(平成25年4月22日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、アパートの貸付業を営む審査請求人(以下「請求人」という。)が、平成18年分ないし平成22年分の所得税について、いずれも確定申告をしていなかったところ、原処分庁が、原処分庁所属の調査担当職員の調査の結果に基づき、請求人の当該貸付業に係る不動産所得の金額を推計の方法により算定し、所得税の各決定処分及び無申告加算税の各賦課決定処分をしたのに対し、請求人が、雑損控除の対象となる損失が生じているから雑損控除等を考慮すれば課税所得はないなどとして、その全部の取消しを求めた事案である。

(2) 審査請求に至る経緯

イ 請求人は、平成18年分、平成19年分、平成20年分、平成21年分及び平成22年分(以下「本件各年分」という。)の所得税について、いずれも確定申告書を提出していなかったところ、Z税務署長は、平成24年2月28日付で別表1の「決定処分等」欄のとおりの各決定処分(以下「本件各決定処分」という。)及び無申告加算税の各賦課決定処分(以下「本件各賦課決定処分」といい、本件各決定処分と併せて「本件各決定処分等」という。)をした。
ロ 請求人は、本件各決定処分等を不服として、平成24年4月19日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、同年6月18日付でいずれも棄却の異議決定をし、その異議決定書謄本を請求人に対し同月30日に送達した。
ハ 請求人は、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成24年7月24日に審査請求をした。
ニ なお、請求人は、平成24年8月24日に住所をd市e町○−○から肩書地に移動したので、これに伴い、原処分庁は、Z税務署長からY税務署長となった。

(3) 関係法令の要旨

 別紙2のとおりである。

(4) 基礎事実

 以下の事実は、請求人及び原処分庁との間に争いはなく、当審判所の調査の結果によっても、その事実が認められる。
イ 請求人のアパートの貸付業等について
(イ) 請求人は、平成18年から平成22年までの各年(以下「本件各年」という。)において、請求人がf県g市及び同県h市に所有する次表の各アパートを賃貸していた。
 以下、当該各アパートを「本件各賃貸アパート」という。

賃貸アパート名 賃貸アパートの所在
x1アパート f県g市i町○−○、○−○
x2アパート f県g市i町○−○
x3アパート f県g市j町○−○
x4アパート f県g市k町○−○
x5アパート f県g市k町○−○
x6アパート f県g市m町○−○

(ロ) 本件各賃貸アパートに係る賃料収入は、請求人が現金で受領していたほか、複数の銀行に開設された請求人名義の各普通預金口座に振り込まれていた。
(ハ) 請求人は、上記(ロ)の請求人名義の各普通預金口座に係る通帳、本件各賃貸アパートに係る賃貸借契約書及び領収証等の一部を保存していたものの、収入及び支出に係る日々の取引実績を継続的に記録した帳簿を備え付けていなかった。
(ニ) 請求人は、平成16年4月28日、売買によりf県g市k町○−○に所在する土地(地目は田であり、以下「本件土地」という。)を取得し所有していたが、本件土地は、本件各年において、本件各賃貸アパートに係る不動産所得を生ずる事業の用に供されていなかった。
ロ 請求人の確定申告及び本件各決定処分等について
 請求人は、本件各年分の所得税について、いずれも確定申告をしていなかったところ、Z税務署長は、原処分に係る調査において、請求人から本件各賃貸アパートに係る不動産所得の金額の計算に必要な帳簿書類の提示がなく、取引実績額(実額)による所得計算が不可能であるとして、本件各年分の本件各賃貸アパートに係る不動産所得の各総収入金額を、上記イの(ロ)の請求人名義の各普通預金口座に振り込まれた賃料収入等を基に別表3の「合計」欄の各金額のとおりに算定し、これらの総収入金額に、別表2の「特前所得率」欄のとおりの請求人の事業と業種、業態及び事業規模等が類似すると認められるとする青色申告者(以下「本件同業者」という。)の本件各年分の総収入金額に占める青色申告特典控除前の所得金額の割合の平均値(以下「平均特前所得率」という。)をそれぞれ乗じて、請求人の本件各年分の不動産所得の金額を推計の方法により算定し、本件各決定処分等をした。
ハ 異議申立ての理由について
 請求人は、本件各決定処分等を不服として、異議審理庁に対し、まる1平成16年、平成20年及び平成22年において、雑損控除の対象となる盗難及び横領による各損失が生じたから、当該控除の適用を認めるべきである旨、また、まる2本件土地を駐車場にするために請求人が自ら整地を行ったから、この整地に係る諸経費を含めて請求人自身が働いたことに対する日当相当額(1日当たり10,000円、年間3,000,000円)を必要経費として認めるべきである旨などを理由として、異議申立てをした。
ニ 請求人がg警察署長から交付を受けた各証明書について
 請求人は、上記ハのまる1の請求人が被ったとする各損失に関し、g警察署長から次の(イ)ないし(ホ)の証明書5通の交付を受け、当該各証明書を異議申立書に添付し、又は異議申立てに係る調査において提出したところ、当該各証明書には、それぞれ要旨次の内容が記載されている。
(イ) 平成24年4月17日付の証明書(証明番号第○号)
 請求人は、平成16年12月29日に、g市j町○−○請求人方において、暴行・脅迫を加えられた上で現金230,000円及び預金通帳等10点を奪われるなどし、その奪われた預金通帳により現金4,909,000円が引き出されたこと(以下、この奪われた現金及び預金通帳等の損失を「平成16年の損失」という。)について、同日にg警察署に対して届出を行い、g警察署長はその事実及びその届出を受理していることを証明する旨
(ロ) 平成24年4月17日付の証明書(証明番号第○号)
 請求人は、平成20年6月4日及び同月30日の2回にわたって、f県g市において、返済する意思がないのに、あるように装い、合計7,450,000円をだまし取られたこと(以下、この金員の損失を「平成20年の損失」という。)について、平成22年12月1日にg警察署に対して届出を行い、g警察署長はその届出を受理していることを証明する旨(以下、当該証明書を「平成20年分証明書」という。)
(ハ) 平成24年4月17日付の証明書(証明番号第○号)
 請求人は、平成22年4月20日頃、f県g市k町○−○x5アパート駐車場において、顔見知りの者に軽トラックを貸したが返却されないこと(以下、この軽トラックに係る損失を「軽トラックの損失」という。)について、同年10月17日にg警察署に対して届出を行い、g警察署長はその届出を受理していることを証明する旨(以下、当該証明書を「平成22年分証明書その1」という。)
(ニ) 平成24年4月17日付の証明書(証明番号第○号)
 請求人は、平成22年3月頃、f県g市k町○−○x5アパート駐車場において、顔見知りの者に軽四乗用車を貸したが返却されないこと(以下、この軽四乗用車に係る損失を「軽四乗用車の損失」といい、上記(ハ)の軽トラックの損失と併せて「平成22年の各車両の損失」という。)について、同年4月15日にg警察署に対して届出を行い、g警察署長はその届出を受理していることを証明する旨(以下、当該証明書を「平成22年分証明書その2」という。)
(ホ) 平成24年5月18日付の証明書(証明番号第○号)
 請求人は、平成22年12月9日に、f県g市k町○−○x5アパート西側駐車場において、駐車中の車内から黒色ポーチ(預金通帳12冊及び印鑑2本等在中)を盗まれたことについて、同日にg警察署に対して届出を行い、g警察署長はその届出を受理していることを証明する旨(以下、当該証明書を「平成22年分証明書その3」という。)
ホ 平成22年に預金通帳等が盗まれたことに伴う損失について
 上記ニの(ホ)の平成22年分証明書その3に記載のある盗まれたとされる預金通帳等のうち、n銀行○○支店に開設された請求人名義の普通預金口座(口座番号○○○○)及びp信用金庫○○支店に開設された請求人名義の普通預金口座(口座番号○○○○)に係る各普通預金通帳及び印鑑が使用され、当該各普通預金口座から、当該預金通帳等が盗まれたとされる日と同じ日に、それぞれ300,000円が引き出された(以下、この合計600,000円の損失を「平成22年の金員の損失」という。)。なお、当該盗まれたとされる預金通帳等は、後日、検察庁から請求人に対して返却されている。
ヘ 審査請求について
 請求人は、審査請求において、本件各決定処分等のうち、原処分庁が請求人の不動産所得の金額を推計の方法により算定したことについて、推計の必要性及び推計の合理性を争っていない。

(5) 争点

  1. イ 争点1 平成16年の損失について、雑損失の繰越控除を適用できるか否か。
  2. ロ 争点2 平成20年の損失、平成22年の各車両の損失及び平成22年の金員の損失について、雑損控除の適用があるか否か。

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2 主張

(1) 争点1(平成16年の損失について、雑損失の繰越控除を適用できるか否か。)について

原処分庁 請求人
 雑損失の繰越控除の規定は、雑損失の金額が生じた年分の所得税についてその申告期限までにその雑損失の金額に関する事項を記載した確定申告書を提出した場合(税務署長においてやむを得ない事情があると認める場合には、当該申告書をその提出期限後に提出した場合を含む。)であって、その後において連続して確定申告書を提出している場合に限り適用されるところ、請求人は、平成16年の損失に関して、同年分の確定申告書をその翌年3月15日までに提出しておらず、また、期限後申告書の提出がなく、その後連続して確定申告書の提出もしていないことから、請求人の平成18年分及び平成19年分の所得金額の計算上、雑損失の繰越控除を適用することはできない。  平成16年の損失は、雑損控除の対象となる損失に該当する。原処分庁は、平成16年分所得税の確定申告書をその提出期限までに提出していないから、雑損失の繰越控除を適用できないとするが、請求人にそれほどの所得はなく申告義務がなかったのであるから、確定申告書を提出していなくても雑損失の繰越控除の適用を認めるべきである。

(2) 争点2(平成20年の損失、平成22年の各車両の損失及び平成22年の金員の損失について、雑損控除の適用があるか否か。)について

原処分庁 請求人
 請求人が主張する次のイないしハの各損失については、それぞれ次の理由により、いずれも雑損控除の適用はない。  次のイないしハの各損失については、それぞれ次の理由により、いずれも雑損控除の適用をすべきである。
イ 平成20年の損失について
 平成20年分証明書は、届出の受理を証明しているにすぎず、届出内容が事実であるとの認定ができないから、雑損控除の適用ができるかどうかの判断ができない。
 なお、仮に届出のとおりの事実であったとしても、当該証明書に記載されたとおり、現金をだまし取られたのであれば、詐欺によるものと考えるべきであり、また、借用証書を交わして貸付期限までに返済されていないのであれば、返済が滞っているか貸倒れとなったと解すべきであるから、災害、盗難及び横領には該当しないので、雑損控除の適用はない。
イ 平成20年の損失について
 当該損失は、借用証書を交わして貸付期限までに返済されないものであり、横領に該当する。なお、貸付先はqの裁判所において自己破産の宣告を受けたので、回収の見込みはない。
ロ 平成22年の各車両の損失について
 平成22年分証明書その1及び平成22年分証明書その2は、届出の受理を証明しているにすぎず、届出内容が事実であるとの認定ができないから、平成22年の各車両の損失は、雑損控除の適用ができるかどうかの判断ができない。
 仮に、各車両を借りた者が、請求人を欺いて当該各車両を勝手に処分したのであれば詐欺と考えるべきであり、また、請求人を欺くことなく借りた当該各車両を勝手に処分したとして、横領に該当する場合でも、当該各車両の年式、型式、走行距離、状態等が不明なため、実際に生じた損失の金額を算出することができないから、雑損控除の適用はない。
ロ 平成22年の各車両の損失について
 当該各車両は、既に顔見知りの者が売却しており、横領に該当する。
 なお、請求人は、軽四乗用車をアパートの入居者から無償で入手したが、車検代が発生しており、また、軽トラックを100,000円で購入したから、損失がある。
ハ 平成22年の金員の損失について
 駐車中の車内から盗まれたとされる預金通帳等は、後日検察庁から請求人に対して返却されているから、盗難されたものと認められるが、盗難された預金通帳を用いた不正な出金による預金者の損失については、銀行等の預金払戻手続に瑕疵がある場合には銀行等から補償されることになっているところ、請求人は損失に対する補償を銀行に請求していないため、補償の額が確定していない。
 また、仮に請求人が銀行に対し補償を請求しない場合又は銀行等に瑕疵がなく補償を受けられない場合には、請求人に600,000円の損失額が生じていることとなるが、当該損失額は、平成22年分の総所得金額○○○○円の10分の1を超えず、雑損控除の額は零円となるから、いずれにしても雑損控除の適用はない。
ハ 平成22年の金員の損失について
 当該預金通帳等が盗まれた後、n銀行○○支店及びp信用金庫○○支店において、請求人の各普通預金口座から、それぞれ300,000円の合計600,000円を引き出されており、盗難に該当する。

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3 判断

(1) 本件各決定処分に係る不動産所得の金額について

 請求人は、上記1の(4)のへのとおり、審査請求において、原処分庁が不動産所得の金額を推計の方法により算定したことについては争わないが、当審判所が原処分関係資料に照らして当該推計の方法の適否を検討したところ、次のとおりである。
イ 推計の合理性について
(イ) Z税務署長は、上記1の(4)のロのとおり、請求人の本件各年分の不動産所得の金額を、請求人名義の各普通預金口座に振り込まれた賃料収入等を基に算定した総収入金額に、本件同業者の平均特前所得率を乗じるという推計の方法により算定したところ、およそ業種、業態及び事業規模等に類似性のある同業者は、特段の事情のない限り、同程度の収入に対して同程度の所得を得るのが通例であり、このことは、請求人の営むアパートの貸付業についても当てはまり、かつ、当審判所の調査の結果によっても、本件各年分の請求人の営む同貸付業について上記の特段の事情があるとは認められないから、Z税務署長が用いた推計の方法には合理性があると認められる。
(ロ) ところで、当審判所が、Z税務署長の選定した本件同業者(別表4のとおり、平成18年分は14件、平成19年分は17件、平成20年分は19件、平成21年分は21件及び平成22年分は18件)について、その適否を審理したところ、これらの本件同業者は、貸付物件が本件各賃貸アパートの所在するg税務署管内又はh税務署管内にあり、共同住宅であること(土地、貸店舗及び一戸建て等の貸付けは除く。)並びに当該貸付物件を一棟貸ししていないこと等、事業所所在地が近接し、請求人と業種、業態及び事業規模等が類似する青色申告書を提出している者であると認められるから、これらの者を類似同業者として選定したことは相当である。そして、このうち、平成19年分ないし平成22年分については、平均特前所得率の算定にも誤りはないが、平成18年分については、上記の本件同業者の抽出基準に合致する同業者として、上記の類似同業者14件のほか、新たに別表5のO及びPの2件を追加すべきであると認められた。そこで、当該2件を加え、改めて平成18年分の平均特前所得率を算定すると、別表5のとおり、同率は45.38%(以下「改定平成18年分平均特前所得率」という。)となる。
(ハ) 以上を前提として、請求人の本件各年分の不動産所得の金額を算定すると、平成19年分ないし平成22年分については、いずれも本件各決定処分の額と同額となるが、平成18年分については、○○○○円(不動産所得の総収入金額○○○○円 × 改定平成18年分平均特前所得率45.38%)となる。
ロ 請求人の日当に係る主張について
 請求人は、審査請求において、上記1の(4)のハの異議申立ての理由(同まる2)と同様に、本件土地を駐車場にするために請求人が自ら整地を行っており、それに係る諸経費を含めて請求人自身が働いたことに対する日当相当額(1日当たり10,000円、年間3,000,000円)を、原処分庁が算定した所得金額から必要経費として控除すべきである旨主張する。
 しかしながら、所得税法第37条《必要経費》第1項は、不動産所得の金額の計算上必要経費に算入すべき金額は、不動産所得の総収入金額を得るため直接に要した費用の額及びその年における販売費、一般管理費その他不動産所得を生ずべき業務について生じた費用の額とする旨規定しているところ、ここでいう費用とは、収入を獲得する過程でその収入を得るために費消された経済的価値であると解される。そして、納税者自身が働いたことに対する日当相当額は、この収入を得るために費消された経済的価値に該当しないから、同項に規定する費用に含まれないことは明らかである上、そもそも現行の所得税法における課税の仕組みにおいては、納税者自身が行う事業の収入から当該納税者に対する報酬相当額を控除すること自体、観念することができない。
 また、上記1の(4)のイの(ニ)のとおり、本件土地は、本件各年において、請求人の本件各賃貸アパートに係る不動産所得を生ずべき事業の用に供されていなかったから、請求人が整地に係る諸経費を支出したとしても、当該不動産所得の必要経費には該当しない。
 したがって、請求人の主張を採用することはできない。

(2) 争点1(平成16年の損失について、雑損失の繰越控除を適用できるか否か。)について

イ 認定事実
 原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、請求人は、平成16年分の所得税の確定申告書をその提出期限までに税務署長に提出しておらず、当該提出期限後から本件各決定処分がなされた平成24年2月28日に至るまで国税通則法第18条《期限後申告》第1項に規定する期限後申告書を提出していないことが認められる。
ロ 判断
 所得税法第71条《雑損失の繰越控除》第1項に規定する雑損失の繰越控除は、別紙2の3のとおり、雑損失の金額が生じた年分の所得税につきその雑損失の金額に関する事項を記載した確定申告書をその提出期限までに提出した場合(税務署長においてやむを得ない事情があると認める場合には、当該申告書をその提出期限後に提出した場合を含む。)に適用があるところ、請求人は、上記イのとおり、平成16年分の所得税の確定申告書を本件各決定処分がなされた日に至るまで提出していないから、当該控除の適用を受けるための手続要件を満たしていない。
 そうすると、雑損失の繰越控除に関するその他の要件について判断するまでもなく、平成16年の損失について、平成18年分及び平成19年分の各総所得金額の計算上、いずれも雑損失の繰越控除を適用することはできない。

(3) 争点2(平成20年の損失、平成22年の各車両の損失及び平成22年の金員の損失について、雑損控除の適用があるか否か。)について

イ 法令解釈
 所得税法第72条《雑損控除》第1項は、納税者の資産に損失が生じた場合のうち、「災害又は盗難若しくは横領」という納税者の意思に基づかないことが客観的に明らかな事由によってその損失が生じた場合に限定して、当該納税者の担税力の減少に配意する趣旨の規定であると解される。そして、同項が規定する「盗難」及び「横領」の概念について所得税法に規定はないから、一義的には、刑法上の「窃盗罪」にいう「窃盗」及び「横領罪」にいう「横領」と同一のものと解するのが相当である。
 そうすると、「盗難」とは、他人の財物を窃取すること(刑法第235条《窃盗》参照)、すなわち、占有者の意に反して第三者が財物の占有を移転することを指すと解するのが相当であり、また、「横領」とは、自己の占有する他人の物を横領すること(刑法第252条《横領》参照)、すなわち、委託者と受託者との間に委託信任関係があることを前提に、その物に関する占有を取得した受託者が、委託の趣旨に背いて、その物につき権限がないのに所有者でなければできないような処分をすることを指すと解するのが相当である。
ロ 平成20年の損失について
(イ) 認定事実
 請求人提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
A 請求人は、平成20年6月4日、rとの間で、「借用証」と題する書面により、請求人を貸主、rを借主とし、貸金の額を2,200,000円、返済日・返済金額を同年7月3日、8月3日、9月3日及び10月3日に各550,000円ずつとする旨の金銭消費貸借契約を締結し、同額を交付した。
B 請求人は、平成20年6月30日、rとの間で、「金銭借用証書」と題する書面により、請求人を貸主、rを借主、sを連帯保証人とし、貸金の額を5,250,000円、返済期日を同年8月30日とする旨の金銭消費貸借契約を締結し、同額を交付した。
C rは、平成20年9月7日、請求人に対し、毎月100,000円を利息として支払い、資金があるときは元金も支払う旨を記載した書面を交付し、同年12月6日、n銀行○○支店に開設された請求人名義の普通預金口座に100,000円を送金した。
D 請求人は、上記A及びBの金員の合計7,450,000円について、上記1の(4)のニの(ロ)のとおり、平成22年12月1日、g警察署に対し被害の届出をした。
(ロ) 当てはめ
A 上記(イ)のA及びBのとおり、請求人は、rとの間で合計7,450,000円の各金銭消費貸借契約を締結し、同人に対し同額を貸し付けたことが認められる上、同Cのとおり、rが書面をもって返済の意思を示し、実際に利息の支払をしたことからすれば、貸し付けた金員の返済がないとしても、その状態は返済が滞っているものと認めるのが相当である。そうすると、請求人の主張する平成20年の損失に係る事情は、災害、盗難又は横領のいずれにも当たらず、雑損控除の適用はないこととなる。
 また、平成20年分証明書には、返済の意思がないのに、あるように装い、上記金員をだまし取られた旨を請求人が届け出た旨が記載されているところ、仮にこれが真実であるとしても、刑法第246条《詐欺》第1項に規定する詐欺罪に当たると解され、詐欺による損失は雑損控除の対象とならない。
B これに対し、請求人は、返済がないのは横領に該当する旨主張する。
 しかしながら、上記イのとおり、横領とは、委託者と受託者との間に委託信任関係があることを前提とする概念であるところ、上記(イ)のA及びBのとおり、請求人とrとの関係は、金員の貸主と借主という関係であると認められるから、当該金員はそもそも委託されたものではなく、両者の間には委託信任関係がないことが明らかである。
 そうすると、請求人がrに貸し付けた金員を同人が返済しない状態は、横領に該当しないから、請求人の上記主張は採用することができない。
ハ 平成22年の各車両の損失について
(イ) 軽トラックの損失について
A 認定事実
 請求人が、軽トラックの損失及び平成22年の金員の損失等に関する証拠書類として当審判所に提出した資料(平成23年○月○日に判決宣告されたf地方裁判所係属の刑事事件(平成○年(○)第○号、平成○年(○)第○号、同第○号、同第○号)に係る判決書であり、以下「本件判決書」という。)によれば、同裁判所裁判官は、被告人tが、寸借名下に自動車を詐取しようと企て、平成22年4月下旬頃、請求人に対し、請求人所有の軽四貨物自動車を返還する意思がなく、借用後第三者に譲渡する意思であるのにこれを秘し、一時借用するかのように装い、「x5アパートに入れている荷物を運ぶので、軽トラを夕方まで貸してください。」、「必ず、夕方までに返します。」などと嘘を言い、請求人をしてその旨誤信させ、x5アパート西側駐車場において当該軽四貨物自動車1台(時価10万円相当)の交付を受け、もって人を欺いて財物を交付させた旨認定し、この軽四貨物自動車1台をだまし取ったという事実は、刑法第246条第1項に規定する詐欺罪に該当するとして、他の罪と併せてtに対する有罪判決を言い渡したことが認められる。
B 当てはめ
 上記Aの本件判決書に記載された事実を前提とすれば、請求人が被った軽トラックの損失は、詐欺によるものであり、災害、盗難又は横領のいずれにも当たらないから、雑損控除の適用はない。
(ロ) 軽四乗用車の損失について
A 認定事実等
(A) 請求人が、軽四乗用車の損失に関する証拠書類として当審判所に提出したu社が作成した「照会車両の件について」と題する書面によれば、同社は、平成22年4月10日前後に、tから軽四乗用車の買取りの依頼を受け、同車両を買い取ったことが認められる。
 なお、請求人が上記書面と併せて提出したu社が作成した平成25年1月18日付「車両見積書」と題する書面には、軽四乗用車の当時の見積価額は130,000円と記載されている。
(B) 請求人は、当審判所に対し、軽四乗用車をtに月10,000円で貸したところ、同人から同車両が火を噴いたので廃車にしなければならないと言われたが、後になって調べてみると売却されたことが判明したので、被害の届出をした旨答述した。
(C) 当審判所の調査の結果によれば、上記(B)の請求人の答述のうち、請求人がtに軽四乗用車を賃貸したことを裏付ける証拠は見当たらず、tが請求人から軽四乗用車を入手した状況は客観的に明らかでないものの、軽四乗用車が売却されたことについては上記(A)の各書面によって裏付けられており、必ずしも上記(B)の請求人の答述を信用できないというべきではない。
B 検討
 上記Aによれば、軽四乗用車の損失は、tが請求人から交付された軽四乗用車を売却したことにより生じたものであると認められるが、当該損失は、請求人が主張するとおり、請求人がtに賃貸していた軽四乗用車をtが勝手に売却したことにより生じた可能性を否定し難いから、横領による損失とみる余地が十分にある。そうであるとすれば、請求人には、雑損控除の対象となる「横領」による損失が生じたこととなる。
ニ 平成22年の金員の損失について
(イ) 認定事実
 請求人提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
A 本件判決書によれば、f地方裁判所裁判官は、まる1t及びその共犯者は、共謀の上、平成22年12月9日、x5アパート西側駐車場において、同所に駐車中の自動車内から、請求人ほか1名所有の預金通帳12通及び印鑑3本等を窃取した、まる2t及びその妻(被告人。以下同じ。)は、共謀の上、上記まる1のとおり窃取した請求人名義の預金通帳及び印鑑を使用し、預金払戻し名下に金員を詐取しようと企て、同日、p信用金庫○○支店において、請求人作成名義の普通預金払戻請求書を偽造・行使し、○○支店職員をして、同払戻請求書が真正に作成されたものであって、正当な権限に基づく払戻請求である旨誤信させて、同人から現金30万円の交付を受け、もって人を欺いて財物を交付させた、まる3t及びその妻は、共謀の上、同日、n銀行○○支店において、請求人作成名義の払戻請求書を偽造・行使し、○○支店行員をして、同払戻請求書が真正に作成されたものであって、正当な権限に基づく払戻請求である旨誤信させて、同人から現金30万円の交付を受け、もって人を欺いて財物を交付させた旨認定し、上記まる1の預金通帳等を窃取したという事実は、刑法第235条に規定する窃盗罪、上記まる2及びまる3の金融機関から金員をだまし取ったという事実は、同法第246条第1項に規定する詐欺罪に該当するとして、他の罪と併せてt及びその妻に対する有罪判決を言い渡したことが認められる。
B 平成22年12月9日、n銀行○○支店に開設された請求人名義の普通預金口座から300,000円が引き出され、同日、請求人がg警察署に被害届を提出したことに伴い、同銀行により事故登録がなされた。その後、n銀行は、平成24年12月11日、請求人に対し、上記金員の補償として225,000円を支払った。
C 平成22年12月9日、p信用金庫○○支店に開設された請求人名義の普通預金口座から300,000円が引き出された。同支店の担当者は、請求人と面接した後、預金の取引停止の措置をした。その後、p信用金庫は、平成25年1月24日、請求人に対し、上記金員の補償として225,000円を支払った。
(ロ) 検討
A 上記(イ)のAの本件判決書の記載のとおり、銀行の普通預金口座に係る預金は、その銀行(管理者)が占有するものであるため、預金者以外の者が、盗んだ預金通帳及び印鑑を使用し、銀行の窓口で職員を欺き同普通預金口座から不正に払戻しを受けたとしても、その払戻しを受けたことについては、刑法の詐欺罪が適用されるべきであるから、これを、預金者の占有する財物をその意に反して移転したこと(窃取)に当たると評価することはできない。しかし、このような盗難された預金通帳等を利用してなされた不正な払戻しにより預金者が被った損失は、預金通帳等が窃取されたことに起因し、また、明らかに預金者の意思に基づかない事由によるのであるから、実質的にみて預金者の資産が「盗難」されたことにより生じた損失と評価し、雑損控除の対象となる「盗難」による損失に当たると解するのが相当である。
B 上記(イ)のAないしCの各事実によれば、平成22年の金員の損失は、t及びその妻が、t及びその共犯者が共謀して盗んだ預金通帳及び印鑑を使用し、請求人の資産であるp信用金庫○○支店及びn銀行○○支店に開設された請求人名義の各普通預金口座に係る預金残高について不正に払戻しを受けたことによるものと認められるから、雑損控除の対象となる「盗難」による損失に当たり、雑損控除の適用がある。
ホ まとめ
(イ) 上記ロ及び同ハの(イ)のとおり、平成20年の損失及び軽トラックの損失については、いずれも雑損控除の適用はない。
(ロ) 上記ハの(ロ)のとおり、軽四乗用車の損失については、当該損失が横領によるものであるとして雑損控除の対象となる損失に当たる余地がある上、上記ニの(ロ)のとおり、平成22年の金員の損失については、雑損控除の対象となる損失に当たるから、以下、いずれについても同控除の適用があるものとして検討する。
(ハ) そうすると、軽四乗用車の損失の金額は、上記ハの(ロ)のAの(A)のとおり、130,000円であり、また、平成22年の金員の損失の金額は、上記ニの(イ)のB及びCのとおり、150,000円(600,000円から補償された金額の合計額450,000円を差し引いた金額)であると認められるが、これらの金額の合計額(280,000円)は、平成22年分の総所得金額の10分の1を超えないから、雑損控除の額は零円となる。

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4 本件各決定処分について

 以上のことを前提として、請求人の本件各年分の総所得金額及び納付すべき税額を算定すると、次のとおりである。

(1) 平成18年分について

イ 総所得金額
 原処分庁は、平成18年分の決定処分において、請求人の不動産所得の金額を、別表2のとおり○○○○円と算定しているが、上記3の(1)のイの(ハ)のとおり、当該不動産所得の金額は○○○○円である。また、同(2)のロのとおり、請求人の主張する平成16年の損失について雑損失の繰越控除の適用はない。以上によれば、平成18年分の総所得金額は、別表6の審判所認定額の「総所得金額」欄のとおり、上記不動産所得の金額○○○○円と同額となる。
ロ 納付すべき税額
 上記イを基に、請求人の平成18年分の納付すべき税額を計算すると、別表6の審判所認定額の「納付すべき税額」欄のとおり、○○○○円となる。
ハ 決定処分について
 上記イ及びロの結果、請求人の平成18年分の総所得金額及び納付すべき税額は、いずれも別表1の「決定処分等」欄の同年分の額を下回るから、平成18年分の決定処分は、別紙1「取消額等計算書」のとおり、その一部を取り消すべきである。

(2) 平成19年分ないし平成22年分について

イ 原処分庁は、平成19年分ないし平成22年分の各決定処分において、請求人の不動産所得の金額を別表2のとおり算定しているが、上記3の(1)のイの(ハ)のとおり、原処分庁がした上記各年分の不動産所得の金額の計算は相当であり、当審判所が算定したところによっても、当該各年分の不動産所得の金額及び総所得金額は、いずれも別表1の各金額と同額となる。
ロ また、上記3の(2)のロのとおり、請求人の主張する平成16年の損失について雑損失の繰越控除の適用はないから、本件各決定処分における平成19年分の総所得金額を変更すべき理由はない。
ハ さらに、上記3の(3)のホのとおり、平成20年の損失及び軽トラックの損失については、いずれも雑損控除の適用はなく、また、軽四乗用車の損失及び平成22年の金員の損失は、いずれも雑損控除の対象となるとしても、平成22年分の雑損控除の額は零円となるから、本件各決定処分における平成20年分及び平成22年分の各納付すべき税額を変更すべき理由はない。
ニ 以上のことから、請求人の平成19年分ないし平成22年分の各総所得金額及び各納付すべき税額は、いずれも別表1の「決定処分等」欄の当該各年分の額と同額となるから、原処分庁が行った平成19年分ないし平成22年分の各決定処分は、いずれも適法である。

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5 本件各賦課決定処分について

(1) 平成18年分について

イ 上記4の(1)のとおり、平成18年分の決定処分は、その一部を取り消すべきであるところ、これに伴い、無申告加算税の賦課決定処分の基礎となる税額は、○○○○円となる。
ロ また、請求人による期限内申告書の提出がなかったことについて、国税通則法第66条《無申告加算税》第1項ただし書に規定する正当な理由があるとは認められない。
ハ したがって、国税通則法第66条第1項及び第2項の規定により、請求人の無申告加算税の額は○○○○円となり、この金額は、平成18年分の無申告加算税の賦課決定処分の額○○○○円を下回るから、同年分の無申告加算税の賦課決定処分は、別紙1「取消額等計算書」のとおり、その一部を取り消すべきである。

(2) 平成19年分ないし平成22年分について

 上記4の(2)のとおり、平成19年分ないし平成22年分の各決定処分はいずれも適法であり、当該各年分の期限内申告書の提出がなかったことについて、国税通則法第66条第1項ただし書に規定する正当な理由があるとは認められないから、同条第1項及び第2項の規定に基づきなされた当該各年分の無申告加算税の各賦課決定処分は、いずれも適法である。

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6 その他

 原処分のその他の部分については、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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