(平成24年5月9日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、薬剤師である審査請求人(以下「請求人」という。)が、薬剤師名簿の登録事項の変更の登録について、1通の申請書により氏名及び本籍地都道府県名の訂正を申請するに当たり、課税標準たる登録件数を2件として登録免許税2,000円を納付したが、この場合の課税標準たる登録件数は1件で、登録免許税の額は1,000円であるとして、原処分庁に対して、登録免許税法第31条《過誤納金の還付等》第2項の規定に基づき、同条第1項の規定による所轄税務署長への通知を行うよう請求したところ、原処分庁が、課税標準たる登録件数は2件であり、過大納付の事実は認められないとして、所轄税務署長への通知を行わない旨の通知処分をしたことから、請求人が当該処分の全部の取消しを求めた事案である。

(2) 審査請求に至る経緯及び基礎事実

イ 請求人は、平成9年○月○日付で薬剤師法により薬剤師として免許を受け、同日付で薬剤師名簿に登録された。
ロ 請求人は、平22年○月○日に婚姻して夫の氏を称することとなり、また、本籍地都道府県も変更となったことから、平成22年6月11日、薬剤師名簿の訂正を申請するため、変更前後の氏名及び本籍地都道府県名を記載した原処分庁あての薬剤師名簿訂正申請書1通をB保健所の窓口に提出した。
 なお、請求人は、上記の薬剤師名簿訂正申請書に、収入印紙2,000円分を貼付することにより、登録免許税を納付した。
ハ その後、請求人は、平成22年11月6日に原処分庁に対し、上記ロの変更登録により納付すべき登録免許税の額は、登録免許税法第9条《課税標準及び税率》の規定により1,000円であるところ、誤って2,000円を納付したため、差額1,000円(以下、この金額を「本件差額」という。)を過大に納付したとして、同法第31条第2項の規定に基づき、同条第1項の規定による所轄税務署長への通知をすべき旨の過誤納金還付通知請求書を提出した。
ニ 原処分庁は、これに対し、平成23年5月17日付で、登録免許税の過誤納付の事実は認められないとして、所轄税務署長への通知を行わない旨の通知処分(以下「本件通知処分」という。)をした。
ホ 請求人は、本件通知処分に不服があるとして、平成23年5月22日に審査請求をした。

(3) 関係法令の要旨

イ 薬剤師法第6条《薬剤師名簿》は、厚生労働省に薬剤師名簿を備え、登録年月日、同法第8条《免許の取消し等》第1項又は第2項の規定による処分に関する事項その他の免許に関する事項を登録する旨規定している。
ロ 薬剤師法施行令第4条《薬剤師名簿の登録事項》は、薬剤師名簿には、まる1登録番号及び登録年月日(第1号)、まる2本籍地都道府県名(日本の国籍を有しない者については、その国籍)、氏名、生年月日及び性別(第2号)、まる3薬剤師国家試験の合格の年月(第3号)、まる4薬剤師法第8条第1項又は第2項の規定による処分に関する事項(第4号)、まる5同法第8条の2《再教育研修》第2項に規定する再教育研修を修了した旨(第5号)、まる6前各号に掲げるもののほか、厚生労働大臣の定める事項(第6号)を登録する旨規定している。
ハ 薬剤師法施行令第5条《薬剤師名簿の訂正》第1項は、薬剤師は、同法施行令第4条第2号の登録事項に変更を生じたときは、30日以内に、薬剤師名簿の訂正を申請しなければならない旨規定している。
ニ 登録免許税法第2条《課税の範囲》は、「別表第一 課税範囲、課税標準又は税率の表」に掲げる登記、登録、特許、免許、許可、認可、認定、指定及び技能証明を「登記等」といい、登録免許税は、登記等について課する旨規定している。
ホ 登録免許税法第9条は、登録免許税の課税標準及び税率は、同法に別段の定めがある場合を除くほか、登記等の区分に応じ、別表第一の課税標準欄に掲げる金額又は数量及び同表の税率欄に掲げる割合又は金額による旨規定している。
ヘ 登録免許税法別表第一の「三十二 人の資格の登録若しくは認定又は技能証明」の「(九)法令の規定により国の行政機関に備える名簿にする次に掲げる登録」のイは、(1)医師又は歯科医師の登録、(2)薬剤師の登録、(3)保健師等の登録に係る課税標準及び税率をそれぞれ規定し、同ロは、同イ(1)から(3)までに掲げる者に係る登録事項の変更の登録について、課税標準は登録件数、税率は1件につき1,000円とする旨規定している。
ト 登録免許税法第18条《2以上の登記等を受ける場合の税額》は、同一の登記等の申請書により、別表第一に掲げる登記等の区分に応じ2以上の登記等を受ける場合における登録免許税の額は、各登記等につき同表に掲げる税率を適用して計算した金額の合計金額とする旨規定している。

(4) 争点

 1通の薬剤師名簿訂正申請書により、氏名及び本籍地都道府県名の変更について薬剤師名簿の変更の登録を受ける場合の登録件数

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2 主張

請求人 原処分庁
(1) 次の理由から、薬剤師名簿の登録事項のうち、氏名と本籍地都道府県名を1通の薬剤師名簿訂正申請書により同時に変更する場合の登録免許税の課税標準たる登録件数は1件であり、税額は1,000円である。  次の理由から、薬剤師名簿の登録事項のうち、氏名と本籍地都道府県名を1通の薬剤師名簿訂正申請書により同時に変更する場合の登録免許税の課税標準たる登録件数は2件であり、税額は2,000円である。
イ 登録免許税法第18条の反対解釈からすれば、同時に、同一の区分に属する数個の登記等について申請を行う場合の登録免許税額は、登記等の個数に関わらず、「登録件数」を1件として計算した金額となる。 イ 登録免許税法第18条は、同一の申請書により区分を異にする登記等の変更を同時に申請する場合について規定したものであるから、同一区分に属する数個の登記等の変更には同条は適用されない。
 したがって、登録免許税法第18条のような規定がない同一区分内における登記等の変更の場合は、登録免許税法第9条の規定に基づき、同法別表第一に定める課税標準及び税率に基づき登録免許税額を算出すべきである。
ロ そして、登録免許税法別表第一の三十二の(九)のロは、「イ(1)から(3)までに掲げる者に係る登録事項の変更の登録」と規定しているから、「登録事項の変更の登録」の件数が「登録件数」になるというべきである。 ロ そして、登録免許税法別表第一の三十二の(九)のロは、「イ(1)から(3)までに掲げる者に係る登録事項の変更の登録」と規定しているから、「登録事項の変更」の件数が「登録件数」になるというべきである。
ハ 本件において請求人は、同時に「氏名の変更」と「本籍地都道府県名の変更」を申請したところ、「氏名の変更」と「本籍地都道府県名の変更」は、いずれも登録免許税法別表第一の三十二の(九)のロという同一の区分に属する登録であるから、「登録事項の変更の登録」が一つの区分である以上、課税標準たる登録件数はこれを1件と解することになる。 ハ 本件において請求人は、同時に「氏名の変更」と「本籍地都道府県名の変更」を申請しているところ、これは、登録免許税法別表第一の三十二の(九)のロに該当する「登録事項の変更」が2箇所であるから、課税標準たる登録件数もまた2件となる。
(2) 憲法第84条が要請する租税法律主義は、課税要件が一義的かつ明確であることを要求している。
 しかるに、登録免許税法別表第一の三十二の(九)のロの適用について、氏名と本籍地都道府県名の両方を変更する場合に、理容師、美容師、獣医師、海技士、水先人及び不動産鑑定士については、登録件数を1件としているにも関わらず、薬剤師については、これを2件として扱っている。
 特に、理容師及び美容師と薬剤師では、同じ厚生労働大臣が所管する資格であるにも関わらず、その取扱いが異なっている。
 このように、登録免許税法別表第一の適用に当たり、業種により異なる解釈適用をすることは、納税者の予見可能性を害するものであり、課税要件が一義的かつ明確であることを要求する租税法律主義に抵触するから、原処分は、憲法第84条に違反するものである。
 

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3 判断

(1) 登録免許税法第9条は、登録免許税の課税標準及び税率は、同法に別段の定めがある場合を除くほか、登記等の区分に応じ、同法別表第一の課税標準欄に掲げる金額又は数量及び同表の税率欄に掲げる割合又は金額による旨規定している。そして、登録免許税法第18条は、同法第9条の別段の定めとして、同一の登記等の申請書により、同法別表第一に掲げる登記等の区分を異にする2以上の登記等を受ける場合の登録免許税の額については、各登記等につき同表に掲げる税率を適用して計算した金額の合計金額とする旨規定している。
(2) ここにいう「登記等の区分」とは、登録免許税法別表第一において定められている各区分をいうところ、上記(1)の各規定に照らすと、「登記等の区分」が同じであれば、その区分の中に数個の登記事項又は登録事項があったとしても、一つの「登記等の区分」内での登記等に該当するのであるから、同法第18条は、同一の申請書で異なる「登記等の区分」に属する2以上の登記等を受ける場合の税額は、その異なるそれぞれの「登記等の区分」ごとに登録免許税の額を計算し、その合計額となる旨規定したものと解すべきであり、同一の申請書により同表に掲げる同一の「登記等の区分」内の登記等を受ける場合の登録免許税の額は、当該登記事項又は登録事項の数に関わらず、その一つの「登記等の区分」の税率を適用して計算した金額になるものと解するのが相当である。
(3) これを本件についてみると、上記1の(3)のヘのとおり、登録免許税法別表第一の三十二の(九)のロは、「同イ(1)から(3)までに掲げる者に係る登録事項の変更の登録」に係る課税標準及び税率を規定しているところ、その「登記等の区分」は、「医師に係る登録事項の変更の登録」、「歯科医師に係る登録事項の変更の登録」、「薬剤師に係る登録事項の変更の登録」及び「保健師に係る登録事項の変更の登録」等が、それぞれ一つの「登記等の区分」となる。
(4) よって、本件の場合、1通の薬剤師名簿訂正申請書により、登録免許税法別表第一の三十二の(九)のロのうち「薬剤師に係る登録事項の変更の登録」という一つの「登記等の区分」内において、氏名及び本籍地都道府県名という登録事項の変更の登録を受けるものであるから、当該区分に応ずる登録件数は1件であり、したがって登録免許税の額は1,000円であると認められる。
 なお、原処分庁は、「登録事項の変更」の件数が登録件数になる旨主張するが、上記(3)のとおり、「登記等の区分」は「登録事項の変更の登録」であると解すべきであり、「登録事項の変更の登録」の件数が登録件数となるから、原処分庁の主張は採用できない。
(5) 以上より、本件差額は、請求人が過大に納付した登録免許税の額であると認められ、本件通知処分は不適法なものであるから、その全部が取り消されるべきである。

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