(平成24年10月29日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が事業を廃止したこと及び請求人と生計を一にしていない請求人の母が病気にかかったことを理由に納税の猶予の申請をしたところ、原処分庁が、請求人が事業を廃止した理由には、法令の規定、公共事業の施行又は業績の著しい悪化等のやむを得ない理由がなく、また、請求人の母が病気にかかった事実に基づいて、請求人がその国税を一時に納付することができなくなったとは認められないとして、納税の猶予不許可処分を行ったことから、請求人がその取消しを求めた事案である。

(2) 審査請求に至る経緯

イ 原処分庁は、平成22年7月29日、国税通則法(以下「通則法」という。)第43条《国税の徴収の所轄庁》第3項に基づき、別表1の滞納国税(以下「本件滞納国税」という。)について、K税務署長から徴収の引継ぎを受けた。
ロ 請求人は、平成23年2月1日、原処分庁に対し、通則法第46条《納税の猶予の要件等》第2項第3号及び第5号(第2号類似)に基づき、本件滞納国税について納税の猶予の申請(以下「本件猶予申請」という。)をした。
ハ 原処分庁は、平成23年6月16日付で、本件猶予申請に係る納税の猶予を不許可とする処分(原処分)をした。
ニ 請求人は、平成23年8月17日、原処分を不服として異議申立てをしたところ、異議審理庁は、同年11月11日付で棄却する旨の異議決定をし、当該異議決定書謄本は同月15日に請求人に送達された。
ホ 請求人は、平成23年12月12日、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、審査請求をした。

(3) 関係法令等の要旨

 別紙記載のとおりである。

(4) 基礎事実

 以下の事実は、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。
イ 請求人の事業の廃止について
(イ) 請求人の父であるL(以下「請求人の父」という。)は飲食業(以下「本件事業」という。)を経営していたところ、平成17年5月○日に死亡し、請求人は、相続により本件事業を承継した。
(ロ) 請求人は、平成21年11月4日、K税務署長に対し、平成20年12月30日に本件事業を営業不振のため廃止した旨の個人事業の開廃業等届出書を提出した。
ロ 請求人の母の病気について
(イ) 請求人の母であるM(以下「請求人の母」という。)は、平成21年3月17日から同月26日まで、○○のため、N病院に入院し、治療を受けた。
(ロ) 請求人の母は、上記(イ)の入院以降、別表2の順号2、同4ないし7、同9ないし29のとおり、N病院及びP内科に入通院し、治療を受けた。
(ハ) 請求人は、上記(イ)の入院及び(ロ)の入通院等により生じた医療費(治療費等及び薬剤代)を別表2のとおり支出した。
(ニ) 請求人の母は、請求人と生計を一にしていなかった。
ハ 本件猶予申請について
(イ) 本件猶予申請は、本件事業を廃止したこと(通則法第46条第2項第3号)及び請求人の母が病気にかかったこと(同項第5号(第2号類似))を申請理由としてされたものである。
(ロ) 請求人は、本件猶予申請に係る申請書(以下「本件猶予申請書」という。)の「猶予期間」の欄には記載をしていないが、「納付計画」欄には、平成23年1月31日及び同年2月28日にそれぞれ100円、同年3月31日から同年11月30日まで月々500円、並びに同年12月29日に1,000円を納付する旨記載している。

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2 争点

(1) 請求人が本件事業を廃止した事実は、請求人のやむを得ない理由に基づくものとして、通則法第46条第2項第3号に規定する猶予該当事実に該当するか否か(争点1)。
(2) 請求人が滞納国税を一時に納付することができなかったのは、請求人と生計を一にしない請求人の母が病気にかかったという通則法第46条第2項第5号(第2号類似)に規定する猶予該当事実に基づくか否か(争点2)。

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3 主張及び判断

(1) 争点1について

イ 主張

請求人 原処分庁
 請求人が本件事業を廃止したのは、主力従業員が、請求人が本件事業に直接介入した場合には辞職する旨の辞表の提出をするなどしたため、請求人が、従業員全員が退職するのを憂慮して本件事業に常時介入できず、本件事業について正確な情報等を掌握しきれない状況に置かれていたことによる。
 したがって、請求人が本件事業を廃止した事実は、やむを得ない理由に基づくものであり、通則法第46条第2項第3号に規定する猶予該当事実に該当する。
 請求人が本件事業を廃止したのは、請求人が本件事業を請求人の母の内縁の夫及び請求人の弟に任せきりであったことに起因すると認められる。
 したがって、請求人が本件事業を廃止した事実は、やむを得ない理由に基づくものではなく、通則法第46条第2項第3号に規定する猶予該当事実に該当しない。

ロ 法令解釈等
 通則法第46条第2項に規定する納税の猶予は、期限内納付及び国税が期限内に完納されなかった場合の強制徴収の例外として、一定の事由により納付困難になった納税者を救済するものであるが、租税徴収手続における他の納税者との公平という観点をも考慮すると、通則法第46条第2項第3号に規定する「納税者がその事業を廃止し、又は休止したこと」とは、納税者の責めに帰すことができないやむを得ない事由に基づき納税者がその事業を廃止又は休止したことをいうものと解するのが相当である。
 「「事業を廃止し、又は休止した」とは、法令の規定、公共事業の施行又は業績の著しい悪化等のやむを得ない理由により、事業の全部又は一部を廃止又は休止したと認められることをいうものとする。」として、この旨を定めた国税通則法基本通達(昭和45年6月24日付徴管2−43ほか9課共同、国税庁長官通達。)第46条関係11《事業の休廃止》及び「納税の猶予等の取扱要領」(昭和51年6月3日付徴徴3−2ほか1課共同「納税の猶予等の取扱要領の制定について」(国税庁長官通達)の別冊。以下「猶予通達」という。)第2章《納税の猶予》第1節《通常の納税の猶予》1《納税の猶予の要件》の(3)《猶予該当事実》のハの取扱いは、当審判所においても相当と考える。
ハ 認定事実
 請求人の提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
(イ) 請求人は、本件事業の廃止に至る経緯について、原処分庁の担当者に対し、要旨次のとおり申述した。
A 請求人の父が死亡する直前に、請求人、請求人の父及び本件事業に係る店舗の店長(以下「店長」という。)との間で話合いを行い、請求人が本件事業を承継する意向を示したところ、店長から、請求人が経営に関与するのであれば従業員全員が辞表を提出すると言われ、請求人が本件事業を承継することに反対された。
 そのため、請求人は、請求人の父が死亡し相続により本件事業を承継した後も、請求人の母の内縁の夫及び請求人の弟に本件事業の経営を任せ、自らは本件事業の経営に直接関与していなかった。
B 請求人は、請求人の父の死亡から2年経過した頃、本件事業の経営に関与しようとしたが、店長から上記Aのときと同様に言われて反対され、また、請求人の母の内縁の夫からも反対されたため、引き続き、請求人の母の内縁の夫及び請求人の弟に本件事業の経営を任せていた。
C 本件事業に係る店舗の所在地域では、深夜の営業に関する警察の取締りが厳しくなり、客が減少した結果、売上げも減少した。
 請求人は、請求人の母の内縁の夫から、平成20年10月頃、これ以上営業を続けることはできない旨告げられ、同年12月、本件事業を廃止した。
(ロ) また、請求人の母の内縁の夫は、本件事業の廃止に至る経緯について、原処分庁の担当者に対し、要旨次のとおり申述した。
A 本件事業は赤字続きの状態であった。
B 経営が苦しかった理由としては、請求人の父が残した負債があったこと、本件事業に係る店舗の所在地域は地元以外の者に厳しい土地柄であったこと、観光客の減少による売上げ減少等の理由があった。
(ハ) 上記(イ)及び(ロ)の請求人及び請求人の母の内縁の夫の各申述には特に不自然な点はなく、他方、当審判所の調査の結果によっても、当該各申述を覆すに足りる証拠は見当たらないから、本件事業を廃止した経緯については、当該各申述のとおりと認められる。
ニ 当てはめ
 上記ハのとおりの本件事業を廃止した経緯に照らすと、請求人は、請求人が本件事業を承継する以前からの店長らの意向を認識し、当該意向を踏まえて、請求人の母の内縁の夫及び請求人の弟に本件事業の経営を任せ、請求人自身は本件事業の経営に直接関与しないという経営判断を行ったものであり、また、請求人が本件事業を承継した時点から負債が存在していたことに加え、本件事業に係る店舗の売上げが減少したことから、経営に行き詰まり、本件事業を廃止したものであるから、これをもって、請求人の責めに帰すことができないやむを得ない事由に基づき請求人が本件事業を廃止したと認めることはできず、他方、当審判所の調査の結果によっても、上記認定を覆すに足りる証拠は見当たらない。
 したがって、請求人が本件事業を廃止した事実は、通則法第46条第2項第3号に規定する猶予該当事実に該当しないから、請求人の主張は採用できない。

(2) 争点2について

イ 主張

請求人 原処分庁
 請求人の母が病気にかかったという通則法第46条第2項第5号(第2号類似)の猶予該当事実は、滞納国税を一時に納付することができないことの原因の1つとなっている。  請求人は、請求人の母の入院加療に伴う支出を行う以前から滞納国税の納付をしていないのであるから、請求人の母が病気にかかったという通則法第46条第2項第5号(第2号類似)の猶予該当事実が存在したことによる資金の支出が、滞納国税を一時に納付することができないことの原因となっているとは認められない。

ロ 認定事実
 請求人の提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
(イ) 請求人の収入の状況について
A 請求人は、平成21年7月16日からQ社(以下「請求人勤務先」という。)に勤務し、給与の支給を受けていた。
B 平成23年1月30日の後に最初に到来する請求人勤務先から請求人への給与の支給日は、平成23年2月18日であった。
(ロ) 請求人名義の預金口座の残高及び資金移動の状況について
A R銀行e支店の請求人名義の普通預金口座(口座番号○○○○)(以下「本件銀行口座(R)」という。)について
(A) 請求人は、平成23年1月20日、本件銀行口座(R)から、○○○○円を引き出した。
(B) 平成23年1月31日の前日における本件銀行口座(R)の残高は、○○○○円であった。
B S銀行d支店の請求人名義の普通預金口座(口座番号○○○○)(以下「本件銀行口座(S)」といい、本件銀行口座(R)と併せて、「本件預金口座」という。)について
(A) 請求人は、平成23年1月24日、本件銀行口座(S)に対し、○○○○円を入金した。
(B) 平成23年1月27日、本件銀行口座(S)から、住宅ローンの返済として○○○○円が、T社に対する支払(ケーブルテレビ等の料金)として○○○○円が、それぞれ引き落とされた。
(C) 平成23年1月31日の前日における本件銀行口座(S)の残高は、○○○○円であった。
ハ 判断
(イ) 納税の猶予の要件について
 通則法第46条第2項に規定する納税の猶予は、まる1納税者に猶予該当事実があること、まる2猶予該当事実に基づき、納税者がその国税を一時に納付することができないと認められること、まる3納税者から国税通則法施行令第15条《納税の猶予の申請手続等》第2項に規定する納税の猶予の申請書が提出されていること、まる4通則法第46条第1項の規定による納税の猶予の適用を受ける場合でないこと、まる5同条第5項の規定により納税の猶予に係る税額が500,000円を超える場合は担保の提供があること、という全ての要件を充足する場合に限り、税務署長等がその申請を許可することができるものである。
(ロ) 納税者に猶予該当事実があること(要件まる1)について
 上記1の(4)のロの(イ)及び(ニ)のとおり、請求人と生計を一にしない請求人の母が病気にかかった事実があること及びその事実が通則法第46条第2項第5号(第2号類似)の猶予該当事実に当たることは、請求人と原処分庁の間で争いがなく、当審判所の調査の結果によっても、請求人に同号の猶予該当事実があることが認められる。
(ハ) 猶予該当事実に基づき、納税者がその国税を一時に納付することができないと認められること(要件まる2)について
A 納税者がその国税を一時に納付することができないと認められること(以下「納付困難」という。)について
(A) 納付困難に係る猶予通達の定めについて
 猶予通達第2章第1節1の(4)《猶予該当事実と納付困難との関係》ロは、納付困難か否かの判定は、猶予通達第7章《納付能力調査》第2節《現在納付能力調査》に定める現在納付能力調査に基づいて行う旨定めており、具体的には、猶予通達第7章第1節《通則》2《調査日》及び第2節において、現在納付能力調査は、納税の猶予の申請に係る猶予期間の始期の前日である調査日において納税の猶予の申請等に係る国税をいくら納付できるか、納付困難な金額がいくらであるかを判定するための調査であって、まる1調査日現在における納税者の現金、当座預金その他の引き出し可能の預貯金等直ちに納税に充てることができる資金の合計額(当座資金)と、まる2当面の事業の継続又は生活の維持に、真に必要と認められるつなぎ資金(調査日後比較的短期間において、資金の最も窮屈になる日のために留保を必要とする資金)とを調査し、当座資金からつなぎ資金を差し引いて、現在納付可能資金を把握するものとされている。
 通則法第46条第2項は、上記(1)のロのとおり、一定の事由により納付困難になった納税者に対する国税の徴収手続を緩和し、納税を猶予することによって当該納税者の救済を図る制度であるが、それは、他の一般の納税者との租税負担の公平の実現の上で認められるべきものである。このような納税の猶予の制度趣旨に照らすと、一方で、調査日現在の当座資金の全額を納税に充てるべきとすることは相当でなく、当座資金から当面の事業の継続又は生活の維持に真に必要な資金を控除した金額を納税に充てるべき資金とすることが相当であり、他方で、当面の事業の継続又は生活の維持に真に必要な資金以外の金額についてまで納税を猶予することは相当でないというべきである。
 したがって、当審判所においても、上記のとおりの猶予通達の取扱いは、相当と考える。
(B) 調査日について
 上記1の(4)のハの(ロ)のとおり、本件猶予申請書には猶予期間が記載されていない(なお、原処分庁もこの点について補正を求めていない。)。
 しかしながら、請求人は、本件猶予申請書において、平成23年1月31日から納付を開始し、同年12月29日までの期間に本件滞納国税のうち5,700円を納付する旨の納付計画を明らかにしていること(上記1の(4)のハの(ロ))からすれば、請求人は、本件猶予申請書において、同年1月31日から同年12月29日までの期間を猶予期間として納税の猶予を受けたい旨の申請をしたものと認められる。
 したがって、平成23年1月31日を本件猶予申請に係る猶予期間の始期とし、その前日である同月30日を調査日(以下「本件調査日」という。)として判定をすることになる。
(C) 当座資金について
 当座資金とは、調査日現在における現金、当座預金その他の引き出し可能の預貯金等直ちに支払に充てることのできる資金の合計額とされている。
 これを本件についてみるに、請求人は、平成23年1月20日に本件銀行口座(R)から○○○○円を引き出し(上記ロの(ロ)のAの(A))、同月24日に本件銀行口座(S)に○○○○円を入金している(上記ロの(ロ)のBの(A))ところ、請求人提出資料その他当審判所の調査の結果によっても、同月20日から本件調査日までに、その差額である現金○○○○円を別表3の「総支出見込金額」欄に記載の支出に充てたことを認めるに足りる証拠は見当たらず、他方、請求人の収入源は請求人勤務先からの給与の支給(上記ロの(イ)のA)以外には認められないことから、本件調査日現在における請求人の現金残高は、○○○○円であったと推認される。
 また、請求人が、本件預金口座以外に引き出し可能の預貯金を有していたとは認められない。
 したがって、本件調査日現在における当座資金は、現金○○○○円、本件銀行口座(R)の預金残高○○○○円及び本件銀行口座(S)の預金残高○○○○円の合計額○○○○円となる。
(D) つなぎ資金について
 本件において、つなぎ資金は、本件調査日である平成23年1月30日の後おおむね1か月以内において資金の最も窮屈になる日のために留保を必要とする資金を日を追って計算することとなる。
a 資金の最も窮屈になる日について
 上記(C)のとおり、請求人の収入源は請求人勤務先からの給与の支給(上記ロの(イ)のA)以外には認められないことからすると、資金の最も窮屈になる日とは、本件調査日後請求人勤務先から最初に給与が支給された平成23年2月18日(上記ロの(イ)のB)の前日である同月17日とみるのが相当である。
b つなぎ資金の算定について
 本件において、つなぎ資金の算定は、本件調査日である平成23年1月30日後資金の最も窮屈になる日である同年2月17日のために留保を必要とする資金を計算することになる。
 請求人提出資料によれば、請求人の平成23年1月30日から同年2月17日までの総支出見込金額は、別表3のとおり○○○○円となり、他方、同期間の総収入見込金額は、請求人の収入源が請求人勤務先からの給与の支給(上記ロの(イ)のA)以外には認められないこと(上記(C))からすると、零円となることから、本件調査日現在におけるつなぎ資金は、○○○○円となる。
(E) 現在納付可能資金について
 現在納付可能資金は、上記(C)の当座資金○○○○円から上記(D)のbのつなぎ資金○○○○円を差し引いた○○○○円となる。
(F) 納付困難について
 本件調査日における納付困難な税額は、別表1の本件猶予申請に係る税額○○○○円から上記(E)の現在納付可能資金の額○○○○円を差し引いた○○○○円となる。
(G) 小括
 以上によれば、本件は、上記(イ)のまる2の要件のうち、納付困難の点を充足している。
B 猶予該当事実に基づき納付することができない(以下「基因関係」という。)ことについて
(A) 基因関係に係る猶予通達の定めについて
 猶予通達第2章第1節2《納税の猶予をする金額》(2)《猶予該当資金の範囲》イ《共通事項》(ホ)は、基因関係の有無の判定は、猶予該当事実に基づく支出又は損失(以下「猶予該当資金」という。)がある場合には、その資金の額が納付困難の原因となっているものとして取り扱う旨定めている。
 この点、猶予該当事実に基づく支出又は損失(すなわち猶予該当資金)がなければ、その資金の額と同額の国税を納付することができたと考えられるから、当審判所においても、上記のとおりの猶予通達の取扱いは、相当と考える。
(B) 猶予該当資金について
a 納税者と生計を一にしない親族が病気にかかり又は負傷した事実があった場合の猶予該当資金に係る猶予通達の定めについて
 納税者と生計を一にしない親族が病気にかかり又は負傷した事実があった場合の猶予該当資金については、猶予通達第2章第1節2(2)イ(イ)及び(ニ)並びに同ロ(イ)D、(ロ)及び(ホ)によれば、まる1猶予該当資金は、まるア病気又は負傷により要する医療費及び病気又は負傷があったことにより支出を余儀なくされる費用で、猶予該当事実が発生した日から調査日までに支出した金額及び調査日後支出する見込みの金額のうち申請に係る納税の猶予の期間中に支出される見込みの金額とするが、まるイ病気が調査日から1年以上前にあり、それに伴って調査日から1年以上前に現実に支払った金額があるときは、その金額が借入れによって調達されたことが確認される場合等に限り、調査日前1年内に返済された金額等だけを猶予該当資金として認めることとする旨、さらに、まる2まるア猶予該当事実に基づいて、調査日までに受領した保険金、補償金、賠償金等がある場合には、その受領した金額を猶予該当資金から控除し、まるイ調査日後に受領する見込みの保険金、補償金、賠償金等がある場合には、その受領する見込みの金額は猶予該当資金から控除しない旨定めている。
 この点、病気又は負傷により要する医療費及び納税者が猶予該当事実により支出を余儀なくされる費用を負担しなければ、それと同額の国税の納付に充てることができたと考えられ、結果として、猶予該当資金があることが納付困難の原因になっているといえることから、当審判所においても、上記のとおりの猶予通達の取扱いは、相当と考える。
b これを本件についてみるに、請求人の母が病気にかかったことにより請求人が支払った医療費の金額は別表2のとおりであり、請求人提出資料その他当審判所の調査の結果によっても、まる1本件調査日から1年以上前に請求人が現実に支払った金額が借入れによって調達された事実は認められず、また、まる2請求人及び請求人の母が本件調査日までに受領したか、あるいは、本件調査日後に受領する見込みの保険金、補償金、賠償金等が存在する事実は認められない。
 したがって、請求人の母が病気にかかったことによる猶予該当資金の額は、平成22年1月31日から本件調査日である平成23年1月30日までの期間に請求人が支払った別表2「小計まる2」欄記載の医療費の額○○○○円と、本件猶予申請日から本件猶予申請に係る猶予期間において支出される見込みの同表「見込金額まる4」欄記載の医療費の額○○○○円の合計額である同表「見込支払合計金額」欄記載の○○○○円と認められる。
(C) 小括
 以上によれば、本件調査日において、猶予該当資金の額は○○○○円であり(上記(B)のb)、猶予該当資金の額は、その額の限度において、納付困難の税額(○○○○円)があることと基因関係があることになるので、本件は、上記(イ)のまる2の要件のうち、基因関係の点も充足している。
(ニ) その他の要件(要件まる3ないしまる5)について
 上記(イ)のまる3及びまる4の要件については、請求人から原処分庁に対して本件猶予申請書が提出されており、また、本件が通則法第46条第1項の規定による納税の猶予を受ける場合でないことは明らかである。
 また、上記(イ)のまる5の要件については、本件の場合、上記(ハ)のBの(B)のbのとおり猶予該当資金の額が○○○○円であるので、納税の猶予が認められる金額は猶予該当資金の額と同額の○○○○円となり、担保の提供を要しない500,000円以下となることから、上記(イ)のまる5の要件も充足している。
 したがって、本件は、上記(イ)のまる3ないしまる5の要件をいずれも充足している。

(3) 結論

 以上のとおり、まる1請求人には猶予該当事実があり(上記(2)のハの(ロ))、まる2猶予該当事実に基づき、○○○○円の限度において本件滞納国税を一時に納付することができなかったと認められる(上記(2)のハの(ハ))ものであり、上記(2)のハの(イ)の納税の猶予の要件まる1及びまる2を充足していたと認められる。また、請求人は、上記(2)のハの(イ)の納税の猶予のその他の要件(要件まる3ないしまる5)も全て充足していたと認められる(上記(2)のハの(ニ))。
 したがって、納税の猶予の要件を充足しているとは認められないとした原処分は違法である。

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