(平成24年6月19日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)の法人税について、原処分庁が、請求人は帳簿書類の備付け等をしていなかったとして青色申告の承認の取消処分を行うとともに、法人税並びに消費税及び地方消費税の更正処分等を行ったのに対し、請求人が、帳簿書類の備付け等がなかったことには正当な理由があるなどとして、その全部の取消しを求めた事案である。

(2) 審査請求に至る経緯

イ 法人税の青色申告の承認の取消処分についての審査請求(平成23年8月22日請求)に至る経緯は、別表1−1記載のとおりである。
ロ 平成15年7月1日から平成16年6月30日まで、平成17年1月1日から平成17年12月31日まで、平成18年1月1日から平成18年12月31日まで、平成19年1月1日から平成19年12月31日まで、平成20年1月1日から平成20年12月31日まで及び平成21年1月1日から平成21年12月31日までの各事業年度(以下「平成16年6月期」などといい、各事業年度を併せて「本件各事業年度」という。)の法人税についての審査請求(平成23年8月22日請求)に至る経緯は、別表1−2記載のとおりである。
 なお、以下、本件各事業年度の法人税について、平成23年3月25日付でされた各更正処分のうち平成21年12月期の更正処分を除く各更正処分及び平成23年5月27日付でされた各再更正処分を併せて「本件法人税各更正処分」という。また、平成23年3月25日付及び平成23年5月27日付でされた法人税に係る過少申告加算税の各賦課決定処分を「本件法人税各賦課決定処分」という。
ハ 平成20年1月1日から平成20年12月31日まで及び平成21年1月1日から平成21年12月31日までの各課税期間(以下「平成20年12月課税期間」及び「平成21年12月課税期間」といい、これらを併せて「本件各課税期間」という。)の消費税及び地方消費税(以下「消費税等」という。)についての審査請求(平成23年8月22日請求)に至る経緯は、別表1−3記載のとおりである。
 なお、以下、この本件各課税期間の消費税等の各更正処分を「本件消費税等各更正処分」といい、過少申告加算税の各賦課決定処分を「本件消費税等各賦課決定処分」という。

(3) 関係法令等

 別紙5のとおりである。

(4) 基礎事実

 以下の事実については、請求人と原処分庁との間に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。
イ 請求人は、金属製品製造業を営む法人であり、請求人の代表取締役は、H(以下「本件代表者」という。)及びFである。
 なお、請求人の平成21年12月期における売上金額は約○○○○円である。
ロ 請求人は、J社に対し、別表2記載のとおり、請求人が所有する各株式を譲渡した(以下、この譲渡した各株式を併せて「本件譲渡株式」という。)。本件譲渡株式は、いずれも東証一部上場株式であり、本件譲渡株式の譲渡日における東証一部の終値は、それぞれ同表の「終値」欄記載のとおりである(以下、この譲渡時における各終値を「譲渡時市場価格」という。)。
ハ 請求人は、平成21年2月19日に、K社から東証一部上場株式であるL銀行の株式1,002,400株(以下「本件取得株式」という。)を1株当たり○○○○円で取得した。本件取得株式の取得日における東証一部の終値は1株当たり○○○○円である(以下、この取得時における終値を「取得時市場価格」という。)。
ニ 原処分庁所属の調査担当職員(以下「本件調査担当職員」という。)は、平成22年10月5日に、事前に通知することなく請求人の本社事務所に赴き、請求人の税務調査(以下「本件調査」という。)に着手した。また、本件調査の着手に併せ、請求人の関連法人であるK社、N社ほか○社(以下、これら請求人の関連法人を「グループ各社」という。)についても、平成22年10月5日に事前に通知することなくグループ各社に係る税務調査が開始された。
ホ P税務署長は、平成23年3月25日付で、青色申告の承認の取消通知書、更正通知書及び加算税の賦課決定通知書にG国税局の職員の調査に基づく処分である旨を記載して、平成16年6月期以後の法人税の青色申告の承認の取消処分(以下「本件青色申告承認の取消処分」という。)を行うとともに、措置法第42条の6《中小企業者等が機械等を取得した場合の特別償却又は法人税額の特別控除》第1項に規定する「青色申告書を提出するもの」に該当しなくなるとして、同項の規定を適用できないとするなどの内容の法人税の各更正処分等及び仕入税額控除の一部を認めないとする内容の消費税等の各更正処分等を行った。
 なお、本件青色申告承認の取消処分に係る通知書(以下「本件取消通知書」という。)には、別紙6のとおり、当該処分の理由が記載されている。
ヘ P税務署長は、平成23年5月27日付で、更正通知書及び加算税の賦課決定通知書にG国税局の職員の調査に基づく処分である旨を記載して、本件譲渡株式の譲渡時市場価格に基づき算定される価額と譲渡価額との差額(以下「本件譲渡差額」という。)が寄附金となること、本件取得株式の取得時市場価格に基づき算定される価額と購入価額との差額(以下「本件取得差額」という。)が受贈益となること、及び本件青色申告承認の取消処分に伴い、請求人が措置法第67条の5の規定を適用して取得価額の全額を損金の額に算入した減価償却資産(以下「本件減価償却資産」という。)につき、その全額の損金算入を認めないことを内容とする法人税の再更正処分等を行った。

(5) 争点

イ 本件調査の手続に違法又は不当があるとして、原処分が取り消されるべきか否か。
ロ 本件取消通知書の理由付記は、法人税法第127条第2項に規定する理由付記の要件を満たしているか否か。
ハ 本件青色申告承認の取消処分が取消しの根拠を欠く違法又は不当な処分であるか否か。
ニ 本件減価償却資産につき、償却限度額に達するまでの金額が減価償却費として損金の額に算入されるか否か。
ホ 本件譲渡差額が寄附金の額に当たるとして行われた原処分に違法又は不当があるか否か。
ヘ 本件取得差額が益金の額に算入されるとして行われた原処分に違法又は不当があるか否か。
ト 通則法第24条に規定する「調査」がなかったとして、本件消費税等各更正処分が取り消されるべきか否か。

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2 主張

(1) 争点イについて

イ 原処分庁
 以下のとおり、本件調査の手続に違法又は不当はなく、原処分を取り消すべき理由はない。
(イ) 質問検査権の行使については、社会通念上相当な程度にとどまる限り、権限ある税務職員の合理的な選択に委ねられているところ、本件調査において事前通知をしなかったことに合理性を欠く点は認められず、請求人に対する調査理由の開示がないことをもって違法又は不当な点があるということはできない。
(ロ) また、グループ各社及びこれに関連すると見込まれる事業所に臨場して行われた本件調査に合理性を欠いた点は認められず、任意調査を逸脱するような違法又は不当な点は認められない。
ロ 請求人
 以下のとおり、本件調査の手続には違法又は不当があるから、原処分は取り消されるべきである。
(イ) 本件調査は、13年ぶりに事前通知も調査目的の説明もなく行われ、任意調査としながらも、請求人だけではなく、グループ各社に総勢○名で行われた。また、調査初日に、本件調査担当職員に調査理由を尋ねた際、何もなければ○人で来ないと言われた。これらによる本件調査は、国家権力と数の力で請求人を恫喝するものである。
(ロ) その上、請求人とは関係のないグループ各社の事務所に立ち入り、居座り、営業の妨害が行われるなど、その調査は、権力を笠に着た恫喝で、説明もなしに帳簿書類の提示を求めるものであった。また、本件調査の結果からみても、6年前の帳簿書類の保存の有無を理由とした処分以外は上記による調査とは関連のないものであり、本件調査が権力を笠に着た「宝探し」であったことは明らかであるから、本件調査は、権利の濫用にほかならず、任意調査として許されない。
(ハ) 原処分に当たり、請求人と関係のない者に対して長時間にわたる違法又は不当な調査が行われており、具体的には次のとおりである。
A K社の税務調査において、平成23年1月24日午後7時30分頃、請求人の女性社員宅を税務職員が突然訪問し、長時間にわたる調査が行われた。
B N社の税務調査において、平成22年10月5日午前9時40分から午後5時50分まで税務調査を受け、営業に大きな支障を受けた。
C Q社が請求人の関連法人のことで聞きたいといって訪問を受け、平成22年10月5日午前10時から午後4時45分まで合計○名の調査担当職員による質問を受け、営業妨害を受けた。
D K社の国税局等職員合計○名による税務調査において、平成22年10月5日午前10時から午後まで強引に居座られ、商談の妨害を受けた。
(ニ) 事前通知や具体的な調査の目的、具体的な調査の対象等を告げていない本件調査担当職員の臨場は、通則法第24条が予定し、必要としている調査には当たらない。

(2) 争点ロについて

イ 原処分庁
 次のとおり、本件取消通知書の理由付記は、法人税法第127条第2項に規定する理由付記の要件を満たしている。
(イ) 青色申告承認の取消通知書には、その取消処分の基因となった事実が法人税法第127条第1項各号のいずれに該当するか、また、取消しの基因となった事実自体について、処分の相手方が具体的に知り得る程度に特定して摘示すれば足りると解される。
(ロ) 本件取消通知書には「H及び取締役総務部長Rに帳簿書類の提示を求めたところ、その提示がなかった」との具体的事実及び当該事実が法人税法第127条第1項第1号に該当する旨が付記されており、理由付記の要件を満たしている。
ロ 請求人
 次のとおり、本件取消通知書の理由付記は、法人税法第127条第2項に規定する理由付記の要件を満たしていない。
(イ) 青色申告承認の取消通知書の理由付記は、まる1課税庁の判断の慎重・合理性を担保して課税庁の恣意を抑制し、まる2処分の理由を納税者に知らせて不服の申立てに便宜を与えるためのものである。そして、理由付記の程度としては、取消しの基因となった理由の該当条文の記載だけでは足りず、取消しの基因となった具体的事実の摘示が必要とされる。
(ロ) 本件取消通知書の理由付記は、取消処分の該当条項だけが記載されているに等しい。また、本件においては、本社の大規模な引越しによって、6年前及び7年前の帳簿書類の提示を突然要求されてもすぐに提示できなかったという特別の事情がある場合にも帳簿書類の提示拒否に当たるか否かが問われていたところ、本件取消通知書には、この点についての記載がなく、取消処分の基因となった事実の記載を欠いている。

(3) 争点ハについて

イ 原処分庁
 次のとおり、本件青色申告承認の取消処分は、取消しの根拠を欠く違法又は不当な処分ではない。
(イ) 本件調査担当職員は、再三再四にわたり帳簿書類の提示を要求したにもかかわらず、本件代表者は、平成16年6月期の帳簿書類は紛失した旨回答し、平成16年6月期の帳簿書類を提示しなかったことから、請求人は平成16年6月期の帳簿書類を保存していないと推認するのが相当である。
(ロ) 国税庁長官発遣の平成12年7月3日付課法2−10ほか3課共同「法人の青色申告の承認の取消しについて」と題する事務運営指針(以下「本件事務運営指針」という。)は、青色申告の承認の取消しは、真に青色申告書を提出するにふさわしくない場合に行う旨定めており、これに該当するか否かについては、主として、帳簿書類を備え付けていないことについて「請求人の責に帰し得ない特段の事情」の有無により判断するのが相当であるところ、本件代表者は帳簿書類を紛失した旨申述するのみで、当該紛失をしたことにつき請求人の責に帰し得ない特段の事情を認めるに足りる証拠を提出していない。そうすると、平成16年6月期の帳簿書類を備え付けていないことについて「請求人の責に帰し得ない特段の事情」があるとは認められない。
ロ 請求人
 次のとおり、本件青色申告承認の取消処分は、取消しの根拠を欠く違法又は不当な処分である。
(イ) 青色申告承認の取消処分は、帳簿書類の提出拒否が帳簿書類の備付け等がないのと同一視されることにより取消理由となるのではなく、正当な理由がなく帳簿書類の提出を故意に拒否した場合に取消理由となるものである。請求人は、平成17年から平成19年にかけて本社の大規模な引越しがあったという特別の事情により書類が混乱し、一部の帳簿書類を探しても見つからずどうしても提出できなかったものであり、しかも、その帳簿書類は6年以上も前の帳簿書類である。そうすると、請求人には、平成16年6月期の帳簿書類を提出することが難しかったという「正当な理由」があるから、青色申告の承認が取り消されるべき理由がない。
 なお、請求人は、本件調査において本件調査担当職員から青色申告の承認が取り消される旨の説明を全く受けておらず、原処分庁は誤った事実に基づいて判断しているところ、請求人がこの点について繰り返し指摘しているにもかかわらず、原処分庁は全く反論や異議を申し立てず、請求人の主張を認めている。
(ロ) これに加え、本件事務運営指針は「真に青色申告書を提出するにふさわしくない場合」に限って取消処分を行うこととしているところ、上記(イ)のとおり帳簿書類の提出が困難であったことや平成17年12月期以降の帳簿書類は保存及び備付けがされており、その内容に指摘を受ける非違事項がなかったことからすれば、本件については、本件事務運営指針に照らし、青色申告の承認が取り消されるべき場合に当たらない。
 なお、原処分庁は「請求人の責に帰し得ない特段の事情」の有無により判断するのが相当としながら、請求人が具体的な事情説明を行っているにもかかわらず、その判断基準を明らかにせず具体的な説明をしていない。しかも、本件調査担当職員から「請求人の責に帰し得ない特段の事情」に係る帳簿書類の保管、管理、移動状況等についての質問調査等を全く受けていない。このように、原処分庁が質問調査、臨場調査等を行うことなく法人税法第127条第1項第1号及び本件事務運営指針に反して「請求人の責に帰し得ない特段の事情」があるとは認められないと判断したことは、調査不尽の違法又は不当な判断といわざるを得ない。
(ハ) 請求人が平成16年6月期の帳簿書類を提示できなかったことには「正当な理由」があり、帳簿書類を備付け、保存していなかった場合に当たらず、取消処分の法的根拠を欠いているだけではなく、そもそも青色申告制度は記帳慣行を向上・定着させるための制度であるから、平成17年12月期以降の帳簿書類が適法に備付け又は保存がされていることが明らかとなっているにもかかわらず取消処分を行うことは、青色申告制度のそもそもの立法趣旨に反するものであり、取消権の濫用である。
(ニ) 本件事務運営指針は、「法人税法第127条第1項各号に掲げる事実及びその程度、記帳状況、改善可能性等を総合勘案の上」、「真に青色申告書を提出するにふさわしくない場合」に限って取消処分を行うことを定めているところ、本件青色申告承認の取消処分は、特に記帳状況、改善可能性等についての総合勘案を欠いており、青色申告承認の取消処分の運用等について定めた本件事務運営指針の基準に明らかに違反している。
(ホ) 帳簿書類の提示は、飽くまでも申告所得の適否を確認するための手段であるが、平成16年6月期又は平成16年12月期の課税所得及び確定申告の適否、特に欠損金額の基因となった平成16年6月期の固定資産売却損については、原処分庁に提出済の確定申告書の添付書類である「固定資産の内訳書」に、売却日、売却先、帳簿価額及び売却金額の記載があるので、当該内訳書に記載のM社及びN社の反面調査を行い、契約書等の書類を精査すれば取引の実態を把握することができ、ひいては欠損金額の適否の確認ができたことになる。しかしながら、原処分庁は、青色申告承認の取消処分が納税者の特典を剥奪する不利益処分であり、本件事務運営指針にも定められているとおり、改善可能性等を総合勘案の上、真に青色申告書を提出するにふさわしくない場合についてのみ取消処分を行うこととされているにもかかわらず、容易にできる申告所得の適否を確認する手続を放棄し、即座に取消処分をしているので、青色申告制度のそもそもの立法趣旨及び本件事務運営指針に違反し、取消権の濫用に当たる。
(ヘ) 平成22年12月1日裁決・裁決事例集81号339頁(以下「先例裁決」という。)は、帳簿の改善可能性等が本件と比較して改善されているとはいえない事案について、取消制度の立法趣旨を総合勘案した上で、不当な処分であるとして取り消している。青色申告承認の取消処分は、本件事務運営指針が定めている取扱基準に従い慎重に運用されるべきであり、先例裁決に照らし、本件青色申告承認の取消処分が違法でないとしても、不当な処分として取り消されるべきである。

(4) 争点ニについて

イ 原処分庁
 本件調査担当職員は、本件減価償却資産に係る説明や資料の提出要請を行ったが、当該資料の提出がなく、償却限度額の計算をすることが不可能であったから、原処分庁は、その全額の損金算入を認めないとする内容の法人税の各更正処分を行った。仮に、請求人から本件減価償却資産の用途や耐用年数が明らかにされ、実際に事業の用に供されていれば、償却限度額に達するまでの金額を損金の額に算入することとなる。
 なお、請求人から、本件調査及び異議調査の際に資料の提出がなかったことから、原処分庁は、償却限度額に達するまでの金額の正否を判断できない。
ロ 請求人
 請求人は、審査請求の審理に当たり、本件減価償却資産の取得に係る各請求書及び本件減価償却資産の償却限度額の計算明細書を提出したところ、これに基づき算定される償却限度額に達するまでの金額が損金の額に算入される。

(5) 争点ホについて

イ 原処分庁
 次のとおり、本件譲渡差額が寄附金の額に当たるとして行われた原処分に違法又は不当はない。
(イ) 法人が資産を譲渡した場合において、その譲渡対価の額がその譲渡の時における価額に比して低いときは、その差額のうち実質的に贈与したと認められる金額が寄附金の額に含まれるところ、本件譲渡株式の譲渡価額を譲渡時市場価格に基づく価額の9割相当額とした具体的根拠がなく、上記譲渡価額が合理的な方法により計算されたものとは認められない。
 よって、本件譲渡差額は、J社に対する経済的な利益の供与として寄附金の額に当たる。
(ロ) 請求人は、本件調査において、原処分庁が本件譲渡株式について一切取り上げていない旨主張するが、本件調査担当職員は平成23年3月16日及び同年4月21日に本件譲渡株式について説明をしており、その帳簿書類も確認していることから、請求人の主張には理由がない。
ロ 請求人
 次のとおり、本件譲渡差額が寄附金の額に当たるとして行われた原処分には違法又は不当がある。
(イ) 贈与又は受贈においては、その両当事者間に贈与したこと又は受贈されたことの認識や、少なくともその推認ができる事実関係があって成立するものであるが、本件譲渡株式の譲渡において請求人に贈与の認識はないから、本件譲渡差額は、経済的な利益の供与には当たらず、寄附金の額に算入されない。
(ロ) 本件調査において原処分庁が指摘した事項の中には、本件譲渡株式について一切取り上げられていなかったところ、本件譲渡差額が寄附金の額に当たるとして行われた原処分は、通則法第24条に規定する調査を欠くものである。
(ハ) 株式の時価は、いわゆる有利発行の場合に限らず、株式公開買付けの場合についても取引所の終値の少なくとも10%前後のレンジ内で取得されることは他人を介在させない相対の取引慣行として不当・不合理なことではない。よって、10%以内の本件譲渡差額を課税の対象とすることは違法又は不当である。

(6) 争点ヘについて

イ 原処分庁
 次のとおり、本件取得差額が益金の額に算入されるとして行われた原処分に違法又は不当はない。
(イ) 請求人が、本件取得株式の購入価額を市場価格の9割相当額とした具体的根拠がなく、上記購入価額が合理的な方法により計算されたものとは認められない。よって、本件取得差額は、無償による資産の譲受けに当たり、受贈益として益金の額に算入される。
 なお、請求人は、法人税基本通達2−3−7に定める10%の基準が認められるべきである旨主張するが、同通達は、いわゆる有利発行の場合における価額について定めたものであり、有価証券の売買の場合と前提を異にするものであるから、通常の取得価額の是非の判断の際に同通達の基準を用いることに合理的な理由はない。
(ロ) 請求人は、本件調査において、原処分庁が本件取得株式について質問調査を一切行っていない旨主張するが、本件調査担当職員は平成23年3月16日及び同年4月21日に本件取得株式について説明をしており、帳簿書類も確認していることから、請求人の主張には理由がない。
ロ 請求人
 次のとおり、本件取得差額が益金の額に算入されるとして行われた原処分には違法又は不当がある。
(イ) 贈与又は受贈においては、その両当事者間に贈与したこと又は受贈されたことの認識や、少なくともその推認ができる事実関係があって成立するものであるが、本件取得株式の取得において請求人に受贈の認識はない。また、法人税基本通達2−3−7は、その取引価額が社会通念上相当と認められるか否かの判定につき、10%相当額を基準として判定することを示しているところ、このことを考慮すると、本件取得株式の売買価額は、社会通念上妥当と認められる金額である。よって、本件取得差額は、無償による資産の譲受けに当たらず、益金の額に算入されない。
(ロ) 原処分庁は、本件調査において、本件取得株式について質問調査を一切行っていないところ、本件取得差額が益金の額に算入されるとして行われた原処分は、通則法第24条に規定する調査を欠くものである。
(ハ) 上記(5)ロ(ハ)と同様に、10%以内の本件取得差額を課税の対象とすることは違法又は不当である。

(7) 争点トについて

イ 原処分庁
 次のとおり、本件消費税等各更正処分に係る税務調査は行われているから、同処分に違法又は不当はなく、取り消されるべき理由はない。
(イ) 本件調査担当職員は、平成22年10月5日に、本件代表者に対し、法人税、消費税等及び源泉所得税の税務調査のために臨場した旨告げたこと。
(ロ) 法人税及び消費税等の質問検査権を付与された本件調査担当職員が本件調査を行っていること。
(ハ) 本件調査において、K社に対する機械の賃借料及びS社に対する人間ドック等の支出について、計上金額等の適否及び課税仕入れの計上金額等の適否について帳簿書類で確認していること。
ロ 請求人
 消費税等の更正処分についても、通則法第24条に規定するところにより、調査の結果に基づいて行われるべきものであるところ、次のとおり、本件消費税等各更正処分は、事前の調査がなく、「あと出し」で本件法人税各更正処分と連動して全く唐突に行われたものであるから、本件消費税等各更正処分は違法又は不当であり、取り消されるべきである。
(イ) 本件調査担当職員は平成22年10月5日に本件代表者に会っているが、事前通知がなかっただけではなく、面会に当たり法人税、消費税等及び源泉所得税の税務調査のために臨場したことを告げていないし、具体的な調査の目的、具体的な対象等を告げていない。このような税務職員の臨場は、およそ通則法第24条が予定し、必要としている事前の税務調査には当たらないものである。
(ロ) 異議決定書において、本件消費税等各更正処分をした理由としているK社に対する控除対象仕入税額の二重控除やS社に対する支出を控除対象仕入税額から控除している理由は、異議決定書の付記理由として不備である。また、請求人の弁明を聴かないで更正処分がされている。

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3 判断

(1) 平成23年3月25日付でされた平成21年12月期の法人税の更正処分について

 請求人は、平成23年3月25日付でされた平成21年12月期の法人税の更正処分の取消しを求めて審査請求をしたが、当該更正処分は、別表1−2の「更正処分等」欄記載のとおり、納付すべき税額を増加させるものではなく、請求人の権利又は利益を侵害するものとはいえない。
 したがって、平成23年3月25日付でされた平成21年12月期の法人税の更正処分に対する審査請求は、請求の利益を欠く不適法なものである。

(2) 争点イについて

イ 法令解釈
(イ) 税務調査に関して、納税者に対して事前に通知すること及び調査目的の説明をすることを定めた法令上の規定はなく、法人税法第153条第1項及び消費税法第62条第1項に質問検査権の行使について規定されているところ、その行使の時期、範囲、程度、方法、手段等の実定法上特段の定めのない実施の細目については、質問検査の必要があり、かつ、これと相手方の私的利益との比較衡量において、社会通念上相当な限度にとどまる限り、これを行使する税務職員の合理的な判断に委ねられていると解するのが相当である。また、質問検査による税務調査は、租税実体法によって成立した抽象的な納税義務を具体的に確定するための事実行為であって、課税処分とは本来別個のものであり、調査手続の違法は、それが刑罰法規に触れたり、公序良俗に反する等およそ税務調査を行ったといえないと評価されるほどの違法性の程度が著しい場合を除いては課税処分の取消事由にはならないと解するのが相当である。
(ロ) また、通則法第24条でいう「調査」とは、課税庁が課税標準等又は税額等を認定するに至る一連の判断過程の一切を意味するものと解され、課税庁の証拠資料の収集、証拠の評価あるいは経験則を通じての要件事実の認定、租税法その他の法令の解釈を経て更正処分に至るまでの思考、判断を含む極めて包括的な概念であり、課税庁が内部において既に収集した資料を検討して正当な課税標準等又は税額等を認定することも、同条に規定する調査に含まれると解するのが相当である。
ロ 認定事実
 原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の各事実が認められる。
(イ) 本件調査担当職員は、平成22年10月5日に、事前に通知することなく請求人の本社事務所に赴き、請求人の取締役総務部長であるR(以下「総務部長」という。)に対し、請求人の税務調査のために訪れた旨を告げて協力を要請したところ、総務部長が上司の指示がなければ協力できない旨述べたため、本件調査担当職員は、総務部長に本件代表者への連絡を依頼したものの、不通であったことから、本社事務所内で待機した。
 その後、本件代表者が本社事務所に出社したことから、本件調査担当職員は、顧問税理士立会いの下、本件調査への協力を要請したところ、本件代表者は、「何十人が突然来て憤慨しており、到底受忍できないので現況調査は拒否する。ただし、基本的には調査に全面的に協力する。調査に協力する上での要望として、そちらが直接書類を見に行くのではなく、見たい書類を紙に書いて出せば用意させる。会議室に運ぶのでそこで確認してほしい。ただし、見せるか見せないかは私が判断する。」などと述べた。このため、本件調査担当職員は、ある書類については見せてほしい旨及び工場内の機械等については実際に現物を確認させてほしい旨依頼し、翌日に機械等を確認することで本件代表者の了解を得た。その後、本件調査担当職員は、請求人の事業概況等を聴取した後、退社した。
(ロ) 本件調査担当職員は、平成22年10月6日に、請求人の本社事務所に赴いて本件代表者と面談し、確認したい書類を書面にしてその準備を依頼した。その後、本件調査担当職員は、総務部長から請求人の業務内容等及び請求人が作成・保存している帳簿書類について聴取した後、平成16年6月期から平成21年12月期までの総勘定元帳など確認したい帳簿書類を書面に記して提示を依頼したところ、新しい年度から順次提示されたため、提示された帳簿書類の調査を行った。
 なお、同日、平成16年6月期の帳簿書類は提示されなかった。
(ハ) 本件調査担当職員は、平成22年10月7日に、請求人の本社事務所に赴き、総務部長に対し、未提示の帳簿書類の提示を依頼するとともに、追加で確認したい帳簿書類を書面に記して提示を依頼したところ、準備ができた帳簿書類から順次提示されたため、提示された帳簿書類の調査を行った。
 なお、同日、平成16年6月期の帳簿書類は提示されなかった。
(ニ) 本件調査担当職員は、平成22年10月22日に、請求人の本社事務所に赴き、帳簿書類の調査を行った。その後、本件代表者が出社したため、同人に対し、未提示の平成16年6月期、平成16年12月期及び平成17年12月期の総勘定元帳等を早急に提示してほしい旨依頼したところ、同人が「帳簿がなかなか見つからない。c市からa市に引越しした際に紛失したのかもしれない。もし紛失していた場合はどうなるか。」などと述べたため、本件調査担当職員は、青色申告承認の取消処分の可能性がある旨及び再度よく探して提示してほしい旨説明した。
(ホ) 本件調査担当職員は、平成22年12月6日に、請求人の本社事務所に赴き、帳簿書類の調査を行った。その際、平成17年12月期の総勘定元帳等が提示されたため、本件調査担当職員は、本件代表者に対し、平成16年12月期以前の帳簿書類について確認したところ、同人は「見つからないものは見つからない。罰金でも何でも勝手にやればいい。」などと述べた。これに対し、本件調査担当職員は、引き続きよく探してほしい旨依頼した。
(ヘ) 本件調査担当職員は、平成22年12月7日に、請求人の本社事務所に赴き、帳簿書類の調査を行った。その際、総務部長に対し、平成16年6月期及び平成16年12月期の帳簿書類を早急に提示するよう依頼したところ、総務部長は、平成16年12月期以前の帳簿書類については平成18年10月頃の本社引越しの際に紛失した旨説明した。
(ト) 本件調査担当職員は、平成22年12月16日に、顧問税理士からの要請に基づき、G国税局内の共用会議室において同税理士と面談した。その際、本件調査担当職員は、「平成16年6月期及び平成16年12月期の帳簿書類は、本社移転の際に紛失したことで間違いないですか。」などと尋ねたところ、顧問税理士は「私の聞いた話によれば引越しした時に紛失したと聞いている。なぜその件にこだわるのか。」などと回答した。これに対し、本件調査担当職員は、これらの帳簿書類の保存期間が7年間であること及び青色申告承認の取消しの問題が生じる可能性が高いことなどを説明した。
(チ) 本件調査担当職員は、平成23年1月11日に、G国税局内の共用会議室において、総務部長及び顧問税理士と面談した。その際、本件調査担当職員は、平成16年6月期及び平成16年12月期の帳簿書類を本社移転の際に紛失したという点について確認したところ、顧問税理士は「そのように聞いている。」などと回答した。これに対し、本件調査担当職員が青色申告承認の取消処分をする場合がある旨説明したところ、顧問税理士は「それは恫喝しているのですか。」などと述べたため、本件調査担当職員は、恫喝ではなく、事実関係と法律に基づいて述べている旨説明した。
(リ) 本件調査担当職員は、平成23年1月20日に、請求人が譲渡した美術品を確認するため、c市d町のT社内の校舎建物に赴き、本件代表者と面談した。その際、本件調査担当職員は、平成16年6月期及び平成16年12月期の帳簿書類について、調査に必要があること及び青色申告承認の取消処分の問題があることを説明し、「本社移転の際に紛失して見つからないのか。」などと尋ねたところ、本件代表者は「無いということでよい。」などと回答した。
(ヌ) 本件調査担当職員は、平成23年2月28日に、G国税局内の共用会議室において、総務部長及び顧問税理士と面談し、本件調査の処理方針として、平成16年6月期及び平成16年12月期の帳簿書類の提示を求めたがその保存がないため、平成16年6月期以後の青色申告の承認を取り消す旨伝えた。これに対し、総務部長及び顧問税理士は、青色申告承認の取消しの件はこれまで聞いておらず、また、直近5年の調査の中で不正がないのに取り消されるのは納得がいかない旨述べた。
(ル) 本件調査担当職員は、平成23年3月4日に、請求人の本社事務所に赴き、本件代表者、総務部長及び顧問税理士等と面談し、本件調査の処理方針を説明した。その際、本件代表者は、「青色申告承認の取消しの話は今日初めて聞いたが、普通こうした大きな問題は正式に場を設けて話すべきではないか。それは恫喝ではないのか。」などと述べたため、本件調査担当職員は、恫喝ではなく事実関係に基づいて話をしている旨及び以前から本件代表者を含め青色申告承認の取消しの話をしている旨説明した。これに対し、本件代表者は「それは立ち話だろう。正式な場所の話ではない。」などと述べた。
(ヲ) 本件調査担当職員は、平成23年3月16日に、G国税局内の面接室において顧問税理士等と面談し、本件調査に基づく更正処分の内容を説明した。その際、本件減価償却資産に関する明細の提出を要請するとともに、本件取得差額を受贈益として処理する可能性がある旨及び本件譲渡差額についても同様の問題がある旨説明した。
(ワ) 本件調査担当職員は、平成23年3月17日に顧問税理士に架電し、本件減価償却資産に関する明細の提出時期について尋ねたところ、顧問税理士は「明細は、資産の内訳が分からないため提出できない。」などと回答した。
(カ) P税務署長は、上記1(4)ホのとおり、平成23年3月25日付で、本件青色申告承認の取消処分、法人税の各更正処分等及び消費税等の各更正処分等を行った。
 なお、同日付の法人税の各更正処分には、上記(ヲ)で本件調査担当職員が説明した内容は含まれていない。
(ヨ) 本件調査担当職員は、平成23年4月21日に、G国税局内の面接室において顧問税理士等と面談し、本件譲渡差額が寄附金となること、本件取得差額が受贈益となること及び本件減価償却資産に関する明細の提出がないことから取得価額全額の損金算入を否認する内容の法人税の再更正処分を行う旨説明した。その際、顧問税理士が「本件減価償却資産については認容額があるのではないか。」などと述べたことから、本件調査担当職員は、準備期間をとったが明細書等の提出がなかったため全額を否認するものであり、認容ができない訳ではない旨説明した。また、本件調査担当職員は、面談の内容を請求人に伝えてほしい旨依頼し、顧問税理士はこれを了承した。
(タ) P税務署長は、上記1(4)ヘのとおり、平成23年5月27日付で、法人税の各再更正処分等を行った。
ハ 判断
(イ) 上記イ(イ)のとおり、質問検査権の行使の時期、範囲、程度、方法、手段等については、これを行使する税務職員の合理的な判断に委ねられていると解するのが相当であるところ、上記ロの各事実からすると、本件調査における質問検査権の行使等について、不合理な点は認められない。
(ロ) この点に関し、請求人は、事前通知や調査目的の説明もなく、請求人及びグループ各社に対し総勢○名で一斉に立ち入ったとして、本件調査が請求人を恫喝するもので違法又は不当な調査である旨主張する。
 しかしながら、上記イ(イ)のとおり、税務調査に関して、納税者に対して事前に通知をすることや調査目的の説明をすることを定めた法令上の規定はなく、上記ロ(イ)のとおり、本件調査担当職員は、平成22年10月5日に請求人の本社事務所に赴いた際、総務部長や本件代表者に対して請求人の税務調査のために訪れた旨を告げて調査への協力を要請しているのであるから、それ以上の調査目的の具体的な説明がなかったとしても本件調査が違法又は不当となるものではない。また、請求人の事業規模や請求人が多数の関連法人を有すること並びに請求人及びグループ各社間に取引が存在し、請求人に対する調査だけでは取引の実態を解明することが困難な場合もあることからすると、事前通知をせずに請求人及びグループ各社に対し総勢○名で調査を行う旨の判断をして税務調査を実施したとしても、当該調査が質問検査権の行使の方法等について合理的な判断の範囲を逸脱するものとはいえない。
(ハ) また、請求人は、調査初日に調査理由を尋ねた際に「何もなければ○人で来ない」と言われたなどとして、本件調査が請求人を恫喝するもので違法又は不当な調査である旨主張する。
 しかしながら、調査初日の本件調査担当職員の言動としては、当審判所の調査の結果によっても、上記ロ(イ)のとおり認めることができるにとどまり、調査初日に上記のような言動があったかは明らかではない。仮に、本件調査担当職員に請求人が主張する言動があったとしても、これが請求人を恫喝するものともいえないし、上記ロ(イ)のとおり、本件代表者が「現況調査は拒否する。」、「見たい書類を紙に書いて出せば用意させる。」又は「会議室に運ぶのでそこで確認してほしい。ただし、見せるか見せないかは私が判断する。」などと、本来税務職員の権限であるはずの調査の手法や提示する資料を制限する旨の発言をしていることからすると、本件調査への対応に特段の支障を与えるほどの威圧感を与えたものともいえない。
(ニ) 請求人は、上記2(1)ロ(ハ)のとおり、請求人と関係のないグループ各社の事務所に立ち入り、居座り、営業の妨害が行われた旨主張する。
 しかしながら、請求人が主張する税務調査はいずれもグループ各社に係る税務調査であって、当該グループ各社に係る税務調査の違法又は不当が、請求人に対して行われた原処分の取消事由になるということはできないから、請求人の主張は、事実の存否について判断するまでもなく採用できない。
(ホ) さらに、請求人は、本件調査の結果からしても、本件調査は権力を笠に着た恫喝であって権利の濫用にほかならず、任意調査として許されないなどと主張するが、本件調査の結果をもって本件調査の手続が違法又は不当となるとはいえず、上記ロの各事実に照らしても、本件調査の手続に違法又は不当な点はなく、本件調査が権利の濫用であるとはいえない。
(ヘ) 請求人は、本件調査担当職員が事前通知や調査の目的、具体的な調査の対象等を告げていないなどとして、本件調査が通則法第24条に規定する調査に該当しない旨主張する。
 しかしながら、上記イ(イ)のとおり、税務調査に際し、事前通知や調査の目的、具体的な調査の対象等を告げることを定めた法令上の規定はなく、本件においては、上記ロ(イ)のとおり、本件調査担当職員が請求人の税務調査であることを告げて本件調査に着手しており、上記ロ(ロ)から(ヘ)までのとおり、請求人の法人税及び消費税等の申告の基礎となった帳簿書類を確認した上で原処分を行ったものと認めることができるから、原処分が通則法第24条に規定する調査に基づいて行われたものであることは明らかである。
(ト) 以上によれば、本件調査の手続に請求人の主張するような違法又は不当はなく、上記ロの各事実に照らしても、本件調査の手続に違法又は不当な点は認められないから、原処分を取り消すべき理由はない。

(3) 争点ロについて

イ 法令解釈
 法人税法第127条第2項が、青色申告承認の取消通知書に理由付記を要求している趣旨は、青色申告承認の取消処分が、その承認を得た法人に認められる納税上の特典を剥奪する不利益処分であることに鑑み、取消事由の有無についての処分庁の判断の慎重と公正妥当を担保してその恣意を抑制するとともに、取消しの理由を処分の相手方に知らせることによって、その不服申立てに便宜を与えることにあると解される。
 この趣旨からすれば、青色申告承認の取消通知書には、該当条項を記載しなければならないほか、その取消処分の基因となった事実について、相手方が知り得る程度に具体的に特定して摘示する必要があり、かつ、それで足りると解するのが相当である。
ロ 判断
(イ) 上記1(4)ホのとおり、本件取消通知書には、取消しをする事実の該当条項として「法人税法第127条第1項第1号」と記載されており、また、本件青色申告承認の取消処分の基因となった事実として「自平成15年7月1日至平成16年6月30日事業年度分の法人税の調査に関し必要がありましたので、G国税局の調査担当職員が貴社のa市b町○−○の本社事務所において、代表取締役会長H及び取締役総務部長Rに帳簿書類の提示を求めたところ、その提示がありませんでした。」と記載されており、本件青色申告承認の取消処分の基因となった事実について請求人が知り得る程度に具体的に特定して摘示していると認められる。よって、本件取消通知書の理由付記は、法人税法第127条第2項に規定する理由付記の要件を満たしている。
(ロ) この点に関し、請求人は、本件においては、本社事業所の大規模な引越しによって、6年前及び7年前の帳簿書類の提示を突然要求されてもすぐに提示できなかったという特別の事情がある場合にも帳簿書類の提示拒否に当たるか否かが問われていたところ、本件取消通知書にはこの点に関する記載がなく、取消処分の基因となった事実の記載を欠いている旨主張するが、これらは結局、帳簿書類の備付け等がないとしてされた本件青色申告承認の取消処分それ自体についての不服をいうものにすぎず、当該取消処分に係る理由付記の程度としては、上記(イ)のとおり、これに何ら欠けるところはないというべきであるから、請求人の主張は採用できない。

(4) 争点ハについて

イ 法令解釈等
(イ) 青色申告制度は、納税者が自ら所得金額及び税額を計算し自主的に申告して納税する申告納税制度の下において、適正課税を実現するために不可欠な帳簿の正確な記帳を推進する目的で設けられたものであって、適式に帳簿書類を備え付けてこれに取引を忠実に記載し、かつ、これを保存する納税者に対して特別の青色申告書による申告を承認し、青色申告書を提出した納税者に対しては、納税手続上の特典及び種々の所得計算上の特典を与えるものである。
 法人税法第126条第1項は、青色申告の承認を受けている内国法人は、財務省令で定めるところにより、帳簿書類の備付け等をしなければならない旨規定し、同法第127条第1項第1号は、帳簿書類の備付け等が同法第126条第1項に規定する財務省令で定めるところに従って行われていない事実がある場合を青色申告の承認の取消事由とする旨規定しているところ、この帳簿書類の備付け等が財務省令に従って行われていることを確認するためには、帳簿書類を閲覧、検査することが不可欠であり、これは納税者による帳簿書類の提示があって初めて可能となるものであるから、青色申告の承認を受けている納税者の帳簿書類の備付け等の義務には、税務職員の質問検査に応じてその帳簿書類を提示する義務をも当然に含んでいるものと解するのが相当である。
(ロ) ところで、法人税法第127条第1項は、「その承認を取り消すことができる」と規定し、同項各号に該当する場合であっても、税務署長の裁量により青色申告の承認の取消しをしない余地を残しているが、上記(イ)のとおり、帳簿書類の備付け等が青色申告制度の基本的前提をなすものであって、これを欠くことは同制度とは根本的に相容れないものであることからすると、同項第1号該当の場合における上記裁量の範囲は必ずしも広いものではなく、帳簿書類のごく一部を欠くにすぎない場合や帳簿書類の備付け等がないことが当該法人の責に帰し得ない特段の事由に基づく場合に限られると解するのが相当である。
 なお、本件事務運営指針は、青色申告承認の取消処分に係る処理の統一を図るために当該取消処分に係る税務署長の裁量権の範囲を示したものであるところ、本件事務運営指針の取扱いは、青色申告制度の趣旨に照らし、当審判所においても相当であると認められる。
ロ 認定事実
 原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、請求人の平成16年6月期の帳簿書類は所在が不明であり、当該帳簿書類に係るデータも存在しないことが認められる。
ハ 判断
(イ) 上記ロのとおり、請求人の平成16年6月期の帳簿書類は所在が不明であり、当該帳簿書類に係るデータも存在しないのであるから、平成16年6月期の帳簿書類は、税務職員の求めに応じて提示することができない状態にあるということができ、帳簿書類の備付け等が法人税法第126条第1項に規定する財務省令で定めるところに従って行われていないということができる。
 そこで、平成16年6月期の帳簿書類の備付け等が財務省令で定めるところに従って行われていないことについて、請求人の責に帰し得ない特段の事由の有無についてみると、請求人は、本社の大規模な引越しにより書類が混乱し、探しても見つからなかったために提出できなかったのであり、しかも、その帳簿書類は6年以上も前の帳簿書類であるなどとして、請求人には正当な理由がある旨主張する。
 しかしながら、法人税法施行規則第59条は、青色申告法人は帳簿書類を整理し7年間納税地に保存しなければならない旨規定しているのであるから、備付け等がされていない帳簿書類が6年以上前の帳簿書類であることをもって、当該備付け等がないことについて、請求人の責に帰し得ない特段の事由があるとはいえない。また、青色申告の承認を受けている者としては、税務職員の質問検査に応じて適時に提示することができるよう帳簿書類を保存する義務があるところ、平成16年6月期の帳簿書類は、請求人の主張を前提としても、本社の大規模な引越しにより書類が混乱し、所在不明となっているというものであり、これは青色申告の承認を受けている請求人が当然に行うべき帳簿書類の管理が不十分であったことに基因するものというべきであるから、請求人の主張する事情をもってしても、請求人の責に帰し得ない特段の事由があるとはいえない。
 そうすると、平成16年6月期の帳簿書類の備付け等がないことは法人税法第127条第1項第1号に規定する青色申告承認の取消事由に該当し、また、当該備付け等がないことについて請求人の責に帰し得ない特段の事由があるとは認められず、他に原処分庁が本件青色申告承認の取消処分を行ったことに格別これを不相当とするような点も認められないから、帳簿書類の備付け等がないとして行われた本件青色申告承認の取消処分が違法又は不当な処分であるとはいえない。
(ロ) この点に関し、請求人は、まる1本社の移転により書類が混乱し帳簿書類の提出が困難であったことや平成17年12月期以降の帳簿書類は保存及び備付けがされており、その内容に指摘を受ける非違事項がなかったことからすれば、本件事務運営指針に定める「真に青色申告書を提出するにふさわしくない場合」に当たらない旨、まる2本件事務運営指針は法人税法第127条第1項各号に掲げる事実及びその程度、記帳状況、改善可能性等を総合勘案の上、取消処分を行う旨定めているところ、本件青色申告承認の取消処分は特に記帳状況、改善可能性等についての総合勘案を欠いており、本件事務運営指針の基準に違反する旨、まる3平成17年12月期以降の帳簿書類が適法に備付け又は保存がされていることが明らかとなっているにもかかわらず取消処分を行うことは、記帳慣行の向上・定着を目的とした青色申告制度の趣旨に反するものであり、取消権の濫用である旨、並びにまる4平成16年6月期の欠損金の基因となった固定資産売却損については、確定申告書の添付書類や売却先への反面調査によって取引の実態の把握や欠損金の適否の確認ができたにもかかわらず、容易にできる確認手続を放棄し、取消処分を行うことは青色申告制度の立法趣旨及び本件事務運営指針に違反し、取消権の濫用である旨主張する。
 しかしながら、平成16年6月期の帳簿書類の備付け等がないことについて、請求人の責に帰し得ない特段の事由があったとはいえないことは上記(イ)のとおりである。そして、上記イのとおり、青色申告制度は、適式に帳簿書類を備え付けてこれに取引を忠実に記載し、かつ、これを保存する納税者に対して種々の特典を与えるものであり、帳簿書類の備付け等がこのような青色申告制度の基本的前提をなすものであって、これを欠くことは同制度とは根本的に相容れないものであることからすると、平成16年6月期の帳簿書類の一部に不備があったというのであればともかく、特段の事由もなく平成16年6月期の帳簿書類それ自体の備付け等がなされていない本件においては、当該備付け等がないことのみをもって本件事務運営指針に定める「真に青色申告書を提出するにふさわしくない場合」に当たるというべきであり、請求人が主張するような平成17年12月期以降の帳簿書類の保存及び備付けの有無やその内容についての非違事項の有無、並びに反面調査等を行えば申告内容等の適否の確認ができるか否かが当該判断を左右するものとはいえない。
 よって、原処分庁が本件青色申告承認の取消処分を行ったことが青色申告制度の趣旨や本件事務運営指針に反するものとはいえず、取消権の濫用であるともいえないから、この点に関する請求人の主張はいずれも採用できない。
(ハ) また、請求人は、本件調査担当職員から青色申告の承認が取り消される旨の説明や帳簿書類の保管、管理、移動状況等についての質問調査等を全く受けておらず、原処分庁が質問調査、臨場調査等を行うことなく法人税法第127条第1項第1号及び本件事務運営指針に反して「請求人の責に帰し得ない特段の事由」があるとは認められないと判断したことは、調査不尽の違法又は不当な判断であるなどと主張する。
 しかしながら、上記(2)ロ(ニ)から(リ)までのとおり、本件調査担当職員は、少なくとも平成22年10月22日から平成23年1月20日までの間の6回にわたって、平成16年6月期の帳簿書類の保存の有無の確認やその提示を求め、本社移転の際に紛失した旨の本件代表者、総務部長及び顧問税理士の説明に対し、提示がない場合は青色申告承認の取消処分がなされる可能性がある旨を説明した上で、「再度よく探して提示してほしい」などと提示を促す説明をしていることからすると、帳簿書類の保管状況等についての質問調査や青色申告の承認が取り消される旨の説明が行われていることは明らかであり、また、平成16年6月期の帳簿書類の備付け等がないことについて、請求人の責に帰し得ない特段の事由があったとはいえないことは上記(イ)のとおりであって、上記質問調査に基づく判断に違法又は不当があるともいえないから、請求人の主張は採用できない。
(ニ) なお、請求人は、先例裁決を引用して、本件青色申告承認の取消処分が違法でないとしても不当な処分として取り消されるべきである旨主張するが、請求人が引用する裁決は、帳簿書類の備付け及び記録の不備の程度が甚だ軽微な事案について青色申告承認の取消処分が不当である旨判断したものであり、帳簿書類そのものの保存を欠く本件とは事実関係が異なることから、先例裁決をもって本件青色申告承認の取消処分が違法又は不当であるということはできず、請求人の主張は採用できない。

(5) 争点ニについて

イ 法令解釈
 措置法第67条の5は、中小企業者等で青色申告書を提出する法人が、一定の期間に取得等し、その法人の事業の用に供した減価償却資産で、その取得価額が30万円未満のものを有する場合に、その取得価額に相当する金額についてその事業の用に供した事業年度で損金経理をした金額については損金の額に算入する旨規定している。そして、同規定は青色申告書を提出する法人であることが要件の一つとされており、この要件を満たしていない場合には、当該金額は損金の額に算入されないこととなる。
 他方、法人税法第31条第1項では、各事業年度の所得の金額の計算上減価償却費として損金の額に算入できる金額は、当該事業年度において償却費として損金経理をした金額のうち、償却限度額に達するまでの金額とする旨規定し、同条第4項は、損金経理をした金額には、償却費として損金経理をした事業年度前の各事業年度における当該減価償却資産に係る損金経理額のうち所得の金額の計算上損金の額に算入されなかった金額を含むものとする旨規定している。これは、減価償却費が法人の内部計算において計上される費用であることから、法人が確定した決算において減価償却資産につき償却費として費用計上する意思表示を明確にしたものに限り、定められた償却限度額の範囲内でその損金算入を認めたものと解される。
 以上によれば、青色申告書を提出する法人以外の法人が、減価償却資産の取得価額に相当する金額を償却費として損金経理をしていた場合であっても、このうち各事業年度における各資産の償却限度額に達するまでの金額、及び当該各事業年度の損金の額に算入されなかった金額(償却超過額)のうち、当該各事業年度の翌事業年度以降における各資産の償却限度額に達するまでの金額は、いずれも所得の金額の計算上損金の額に算入されると解される。
ロ 認定事実
 請求人提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の各事実が認められる。
(イ) 請求人は、別表3−1から別表3−4までの「種類」及び「名称」欄記載の本件減価償却資産を同各表の「取得価額」欄記載の金額で取得し、請求人の事業の用に供している。本件減価償却資産の耐用年数は、同各表の「耐用年数」欄記載のとおりである。
(ロ) 請求人は、本件減価償却資産の取得価額に相当する金額を償却費として損金経理し、事業の用に供した各事業年度の損金の額に算入した。
(ハ) 請求人は、昭和38年4月13日に、減価償却資産の償却方法に関し、有形固定資産については定率法を選択する旨の届出書を所轄税務署長に提出した。
ハ 判断
 上記(4)ハのとおり、本件各事業年度において、請求人は、青色申告書を提出するものに当たらないため、措置法第67条の5の規定を適用して取得価額の全額を損金の額に算入することはできないが、請求人は、上記ロ(イ)のとおり、本件減価償却資産を取得し、事業の用に供していると認められ、これらに基づき、請求人が選択した減価償却資産の償却方法及び法定の償却方法により本件各事業年度の償却限度額を計算すると、別表3−1から別表3−4まで及び別表4−1から別表4−3までに記載のとおりとなるから、上記イのとおり、同各表の「償却限度額」欄記載の金額が各事業年度の損金の額に算入される。

(6) 争点ホについて

イ 法令解釈
 法人税法第37条第8項は、法人が資産の譲渡をした場合において、その譲渡の対価の額が当該資産のその譲渡の時における適正な価額よりも低い場合、その差額のうち実質的に贈与をしたと認められる金額は、同条第7項の寄附金の額に含まれる旨規定している。
 そして、法人税法第37条第8項に規定する「その譲渡の時における価額」とは、正常な取引において形成された価額、すなわち客観的な交換価値を示す時価をいうと解するのが相当であるところ、上場株式については、特段の事情がない限り、上場された証券取引所における株価をもって適正価額と認めるのが相当である。また、同項に規定する「実質的に贈与をしたと認められる」場合とは、当該取引に伴う経済的な効果が贈与と同視し得るものであれば足り、必ずしも譲渡者が贈与の意思を有していたことを必要とするものではないと解するのが相当である。
ロ 認定事実
 原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の各事実が認められる。
(イ) J社は、請求人がその発行済株式総数の過半数を有する請求人の子会社である。
(ロ) 平成20年7月9日及び同年12月24日開催の本件譲渡株式の譲渡に係る請求人の取締役会に係る議事録には、取引株数、売買金額、契約締結日の記載があり、本件譲渡株式に係る売買契約の締結を承認する旨の記載があるが、譲渡の経緯、交渉内容、譲渡理由及び譲渡価額の算出根拠等の記載はない。
(ハ) 本件調査担当職員は、平成23年3月31日に、本件譲渡株式の譲渡に関し、請求人の総勘定元帳及び本件譲渡株式の売買契約書の各写しを検討し、これに基づき上記1(4)ヘの再更正処分が行われた。
ハ 本件譲渡株式の売却に関する請求人の回答について
 請求人は、本件譲渡株式の売却に関し、当審判所に対して要旨次のとおり回答した。
(イ) 請求人は、当時の株式保有状況、取引や株価動向等を加味し6銘柄の売却を決意した。J社の代表者に株式売却の意向を打診したところ、請求人の要望にJ社の代表者が応えてくれた。
(ロ) ただし、J社の代表者は、最初から市場価格の9割程度を交渉価格として挙げてきたもので、その後の両社の代表者の交渉を経て、また、請求人の社内でも6銘柄の株式について、当時の株価を考慮し、今後の株価の動向を見据え、売却価額について十分に検討した結果、J社の代表者の提示価額を承諾することとなり、これらの株式の売却に至った。
(ハ) 以上の経緯で売却価額が決定したものであり、相対取引で双方合意の上になされたものである。
ニ 判断
(イ) 上記1(4)ロのとおり、本件譲渡株式は上場株式であるから、特段の事情がない限り、譲渡時市場価格をもって適正な価額と認めるのが相当である。
 そこで、本件譲渡株式の譲渡価額を適正な価額とみるべき特段の事情の有無についてみると、請求人は、上記ハのとおり、J社の代表者に本件譲渡株式の売却の意向を打診し、価格交渉の結果、売却価額が決定した旨説明する。
 しかしながら、上記ハの請求人の説明は、本件譲渡株式の譲渡価額を市場価格の9割相当額とした理由について何ら具体的な説明をするものではないことから、かかる説明によって、本件譲渡株式の譲渡価額を適正な価額とみるべき特段の事情を認めることはできない。また、上記説明によっても、本件譲渡株式の売却に関し、相対取引によってJ社に売却すべき特段の事情があったとは認められない上、証券会社を通じて株式を売却した場合の売買委託手数料が、通常、売買価額の1%程度にも満たない金額であることからすると、仮にJ社との間で相対取引により譲渡しなければならない事情があったとしても、譲渡時市場価格の10%相当額を減額して譲渡すべき理由はないといえる。
 以上によれば、本件譲渡株式の譲渡価額を適正な価額とみるべき特段の事情があるとはいえず、他にこれを認めるに足りる証拠もないから、譲渡時市場価格が本件譲渡株式の適正な価額と認めるのが相当であり、請求人は、合理的な理由もなく本件譲渡差額をJ社に供与したというべきであるから、本件譲渡差額は法人税法第37条第7項に規定する寄附金の額に当たる。
(ロ) この点に関し、請求人は、本件譲渡株式の譲渡において請求人に贈与の認識はなかったとして、本件譲渡差額が寄附金の額に算入されない旨主張するが、法人税法第37条第8項に規定する「実質的に贈与をしたと認められる」場合に当たるか否かの判断に当たり、必ずしも譲渡者が贈与の意思を有していたことを必要とするものではないことは上記イのとおりであるから、請求人の主張は採用できない。
(ハ) また、請求人は、いわゆる有利発行や株式公開買付けの場合において10%前後の譲渡差額が生じることは取引慣行として不当・不合理ではないから、10%以内の本件譲渡差額を課税の対象とした原処分は違法又は不当である旨主張する。
 しかしながら、上記イのとおり、上場株式が市場価格と異なる価額によって譲渡された場合において、その譲渡価額を適正な価額とみるべきか否かは、当該譲渡に係る個別の事情を勘案し、特段の事情の有無によって判断されるべきものであるところ、本件譲渡株式は相対取引によって請求人の子会社に譲渡されたというものであって、株式を新規上場する場合の有利発行や株式公開買付けの場合とは事情が異なるから、これらの場合に10%前後の譲渡差額が生じる事例があることをもって、本件譲渡株式の譲渡価額が適正な価額であるということはできず、請求人の主張は採用できない。
(ニ) なお、請求人は、本件調査において本件譲渡差額について指摘されておらず、本件譲渡差額が寄附金の額に当たるとして行われた原処分は、通則法第24条に規定する調査を欠くものである旨主張するが、上記(2)イ(ロ)のとおり、課税庁が内部において既に収集した資料を検討して正当な課税標準等を認定することも同条に規定する調査に含まれるところ、上記ロ(ハ)のとおり、本件調査担当職員は、請求人の総勘定元帳の写しなどを検討した上で正当な課税標準等を認定し、上記(2)ロ(ヨ)のとおり、その内容も説明した上で更正処分が行われたことが認められるから、当該処分が同条に規定する調査を欠くものとはいえず、請求人の主張は採用できない。

(7) 争点ヘについて

イ 法令解釈
 法人税法第22条第2項は、内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上当該事業年度の益金の額に算入すべき金額は、資産の販売、有償又は無償による資産の譲渡又は役務の提供、無償による資産の譲受けその他の取引で資本等取引以外のものに係る当該事業年度の収益の額とする旨規定しているところ、取得時における適正な価額より低い対価をもってする資産の取得の場合も、当該資産の取得に係る対価の額と取得時における適正な価額との差額が、上記の「無償による資産の譲受け」と同様に、収益の額を構成するものと解するのが相当である。
 そして、上場株式については、特段の事情がない限り、上場された証券取引所における株価をもって適正価額と認めるのが相当である。
ロ 認定事実
 原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の各事実が認められる。
(イ) K社は、本件代表者及びその親族が発行済株式総数の過半数を有する請求人の関連法人である。
(ロ) 平成21年2月9日開催の本件取得株式の購入に係る請求人の取締役会に係る議事録には、取引株数、購入金額、契約締結日の記載があり、本件取得株式に係る売買契約の締結を承認する旨の記載があるが、購入の経緯、交渉内容、購入理由及び購入価額の算出根拠の記載はない。
(ハ) 本件調査担当職員は、平成22年10月14日に、本件取得株式の購入に関する資料を検討し、これに基づき上記1(4)ヘの再更正処分が行われた。
ハ 本件取得株式の購入に関する請求人の回答について
 請求人は、本件取得株式の購入に関し、当審判所に対して要旨次のとおり回答した。
(イ) 明確な日時、場所までは記録していないので記憶が定かではないが、当初、K社から株式購入の打診があった。請求人にとり、当時の本件取得株式は、必要な資産ではなかったことから、購入できない旨返答した。しかし、同社から再度購入の打診を受けたため、請求人は、価格決定のよりどころとして市場価格の9割相当額程度を購入価額として提示した。
(ロ) 約○○○○円という金額及び無配当株であること、当面必要でない資産を取引所での形成価額で購入するということは、株主に対する説明責任を果たすことができないことなどから、市場価格の9割相当額程度であるならば値上がり益も期待できると考え、その価額であれば購入することもやぶさかでないとして提示した経緯がある。
(ハ) 両社の代表者同士の数度にわたる価格交渉を経て、結果的にK社がその価額で売却することに了承したため、請求人が購入するに至った。売主側及び買主側の双方が当時の株価の動向などを考慮し、合意決定がなされたもので、経済活動をする企業間において当然に発生し得る取引である。
ニ 判断
(イ) 上記イのとおり、本件取得株式は上場株式であるから、特段の事情がない限り、取得時市場価格をもって適正な価額と認めるのが相当である。
 そこで、本件取得株式の購入価額を適正な価額とみるべき特段の事情の有無についてみると、請求人は、上記ハのとおり、本件取得株式の購入について、K社から打診があり、本件取得株式の価額が約○○○○円という金額であること、無配当株であること及び当面必要でない資産であることなどから、株主に対する説明責任を考慮し、数度にわたる交渉を経て、市場価格の9割相当額とする旨の合意がなされた旨説明する。
 しかしながら、本件取得株式が約○○○○円という金額であったことは、相対取引を行う事情とはなり得ても、取引の対象となった本件取得株式の客観的交換価値自体に影響を与えるものとはいえない。また、上記請求人の説明は、本件取得株式の購入価額を市場価格の9割相当額とした理由について、何ら具体的な説明をするものではないから、かかる説明によって、本件取得株式の購入価額を適正な価額とみるべき特段の事情を認めることはできない上、上記(6)ニ(イ)のとおり、請求人は、相対取引によって請求人の子会社に売却すべき特段の事情があったとは認められない本件譲渡株式6銘柄について、いずれも市場価格の9割相当額で譲渡しており、当該譲渡に際し、株主に対する説明責任が考慮されたことがうかがえないことからすると、本件取得株式の取得に際してのみ、株主に対する説明責任が考慮されたというのは不自然である。
 以上によれば、本件取得株式の購入価額を適正な価額とみるべき特段の事情があるとはいえず、他にこれを認めるに足りる証拠もないから、取得時市場価格が本件取得株式の適正な価額と認めるのが相当であり、請求人は、合理的な理由もなくK社から適正な価額より低い対価をもって本件取得株式を取得したというべきであるから、本件取得差額は、法人税法第22条第2項に規定する益金の額に算入される。
(ロ) この点に関し、請求人は、受贈においては、当事者間の受贈の認識又はそれを推認できる事実関係が必要である旨主張するが、上記イのとおり、法人税法第22条第2項は、無償による資産の譲受けに係る収益の額を当該事業年度の益金の額に算入する旨規定しており、上記(イ)のとおり、請求人は合理的な理由もなくK社から適正な価額より低い対価をもって本件取得株式を取得したのであるから、上記規定に照らせば、本件取得差額が益金の額に算入されることは明らかというべきであり、当事者間に受贈の認識があったか否かが当該判断を左右するものとはいえない。よって、この点に関する請求人の主張は採用できない。
(ハ) また、請求人は、有利発行や株式公開買付けの場合に10%前後の取得差額が生じる取引慣行があるなどとして、10%以内の本件取得差額を課税の対象とすることは違法又は不当である旨主張するが、本件とは事情の異なる有利発行や株式公開買付けの場合に10%前後の取得差額が生じる事例があることをもって、本件取得株式の購入価額が適正な価額であるとはいえないことは上記(6)ニ(ハ)と同様であるから、請求人の主張は採用できない。
(ニ) なお、請求人は、原処分が通則法第24条に規定する調査を欠くものである旨主張するが、上記ロ(ハ)のとおり、原処分庁は、本件取得株式の購入に関する資料を検討した上で正当な課税標準等を認定し、上記(2)ロ(ヨ)のとおり、その内容を説明した上で更正処分が行われたことが認められるから、当該処分が同条に規定する調査を欠くものとはいえず、請求人の主張は採用できない。

(8) 争点トについて

イ 認定事実
 原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、本件調査担当職員は、本件調査において、K社に対する機械の賃借料及びS社に対する人間ドック等の支出について、請求人の総勘定元帳等により、課税仕入れの計上金額等の適否を検討し、これに基づき本件消費税等各更正処分が行われたことが認められる。
ロ 判断
(イ) 上記イのとおり、本件調査担当職員は、請求人の総勘定元帳等を検討した上で、上記1(4)ホの本件消費税等各更正処分が行われたことが認められるから、当該処分が通則法第24条に規定する調査を欠くものとはいえず、他に当該処分を不相当とする点も認められないから、これを取り消すべき理由はない。
(ロ) なお、請求人は異議決定書の付記理由に不備があり、また、請求人の弁明を聴かないで本件消費税等各更正処分がされたとして、同処分が違法又は不当である旨主張するが、異議審理手続の違法又は不当は原処分の取消事由に当たらず、また、通則法第24条の更正に当たり、納税者に対し弁明の機会を与えなければならない旨を定めた法令上の規定はなく、弁明の機会を与えないで処分を行ったとしても違法又は不当であるとはいえないから、請求人の主張は、事実の存否について判断するまでもなく採用できない。

(9) 本件青色申告承認の取消処分について

 本件青色申告承認の取消処分については、いずれの争点についてもこれを取り消すべき理由はない。

(10) 本件法人税各更正処分について

イ 平成23年5月27日付でされた平成18年12月期、平成19年12月期、平成20年12月期及び平成21年12月期の各再更正処分について
 上記(5)ハのとおり、本件減価償却資産については、各事業年度の償却限度額に達するまでの金額が損金の額に算入される。
 また、減価償却資産の耐用年数等に関する省令の一部を改正する省令(平成20年4月財務省令第32号)により法定耐用年数が改正されており、平成20年4月1日以後開始する事業年度から改正後の法定耐用年数が適用されるところ、別表5−1から別表5−3までに記載のとおり、原処分庁は、一部の減価償却資産について平成20年12月期以降の事業年度から改正後の法定耐用年数を適用しており、その適用開始事業年度に誤りがあること、原処分庁が適用した法定耐用年数の一部に誤りがあること及び平成21年12月期の認容すべき事業税の額に計算誤り(税率等の適用誤り)があることから、これらを補正して各事業年度の所得金額を計算すると、別表6−1から別表6−4までの「審判所認定額」の「課税所得金額」欄記載のとおりとなり、原処分の額を下回るから、平成23年5月27日付でされた平成18年12月期、平成19年12月期、平成20年12月期及び平成21年12月期の各再更正処分は、その一部を別紙1から別紙4までのとおり取り消すべきである。
ロ 上記イ以外の法人税の各更正処分について
 上記イ以外の法人税の各更正処分については、いずれの争点についてもこれを取り消すべき理由はない。

(11) 本件法人税各賦課決定処分について

イ 平成23年5月27日付でされた平成18年12月期、平成19年12月期及び平成20年12月期の法人税の各賦課決定処分について
 上記(10)イのとおり、更正処分の一部が取り消されることに伴い、平成23年5月27日付でされた平成18年12月期、平成19年12月期及び平成20年12月期の法人税の各賦課決定処分は、その一部を別紙1から別紙3までのとおり取り消すべきである。なお、同更正処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が更正処分前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、通則法第65条《過少申告加算税》第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、同条第1項の規定により過少申告加算税の賦課決定をしたことは適法である。
ロ 上記イ以外の法人税の各賦課決定処分について
 上記イ以外の法人税の各賦課決定処分については、更正処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が更正処分前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、通則法第65条第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、同条第1項及び第2項の規定により過少申告加算税の賦課決定をしたことは適法である。

(12) 本件消費税等各更正処分及び本件消費税等各賦課決定処分について

 本件消費税等各更正処分については、いずれの争点についてもこれを取り消すべき理由はない。また、同更正処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が更正処分前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、通則法第65条第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、同条第1項の規定により過少申告加算税の賦課決定をしたことは適法である。

(13) 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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