(平成24年6月28日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、不動産貸付業を営む審査請求人(以下「請求人」という。)が、土地の賃貸借契約に基づいて借地人から受け取った協力金の名目の金員を不動産所得に係る総収入金額に算入しないで所得税の確定申告をしたことに対し、原処分庁が、当該金員は不動産所得に係る総収入金額に算入されるとして所得税の更正処分及び重加算税の賦課決定処分を行ったことから、請求人が、原処分庁の認定には誤りがあるとして、その取消しを求めた事案である。

(2) 審査請求に至る経緯

 平成19年分及び平成20年分(以下、これらを併せて「本件各年分」という。)の所得税について、審査請求(平成23年8月4日請求)に至る経緯及び内容は、別表1のとおりである。
 以下、平成23年3月15日付でされた本件各年分の所得税の各更正処分及び重加算税の各賦課決定処分を、それぞれ「本件各更正処分」及び「本件各賦課決定処分」という。

(3) 関係法令等の要旨

イ 所得税法第26条《不動産所得》第1項は、不動産所得とは、不動産又は不動産の上に存する権利の貸付け(地上権の設定その他他人に不動産等を使用させることを含む。)による所得(事業所得又は譲渡所得に該当するものを除く。)をいう旨規定している。
ロ 国税通則法(以下「通則法」という。)第68条《重加算税》第1項は、通則法第65条《過少申告加算税》第1項の規定に該当する場合において、納税者がその国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺいし、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出していたときは、当該納税者に対し、過少申告加算税に代え、重加算税を課する旨規定している。

(4) 基礎事実

 次の事実は、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。
イ 請求人等の概要
(イ) 請求人及びLの概要
A 請求人は、平成18年11月7日当時、後記(ロ)のM社の代表取締役として給与所得を得ていたほか、別表2の各不動産を所有し、その一部を貸し付けて不動産所得を得ていた。
B 請求人の妻であるLは、平成18年11月7日当時、別表3の各不動産を所有し、その全てを貸し付けて不動産所得を得ていた。
(ロ) M社の概要
A M社は、昭和25年2月○日に設立され、a市b町に本店を置く、木材販売業等を目的とする株式会社である。
B M社の代表取締役は、平成18年11月7日当時、請求人1名であったが、平成19年7月1日に請求人の子であるNが代表取締役に就任したため、平成23年8月10日に請求人が退任するまでは請求人及びNの2名であり、同日以降、N1名となった。
(ハ) 請求人及びLとM社との間の不動産貸借関係
A 請求人は、M社に対し、M社が別表2の各不動産に係る固定資産税及び都市計画税(以下「固定資産税等」という。)の合計額を負担する旨の約束で別表2の順号5から11まで、13から16まで、24から27まで、31及び32の各土地を貸し付けていた。
B Lは、M社に対し、M社が別表3の各不動産に係る固定資産税等の合計額を負担する旨の約束で、別表3の順号1から8までの各土地を貸し付けていた。
C M社は、上記A及びBの借地の一部の上に、別表4の建物を所有していた。
ロ P社との間の土地賃貸借に関する合意書面の作成
 P社は、a市c町にP社d店を出店することを計画し、請求人及びLとの間で、土地賃貸借に関して、次のとおり、合意書を作成して取り交わした。
(イ) 平成18年11月7日付の合意書面
A 請求人とP社との間の「土地賃貸借の合意書」
 請求人は、平成18年11月7日、P社との間で、同日付で作成された要旨次の内容の「土地賃貸借の合意書」と題する書面を取り交わした。
(A) 請求人は、P社に対し、別表2の順号15から23まで及び25(順号25については1,131平方メートルのうち約861平方メートル)の各土地(合計約6,691平方メートル、約2,024.03坪)を賃貸する。
 ただし、別表2の順号25の賃貸借面積については、別表4の順号10及び11の各建物(以下、別表4の順号10及び11の建物を併せて「本件旧建物」という。)の移転計画確定後、請求人及びP社が協議の上決定するものとする。
(B) 上記(A)の各土地の使用目的はショッピングセンターの設置運営とし、賃貸借期間はP社d店の開店日より20年間とする。
(C) 月額賃料は、○○○○円(1坪当たりの賃料○○○○円)とする。
(D) 別表4の順号11の建物及び同建物内の設備については、P社がその費用と負担で移転する又はP社が請求人に対して移転補償金を支払うものとする。
B LとP社との間の「土地賃貸借の合意書」
 Lは、平成18年11月7日、P社との間で、同日付で作成された要旨次の内容の「土地賃貸借の合意書」と題する書面を取り交わした。
(A) Lは、P社に対し、別表3の順号8(1,288平方メートルのうち約973平方メートル、約294.33坪)の土地を賃貸する。
 ただし、賃貸借面積については、本件旧建物の移転計画確定後、L及びP社が協議の上決定するものとする。
(B) 上記(A)の土地の使用目的はショッピングセンターの設置運営とし、賃貸借期間はP社d店の開店日より20年間とする。
(C) 月額賃料は、○○○○円(1坪当たり賃料○○○○円)とする。
(D) 別表4の順号10の建物及び同建物内の設備については、P社がその費用と負担で移転する又はP社がLに対して移転補償金を支払うものとする。
(ロ) 平成19年3月30日付の合意書面
 請求人及びLは、平成19年3月30日、P社に対し、本件旧建物の取壊費用○○○○円(税込み)、その工事に関連して別表4の順号7の建物の一部取壊費用○○○○円(税込み)及び別表4の順号11の建物の代替建物の新築費用○○○○円(税込み)の各見積書を提示し、P社は、請求人との間で「事業用借地権設定の覚書」と題する書面及び「協力金の覚書(2)」と題する書面を、Lとの間で「事業用借地権設定の覚書」と題する書面を、請求人及びLとの間で「協力金の覚書(1)」と題する書面を、それぞれ同日付で作成して取り交わした。
 これらの書面の要旨は、次のとおりである。
A 請求人とP社との間の「事業用借地権設定の覚書」
(A) 賃貸借物件は、別表5の順号1から11まで(順号9については地積の変更登記前の283平方メートル、順号10については910.91平方メートルのうち645.35平方メートル)の各土地(合計6,696.06平方メートル、2,025.56坪)とする。
(B) 賃料は、本覚書締結日から月額○○○○円(1坪当たりの賃料○○○○円)、土地引渡日から月額○○○○円(1坪当たりの賃料○○○○円)、P社d店の開店日から月額○○○○円(1坪当たりの賃料○○○○円)とする。
 なお、始期が月中途の場合は、1か月を30日間として日割計算する。
(C) 請求人は、別表4の順号11の建物及び設備を造成工事開始日までに上記(A)の各土地以外へ移転し、上記(A)の各土地を更地にしてP社に引き渡す。
 ただし、P社はその移転に要する費用を協力金として、金  円を無利息で請求人に貸与する(上記下線部分は空欄となっており、金額の記載がない。)。
(D) P社は、月額賃料に協力金を240回に分割した額を付加して支払うものとし、請求人は、月額賃料に付加して支払われた額と相殺して協力金を返還するものとする。
(E) 本契約が解除、解約された場合は、P社は、請求人に貸与した協力金の返還債務の残額全部についてその支払を免除し、返還を請求することはできないものとする。
 ただし、請求人の責めにより本契約が解除、解約された場合は、この限りではない。
B LとP社との間の「事業用借地権設定の覚書」
(A) 賃貸借物件は、別表6の順号1及び2(順号1については1,273.11平方メートルのうち990.66平方メートル)の各土地(合計1,006.19平方メートル、304.37坪)とする。
(B) 賃料は、本覚書締結日から月額○○○○円(1坪当たりの賃料○○○○円)、土地引渡日から月額○○○○円(1坪当たりの賃料○○○○円)、P社d店の開店日から月額○○○○円(1坪当たりの賃料○○○○円)とする。
 なお、始期が月中途の場合は、1か月を30日間として日割計算する。
(C) Lは、別表4の順号10の建物及び設備を造成工事開始日までに上記(A)の各土地以外へ移転し、上記(A)の各土地を更地にしてP社に引き渡す。
 ただし、P社はその移転に要する費用を協力金として、金  円を無利息でLに貸与する(上記下線部分は空欄となっており、金額の記載がない。)。
(D) P社は、月額賃料に協力金を240回に分割した額を付加して支払うものとし、Lは、月額賃料に付加して支払われた額と相殺して協力金を返還するものとする。
(E) 本契約が解除、解約された場合は、P社は、Lに貸与した協力金の返還債務の残額全部についてその支払を免除し、返還を請求することはできないものとする。
 ただし、Lの責めにより本契約が解除、解約された場合は、この限りではない。
C 請求人及びLとP社との間の「協力金の覚書(1)」
 P社は、本件旧建物の取壊費用○○○○円(税込み)及び別表4の順号7の建物の一部取壊費用○○○○円(税込み)の見積書を基に、協力金として、請求人及びLに対し、それぞれ○○○○円(上記○○○○円及び○○○○円の合計額○○○○円の2分の1に相当する額)を無利息で貸与する。
D 請求人とP社との間の「協力金の覚書(2)」
 P社は、別表4の順号11の建物の代替建物の新築費用○○○○円(税込み)の見積書を基に、協力金として、請求人に対し、○○○○円を無利息で貸与する。
(ハ) 平成19年5月1日付の合意書面
 請求人は、平成19年5月1日、P社に対し、別表4の順号11の建物内の設備の撤去、移設、設置等の費用○○○○円(税込み)の見積書を提示し、P社との間で、P社は請求人に対し当該費用○○○○円を協力金として無利息で貸与する旨記載された同日付の「協力金の覚書(3)」と題する書面を作成して取り交わした。
(ニ) 平成19年5月31日付の合意書面
 請求人は、平成19年5月31日、P社に対し、別表4の順号10の建物内の木材、製材機等の移動等の費用○○○○円(税込み)の見積書等を提示し、P社との間で、P社は請求人に対し当該費用○○○○円を協力金として無利息で貸与する旨記載された同日付の「協力金の覚書(5)」と題する書面を作成して取り交わした。
(ホ) 平成19年6月13日付の合意書面
 請求人及びLは、平成19年6月13日、P社に対し、別表4の順号10の建物の代替建物の新築費用○○○○円(税込み)の見積書を提示し、P社との間で、P社は協力金として請求人に○○○○円を、Lに○○○○円を、それぞれ無利息で貸与する旨記載された同日付の「協力金の覚書(4)」と題する書面を作成して取り交わした。
(ヘ) 平成19年12月3日付の合意書面
A 請求人とP社との間の合意書面
 請求人は、平成19年12月3日、P社との間で、同日付で作成された要旨次の内容の「事業用借地権設定の覚書の確定事項、変更及び追記の覚書」と題する書面を取り交わした。
(A) 賃貸借物件を別表5の順号1から17まで(順号10については910.91平方メートルのうち401.78平方メートル。なお、上記書面の第1条の賃貸借土地として記載された「a市c町○番r」は「a市c町○番s」の誤記である。)の各土地とし、賃貸借面積を6,620.89平方メートル(2,002.82坪)に変更する。
(B) 賃貸借面積の変更及び協力金返還額相当額の付加に係る所得税負担に伴い、P社d店の開店日からの基本賃料を月額○○○○円(1坪当たりの賃料○○○○円に協力金返還額を加算したことにより増加する所得税相当額○○○○円を12か月で除し、更に2,002.82坪で除して算定した○○○○円を加算した○○○○円に、2,002.82坪を乗じた後の金額)に変更し、月額賃料は、基本賃料の月額○○○○円に後記(C)の第2回目以降の協力金返還額を加算した○○○○円に変更する。
 ただし、P社d店の開店日の月末に支払う翌月分の賃料は、基本賃料の月額に後記(C)の第1回目の協力金返還額を加算した○○○○円とする。
(C) P社は、請求人に対して協力金額として○○○○円(上記(ロ)のC及びD、(ハ)、(ニ)及び(ホ)の各合意書面でP社が請求人に支払うものとされた協力金の合計額)を無利息で貸し渡し、請求人はこれを借り受けるものとする。
 P社は、公正証書作成時までに、そのうち○○○○円を請求人に無利息で貸し渡し、請求人はこれを受領して借り受けた。
 請求人は、借り受けた協力金額○○○○円を239回に分割し、P社d店の開店日の属する月の月末を第1回目として○○○○円、第2回目以降は各月○○○○円ずつ返還するものとする。
B LとP社との間の合意書面
 Lは、平成19年12月3日、P社との間で、同日付で作成された要旨次の内容の「事業用借地権設定の覚書の確定事項、変更及び追記の覚書」と題する書面を取り交わした。
(A) 賃貸借物件を別表6の順号1から3まで(順号1については1,273.11平方メートルのうち375.40平方メートル)の各土地とし、賃貸借面積を416.40平方メートル(125.96坪)に変更する。
(B) 賃貸借面積の変更及び協力金返還額相当額の付加に係る所得税負担に伴い、P社d店の開店日からの基本賃料を月額○○○○円(1坪当たりの賃料○○○○円に協力金返還額を加算したことにより増加する所得税相当額○○○○円を12か月で除し、更に125.96坪で除して算定した○○○○円を加算した○○○○円に、125.96坪を乗じた後の金額)に変更し、月額賃料は、基本賃料の月額○○○○円に後記(C)の第2回目以降の協力金返還額を加算した○○○○円に変更する。
 ただし、P社d店の開店日の月末に支払う翌月分の賃料は、基本賃料の月額に後記(C)の第1回目の協力金返還額を加算した○○○○円とする。
(C) P社は、Lに対して協力金額として○○○○円(上記(ロ)のC及び(ホ)の各合意書面でP社がLに支払うものとされた協力金の合計額)を無利息で貸し渡し、Lはこれを借り受けるものとする。
 P社は、公正証書作成時までに、そのうち○○○○円をLに無利息で貸し渡し、Lはこれを受領して借り受けた。
 Lは、借り受けた協力金額○○○○円を239回に分割し、P社d店の開店日の属する月の月末を第1回目として○○○○円、第2回目以降は各月○○○○円ずつ返還するものとする。
(ト) 平成19年12月10日付の合意書面
A 請求人とP社との間の合意書面
 請求人は、平成19年12月10日、P社との間で、同日付で作成された要旨次の内容の「事業用借地権設定契約公正証書」と題する書面を取り交わした。
(A) 請求人は、P社に対し、別表5の順号1から17まで(順号10については910.91平方メートルのうち401.78平方メートル)の各土地(賃貸借面積合計6,620.89平方メートル、2,002.82坪)を、P社及びその関連会社の事業用建物その他必要な施設の所有を目的として賃貸し、P社は、これを賃借した。
(B) 賃貸借期間は、P社d店の開店日(平成19年12月の予定)から20年間とする。
(C) 賃料は、上記(ロ)のAの「事業用借地権設定の覚書」の締結日から上記(A)の各土地の引渡日の前日まで月額○○○○円、同引渡日からP社d店の開店前日まで月額○○○○円、P社d店の開店日から月額○○○○円とし、P社は、請求人に対し、毎月末日までに翌月分を請求人が指定する金融機関の口座に振り込む方法により支払う。
 1月に満たない月の賃料は、1か月を30日間として日割計算する。
(D) 上記(C)の賃料の月額○○○○円は、1坪当たりの賃料○○○○円に協力金返還額を加算したことにより増加する1坪当たりの所得税相当額○○○○円を加算した○○○○円に2,002.82坪を乗じて算定した金額に、協力金返還額を加算した金額であることを相互に確認する。
(E) 請求人は、P社に対し、上記(A)の各土地を更地にて引き渡すこととし、引渡日は平成19年6月11日とする。
(F) P社は、本契約締結後、上記(A)の各土地に対して借地権設定の登記手続ができるものとする。
(G) P社は、請求人に対し、協力金額として○○○○円を無利息で貸し渡し、請求人は、これを受領して借り受けた。
 P社は、請求人に対し、本公正証書作成後、協力金額として更に○○○○円を無利息で貸し渡す予定であるが、上記(ホ)の新築費用に係る協力金については、新築建物の建築許可後に金額を最終確定するものとする。
(H) 請求人は、P社に対し、既に受領した協力金額○○○○円を239回に分割し、第1回目(平成20年1月分)は○○○○円、第2回目以降は各月○○○○円ずつ返還する。
 その返還方法は、P社が毎月末日に請求人に支払う賃料から相殺する方法によるものとする。
(I) 本契約が解約、解除された場合、P社は、その時点における請求人の協力金返還債務の残額全部について、その支払を免除し、請求人に対し協力金の返還を請求できないものとする。
 ただし、請求人の責めにより本契約が解除、解約された場合はこの限りではない。
B LとP社との間の合意書面
 Lは、平成19年12月10日、P社との間で、同日付で作成された要旨次の内容の「事業用借地権設定契約公正証書」と題する書面を取り交わした。
(A) Lは、P社に対し、別表6の順号1から3まで(順号1については1,273.11平方メートルのうち375.40平方メートル)の各土地(賃貸借面積合計416.40平方メートル、125.96坪)を、P社及びその関連会社の事業用建物その他必要な施設の所有を目的として賃貸し、P社は、これを賃借した。
(B) 賃貸借期間は、P社d店の開店日(平成19年12月の予定)から20年間とする。
(C) 賃料は、上記(ロ)のBの「事業用借地権設定の覚書」の締結日から上記(A)の各土地の引渡日の前日まで月額○○○○円、同引渡日からP社d店の開店前日まで月額○○○○円、P社d店の開店日から月額○○○○円とし、P社は、Lに対し、毎月末日までに翌月分をLが指定する金融機関の口座に振り込む方法により支払う。
 1月に満たない月の賃料は、1か月を30日間として日割計算する。
(D) 上記(C)の賃料の月額○○○○円は、1坪当たりの賃料○○○○円に協力金返還額を加算したことにより増加する1坪当たりの所得税相当額○○○○円を加算した○○○○円に125.96坪を乗じて算定した金額に、協力金返還額を加算した金額であることを相互に確認する。
(E) Lは、P社に対し、上記(A)の各土地を更地にて引き渡すこととし、引渡日は平成19年6月11日とする。
(F) P社は、本契約締結後、上記(A)の各土地に対して借地権設定の登記手続ができるものとする。
(G) P社は、Lに対し、協力金額として○○○○円を無利息で貸し渡し、Lは、これを受領して借り受けた。
 P社は、Lに対し、本公正証書作成後、協力金額として更に○○○○円を無利息で貸し渡す予定である。
(H) Lは、P社に対し、既に受領した協力金額○○○○円を239回に分割し、第1回目(平成20年1月分)は○○○○円、第2回目以降は各月○○○○円ずつ返還する。
 その返還方法は、P社が毎月末日にLに支払う賃料から相殺する方法によるものとする。
(I) 本契約が解約、解除された場合、P社は、その時点におけるLの協力金返還債務の残額全部について、その支払を免除し、Lに対し協力金の返還を請求できないものとする。
 ただし、Lの責めにより本契約が解除、解約された場合はこの限りではない。
(チ) 平成20年6月3日付の合意書面
 請求人及びLは、平成20年6月3日、P社に対し、建築基準法改正に伴い再設計及び再申請等をするとして、別表4の順号10の建物の代替建物の新築に係る設計料等○○○○円(税込み)の見積書を提示し、P社との間で、P社は、請求人に対し、当該費用○○○○円を協力金額として無利息で貸与する旨記載された同日付の「協力金の覚書(4)−1」と題する書面を作成して取り交わした。
(リ) 平成20年11月7日付の合意書面
 請求人及びLは、平成20年11月7日、P社に対し、建築基準法改正に伴い変更工事が必要であるとして、別表4の順号10の建物の代替建物の新築に係る追加工事費○○○○円(税込み)の見積書を提示し、P社との間で、P社は、請求人に対し、当該費用○○○○円を協力金額として無利息で貸与する旨記載された同日付の「協力金の覚書(4)−2」と題する書面を作成して取り交わした。
(ヌ) 平成21年3月26日付の合意書面
A 請求人とP社との間の合意書面
 請求人は、平成21年3月26日、P社との間で、同日付で作成された要旨次の内容の「協力金貸与完了に伴う変更の覚書」と題する書面を取り交わした。
(A) 上記(ト)のAの(A)の別表5の順号10の面積910.91平方メートルのうち賃貸借面積は401.78平方メートルから453.21平方メートルに変更し、賃貸借面積の合計を6,620.89平方メートル(2,002.82坪)から6,672.32平方メートル(2,018.37坪)に変更する。
(B) 上記(ト)のAの「事業用借地権設定契約公正証書」の作成時までにP社が請求人に貸与した協力金額は○○○○円(上記(ト)のAの(G)に記載された協力金額)であり、平成21年2月末日までに支払われた賃料と相殺した後の残額は○○○○円である。
 また、上記(ト)のAの「事業用借地権設定契約公正証書」の作成後にP社が請求人に貸与した協力金額は○○○○円(上記(ト)のAの(G)に記載された貸与予定の協力金額○○○○円に上記(チ)の協力金額○○○○円及び上記(リ)の協力金額○○○○円を加算した金額)である。
(C) 上記(B)の貸与金残額○○○○円と上記(ト)のAの「事業用借地権設定契約公正証書」作成後の協力金額○○○○円の合計額○○○○円を224回に分割して返済するものとし、平成21年3月末日の協力金返還額は○○○○円、同年4月末日以後の協力金返還額は月額○○○○円とする。
(D) 賃料については、1坪当たりの賃料○○○○円に契約面積2,018.37坪を乗じた額○○○○円に、上記(C)の協力金返還額相当額を付加することによって増加する所得税及び住民税の相当額○○○○円を12か月で除した額○○○○円を加算した賃料○○○○円(振込賃料)に上記(C)の協力金返還額を加えた金額(平成21年3月末日は○○○○円、同年4月末日以降は○○○○円)に変更する。
B LとP社との間の合意書面
 Lは、平成21年3月26日、P社との間で、同日付で作成された要旨次の内容の「協力金貸与完了に伴う変更の覚書」と題する書面を取り交わした。
(A) 上記(ト)のBの(A)の別表6の順号1の面積1,273.11平方メートルのうち賃貸借面積は375.40平方メートルから957.83平方メートルに変更し、賃貸借面積の合計を416.40平方メートル(125.96坪)から998.83平方メートル(302.14坪)に変更する。
(B) 上記(ト)のBの「事業用借地権設定契約公正証書」の作成時までにP社がLに貸与した協力金額は○○○○円(上記(ト)のBの(G)に記載された協力金額)であり、平成21年2月末日までに支払われた賃料と相殺した後の残額は○○○○円である。
 また、上記(ト)のBの「事業用借地権設定契約公正証書」の作成後にP社がLに貸与した協力金額は○○○○円(上記(ト)のBの(G)に記載された貸与予定の協力金額)である。
(C) 上記(B)の貸与金残額○○○○円と上記(ト)のBの「事業用借地権設定契約公正証書」作成後の協力金額○○○○円の合計額○○○○円を224回に分割して返済するものとし、平成21年3月末日の協力金返還額は○○○○円、同年4月末日以後の協力金返還額は月額○○○○円とする。
(D) 賃料については、1坪当たりの賃料○○○○円に契約面積302.14坪を乗じた額○○○○円に、上記(C)の協力金返還額相当額を付加することによって増加する所得税及び住民税の相当額○○○○円を12か月で除した額○○○○円を加算した賃料○○○○円(振込賃料)に上記(C)の協力金返還額を加えた金額(平成21年3月末日は○○○○円、同年4月末日以降は○○○○円)に変更する。
(ル) 平成21年9月9日付の合意書面
A 請求人とP社との間の合意書面
 請求人は、平成21年9月9日、P社との間で、同日付で作成された要旨次の内容の「事業用借地権設定契約公正証書の変更契約公正証書」と題する書面を取り交わした。
(A) 賃貸借の目的土地は、別表5の順号10(910.91平方メートルのうち401.78平方メートル)の土地をa市b町○番○の土地に変更して別表7のとおりとし、その地積合計を6,620.89平方メートルから6,672.32平方メートルに変更する。
(B) 賃料は、月額○○○○円から月額○○○○円(賃料を1平方メートル当たり月額○○○○円)に変更する。
(C) 請求人は、平成21年3月末日現在、○○○○円の協力金返還債務を負担していることを承認する。
(D) 請求人は、P社に対し、上記(C)の○○○○円を224回に分割して返済するものとし、平成21年3月末日の協力金返還額は○○○○円、同年4月末日以後の協力金返還額は月額○○○○円とする。
 ただし、平成21年9月分までの協力金返還額は支払済みである。
 請求人のP社への協力金の返還方法は、P社が毎月末日に請求人に支払う賃料から相殺する方法による。
(E) 本契約により変更しなかった部分は、上記(ト)のAの「事業用借地権設定契約公正証書」の記載事項を引き続き本契約に適用することを合意した。
B LとP社との間の合意書面
 Lは、平成21年9月9日、P社との間で、同日付で作成された要旨次の内容の「事業用借地権設定契約公正証書の変更契約公正証書」と題する書面を取り交わした。
(A) 賃貸借の目的土地は、別表6の順号1(1,273.11平方メートルのうち375.40平方メートル)の土地をa市b町○番○の土地に変更して別表8のとおりとし、その地積合計を416.40平方メートルから998.83平方メートルに変更する。
(B) 賃料は、月額○○○○円から月額○○○○円(賃料を1平方メートル当たり月額○○○○円)に変更する。
(C) Lは、平成21年3月末日現在、○○○○円の協力金返還債務を負担していることを承認する。
(D) Lは、P社に対し、上記(C)の○○○○円を224回に分割して返済するものとし、平成21年3月末日の協力金返還額は○○○○円、同年4月末日以後の協力金返還額は月額○○○○円とする。
 ただし、平成21年9月分までの協力金返還額は支払済みである。
 LのP社への協力金の返還方法は、P社が毎月末日にLに支払う賃料から相殺する方法による。
(E) 本契約により変更しなかった部分は、上記(ト)のBの「事業用借地権設定契約公正証書」の記載事項を引き続き本契約に適用することを合意した。
ハ 合意書面に記載された約定の履行状況等
(イ) 土地の賃貸借等
A 請求人は、平成19年3月2日、別表2の順号25の土地を別表9の順号3及び4のとおり分筆するとともに、別表2の順号23の土地の表示に関する登記について、その地積を別表9の順号5のとおり変更する登記手続をし、Lは、同日、別表3の順号8の土地を別表9の順号1及び2のとおり分筆した上、請求人及びLは、上記ロの(ロ)のAの(A)及びBの(A)のとおり、P社との間でそれぞれ取り交わした同年3月30日付の「事業用借地権設定の覚書」で定めた賃貸借物件を、同年6月11日、それぞれP社に引き渡した。
 その後、P社は、平成19年12月15日、P社d店を開店した。
B 請求人及びP社は、P社が所有する土地を請求人が取得し、これをP社に賃貸することとし、請求人は、上記ロの(ヘ)のAの(A)及び(ト)のAの(A)のとおり、P社の所有地を含む土地を賃貸借物件とする合意書面を取り交わしたことを受け、平成20年6月3日、P社との間で、売主をP社、買主を請求人、売買物件を別表5の順号12から17までの各土地、代金を2,197,301円とする売買契約を締結し、同月6日、2,197,301円をP社に支払い、別表5の順号12から17までの各土地について、同年10月22日、原因を同年6月5日売買、所有者を請求人とする所有権移転登記を経由した。
 また、L及びP社は、P社が所有する土地をLが取得し、これをP社に賃貸することとし、Lは、上記ロの(ヘ)のBの(A)及び(ト)のBの(A)のとおり、P社の所有地を含む土地を賃貸借物件とする合意書面を取り交わしたことを受け、平成20年6月3日、P社との間で、売主をP社、買主をL、売買物件を別表6の順号3の土地、代金を364,832円とする売買契約を締結し、同月6日、364,832円をP社に支払い、別表6の順号3の土地について、同年10月22日、原因を同年6月5日売買、所有者をLとする所有権移転登記を経由した。
C 請求人及びLは、賃貸借物件を上記ロの(ヌ)のAの(A)及びBの(A)のとおり定めたことから、平成21年4月23日、請求人は、別表9の順号3の土地を別表10の順号3及び4の各土地に、Lは、別表9の順号1の土地を別表10の順号1及び2の各土地に、それぞれ分筆した。
D P社は、上記ロの(ト)のAの(F)及び(ル)のAの(E)の各合意書面の約定に基づき、別表7の各土地につき、平成21年9月11日、賃料を1平方メートル当たり月額○○○○円、存続期間を平成19年12月15日から20年間、賃借権者をP社とする賃借権設定登記を経由するとともに、上記ロの(ト)のBの(F)及び(ル)のBの(E)の各合意書面の約定に基づき、別表8の各土地につき、平成21年9月11日、賃料を1平方メートル当たり月額○○○○円、存続期間を平成19年12月15日から20年間、賃借権者をP社とする賃借権設定登記を経由した。
(ロ) 協力金、賃料の支払等
A 協力金の支払、本件旧建物の取壊し等
(A) P社は、上記ロの(イ)から(ヌ)までの各合意書面の約定に基づき、別表11の「協力金受領額」欄の「請求人」欄のとおり、請求人に対し、合計○○○○円の協力金額を支払うとともに、別表11の「協力金受領額」欄の「L」欄のとおり、Lに対し、合計○○○○円の協力金額を支払った。
 以下、請求人に支払われた各協力金を「本件請求人宛協力金」といい、Lに支払われた各協力金を「本件L宛協力金」という。
(B) 請求人及びLは、本件旧建物の取壊し、別表4の順号7の建物の一部取壊し、別表12の各建物の新築等の費用として、M社に対し、別表11の「M社への支払額」欄の「請求人」欄及び「L」欄の各金員を支払った。
 そして、M社は、別表11の「M社の取壊費用等の支払」欄のとおり、X社等に対して代金を支払い、本件旧建物の取壊し、別表4の順号7の建物の一部取壊し、別表12の各建物の新築等を行った。
B 賃料の振込等
(A) P社は、請求人に対し、別表13の「振込年月日」欄の各年月日に、別表13の「請求人に対する振込賃料の額」欄の各金額を請求人が指定する金融機関の口座に振り込む方法により支払った。
(B) P社は、Lに対し、別表13の「振込年月日」欄の各年月日に、別表13の「Lに対する振込賃料の額」欄の各金額をLが指定する金融機関の口座に振り込む方法により支払った。
ニ 請求人及びLの確定申告
(イ) 請求人の確定申告
 請求人は、P社からの上記ハの(ロ)のBの(A)の振込賃料にP社に対する協力金返還額を含めた金額を、P社からの不動産収入であるとして、平成19年分について○○○○円、平成20年分について○○○○円、平成21年分について○○○○円を、それぞれ、その他の不動産収入とともに不動産所得の金額の計算上総収入金額に算入して、所得税の確定申告をした。
(ロ) Lの確定申告
 Lは、P社からの上記ハの(ロ)のBの(B)の振込賃料にP社に対する協力金返還額を含めた金額を、P社からの不動産収入であるとして、平成19年分について○○○○円、平成20年分について○○○○円、平成21年分について○○○○円を、それぞれ、その他の不動産収入とともに不動産所得の金額の計算上総収入金額に算入して、所得税の確定申告をした。
ホ 原処分に至る経緯
 原処分庁は、平成22年9月17日、原処分に係る調査(以下「本件調査」という。)を開始し、本件調査の結果を踏まえて、P社から請求人に支払われた本件請求人宛協力金は、その実質はいずれも返還を要しない金員であり、請求人とP社との間の土地賃貸借契約に基づき支払を受けたものと認められるから、その金額は請求人の不動産所得の金額の計算上総収入金額に算入すべきであるとして、本件各更正処分をするとともに、請求人が、P社との間で、本件請求人宛協力金を借入金とし、賃料と相殺して返還する旨を記載した公正証書等の合意書面を作成したことは、通則法第68条第1項に規定する課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の隠ぺい又は仮装に当たるとして、本件各賦課決定処分をした。

(5) 争点

  1. 争点1 本件請求人宛協力金は、請求人に帰属するか否か。
  2. 争点2 本件請求人宛協力金が請求人に帰属するとした場合、本件請求人宛協力金の額は、不動産所得に係る総収入金額に算入すべきか否か。
  3. 争点3 本件請求人宛協力金について、請求人が、P社との間で、賃料と相殺して返還する旨を記載した公正証書等の合意書面を作成したことは、通則法第68条第1項に規定する隠ぺい又は仮装に該当するか否か。

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2 主張

(1) 争点1(本件請求人宛協力金は、請求人に帰属するか否か。)

原処分庁 請求人
 次のとおり、本件請求人宛協力金は、請求人に帰属する。  次のとおり、本件請求人宛協力金は、請求人に帰属しない。
イ 本件請求人宛協力金は、請求人がP社に賃貸する土地を更地にして引き渡す旨の契約をP社との間で締結したことから、当該土地の地権者として、P社から受領したものと認められる。
 また、M社は、P社に本件請求人宛協力金を直接請求する権利、P社から受領する権利を有しない。
 さらに、請求人からM社に支払われた金員は借地権の消滅の対価として支払われたものと認められる。
 以上からすれば、本件請求人宛協力金は、請求人に帰属するのであり、M社に帰属する収入であるとは認められない。
イ 本件請求人宛協力金は、請求人がP社に賃貸する土地の上にM社が所有する本件旧建物があったことから、M社の代表取締役である請求人が、P社との間で、M社が当該土地から立ち退く代わりに、P社は本件旧建物の取壊費用、代替建物の建築費用等を負担するとの合意を得て、P社からM社の移転補償金として支払われたものである。
 そして、請求人がこの本件請求人宛協力金を無利息で借り受け、その月々の返済相当額等を賃料に上乗せした上、その上乗せされた賃料から月々の返済額と相殺するという方式(以下「無利息貸与方式」という。)で請求人がP社に返済することになっているが、これは、P社からその旨要請され、請求人に実害がなかったことから、請求人がその要請を受け入れたことによるものであるが、その実質は、P社からM社に支払われるべき移転補償金が本件請求人宛協力金として請求人の個人口座に振り込まれただけであり、請求人が取得したものではない。
 したがって、本件請求人宛協力金は、M社に帰属し、請求人には帰属しない。
ロ また、本件請求人宛協力金は、本件調査が行われるまで、その一部が請求人からM社に支払われず、M社も収益として計上していなかったことからも、M社に帰属するものとは認められない。 ロ 請求人は、本件調査前、M社に本件請求人宛協力金の一部を支払っていなかったが、その額は本件請求人宛協力金の数パーセントにすぎない上、終了していなかった工事については、その工事が終了してM社が当該工事業者に支払う時に請求人から受け取って雑収入に計上すればよいものと認識していたためであり、本件請求人宛協力金が請求人に帰属するとの理由にはならない。

(2) 争点2(本件請求人宛協力金が請求人に帰属するとした場合、本件請求人宛協力金の額は、不動産所得に係る総収入金額に算入すべきか否か。)

原処分庁 請求人
 次のとおり、本件請求人宛協力金の額は、不動産所得に係る総収入金額に算入すべきである。  仮に、本件請求人宛協力金が請求人に帰属するとしても、次のとおり、本件請求人宛協力金の額は、不動産所得に係る総収入金額に算入すべきではない。
イ 所得税法第26条に規定する不動産所得とは、賃貸借契約に基づく賃料のみならず、権利金、更新料、礼金等の名目のいかんを問わず、不動産を使用又は収益させることの対価としての性質を有する経済的利益若しくはこれに代わる性質を有するものを含むと解される。 イ 本件請求人宛協力金は、請求人とP社で取り交わされた公正証書等の合意書面において、賃貸借期間20年間にわたって毎月の賃料から相殺する方法によって返還することと記載されているとおり、P社から借り受けたものであり、そもそも収入金額に当たらないのであるから、本件請求人宛協力金の額は、不動産所得に係る総収入金額に算入すべきではない。
ロ 本件請求人宛協力金は、請求人とP社で取り交わされた公正証書等の合意書面では、P社から請求人に無利息で貸与された旨取り決められているが、請求人は、本件調査の担当者(以下「本件調査担当者」という。)及び異議申立てに係る調査の担当者(以下「本件異議調査担当者」という。)に対し、「本件請求人宛協力金は、P社から借りたお金ではなく、返す必要はない。」旨申述していたのであるから、当初から返還を要しないものであることは明らかであり、請求人のP社に対する土地賃貸借契約に基づいて支払われたものであるから、請求人の土地を使用又は収益することの対価として支払われたものということができる。
 したがって、本件請求人宛協力金は、不動産を使用又は収益させることの対価としての性質を有する経済的利益若しくはこれに代わる性質を有するものといえるから、その額は不動産所得に係る総収入金額に算入すべきである。
ロ 原処分庁は、請求人の申述を理由として、本件請求人宛協力金は当初から返還を要しないものであることは明らかであるなどと主張するが、請求人の申述は、P社との賃貸借契約が平穏に継続される限り、結果的に返還しなくても済むことを述べたにすぎず、請求人の都合により解約等をする場合には、本件請求人宛協力金を返還しなければならないのであるから、本件請求人宛協力金を確定した収益とすることはできない。
 したがって、本件請求人宛協力金の額は、不動産所得に係る総収入金額に算入すべきではない。

(3) 争点3(本件請求人宛協力金について、請求人が、P社との間で、賃料と相殺して返還する旨を記載した公正証書等の合意書面を作成したことは、通則法第68条第1項に規定する隠ぺい又は仮装に該当するか否か。)

原処分庁 請求人
 上記(2)の「原処分庁」欄のロのとおり、本件請求人宛協力金は当初からP社に返還を要しないものであったにも関わらず、請求人は、P社との間で、虚偽の公正証書等の合意書面を作成することによって、不動産所得に係る総収入金額に算入されないように装ったものであるから、所得税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の一部を仮装したものといえる。
 したがって、請求人が、P社との間で、本件請求人宛協力金を借入金とし、賃料と相殺して返還する旨を記載した公正証書等の合意書面を作成したことは、通則法第68条第1項に規定する隠ぺい又は仮装に該当する。
 上記(2)の「請求人」欄のイのとおり、請求人は、P社との間で、本件請求人宛協力金を借り入れて賃料と相殺して返還する旨合意したものであり、その旨記載された公正証書等の合意書面は真正なものであるから、請求人が、P社との間で、本件請求人宛協力金を賃料と相殺して返還する旨を記載した公正証書等の合意書面を作成したことは、通則法第68条第1項に規定する隠ぺい又は仮装に該当することはない。

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3 判断

(1) 争点1(本件請求人宛協力金は、請求人に帰属するか否か。)

イ 認定事実
 請求人提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
(イ) 本件請求人宛協力金及び本件L宛協力金の取引の経緯
A 土地の貸借に関する経緯
 P社店舗開発部業務日報、上記1の(4)のロの(ロ)のCの「協力金の覚書(1)」及び上記1の(4)のロの(ロ)のDの「協力金の覚書(2)」に添付された各図面、P社代表取締役Q作成のR国税局調査第○部門統括国税調査官宛の平成22年12月17日付の「確認書」と題する書面(以下「本件確認書」という。)、P社開発部課長Sの本件異議調査担当者に対する申述、請求人の本件調査担当者及び本件異議調査担当者に対する各申述並びに当審判所に対する答述から、P社が請求人及びLから事業用地を賃借した経緯に関し、次の事実が認められる。
(A) P社は、P社d店の出店を計画し、平成18年4月頃から、そのための事業用地とする土地の賃借の取りまとめを推進した。
(B) しかし、P社が事業用地として賃借を予定していた土地の一部(別表2の順号15、16及び25並びに別表3の順号8)は、M社が請求人及びLから賃借して使用していた上、別表2の順号25及び別表3の順号8の各土地の上にはM社が作業場(製材所)又は倉庫として使用していたM社所有の本件旧建物が存在していた。
(C) そのため、P社が別表2の順号15、16及び25並びに別表3の順号8の各土地を請求人及びLから賃借するには、本件旧建物を取り壊してM社に当該各土地から立ち退いてもらう必要があった。
(D) そこで、P社は、平成18年6月20日、M社を訪問し、M社の代表取締役で賃借予定地の所有者の一人であり、Lから委任を受けた請求人と面談したのをはじめとし、その後は不動産業者であるT社を通じて、M社の立退き及び土地賃貸借の交渉を行ったところ、請求人は、P社に対し、P社の費用で本件旧建物を取り壊すとともに本件旧建物の代替建物を新築して本件旧建物内の設備を移設するのであれば、別表2の順号15、16及び25並びに別表3の順号8の各土地をP社に賃貸してもよい旨述べて、M社の立退きに要する費用をP社が負担することを要求した。
(E) P社は、この要求を受け入れ、P社が、その費用と負担で、本件旧建物の取壊し、代替建物の新築、本件旧建物内の設備の移設等を行うか、これらM社の立退きに要する費用を請求人及びLに支払って、請求人及びLにM社の立退きを行わせて更地を賃借するかのいずれかによることとし、平成18年11月7日、請求人及びLとの間で、上記1の(4)のロの(イ)のAの(D)及びBの(D)の約定を記載した各「土地賃貸借の合意書」を取り交わした。
B P社の無利息貸与方式に関する動向
 P社が作成した平成19年3月16日付の「倉庫移転補償について」と題する書面、送信日を平成19年3月19日とするT社からS宛の電子メール、本件調査担当者が作成した平成22年9月22日の調査経過等の報告書、本件確認書及びP社常務取締役開発部長Uの当審判所に対する答述から、P社が無利息貸与方式を請求人に提案するまでの動向について、次の事実が認められる。
(A) P社は、土地を賃借するためにM社の立退きに要する費用は支払わざるを得ないが、その費用を事業用地の賃借期間である20年間に分割して損金の額に算入したいと考え、無利息貸与方式によることとして、平成19年3月16日、V公認会計士に相談した。
(B) そして、P社は、V公認会計士から、まる1土地を賃借するため、建物の解体費、建築費等をP社が支出する場合、その支払先は土地所有者とする、まる2P社が建物の解体費、建築費等を土地所有者ではなく建物所有者(会社)に支払うと贈与になる、まる3建物の解体費、建築費等を分割して賃料と相殺して返還させることは土地所有者としかできないなどの助言を受けた。
C 無利息貸与方式を取り入れた合意書面の作成
 上記1の(4)のロの(ロ)から(ル)までの各合意書面、送信日を平成19年3月19日とするT社からS宛の電子メール、本件調査担当者が作成した平成22年9月22日の調査経過等の報告書、本件確認書、Uの当審判所に対する答述、請求人の本件調査担当者及び本件異議調査担当者に対する各申述並びに当審判所に対する答述から、無利息貸与方式を取り入れた合意書面の作成について、次の事実が認められる。
(A) 平成19年3月中旬、P社が、T社を介して、請求人に対し、M社の立退きに要する費用について無利息貸与方式を提案したところ、請求人は、本件旧建物の取壊費用等については、P社が工事業者と直接契約して費用を支払ってほしい旨返答して拒否した。
(B) しかし、P社が、その後も、無利息貸与方式の提案を続けたところ、請求人は、P社が直接M社に立退きに要する費用を支払うのと実質的に変わらなければ無利息貸与方式でもよい旨応じた。
(C) その結果、上記1の(4)のロの(ロ)のA及びBのとおり、請求人及びLは、平成19年3月30日、P社との間で、請求人及びLは本件旧建物を賃貸予定地から移転し、更地にしてP社に賃貸する、他方で、P社は、それに要する費用を協力金として請求人及びLに無利息で貸与する、P社は、協力金を240回に分割した額を賃料に付加して支払うこととし、請求人及びLは、賃料に付加して支払われる額と協力金の分割返還額相当額とを相殺して協力金を返還する、本契約が解除、解約された場合、P社は、協力金返還債務の残額全部の支払を免除し、返還を請求することはできないものとする、ただし、請求人及びLの責めに帰する事情により本契約が解除、解約された場合はこの限りではない旨の約定が記載された同日付の各「事業用借地権設定の覚書」を取り交わすに至った。
(D) また、平成19年3月30日、請求人及びLから提示された本件旧建物の取壊費用等の見積書に基づき、P社は、請求人又は請求人及びLとの間で、それぞれ協力金を無利息で貸与する旨記載された上記1の(4)のロの(ロ)のCの「協力金の覚書(1)」及び上記1の(4)のロの(ロ)のDの「協力金の覚書(2)」を取り交わしたのをはじめとして、以後、上記1の(4)のロの(ハ)から(ホ)まで並びに(チ)及び(リ)のとおり、P社は、請求人又は請求人及びLからM社の立退きに必要な費用の見積書を提示されると、その都度、請求人又はLに対し、それらの費用を協力金として無利息で貸与する旨の各合意書面を取り交わした。
(E) 請求人は、賃料に協力金の分割返還額相当額が付加されると、それだけ不動産所得の金額が増加し、P社がM社に立退きに要する費用を直接支払うのに比べて請求人及びLの所得税の負担が重くなることから、P社に対して、請求人及びLの所得税の増額分をP社が負担するように要求した。
(F) P社は、上記(E)の請求人及びLの要求を受け入れ、請求人及びLとの間で、上記1の(4)のロの(ヘ)の平成19年12月3日付で作成された各「事業用借地権設定の覚書の確定事項、変更及び追記の覚書」及び上記1の(4)のロの(ト)の同月10日付で作成された各「事業用借地権設定契約公正証書」をそれぞれ取り交わし、所得税の増額分について、賃料を増額して支払うこととなった。
(G) その後、請求人は、住民税の増額分を考慮していなかったため、関与税理士である○○に、改めて、P社がM社に立退きに要する費用を直接支払った場合の請求人及びLに係る所得税及び住民税に対し、無利息貸与方式を採った場合の請求人及びLに係る所得税及び住民税の増加する各税額を計算させ、所得税及び住民税の増額分についてもP社が負担するように要求し、P社はその要求をも受け入れた。
(H) そして、請求人及びLは、P社との間で、上記1の(4)のロの(ヌ)及び(ル)のとおり、P社は、請求人及びLに対し、賃料に所得税と住民税の増額分も付加する旨記載した平成21年3月26日付で作成された各「協力金貸与完了に伴う変更の覚書」及び同年9月9日付で作成された各「事業用借地権設定契約公正証書の変更契約公正証書」をそれぞれ取り交わした。
(ロ) P社からの振込賃料の額
A 請求人に対する振込賃料の額
 P社は、請求人に対し、上記1の(4)のハの(ロ)のBの(A)のとおり、賃料を請求人が指定する金融機関の口座に振り込む方法により支払っていること、その支払額は、上記1の(4)のロの(ロ)のAの平成19年3月30日付で作成された「事業用借地権設定の覚書」、上記1の(4)のロの(ヘ)のAの同年12月3日付で作成された「事業用借地権設定の覚書の確定事項、変更及び追記の覚書」及び上記1の(4)のロの(ト)のAの同月10日付で作成された「事業用借地権設定契約公正証書」によって算定された賃料の額と同額であることからすれば、平成19年及び平成20年中にP社から請求人が指定する金融機関の口座に振り込まれた各金額は、請求人が本件各年分において、P社に賃貸した各土地に係る不動産所得の収入金額となり、その金額は、別表13のとおりと認められる。
 そして、P社が請求人宛に作成した平成19年6月15日付の「a市d町 賃料日割一覧表(平成19年6月11日造成工事着手)」及び同年11月吉日付の「d店開店時 日割賃料計算書」と題する各書面から、日割計算に係る賃料の額は、次の計算で算出されたものと認められる。
(A) 別表13の順号1の「請求人に対する振込賃料の額」欄の金額○○○○円は、上記1の(4)のロの(ロ)のAの(B)の約定に基づき平成19年3月分(同月30日及び同月31日の2日間分)の賃料○○○○円及び同年4月分の賃料○○○○円の合計額
(B) 別表13の順号4の「請求人に対する振込賃料の額」欄の金額○○○○円は、上記1の(4)のハの(イ)のAのとおり、P社が平成19年6月11日に請求人から賃借する土地の引渡しを受けたことから、上記1の(4)のロの(ロ)のAの(B)の約定に基づく差額賃料○○○○円(同月10日までの月額賃料○○○○円の10日間分○○○○円と同月11日以降の月額賃料○○○○円の20日間分○○○○円との合計額○○○○円から、同年5月31日に支払済みの○○○○円を差し引いた後の金額)に翌月分(同年7月分)の振込賃料○○○○円を加えた金額
(C) 別表13の順号10の「請求人に対する振込賃料の額」欄の金額○○○○円は、上記1の(4)のハの(イ)のAのとおり、平成19年12月15日にP社がP社d店を開店したことから、上記1の(4)のロの(ヘ)のAの(B)及び(C)並びに(ト)のAの(C)及び(H)の各約定に基づく差額賃料○○○○円(同月14日までの月額賃料○○○○円の14日間分○○○○円と同月15日以降の月額振込賃料○○○○円の17日間分○○○○円の合計額○○○○円から、同年11月30日に支払済みの○○○○円を差し引いた後の金額)に翌月分(平成20年1月分)の振込賃料○○○○円を加算した金額
B Lに対する振込賃料の額
 P社は、Lに対し、上記1の(4)のハの(ロ)のBの(B)のとおり、賃料をLが指定する金融機関の口座に振り込む方法により支払っていること、その支払額は、上記1の(4)のロの(ロ)のBの平成19年3月30日付で作成された「事業用借地権設定の覚書」、上記1の(4)のロの(ヘ)のBの同年12月3日付で作成された「事業用借地権設定の覚書の確定事項、変更及び追記の覚書」及び上記1の(4)のロの(ト)のBの同月10日付で作成された「事業用借地権設定契約公正証書」によって算定された賃料の額と同額であることからすれば、平成19年及び平成20年中にP社からLが指定する金融機関の口座に振り込まれた各金額は、Lが本件各年分において、P社に賃貸した各土地に係る不動産所得の収入金額となり、その金額は、別表13のとおりと認められる。
 そして、P社がL宛に作成した平成19年6月15日付の「a市d町 賃料日割一覧表(平成19年6月11日造成工事着手)」及び同年11月吉日付の「d店開店時 日割賃料計算書」と題する各書面から、日割計算に係る賃料の額は、次の計算で算出されたものと認められる。
(A) 別表13の順号1の「Lに対する振込賃料の額」欄の金額○○○○円は、上記1の(4)のロの(ロ)のBの(B)の約定に基づき平成19年3月分(同月30日及び同月31日の2日間分)の賃料○○○○円及び同年4月分の賃料○○○○円の合計額
(B) 別表13の順号4の「Lに対する振込賃料の額」欄の金額○○○○円は、上記1の(4)のハの(イ)のAのとおり、P社が平成19年6月11日にLから賃借する土地の引渡しを受けたことから、上記1の(4)のロの(ロ)のBの(B)の約定に基づく差額賃料○○○○円(同月10日までの月額賃料○○○○円の10日間分○○○○円と同月11日以降の月額賃料○○○○円の20日間分○○○○円との合計額○○○○円から、同年5月31日に支払済みの○○○○円を差し引いた後の金額)に翌月分(同年7月分)の振込賃料○○○○円を加えた金額
(C) 別表13の順号10の「Lに対する振込賃料の額」欄の金額○○○○円は、上記1の(4)のハの(イ)のAのとおり、平成19年12月15日にP社がP社d店を開店したことから、上記1の(4)のロの(ヘ)のBの(B)及び(C)並びに(ト)のBの(C)及び(H)の各約定に基づく差額賃料○○○○円(同月14日までの月額賃料○○○○円の14日間分○○○○円と同月15日以降の月額振込賃料○○○○円の17日間分○○○○円の合計額○○○○円から、同年11月30日に支払済みの○○○○円を差し引いた後の金額)に翌月分(平成20年1月分)の振込賃料○○○○円を加算した金額
ロ 判断
(イ) 争点に対する判断について
A 上記1の(4)のロのとおり、請求人及びLが、P社との間で、無利息貸与方式の合意書面を取り交わした経緯は、上記イの(イ)のとおり、P社が請求人及びLからP社d店の出店に必要な事業用地を賃借するためには、本件旧建物を取り壊してM社に立ち退いてもらう必要があったことから、P社は、そのための費用を20年間に分割して損金の額に算入したいと考え、請求人に対し、無利息貸与方式を提案したところ、請求人は、当初、これを拒否したが、最終的に、P社が直接M社に立退きに要する費用を支払うのと実質的に変わらなければ無利息貸与方式でもよい旨応じたというものである。
 そして、まる1上記1の(4)のロの(ヘ)の平成19年12月3日付で作成された各「事業用借地権設定の覚書の確定事項、変更及び追記の覚書」及び上記1の(4)のロの(ト)の同月10日付で作成された各「事業用借地権設定契約公正証書」において、本件請求人宛協力金及び本件L宛協力金を分割返還するものとしながら、請求人及びLの責めに帰する事情で解除、解約しない限り、実質的には返還を要しないものとしたこと、まる2上記各「事業用借地権設定の覚書の確定事項、変更及び追記の覚書」及び各「事業用借地権設定契約公正証書」において、P社は、請求人及びLに対し、無利息貸与方式によった場合の所得税の増額分を負担することとしたこと、まる3上記1の(4)のロの(ヌ)の平成21年3月26日付で作成された各「協力金貸与完了に伴う変更の覚書」及び上記1の(4)のロの(ル)の同年9月9日付で作成された各「事業用借地権設定契約公正証書の変更契約公正証書」では、無利息貸与方式によった場合の所得税及び住民税の増額分を負担することとしたこと、まる4協力金を分割返還することとされた平成19年12月以降、所得税の増額分を、平成21年3月31日からは所得税及び住民税の増額分を加えた賃料をP社が請求人及びLに支払ったことは、いずれも、P社が直接M社に立退きに要する費用を支払うのと実質的に変わらないようにするためであると認められる。
 加えて、まる1上記1の(4)のロの(ロ)から(ホ)まで並びに(チ)及び(リ)のとおり、本件請求人宛協力金及び本件L宛協力金は、M社の立退きに要する費用を業者が作成した見積りに基づいて決定されたこと、まる2P社は、別表11の「協力金受領額」欄のとおり、平成19年に、請求人に対して合計○○○○円の本件請求人宛協力金を支払い、Lに対して合計○○○○円の本件L宛協力金を支払っているところ、別表11の「M社への支払額」欄のとおり、本件請求人宛協力金については協力金受領額○○○○円のうち支払額○○○○円(残額○○○○円)が、本件L宛協力金については協力金受領額○○○○円の全額がそれぞれM社に渡されていること、まる3平成20年は、合計○○○○円の本件請求人宛協力金及び合計○○○○円の本件L宛協力金の全額がM社に渡されていることを総合考慮すれば、無利息貸与方式とする各合意書面を作成した真意は、請求人又はLを介して、P社がM社に立退きに要する費用を支払うというものであり、その実質は、いずれも、P社がM社に支払う立退きに要する費用を、請求人及びLを介して支払ったものであると認めるのが相当である。
 したがって、本件請求人宛協力金は、M社に帰属し、請求人に帰属しない。
B ところで、まる1請求人は、本件調査担当者及び本件異議調査担当者に対し、本件請求人宛協力金及び本件L宛協力金を、P社からM社に対する支払とせず、P社から請求人又はLに対する貸与として、上記1の(4)のロの各合意書面を作成した旨申述し、P社財務経理部長Wも、本件異議調査担当者に対し、P社は、M社とではなく、請求人又はLという個人と取引、契約、支払をしたことに間違いない旨申述しているが、他方、まる2請求人は、P社d店の出店予定地の上にある建物はM社の所有であったから、P社から支払われたこれらの建物の移転に要する費用は、実質、M社のものである旨申述し、Wも、請求人又はLに対して支払った協力金は、個人口座を通過しただけでM社に支払ったものである旨申述しているのであるから、請求人及びWは、当初から、形式と真意は異なっていたことを申述していたと認められる。
 したがって、請求人及びWの上記まる1の各申述は、上記Aの認定に影響を及ぼすものではない。
 また、請求人は、別表11の「協力金受領額」欄の「請求人」欄及び「M社への支払額」欄の「請求人」欄のとおり、平成19年にP社から請求人に支払われた本件請求人宛協力金のうち○○○○円と平成21年にP社から請求人に支払われた本件請求人宛協力金のうち○○○○円との合計額○○○○円をM社に支払わなかったことが認められるが、まる1上記Aのとおり、本件請求人宛協力金及び本件L宛協力金は、M社の立退きに要する費用の見積もりに基づいて決定され、そのほとんどがM社に渡されていること、まる2別表11の「M社への支払額」欄及び「M社の取壊費用等の支払」欄のとおり、請求人及びLがM社に支払った金額は、平成19年はM社がX社等の工事業者に対して支払った金額を上回っていること、まる3平成21年4月以後にM社には工事業者に対する支払がなかったことからすれば、工事業者に対する支払があるまで請求人が預かったままとしていたことは、請求人がM社の代表取締役であることを考え合わせると、請求人がP社から本件請求人宛協力金を預かっていることと矛盾せず、不自然、不合理であるということにはならないから、上記Aの認定に影響を及ぼすものではない。
(ロ) 原処分庁の主張に対する判断について
 原処分庁は、上記2の(1)の「原処分庁」欄のとおり、本件請求人宛協力金は、M社が、P社に直接請求する権利を有せず、請求人からM社に支払われた金員は借地権の消滅の対価として支払われたものと認められるなどとして、請求人に帰属する旨主張する。
 しかしながら、M社がP社に本件請求人宛協力金を直接請求する権利がないことは、P社が、請求人及びLからP社d店の出店に必要な事業用地を賃借するために、M社に立退きのための費用を支払うことの妨げになるものではないから、本件請求人宛協力金が請求人に帰属する理由とならない。
 また、請求人からM社に支払われた金員が借地権の消滅の対価であるとする旨の主張は、請求人からM社に支払われた金員が請求人に帰属する金員であること、すなわち、本件請求人宛協力金が請求人に帰属することを前提とする主張であるところ、上記(イ)のAの経緯のとおり、本件請求人宛協力金は、請求人を介してP社からM社に支払われたものであるから、本件請求人宛協力金が借地権の消滅の対価であるとの原処分庁の主張は、その前提が成立せず認められない。
 さらに、本件請求人宛協力金の一部が本件調査が行われるまで請求人からM社に支払われなかったことは認められるが、上記(イ)のBのとおり、かかる事実は、請求人がP社から本件請求人宛協力金を預かっていたとの認定に影響を及ぼすものではない。
 したがって、この点に関する原処分庁の主張には理由がない。

(2) 争点2(本件請求人宛協力金が請求人に帰属するとした場合、本件請求人宛協力金の額は、不動産所得に係る総収入金額に算入すべきか否か。)

 上記(1)のロの(イ)のAのとおり、本件請求人宛協力金は、請求人に帰属するものではないから、本件請求人宛協力金を請求人の不動産所得に係る総収入金額に算入することはできない。

(3) 争点3(本件請求人宛協力金について、請求人が、P社との間で、賃料と相殺して返還する旨を記載した公正証書等の合意書面を作成したことは、通則法第68条第1項に規定する隠ぺい又は仮装に該当するか否か。)

 上記(1)のロの(イ)のAのとおり、本件請求人宛協力金は、請求人に帰属するものではないから、上記2の(3)の「原処分庁」欄の原処分庁の主張には理由がない。

(4) 本件各更正処分

イ 総所得金額
(イ) 不動産所得の金額
A 総収入金額
 上記(1)のロの(イ)のAのとおり、本件請求人宛協力金は、請求人に帰属しないから、不動産所得の収入金額に算入されない。
 原処分庁は、P社に賃貸した土地に係る本件各年分の不動産所得の収入金額について、別表14の「平成19年分」欄及び「平成20年分」欄の各「原処分庁主張額」欄のまる1欄のとおり、平成19年分が○○○○円、平成20年分が○○○○円であると主張し、平成19年分の当該金額は更正処分の金額○○○○円を上回り、平成20年分の当該金額は更正処分の金額○○○○円と同額であるところ、原処分庁主張額については、当審判所の調査によっても、別表13の「請求人に対する振込賃料の額」欄の「平成19年計」欄及び「平成20年計」欄のとおり、P社から請求人が指定する金融機関の口座に振り込まれた額と同額となることから、相当と認められる(なお、請求人は、上記1の(4)のニの(イ)のとおり、P社からの不動産所得の収入金額を、平成19年分について○○○○円、平成20年分について○○○○円とし、P社が平成19年12月に支払った平成20年1月分の賃料○○○○円を含めずに確定申告をしているが、これはP社作成の「不動産の使用料等の支払調書」の支払金額に基づいて確定申告したものであり、請求人は、P社が平成19年12月に支払った平成20年1月分の賃料○○○○円が平成19年分の不動産所得の収入金額となることについて争わない。)。
 そうすると、P社に賃貸した土地に係る本件各年分の不動産所得の収入金額は、別表14の「平成19年分」欄及び「平成20年分」欄の各「審判所認定額」欄のまる1欄のとおり、平成19年分が○○○○円、平成20年分が○○○○円となる。
 また、原処分庁は、その他の不動産に係る不動産所得の収入金額は、別表14の「原処分庁主張額」欄のまる6欄のとおり、平成19年分が○○○○円、平成20年分が○○○○円であると主張するところ、これらの金額は、本件各更正処分の額と同額であり、これらについては、請求人は争わず、当審判所の調査によっても相当と認められる。
 したがって、不動産所得に係る総収入金額は、別表14の「審判所認定額」欄のまる7欄のとおり、平成19年分が○○○○円、平成20年分が○○○○円となる。
B 必要経費
 原処分庁は、本件各年分の不動産所得の必要経費の額は、別表15の「原処分庁主張額」欄のまる2欄の各金額のとおり主張しているところ、これらの金額は確定申告額と同額であり、当審判所の調査によっても相当と認められる。
 したがって、本件各年分の不動産所得の必要経費の額は、別表15の「審判所認定額」のまる2欄のとおり、平成19年分が○○○○円、平成20年分が○○○○円となる。
C 青色申告特別控除額
 原処分庁は、本件各年分の不動産所得の金額から控除する青色申告特別控除額を別表15の「原処分庁主張額」欄のまる3欄の各金額のとおり主張しているところ、これらの金額は本件各更正処分の額と同額であり、これらについては、請求人は争わず、当審判所の調査によっても相当と認められる。
 したがって、本件各年分の不動産所得の金額から控除する青色申告特別控除額は、別表15の「審判所認定額」のまる3欄のとおり、いずれも100,000円となる。
D 不動産所得の金額
 本件各年分の不動産所得の金額は、上記Aの総収入金額から、上記Bの必要経費及び上記Cの青色申告特別控除額をそれぞれ控除した金額で、別表15の「審判所認定額」欄のまる4欄のとおり、平成19年分が○○○○円、平成20年分が○○○○円となる。
(ロ) その他の所得金額
 原処分庁は、本件各年分の事業所得の金額、配当所得の金額、給与所得の金額及び雑所得の金額を別表15の「原処分庁主張額」欄のまる5欄からまる8欄までの各金額のとおり主張しているところ、これらの金額は本件各更正処分の額と同額であり、これらについては、請求人は争わず、当審判所の調査によっても相当と認められる。
 したがって、別表15の「審判所認定額」欄のまる5欄からまる8欄までのとおり、平成19年分については、事業所得の金額が○○○○円、配当所得の金額が○○○○円、給与所得の金額が○○○○円、雑所得の金額が○○○○円、また、平成20年分については、事業所得の金額が○○○○円、配当所得の金額が○○○○円、給与所得の金額が○○○○円、雑所得の金額が○○○○円となる。
(ハ) 総所得金額
 本件各年分の総所得金額は、別表15の「審判所認定額」欄のまる9欄のとおり、上記(イ)のDの金額と上記(ロ)の金額の合計額で、平成19年分が○○○○円、平成20年分が○○○○円となる。
ロ 上場株式等に係る譲渡所得の金額
 原処分庁は、本件各年分の上場株式等に係る譲渡所得の金額を、別表15の「原処分庁主張額」欄のまる10欄の各金額と主張しているところ、これらの金額は本件各更正処分の額と同額であり、これらについては、請求人は争わず、当審判所の調査によっても相当と認められる。
 したがって、本件各年分の上場株式等に係る譲渡所得の金額は、別表15の「審判所認定額」欄のまる10欄のとおり、平成19年分が○○○○円、平成20年分が○○○○円となる。
ハ 本件各更正処分
 上記イの(ハ)及びロのとおり、平成19年分の総所得金額は○○○○円及び上場株式等に係る譲渡所得の金額は○○○○円となり、後者の金額は、更正処分のその額と同額となるが、前者の金額は、更正処分のその額を下回るから、平成19年分の更正処分は、その一部を別紙「取消額等計算書」のとおり取り消すべきである。
 また、上記イの(ハ)及びロのとおり、平成20年分の総所得金額は○○○○円及び上場株式等に係る譲渡所得の金額は○○○○円となり、後者の金額は、更正処分のその額と同額となるが、前者の金額は、更正処分のその額及び確定申告のその額をいずれも下回るから、平成20年分の更正処分は、その全部を取り消すべきである。

(5) 本件各賦課決定処分

 上記(4)のハのとおり、平成19年分の更正処分の一部取消しに伴い、確定申告額を上回る所得金額に相当する部分は、上記(4)のイの(イ)のAのとおり、本件請求人宛協力金を不動産所得の金額の計算上総収入金額に算入していないことにより増加したものではなく、P社作成の「不動産の使用料等の支払調書」の支払金額に基づいて賃料を総収入金額に算入したことにより、平成20年1月分の賃料が総収入金額への算入漏れとなり、生じたものである。
 そうすると、確定申告額を上回る所得金額に相当する部分を基礎とする税額は○○○○円となり、当該税額の計算の基礎となった事実については、通則法第65条第4項に規定する正当な理由があるとは認められないので、過少申告加算税の税額は○○○○円となるから、平成19年分の重加算税の賦課決定処分は、過少申告加算税相当額を超える部分を別紙「取消額等計算書」のとおり取り消すべきである。
 また、上記(4)のハのとおり、平成20年分の更正処分はその全部を取り消すから、平成20年分の重加算税の賦課決定処分もその全部を取り消すべきである。

(6) その他

 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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