本件課税期間の基準期間における課税売上高は、D社基準期間における課税売上高によるべきであり、そうすると、同法第9条第2項第2号の規定に基づきD社基準期間における課税売上高を算出すると50,000,000円以下となるから、本件課税期間の控除対象仕入税額の計算に当たっては、簡易課税方式が適用されることになる。  D社設立形態は、次の理由により、消費税法第12条第7項第3号に規定する分割等に該当するから、本件課税期間の基準期間等における課税売上高は、消費税法施行令第55条第1項第3号の規定に基づき、D社基準期間における課税売上高と親会社であるGホールディングスのD社基準期間に対応する期間における課税売上高として計算した金額の合計額によるべきあり、そうすると、当該合計額は50,000,000円を超えることになり、かつ、同号に規定する特定要件も満たすから、本件課税期間は、同法第37条第1項に規定する分割等に係る課税期間に該当し、同法第30条《仕入れに係る消費税額の控除》第1項に規定するいわゆる本則課税方式が適用されることになる。
イ 消費税法第12条第7項第3号に規定する分割等における新たな法人を設立するために金銭を出資した法人と、当該新たな法人と会社法第467条第1項第5号に掲げる行為に係る契約を締結した法人は、文理上、一の法人であり、グループ企業をいうものと解することはできない。
 そうすると、本件は、D社の設立について金銭の出資をしたのはGホールディングスであり、D社に資産を譲渡したのは合併前請求人であるところ、Gホールディングスと合併前請求人は、一の法人に当たるとは解されないから、D社設立形態は、消費税法第12条第7項第3号に規定する分割等には該当しない。
イ 消費税法第12条第7項第3号で主語となっている「法人」は、親会社とその完全子会社から成るグループ企業を意味すると考えるのが相当である。
 そうすると、本件は、D社の設立について金銭の出資をしたのはGホールディングスであり、D社に資産を譲渡したのはGホールディングスの100%子会社である合併前請求人であるから、D社設立形態は、消費税法第12条第7項第3号に規定する分割等に該当する。
ロ 請求人が主張する最高裁昭和45年8月20日判決及び大阪地裁昭和58年5月11日判決は、消費税法第37条の適用の場面における同条の分割等(同法第12条第7項に規定する分割等)について判断したものではないから、これらの判決をもって、D社設立形態が同項第3号に規定する分割等に該当するという結論を導くことはできない。 ロ 最高裁昭和45年8月20日判決及び大阪地裁昭和58年5月11日判決は、会社法制定前の判決ではあるが、完全親会社とその100%子会社を実質的に一体の存在とみなし、100%子会社の行為を完全親会社の行為と同視する判決であるところ、消費税法第12条第7項第3号に規定する分割等に該当するか否かの判断においては、事業譲渡者である合併前請求人は、その完全親会社であるGホールディングスの指示によってD社の事後設立に該当する行為を行ったものであり、合併前請求人の行為は、その完全親会社たる出資者自身(Gホールディングス)により行われたものと同視できるといった実質的な点に着目して、解釈するべきである。
ハ 消費税法第12条第7項第3号に規定する分割等は一の法人のみにより行われる分割等を適用対象として規定され、同号における「法人」がグループ企業をいうものと解することができないのは文理上明らかであり、法人税法の税制改正の動向を踏まえて消費税法を解釈、適用すべき理由はない。 ハ 法人税法の税制改正の動きは、完全支配関係にあるグループ企業全体をひとくくりとして捉えて課税関係を律するという考え方によるものであり、こうした考え方は、消費税法における取扱いにも及んでいるものと解されるから、D社設立形態は、実質的にGホールディングス自身が行ったものと同視できる。

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3 判断

(1) 法令解釈

 消費税法第37条第1項は、簡易課税制度選択適用届出書を提出した納税者について、簡易課税方式が適用される課税期間から、基準期間における課税売上高が50,000,000円を超える課税期間及び消費税法施行令第55条に定める「分割等に係る課税期間」を除いている。
 そして、この場合の「分割等」については消費税法第12条第7項各号が規定しているところ、同項第3号に規定する分割等とは、まる1法人が新たな法人を設立するため金銭の出資をしていること、まる2その法人が当該新たな法人と会社法第467条第1項第5号に掲げる行為に係る契約を締結した場合におけるその契約に基づく金銭以外の資産の譲渡のうち、当該新たな法人の設立の時において発行済株式の総数の全部をその法人が有している場合であること、その金銭以外の資産の譲渡が、新たな法人の設立の時において予定されており、かつ、当該設立の時から6月以内に行われたものであること(消費税法施行令第23条第9項)の要件を満たすものをいうとされている。
 したがって、消費税法第12条第7項第3号に規定する分割等は、会社法に規定する事後設立を前提としつつ、金銭を出資する法人と資産を譲渡する法人が同一であること、金銭を出資する法人の設立時の持分割合が100%であることから、一の法人により行われる事後設立であると解するのが相当である。

(2) 当てはめ

 上記1の(4)のロ及びハのとおり、D社の設立に当たり金銭の出資をしたのはGホールディングスであり、また、D社に資産を譲渡したのは合併前請求人であるところ、Gホールディングスと合併前請求人は同一の法人ではないことは明らかであるから、上記(1)のとおり、D社設立形態は、消費税法第12条第7項第3号に規定する分割等には該当せず、本件課税期間は、同法第37条第1項に規定する簡易課税方式が適用される課税期間から除かれる「分割等に係る課税期間」に該当しないというべきである。
 そうすると、本件課税期間の基準期間における課税売上高は、D社基準期間における課税売上高によることとなるから、消費税法第9条第2項第2号の規定に基づき、D社基準期間における課税売上高を算出すると、当該課税売上高は○○○○円(○○○○円÷4月×12月)となり、50,000,000円以下となる。
 したがって、本件課税期間は、簡易課税方式を適用して控除対象仕入税額の算定をすることとなる。

(3) 請求人の主張について

イ 請求人は、最高裁昭和45年8月20日判決及び大阪地裁昭和58年5月11日判決を引用し、本件における分割等は、合併前請求人の行為が出資者であるGホールディングスにより行われたものと同視できるといった実質に着目して解釈すべき旨主張する。
 しかしながら、請求人が主張する判決は、親会社と100%子会社との間の取引は実質的に利益相反関係が生じないため自己取引規制及び競業規制の対象にならないことを判断したものであり、旧商法の規定に関する判決であって、消費税法の規定に関する判断でないことは明らかである。
 したがって、これらの判決をもって、D社設立形態をGホールディングスが単独で行ったとして消費税法第12条第7項第3号の規定に該当すると解することはできないから、請求人の主張には理由がない。
ロ また、請求人は、完全支配関係にあるグループ企業全体をひとくくりとして課税関係を律するという法人税法の改正の考え方は、消費税法の取扱いにも及んでいると解されるから、D社設立形態は、実質的にGホールディングス自身が行ったものと同視できる旨主張する。
 しかしながら、消費税法と法人税法は別の法律であり、消費税法第12条第7項第3号に法人税法のいわゆるグループ法人税制の考え方を当てはめて適用する旨の規定はないのであるから、請求人の主張は採用できない。

(4) 消費税等の更正処分について

 上記のとおり、請求人の主張はいずれも採用できず、本件課税期間は、簡易課税方式を適用して控除対象仕入税額を算定することとなるから、消費税等の更正処分はいずれも適法である。

(5) 過少申告加算税の賦課決定処分について

 上記(4)のとおり、消費税等の更正処分は適法であり、同処分により納付すべき税額の基礎となった事実が国税通則法第65条《過少申告加算税》第4項に規定する「正当な理由があると認められるものがある場合」に該当しないので、同条第1項及び第2項並びに地方税法附則第9条の9《譲渡割に係る延滞税等の計算の特例》第1項の規定に基づき行った過少申告加算税の賦課決定処分はいずれも適法である。

(6) 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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