(平成24年12月13日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、審査請求人J、同L、同M及び同N(以下、順に「請求人J」、「請求人L」、「請求人M」及び「請求人N」といい、これら4名を併せて「請求人ら」という。)が、相続により取得した複数の土地のうち、一部の土地については財産評価基本通達(昭和39年4月25日付直資56ほか国税庁長官通達をいい、以下「評価基本通達」という。)24−4《広大地の評価》(以下「広大地通達」という。)に定める広大地(以下、単に「広大地」という。)に該当するなどとして更正の請求をしたところ、原処分庁が、当該各土地は広大地に該当しないとして、請求人らに対する更正をすべき理由がない旨の各通知処分をし、次いで、別の各土地も広大地に該当しないとして、請求人らに対する相続税の各更正処分及び過少申告加算税の各賦課決定処分を行い、さらに、別の各土地の評価単位が異なる等として、請求人M及び請求人Nに対する各更正処分並びに請求人Mに対する過少申告加算税の賦課決定処分を行ったのに対し、請求人らが、上記各処分の全部の取消しを求めた事案である。

(2) 審査請求に至る経緯

イ 請求人らは、平成21年7月○日(以下「本件相続開始日」という。)に死亡したP(以下「本件被相続人」という。)の共同相続人5名中の4名であり、本件被相続人の相続(以下「本件相続」という。)に係る相続税(以下「本件相続税」という。)について、法定申告期限までに別表1の「期限内申告」欄のとおり記載した申告書を原処分庁へ提出して、相続税の申告(以下「本件期限内申告」という。)をした。
ロ 請求人らは、平成23年2月28日、本件相続により取得した複数の土地のうち、一部の土地が広大地に該当するところ、これと前提の異なる申告時の評価額は過大であるとして、別表1の「更正の請求」欄のとおり、それぞれ更正の請求をした。
ハ これに対し、原処分庁は、平成23年6月27日付で、請求人らに対し、更正をすべき理由がない旨の各通知処分(以下、請求人J、請求人L、請求人M及び請求人Nに対する各通知処分を、順に「本件J通知処分」、「本件L通知処分」、「本件M通知処分」及び「本件N通知処分」といい、これらを併せて「本件各通知処分」という。)をした。
ニ 請求人らは、平成23年8月22日、本件各通知処分を不服とし、それぞれに対する当該処分の全部の取消しを求めて、いずれも異議申立てをした。
ホ 次いで、原処分庁は、平成23年8月31日付で、請求人らに対し、上記ロ以外の一部の土地にも広大地に該当しないものがあり、これと前提の異なる申告時の評価額には誤りがあるとして、別表1の「更正処分等」欄のとおり、各更正処分(以下、請求人J及び請求人Lに対する各更正処分を併せて「本件J・L各更正処分」という。)及び過少申告加算税の各賦課決定処分をした。
ヘ これに対し、請求人らは、平成23年10月25日、請求人らに対する上記ホの各更正処分及び各賦課決定処分を不服とし、それぞれに対する当該各処分の全部の取消しを求めて、いずれも異議申立てをした。
ト 異議審理庁は、上記ニ及び上記ヘの各異議申立てを併合して審理し、平成23年11月21日付で、別表1の「異議決定」欄のとおり、まる1請求人M及び請求人Nに係る異議申立てをいずれも棄却し、また、まる2請求人J及び請求人Lに係る異議申立てについては、本件相続により取得した複数の土地のうち、一部の土地の評価単位に誤りがあるなどの理由により、本件J・L各更正処分並びに本件J通知処分及び本件L通知処分の各一部を取り消し、請求人J及び請求人Lに対する上記ホの各賦課決定処分の全部を取り消す旨の異議決定(以下「本件異議決定」という。)をし、同異議決定書謄本は、同日に請求人らに対して送達された(以下、本件異議決定を経た後の請求人らに対する上記ホの各更正処分を「本件各更正処分」といい、そのうち請求人M及び請求人Nに対する上記ホの各更正処分及び各賦課決定処分を、順に「本件M更正処分」及び「本件N更正処分」並びに「本件M賦課決定処分」及び「本件N賦課決定処分」という。)。
チ 請求人らは、平成23年12月19日、それぞれに対する本件各通知処分、本件各更正処分(請求人J及び請求人Lについては本件J・L各更正処分を含む。)並びに本件M賦課決定処分及び本件N賦課決定処分に不服があるとして、いずれも審査請求をし、同日、請求人Jを総代として選任し、その旨を届け出た。
リ さらに、原処分庁は、平成23年12月26日付で、本件異議決定と同じ理由により、別表1の「再更正処分等」欄のとおり、請求人M及び請求人Nに対する各再更正処分(以下、順に「本件M再更正処分」及び「本件N再更正処分」といい、併せて「本件各再更正処分」という。)並びに請求人Mに対する過少申告加算税の賦課決定処分(以下「本件再賦課決定処分」という。)をした。
ヌ 請求人M及び請求人Nは、平成24年2月1日、本件各再更正処分及び本件再賦課決定処分を不服とし、それぞれに対する当該処分又は当該各処分の全部の取消しを求めて、いずれも異議申立てをしたところ、異議審理庁は、国税通則法(平成23年法律第114号による改正前のもの。以下「通則法」という。)第90条《他の審査請求に伴うみなす審査請求》第1項の規定に基づき、当該各異議申立てに係る異議申立書を国税不服審判所長に送付し、かつ、その旨を各異議申立人に通知した。
 上記各異議申立書は、平成24年3月8日に当審判所に送付されたため、通則法第90条第3項の規定により、同日、本件各再更正処分及び本件再賦課決定処分に対する審査請求がされたものとみなされることから、これを上記チの審査請求と併合審理する。

(3) 関係法令等の要旨

 別紙4のとおりである(なお、略称等は本文中の例による。)。

(4) 基礎事実

 以下の事実については、請求人らと原処分庁との間に争いがなく、当審判所の調査の結果によっても、その事実が認められる。
イ 本件相続について
(イ) 本件相続に係る共同相続人は、本件被相続人の配偶者であるQ(以下「本件配偶者」という。)、本件被相続人と本件配偶者の実子である請求人J(長男)、請求人L(二男)、請求人M(三男)及び同養子である請求人N(請求人Mの子)の5名(以下、この5名を併せて「本件各相続人」という。)である。
 なお、別表2の表中のR及びSは、請求人Jの子であり、Tは、請求人Lの子である。
(ロ) 本件被相続人の相続財産の中には、次の財産があった。
A 別表2の順号1ないし16及び順号21ないし29の各土地
 以下、これらを併せて「本件各土地」という。また、順号1及び2を「本件A土地」、順号3を「本件B土地」、順号4ないし12を「本件C1土地」、順号13を「本件C2土地」、順号14を「本件C3土地」、順号15を「本件C4土地」、順号16を「本件C5土地」、本件C1土地ないし本件C5土地を併せて「本件C土地」、順号21を「本件D土地」、順号22を「本件E土地」、順号23を「本件F土地」、順号24を「本件H土地」、順号25を「本件G1土地」、順号26を「本件G2土地」、順号27及び28を「本件G3土地」、本件G1土地ないし本件G3土地を併せて「本件G土地」、順号29を「本件I土地」という。なお、本件D土地、本件E土地、本件F土地、本件H土地及び本件I土地については、併せて「本件DEFHI土地」、「本件DEFH土地」などと簡略に表記することがある。
B 別表2の順号30のU社(以下「本件会社」という。)の株式38,000株(以下「本件株式」という。)
(ハ) 本件各相続人は、平成22年5月20日、本件相続に係る遺産分割協議を成立させ、上記(ロ)の相続財産について、それぞれ別表2の「本件相続に係る遺産分割により取得した者」欄のとおり取得した。
ロ 本件会社及び本件株式について
(イ) 本件会社は、昭和○年○月○日に設立された法人であり、本件相続開始日前には本件被相続人が代表取締役に就任していたが、本件相続開始日以後は本件配偶者が代表取締役に就任している。なお、その他の役員には、本件相続開始日の前後を通じて、請求人Jら、本件被相続人の親族が就任している。
(ロ) 本件株式は、本件相続開始日において、評価基本通達168《評価単位》の(3)に定める「取引相場のない株式」であった。
ハ 請求人らの本件相続税に関する申告内容等について
(イ) 請求人らは、本件期限内申告において、本件各土地及び本件株式の価額を、別表3の「期限内申告額」欄のとおり評価した。
(ロ) 請求人らは、本件期限内申告において、本件G土地について租税特別措置法(平成22年法律第6号による改正前のもの)第69条の4《小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例》第1項の規定を適用することを選択し、その適用後の金額を本件G土地の価額として課税価格に算入した。
(ハ) 請求人らは、本審査請求において、本件各土地及び本件株式の価額を、別表3の「請求人ら主張額」欄のとおり主張している。
ニ 原処分庁は、本件各更正処分(本件異議決定)及び本件各再更正処分において、本件各土地及び本件株式の価額を、別表3の「原処分庁主張額」欄のとおり評価し、本審査請求においても、同旨の主張をしている。

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2 争点

(1) 本件A土地は、広大地に該当するか否か(争点1)。
(2) 本件B土地は、広大地に該当するか否か(争点2)。
(3) 本件C土地は、まる1評価単位をどのように見るべきか、まる2広大地に該当するか否か(争点3)。
(4) 本件DEFH土地は、評価単位をどのように見るべきか(争点4)。
(5) 本件G土地は、評価単位をどのように見るべきか(争点5)。

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3 争点1について(本件A土地は、広大地に該当するか否か。)

(1) 主張

イ 原処分庁
 本件A土地は、次のとおり、広大地に該当しない。
(イ) 本件A土地に係る広大地通達に定める「その地域」は、利用状況、環境等がおおむね同一であることから、本件A土地の存する準住居地域のうち、a市c町m丁目○番及び同市c町t丁目○番(いずれも住居表示)の地域である。
(ロ) 本件A土地は、次の理由から、広大地通達に定める「その宅地について、経済的に最も合理的であると認められる開発行為が中高層の集合住宅等を建築することを目的とするものであると認められるもの」(以下「マンション適地等」という。)に該当する。
A 本件A土地が所在する上記(イ)の地域の用途地域は、準住居地域であり、建築基準法上の容積率は200%であるから、本件A土地は中高層の集合住宅等の建築に適している。
B 本件A土地は、a駅から約750メートルの距離に位置し、交通の便も良い。
C 本件A土地の所在する上記(イ)の地域には、中高層の集合住宅等が複数あり、また、同地域では、平成12年から平成20年までの間、中高層の集合住宅等の建築事例が3件ある反面、開発許可を要する土地を細分化して戸建住宅用地として開発した土地はない。
D なお、本件A土地は、本件相続開始日において、既に開発を了した共同住宅の敷地として、上記(イ)の地域の標準的な使用状況に照らし、有効に利用されている。
ロ 請求人ら
 本件A土地は、次のとおり、広大地に該当する。
(イ) 本件A土地に係る広大地通達に定める「その地域」は、a市c町m丁目○番の地域であり、上り勾配化している国道d号線により地域の一体性が分断される同市c町t丁目○番の地域は含まれない。
(ロ) 本件A土地は、次の理由から、マンション適地等に該当しない。
A 平成17年6月17日付資産評価企画官情報第1号によれば、戸建住宅とマンションが混在する地域(主に容積率200%の地域)については、明らかにマンション等の敷地に適していると認められる土地を除き、広大地に該当するとされているところ、本件A土地の周辺には、戸建住宅もあり、本件相続の開始の前後において着手されたマンションの建築事例はないから、明らかにマンション適地等といえる土地ではない。
B なお、マンション適地等の判断に当たっては、社会・経済情勢等も考慮すべきであり、平成20年9月のいわゆるリーマンショックの影響を考慮すると、原処分庁が主張する3件のマンション開発事例は、リーマンショック前の事例であると考えられるから、本件A土地がマンション適地等に該当するか否かの判断においてしんしゃくすべきでない。
C また、本件A土地に共同住宅が存するとしても、開発許可を受けて建築されたというだけでは、「既に開発を了している」とはいえない。
(ハ) よって、本件A土地の最有効使用は、戸建住宅の敷地の分譲素地である。そして、本件A土地を戸建住宅の敷地として開発するには、敷地内に道路開設が必要であり、公共公益的施設用地の負担が生じる。

(2) 判断

イ 法令解釈等
(イ) 相続税法第22条《評価の原則》は、相続、遺贈又は贈与により取得した財産の価額は、特別の定めがあるものを除き、当該財産の取得の時における時価による旨規定しているが、全ての財産の時価(客観的交換価値を示す価額)は必ずしも一義的に確定されるものではない。そこで、課税実務上、財産評価の一般的基準を評価基本通達に定め、これに定められた評価方法を画一的に適用して形式的な平等を貫くことにより、かえって実質的な租税負担の平等を著しく害することが明らかであるといった特別の事情がある場合を除き、評価基本通達に定めた評価方法によって財産を評価することとしている。
 当審判所においても、この取扱いは、納税者間の公平や効率的な租税行政の実現等に資する合理的なものであるから、これを相当と認める。
(ロ) 広大地通達は、評価の対象となる宅地の地積が当該宅地の属する地域の標準的な宅地の地積に比して著しく広大な宅地で、都市計画法第4条《定義》第12項に規定する開発行為(主として建築物の建築又は特定工作物の建設の用に供する目的で行う土地の区画形質の変更をいい、以下「開発行為」という。)を行うとした場合に公共公益的施設用地の負担が必要と認められるもの(マンション適地等を除く。)の価額の評価について、減額の補正を行う旨定めている。
 これは、まる1評価の対象となる宅地の地積が、当該宅地の価額の形成に関して直接影響を与える特性を持つ当該宅地の属する地域における標準的な宅地の地積に比して、著しく広大であり、まる2当該宅地が、評価の時点において経済的に最も合理的に使用されておらず、開発行為を要するときに、経済的に最も合理的であると認められる開発行為が当該宅地を細分化して戸建住宅等の敷地とすることである場合、当該開発行為により道路、公園等の公共公益的施設用地の負担が必要となって、いわゆる潰れ地が生じ、評価基本通達15《奥行価格補正》ないし同20−5《容積率の異なる2以上の地域にわたる宅地の評価》の定めによる減額の補正だけでは十分といえない場合があることから、このような宅地の価額の評価に当たっては、潰れ地が生ずることを当該宅地の価額に影響を及ぼす事情とし、価値が減少すると認められる範囲で減額の補正を行う旨を定めたものである。
 もっとも、その一方で、評価の時点における当該宅地の属する地域における標準的使用(その地域における一般的な宅地の使用方法)の状況等に照らし、経済的に最も合理的であると認められる開発行為が、当該宅地を細分化せずに一体として利用してマンション等の敷地とすることである場合(すなわち、当該宅地がマンション適地等に該当する場合)には、公共公益的施設用地の負担は必要とならず、潰れ地は生じないから、減額の補正を行う必要がないので、マンション適地等は広大地に該当しない旨も、併せて定めている。
 当審判所においても、上記のとおりの広大地通達の取扱いは、当該宅地の持つ特性に配慮した時価を算出するための合理的な方法を定め、納税者間の公平の実現等に資するものであるから、これを相当と認める。
(ハ) 広大地通達における「その地域」とは、上記(ロ)の同通達の取扱いの趣旨に照らすと、まる1河川や山などの自然的状況、まる2行政区域、まる3都市計画法による土地利用の規制など公法上の規制等、まる4道路、鉄道及び公園など、土地の利用状況の連続性や地域の一体性を分断して土地利用上の利便性や利用形態に影響を及ぼすことがあり得る客観的な事情を総合勘案し、利用状況、環境等がおおむね同一と認められる、ある特定の用途に供されることを中心としたひとまとまりの地域を指すものと解するのが相当である。
(ニ) また、広大地通達における「標準的な宅地の地積」とは、上記(ロ)の同通達の取扱いの趣旨に照らすと、評価対象地の付近で状況の類似する地価公示の標準地又は都道府県地価調査の基準地の地積、評価対象地の付近の標準的使用に基づく宅地の平均的な地積などを総合勘案して求めた地積を指すものと解するのが相当である。
(ホ) そして、上記(ロ)の広大地通達の取扱いの趣旨からすると、同通達において広大地から除かれるマンション適地等であると認められる場合とは、その地域におけるまる1マンション等の建築の状況、まる2用途地域・建ぺい率・容積率や地方公共団体の開発規制、まる3交通、教育、医療等の公的施設や商業地への接近性等から判断して、評価対象地をマンション等の敷地とすることが経済的に最も合理的であると認められる場合を指すと解するのが相当である。
ロ 認定事実
 請求人ら提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、本件相続開始日における本件A土地の状況等について、次の事実が認められる。
(イ) 本件A土地の位置、公法上の規制等
A 本件A土地(別表2の順号1及び2)は、a市c町m丁目○−○(住居表示)に存する2筆の土地であり、地積の合計は1,765.87平方メートルである。また、本件A土地は、a駅の南西約650メートル(直線距離)に位置しており、同駅周辺には多数の商業施設が存在する。
B 本件A土地は、市街化区域内に所在し、準住居地域及び第一種住居地域の用途地域にまたがっているが、当該土地の過半は準住居地域(容積率200%・建ぺい率60%)に属し、建築物等の建築等に際しては当該地域の制限を受けることとなる。
C a市では、都市計画法第29条《開発行為の許可》第1項の規定等により、市街化区域において開発行為を行う際、開発区域の面積が500平方メートル以上の場合は、開発行為の許可を受けなければならない(以下、a市における当該面積(500平方メートル以上)の基準を「開発許可面積基準」という。)。
(ロ) 本件A土地の利用状況
A 本件A土地は、鉄筋コンクリート造陸屋根3階建ての共同住宅(以下「本件A共同住宅」という。)の敷地である。
B 本件A共同住宅は、本件被相続人が平成13年に新築した建物であり、建築価額を○○○○円、耐用年数を47年として減価償却されている。
C 本件A共同住宅は、戸数が○戸(1階○戸、2階及び3階が○戸)あり、全戸数が貸室として賃貸の用に供されており、現に2戸を除く○戸が賃貸されていた。なお、2戸の空室は一時的なものであった。
(ハ) 本件A土地の存する地域の状況
A 本件A土地の存する地域の位置関係等は、別紙5のとおりである。
B 本件A土地(別紙5の(注)1)の存するa市c町m丁目○番及びこれに隣接する同市c町t丁目○番の地域(別紙5の(注)2の地域。以下「本件c町地域」という。)は、北側及び東側を鉄道で区切られ、これら地域の中央を国道d号線が南北に縦断している。
C 本件c町地域のうち、国道d号線の両側50メートル以内の範囲の地域は、準住居地域(容積率200%・建ぺい率60%)に指定されており、その外側の地域は、第一種住居地域(容積率200%・建ぺい率60%)又は第一種低層住居専用地域(容積率150%・建ぺい率60%)に指定されている。これらの地域のいずれにも、中高層の集合住宅や戸建住宅が建ち並び、駐車場も少なからず混在している。
D 本件c町地域のうち、本件A土地が存する国道d号線沿いの準住居地域(別紙5の(注)3の地域。原処分庁が主張する「その地域」に同じ。以下「本件A地域」という。)には、敷地面積の広い中高層の集合住宅が比較的多く建ち並んでおり(6箇所。別紙5の(注)5参照。)、これらの敷地の地積は、最小約1,200平方メートル、最大約3,500平方メートルで、平均すると約2,300平方メートルである。
E 本件c町地域のうち、本件A地域以外の地域には、敷地面積の様々な中高層の集合住宅や戸建住宅が混在している。
(ニ) 本件A地域における開発状況
 本件相続開始日前10年間に、本件A地域において開発許可を受けた土地に係る建物の建築事例は、本件A土地を含めて3件あり、その全てが共同住宅の建築事例である。
ハ 当てはめ
 上記ロの認定事実を基に、本件A土地の広大地該当性を検討すると、以下のとおりである。
(イ) 広大地通達に定める「その地域」について
 本件c町地域のうち、本件A地域は、準住居地域に指定された国道d号線沿いの地域であり、敷地面積の広い中高層の集合住宅が比較的多く建ち並んでいること、本件相続開始日前10年間に本件A地域で土地の開発許可を受けた建築事例(3件)が全て共同住宅の建築事例であること、本件A地域とそれ以外の周辺地域とは、土地の利用状況等が異なることからすれば、本件A地域が、利用状況、環境等がおおむね同一と認められる、ある特定の用途に供されることを中心としたひとまとまりの地域であると認められるから、本件A土地に係る広大地通達に定める「その地域」は、本件c町地域のうち、本件A地域であると認めるのが相当である。
(ロ) 本件A地域における標準的使用及びマンション適地等の判定について
 まる1本件A地域は、準住居地域(容積率200%・建ぺい率60%)であり、マンション等の建築に係る開発規制が厳しくない地域であること、まる2本件A地域には、中高層の集合住宅の敷地が6箇所存在し、これらの地積が、最小約1,200平方メートル、最大約3,500平方メートルで、平均すると約2,300平方メートルであること、まる3本件相続開始日前10年間に本件A地域で土地の開発許可を受けた建築事例(3件)の全てが共同住宅の建築事例であること、まる4本件A地域は、a駅からの徒歩圏内に位置し、同駅及び同駅周辺の商業施設への接近性に優れていることを総合勘案すると、本件A地域における土地の標準的使用は、中高層の集合住宅の敷地であり、その地積は1,200平方メートル程度ないし3,500平方メートル程度であると認められる。
 そうすると、本件A土地(地積1,765.87平方メートル)は、広大地通達において広大地から除かれるマンション適地等に該当する。
(ハ) 結論
 したがって、本件A土地は、広大地に該当しない。
ニ 請求人らの主張について
(イ) 請求人らは、本件A土地に係る広大地通達に定める「その地域」は、a市c町m丁目○番の地域(別紙5の(注)4の地域)であり、上り勾配化している国道d号線により地域の一体性が分断される同市c町t丁目○番の地域は含まれない旨主張する。
 しかしながら、上記ロの(ハ)のとおり、国道d号線沿いに利用状況や環境等がおおむね同一と認められる地域が広がっており、請求人らが主張するように、利用状況や環境等が国道d号線により分断されているとは認められない。したがって、広大地通達に定める「その地域」とは、請求人らが主張する地域ではなく、上記ハの(イ)のとおり、利用状況や環境等がおおむね同一と認められる、ある特定の用途に供されることを中心としたひとまとまりの地域である本件A地域とみるのが相当である。
(ロ) また、請求人らは、マンション適地等に該当するか否かは、明らかにマンション適地等であると認められるか否かにより判断すべきであり、その判断に当たっては、社会・経済情勢等(いわゆるリーマンショックの影響)も考慮すべきである旨主張する。
 しかしながら、まる1上記ロの(ニ)のとおり、本件A地域においては、むしろ本件相続開始日前10年間に戸建住宅の建築に係る土地の開発許可を受けた事例がなく、戸建住宅の分譲用敷地の開発行為が主に行われているとは認められないこと、また、まる2同ロの(ロ)のとおり、本件相続開始日において、本件A共同住宅は、耐用年数47年のうちの築年数8年の状態である上、貸室の稼働率が90%を超えており、本件A地域には、いわゆるリーマンショック後も依然として賃貸マンション需要があると認められることからすれば、請求人らが主張する上記の事情等を考慮しても、本件A土地がマンション適地等に該当することは明らかである。
(ハ) したがって、請求人らの主張は、いずれも採用することができない。
ホ 本件A土地の相続税評価額について
 以上のとおり、本件A土地は広大地に該当しないから、これを前提に、当審判所において本件A土地の相続税評価額を計算すると、別紙11の1のとおり、別表3の原処分庁が主張する相続税評価額と同額となる。

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4 争点2について(本件B土地は、広大地に該当するか否か。)

(1) 主張

イ 原処分庁
 本件B土地は、次のとおり、広大地に該当しない。
(イ) 本件B土地に係る広大地通達に定める「その地域」は、利用状況、環境等がおおむね同一であることから、本件B土地の存する準住居地域のうち、北側を本件B土地の北西側で接する市道(以下「本件B市道」という。)、南側を主要地方道g線によって、それぞれ区切った地域である。
(ロ) 本件B土地は、次の理由から、その地域における標準的な宅地の地積に比して著しく地積が広大な土地に該当しない。
A 上記(イ)の地域においては、まる1その一部が戸建住宅の敷地として利用されているものの、その他の大部分は大規模店舗及びファミリーレストラン並びにこれらに隣接する駐車場として利用されていること、まる2平成10年以降、戸建住宅用地の開発事例がないことから、同地域の最有効使用は大規模店舗及びファミリーレストラン並びにこれらに隣接する駐車場の敷地である。
B 上記(イ)の地域には、大規模店舗及びファミリーレストランの敷地が7箇所あり、その敷地面積の平均が約1,300平方メートルであるから、地積が1,464.38平方メートルである本件B土地は、細分化せずに一体として有効利用することができる。
ロ 請求人ら
 本件B土地は、次のとおり、広大地に該当する。
(イ) 本件B土地に係る広大地通達に定める「その地域」は、国道h号線沿いと本件B市道沿いを除いた、これらの道路と主要地方道g線で囲まれた地域である。
(ロ) 本件B土地は、駐車場のみに利用されており、現に宅地として有効に利用されている建築物等の敷地に該当しないから、広大地通達が適用できるか否かは、まる1マンション適地等に該当するか、まる2戸建開発をするとした場合に潰れ地が生じるか、によって判断すべきである。
(ハ) 本件B土地に隣接するi町交差点の角地の建物は、以前は店舗が入居していたこともあるが、入れ替わりが激しく、近年ずっと空家の状態であり、現に有効に利用されているといえない。
(ニ) よって、本件B土地の最有効使用は、戸建住宅の敷地の分譲素地である。そして、本件B土地の周辺の地域において、一般的に路地状開発が行われているとはいい難いから、道路開設による開発が必要であり、公共公益的施設用地の負担が生じる。

(2) 判断

イ 法令解釈等
 広大地通達における「その地域」及び「標準的な宅地の地積」の意義は、上記3の(2)のイの(ハ)及び(ニ)のとおりである。
ロ 認定事実等
 請求人ら提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、本件相続開始日における本件B土地の状況等について、次の事実が認められる。
(イ) 本件B土地の位置、形状、公法上の規制等
A 本件B土地(別表2の順号3)は、a市j町に存する1筆の土地であり、その地積は1,464.38平方メートル(実測)である。また、本件B土地は、北西側で幅員約25メートルの本件B市道に約38メートル接面し、南東側で幅員6メートルの市道k号線に約25メートル接面しており、台形に近い形状である。
B 本件B土地は、a駅の南東約4キロメートル(直線距離)に位置し、本件B市道と国道h号線とが交差するi町交差点に近接している。なお、同交差点から本件B市道沿いの北東約350メートル(直線距離)の位置にa市役所庁舎があり、当該庁舎前はn駅などからのバスの乗継場となっており、本件B市道は当該バスの通行する道路である。
C 本件B土地は、市街化区域内で、準住居地域及び第一種住居地域である地域にまたがっているが、いずれの地域も容積率200%、建ぺい率60%である。
 なお、第一種住居地域は、その地域における建築物の用途制限により、店舗等の床面積が3,000平方メートルを超えるものなどの建築については制約されるものの、同面積以下の店舗等の建築については、準住居地域と同様に制限のない地域である。
D 本件B土地が接面する本件B市道は、a市都市計画マスタープラン(a市が都市計画法第18条の2《市町村の都市計画に関する基本的な方針》に基づき、平成21年6月に策定し、都市計画の基本方針を定めたもの。以下「a市マスタープラン」という。)において、広域幹線道路(大量の通過交通を分担する国や首都圏の骨格をなす道路であり、首都圏における広域連携拠点としての発展を支える交通ネットワークの形成を目指すもの)と位置付けられている。
E 本件B土地の一部(1,464.38平方メートルのうち613.69平方メートル)は、a市マスタープランに基づき、本件B市道の道路幅員を40メートルに拡幅するための都市計画道路予定地である。
(ロ) 本件B土地の利用状況
 本件B土地は、その全部が本件会社に対して賃貸されている。本件会社は、本件B土地の全面にアスファルト舗装をし、駐車場として賃貸の用に供している。
 なお、本件B土地の上に存する賃借権(評価基本通達9《土地の上に存する権利の評価上の区分》(9)に定める賃借権をいう。以下同じ。)の登記はされておらず、その残存期間が5年を超えるものとは認められない(以下、当該賃借権を「本件B賃借権」という。)。
(ハ) 本件B土地の存する地域の状況
A 本件B土地の存する地域の位置関係等は、別紙6のとおりである。
B 本件B土地(別紙6の(注)1)の存するa市j町の地域及び同市i町○丁目の地域は、ほぼ国道h号線を境として隣接しており、本件B市道及び主要地方道g線に挟まれた地域である。当該地域は、国道h号線から50メートルの範囲が準住居地域に、その北東側が第一種住居地域に、それぞれ指定され、いずれも容積率200%、建ぺい率60%である。また、国道h号線沿いの準住居地域の南西側は第一種低層住居専用地域(容積率150%・建ぺい率60%)又は第一種住居地域(容積率200%・建ぺい率60%)に、それぞれ指定されている。
C 本件B土地の接面する本件B市道沿いで同市道の南東側の地域のうち、南西側を国道h号線、北東側を市道p号線によって区切られた地域及び国道h号線沿いの地域のうち、北西側を本件B市道、南東側を主要地方道g線によって区切られた地域(別紙6の(注)2の地域。以下「本件B地域」という。)は、i町交差点を基点に国道h号線及び本件B市道に面した地域であり、これらの幹線道路沿いには、低層の小売店舗(自動車販売店、家具店など)及び飲食店等(来客用駐車場を含む。)が比較的多く建ち並んでおり(8箇所。別紙6の(注)5参照。)、これらの敷地の地積は、最小約500平方メートル、最大約3,100平方メートルで、平均すると約1,300平方メートルである。なお、本件B土地と同様に本件B市道に接面する箇所(別紙6の本件B土地の北東側の斜線表示の土地)の地積は、約700平方メートルである。
D 上記Bの地域のうち、本件B地域以外の地域には、主に戸建住宅が建ち並んでいる。
ハ 当てはめ
 上記ロの認定事実等を基に、本件B土地の広大地該当性を検討すると、以下のとおりである。
(イ) 広大地通達に定める「その地域」について
 上記ロの(ハ)のBの地域のうち、本件B地域は、i町交差点を基点に国道h号線及び本件B市道に面した地域であり、低層の小売店舗及び飲食店等(来客用駐車場を含む。)が比較的多く建ち並んだ地域であること、本件B地域とそれ以外の周辺地域とは、土地の利用状況等が異なることからすれば、本件B地域が、利用状況、環境等がおおむね同一と認められる、ある特定の用途に供されることを中心としたひとまとまりの地域であると認められるから、本件B土地に係る広大地通達に定める「その地域」は、本件B土地の存する地域(上記ロの(ハ)のB)のうち、本件B地域であると認めるのが相当である。
(ロ) 本件B地域における標準的使用及び本件B土地に係る公共公益的施設用地の負担の要否について
 まる1本件B地域は、低層の小売店舗及び飲食店等(来客用駐車場を含む。)が比較的多く建ち並んだ地域であること、まる2本件B地域には、まる1のような小売店舗及び飲食店等(来客用駐車場を含む。)が8箇所存在し、これらの地積は、最小約500平方メートル、最大約3,100平方メートルで、平均すると約1,300平方メートルであることを総合勘案すると、本件B地域における土地の標準的使用は、低層の小売店舗及び飲食店等(来客用駐車場を含む。)の敷地であり、その地積は500平方メートル程度ないし3,100平方メートル程度であると認められる。
 そうすると、本件B土地の地積(1,464.38平方メートル)は、本件B地域における土地の標準的使用の状況に照らし、広大地通達における「標準的な宅地の地積」に比して著しく地積が広大な宅地であるとはいえない。
 また、本件B土地(地積1,464.38平方メートル)は、仮に本件B地域における標準的使用に基づく宅地のうち、本件B市道に接面する箇所(上記ロの(ハ)のC)の地積700平方メートルの規模の区画に区分することを想定したとしても、2区画程度となり、これらが全て本件B市道に接面するような合理的な区分も可能であるから、開発想定図を用いて検討するまでもなく、開発行為を行うに際して公共公益的施設用地の負担が必要であるとは認められない。
(ハ) 結論
 したがって、本件B土地は、広大地には該当しない。
ニ 請求人らの主張について
(イ) 請求人らは、本件B土地に係る広大地通達に定める「その地域」は、国道h号線沿いと本件B市道沿いを除く、これらの道路と主要地方道g線で囲まれた地域(別紙6の(注)4の地域)である旨主張する。
 しかしながら、上記ロの(ハ)のとおり、本件B土地は本件B市道沿いにあること、そして、同市道と国道h号線が交差するi町交差点を基点とする本件B地域とそれ以外の周辺地域の利用状況等が異なることからすれば、請求人が主張するように、本件B市道及び国道h号線沿いを除く地域(本件B地域の周辺地域)をもって、本件B土地に係る広大地通達に定める「その地域」に当たるとするのは相当でない。
(ロ) また、請求人らは、本件B土地は、駐車場のみに利用されており、現に宅地として有効に利用されている建築物等の敷地に該当せず、戸建住宅の分譲素地が最有効使用である旨主張する。
 しかしながら、まる1上記ロの(ハ)のとおり、本件B地域における土地の標準的使用の状況は、低層の小売店舗及び飲食店等(来客用駐車場を含む。)の敷地であること、また、まる2上記ロの(イ)のとおり、本件B市道沿いは、a市役所庁舎前にある乗継場を経由するバスの通行に伴う騒音、排気ガス等に晒される環境にあることなどを考慮すると、同市道に接面する本件B土地の最有効使用が戸建住宅の分譲素地であるとは認められない。
(ハ) したがって、請求人らの主張は、いずれも採用することができない。
ホ 本件B土地の相続税評価額について
 以上のとおり、本件B土地は広大地に該当しないから、これを前提に、当審判所において本件B土地の相続税評価額を計算すると、別紙11の2のとおり、別表3の原処分庁が主張する相続税評価額と同額となる。

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5 争点3について(本件C土地は、まる1評価単位をどのように見るべきか、まる2広大地に該当するか否か。)

(1) 主張

イ 原処分庁
(イ) 本件C土地の評価単位について
 本件相続に係る遺産分割後における本件C土地を構成する各地番の土地については、共有者の有無及びその共有持分の割合がそれぞれ異なるから、本件C土地は、本件C1土地ないし本件C5土地の5区画に区分して、それぞれを一団の雑種地として評価するのが相当である。
(ロ) 広大地該当性について
A 上記(イ)を前提とすると、本件C1土地の地積は694.45平方メートルであり、開発許可面積基準(上記3の(2)のロの(イ)のC)を上回るから、広大地に該当する。
B 一方、本件C2土地ないし本件C5土地の地積は、最小96.50平方メートル、最大380平方メートルであり、開発許可面積基準を下回ること、また、当該各土地に最も近い公示地(a−2)の地積が287平方メートルであることからすれば、当該各土地は、標準的な宅地の地積に比して著しく地積が広大な土地とは認められず、広大地には該当しない。
ロ 請求人ら
(イ) 本件C土地の評価単位について
 本件C土地は、その全てが本件会社の立体駐車場の敷地として貸し付けられていること、また、本件C土地の全ての筆に本件被相続人の持分があり、その各持分を一人の相続人(請求人J)が取得していることからすれば、本件C土地全体を一団の雑種地として評価すべきである。
 なお、本件相続開始日において、本件C土地の一部が共有地であったのは、本件被相続人が生前、相続税対策として、子や孫への土地の贈与を行ったことにはじまり、その後、共有のデメリットを考慮し、交換により共有状態の解消を図ったものの、完全に共有状態を解消する前に本件相続が発生したという事情による。
(ロ) 広大地該当性について
 本件C土地は、上記(イ)を前提とすると、次のとおり、広大地に該当する。
A 本件C土地に係る広大地通達に定める「その地域」は、a市q町○丁目○番、○番及び○番ないし○番の地域のうち、本件C土地と容積率が同じである地域である。
B 本件C土地の周辺には、戸建住宅が乱立していること、また、本件相続開始日の時点では、リーマンショック等により経済状況が落ち込み、マンション建築ブームがなくなっていたことからすれば、本件C土地は、明らかにマンション適地等といえる土地ではない。
C よって、本件C土地の最有効使用は、戸建住宅の敷地の分譲素地である。そして、本件C土地を戸建住宅分譲地として開発するには、敷地内に道路開設が必要であり、公共公益的施設用地の負担が生じる。

(2) 判断

イ 評価単位について
(イ) 法令解釈等
A 宅地の評価単位
 評価基本通達7−2《評価単位》(1)は、宅地については、「1画地の宅地」(利用の単位となっている1区画の宅地)を評価単位とし、贈与、遺産分割等によって宅地の分割が行われた場合には、原則として、分割後の画地を「1画地の宅地」として評価する旨定めている。この「1画地の宅地」とは、その宅地を取得した者が、その宅地を使用、収益及び処分(以下「使用等」という。)をすることができる利用単位又は処分単位であって、原則として、まる1宅地の所有者による自由な使用収益を制約する他者の権利(原則として使用貸借による使用借権を除く。)の存在の有無により区分し、まる2他者の権利が存在する場合には、その権利の種類及び権利者の異なるごとに区分して行うのが相当である。
 もっとも、宅地の形状やその利用状況は様々であり、権利関係も、所有権、賃借権、借地権(評価基本通達9(5)に定める借地権をいう。以下同じ。)等といった権利の種類のみならず、共有であるか否か、また、共有である場合の持分割合の違いなど、千差万別である。例えば、他者と共有する土地(以下「共有地」という。)は、その使用等に当該他者の同意が必要であるなど、単独所有地とは異なる法律上の制約等があるため、そのことをもって単独所有地と区分して評価すべき場合が多いと考えられる。しかしながら、共有地であっても、遺産分割の前後を通じて単独所有地と同一の用途に供される蓋然性が高いと認められる状況にある場合、例えば、単独所有地と共有地とが一括して建物等の敷地として貸し付けられている場合には、当該遺産分割後に当該共有地だけを独立して別途の利用に供することは通常できないことから、このような場合においては、当該各宅地の使用等に関し、共有地であることによる法律上の制約等は実質的には認められず、単独所有地と区分して評価するのは相当でないと考えられる。したがって、共有地が含まれる宅地の場合には、当該宅地の利用状況や権利関係等諸般の事情を考慮して「1画地の宅地」を判定するのが相当である。
B 宅地と状況が類似する雑種地の評価単位
 評価基本通達7−2(7)は、雑種地については、「利用の単位となっている一団の雑種地」を評価単位とし、宅地と状況が類似する雑種地である場合には、原則として、贈与、遺産分割等による分割後の画地を「利用の単位となっている一団の雑種地」として評価する旨定めている(なお、この「利用の単位となっている一団の雑種地」とは、同一の目的に供されている雑種地であるか否かによって判定することとされている。)。また、評価基本通達82《雑種地の評価》は、宅地と状況が類似する雑種地である場合には、宅地の価格形成要因による影響を受けるため、宅地の価額を基として当該雑種地の価額を評価する旨定めている。以上を併せ考えれば、「利用の単位となっている一団の雑種地」は「1画地の宅地」(利用の単位となっている1区画の宅地)に準ずる概念であり、当該雑種地を取得した者が、使用等をすることができる利用単位又は処分単位をいうものと解するのが相当である。
 そうすると、宅地と状況が類似する雑種地に係る評価単位は、その雑種地を取得した者が、その雑種地を使用等をすることができる利用単位又は処分単位であって、原則として、まる1雑種地の所有者による自由な使用収益を制約する他者の権利の存否により区分し、まる2他者の権利が存在する場合には、その種類及び権利者の異なるごとに区分して行うのが相当である。そして、当該雑種地が共有地である場合には、上記Aの場合と同様に、当該雑種地の利用状況や権利関係等諸般の事情を考慮して「利用の単位となっている一団の雑種地」を判定するのが相当である。
(ロ) 認定事実等
 請求人ら提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、本件相続開始日及びその前後における本件C土地の状況等について、次の事実が認められる。
A 本件C土地は、別表2の順号4ないし16のとおり、4筆の宅地、1筆の畑及び8筆の雑種地から成る土地であり、本件相続開始日前には、本件C1土地の4筆及び本件C5土地(1筆)が単独所有地であり、これらを除く8筆が共有地であった。
B その後、本件C土地は、本件相続に係る遺産分割により、本件C土地に係る本件被相続人の所有権又は共有持分権の全てを請求人Jが取得したため、別表2の順号4ないし16のとおり、本件C1土地の9筆及び本件C5土地(1筆)が請求人Jの単独所有地となり、これらを除く3筆が、それぞれ請求人J、その子R、本件配偶者、本件会社のいずれかによる共有地となった。
C 本件C土地を構成する各土地の位置関係等は、別紙7のとおりである。
D 本件C土地は、市街化区域内に所在し、周囲のほとんどの土地が宅地である。
E 本件C土地(本件会社の共有持分に属する部分を除く。)は、請求人Jら所有の別表2の順号17ないし19の各土地(以下「本件C6土地」という。)とともに、本件会社に対して賃貸されている。
F 本件会社は、本件C土地、本件C6土地及び本件会社所有の別表2の順号20の土地(以下「本件C7土地」という。)を併せた土地上に、鉄骨製の二層の立体駐車場の設備(建物ではない構築物)を設置し、これを月ぎめ駐車場として賃貸の用に供し、本件会社以外の本件C土地及び本件C6土地の所有者(共有者を含む。)に対し、賃料として各土地の固定資産税の1.5倍に相当する金額を支払っている(以下、本件C土地及び本件C6土地の上に存する賃借権を「本件C賃借権」という。)。なお、本件C賃借権の登記はされておらず、その残存期間が5年を超えるものとは認められない。
(ハ) 当てはめ
 上記(ロ)の認定事実等を基に、本件C土地の評価単位について検討すると、以下のとおりである。
A 本件C土地は、その全てが立体駐車場として賃貸の用に供されている雑種地(現況の地目)であり、その周囲の状況からして、当該雑種地は、宅地と状況が類似する雑種地に該当する土地である。そして、その所有関係は、本件相続に係る遺産分割後においても、単独所有地と共有地が混在している。
B そこで、本件相続に係る遺産分割の前後における本件C土地の利用状況をみると、本件C土地は、本件会社に対して一括して賃貸されており、本件会社は、本件C土地と、請求人Jらの共有地(本件C6土地)及び本件会社の単独所有地(本件C7土地)を併せた土地上に堅固な構築物(立体駐車場)を設置し、これらの土地を立体駐車場の敷地として一括して利用している。そして、本件会社は、上記1の(4)のイの(ハ)及び同ロの(イ)のとおり、本件相続開始日以後の株主及び代表取締役が本件配偶者であり、その他の役員も請求人Jら本件被相続人の親族のみで構成されている。また、本件相続に係る遺産分割後の本件C土地の共有関係をみると、共有者は、本件配偶者、請求人J、その子R及び本件会社(株主は本件配偶者のみ)であり、1名を除き、本件会社の関係者と共通である。
C 以上の利用状況、権利関係等諸般の事情を考慮すれば、本件相続開始日において、本件C土地は、その一部が共有地であっても、現に一体として賃貸の用に供され、本件相続に係る遺産分割後も同一の用途に供される蓋然性が高いと認められる状況にあったから、本件C土地については、その一部が共有地であることによる使用等の制約が実質的にないものと認められる。
D したがって、本件C土地は、全体を一つの評価単位として、一体として評価するのが相当である。
ロ 広大地該当性について
(イ) 法令解釈等
 広大地通達における「その地域」及び「標準的な宅地の地積」の意義は、上記3の(2)のイの(ハ)及び(ニ)のとおりである。
(ロ) 認定事実
 請求人ら提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、本件相続開始日における本件C土地の状況等について、上記イの(ロ)の事実に加え、次の事実が認められる。
A 本件C土地の位置、公法上の規制等
(A) 本件C土地(別表2の順号4ないし16)は、a駅の南東約600メートル(直線距離)に位置し、市道C号線(以下「本件C市道」という。)に接面している。
(B) 本件C土地は、市街化区域内で、近隣商業地域に指定された地域に所在し、容積率200%、建ぺい率80%である。
(C) 本件C土地は、a市マスタープラン(上記4の(2)のロの(イ)のD)におけるa駅周辺地区(中心市街地)に属しており、a駅周辺の整備推進、地域商店街活性化のための仕組みづくり及び公共施設の有効利用と地域コミュニティ活動の促進の対象とされている。
B 本件C土地の存する地域の状況
(A) 本件C土地の存する地域の位置関係等は、別紙8のとおりである。
(B) 本件C土地(別紙8の(注)1)が存する近隣商業地域に指定されている地域(別紙8の(注)2)は、a駅の南東側に広がる商業地域に隣接し、a市q町○丁目、同市q町○丁目、同市r町○丁目及び同市r町○丁目にまたがっており、事務所や店舗の建築についてほとんど制限がない地域である。
(C) 上記(B)の当該近隣商業地域のうち、本件C市道沿いの地域(別紙8の(注)3の地域。以下「本件C地域」という。)には、敷地面積の広い店舗、事務所及び1階が店舗となっている中高層の集合住宅等の商業施設等が駐車場とともに比較的多く混在しており(6箇所。別紙8の(注)5参照)、これらの敷地の地積は、最小500平方メートル、最大1,600平方メートルであり、平均すると約900平方メートルである。なお、本件C地域のうち、本件C市道沿いの北東側は商業地域(容積率400%・建ぺい率80%)に、南西側は第一種住居地域(容積率200%・建ぺい率60%)に、それぞれ指定されている。
(D) 上記(B)の近隣商業地域のうち、本件C地域以外の地域には、主に戸建住宅が建ち並んでいる。
C 本件C地域における開発状況
 本件相続開始日前10年間の、本件C地域における開発許可面積基準以上の土地に係る建物の建築事例は、平成17年の店舗1棟(平屋建て、地積990.73平方メートル)のみである。
(ハ) 当てはめ
 上記イの(ロ)及び上記(ロ)の各認定事実等を基に、本件C土地の広大地該当性を検討すると、以下のとおりである。
A 広大地通達に定める「その地域」について
 本件C土地が存する本件C地域は、幹線道路沿いで、敷地面積の広い店舗、事務所及び1階が店舗となっている集合住宅等の商業施設等が比較的多く混在しているのに対し、本件C地域以外の周辺地域は、主に戸建住宅が建ち並んだ地域であり、その利用状況を異にしていることからすれば、本件C地域が、利用状況、環境等がおおむね同一と認められる、ある特定の用途に供されることを中心としたひとまとまりの地域であると認められるから、本件C土地に係る広大地通達に定める「その地域」は、本件C地域であると認めるのが相当である。
B 本件C地域における標準的使用及び本件C土地に係る公共公益的施設用地の負担の要否について
 まる1本件C地域は、用途地域が近隣商業地域で容積率200%、建ぺい率80%であるから、事務所や店舗の建築についてほとんど制限がない地域であること、まる2本件C地域は、a市マスタープランにおける将来の整備促進等の対象地域となっていること、まる3本件C地域は、a駅から徒歩圏内に位置し、極めて利便な土地であること、まる4本件C地域には、敷地面積の広い商業施設等が6箇所存在し、これらの敷地面積の平均が約900平方メートルであること、まる5本件C地域における本件相続開始日前10年間に開発許可を受けた土地に係る建物の建築事例1件が、商業施設の建築事例であり、その敷地面積が990.73平方メートルであったことからすれば、本件C地域における土地の標準的使用は、敷地面積の広い店舗、事務所及び1階が店舗となっている中高層の集合住宅等の商業施設等の敷地であり、また、その標準的使用に基づく地積は、900平方メートル程度であると認められる。
 そうすると、本件C土地(地積1,703.17平方メートル)は、本件C地域の標準的使用に基づく地積900平方メートル程度の規模の区画に区分したとしても、2区画程度となり、これらが全て本件C市道に接面するような合理的な区分も可能であるから、開発想定図を用いて検討するまでもなく、開発行為を行うに際して公共公益的施設用地の負担が必要であるとは認められない。
C 結論
 したがって、本件C土地は、広大地には該当しない。
(ニ) 請求人らの主張について
 請求人らは、本件C土地に係る広大地通達に定める「その地域」は、a市q町○丁目○番、○番及び○番ないし○番の地域のうち、本件C土地と容積率が同じ地域(別紙8の(注)4の地域)であり、また、本件C土地の最有効使用は戸建住宅の敷地の分譲素地である旨主張する。
 しかしながら、上記(ロ)のBのとおり、本件C地域とそれ以外の周辺地域とは、土地の利用状況等が異なると認められるから、請求人らが主張するように、本件C地域の周辺地域を併せた地域をもって、広大地通達に定める「その地域」とみるのは相当でない。また、本件C地域における土地の標準的使用が、商業施設等の敷地であることは、上記(ハ)のBのとおりであるから、本件C土地の最有効使用が戸建住宅の敷地の分譲素地であるとは認められない。
 したがって、請求人らの主張は、いずれも採用することができない。
ハ 本件C土地の相続税評価額について
 以上のとおり、本件C土地は、全体を一つの評価単位として、一体として評価するのが相当であり、また、広大地に該当しないから、これを前提に、当審判所において本件C土地の相続税評価額を計算すると、別紙12の1のとおり、○○○○円(別表3の原処分庁主張額とは異なる額)となる。

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6 争点4について(本件DEFH土地は、評価単位をどのように見るべきか。)

(1) 主張

イ 原処分庁
 本件DEFH土地は、次のとおり、土地ごとの4区画に区分して評価するのが相当である。
(イ) 本件D土地は、宅地であり、借地権が設定されている。これに対し、本件E土地、本件F土地及び本件H土地は、いずれも雑種地であり、借地権ではなく、賃借権が存している。このように本件DEFH土地は、同一人に貸し付けられているものの、地目のほか、賃貸借契約の内容及び期間も異なるから、本件D土地は、本件EFH土地と区分し、単独で評価すべきである。
(ロ) 本件F土地は、共有地であるのに対し、隣接する本件E土地は単独所有地であり、自由な使用収益を制約する他者の権利の存否の点で異なるから、本件F土地は単独で評価すべきである。
(ハ) 本件E土地の本件相続に係る遺産分割による取得者は、請求人Mであるのに対し、隣接する本件H土地の取得者は本件配偶者であり、各土地の取得者が異なるから、本件E土地及び本件H土地は、それぞれ単独で評価すべきである。
ロ 請求人ら
 本件DEFH土地は、次のとおり、一団の土地として評価するのが相当である。
(イ) 本件DEFH土地は、全て本件会社に貸し付けられ、同社が運営するテニスクラブのテニスコートの敷地(本件EFH土地)及び附属施設であるクラブハウス(テニスコートの利用者のためだけの施設)の敷地(本件D土地)として一体利用されているのであるから、地目が異なるとしても、全体を一団の土地として評価すべきである。
(ロ) 本件DEF土地は、その全ての筆に被相続人の持分があり、その各持分を一人の相続人(請求人M)が取得していることからすれば、当該各土地を一団の土地として評価すべきである。
 なお、本件相続開始日において本件F土地が共有地であったのは、上記5の(1)のロの(イ)の本件C土地と同様の事情による。
(ハ) また、本件H土地については、本件相続に係る遺産分割により無道路地となったこと、及び上記(イ)の利用状況を考慮すると、本件DEF土地と併せて一団の土地として評価すべきである。

(2) 判断

イ 法令解釈等
(イ) 複数の地目の土地を一体利用している貸宅地等の評価について
 評価基本通達7《土地の評価上の区分》は、土地の価額は地目の別に評価することを原則とするが、一体として利用されている一団の土地が2以上の地目からなる場合には、その一団の土地は、そのうちの主たる地目からなるものとして、その一団の土地ごとに評価する旨定めている。
 これは、土地の評価の原則である地目別の評価に固執すると、大規模な工場用地、ゴルフ練習場用地等のように一体として利用されている一団の土地のうちに2以上の地目がある場合には、その一団の土地をそれぞれ地目ごとに区分して評価することになり、これでは一体として利用されていることによる現実の効用が評価額に反映されないため、かえって不合理な結果となる場合が考えられることから、実態に即した評価をするために、その一団の土地ごとに評価する旨定めたものである。
 したがって、複数の地目の土地が同一の者に貸し付けられ一体として利用されている場合には、貸し付けられた当該各土地は一体として利用されている一団の土地に該当するものとし、上記のとおり、当該各土地を一団の土地として評価することとなる。この場合において、同一の者に貸し付けられた各土地に設定されている権利の種類・内容が異なるときには、一団の土地として評価した価額を当該各土地にあん分し、その各土地の価額からその土地に設定された権利の価額を控除して評価するのが相当である。
(ロ) 不合理分割がある場合の評価単位について
 評価基本通達が定める評価単位の取扱いについては、上記5の(2)のイの(イ)のとおりであるが、評価基本通達7−2(1)注書により、遺産分割後の画地が宅地として通常の用途に供することができないなど、遺産分割等による宅地の分割が著しく不合理であると認められるとき(以下「不合理分割」という。)は、当該分割前の画地を「1画地の宅地」とするが、かかる事情がない限り、分割後の画地によることとなる。これは、相続税の計算について、いわゆる法定相続分課税方式による遺産取得者課税を採用していることなどから、土地の時価の算定に当たり、遺産分割後の所有者単位で評価するのが合理的であるからである。
 そして、評価基本通達7−2(7)は、雑種地の評価単位(利用の単位となっている(同一の目的に供されている)一団の雑種地)の判定に当たり、同項(1)の注書を準用する旨定めているから、宅地と状況が類似する雑種地の評価単位の判定に当たっても、上記と同様に不合理分割であるか否かなどの事情を考慮することになる。
ロ 認定事実等
 請求人ら提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、本件相続開始日及びその前後における本件DEFH土地の状況等について、次の事実が認められる。
(イ) 本件DEFH土地の概要
A 本件DEFH土地を構成する各土地及び本件I土地の位置関係等は、別紙9のとおりである。
B 本件DEFH土地は、いずれも市街化区域内に所在し、市道x号線に接面する本件I土地と水路により分断されていたが、当該水路の使用については、かねて本件会社がa市から使用許可を受けている。
(ロ) 本件D土地について
A 本件D土地(別表2の順号21)は、本件被相続人が平成19年1月27日に本件会社から交換により取得した1筆の土地(宅地)であり、本件相続開始日において、鉄筋コンクリート造スレート葺2階建ての事務所(以下「本件D建物」という。)の敷地であった。
B 本件D建物は、本件会社が昭和55年に新築してその所有権保存登記をした建物であり、その建築当時から、本件会社が運営する昭和○年設立のテニスクラブの会員を対象とする施設(クラブハウス)としての利用に供され、受付、談話室、ロッカー室、シャワー室等の設備を備えていた。
C 本件会社は、本件被相続人との間で、平成19年1月27日(上記Aの交換の日)に、本件D土地を建物所有目的として賃貸期間30年で賃借する内容の賃貸借契約を締結し、以後、本件被相続人に対し、当該土地の固定資産税の1.5倍の額に相当する金額の賃料を支払っていた(以下、本件D土地の上に存する本件会社の借地権を「本件D借地権」という。)。
D 本件被相続人及び本件会社は、平成20年2月18日、上記Cの賃貸借契約について、本件被相続人が将来本件会社から無償で本件D土地の返還を受けることとなっている旨の、法人税基本通達(昭和44年5月1日付直審(法)25国税庁長官通達。)13−1−7《権利金の認定見合せ》に定める届出書を、連名で原処分庁に提出した。
(ハ) 本件E土地、本件F土地、本件H土地及び本件I土地について
A 本件相続開始日において、本件EFHI土地は、別表2の順号22ないし24及び29のとおりの各1筆の雑種地である。なお、別紙9のとおり、本件EF土地は、いずれも極端に不整形な土地であり、また、本件H土地は、無道路地である。
B 本件相続開始日において、本件EFH土地は、併せて上記(ロ)のBのテニスクラブの会員のためのテニスコート6面分の敷地として、また、本件I土地は、同会員のための駐車場の敷地として、それぞれ利用されていた。なお、このテニスコート及び駐車場は、本件会社が設置したものであり、クラブハウスである本件D建物とともに、本件会社によるテニスクラブ事業の用に供されていた。
C 本件会社は、本件被相続人との間で、昭和○年○月○日、本件EFHI土地を、使用目的をテニスコートとして賃借する内容の賃貸借契約を締結し、本件相続開始日においては、当時の本件EFHI土地の各所有者(共有者を含む。)である本件被相続人ほか2名に対し、各土地の固定資産税の1.5倍に相当する金額を賃料として支払っていた(以下、本件EFH土地の上に存する本件会社の賃借権を「本件EFH賃借権」といい、本件I土地の上に存する本件会社の賃借権を「本件I賃借権」という。)。なお、本件EFH賃借権及び本件I賃借権の各登記はされておらず、また、いずれも残存期間が5年を超えるものとは認められない。
ハ 当てはめ
 上記ロの認定事実等を基に、本件DEFH土地の評価単位について検討すると、以下のとおりである。
(イ) 本件D土地は宅地であり、本件EFHI土地はいずれも宅地と状況が類似する雑種地に該当するものと認められるところ、本件相続開始日前において、これらの土地については、宅地と雑種地とに分けて別々に賃貸借契約が締結されているものの、いずれも本件被相続人、又は本件被相続人及びその親族である請求人Lらから、本件会社に対し、テニスクラブの会員のためのクラブハウス及びテニスコートを使用目的として、一括して賃貸の用に供されていたものである。そして、本件会社は、本件相続開始日において、本件DEFHI土地を、テニスクラブ用地(テニスクラブ会員を対象とするクラブハウス、テニスコート及び駐車場の各敷地)として現に一体として利用していた。以上のことからすると、水路により物理的に分断された本件I土地を除いた本件DEFH土地は、一体として利用されている一団の土地に該当するものと認められる。
 したがって、本件DEFH土地を地目及び利用状況の観点からみると、現に一体として利用されているという実態に即した、一団の土地として、一体として評価すべきである。
(ロ) ところで、本件DEFH土地の本件相続に係る遺産分割による取得者をみると、別表2の順号21ないし24のとおり、本件DEF土地については請求人Mであるのに対し、本件H土地については本件配偶者であるから、この両土地は、本来、別の評価単位とすべきである。しかしながら、本件H土地は、単独で評価する場合には無道路地として評価することとなり、このような無道路地を創出した遺産分割は不合理分割というべきであるから、当該遺産分割前の状態で評価単位を判定するのが相当である。
 そして、当該遺産分割前の画地についてみると、本件DEFH土地は、本件F土地を除き、本件被相続人の単独所有地であり、本件F土地についても、本件被相続人及びその子である請求人Lら親族の共有地であることから、共有地であることをもって評価単位を別とすべきかを更に検討すると、本件相続開始日において、本件DEFH土地は、本件会社に対し、現に一体として賃貸の用に供されていたこと、本件D土地の上には本件会社の借地権が設定され、また、本件EFH土地の上には本件会社の賃借権が存在し、当該各土地の所有者及び共有者は、いずれも本件会社から賃料の支払を受けていたことなどからすれば、当該遺産分割後も同一の用途に供される蓋然性が高い状況にあったと認められる。このような利用状況、権利関係等からすると、本件DEFH土地については、本件F土地が共有地であることによる使用等の制約が実質的にないものと認められる。
(ハ) したがって、本件DEFH土地は、全体を一つの評価単位として、一体として評価するのが相当である。
ニ 本件DEFH土地の相続税評価額について
 以上のとおり、本件DEFH土地については、全体を一つの評価単位として、一体として評価した上、こうして算出した評価額を各土地にあん分し、本件D土地については借地権の価額に相当する額を、本件EFH土地については賃借権の価額に相当する額を、それぞれ控除して相続税評価額を算定するのが相当である。これを前提に、当審判所において本件DEFH土地の相続税評価額を計算すると、別紙12の2のとおり、○○○○円(別表3の原処分庁主張額とは異なる額)となる。

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7 争点5について(本件G土地は、評価単位をどのように見るべきか。)

(1) 主張

イ 原処分庁
 本件G2土地は共有であることにより、その使用収益などが制約されている。これに対し、本件G1土地及び本件G3土地には、何ら他者の権利が存在せず、本件G2土地により分断されている。このことからすれば、本件G土地を本件G1土地ないし本件G3土地の3区画に区分して、それぞれを1画地の宅地として評価するのが相当である。
ロ 請求人ら
 本件G土地は、本件被相続人の自宅及び請求人Jの自宅の敷地として一体で利用されていること、また、本件G土地の全ての筆に本件被相続人の持分があり、その各持分を一人の相続人(請求人J)が取得していることからすれば、本件G土地全体を1画地の宅地として評価すべきである。
 なお、本件相続開始日において本件G2土地が共有地であったのは、上記5の(1)のロの(イ)の本件C土地と同様の事情による。

(2) 判断

イ 法令解釈等
 評価基本通達に定める宅地の評価単位については、上記5の(2)のイの(イ)のAのとおりである。
 なお、所有している宅地の一部を自ら使用し、他の部分を使用貸借により貸し付けている場合には、当該宅地の全体を1画地の宅地として評価するのが相当である。これは、使用借権が、その性質上対価を伴わないものであり、また、一般に貸主・借主間の人的つながりを基盤とするものが多く、借主としての立場が極めて弱い権利であるといえることから、宅地の評価に当たっては、このような使用借権の実態に配慮し、当該権利に客観的交換価値があるものとみてその価額を控除するのは相当でないためである。
ロ 認定事実
 請求人ら提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、本件相続開始日及びその前後における本件G土地の状況等について、次の事実が認められる。
(イ) 本件相続開始日における本件G土地を構成する各土地の位置関係等は、別紙10のとおりであり、本件G1土地及び本件G3土地は市道に一方で接面し、本件G2土地は市道に二方で接面している。
(ロ) 本件相続開始日前において、本件G1土地(別表2の順号25)は、1筆の雑種地であり、本件被相続人の単独所有地である。なお、本件G1土地は、地積が31平方メートル、間口が2メートル程度と狭小の土地である。
(ハ) 同じく、本件G2土地(別表2の順号26)は、1筆の宅地であり、本件被相続人、請求人J及びその子2名による共有地である。
(ニ) 同じく、本件G3土地(別表2の順号27及び28)は、各1筆の宅地及び雑種地であり、本件被相続人の単独所有地である。
(ホ) 本件相続開始日において、本件G土地の上には、本件被相続人の相続財産である昭和42年新築の木造瓦葺2階建ての居宅(以下「本件G1建物」という。)及び請求人Jが平成5年に新築した木造瓦葺平屋建ての居宅(以下「本件G2建物」という。)があった。
 なお、本件G1建物と本件G2建物との間に塀等は設置されておらず、本件G土地の上に、土地を区分する仕切りは存在しない。また、請求人Jは、本件G2建物の建築当時から、本件G土地の所有者又は共有者である本件被相続人らに対し、地代等の支払をしたことはなく、本件相続に係る遺産分割により、本件被相続人の本件G土地に係る所有権及び共有持分権と併せて、本件G1建物の所有権も取得した。
ハ 当てはめ
 上記ロの認定事実を基に、本件G土地の評価単位を検討すると、以下のとおりである。
(イ) 本件G土地はいずれも宅地(現況の地目)であるところ、請求人Jが所有する本件G2建物の敷地に相当する部分については、使用借権が存在するものと認められる。
(ロ) そして、本件G土地の本件相続に係る遺産分割による取得者をみると、別表2の順号25ないし28のとおり、当該遺産分割後においても、本件G2土地は共有地であるから、共有地であることをもって評価単位を別とすべきかを検討すると、まる1本件G2土地を含む本件G土地は、本件相続開始日において、一体として2棟の建物の敷地の用に供されていること、まる2本件G1土地は、単独では有効利用の困難な狭小な宅地であること、まる3本件相続に係る遺産分割により、本件G土地に係る本件被相続人の所有権及び共有持分権と併せて、その上に建つ本件G1建物を、いずれも請求人Jが取得したこと、まる4本件G2土地の共有者は、いずれも請求人Jの子であることからすれば、本件G土地には、宅地の所有者による自由な使用収益を制約する他者の権利は存在せず、かつ、本件G土地は、本件相続に係る遺産分割後も一体として同一の用途に供される蓋然性が高いと認められる状況にあるから、利用状況、権利関係等からして、本件G2土地が共有地であることによる使用等の制約が実質的にないものと認められる。
 したがって、本件G土地は、全体を一つの評価単位として、一体として評価するのが相当である。
ニ 本件G土地の相続税評価額について
 以上のとおり、本件G土地は、全体を一つの評価単位として、一体として評価するのが相当であるから、これを前提に、当審判所において本件G土地の相続税評価額を計算すると、別紙12の3のとおり、○○○○円(別表11の7の原処分庁主張額とは異なる額)となる。

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8 本件株式の価額について

 次の(1)及び(2)の点について、本審査請求においては、当事者間に争いがないところ、上記3ないし7における本件各土地に係る判断に基づき、当審判所において、本件株式について評価した価額は、次の(3)のとおり、本件期限内申告に係る金額とは異なり○○○○円となる。

(1) 類似業種比準価額計算上の業種目について

 類似業種比準価額計算上の業種目は、評価基本通達181《類似業種》及び同181−2《評価会社の事業が該当する業種目》により判定するところ、本件期限内申告では、娯楽業とされているが、別紙13の2のとおり、その他の産業とすべきである。

(2) 1株当たりの純資産価額(相続税評価額)の計算について

 1株当たりの純資産価額(相続税評価額)は、評価基本通達185《純資産価額》により計算した金額によるところ、まる1本件B賃借権、本件C賃借権、本件EFH賃借権及び本件I賃借権に相当する金額を、別紙13の3の(2)のイ、ロ、ニ及びホのとおり計算し、資産として計上すべきであり、まる2本件C7土地の価額について、別紙13の3の(1)のロのとおり、計算すべきである。

(3) 本件株式の相続税評価額について

 上記(1)及び(2)を基に本件会社の株式の1株当たりの価額を計算すると、別紙13の4のとおり、○○○○円となるから、本件相続に係る相続財産である本件株式(38,000株)の価額は○○○○円となる。

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9 本件各土地及び本件株式に係る相続税の課税価格に算入すべき価額について

 上記3ないし8のとおり、本件各土地及び本件株式に係る相続税の課税価格に算入すべき価額を計算すると、別紙14の1のとおりとなる。

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10 本件J・L各更正処分に対する審査請求の適法性について

 請求人J及び請求人Lは、上記1の(2)のチのとおり、本件J・L各更正処分の全部の取消しを求めて、平成23年12月19日に審査請求をしている。
 しかしながら、通則法第75条《国税に関する処分についての不服申立て》第1項に規定する不服申立ての対象となる処分は、不服申立人の権利利益を侵害するものでなければならないと解されるところ、別表1に明らかなとおり、本件異議決定の後の請求人J及び請求人Lの本件相続税の納付すべき各税額は、いずれも、本件期限内申告における当該各税額を下回るものであり、本件J・L各更正処分により新たに納付すべきこととなった税額は、本件異議決定の後には存在しない。そうすると、本審査請求の対象とされる本件J・L各更正処分について、請求人J及び請求人Lの権利利益を侵害する部分は既に存在しない。
 したがって、本件J・L各更正処分に対する各審査請求は、不服申立ての対象となる処分の存在しない(すなわち審査請求の利益を欠く)不適法なものであるから、いずれも、これを却下すべきである。

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11 本件各通知処分、本件各更正処分及び本件各再更正処分について

 上記9に基づき、請求人らの本件相続税に係る課税価格及び納付すべき税額を計算すると、それぞれ、別紙14の2のとおりとなるから、本件各通知処分、本件各更正処分及び本件各再更正処分については、次のとおりとなる。

(1) 請求人Jについて

 本件J通知処分のうち、本件異議決定に係る納付すべき税額○○○○円を上回る部分に対する審査請求については、請求人Jの本件相続税の納付すべき税額が、本件異議決定により○○○○円に減額されており、請求人Jは、本件J通知処分のうち上記金額を上回る部分について審査請求の利益を欠くことから、この部分の審査請求は不適法である。また、その他の部分については、請求人Jの納付すべき税額○○○○円が、本件期限内申告に係る納付すべき税額○○○○円を上回るものであり、当該税額が過大であるとする上記1の(2)のロの更正の請求には理由がないから、本件J通知処分の当該部分は適法である。

(2) 請求人Lについて

 本件L通知処分のうち、本件異議決定に係る納付すべき税額○○○○円を上回る部分に対する審査請求については、請求人Lの本件相続税の納付すべき税額が、本件異議決定により○○○○円に減額されており、請求人Lは、本件L通知処分のうち上記金額を上回る部分について審査請求の利益を欠くことから、この部分の審査請求は不適法である。また、その他の部分については、請求人Lの納付すべき税額○○○○円が、本件期限内申告に係る納付すべき税額○○○○円を下回るものであり、その下回る部分において上記1の(2)のロの更正の請求に理由があるから、当該更正の請求に対して更正をすべき理由がないとした本件L通知処分は、当該部分について違法であり、当該部分については、別紙2「取消額等計算書」のとおり取り消すべきである。

(3) 請求人Mについて

 本件相続税について、請求人Mの納付すべき税額○○○○円は、本件期限内申告に係る納付すべき税額○○○○円を下回り、更に上記1の(2)のロの更正の請求において更正を求めた納付すべき税額○○○○円も下回るものであり、当該更正の請求には理由があるから、当該更正の請求に対して更正をすべき理由がないとした本件M通知処分は違法であり、また、本件期限内申告に係る納付すべき税額を超えてなされた本件M更正処分及び本件M再更正処分は、いずれも違法であるから、その全部を取り消すべきである。

(4) 請求人Nについて

 本件相続税について、請求人Nの納付すべき税額○○○○円は、本件期限内申告に係る納付すべき税額○○○○円を上回るものであり、当該税額が過大であるとする上記1の(2)のロの更正の請求には理由がないから、その旨を通知した本件N通知処分は適法であるが、本件N更正処分及び本件N再更正処分については、請求人Nの納付すべき税額○○○○円を超える部分は違法であるから、当該部分について、別紙3「取消額等計算書」のとおり取り消すべきである。

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12 本件M賦課決定処分、本件N賦課決定処分及び本件再賦課決定処分について

(1) 本件M賦課決定処分及び本件再賦課決定処分

 上記11の(3)のとおり、本件M更正処分及び本件M再更正処分は、いずれもその全部が取り消すべきものであるから、これらを前提とする本件M賦課決定処分及び本件再賦課決定処分は、いずれもその全部を取り消すべきである。

(2) 本件N賦課決定処分

 上記11の(4)のとおり、本件N更正処分は、その一部を取り消すべきものであるところ、その他の部分の納付すべき税額の計算の基礎となった事実が当該更正前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、通則法第65条《過少申告加算税》第4項に規定する正当な理由があるとは認められない。
 以上を前提として、本件N更正処分に係る過少申告加算税の金額を計算すると、別紙14の2のとおりとなり、当該金額は、本件N賦課決定処分における金額を下回るから、本件N賦課決定処分については、その一部を別紙3「取消額等計算書」のとおり取り消すべきである。

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13 その他

 原処分のその他の部分については、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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