(平成25年8月30日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、菓子製造業等を営む同族会社である審査請求人(以下「請求人」という。)が、土地及び建物を譲り受けた際、当該土地等に係るその譲受けの年度の固定資産税及び都市計画税のうち当該土地等の引渡しの日以後の期間の分に相当する額の金員を、当該土地等の譲渡人に支払い、その支払った金員の額を損金の額に算入するなどして法人税の申告をしたところ、原処分庁が、当該支払った金員の額は当該土地等の取得価額に含むべきであるなどとして、法人税の更正処分等をしたことに対し、請求人が、当該金員は租税公課そのものであり、当該金員の額は当該土地等の取得価額に含むべきものではないなどとして、原処分の全部の取消しを求めた事案である。

(2) 審査請求に至る経緯

イ 請求人は、平成21年7月1日から平成22年6月30日までの事業年度(以下「本件事業年度」という。)の法人税について、別表の「確定申告」欄のとおりに記載した青色の確定申告書を法定申告期限までに原処分庁に提出した。
ロ 原処分庁は、原処分庁所属の調査担当職員の調査に基づき、平成24年4月25日付で、本件事業年度の法人税について、別表の「更正処分等」欄のとおりの更正処分(以下「本件更正処分」という。)及び過少申告加算税の賦課決定処分(以下「本件賦課決定処分」といい、本件更正処分と併せて「本件更正処分等」という。)をした。
ハ 請求人は、本件更正処分等を不服として、国税通則法(以下「通則法」という。)第75条《国税に関する処分についての不服申立て》第4項第1号の規定に基づき、異議申立てを経ないで、平成24年5月23日に審査請求をした。

(3) 関係法令等の要旨

 関係法令等の要旨は、別紙1のとおりである。

(4) 基礎事実

 次の事実については、請求人と原処分庁との間に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。
イ 請求人は、平成22年4月9日に、破産者K社破産管財人弁護士L(以下「本件売主」という。)から、a県b市d町○−○の土地ほか1筆の土地(以下「本件土地」という。)を売買代金22,500,000円で、本件土地上の建物(以下「本件建物」といい、本件土地と併せて「本件不動産」という。)を売買代金10,500,000円(消費税内税)で、それぞれ購入した。
ロ 上記イの取引に係る不動産売買契約書(以下「本件契約書」という。)第8条(収益および負担の帰属)においては、「本物件に賦課される公租公課ならびにガス、水道、電気等の料金については・・・引渡しのときを境とし、原則として日割をもって精算するものとする。ただし、固定資産税の日割は起算日を1月1日から本年12月31日までを1年として計算する。」と定められている。なお、本件不動産の引渡し日は、平成22年4月9日であった。
 また、本件不動産に係る平成22年度の固定資産税及び都市計画税(以下「固定資産税等」という。)の額は○○○○円で、うち、本件土地に係る額は○○○○円であり、本件建物に係る額は511,370円である。
ハ 請求人は、本件売主に対し、平成22年4月15日に、本件契約書第8条の定めに基づき、精算金(以下「本件精算金」という。)○○○○円(うち、本件土地に係る額は○○○○円、本件建物に係る額は374,070円)を支払った。
 なお、このように、不動産の売主が買主に対し、売買の目的物に係る固定資産税等のうち、売買の日以後の期間の分に相当する金額を請求するとした取引における当該金額を、以下「未経過固定資産税等相当額」という。
ニ 請求人は、本件事業年度の法人税について、本件精算金は租税公課であり一般管理費であるとしてその額を損金の額に算入し、また、消費税及び地方消費税(以下「消費税等」という。)の額と当該消費税等に係る取引の対価の額とを区分しないで経理する方式(いわゆる税込経理方式)を適用し、本件精算金の額のうち本件建物に係る額は消費税の課税仕入れの対価の額に含まれないということを前提として計算した平成21年7月1日から平成22年6月30日までの課税期間(以下「本件課税期間」という。)の納付すべき消費税等の額を損金経理により未払金に計上し、租税公課として損金の額に算入して、所得の金額を計算の上、上記(2)のイのとおり確定申告をした。
ホ 原処分庁は、法人税法施行令第54条の規定等に照らすと、本件精算金の額は本件不動産の取得価額に含まれるものであり、その額を本件事業年度の所得の金額の計算上損金の額には算入できないとし、また、本件精算金の額のうち本件建物に係る額については、消費税の課税仕入れの対価の額に含まれることとなり、これに伴い本件課税期間の納付すべき消費税等の額が減少するから、その減少額は、本件事業年度の所得の金額の計算上損金の額には算入できないとして、本件事業年度の法人税について、上記(2)のロのとおり、本件更正処分等をした。

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2 争点

  1. 争点1 本件精算金の額は、本件不動産の取得価額に含まれるか否か。
  2. 争点2 本件事業年度の所得の金額の計算上損金の額に算入できる納付すべき消費税等の額は、本件精算金の額のうち本件建物に係る額を消費税の課税仕入れに係る支払対価の額に含めて計算した金額か、それともこれを消費税の課税仕入れに係る支払対価の額に含めずに計算した金額か。

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3 主張

 当事者の主張は、別紙2のとおりである。

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4 判断

(1) 争点1について

イ 法令解釈等
(イ) 建物及び土地の取得価額について
A 内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上当該事業年度の損金の額に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、法人税法第22条第3項各号に掲げる額とされており、同法第29条から第60条の3までの損金の額の計算の規定などが、この「別段の定め」に該当する。そして、法人税法第31条第6項は、償却費の計算の基礎となる減価償却資産の取得価額の具体的な計算を法人税法施行令第54条に委任している。
 したがって、減価償却資産である建物の取得価額の算出に当たっては、別段の定めである法人税法第31条第6項により委任された法人税法施行令第54条を適用すべきことになる。
B そして、法人税法施行令第54条第1項第1号は、減価償却資産の取得価額について、当該資産の購入の代価(同号イ)と当該資産を事業の用に供するために直接要した費用の額(同号ロ)の合計額とする旨規定し、「当該資産の購入の代価」には、その直後の括弧書きにおいて、「取得関連費用」がある場合には、その費用の額を加算する旨規定している。したがって、「当該資産の購入の代価」とは、「当該資産の購入の代価から取得関連費用を除いたもの」(以下「狭義の購入の代価」という。)と「取得関連費用」との合計額となる。
C また、法人税法上、減価償却資産以外(以下「非減価償却資産」という。)の固定資産の取得価額については特に明文の規定はないが、非減価償却資産の固定資産と減価償却資産の固定資産はいずれも固定資産であることには変わりはなく、取得価額の算定において異なる取扱いをすべき理由はないから、非減価償却資産である土地の取得価額については減価償却資産の取得価額に係る上記A及びBの法人税法上の規定を準用するのが相当であり、法人税基本通達7−3−16の2も、このことを明確にしたものと考えられ、当該通達の取扱いは当審判所においても相当と認められる。
D この点に関し、請求人は、法人税法施行令第54条は、企業会計原則等を明文化したものにすぎず、意味のない規定であるし、法人税法は資産か費用かの判断基準を定めておらず、専ら会計基準に委ねており、法人税法施行令が上位規定である同法を超えて創設的規定を定めることはないから、同条の計算によることはできない旨主張する。
 しかしながら、法人税法第22条第4項が、同条第2項の収益の額や同条第3項に掲げる売上原価等の額について、「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従って計算されるものとする」と規定した趣旨は、現に法人がした利益計算が法人税法の企図する公平な所得計算という要請に反するものでない限り、課税所得の計算上もこれを是認するのが相当であるとの見地から、収益及び売上原価等の額を一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従って計上すべきものと定めたものと解されるが、企業会計原則等が必ずしも網羅的であるとは限らないため、課税の公平の観点から、統一的な基準を設定し、又は一定の限度を設ける必要があることや、租税政策上又は経済政策上の理由により、各種の別段の定めを規定しているものと解されるところ、減価償却資産の取得価額については、上記のとおり別段の定めに従うべきことは文理上明らかであるから、この点に関する請求人の主張は採用することができない(もっとも、法人税法施行令第54条の規定の内容と企業会計原則等の内容は、何ら異なるところはないものと認められる。)。
(ロ) 固定資産税等について
 地方税法第343条及び同法第359条の規定によれば、固定資産税は、その賦課期日である毎年1月1日現在において、登記簿又は土地補充課税台帳若しくは家屋補充課税台帳に所有者として登記又は登録されている者に対して課されるものであり、賦課期日後に所有者に異動が生じたからといって、課税関係に変動が生じるものではなく、賦課期日後に資産の所有者となった者が当該年度の固定資産税の納税義務を負うことはない。また、当該規定によれば、固定資産税は、年度ごとに課されることとされており、いつからいつまでの租税という期間の概念はないものと認められる。
 したがって、当該資産の売買当事者間において、未経過分の固定資産税相当額の授受をしたとしても、それはあくまでも合意された売買契約上の取引条件として行ったものに過ぎず、固定資産税の納税義務を負担したとみることはできない。
 なお、上記の解釈は、都市計画税についても同様である。
ロ 本件への当てはめ等
(イ) ところで、不動産の売買取引においては、売買目的不動産そのものの売買価額とは別に、当該不動産に係る固定資産税等を1年間の租税とみて、売買後の所有期間に応じた固定資産税等相当額(未経過固定資産税等相当額)を譲受人が負担する旨の契約を締結する取引慣行が認められるところ、当該取引慣行は、上記イの(ロ)のとおり、固定資産税等がその賦課期日である1月1日において所有者として登記又は登録されている者に課されるものであることから、固定資産税等の課税対象とされた固定資産が賦課期日後に譲渡された場合には、売買当事者間の合意により、その譲渡時点における未経過固定資産税等相当額を譲受人が負担することとするものである。
 そして、このような合意によって譲受人が未経過固定資産税等相当額を負担したとしても、上記イの(ロ)のとおり、譲受人は当該固定資産に係る固定資産税等の納税義務を負うものではないから、未経過固定資産税等相当額が租税公課そのものであるということはできない。
 また、不動産の売買取引において、未経過固定資産税等相当額を加味した上で売買価額を取り決めるのか、それとも売買価額とは別に未経過固定資産税等相当額を授受するのかは、あくまでも売買当事者間の合意によって定められるものであり、未経過固定資産税等相当額を別に授受することとした場合には、譲受人がその支払をしなければ売買取引が完了しないと考えられる。
 以上のことからすると、本件については、請求人が未経過固定資産税等相当額として本件精算金を支払ったことは、租税公課としての負担ではなく、あくまでも未経過固定資産税等相当額を合意された売買の取引条件として負担したものであることから、請求人にとって本件精算金は、譲受けに係る資産の購入の代価の一部として支払ったものであり、本件精算金の額は、固定資産である本件建物及び本件土地の取得価額に含まれるとするのが相当である。
 なお、売買当事者間で合意に基づき授受された未経過固定資産税等相当額は、あくまでも合意された売買の取引条件の一つであり、当該条件を満たさないことには売買取引そのものが完了しないと考えられるから、当該未経過固定資産税等相当額は「取得関連費用」ではなく、「狭義の購入の代価」に該当するというべきであり、取得関連費用に該当する旨の原処分庁の主張は相当でない。
(ロ) 請求人の主張について
A 請求人は、まる1本件精算金の本質が固定資産税等そのものであること、まる2売買当事者も固定資産税等の調整と認識していることから、本件精算金は固定資産税等そのものであり租税公課である旨主張する。
 しかしながら、上記(イ)のとおり、未経過固定資産税等相当額は固定資産税等そのものではなく、また、売買当事者が固定資産税等の調整と認識していたとしても、私人間の合意や認識によって租税公課の納税義務者が変更されることはないから、この点に関する請求人の主張には理由がない。
 なお、請求人は、上記まる1の根拠として、売主の買主に対する不当利得返還請求権に関する裁判例や固定資産税の課税方法及びその性質等を挙げるが、当該裁判例は未経過固定資産税等相当額が固定資産の取得価額に含まれるか否かを判断したものではなく、本件とは事案を異にし前提を欠くため採用できず、また、固定資産税の課税方法やその性質に関する主張も、上記(イ)の判断を左右するものではない。
B また、請求人は、本件精算金が「狭義の購入の代価」に該当しない旨主張し、その理由として、抵当権者に提出した資料の記載(本件売主の認識)や、簿記的な観点からの不合理などを挙げる。
 しかしながら、本件精算金が「狭義の購入の代価」に該当することは上記(イ)のとおりであり、固定資産の取得価額がいくらになるかは法令の規定に基づき算定することは当然のことであって、当事者の認識によって直ちに左右されるものではないし、取引日によって取得価額が変動するのは当事者間でそのような合意をしたことに基因するからであって、実際の事実関係に基づき経理することは当然のことであるから、この点に関する請求人の主張も採用できない。

(2) 争点2について

イ 法令解釈等
 消費税法上、課税仕入れに係る消費税額は、課税標準額に対する消費税額から控除され、ここにいう課税仕入れに係る消費税額は、当該課税仕入れに係る支払対価の額を基として算出される(同法第30条第1項)ところ、当該課税仕入れに係る支払対価の額とは、「対価として支払い、又は支払うべき一切の金銭又は金銭以外の物若しくは権利その他経済的な利益の額」をいうこととされている(同条第6項)。
 そして、上記の「対価として支払い、又は支払うべき一切の金銭又は金銭以外の物若しくは権利その他経済的な利益の額」の文言は、消費税法第28条第1項に規定する課税資産の譲渡等の対価の額が「対価として収受し、又は収受すべき一切の金銭又は金銭以外の物若しくは権利その他経済的な利益の額」をいうこととされていることに対応するものであるところ、消費税法基本通達10−1−1は、「収受すべき」とは、別段の定めがあるものを除き、あくまでも当事者間で授受することとした対価の額をいう旨定めているが、これは同項の規定の趣旨を念のため明らかにしたものと認められ、このことは、「対価として支払い、又は支払うべき」の解釈においても同様に解すべきである。
 また、消費税法基本通達10−1−6は、固定資産税等の課税の対象となる資産の譲渡に伴い、未経過固定資産税等相当額を授受している場合には、当該未経過固定資産税等相当額は当該資産の譲渡等の対価の額に含まれる旨定めているが、建物についての未経過固定資産税等相当額は、当該建物の譲受人が固定資産税等の負担なしに所有又は使用することができる当該建物の購入代金の一部として支払うものといえるから、当該取扱いは、当審判所においても相当と認められる。
ロ 本件への当てはめ
 したがって、本件精算金の額のうち本件建物に係る額は、消費税の課税仕入れに係る支払対価の額に含まれることから、本件事業年度の所得の金額の計算上損金の額に算入できる納付すべき消費税等の額は、本件精算金の額のうち本件建物に係る額を消費税の課税仕入れに係る支払対価の額に含めて計算した金額である。
ハ 請求人の主張について
(イ) 請求人は、本件精算金のうち本件建物に係る分は、固定資産税等そのものだから、その額は、消費税の課税仕入れに係る支払対価の額に含まれない旨主張する。
 しかしながら、本件精算金が固定資産税等そのものでないことは上記(1)のロの(イ)のとおりであるから、請求人の主張は採用できない。
(ロ) また、請求人は、本件精算金のうち本件建物に係る分のみ消費税法上の課税取引とし、本件土地に係る分は同法上の課税取引としないとすれば、それは矛盾である旨主張する。
 しかしながら、土地の譲渡は消費税法第6条第1項に規定する非課税取引であり、本件精算金の額のうち本件土地に係る金額は当該土地の譲渡の対価の額に含まれ、同条の規定により非課税となることは明らかであり、何ら矛盾するところはないから、この点に関する請求人の主張も採用できない。

(3) 本件更正処分について

 上記(1)のとおり、本件精算金の額は、本件不動産の取得価額に含まれることになり、本件事業年度の所得の金額の計算上損金の額には算入できず、また、上記(2)のとおり、本件精算金の額のうち本件建物に係る額は、消費税の課税仕入れに係る支払対価の額に含まれることとなり、これに伴い本件課税期間の納付すべき消費税等の額が減少するから、その減少額は、本件事業年度の所得の金額の計算上損金の額には算入できない。これらに基づき請求人の本件事業年度の法人税の所得金額及び納付すべき税額を計算すると、本件更正処分に係る所得金額及び納付すべき税額と同額となるから、本件更正処分は適法である。

(4) 本件賦課決定処分について

 本件更正処分は上記(3)のとおり適法であり、本件更正処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が本件更正処分前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、通則法第65条《過少申告加算税》第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、同条第1項の規定に基づいてなされた本件賦課決定処分は適法である。

(5) その他

 原処分のその他の部分については、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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