(平成24年4月6日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、原処分庁が、納税者F(以下「本件滞納者」という。)の滞納国税を徴収するため、本件滞納者が審査請求人(以下「請求人」という。)にした合計額○○○○円の金銭の寄附について、当該寄附は、国税徴収法(以下「徴収法」という。)第39条《無償又は著しい低額の譲受人等の第二次納税義務》による無償譲渡等の処分に当たるとして第二次納税義務の納付告知処分をしたのに対し、請求人が、財団法人である請求人に対する寄附は、その性質上、徴収法第39条に規定する無償譲渡には該当しない、仮に上記寄附が無償譲渡に該当するとしても法定納期限の1年前の日以後に行われたものではないから徴収法第39条の適用はないなどとして、その全部の取消しを求めた事案である。

(2) 審査請求に至る経緯及び基礎事実

 以下の事実は、当事者間に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。
イ 請求人の概要
(イ) 請求人は、○○○○を目的として設立された財団法人である。
(ロ) 請求人は、昭和24年○月○日、平成16年12月1日法律第147号による改正前の民法第34条に基づき財団法人として設立され、平成20年12月1日に施行された、一般社団法人及び一般財団法人に関する法律及び公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律第40条《社団法人及び財団法人の存続》第1項の規定により、一般社団法人及び一般財団法人に関する法律による一般財団法人となった。
ロ 滞納となった国税の発生の経緯等
(イ) 源泉徴収に係る所得税
 H税務署長は、本件滞納者に対し、平成19年7月6日付で国税通則法(以下「通則法」という。)第36条《納税の告知》第1項及び第68条《重加算税》第3項の規定により、平成12年7月分から平成17年3月分までの源泉徴収に係る所得税(以下「源泉所得税」という。)について、納税告知処分及び重加算税の賦課決定処分(以下、これらを併せて「本件源泉所得税の賦課決定処分」という。)をした。
(ロ) 相続税
A 本件滞納者の母Jは、平成17年3月○日に死亡し、相続(以下「本件相続」という。)が開始した。
 本件相続に係る本件滞納者以外の相続人が相続放棄をしたことから、本件滞納者が財産を相続した。
B 本件滞納者は、本件相続に係る相続税について、平成18年1月20日、K税務署長に相続税の申告書を、同月23日に相続税の訂正申告書(以下「本件申告書」という。)を提出した。
C 本件滞納者は、平成19年7月4日、原処分庁の調査担当職員の調査に基づき、本件相続に係る相続税の修正申告書(以下「本件修正申告書」という。)を提出した。
D K税務署長は、本件滞納者に対し、平成19年7月31日付で、通則法第65条《過少申告加算税》第1項の規定により、本件修正申告書の提出により納付すべき本税に対する過少申告加算税の賦課決定処分(以下「本件賦課決定処分」という。)をした。
(ハ) 本件滞納者による寄附
A 本件滞納者は、請求人に対し、合計額○○○○円の金銭の寄附を行った(以下、この寄附を「本件寄附」という。)。
 なお、本件寄附について、本件滞納者に、請求人からの対価の支払は無かった。
B 本件滞納者は、本件寄附の当時、請求人の理事の地位にあった。
ハ 審査請求の経緯
(イ) 本件滞納者が納付すべき、本件源泉所得税の賦課決定処分に係る国税並びに本件申告書、本件修正申告書及び本件賦課決定処分に係る国税は、いずれも納期限までに完納されず滞納となった。
(ロ) 原処分庁は、平成18年2月10日から平成19年10月22日までの間に、通則法第43条《国税の徴収の所轄庁》第3項の規定に基づき、上記(イ)の滞納国税のうち、別表の番号の1ないし100についてはH税務署長から、番号101ないし103についてはK税務署長から、徴収の引継ぎを受けた。
(ハ) 原処分庁は、本件滞納者の別表の滞納国税(以下「本件滞納国税」という。)を徴収するため、請求人に対し、徴収法第39条により第二次納税義務があるとして、徴収法第32条《第二次納税義務の通則》第1項の規定に基づき、平成23年5月20日付で、納付通知書による告知処分(原処分)を行った。
(ニ) 請求人は、原処分を不服として平成23年7月19日に審査請求をした。

(3) 関係法令の要旨

イ 徴収法第39条は、滞納者の国税につき滞納処分を執行してもなおその徴収すべき額に不足すると認められる場合において、その不足すると認められることが、当該国税の法定納期限の一年前の日以後に、滞納者がその財産につき行った政令で定める無償又は著しく低い額の対価による譲渡(担保の目的でする譲渡を除く。)、債務の免除その他第三者に利益を与える処分に基因すると認められるときは、これらの処分により権利を取得し、又は義務を免かれた者は、これらの処分により受けた利益が現に存する限度(これらの者がその処分の時にその滞納者の親族その他の特殊関係者であるときは、これらの処分により受けた利益の限度)において、その滞納に係る国税の第二次納税義務を負う旨規定している。
ロ 国税徴収法施行令(以下「徴収法施行令」という。)第14条《無償又は著しい低額の譲渡の範囲》は、徴収法第39条に規定する政令で定める処分は、国及び法人税法第2条《定義》第5号(公共法人の定義)に規定する法人以外の者に対する処分で無償又は著しく低い額の対価によるものとする旨規定している。
ハ 法人税法第2条第5号は、同法における公共法人とは、同法別表第一に掲げる法人をいう旨規定している。なお、同法別表第一《公共法人の表(第二条関係)》には、一般財団法人は掲げられていない。

(4) 争点

 本件における争点は、次の4点である。

  1. 争点1 財団法人である請求人に対する寄附は、徴収法第39条の政令で定める無償譲渡等の処分に該当するか否か。
  2. 争点2 本件寄附は法定納期限の1年前の日以後に行われたものであるか否か。
  3. 争点3 滞納国税の発生を予期しないで行われた無償譲渡等の処分について徴収法第39条の第二次納税義務が成立するか否か。
  4. 争点4 原処分は徴収権の濫用に当たるか否か。

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2 争点1について

(1) 主張

イ 原処分庁
 政令で定める無償譲渡等の処分は、徴収法施行令第14条により、国及び法人税法第2条第5号に規定する法人(公共法人)以外の者に対する処分で無償又は著しく低い額の対価によるものをいうこととされている。
 請求人は、国及び法人税法第2条第5号に規定する公共法人に該当しないため、請求人に対する寄附は、政令で定める無償譲渡等の処分に該当するので、原処分は適法である。
 寄附を受けた者が財団法人であることは、原処分の適法性に影響を与えるものではない。
ロ 請求人
 財団法人は寄附によって成り立つものであるから、寄附についても第二次納税義務が課せられるとすると、財団法人としての機能が果たせなくなる。
 また、寄附を受けた金銭は既に請求人の基本財産に組み込まれているが、請求人は、定款(寄附行為)により、基本財産の元本を取り崩すためには、理事会現在員3分の2以上の同意を経、かつ文部大臣(現在は文部科学大臣)の承認が必要である旨を定めているところ、寄附者の滞納によっていったん請求人の基本財産となった財産についても第二次納税義務を課されるとすれば、請求人の基本財産の取崩しについては文部科学大臣の承認を必要とした定款の趣旨を没却することとなる。
 したがって、財団法人に対する寄附については、その特質から、政令で定める無償譲渡等の処分には該当しないものと解すべきである。

(2) 判断

イ 徴収法第39条に規定する政令で定める無償譲渡等の処分は、上記1の(3)のロのとおり、国及び法人税法第2条第5号に規定する公共法人以外のものに対する処分に限られる。
 そして、請求人は、国及び法人税法第2条第5号に規定する公共法人のいずれにも該当しない一般財団法人であるから、請求人に対する本件寄附は、徴収法第39条に規定する政令で定める無償譲渡等の処分に該当するものと認められる。
ロ この点、請求人は、財団法人である請求人に対する寄附に第二次納税義務を課すことは、基本財産の取崩しには文部科学大臣の承認を要する旨規定している定款(寄附行為)の趣旨を没却することになり許されない旨主張する。
 しかしながら、請求人が定款に上記規定を設けている趣旨は、公益法人が公正かつ適切に公益目的事業を行うことを確保する必要があるためであると解されるところ、徴収法第39条に基づく第二次納税義務の履行は、上記趣旨を没却するものではないから、請求人の主張には理由がない。

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3 争点2について

(1) 主張

イ 原処分庁
 本件寄附は、それぞれ平成18年2月8日及び平成18年5月11日に行われたものであるところ、原処分によって徴収しようとする滞納国税の法定納期限は、最も新しいもので相続税に係る平成18年1月23日であるから、各寄附は、いずれも法定納期限の1年前の日以後に行われたこととなる。
ロ 請求人
 本件滞納者は、国税還付金を得た時点で請求人に寄附することを申し出て、還付金に係る資金を平成16年中に請求人の事務局長に手渡し、請求人は、平成17年1月11日に理事会を開催し、研究助成金として寄附金を受け入れることを承認可決したものである。
 したがって、仮に、請求人が第二次納税義務を負うとしても、本件における無償譲渡等の処分は、相続税の法定納期限である平成18年1月23日の1年前の日である平成17年1月23日より前に行われているから、原処分は、少なくとも相続税においては違法となる。

(2) 判断

イ 法令解釈
 徴収法第39条の無償譲渡等の処分が行われた時期については、処分行為によって当該財産が国税債権の引当てとなる一般財産から離脱し、相手方に帰属したときを基準として判断するのが相当と認められる。
ロ 認定事実
 原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば次の事実が認められる。
(イ) 本件滞納国税の法定納期限
 本件滞納国税の法定納期限は、別表の各「法定納期限」欄に記載のとおりであるところ、そのうちで最も新しいものは、同表の番号101ないし103の相続税に係る平成18年1月23日である。
(ロ) 本件寄附の原資
A 本件滞納者が開設したL銀行a営業部の普通預金口座(以下「本件口座」という。)に、平成16年12月22日、国税還付金○○○○円(以下「本件還付金」という。)が入金された。
B 本件滞納者は、平成16年12月24日、元妻のMとともにL銀行a営業部に行き、本件口座から本件還付金を現金で引き出し、そのうち病院の薬代等の経費を支払うための一部の現金を除き、同支店にMが開設した貸金庫(以下「本件貸金庫」という。)にこれを入庫した。
C 本件貸金庫は、上記Bの本件還付金の入庫の時以後、平成17年9月12日から平成18年8月15日まで通算13回の開扉が行われた。それ以後、平成19年6月6日までの間、開扉は行われていない。
D 原処分庁の徴収担当職員(以下「徴収担当職員」という。)は、平成19年6月6日、徴収法第142条《捜索の権限及び方法》に基づき、本件貸金庫内を捜索したが、現金は発見されなかった。
(ハ) 本件寄附に係る金銭の授受
A 本件滞納者は、請求人に対し、○○○○円の寄附をしたい旨を申し出し、請求人は、理事会において、本件寄附を受け入れることを満場一致で承認可決した。
 なお、本件寄附の原資は本件還付金である。
B 請求人は、本件滞納者から、本件寄附(民間助成金)として平成18年2月8日に○○○○円、同年5月11日に○○○○円を受領したとして、領収書(以下「本件領収書」という。)及び振替伝票(以下「本件振替伝票」という。)を作成した。
C 請求人の、平成18年4月1日から平成19年3月31日までの事業年度に係る総勘定元帳(現金)(以下「本件総勘定元帳」という。)において次の経理処理がされた。
(A) 平成18年4月1日 (借方)現金○○○○円
   摘要:民間助成金 本件滞納者 同年2月8日受領
(B) 平成18年4月1日 (借方)現金○○○○円
   摘要:民間助成金 本件滞納者 同年2月8日受領
(C) 平成18年5月11日 (借方)現金○○○○円
   摘要:民間助成金 本件滞納者
(ニ) 徴収担当職員は、平成18年11月28日、本件滞納者の関与税理士事務所内で関与税理士及び請求人の事務局長であるNと面接し、上記(ハ)のAに係る請求人の平成17年2月25日付平成16年度第6回理事委員会議事録と題する議事録(以下「本件議事録」という。)の写しを徴した。また、Nから、平成18年12月4日に本件領収書の写し、平成19年2月8日に本件振替伝票の写しを徴した。
ハ 判断
(イ) 徴収法第39条の無償譲渡等の「処分の日」とは、上記イのとおり、処分行為によって当該財産が国税債権の引当てとなる一般財産から離脱し、相手方に帰属したときを基準として判断するのが相当と解されるところ、金銭については、滞納者が無償譲渡等をしても、現実の引渡しをしていない限り、原処分庁は、当該財産を滞納者に帰属する財産として滞納処分をなし得るのであるから、「処分の日」とは、処分行為により、現実に金銭が相手方に引き渡された時をいうものと解するのが相当である。
(ロ) そして、上記ロの(ハ)のとおり、請求人が、寄附金として平成18年2月8日に○○○○円、同年5月11日に○○○○円を受領したとして、それぞれの日付で本件領収書及び本件振替伝票を作成し、本件総勘定元帳に記載していることからすれば、平成18年2月8日に○○○○円、同年5月11日に○○○○円の金銭を本件滞納者から受領したものと認められる。
(ハ) この点、請求人は、本件寄附に係る金銭の授受は本件滞納者が国税還付金を得た平成16年中に行われた旨主張する。
 しかしながら、上記ロの(ロ)のとおり、本件還付金は、平成16年12月24日に一部を除き本件貸金庫に入庫され、本件貸金庫は、本件還付金の入庫時以降、平成17年9月12日に至るまで開扉されていなかったことからすれば、平成16年内に本件還付金をNに手交したとする請求人の主張は信用できない。
(ニ) また、Nは、徴収担当職員に対し、請求人は、平成18年3月期は約40,000,000円の赤字となり、次期決算期は約70,000,000円の赤字となることが予測されたため、請求人を維持するためには赤字補填分として本件滞納者に○○○○円の拠出を求める他なく、本件滞納者も受け入れざるを得なかったことから、平成18年2月8日に○○○○円を寄附として受け入れた旨、そして、売上増加策検討の結果、広告・宣伝以外に打開策はないとの結論に達し、掛かる費用分として、同年5月11日に、本件滞納者から、○○○○円の寄附を受けるに至った旨申述している。
 請求人は、上記事実はなく、本件議事録及び本件領収書はNが作成した内容虚偽のものである旨主張するが、請求人が本件領収書は偽造である旨主張するに至ったのは、請求人に対する第二次納税義務が課せられることが明らかになって以降であること、上記ロの(ニ)のとおり、徴収担当職員は、平成18年11月28日に、本件滞納者の関与税理士事務所において関与税理士及びNと面談のうえ本件議事録の写しを徴しているが、その際、関与税理士や本件滞納者から、当該議事録の写しは虚偽である等の申し立てもなかったことにかんがみれば、本件議事録及び本件領収書がNの偽造によるものであるとする請求人の主張は到底信用することができない。
(ホ) 以上から、本件滞納国税の法定納期限は、別表の法定納期限欄のとおり、最も新しいもので平成18年1月23日であるから、本件寄附による無償譲渡等の処分の日は、いずれも本件滞納国税に係る法定納期限の1年前の日以後に行われたことになる。
(ヘ) したがって、その余の点を検討するまでもなく、請求人の主張には理由がない。

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4 争点3について

(1) 主張

イ 原処分庁
 徴収法第39条に基づく第二次納税義務の要件は、まる1滞納者の国税につき滞納処分を執行してもなおその徴収すべき額に不足すると認められること、まる2滞納者が法定納期限の1年前の日以後に無償譲渡等の処分をしたこと、まる3その不足すると認められることが無償譲渡等の処分に基因することの3点であり、「無償譲渡等の処分が滞納国税の発生を予期して行われたこと」は、その要件とされていないから、請求人の主張には理由がない。
ロ 請求人
 徴収法第39条の第二次納税義務は、通則法第42条《債権者代位権及び詐害行為取消権》によって準用される民法第424条《詐害行為取消権》におけるのと同様に「債務者が債権者を害することを知ってした」場合にのみ成立するものと解すべきである。
 本件滞納者に係る相続税は、本件滞納者の本件寄附の申出の後にその納税義務が成立しており、本件寄附が相続税の滞納の発生を予期して行われたものではないことは明らかである。
 また、源泉所得税は、本件寄附の後に告知処分が行われており、本件寄附の時点では納付しなければならない国税があることを知らなかったのであるから、本件滞納者は、国(債権者)を害することを知って本件寄附を行ったものではない。
 したがって、原処分は要件を欠いており違法である。

(2) 判断

イ 徴収法第39条は文言上「詐害の意思」が要件とされていないことからも、滞納者に詐害の意思があることは、同条所定の第二次納税義務の成立要件ではないというべきである(最高裁平成21年12月10日第一小法廷判決・民集63巻10号2516頁)。
ロ この点、請求人は、民法第424条の詐害行為取消権と同様に「債務者が債権者を害することを知ってした」場合にのみ成立するものと解すべきである旨主張する。しかしながら、民法第424条に定める詐害行為取消権と徴収法第39条の規定する第二次納税義務の制度とは、前者が総債権者のために債務者が行った法律行為を取り消して、債権者の満足を図ろうという制度であるのに対し、後者は、その時期及び対象を限定しており、また、その効果も、当該処分を取り消すというものではなく、受益者の種類に応じ、一定の第二次納税義務を負わせるにとどまるなど、その対象及び効果が異なっており、それに応じてそれぞれ異なる適用要件が定められていると解されるから、請求人の主張には理由がない。

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5 争点4について

(1) 主張

イ 原処分庁
 第二次納税義務は、主たる納税義務が発生し存続する限りは、必要に応じていつでも課せられる可能性を有するものである。
 また、徴収法第32条第1項の規定による告知は、その義務の発生を知らしめる徴収のための処分にほかならないため、独立した期間制限は設けられていない。
 したがって、主たる納税者の国税が滞納になっている間はこの告知をすることができると解すべきであるから、請求人の主張には理由がない。
ロ 請求人
 本件滞納国税のうち源泉所得税は、一番古いものは法定納期限から7年を経過している。本件源泉所得税の賦課決定処分については、H税務署長が調査を行いさえすれば容易に判明した不納付に係るものであるのに、同税務署長は、調査を怠り徴収不足を生じさせた。
 また、原処分庁が、事前に本件滞納者に直接、納付折衝を行っていれば、本件滞納者は本件寄附を行う前に本件滞納国税を納税することが可能であったにもかかわらず、原処分庁は、請求人の事務局長のNとの間で交渉を進め、本件滞納者本人に対する納付折衝を行わなかった。
 原処分は、上記のとおりの国の怠慢によって生じた徴収不足の責任を請求人に転嫁しようとするものであるから、徴収権の濫用に当たり違法である。

(2) 判断

イ 第二次納税義務は、主たる納税義務が申告又は決定もしくは更正等により具体的に確定したことを前提として、その確定した税額につき本来の納税義務者の財産に対して滞納処分をしてもなお徴収すべき額に不足すると認められる場合に、租税徴収の確保を図るため、本来の納税義務者と同一の納税上の責任を負わせても公平を失しないような特別の関係にある第三者に対して補充的に課される義務であって、その納付告知は、形式的には独立の課税処分であるが、実質的には、右第三者を本来の納税義務者に準ずる者とみてこれに主たる納税義務についての履行責任を負わせるものに他ならないから、第二次納税義務の納付告知は、主たる納税義務の徴収手続上の一処分としての性格を有し、右納付告知を受けた第二次納税義務者は、あたかも主たる納税義務について徴収処分を受けた本来の納税義務者と同様の立場に立つものであり(最高裁昭和50年8月27日第二小法廷判決・民集29巻7号1226頁)、このような観点から、第二次納税義務は、主たる納税者の納税義務との関係においては、付従性、補充性が認められているものである。
ロ 請求人は、源泉所得税の告知処分について、H税務署長が調査を行いさえすれば容易に判明した不納付に係るものであるのに、同税務署長は長期間調査を怠った、また、原処分庁が本件滞納者に対して直接に納付折衝を行わなかった、という国の怠慢によって徴収不足が生じたにもかかわらず、その責任を請求人に転嫁するものである旨主張する。
 しかしながら、第二次納税義務は主たる納税義務が発生し存続する限り必要に応じていつでも課せられるものであり、また、原処分庁は、本件滞納者に対して滞納処分を実施してもなお徴収すべき額に不足すると認められることから、請求人に対し、原処分を行っているものである。また、第二次納税義務の追及のためには、滞納者に対して直接に納付折衝を行うことは要件とされていない。
 以上から、原処分に違法な点はなく、請求人の主張にはいずれも理由がない。
ハ その他、原処分が徴収権の濫用に当たるとみるべき事実は認められない。

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6 その他

 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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