(平成25年7月24日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、不動産貸付業を営む審査請求人(以下「請求人」という。)が、土地の譲渡による所得を分離長期譲渡所得として平成20年分の所得税の確定申告をしたところ、原処分庁が、当該譲渡した各土地の中には請求人が平成20年に時効取得した土地が含まれているから、当該時効取得に係る利益は一時所得として、また、時効取得した土地の譲渡による所得は分離短期譲渡所得に当たるとして更正処分等を行ったのに対し、請求人が、時効により土地の所有権を取得したのは売買契約の買主であるから、請求人は時効取得しておらず、譲渡もしていないとして、その全部の取消しを求めた事案である。

(2) 審査請求に至る経緯

イ 請求人は、平成20年分の所得税について、青色の確定申告書に別表1の「確定申告」欄のとおり記載して法定申告期限までに申告した。
ロ 次いで、請求人は、原処分庁所属の調査担当職員の調査を受け、別表1の「修正申告」欄の記載のとおりとする修正申告書を平成24年2月16日に提出した。
ハ 原処分庁は、これに対し、平成24年2月28日付で別表1の「賦課決定処分」欄のとおりの過少申告加算税の賦課決定処分をした後、同年3月15日付で別表1の「更正処分等」欄のとおりの更正処分(以下「本件更正処分」という。)及び過少申告加算税の賦課決定処分(以下「本件賦課決定処分」という。)をした。
ニ 請求人は、本件更正処分及び本件賦課決定処分を不服として、平成24年5月15日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、同年7月5日付で棄却の異議決定をした。
 なお、異議決定書謄本が請求人に送達された日は、平成24年7月6日である。
ホ 請求人は、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成24年8月6日に審査請求をした。

(3) 関係法令等の要旨

イ 所得税法関係
(イ) 所得税法第34条《一時所得》第1項は、一時所得とは、利子所得、配当所得、不動産所得、事業所得、給与所得、退職所得、山林所得及び譲渡所得以外の所得のうち、営利を目的とする継続的行為から生じた所得以外の一時の所得で労務その他の役務又は資産の譲渡の対価としての性質を有しないものをいう旨規定している。
(ロ) 所得税法第36条《収入金額》第1項は、その年分の各種所得の金額の計算上収入金額とすべき金額又は総収入金額に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、その年において収入すべき金額(金銭以外の物又は権利その他経済的な利益をもって収入する場合には、その金銭以外の物又は権利その他経済的な利益の価額)とする旨規定し、また、同条第2項は、同条第1項の金銭以外の物又は権利その他経済的な利益の価額は、当該物若しくは権利を取得し、又は当該利益を享受する時における価額とする旨規定している。
ロ 民法関係
(イ) 民法第145条《時効の援用》は、時効は、当事者が援用しなければ、裁判所がこれによって裁判をすることができない旨規定している。
(ロ) 民法第162条《所有権の取得時効》第1項は、20年間、所有の意思をもって、平穏に、かつ、公然と他人の物を占有した者は、その所有権を取得する旨規定している。
(ハ) 民法第176条《物権の設定及び移転》は、物権の設定及び移転は、当事者の意思表示のみによって、その効力を生ずる旨規定している。
(ニ) 民法第180条《占有権の取得》は、占有権は、自己のためにする意思をもって物を所持することによって取得する旨規定している。
(ホ) 民法第182条《現実の引渡し及び簡易の引渡し》第1項は、占有権の譲渡は、占有物の引渡しによってする旨規定している。
(ヘ) 民法第183条《占有改定》は、代理人が自己の占有物を以後本人のために占有する意思を表示したときは、本人は、これによって占有権を取得する旨規定している。
(ト) 民法第184条《指図による占有移転》は、代理人によって占有をする場合において、本人がその代理人に対して以後第三者のためにその物を占有することを命じ、その第三者がこれを承諾したときは、その第三者は、占有権を取得する旨規定している。
(チ) 民法第186条《占有の態様等に関する推定》第1項は、占有者は、所有の意思をもって、善意で、平穏に、かつ、公然と占有をするものと推定する旨規定し、また、同条第2項は、前後の両時点において占有をした証拠があるときは、占有は、その間継続したものと推定する旨規定している。
ハ 国有財産評価基準関係
(イ) 国有財産評価基準(平成13年3月30日財理第1317号)第3章《評価の特例》第1《取扱方針》は、評価財産が、貸付中の一定規模土地等、単独利用困難な土地及び堂宇敷地(地蔵尊等の敷地)等であって、財務局長が、当該財産の特性を考慮して処分の促進を図る必要があると認める場合には、国の職員が下記第2から第4の規定に基づき簡易な評価方法により評定価格を求めることを妨げない旨定めている。
(ロ) 国有財産評価基準第3章《評価の特例》第3《単独利用困難な土地の評定価格の求め方》1《定義》は、単独利用困難な土地とは、地形狭長等のため、評価土地のみでは当該地目に対応する機能を十分に発揮できないものをいう旨定め、同2《評定価格の求め方》(1)《宅地》ロ《一体利用地内に取引事例価格がない場合》及び同(2)《宅地造成地》ロ《一体利用地内に取引事例価格がない場合》は、次の算式により数量単位当たりの評定価格を求め、これに評価土地の面積を乗じて求める旨定めている。なお、宅地造成地には、分譲等を目的として宅地造成中の住宅地、学校用地及び工業団地等並びに宅地造成することが決定若しくは予定されている住宅地等を含む旨定めている。
(算式)
数量単位当たりの評定価格=(A−造成・有益費等相当額)×〔1−B〕×需給関係による修正率
A 評価土地が、(1)《宅地》ロ《一体利用地内に取引事例価格がない場合》に該当する場合は、上記算式のAが「相続税評価額を基とした価格」及びBが「借地権等割合」とし、(2)《宅地造成地》ロ《一体利用地内に取引事例価格がない場合》に該当する場合は、上記算式のAが「相続税評価額を基とした価格又は民間精通者等の意見価格」及びBが「耕作権割合」とする。また、同(1)《宅地》ロ《一体利用地内に取引事例価格がない場合》に該当する場合、評価土地が崖地等の場合においても、一体利用地について、財産評価基本通達で定めるがけ地補正率等の修正は行わないことに留意する。
B 相続税評価額を基とした価格は、一体利用地について、相続税評価額に時価倍率を乗じて求める。なお、一体利用地とは、評価土地を含めて一体利用することが適当と認められる画地をいい、土地所有関係にかかわらず、一画地として利用されているか否か、その使用の実態に応じて判定する。
C 相続税評価額は、財産評価基本通達の規定によって算定された価格とする。また、時価倍率は、原則として1.00倍とし、財務局長が必要と認める場合においては1.00倍を修正することができる。なお、時価倍率の算定に当たり、相続税評価額の調査時点(評価土地の価格時点の属する年の相続税評価額の場合においてはその年の1月、前年分の相続税評価額の場合においては前年の1月)と評価土地の価格時点との間に価格水準の変動があるときは、過去の相続税路線価の変動率を基として決定した率により求め、その間の時点による修正を行う。
D 造成・有益費等相当額は、民間精通者等の意見価格により求める。
E 借地権等割合(借地権割合、借家権割合及び耕作権割合をいう。)及び耕作権割合は、原則として財産評価基本通達の規定に基づく割合による。
F 需給関係による修正率は、評価土地が、私道敷地、高圧線下地又は崖地以外の土地の場合は、50%とし、崖地の場合で傾斜度が15度以上30度未満の場合は、40%とする。
(ハ) 国有財産評価基準第3章《評価の特例》第7《評価調書の作成》は、評定価格の決定に当たっては、評価内容を明らかにした評価調書を作成する旨、また、評価調書は、別紙第5号様式から第9号様式を標準とし、各財務局の実情により、これを修正して使用して差し支えない旨定めている。
ニ 財産評価基本通達関係
(イ) 財産評価基本通達40《市街地農地の評価》は、市街地農地の価額は、その農地が宅地であるとした場合の1平方メートル当たりの価額からその農地を宅地に転用する場合において通常必要と認められる1平方メートル当たりの造成費に相当する金額として、整地、土盛り又は土止めに要する費用の額がおおむね同一と認められる地域ごとに国税局長の定める金額を控除した金額に、その農地の地積を乗じて計算した金額によって評価する旨定めている。
(ロ) 財産評価基本通達49《市街地山林の評価》は、市街地山林の価額は、その山林が宅地であるとした場合の1平方メートル当たりの価額から、その山林を宅地に転用する場合において通常必要と認められる1平方メートル当たりの造成費に相当する金額として、整地、土盛り又は土止めに要する費用の額がおおむね同一と認められる地域ごとに国税局長の定める金額を控除した金額に、その山林の地積を乗じて計算した金額によって評価する旨定めている。

(4) 基礎事実

 以下の事実は、請求人と原処分庁との間に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。
イ 別表2の「順号」欄のまる1ないしまる4の各土地等について
(イ) 請求人は、平成19年11月30日、売主を請求人、買主をJ社とする不動産売買契約を締結した(以下、当該契約を「本件A契約」といい、本件A契約に係る契約書を「本件A契約書」という。)。
 本件A契約書の表題は不動産売買契約書と記載されており、同契約書には、要旨次の事項が記載されている。
A 売主は、別表2の「順号」欄のまる1ないしまる4の各土地(以下、同各土地を併せて「本件A土地」という。)を買主に売り渡し、買主はこれを買い受けた。(第1条・売買の目的)
B 売買代金は、155,000,000円とする。(第2条・売買代金)
C 平成20年6月30日までに、所有権移転登記手続書類と引換えに、売買代金より手付金を差し引き、残代金として、147,000,000円を支払い決済する。(第4条・残代金の決済)
D 所有権は、残代金の決済と同時に、売主より買主に移転するものとし、かつ売主は、現況有姿のまま、買主に引き渡す。(第5条・所有権移転及び本物件の引渡し)
E 本件A土地の北側に存する国有地(以下「甲土地」という。)の払下手続は、買主の責任と費用負担において行うことを承知して本契約を締結するものとし、売主は当該手続に協力する。(第18条・特約条項、承知条項)
(ロ) 請求人は、平成20年4月22日、J社との間で、本件A契約の内容を要旨次のとおり変更することを合意した(以下、当該合意契約を「本件合意契約」といい、本件合意契約に係る契約書を「本件合意書」という。)。
A ○−○の一部である22.58平方メートルを売買対象から除外する。(第1条)
B 本件A契約書に記載の売買代金は変更しない。(第2条)
C 売主・買主は、本件合意書に約定した以外の事項については、本件A契約に従う。(第3条)
(ハ) 請求人は、平成20年5月16日に、甲土地について、要旨次のとおり記載した「国有財産時効取得確認申請書」をK財務局長に提出した。
A 私(請求人)が占有している下記Bの財産については、民法第162条の規定に基づく取得時効が完成し、既に私の所有物となっていると思われますので、その旨を確認していただきたく、証拠資料を添えて申請します。
B 財産の表示
(A) 所在地 g市h町○−○
(B) 数量 115.XX平方メートル
C 占有開始の時期 明治27年10月16日
(ニ) K財務局L財務事務所長は、平成20年6月16日付で、要旨次の事項を記載した「国有財産にかかる時効取得の確認について」と題する文書を請求人に交付した。
A 平成20年5月16日付文書をもって申請のあった下記Bの財産については、調査の結果、民法第162条第1項の規定に照らし取得時効が完成しており、あなたに所有権があることを確認します。
B 財産の所在、地番、地目及び地積
(A) 所在 g市h町○丁目
(B) 地番 ○番○
(C) 地目 雑種地
(D) 地積 115.XX平方メートル
C 占有開始年月日 明治31年7月16日
D 時効完成年月日 大正7年7月16日
(ホ) M社は、平成20年10月2日に行った甲土地に係る登記申請手続において、登記申請書に上記(ニ)の「国有財産にかかる時効取得の確認について」と題する文書に加えて、要旨次のとおり記載され、請求人の署名押印がある同年9月20日付の「譲渡証明書」を添付している。
A 私(請求人)は、M社に、平成20年6月30日、下記Bの土地を売渡・贈与したことを証明します。
B 財産の表示
(A) 所在 g市h町○丁目
(B) 地番 ○番○
(C) 地目 雑種地
(D) 地積 115.XX平方メートル
(ヘ) M社は、甲土地について、平成20年10月6日付で表題登記をし、さらに同月14日付で同社を所有者とする所有権保存登記をした。
ロ 別表2の「順号」欄のまる5ないしまる7の各土地等について
(イ) 請求人は、平成19年11月30日、売主を請求人、買主をN社とする借地権負担付土地売買契約を締結した(以下、当該契約を「本件B契約」といい、本件B契約に係る契約書を「本件B契約書」という。また以下、本件A契約と本件B契約を併せて「本件各契約」といい、本件各契約に係る契約書を併せて「本件各契約書」という。)。
 本件B契約書には、要旨次の事項が記載されている。
A 売主は、別表2の「順号」欄のまる5ないしまる7の各土地(以下、同各土地を併せて「本件B土地」という。また、本件A土地と本件B土地を併せて、以下「本件各土地」という。)を買主に売り渡し、買主はこれを買い受けた。(第1条・売買の目的)
B 売買代金は、13,000,000円とする。(第2条・売買代金)
C 平成20年6月30日までに、所有権移転登記手続書類と引換えに、売買代金より手付金を差し引き、残代金として、12,200,000円を支払い決済する。(第4条・残代金の決済)
D 所有権は、残代金の決済と同時に、売主より買主に移転するものとし、かつ売主は、現況有姿のまま、買主に引き渡す。(第5条・所有権移転及び本物件の引渡し)
E 本件B土地の南側に存する国有地(以下「乙土地」といい、甲土地と併せて「本件各旧国有地」という。)の時効取得手続は、買主の責任と費用負担において行うことを承知して本契約を締結するものとし、売主は、当該手続に協力する。(第18条第1項・特約条項、承知事項)
F 別表2の「順号」欄のまる5の土地には、請求人を賃貸人とし、Pを賃借人とする土地賃貸借契約に基づく借地権が、同欄のまる6及びまる7の各土地には、請求人を賃貸人とし、Qを賃借人とする土地賃貸借契約に基づく借地権がそれぞれ現存する。
(ロ) 請求人は、平成20年6月9日付で、乙土地について、要旨次のとおり記載した「国有財産時効取得確認申請書」をK財務局長に提出した。
A 私(請求人)が占有している下記Bの財産については、民法第162条の規定に基づく取得時効が完成し、既に私の所有物となっていると思われますので、その旨を確認していただきたく、証拠資料を添えて申請します。
B 財産の表示
(A) 所在地 g市h町○−○
(B) 区分 土地
(C) 種目 宅地
(D) 数量 25.XX平方メートル
C 占有開始の時期 明治27年10月16日
(ハ) K財務局L財務事務所長は、平成20年7月22日付で、要旨次の事項を記載した「国有財産にかかる時効取得の確認について」と題する文書を請求人に交付した。
A 平成20年6月9日付文書をもって申請のあった下記Bの財産については、調査の結果、民法第162条第1項の規定に照らし取得時効が完成しており、あなたに所有権があることを確認します。
B 財産の所在、地番、地目及び地積
(A) 所在 g市h町○丁目
(B) 地番 ○番○
(C) 地目 宅地
(D) 地積 25.XX平方メートル
C 占有開始年月日 明治31年7月16日
D 時効完成年月日 大正7年7月16日
(ニ) N社は、平成20年8月27日に行った乙土地に係る登記申請手続において、登記申請書に上記(ハ)の「国有財産にかかる時効取得の確認について」と題する文書に加えて、要旨次のとおり請求人自身が記載した同年6月25日付の「不動産売渡承諾書」を添付している。
A 物件目録(別表3)に記載する不動産を、下記の条件にて売り渡すことを承諾します。
B 売買代金 13,000,000円
C 引渡決済条件 国有地(○−○)時効取得手続完了
(ホ) N社は、乙土地について、平成20年8月29日付で表題登記をし、さらに同年9月2日付で同社を所有者とする所有権保存登記をした。
(ヘ) 上記(イ)のFに記載されたとおり、別表2の「順号」欄のまる5の土地並びに同欄のまる6及びまる7の各土地には、それぞれ土地賃貸借契約に基づく借地権が現存する。
ハ 本件A土地の分筆等の経緯は別表4のとおりであり、甲土地の分筆の経緯は別表5のとおりであり、本件各土地及び本件各旧国有地の位置関係は別紙のとおりである。

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2 争点

(1) 争点1 請求人は、本件各旧国有地を時効により取得し、譲渡したか否か。
(2) 争点2 原処分庁が認定した一時所得の収入金額は、過大であるか。

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3 主張及び判断

(1) 争点1(請求人は、本件各旧国有地を時効により取得し、譲渡したか否か。)

イ 主張

原処分庁 請求人
(イ) 請求人は、本件各旧国有地について、K財務局長に対して、請求人名義により「国有財産時効取得確認申請書」をそれぞれ提出し、請求人自ら本件各旧国有地の取得時効が完成していることの確認を求めている。また、K財務局L財務事務所長は、当該各申請書の提出を受け、それぞれ「国有財産にかかる時効取得の確認について」により、本件各旧国有地の取得時効が完成し、請求人に所有権があることを確認した旨通知していることから、請求人は、本件各旧国有地を時効取得したものと認められる。
(ロ) 甲土地については、まる1M社へ交付した譲渡証明書に、請求人自らが署名・押印していること、及びまる2J社及びM社の関係者が、本件A契約は甲土地を含んだ売買契約である旨申述していることなどから、請求人が、本件A契約の売買対象物件とともに譲渡したものと認められる。
(ハ) 乙土地については、まる1不動産売渡承諾書に、乙土地を含めた物件を本件B契約に基づき譲渡する旨記載されており、その条件として乙土地の時効取得手続の完了が挙げられていること、及びまる2当該時効取得手続がN社の本件B土地の購入に係る稟議書において停止条件として記載されていることから、請求人が、本件B契約の売買対象物件とともに譲渡したものと認められる。
(ニ) 以上によれば、請求人は、本件各旧国有地を時効により取得し、譲渡したものと認められる。
(イ) 本件A契約書には、「甲土地の払下手続は、買主の責任と費用負担において行うことを承知して本契約を締結するものとし、売主は、当該手続に協力するものとする」旨、また、本件B契約書には、「乙土地の時効取得手続は、買主の責任と費用負担において行うことを承知して本契約を締結するものとし、売主は、当該手続に協力するものとする」旨、それぞれ定められているが、これらは本件各旧国有地について各買主が所有者となることを定めたものである。
(ロ) 本件各旧国有地については、所有権保存登記をすることにより、所有権を取得し、時効取得したことになるところ、請求人は、上記(イ)の各定めに従い、援用の手続を行い、甲土地に係る譲渡証明書や乙土地に係る不動産売渡承諾書を作成したにすぎず、請求人名義で本件各旧国有地について所有権保存登記をしていない。
(ハ) 以上によれば、請求人は、本件各旧国有地の占有を各買主に引き継ぎ、時効取得の地位を承継させているのであるから、本件各旧国有地を時効取得していない。
 また、本件各旧国有地が、本件各契約の売買対象物件とされていないことからすれば、請求人が本件各旧国有地を譲渡していないことは明らかである。
(ニ) 仮に、請求人が本件各旧国有地を時効取得したとしても、本件各旧国有地は、本件各契約の売買対象物件ではないから、本件各旧国有地に係る売却収入は零円とすべきである。

ロ 判断
(イ) 法令解釈
A 民法第162条第1項に規定する取得時効は、所有の意思をもって資産を20年間占有し、時効の援用をすることにより当該資産の所有権を取得するものであるから、実体法上、時効の援用時にその所有権を取得するものであるのみならず、その援用によって占有者が当該資産につき時効利益を享受する意思が明らかとなるものと解される。
B 時効利益は、利子所得、配当所得、不動産所得、事業所得、給与所得、退職所得、山林所得及び譲渡所得以外の所得のうち、営利を目的とする継続的行為から生じた所得以外の一時の所得で労務その他の役務又は資産の譲渡の対価としての性質を有しないものであるから、その所得区分は一時所得に該当する。
C そして、上記Aのとおり、時効の援用によって、占有者が当該資産につき時効利益を享受する意思が明らかになり、かつ、時効取得に伴う一時所得に係る収入金額を具体的に計算することが可能となるのであるから、所得税法上も、時効の援用時に時効取得に伴う一時所得に係る収入金額が発生するものと解される。
(ロ) 認定事実
 原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、以下の事実が認められる。
A 財務省所管普通財産のうち民法第162条により取得時効が援用された不動産に関する事務取扱については、「取得時効事務取扱要領」に定められており、同要領においては、添付書類として取得時効を援用された当該財産の沿革及び占有並びに利用状況を証する資料等の提出が求められており、取得時効の成否を推定することができるかについて(なお、当該土地について公用が廃されていることが取得時効の要件でもある。)、当該提出書類等の審査等を行うものとし、必要があると認める場合においては、現地を調査し又は関係者の証明若しくは証言を求めるものとしている。
 請求人は、乙土地の沿革及び占有並びに利用状況を証する資料等として、同人の署名押印のある平成20年6月9日付の「取得時効確認申請にかかる物件の占有状況及び沿革説明書」と題する書面をK財務局L財務事務所に提出しているところ、同書面には、自己所有の意思をもって現在まで借地人に代理占有させている旨記載されている。
 なお、K財務局L財務事務所の担当職員は、異議審理庁所属の職員に対し、まる1「国有財産時効取得確認申請書」の申請者が援用者と考えていることから、申請者が売買契約等で占有権を移転したような場合には、当初の申請を取り下げてもらい、占有権を移転された者から改めて申請書を提出させている旨、まる2その後、占有権が移転された者の隣接登記簿等を確認して、申請できる者かどうかを確認している旨申述した。
B J社は、平成20年3月25日、本件A土地について、売主をJ社、買主をM社とする土地売買契約(以下「本件C契約」という。)を締結するとともに、要旨次の事項を記載した合意書(以下「甲土地合意書」という。)を作成した。
(A) 甲土地の時効取得後、直接M社の名義にて、表示及び保存登記を行うこととする。
(B) 甲土地の予定対価は無償とする。ただし、表示・保存登記費用はM社の負担とする。
 また、J社の代表取締役であるRは、異議審理庁所属の職員に対し、本件A土地については、当時、資本提携はないもののグループ会社であったM社から話があり、当初からM社へ転売することになっていた旨、及び甲土地の関係は分からない旨申述しているところ、この申述を疑うべき理由は見当たらない。
C M社の代表取締役であるSは、異議審理庁所属の職員に対し、要旨次のとおり申述しているところ、この申述を疑うべき理由は見当たらない。
(A) 本件A契約の内容は承知しており、その上で、開発許可申請を行う必要から、J社が本件A土地を取得する前に、本件C契約を締結した。
(B) 本件C契約は、甲土地部分を含んだ一体のものとして成立しており、仮に甲土地が含まれない場合は、契約は白紙となる。
(C) 甲土地合意書に記載された「甲土地の時効取得後」とは、時効取得は甲土地の隣地の所有者である請求人しか行えないため、請求人が甲土地を時効取得した後ということである。
D N社が取得した本件B土地の購入に係る稟議書には、乙土地に関して、「青地が南側道路から入っており売主(請求人)にてK財務局からの時効取得申請して頂く事。(停止条件付)」と記載されている。
E 請求人は、平成20年6月30日、N社から、本件B契約に伴う残代金として、12,200,000円を受領し、同日、同社との間で、登記必要書類の交付と本件B土地の受渡しを同日午前11時10分に完了したことを確認した旨の「不動産受渡確認書」と題する文書を作成した。
F 請求人は、次男を通じて、異議審理庁所属の職員に対し、上記1の(4)のイの(ハ)の国有財産時効取得確認申請書について、本件A契約書の第18条の払下手続に対する買主の協力義務に従って署名押印した旨申述しているところ、同申述を疑うべき理由は見当たらないことから信用することができる。
(ハ) 検討
A 本件各旧国有地の時効取得について
 上記(ロ)のAの取得時効事務取扱要領によれば、所有権の取得時効を援用しようとする個人を申請者として、国有財産時効取得確認申請書の提出を求めているところ、上記(ロ)のAのK財務局L財務事務所の担当職員の申述からすると、実際には、国有財産時効取得確認申請書の申請者を時効の援用者として取り扱っているものと認められる。
(A) 甲土地について
a 上記1の(4)のイの(ハ)及び(ニ)並びに上記(ロ)のAによれば、請求人及びその被相続人らは、甲土地を遅くとも明治31年7月16日から所有の意思をもって占有を開始した事実が認められる。
b また、上記1の(4)のイの(イ)のDのとおり、本件A契約書の第5条によれば、本件A土地の所有権の移転時期が代金決済予定日である平成20年6月30日まで留保されており、かつ、同(ホ)のとおり、譲渡証明書においては、請求人から甲土地の占有が移転したのは平成20年6月30日である旨記載されていることから、同日まで請求人が甲土地を占有していたものと認められる。
 よって、請求人は、明治31年7月16日から平成20年6月30日まで平穏かつ公然に、甲土地の占有を継続していたものと推定される。
c 加えて、譲渡証明書の記載上、当該譲受人がM社であること、上記(ロ)のBのその信用性に格別の疑いのないJ社の代表取締役であるRの申述からしても、M社は本件A契約の存在を知った上で本件C契約を締結しており、元々転売目的であるJ社において、占有権を取得し、継続する必要性に乏しいと認められること、さらに、別紙のとおり、甲土地は単独での利用が困難な形状であって、本件A土地に囲まれた土地であることからすれば、請求人が、甲土地についてのみ、所有の意思をもった占有をすることをやめて、先行してJ社に占有権を移転させる合理性はない。
 そして、請求人は、甲土地について、上記1の(4)のイの(ハ)及び(ニ)のとおり、平成20年5月16日付で「国有財産時効取得確認申請書」をK財務局長に提出し、K財務局L財務事務所長から同年6月16日付で「国有財産にかかる時効取得の確認について」と題する文書の交付を受けているのであり、このような経過に照らしても、上記「国有財産時効取得確認申請書」を提出する同年5月16日より前に、J社が甲土地の占有の移転を受けたことをうかがわせる具体的な証拠はなく、請求人が占有を継続していたとする推定を覆す事情はないから、当該申請書の提出日においても、甲土地を所有の意思をもって占有していたものと認められ、請求人が同日時効を援用したものと認められる。
d なお、上記1の(4)のイの(イ)のEによると、甲土地については、本件A土地の買主であるJ社の責任と費用負担によって払下手続を行うことが契約上定められているが、同社が甲土地の払下手続を行ったとする事実はない上、同記載によって、請求人が甲土地を以後同社のために占有する意思を表示したとまでは認められないし、同社が時効を援用して甲土地を取得したということもできない。
e そうすると、甲土地については、請求人が時効により取得したものと認められる。
(B) 乙土地について
a 上記1の(4)のロの(ロ)及び(ハ)並びに上記(ロ)のAによれば、請求人及びその被相続人らは、乙土地を遅くとも明治31年7月16日から所有の意思をもって占有を開始したことが認められる。
b また、上記1の(4)のロの(イ)及び(ニ)並びに上記(ロ)のD及びEによれば、不動産売渡承諾書において乙土地の時効取得手続完了が本件B土地の引渡決済条件になっていること、不動産受渡確認書の記載上、本件B土地の引渡しがされたのは、平成20年6月30日であり、同日に本件B契約の残代金の決済もされていること、別紙のとおり、乙土地は本件B土地中の別表2の「順号」欄のまる6の土地とまる7の土地とに挟まれて、同各土地を分離するように所在する細長い矩形の土地であって、乙土地についてのみ先行して所有の意思をもって占有をすることをやめて、占有権を移転する利益が格別には認められない土地であること、別表2の「順号」欄のまる6及びまる7の各土地は、一括して借地人Qに対して賃貸されていることなどからすると、同日の引渡しの時点まで、請求人が、本件B土地のみならず、乙土地についても、所有の意思をもって同借地人に代理占有させていた事実が認められる。
 よって、請求人は、明治31年7月16日から平成20年6月30日まで平穏かつ公然に、乙土地の占有を継続していたものと推定される。
c そして、請求人は、乙土地について、上記1の(4)のロの(ロ)及び(ハ)のとおり、平成20年6月9日付で「国有財産時効取得確認申請書」をK財務局長に提出し、上記(ロ)のAのとおり、上記申請書の添付書類として作成・提出した同日付の「取得時効確認申請にかかる物件の占有状況及び沿革説明書」と題する書面において、自己所有の意思をもって同日まで借地人に代理占有させている旨自認しているところ、K財務局L財務事務所長から同年7月22日付で「国有財産にかかる時効取得の確認について」と題する文書の交付を受けているのであり、上記申請書を提出した同年6月9日より前にN社が請求人から乙土地の占有の移転を受けたとか、請求人が借地人Qに対して、以後、同社のために占有するよう指示し、同人がこれを承諾したことをうかがわせる具体的な証拠はなく、請求人が占有を継続していたとする推定を覆す事情はないから、当該申請書の提出日においても、乙土地を所有の意思をもって占有していた請求人が同日時効を援用したものと認められる。
d この点、上記1の(4)のロの(イ)のEによると、乙土地については、本件B土地の買主であるN社の責任と費用負担によって時効取得手続を行うことが定められているが、同記載によって、請求人が乙土地を以後同社のために占有する意思を表示したとまでは認められない。また、上記bのとおり、同社が請求人から乙土地の占有の移転を受けたのは平成20年6月30日とみるのが相当であり、同社が時効を援用して乙土地を取得したということはできない。
e なお、上記(ロ)のAのとおり、K財務局L財務事務所の担当職員は、申請の途中で占有権が移転している場合には、従前の申請を取り下げてもらい、新たな占有権取得者に改めて申請してもらうことになっている旨申述しているところ、K財務局L財務事務所において、平成20年6月30日の乙土地の占有移転の事実を把握していたか否かが明らかではない以上、上記担当職員の申述によって、同日に乙土地の占有権の移転があった旨の上記認定が左右されるものではない。
f そうすると、乙土地についても、請求人が時効により所有権を取得したものと認められる。
(C) まとめ
 以上によれば、本件各旧国有地は請求人が時効により所有権を取得したと認められるところ、請求人による本件各旧国有地の時効取得に係る利益は、利子所得、配当所得、不動産所得、事業所得、給与所得、退職所得、山林所得及び譲渡所得のいずれにも該当しないことは明らかであり、また、営利を目的とする継続的行為から生じた所得とは認められないこと及び何らかの対価としての性質を有しているとも認められないことから、一時所得として所得税が課税されるべきである。よって、当該時効利益に係る所得は、上記(イ)のとおり、請求人の平成20年分の一時所得に該当する。
B 本件各旧国有地の譲渡の有無について
(A) 甲土地について
a 甲土地は、別紙のとおり、単独での利用が困難な形状であって、本件A土地に囲まれた土地であることからすると、本件A土地とともに所有権を移転させるのが経済的に最も合理的であるところ、本件A土地については、上記1の(4)のイの(イ)及び(ロ)のとおり、本件A契約及び本件合意契約に基づき、請求人から買主であるJ社へ譲渡(売買)され、その後、M社に譲渡されている。
b 上記1の(4)のイの(イ)のEにあるとおり、本件A契約書の第18条において、北側に存する国有地である甲土地の払下手続は、買主の責任と費用負担において行うことを承知して本契約を締結するものとし、売主は当該手続に協力するものとする旨の約定があり、当該約定からすれば、甲土地の払下げを受ける者はJ社であるとも解釈できるが、上記Aの(A)のとおり、その後において、J社が払下手続を行った事実はない。
 他方、上記(ロ)のBの(A)及びCの(C)によれば、請求人が甲土地を時効取得することが本件C契約の履行要件であると認められるところ、遅くとも本件C契約の締結時までには、請求人とJ社間においても、本件A契約書の第18条で定める払下手続は、請求人による時効取得手続へ変更となったものと認めるのが相当であり、このことは、上記Aの(A)のとおり、本件C契約の締結後に、請求人が甲土地を時効取得していることからも明らかである。
c また、本件A契約書の第18条の趣旨は、甲土地をJ社の費用負担において同社に帰属させることにあると解されるところ、同社による払下手続又は請求人による時効の援用後の同社に対する譲渡のいずれの方法によっても、甲土地は同社に帰属することになり、かつ、いずれにしても、請求人が何らかの費用を負担したことをうかがわせる証拠もない。
 さらに、同条は、請求人の払下手続による協力義務を定めているものの、上記(ロ)のFのとおり、請求人自らが時効手続書類の作成を協力義務の範囲内であるとしていることに照らしても、同条の趣旨を上記のように解するのが自然である。
 そして、上記1の(4)のイの(ヘ)のとおり、M社は、甲土地について、平成20年10月6日付で表題登記を行い、同月14日付で所有権保存登記を行っているところ、当該登記の存在は、上記bのとおり、いずれにしても甲土地の所有権がJ社に帰属することになるという本件A契約の当該約定の趣旨と、本件C契約においてJ社とM社との間で、甲土地の所有権がM社に移転する旨定められていることと整合する。
d 以上からすれば、本件A契約書の第18条の趣旨に沿って、請求人が甲土地を取得し、かつ、請求人からJ社へ譲渡されたものであると認められる。また、本件C契約に基づき、同社からM社へ譲渡されたことも認められる。
e なお、上記1の(4)のイの(ホ)のとおり、譲渡証明書には、請求人がM社に甲土地を売渡・贈与したことを証明する旨の記載があるが、当該譲渡証明書は、甲土地に係る登記申請書に添付されていたことからすれば、登記申請時の法律関係に一致すること及び請求人が直接同社に譲渡したとする方が費用や手間がかからない等の理由から、本件A契約及び本件C契約とは異なる所有権の移転経過を示す文書として作成されたものと解するのが自然である。また、上記(ロ)のBの甲土地合意書において、甲土地の予定対価は無償とする旨記載されているが、上述したように、甲土地は、請求人からJ社へ譲渡されていること、及び通常土地取引が無償で行われるものではないことを踏まえれば、当該記載は、本件C契約に甲土地が含まれるものの、改めて価額の設定は行わないということを約したものと解するのが相当である。
f ここで、本件A契約における甲土地の譲渡が有償か否かについて併せて検討すると、上記1の(4)のイの(イ)のとおり、本件A契約書の表題自体が不動産売買契約書となっていること、本件A契約書の第2条には、本件A土地の売買代金が155,000,000円と定められているものの、甲土地について無償とする旨の明らかな定めはないことを指摘することができる上、本件A契約書の第18条の甲土地の払下手続の費用は買主であるJ社において負担するとされている趣旨は、時効取得の手続が取られるにせよ、払下手続がされるにせよ、甲土地の所有権を同社に取得させるための手続費用は同社において負担させるものと解されるにとどまり、当該負担があるからといって甲土地本体の価額を零円とすることに合意しているものとまでは解されないことからすると、結局のところ、本件A土地と甲土地の所有権を取得させることの対価として本件A契約に定める売買代金額の合意がされたとみるのが相当である。
 よって、本件A土地のみならず、甲土地の譲渡も有償で行われたものと認められる。
(B) 乙土地について
a 乙土地は、上記Aの(B)のbのとおり、本件B土地中の別表2の「順号」欄のまる6の土地とまる7の土地とに挟まれて、同各土地を分離するように所在する細長い矩形の土地であり、これらの土地と一体利用するのが相当な土地であって、本件B土地とともに所有権を移転させるのが経済的に最も合理的であるところ、本件B土地については、上記1の(4)のロの(イ)のとおり、本件B契約に基づき、請求人から買主であるN社へ譲渡(売買)されている。
b ところで、上記1の(4)のロの(イ)のEのとおり、本件B契約書の第18条には、南側に存する国有地の時効取得手続は、買主の責任と費用負担において行うことを承知して本契約を締結するものとし、売主は当該手続に協力するものとする旨定められているが、N社が時効取得した事実はなく、上記Aの(B)のとおり、請求人が、乙土地を時効取得している。
c 次に、上記1の(4)のロの(ニ)のとおり、N社は、乙土地の登記申請の際、登記申請書に請求人自らが作成した不動産売渡承諾書を添付しているところ、当該承諾書には、物件目録に記載する不動産を売り渡す旨の記載があり、物件目録には本件B土地のほか乙土地を特定する内容が記載されている(別表3の「土地4」欄を参照)。
d 以上のように、実際に時効の援用手続を行ったのが、N社ではなく、請求人であること、そして、当該承諾書が請求人が乙土地の時効の援用を行った後に作成されたものであることからすると、本件B契約書の第18条の定め(上記1の(4)のロの(イ)のE)にかかわらず、当該承諾書に記載された内容の合意に基づき、乙土地は、時効取得した請求人から同社に譲渡されたものと認められる。
e そして、上記1の(4)のロの(イ)のBのとおり、本件B契約書の第2条には、売買代金(13,000,000円)が定められていること、当該金額が乙土地を含んだ上記1の(4)のロの(ニ)の不動産売渡承諾書に記載の売買代金と同額であることからすれば、乙土地は本件B土地とともに本件B契約及びその後の不動産売渡承諾書に記載された内容の合意に基づいて譲渡(売買)されたとみるのが相当である。なお、本件B契約書の第18条の趣旨についても、乙土地の時効取得手続の費用は買主であるN社において負担するとされていると記載されているからといって、乙土地本体の価額を零円とすることに合意しているものとまでは解されないことからすると、結局のところ、売買代金の支払をもって、本件B土地と乙土地の所有権を取得させる合意がされたとみるのが相当である。
 よって、本件B土地のみならず、乙土地の譲渡も有償で行われたものと認められる。
(C) まとめ
 以上によれば、まる1甲土地は、請求人が時効取得した後、上記1の(4)のイの(ホ)の譲渡証明書に記載の平成20年6月30日にJ社へ、まる2乙土地は、請求人が時効取得した後、同ロの(ロ)のEの不動産受渡確認書に記載の同年6月30日にN社へ、それぞれ請求人から有償で譲渡されたものと認められる。
C 請求人のその他の主張について
 請求人は、本件各旧国有地については、所有権保存登記をすることにより、所有権を取得し、時効取得したことになる旨主張するが、不動産の登記は、不動産に関する物権の得喪及び変更の第三者への対抗要件にすぎず、時効取得に係る所有権の取得時期は、上記(イ)のAのとおりに解するのが相当であるから、これと異なる請求人の上記主張は採用することはできない。
 また、請求人は、仮に、本件各旧国有地を時効取得したとしても、本件各旧国有地は、本件各契約の売買対象物件ではないから、本件各旧国有地に係る売却収入は零円とすべきである旨主張するが、この点に関する当審判所の判断は上記Bの(A)のf及び(B)のeのとおりであるから、これに反する請求人の主張は採用することができない。
D 結論
 以上のとおり、請求人は、平成20年中に本件各旧国有地を時効取得し、甲土地については本件A土地とともにJ社へ、乙土地については本件B土地とともにN社へ、それぞれ有償で譲渡したものと認められる。

(2) 争点2(原処分庁が認定した一時所得の収入金額は、過大であるか。)

イ 主張

原処分庁 請求人
(イ) 所得税法第36条第2項は、同条第1項の金銭以外の物又は権利その他経済的な利益の価額は、当該物若しくは権利を取得し、又は当該利益を享受する時における価額とする旨規定している。
(ロ) この「価額」とは、客観的交換価値、すなわち、それぞれの財産の現況に応じ、不特定多数の当事者間で自由な取引が行われる場合に通常成立すると認められる価額であり、いわゆる市場価格をいうものと解されるから、本件各旧国有地の時効取得に係る一時所得の収入金額は、本件各旧国有地の時価となる。
(ハ) 本件各旧国有地は、本件各契約に基づき各買主に譲渡されていることからすれば、本件各旧国有地を含む売買物件の市場価格、すなわち本件各契約の各売買価額を基に、請求人の時効取得に係る一時所得の収入金額(本件各旧国有地の時価)を算出すべきである。
(ニ) そうすると、まる1甲土地の価額は、本件A契約の売買代金を売買対象物件の土地の地積の合計で除した金額に、甲土地の地積を乗じて算出した金額となり、まる2乙土地の価額は、本件B契約の売買代金を売買対象物件の土地の地積の合計で除した金額に、乙土地の地積を乗じて算出した金額となるから、これらの金額の合計○○○○円が、請求人の一時所得の収入金額となる。
(イ) 原処分庁は、一時所得の収入金額を本件各契約書に記載された各売買代金を基に算出しているが、請求人は本件各旧国有地を時効取得しておらず、本件各旧国有地は本件各契約の売買対象物件ではないから、本件各契約の各売買対象物件の各売買代金を基に算出する処理は誤っている。
(ロ) 仮に、本件各旧国有地を時効取得したのが請求人であったとしても、本件各旧国有地について、地目、形状、セットバック規制、青地としての単独の利用価値等を勘案すれば、時効取得時における本件各旧国有地の価額は原処分庁が認定した金額を大きく下回る。
(ハ) よって、上記(ロ)の諸事情及び請求人が過去に払下げにより取得した土地の価額を基に算出すると、本件各旧国有地の価額の合計は○○○○円となるから、原処分庁が認定した一時所得の収入金額は過大である。

ロ 判断
(イ) 法令解釈
 土地の時効取得により享受した利益は、上記(1)のロの(イ)のBのとおり、所得税法上、一時所得の対象とされ、その収入金額は、当該土地の所有権の取得時期である時効の援用時の当該土地の価額(時価)と解されるところ、当該土地が国有地であっても、同様に解される。
 もっとも、取得時効によらずに国有地を取得する場合には、会計法等の規制が存在し、単独利用可能な未利用財産については原則として一般競争入札によって行われるものの、公共用財産たる里道・水路等のうち、その機能を喪失したもの(旧法定外公共物)で単独利用できない財産については、原則として、隣接土地所有者に対してのみ随意契約により売却され、その売却価額についても、国有財産として、国有財産評価基準に従って評価されているところである。
 そして、国有財産評価基準は、財政法(昭和22年法律第34号)第9条、予算決算及び会計令(昭和22年勅令第165号)第80条第2項の趣旨を踏まえ、国有財産の適正な対価(時価)を求めるために策定された基準であって、当審判所においても、同基準は合理的なものであると認めるから、また、公共用財産たる里道・水路等のうち、その機能を喪失したもの(旧法定外公共物)で、単独利用できない土地については、私人間での取引事例が一般にほとんど見受けられないことに照らしても、隣接土地所有者が時効取得した場合の当該利益の額たる当該土地の時価については、当該土地の適正な対価(時価)を求めるために策定された同基準に準じて算定することに合理性があると認める。
(ロ) 認定事実
 原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、以下の事実が認められる。
A 時効取得時における本件各旧国有地の現況等
(A) 甲土地は、過去に水路として利用されていたものの、上記(1)のロの(ハ)のAの(A)のとおり時効取得されているから、水路としての機能を喪失し、既に公用が廃された土地の一部である。また、別紙に示したとおり、道路に面しておらず、本件A土地の中央を約55メートルにわたり南から北東へかけて屈曲する形状により所在し、その幅員は約1.8メートルであることから、単独での利用は困難な土地である。
 次に、平成20年度g市土地・家屋総合名寄帳(写)によれば、平成20年1月1日時点において、本件A土地のうち別表4の「順号」欄のまる1ないしまる16の各土地は、現況地目が山林であり、別紙の現況で示すところ、甲土地は、同欄のまる1ないしまる6まる12及びまる16の各土地(ただし、まる16の土地については、当時、同欄のまる16からまる22までの各土地を併せた土地の東側約3分の1を占める形状である。)と地続きであって、その主たる部分は同各土地に挟まれた形状にあることから、請求人が時効の援用をした時における甲土地の現況は主たる部分が山林であるということができる。また、これ以外の同欄のまる16ないしまる22の各土地は、雑種地又は畑であるところ、甲土地の残余の部分は、これらの雑種地又は畑と上記山林に挟まれている。
 なお、甲土地及び本件A土地については、平成20年6月9日に宅地造成のための開発行為の許可申請がされ、同月16日にその許可がされており、上記1の(4)のイの(ニ)のとおり、同年5月16日付で請求人が時効取得しているところ、その段階で、宅地造成することが決定若しくは予定されている土地であると認められる。
(B) 乙土地は、過去に水路として利用されていたものの、上記(1)のロの(ハ)のAの(B)のとおり時効取得されているから、水路としての機能を喪失し、既に公用が廃されていた土地の一部である。また、上記(1)のロの(ハ)のAの(B)のbのとおり、本件B土地中の別表2の「順号」欄のまる6の土地とまる7の土地とに挟まれて、同各土地を分離するように所在する細長い矩形の土地であって、かつ、間口は2.0メートル、奥行が約1.8メートルであることから、単独での利用は困難な土地である。
 また、本件B土地は、上記(A)の名寄帳(写)によれば、現況地目が宅地であり、別表2の「順号」欄のまる6及びまる7の各土地には、Qを賃借人とする土地賃貸借契約に基づく借地権が存在し、同欄のまる6の土地の南側と北側にそれぞれ同賃借人所有の家屋が存在することから、請求人が時効の援用をした時における乙土地の現況は宅地であって、かつ、同欄のまる6及びまる7の各土地と併せて一画地の土地として利用されていたと認められる。
B 譲渡時における本件各旧国有地の現況等
 上記(1)のロの(ハ)のBの(A)のf及び(B)のeのとおり、請求人は、本件各旧国有地を国から時効取得し、甲土地については本件A土地とともに、乙土地については本件B土地とともに、各買主へ有償により譲渡し、譲渡時においては、それぞれについて、全体の土地としての利用価値が反映されて、本件A契約及び本件B契約に記載の各売買代金が成立したものと認められる。
(ハ) 一時所得の収入金額(本件各旧国有地の時価)
A 原処分庁主張額
 原処分庁は、本件各旧国有地が本件各契約の売買対象物件に含まれると認定した上で、本件各契約書に記載の各売買代金を各売買対象物件全体の面積で除し、これに本件各旧国有地の各地積を乗ずることにより、甲土地の価額及び乙土地の価額をそれぞれ算出し、これらの金額の合計額を本件各旧国有地の価額(時価)として、一時所得の収入金額を算定している。
 しかしながら、本件各旧国有地は、上記(ロ)のAのとおり、公共用財産たる里道・水路等(旧法定外公共物)のうち、その機能を喪失したもので、単独利用が困難な土地であるから、当該土地をその隣接地所有者が時効取得した場合の時価については、当該土地を含む一団の土地としての価額を基礎として面積あん分するだけでは十分な評価をしていることにはならないというべきであって、上記(イ)のとおり、国有財産評価基準に照らして算定するのが相当である。
 したがって、上記イの「原処分庁」欄の(ニ)に記載の原処分庁主張額(○○○○円)は、一時所得の収入金額の計算方法としては相当でないから、これを採用することはできない。
B 請求人主張額
 請求人は、本件各旧国有地の価額(時価)を算出するに当たって、まず、別表6−5のとおり、過去に本件各旧国有地の比較的近隣に所在した5件の国有地に係る払下事例を収集し、当該払下事例における払下価額の1平方メートル当たりの単価(同表の「1平方メートル当たりの単価(A)」欄の金額)に、まる1当該各事例の国有地に面する路線価(同表の「路線価(B)」欄の金額)、まる2当該各事例の払下げの契約日と時期に近接している土地の売買事例に係る1平方メートル当たりの単価(同表の「売買事例価額(C)」欄の金額)、及びまる3固定資産税評価額(同表の「固定資産税評価額(D)」欄の金額)によりそれぞれ除して合計した額を平均した結果求められる数値を、同表の各「対比率」として算出した。
 そして、本件各旧国有地の評価の基礎となる金額を、別表6−2ないし別表6−4のとおりに算出し、これらの金額に上記各対比率(別表6−5の「対比率」欄の(b)ないし(d)の各数値)を乗ずることにより、まる1本件各契約を基に算出した本件各旧国有地の評価額(別表6−1の「順号」欄のまる4の金額)、まる2路線価を基に算出した本件各旧国有地の評価額(同表の「順号」欄のまる9の金額)、及びまる3固定資産税評価額を基に算出した本件各旧国有地の評価額(同表の「順号」欄のまる12の金額)をそれぞれ算出し、これらの金額を平均した金額(同表の「順号」欄のまる13の金額)を本件各旧国有地の評価額、すなわち、本件各旧国有地の時価として、一時所得の収入金額とすべき旨主張する。
 一般に不動産の評価方法として、取引事例の価額から評価対象地の価額を比準する取引事例比較法を用いることは、その実証性に照らし合理的であると認められるものの、この取引事例比較法による価額の算定を合理的ならしめるには、まず多数の取引事例を収集して適切な事例の選択を行い、これらに係る取引価額に必要に応じて事情補正及び時点修正を行い、かつ、地域要因の比較及び個別的要因の比較を行って求められた価額を比較考量することが必要であるところ、請求人の採用した算定方法による評価は、事情補正及び時点修正を行っておらず、また地域要因の比較及び個別的要因の比較が考慮されているとは認められないことから、合理的かつ適正に算定されたものと判断することはできない。
 したがって、上記イの「請求人」欄の(ハ)に記載の請求人主張額(○○○○円)は、一時所得の収入金額としては合理性を欠くものであるから、これを採用することはできない。
C 審判所認定額
(A) 本件各旧国有地については、上記(イ)及び(ロ)のAによれば、国有財産評価基準に照らして算定すべきところ、本件各旧国有地は、国有財産評価基準の第3章の第3「単独利用困難な土地の評定価格の求め方」に定める「一体利用地内に取引事例価格がない場合」に該当し、当該評定価格は、相続税評価額を基に算出することとされ、この場合の相続税評価額は、「財産評価基本通達の規定によって算定された価格」とする旨定められている。また、国有財産評価基準によれば、相続税評価額を基とした価格の算出に当たっては、一体利用地として評価することが求められているところ、一体利用地とは、評価土地を含めて一体利用することが適当と認められる画地をいい、土地所有関係にかかわらず、一画地として利用されているか否か、その使用の実態に応じて判定する旨定められている。
(B) そこで、本件各旧国有地については、甲土地と本件A土地中の別表4の「順号」欄のまる1ないしまる14及びまる16の各土地(ただし、まる16の土地については、時効取得当時は同欄のまる16からまる22までの各土地を併せた土地の東側約3分の1を占める形状であって、その地積は294平方メートルであった。)を併せた画地(以下「本件A画地」という。)と、乙土地と本件B土地中の別表2の「順号」欄のまる6及びまる7の各土地を併せた画地(以下「本件B画地」という。)を、それぞれ一体利用地とし、国有財産評価基準に基づき、別表7−1及び別表7−2のとおりに甲土地及び乙土地の評定価格を算出すると、それぞれ別表7−1の「順号」欄のまる26に記載の各金額となる。よって、これらの金額の合計額が、請求人が本件各旧国有地を時効取得したことにより享受した利益の額ということになる。
(C) なお、国有財産評価基準においては、相続税評価額を基とした価格から造成・有益費等相当額を控除することとなっているが、乙土地では既に宅地として利用されており、今後、当該土地を利用するために、格別の造成等が必要な土地ということができないことから、これらの費用を控除しないものとした。仮に、宅地として使用されるために、これまでに造成・有益費等が生じていたとしても、それは当該土地の現況における評価をする場面で考慮すべき事項ではないからである。
 また、甲土地の造成・有益費等相当額を算出するに当たっては、国有財産評価基準上、民間精通者等の意見価格によるとされているが、当審判所においては、これに準じるものとして、財産評価基本通達40及び49において、市街地農地又は市街地山林を評価する際に控除する「宅地に転用する場合において通常必要と認められる1平方メートル当たりの造成費に相当する金額として、国税局長が定める金額」の使用を検討した。これは、整地、土盛り又は土止めに要する費用の額がおおむね同一と認められる地域ごとに国税局長が定めた金額であり、この金額は、土地造成における平均的な条件を想定の上、土木工事事業関係の専門誌である「建設物価」や「土木コスト情報(建設物価臨時増刊)」、一般社団法人日本建設機械施工協会発行の「建設機械等損料表」、国土交通省発表の「土木工事標準歩掛」の各地域別の人件費、材料費等のコストの数値等を積算することにより算定された通常要する造成費の金額であると認められ、その通常要する造成費の算定には合理性が認められるところであり、その使用は相当であると判断された。
D 結論
 以上の結果、請求人の一時所得の収入金額は、別表7−1のまる26の各評定価格の合計額(○○○○円)となり、当該金額は原処分庁主張額を下回るから、原処分庁が算定した一時所得の収入金額は過大と認められる。

(3) 請求人の各所得金額の計算

 上記(2)のロの(ハ)のDのとおり、当審判所が認定した請求人の一時所得の収入金額は、原処分庁主張額を下回る金額であることから、以下のとおり、請求人の各所得金額を計算すると、別表8ないし別表9−3のとおりとなる。
イ 一時所得の金額
(イ) 総収入金額
 請求人が、本件各旧国有地を時効取得したことにより享受した利益の額は、別表7−1の「順号」欄のまる26の各評定価格であり、これらの金額は甲土地及び乙土地のそれぞれの時効援用時の価額であるから、これらの金額の合計額(別表8の「順号」欄のまる1の合計額)が、請求人の一時所得の総収入金額となる。
(ロ) 収入を得るために支出した金額
 上記1の(4)のイの(イ)のE及びロの(イ)のEのとおり、請求人は、本件各旧国有地を時効取得するに当たって何ら費用負担をしていないから、収入を得るために支出した金額は、別表8の「順号」欄のまる2のとおり、零円となる。
(ハ) 審判所認定額
 請求人の一時所得の金額は、別表8「順号」欄のまる3の合計額から、特別控除額500,000円を差し引いた金額(○○○○円)となる。
ロ 分離短期譲渡所得の金額
 請求人は、上記(1)のロの(ハ)のDのとおり、平成20年中に、本件各旧国有地を時効取得し、譲渡しているから、本件各旧国有地の譲渡による所得は、租税特別措置法第32条《短期譲渡所得の課税の特例》に規定する分離短期譲渡所得に該当する。
 ところで、原処分庁は、当該分離短期譲渡所得の金額の計算において、収入金額と必要経費である取得費が同額(本件各旧国有地の時効取得に係る一時所得の収入金額及び分離短期譲渡所得の収入金額を上記(2)の(ハ)のAのとおりに算出)であるため、所得は発生しないとしている。
 しかしながら、分離短期譲渡所得を算出する際の取得費は、請求人が本件各旧国有地を時効取得した時の価額(すなわち、請求人の一時所得の収入金額)となるから、請求人の分離短期譲渡所得の金額は、以下のとおりとなる。
(イ) 甲土地
A 譲渡価額
 上記(1)のロの(ハ)のBの(A)のfのとおり、甲土地は、単独で譲渡されたのではなく、その周囲の土地である本件A土地とともにされたものであり、また、本件A契約書に記載の売買代金は、甲土地及び本件A土地を一団の土地とした利用価値が結果として反映されたものであるといえるから、甲土地及び本件A土地の各譲渡価額における1平方メートル当たりの単価は同額であると認められる。
 したがって、甲土地の譲渡価額は、原処分庁が採用した算出方法、すなわち、本件A契約書に記載の売買代金を本件A契約の売買対象物件全体の面積で除し、これに甲土地の地積を乗ずることにより算出する方法によるのが合理的である。よって、甲土地の譲渡価額を算出すると、別表9−1の「順号」欄のまる4の金額(○○○○円)となる。
B 取得費
 上記(2)のロの(ハ)のCのとおり、甲土地の取得費は、時効援用時の甲土地の価額(時価)、すなわち請求人が甲土地を時効取得したことにより享受した利益の額(請求人の一時所得の総収入金額に算入される金額)となる。よって、甲土地の取得費は、別表8の「順号」欄のまる1の甲土地の金額となる。
C 譲渡費用
 本件A契約に係る譲渡費用の合計額である5,025,500円については、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、その金額は当審判所の調査の結果によっても相当であると認められる。ただし、甲土地及び本件A土地は、本件A契約によりそれぞれ譲渡されたものであるから、各土地に係る譲渡費用は、当該譲渡費用の合計額をそれぞれの譲渡価額の比であん分する方法により算定するのが合理的である。そうすると、甲土地に係る譲渡費用は、別表9−2の「順号」欄のまる5の甲土地の金額(244,302円)となる。
(ロ) 乙土地
A 譲渡価額
 上記(1)のロの(ハ)のBの(B)のeのとおり、乙土地は、単独で譲渡されたのではなく、その周囲の土地である本件B土地とともにされたものであり、本件B契約書に記載の売買代金は、乙土地及び本件B土地を一団の土地とした利用価値が結果として反映されたものであるといえるから、乙土地及び本件B土地の各譲渡価額における1平方メートル当たりの単価は同額であると認められる。
 したがって、乙土地の譲渡価額は、原処分庁が採用した算出方法、すなわち、本件B契約書に記載の売買代金を本件B契約の売買対象物件全体の面積で除し、これに乙土地の地積を乗ずることにより算出する方法によるのが合理的である。よって、乙土地の譲渡価額を算出すると、別表9−1の「順号」欄のまる8の金額(○○○○円)となる。
B 取得費
 上記(2)のロの(ハ)のCのとおり、乙土地の取得費は、時効援用時の乙土地の価額(時価)、すなわち請求人が乙土地を時効取得したことにより享受した利益の額(請求人の一時所得の総収入金額に算入される金額)となる。よって、乙土地の取得費は、別表8の「順号」欄のまる1の乙土地の金額となる。
C 譲渡費用
 本件B契約に係る譲渡費用の合計額である480,000円については、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、その金額は当審判所の調査の結果によっても相当であると認められる。ただし、乙土地及び本件B土地は、本件B契約によりそれぞれ譲渡されたものであるから、各土地に係る譲渡費用は、当該譲渡費用の合計額をそれぞれの譲渡価額の比であん分する方法により算定するのが合理的である。そうすると、乙土地に係る譲渡費用は、別表9−2の「順号」欄のまる5の乙土地の金額(20,391円)となる。
(ハ) 審判所認定額
 請求人の分離短期譲渡所得の金額を、上記(イ)及び(ロ)の各金額を基に算出すると、別表9−2の「順号」欄のまる6の合計額(○○○○円)となる。
ハ 分離長期譲渡所得の金額
 請求人が、本件各土地を5年を超える期間所有していたことについては、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所においても相当であると認められることから、本件各土地の譲渡による所得は、租税特別措置法第31条《長期譲渡所得の課税の特例》に規定する分離長期譲渡所得に該当する。
(イ) 本件A土地
A 譲渡価額
 本件A土地は、本件A契約により譲渡されているから、本件A土地の譲渡価額は、本件A契約書に記載の売買代金から甲土地の譲渡価額(上記ロの(イ)のAの金額)を差し引いた金額に、請求人がJ社から受領した本件A土地に係る未経過固定資産税相当額の179,780円を加えた金額○○○○円(別表9−3の「順号」欄のまる1の本件A土地の金額)となる。
B 取得費
 本件A土地の実際の取得費は証拠上明らかでないことから、租税特別措置法第31条の4《長期譲渡所得の概算取得費控除》の規定により、収入金額(上記Aの譲渡価額○○○○円)の100分の5に相当する金額となる。よって、本件A土地の取得費は、○○○○円(小数点以下切捨て)となる。
C 譲渡費用
 上記ロの(イ)のCのとおり、甲土地及び本件A土地は、本件A契約によりそれぞれ譲渡されたものであるから、本件A土地に係る譲渡費用は、本件A契約に係る譲渡費用の合計額(5,025,500円)から甲土地に係る譲渡費用(244,302円)を差し引いた金額となる。そうすると、本件A土地に係る譲渡費用は4,781,198円(別表9−3の「順号」欄のまる3の本件A土地の金額)となる。
(ロ) 本件B土地
A 譲渡価額
 本件B土地は、本件B契約により譲渡されているから、本件B土地の譲渡価額は、本件B契約書に記載の売買代金から乙土地の譲渡価額(上記ロの(ロ)のAの金額)を差し引いた金額に、請求人がN社から受領した本件B土地に係る未経過固定資産税相当額の133,154円を加えた金額○○○○円(別表9−3の「順号」欄のまる1の本件B土地の金額)となる。
B 取得費
 本件B土地の実際の取得費は証拠上明らかでないことから、租税特別措置法第31条の4の規定により、収入金額(上記Aの譲渡価額○○○○円)の100分の5に相当する金額となる。よって、本件B土地の取得費は、○○○○円(小数点以下切捨て)となる。
C 譲渡費用
 上記ロの(ロ)のCのとおり、乙土地及び本件B土地は、本件B契約によりそれぞれ譲渡されたものであるから、本件B土地に係る譲渡費用は、本件B契約に係る譲渡費用の合計額(480,000円)から乙土地に係る譲渡費用(20,391円)を差し引いた金額となる。そうすると、本件B土地に係る譲渡費用は459,609円(別表9−3の「順号」欄のまる3の本件B土地の金額)となる。
(ハ) 審判所認定額
 請求人の分離長期譲渡所得の金額を、上記(イ)及び(ロ)の各金額を基に算出すると、別表9−3の「順号」欄のまる4の合計額(○○○○円)となる。
ニ まとめ
 以上の結果、請求人の平成20年分の総所得金額等及び納付すべき税額は、別表10の「審判所認定額」欄に記載の各金額となる。

(4) 本件更正処分について

 以上のとおり、本件各旧国有地の価額は、請求人の平成20年分の一時所得の収入金額に算入すべきであり、これを前提として請求人の同年分の総所得金額等及び納付すべき税額を計算すると、別表10の「審判所認定額」欄のとおり、「原処分庁主張額」欄の納付すべき税額を上回るから、本件更正処分は適法である。

(5) 本件賦課決定処分について

 上記(4)のとおり、本件更正処分は適法であり、また、本件更正処分により新たに納付すべき税額の計算の基礎となった事実のうちに、当該更正処分前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、国税通則法第65条《過少申告加算税》第4項に規定する正当な理由があると認められるものはないから、同条第1項の規定に基づきされた本件賦課決定処分は適法である。

(6) その他

 原処分のその他の部分については、当審判所に提出された証拠資料等によってもこれを不相当とする理由は認められない。

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