(平成24年4月24日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、給与所得者である審査請求人(以下「請求人」という。)が、同じく給与所得者である請求人の元妻と重複してその長女につき扶養控除を適用して年末調整を受けていたとして、この重複を解消する旨の確定申告書を提出したところ、原処分庁が、無申告加算税の賦課決定処分をしたことから、請求人が、正当な理由があるとして、その全部の取消しを求めた事案である。

(2) 審査請求に至る経緯

 請求人は、平成23年5月13日付でされた平成21年分の所得税に係る無申告加算税の賦課決定処分(以下「本件賦課決定処分」という。)について、平成23年10月6日に審査請求をした。
 この審査請求に至る経緯は、別表記載のとおりである。

(3) 関係法令の要旨

 別紙のとおりである。

(4) 基礎事実

 以下の事実については、請求人と原処分庁との間で争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。
イ 請求人は、平成17年4月に離婚し、平成21年当時、請求人の元妻(以下「元妻」といい、請求人と併せて「請求人ら」という。)及び請求人らの長女(昭和○年○月○日生。以下「長女」という。)は、請求人とは別の住所地に居住していた。
ロ 給与所得者であった請求人らは、いずれも、長女を自己の扶養親族と記載した平成21年分の給与所得者の扶養控除等申告書(以下「平成21年分扶養控除等申告書」という。)を各勤務先に提出して特定扶養親族に係る扶養控除の適用を受け、それぞれ年末調整が行われた。
ハ 平成21年分扶養控除等申告書に基づく平成22年度の市民税・県民税について、請求人らが重複して長女について扶養控除を受けていることが判明したとして、a市長が、平成22年12月に、請求人らで確認の上いずれかの扶養控除を取り下げる手続が必要である旨の照会文書を請求人宛に送付したことから、請求人は、元妻と協議等することなく、同月、同市長に対し、請求人が扶養控除を取り下げる旨の確認書を提出した。
ニ 請求人は、平成23年2月15日に、別表記載のとおり、長女を扶養控除の対象としない旨の平成21年分の所得税の確定申告書(以下「本件確定申告書」という。)を原処分庁に提出した。なお、平成21年分の所得税の法定申告期限は、平成22年3月15日である。

(5) 争点

 本件確定申告書を法定申告期限内に提出しなかったことについて、通則法第66条第1項ただし書に規定する「正当な理由があると認められる場合」に該当するか否か。

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2 主張

(1) 請求人

 請求人は、平成20年分以前から長女について扶養控除を受けていた。また、平成21年分の所得税について、元妻と重複して長女を扶養控除の対象としていた事実は、平成22年12月に市役所から照会を受けて初めて知ったのであり、請求人は、元妻と協議することなく、請求人の扶養控除を取り下げるべく、直ちに本件確定申告書を提出した。元妻とは平成14年3月に別居して以降、完全に連絡が途絶えており、請求人が元妻と重複して長女について扶養控除を受けている事実を知ることは不可能であったのであるから、できる限りのことをした請求人には、何らの落ち度もない。したがって、請求人が本件確定申告書を法定申告期限内に提出できなかったことは、「正当な理由があると認められる場合」に該当する。

(2) 原処分庁

 申告納税制度の下における確定申告は、納税者自らの判断と責任においてなされるべきものであり、無申告加算税の趣旨は、申告納税制度の秩序を維持するためには、納税者から法定申告期限内に適正な申告が自主的にされることが不可欠であることに鑑み、当初から適法に申告納税した者とこれを怠った者との間に生ずる不公平を是正するとともに無申告による納税義務違反の発生を防止することにあると解される。そして、この趣旨に鑑みると、請求人の主張を考慮してもなお、請求人が本件確定申告書を法定申告期限後に提出したことについて、請求人に対して行政上の措置として無申告加算税を課すことが不当又は酷となるような真にやむを得ない理由があったということはできないから、本件は、「正当な理由があると認められる場合」に該当しない。

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3 判断

(1) 法令解釈

 通則法第66条に規定する無申告加算税は、無申告による納税義務違反の事実があれば、原則としてその違反者に対して課されるものであり、これによって、当初から適法に申告し納税した納税者との間の客観的不公平の実質的な是正を図るとともに、無申告による納税義務違反の発生を防止し、適正な申告納税の実現を図り、もって納税の実を挙げようとする行政上の措置である。この趣旨に照らせば、無申告の事実があっても例外的に無申告加算税が課されない場合として通則法第66条第1項ただし書に規定する「正当な理由があると認められる場合」とは、真に納税者の責めに帰することのできない客観的な事情があり、上記のような無申告加算税の趣旨に照らしても、なお、納税者に無申告加算税を賦課することが不当又は酷になる場合をいうものと解するのが相当である。

(2) 判断

イ 原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、少なくとも平成18年から平成21年において、長女は、請求人らのいずれの扶養親族にも該当し、上記1(4)ロのとおり、請求人らはいずれも長女を扶養親族とする平成21年分扶養控除等申告書を提出していたことが認められる。所得税法第84条第2項並びに所得税法施行令第219条第1項及び第2項によれば、このように二以上の居住者が同一人をそれぞれ自己の扶養親族として基準申告書等に記載するなどいずれの居住者の扶養親族とするかを定められない場合には、同項に規定する事情によっていずれの居住者の扶養親族かが定まるが、扶養親族の所属が定まった後でも、その後に他の基準申告書等に異なる記載をすることによって扶養親族の所属を変更することができる。上記1(4)ロ及びニの各事実によれば、本件確定申告書が、所得税法施行令第219条第1項ただし書に規定する基準申告書等に該当する。そして、この基準申告書等を提出した場合には、扶養親族が所属しないこととなった居住者には納付すべき税額が発生することになるが、基準申告書等の一つである確定申告書の提出期限は、所得税法第120条第1項の規定によりその翌年の3月15日となるから、上記1(4)ニによれば、本件確定申告書は、平成21年分の所得税の法定申告期限である平成22年3月15日を徒過して提出されたものということができる。
ロ 請求人は、上記2(1)の事情が通則法第66条第1項ただし書に規定する「正当な理由があると認められる場合」に該当する旨主張する。
 しかしながら、仮に、請求人が平成20年分以前から長女につき扶養控除を受けていたとしても、当然に平成21年分において長女につき扶養控除を受けられることにはならない。また、請求人が元妻と別居して完全に連絡が途絶え、元妻と重複して長女につき扶養控除を受けている事実を知ることができなかったとしても、それは、請求人の単なる主観的な事情に基づくものであり、上記イのとおり、請求人が平成21年分の所得税について長女を扶養控除の対象としない旨の確定申告書を提出するのであれば、その法定申告期限までに提出しなければならないのであって、真に請求人の責めに帰することのできない客観的な事情があるとはいえず、無申告加算税の趣旨に照らしても、なお、請求人に無申告加算税を賦課することが不当又は酷になる場合とはいえない。そして、当審判所の調査の結果によっても、他に通則法第66条第1項ただし書に規定する「正当な理由があると認められる場合」に該当すべき事情を認めるに足りる証拠はないから、本件は、同項ただし書に規定する「正当な理由があると認められる場合」に該当せず、この点に関する請求人の主張は採用することができない。

(3) 本件賦課決定処分について

 以上のとおり、請求人の主張は採用することができず、また、当審判所の調査の結果によっても、他に本件賦課決定処分を取り消すべき理由は認められないから、通則法第66条第1項及び第5項の各規定に基づき行われた本件賦課決定処分は適法である。

(4) その他

 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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