別紙6

当事者の主張

(1) 争点1(本件理由付記に不備の違法があるか否か。)について

原処分庁 請求人
イ 以下のことからすれば、本件各更正通知書には、更正の理由が、原処分庁の判断の慎重、合理性を担保してその恣意を抑制するとともに、更正の理由を相手方に知らせて不服申立ての便宜を与えるという理由付記制度の趣旨目的を充足する程度に具体的に明示され、法令の要件を満たしている。 イ 以下のことからすれば、本件各更正処分及び本件各賦課決定処分の理由付記が法的評価及び法的根拠を伴わない違法・不当な調査判断によるものであるから、処分自体が違法性を帯び、取消しを免れえない。
(イ)本件更正旅費交通費、本件住居手当、本件通勤手当、本件利息及び本件給与については、次のとおり、原処分調査の過程で収集された資料を摘示した上で、更正の理由を明示していることは明らかである。
A  本件更正旅費交通費
 出張の事実が明らかではなく、実際に支払った金額を明らかにする書類がないこと。
B  本件住居手当及び本件通勤手当
 まる1元勤務医は受領していない旨の申述をしていること、まる2本件住居手当及び本件通勤手当を請求人名義の口座から出金した事実は認められるが、当該金額を元勤務医に支払ったことを明らかにする書類等がないこと。
C  本件利息
 まる1本件利息振込口座の出金場所が請求人の出張先及び出金時期と一致していること、まる2出金額の一部が、請求人名義の普通預金に入金されていること。
D  本件給与
 まる1請求人の義母に係るタイムカードがないこと、まる2F歯科に勤務していた元従業員P18(以下「元従業員」という。)の申述によっても請求人の義母が請求人の営む事業に勤務していた事実が認められないこと、まる3請求人の義母に係る給与支払報告書が請求人の義母の住所地の市役所等に提出されていないこと。
(イ) 帳簿記載否認が、本件更正旅費交通費、本件住居手当、本件通勤手当、本件利息、本件給与及び本件各委託費に関するところで見られるが、原処分庁は、何ら信ぴょう性のある資料を摘示しなかった。
 これは、最高裁昭和60年4月23日第三小法廷判決(民集39巻3号850頁)の「したがつて、帳簿書類の記載自体を否認して更正をする場合において更正通知書に附記すべき理由としては、単に更正にかかる勘定科目とその金額を示すだけではなく、そのような更正をした根拠を帳簿記載以上に信憑力のある資料を摘示することによつて具体的に明示することを要する」に反するものである。
(ロ) 本件各委託費については、まる1本件各法人の性格、まる2本件各委託契約の締結前後における請求人の業務の状況等から、従来どおりに当然発生する人件費や請求人の妻の青色事業専従者給与に相当する部分以外の費用については、必要経費として認められない旨記載している。 (ロ) 本件各委託費を、直接費用と間接費用に区分し、間接費用だけ否認する根拠が全くなく、しかも間接費用が認められないとする理由が付記されていない。
ロ 平成19年分及び平成20年分に係る更正通知書に、どの事実が偽りその他不正の行為に該当するか否かを具体的に記載していないことをもって、当該更正通知書の理由付記が不備であるとは認められない。 ロ 平成19年分及び平成20年分に係る更正通知書には、更正期限を超えて処分したことについての法的根拠が示されていないので違法である。
ハ 加算税の賦課決定通知書に賦課決定の理由を付記すべき旨を定めた法令の規定はない。 ハ 重加算税の賦課理由の記載がなく、違法である。

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(2) 争点2(原処分に係る調査手続に違法・不当があったか否か。)について

請求人 原処分庁
イ 次のような行為は、違法・不当な調査手法といわざるを得ない。 イ 以下のことからすれば、原処分庁調査における質問検査権の実施細目において、原処分調査担当者の裁量に濫用ないし逸脱があったとは認められない。
(イ) P2調査官が任意の調査において、まる1証ひょう類を無断で35日間も返却しなかったこと、まる2平成23年6月24日のF歯科での調査の場で、急患の来院を無理やり断らせ、鍵をかけろと命令したこと、まる3請求人の義母名義のx3信用金庫の口座から預金がf市で引き出された理由について請求人に質問したが、そもそも架空の話でいたずらに恫喝したこと。 (イ)のまる1について
 P2調査官は、次のとおり、請求人の明示の承諾の下に当該帳簿書類等を預かっており、請求人に無断で預かった事実は認められない。
 P2調査官は、平成22年12月10日に、G歯科が所在するショッピングセンターの会議室において、請求人の了承を得て日計表や領収証等の帳簿書類を預かっており、同日付の帳簿書類等預り証には、所得税調査のため当該帳簿書類等を預かった旨記載されていることが認められる。そして、同日付の帳簿書類等預り証には、F歯科に係る帳簿書類等を請求人に対して同年12月14日付で返却し請求人がこれを受領した旨及び請求人の署名押印がなされていることが認められ、また、G歯科に係る帳簿書類等を請求人に対して平成23年1月14日に返却し請求人がこれを受領した旨及び請求人の署名押印がなされていることが認められる。
(イ)のまる2について
 異議審理庁の異議調査担当者に対するP2調査官の申述から、請求人の営む各歯科医院における調査は、終始、請求人の事業に配慮して行われているものと認められ、P2調査官の「こちらは構わないが、予定外の休診であればドアを閉めたほうがよいのではないか」といった発言は、来院者を断る請求人の手間を考慮し、また調査を円滑に実施するために協力を求めたものであり、裁量権の範囲を逸脱するものではない。
(イ)のまる3について
 平成23年6月22日及び同月23日の調査において、P2調査官は、請求人の義母名義の口座に係る問題点を含め、それまでの調査により把握した疑問点や問題点などを請求人へ説明しているが、その際に、P2調査官が請求人を恫喝したという事実は認められず、税理士事務所の担当者も同席の上で行われていることに鑑みれば、当該調査において公序良俗に反するような違法性があったとは認められない。
(ロ) P9調査官が、反面調査の3要件(判例法理)であるまる1事前通知、まる2調査の理由と範囲の提示、まる3反面調査の補充性を無視し、不必要な無予告調査をしたこと。 (ロ) 事前通知自体は法律上の要件とされているものではないことから、P9調査官が、本件各法人の取締役等に対し事前通知をしなかったことに、これを不相当とするような事由は認められない。
(ハ) P14調査官は、請求人、請求人の父、請求人の妻及び請求人の義母に面談したことも自らが調査した事実もなく、裏付けや客観的証拠を何一つ挙げず、憶測に頼る認定をしたこと。
ロ 次のとおり、原処分庁は、事実認定や法令適用の説明責任を怠り、原処分庁から具体的な説明や修正申告のしょうようそのものがなかった。その不作為は、税務行政の指針(国税庁ホームページに掲載されている「国税庁が達成すべき目標に対する実績の評価に関する実施計画」)を無視した手法である。
 また、本件各法人に対する調査手法についても、違法性又は不当性は明らかに存在する。
(イ) P2調査官及びP9調査官は、修正申告のしょうようすらせず、法令や事実認定に関する説明責任も果たさずに、1年6か月の長期事案にて、売上除外や二重帳簿、虚偽通謀など何らの不正、仮装隠ぺい、タマリの説明もできなかったこと。
(ロ) 原処分庁は、平成24年2月17日に、調査結果として1億2千万円以上の金額を提示したが、根拠法令や具体的事実関係、課税要件を示さず、また、修正申告をしょうようした事実もないこと。
(ハ) 本件各法人の調査手法として、原処分調査担当者らは、まる1代表取締役、元代表取締役、元従業員(正社員)に書面や電話で質問したことや、元帳等の提示を依頼したこともなかったこと、まる2無予告で年100万円未満の報酬の役員を訪問する必要性がなく、しかも納税者は同意していないこと。
ロ 調査担当者は、請求人及び税理士に対して複数回調査結果の説明を行っていると認められるところ、請求人の主張する「具体的な説明」がどの程度をいうものかは判然とはしないが、仮に、請求人が思い描くような否認内容ではなく、そのため請求人が納得できるような調査結果の説明を受けていないという認識であったとしても、請求人に直接、あるいは税理士を介して調査結果の説明が行われている事実に変わりはない。
 また、修正申告のしょうようについても、上記のとおり、調査結果の説明とともに行われていると認められるところ、仮に、修正申告のしょうようが行われなかったとしても、修正申告のしょうようがその後の更正処分や加算税の賦課決定処分の適法性に何ら影響を及ぼすものではない。

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(3) 争点3−1(本件各委託費のうち、原処分庁が必要経費として認められないと認定した部分について、本件各年分の請求人の事業所得の金額の計算上必要経費に算入されるか否か。)について

原処分庁 請求人
イ 以下のことからすれば、本件各委託契約の金額は、請求人の主観的な判断あるいは恣意的に決定されているから、当該契約書に記載されている金額が支払われていることをもって、直ちに事業所得の金額の計算上必要経費に算入することは認められない。 イ 以下のことからすれば、本件各委託費は、請求人の歯科経営に必要なサービスを委託したことの対価の支払であり、委託費の金額も適正なものであるから、所得税法第37条を解釈すると、本件各委託費の全額が直接業務関連性を有し、かつ業務遂行上で通常必要とされる費用であるから、当然必要経費となる。
(イ) 本件各法人の性格について
 次のとおり、本件各法人は、請求人に対する業務委託に係る契約金額等の意思決定を請求人若しくは請求人の妻が意のままに行うことを企図して設立された法人であり、その実質において、本件各委託契約を締結することにより、請求人及び請求人の親族等である役員に対する報酬を支払うなどの利益の付け替えを前提とした会社である。
(イ) 本件各法人の性格について
 本件各法人は、請求人とは完全に独立した事業会社であり、また、本件各法人と請求人の経理の混同は一切ない。
 また、本件各法人は、公然周知性もある。
A  請求人及び請求人の妻は、本件各法人の実権を有する唯一の者であると認められること。 A  請求人は、委託会社の取締役であったが株も持たず、支配介入した事実はなかった。
 また、請求人は、株主総会・取締役会において議題を提案したことも発言したこともなく、当然、支配的立場にもなかった。
B  本件各法人は、独自の業務活動又は活動実態において希薄である法人であること。 B  原処分庁の認定は、事実無根の空想や伝聞に基づいた稚拙な邪推に過ぎず、原処分庁は気分的に「実態が希薄」と言い放ったが、希薄という言葉は日本語の意味として実態が希薄ながら存在することを意味し、原処分庁は、自ら本件各法人の実態があったと自認しているのであるから、所得税法第37条の適用はありえないと考えられる。
 また、本件各法人は、スタッフを雇用・管理し、実務を行ったことは客観的に明白である。  
C  本件各委託契約の前後を通じて請求人の事業にかかる業務は、何ら変わらないまま継続されていること。 C  請求人が本件各法人に業務委託を行う前後において、従業員構成が激変しており、また、本件各法人に業務委託することにより、優秀なスタッフが確保でき、長期安定的なスタッフ実務ができたことは、委託前と比べ大きな変化であることは間違いなく、しかも、労務リスクが請求人から消失したので、そのおかげで請求人が本業へ専念できることはクリニック事業の上で大きな進歩であり、委託前後に大きな相違があるのはいうまでもない。
 原処分庁は、「必要経費・業務関連性があるかどうか」という議論をせずに、さらに「法人格を否認する」議論を判例法理に照らし、要件に該当するかどうかの検討もせずに、「憶測による結果同一論」をむやみにごちゃまぜにしているだけである。
(ロ) 本件各委託契約について
 本件各委託契約における契約金額について客観的又は合理的な算定根拠等が明らかではなく、これらの金額は恣意的に決定されたものと認められ、請求人が本件各委託契約に係る当事者双方の意思決定をなすことが可能である。
(ロ) 本件各委託契約について
 本件各委託契約に係る金額については、請求人が、個々の業務を積み上げ式に見積りをした上で受託会社に対し見積書を請求し、受託会社と何度も交渉議論し、外部独立業者よりも低廉な価格で妥結したものであり、請求人の主観的な判断あるいは恣意的に決定されたものではない。
(ハ) 業務委託を行う必要性について
 請求人の本件各年分当時の業務を遂行する上で、本件各法人への業務委託を行う必要はなかった。
(ハ) 業務委託を行う必要性について
 上記(イ)のCのとおり、請求人の本件各年分当時の業務を遂行する上で、本件各法人への業務委託を行う必要はあった。
ロ 本件各委託費のうち、本件各法人の従業員及び請求人の妻が請求人の業務に従事することの対価として支出した部分以外は、請求人の業務に直接関係を持ち、かつ、業務の遂行上必要であるかが客観的に明らかでない。
 したがって、本件各委託費のうち、本件各法人の従業員及び請求人の妻が請求人の業務に従事することの対価として支出した部分以外は、請求人の業務に関連し、かつ、業務の遂行上必要であるとは認められない。
(イ) 本件各法人の従業員に支出された部分について
 本件各委託費のうち、本件各法人の従業員が請求人の業務に従事することの対価として支出した部分は、請求人の業務に関連して支出されたものと認めることが相当であるが、見積書に記載された金額をもって、当該部分の金額であるとは認められない。
 そのため、本件各委託費のうち、本件各法人の従業員が請求人の業務に従事することの対価として支出した部分として相当と認められる額としては、本件各法人の従業員を雇用するために通常必要な費用、すなわち本件各法人の従業員に係る給与賃金及び当該従業員に係る法定福利費をもって算定することが相当である。
(ロ) 請求人の妻に対する役員報酬について
 請求人の妻が、従業員の給与計算や休暇等の管理など請求人の業務に従事することの対価として支出された部分は、請求人の業務に関連して支出されたものと認めることが相当である。
 そして、請求人の妻が請求人の業務に従事することの対価として支出された部分として相当と認められる額については、請求人が、請求人の妻が従業員の給与計算や休暇等の管理など請求人の業務に従事することの対価として認識していた金額(月額500,000円)をもって算定することが相当である。
(ハ) その他の経費について
 本件各法人に業務を委託することにより、本件各法人の従業員が請求人の営む事業に従事していることをもって、本件各委託費の全額が、請求人の業務の遂行上必要であるとは認められない。
ロ 請求人が、本件各法人に委託したのは、スタッフ業務・事務長業務・間接業務・ブレーン業務であり、それ自体が、業務関連性があることから、それらを受託した本件各法人への委託費用は全額が必要経費である。
 歯科医院は、歯科医師の治療業務とスタッフの人件費だけで運営できるはずがなく、採用広告費、社会保険労務士、税理士、車両費、レセプト費用、福利厚生費用、研修費、会議費、交通費、通信費、雑費、消耗品費、設備保守に関する費用、交際費などの一般管理費は当然、請求人が負担した費用である。
 原処分庁は、原処分の前提として「委託前後が同一」なのに「委託前及び委託終了後は間接費用が認められ」、一方で「委託中は雇用費用のみで間接費用を認めない」という結論を導いており、論理的整合性がない。

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(4) 争点3−2(本件旅費交通費について、本件各年分の請求人の事業所得の金額の計算上必要経費に算入されるか否か。)について

原処分庁 請求人
 以下のことからすれば、本件旅費交通費のうち、実際に支出した金額及び出張した事実が明らかではない金額については、請求人の事業所得の金額の計算上必要経費に算入することは認められない。  以下のことからすれば、本件旅費交通費は、請求人の事業所得の金額の計算上必要経費に算入される。
イ 本件旅費交通費は、出張した事実及び支出した事実が明らかではないことから、請求人の旅費規程に基づき算定した額をもって、直ちに請求人の業務の遂行と関連し、かつ、業務の遂行上必要であることが明らかであるとは認められない。
ロ 元勤務医に支払われたとする旅費の内、出張が確認できた平成19年5月6日付の出金以外については、必要経費として認められない。
 請求人は、本件旅費交通費について、帳簿記載をし、その用務先、用務内容、旅行者、領収書、支払年月日など具体的な証拠資料を提出済であり、また、請求人は、宿泊記録や搭乗記録を可能な限りとっており、架空出張は一切ないことを立証したのであるから、平成6年12月22日裁決(金裁(所)平6第2号)からすれば、極めて理由が不足している。
 また、本件各更正処分に係る更正通知書には、元勤務医の弁明のみがいたずらに取り上げられているが、それすらも具体的証拠や客観性がない。
 仮に百歩譲って同人の弁明が真実だとしても、請求人がF歯科やq県(顧問税理士)などに出張したのは事実であり、本件旅費交通費が、業務関連性があることに変わりはない。

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(5) 争点3−3(本件住居手当及び本件通勤手当について、本件各年分の請求人の事業所得の金額の計算上必要経費に算入されるか否か。)について

原処分庁 請求人
 以下のことからすれば、本件住居手当及び本件通勤手当については、元勤務医へ支払う義務がないにもかかわらず、元勤務医へ支払ったとして架空に計上されたものと認めることが相当であり、請求人の事業所得の金額の計算上必要経費に算入することは認められない。  以下のことからすれば、本件住居手当及び本件通勤手当については、全額が必要経費に算入されるべきである。
イ 元勤務医に対する支払について
 平成19年2月28日付の郵便局が現金書留を引き受けたことを証する書面(以下「本件引受証」という。)の存在は認められるものの、請求人は、毎月130,000円をx3信用金庫z支店の請求人名義の普通預金口座(口座番号○○○○、以下「本件手当出金口座」という。)から出金し、当該出金した日に、元勤務医へ本件住居手当及び本件通勤手当を支払ったとして総勘定元帳に記載しているが、当該口座からの出金の状況についてみると、請求人の住所地で引き出されているにもかかわらず、同日の総勘定元帳及び出金伝票等には、請求人がF歯科の所在地であるg市あるいはi県に出張した旨の記載及び出張した事実も認められず、また、元勤務医がf市に出張した旨の記載及び出張した事実も認められないことからすると、そもそも当該出金日に請求人は元勤務医へ手渡すことはできなかったものと認められる。
イ 元勤務医に対する支払について
 本件住居手当及び本件通勤手当は、元妻に内密で手渡しするよう元勤務医から懇請され、また、元勤務医が元妻に悟られることを防ぐために、元勤務医から記録を残さないよう依頼されたので、現金で手渡し若しくは現金書留で支給したものである。
 さらに、出金日と手渡し日(書留を出した日)が一致しない理由についても、請求人は原処分庁に対して説明済みで問題がない。
ロ 計算根拠等について
 平成20年9月1日付の覚書(以下「本件覚書」という。)には、ただし書として、元勤務医が望まない場合にはこの限りではない旨記載されていることから、元勤務医からの請求がなければ請求人が本件住居手当を支払う義務を負わない可能性も否定できず、当該書面のみによって、本件住居手当を支払う義務が確定しているとは認められない。
 また、本件通勤手当については何ら記載されていないので、請求人が当該手当を支払う義務があるとは認められない。
 なお、本件引受証の存在は認められるものの、本件引受証の存在のみをもって、本件住居手当及び本件通勤手当の全部を必要経費に算入することは認められない。
ロ 計算根拠等について
 本件覚書には、「支払方法は別途定める。ただし、元勤務医が望まない場合はこの限りではない。」との記載があり、元勤務医から平成22年頃をめどに自宅の購入を予定していると申出があったので、請求人は、実態に合わせて支給した。 
 実際、元勤務医はg市の賃貸マンションからi県u市の高層タワーマンションの高層階に引っ越したようである。本件覚書にも記載されており、その記載内容と支払った事実関係において、何ら問題とされるところはない。
 本件引受証から、請求人が平成19年2月20日付で福利厚生費勘定に計上した本件住居手当及び本件通勤手当について、元勤務医が現金書留で受領したことが認められることから、その他の本件住居手当及び本件通勤手当についても元勤務医が全て受け取ったことが十分推認できる。
ハ 元勤務医の申述について
 元勤務医が、「元勤務医が請求人に引っ越したことを話した際に、請求人から住居手当及び通勤手当を支払ったようにしておくと言われたが、実際に当該各手当を受領したことはない。また、支払ったようにしておくと言われたにもかかわらず、もらっていなかった。」旨申述した。
ハ 元勤務医の申述について
 元勤務医は、不正をはたらき請求人に損害を与えた事件で現在裁判中であり、元勤務医が請求人に怨恨の念を持つのは当然で、元勤務医の申述は請求人を陥れるためのものにすぎず、信用できない。
ニ 本件住居手当及び本件通勤手当の金銭の行方について
 仮に、元勤務医が、本件住居手当及び本件通勤手当を受け取っていないと申述したとしても、その金銭の行方が不明であるだけであり、原処分庁は、その金銭の行方を立証しておらず、恣意的な判断に基づいて経費否認したと認められる。

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(6) 争点3−4(本件利息について、本件各年分の請求人の事業所得の金額の計算上必要経費に算入されるか否か。)について

原処分庁 請求人
イ 以下のことからすれば、本件利息は、請求人の事業所得の金額の計算上必要経費に算入することは認められない。 イ 本件利息は、請求人が請求人の父から開業資金として借り入れた金員に対する支払利息であり、以下のことからすれば、適正に利息計算の上支払ったものであるから、本件利息は全額必要経費に算入できる。
(イ) 本件利息振込口座について
 本件支払利息は、x6銀行w支店の請求人の父名義の普通預金口座(口座番号○○○○、以下「本件元金振込口座」という。)とは別に、本件利息振込口座に振り込まれているが、次の理由から、この口座の支配管理は請求人が行っていると認められる。
(イ) 本件利息振込口座について
 次のことからすれば、本件利息振込口座に関して、請求人が支配管理した事実はない。
A  請求人の父の申述について
 本件元金振込口座については、n、pなど請求人の父の住所地の近隣にて出金されている一方、本件利息振込口座の入出金状況をみると、本件支払利息のほか、J社からの振込入金があり、当該振込は役員報酬相当額であると認められるが、請求人の父は、「J社からの役員報酬を受領していない。」旨申述した。
A  請求人の父の申述について
 請求人の父は、自身で利息を受け取り、口座も自身で処分したと明確に申述した。
B  本件利息振込口座からの出金について
 本件利息振込口座からはキャッシュカードにより500,000円単位の現金出金等以外に一切の出金がなく、また、当該出金をした日及び場所は請求人の父の住所地の近隣であるn、pではなく、請求人が出張した日及び場所と一致していることを踏まえ勘案すると、本件利息振込口座に係る入出金は請求人の意思によりなされているものとみることが相当である。
B  本件利息振込口座からの出金について
 請求人が出張した日で、請求人の父と会食する機会が何度かあり、その際、請求人は銀行に請求人の父と同行したこともあるが、請求人が本件支払利息を受け取った事実はない。
(ロ) 金銭消費貸借契約書について
 請求人が請求人の父との間で作成した平成19年1月1日付の金銭消費貸借契約書及び平成20年1月1日付の金銭消費貸借契約書(以下、これらを併せて「本件各金銭消費貸借契約書」という。)には、契約当事者による自署及び押印は認められず、また、本件各金銭消費貸借契約書に係る印紙の割り印が、請求人が提出した青色申告の承認申請書に係る押印及び請求人の本件各年分に係る確定申告書あるいは異議申立書に押印された印影と同一であると窺われることからすると、本件各金銭消費貸借契約書は、貸主及び借主の氏名などの記載を含めた文言の全てが印字された書面であると認められるものにとどまり、本件各金銭消費貸借契約書の内容に関して、請求人及び請求人の父との間における双方の意思に基づきこれが表象され作成された書面であるとは認められない。
 したがって、本件各金銭消費貸借契約書が作成又は存することのみをもって、直ちに、請求人から請求人の父に対する利息の支払が約されていたものとは認められない。
 商人間以外で行われた消費貸借の場合、無利息契約が原則であり、特に利息について合意をしない限り、借主は利息を支払う義務は負わないと解されているところ、まる1貸主である請求人の父は商人ではないこと、まる2請求人と親族関係にあることに鑑みると、借入債務が存在していることのみをもって、合意があったと認められるものではなく、請求人が請求人の父に対する利息の支払義務が生じているとは認められないことから、請求人の主張には理由がない。
 なお、本件支払利息は、虚偽の表記に基づき計上されたものであるため必要経費に該当しないと認定したものであるから、本件支払利息に係る元金が、事業上借り入れたものであるか否かは当該判断に影響を与えるものではない。
(ロ) 金銭消費貸借契約書について
 本件各金銭消費貸借契約書は、商人間の取引でもなく、民法上の契約(口頭契約)として十分要件を満たしている。原処分庁の契約書面の印影についての主張は言いがかりである。
ロ 調査の際における指摘について
 原処分調査において、P2調査官が、総勘定元帳の長期借入金勘定に記載された期首残高に基づき算出した支払利息と、総勘定元帳に計上されている支払利息に差額が生じている旨指摘している事実は認められるものの、当該指摘は、P2調査官が調査の過程における一応の意見を表明したものであって、税務官庁の公的見解を表示したものとは認められない。
ロ 調査の際における指摘について
 原処分調査の際に、請求人は、P2調査官から、有効な金銭消費貸借契約書の存在を基に、問題点として計算違いを指摘され、それに呼応して請求人は、利息金額の修正申告をしたものであり、契約の有効性を前提としたしょうようである。
 請求人は、原処分庁から修正申告書を提出するようしょうようを受け、平成23年12月に適正額に修正申告した。 
 原処分庁は、その際に、利息の支払を全認容しているのにもかかわらず、今回の更正で否認しているのは、禁反言であり、信義則に反する。

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(7) 争点3−5(本件給与について、平成19年分の請求人の事業所得の金額の計算上必要経費に算入されるか否か。)について

原処分庁 請求人
 以下のことを総合勘案すると、請求人の義母が、請求人の営む事業に従事していた事実は認められず、本件給与は、請求人の事業所得の金額の計算上必要経費に算入できない。  以下のことからすれば、請求人の義母が勤務していたことは事実であり、本件給与は全額必要経費に算入できる。
イ タイムカード等について
 請求人から提示されたF歯科に係る「平成19年入金日計表」に、診療を行ったドクター名として元勤務医の氏名が日々記載されていることからすると、元勤務医が請求人の営む事業に従事していた事実が認められるが、請求人の義母については、同人に係るタイムカードや出勤簿など、同人が請求人の営む事業に従事していた事実が客観的に明らかとなる資料等が何ら存在しない。
イ タイムカード等について
 請求人の義母のタイムカードはないが、月給150万円の元勤務医のタイムカードもないのだから、タイムカードの存否は勤務実績認定の上で重要性はない。
ロ 元勤務医の申述について
 元勤務医が、「F歯科の全従業員のタイムカード又はその写しをf市に送付していたが、その中に請求人の義母のタイムカードはなく、請求人の義母と思われる人物もF歯科内では見たことがない。」旨申述した。
ロ 元勤務医の申述について
 請求人の義母の勤務は、休診日や診療開始前の勤務が多く、持ち帰りの仕事が多いので、元勤務医が同人の勤務を知らないのは無理からぬ部分もあるが、そもそも、元勤務医の申述は信用できない。
ハ 元従業員の申述について
 元従業員が、「F歯科において従業員の出勤時間はタイムカードで管理されていたが、一緒に管理されていたタイムカードに、請求人の義母の氏名が記載されたものはなく、また、請求人の義母と思われる人物を知らない。」旨申述した。
ハ 元従業員の申述について
 請求人の義母の勤務は、休診日や診療開始前の勤務が多く、持ち帰りの仕事が多いので、元従業員が同人の勤務を知らないのは無理からぬ部分もあるが、そもそも、全営業時間に占める総労働時間がわずか13%しかない元従業員が、請求人の義母の勤務実態を説明できるはずはなく、当然、元従業員の申述は信用できない。
ニ 請求人の義母の給与支払報告書について
 請求人が、請求人の義母の住所地であるs市○町へ、本件給与に係る給与支払報告書を提出していない。
ニ 請求人の義母の給与支払報告書について
 請求人の義母が給与支払後、その給与の処分方法や住民税などをどのようにしているかなど請求人が関知する義務はないのだから、否認される理由はない。
ホ 支払方法等について
 請求人は毎月決まった時期に請求人の義母にロ座振込で給与支払していた。

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(8) 争点4(原処分庁が平成19年分の診療報酬に加算した本件未収金は、平成22年分において必要経費に算入されるか否か。)について

原処分庁 請求人
 以下のことからすれば、本件未収金については、平成22年分の貸倒損失として必要経費に算入することは認められない。
イ 売掛金について消滅時効が完成しても、債務者が時効を援用せずに支払うこともあり得るから、これを代金全額の回収不能が明らかになった場合と同視して、貸倒れと認めるのは相当ではない。
ロ 請求人が、本件売掛金に係る債務者の資産状況、支払能力等を理由に取引を停止した事実は認められない。
ハ 請求人が、当該債務者に対し支払の督促を行ったか否かも明らかでない。
 本件未収金については、平成22年分の必要経費に算入されるべきである。
 なお、本件未収金の相手先であるP8には平成22年12月下旬に電話で督促したものの、同氏より時効により拒否された。

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(9) 争点5(請求人の行った行為について、通則法第68条第1項に規定する隠ぺい又は仮装の行為があったか否か。また、平成19年分及び平成20年分の請求人の行った行為について、通則法第70条第5項に規定する偽りその他不正の行為があったか否か。)について

原処分庁 請求人
イ 次の行為は、課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実を仮装した行為と認められるから、通則法第68条第1項に規定する「隠ぺい又は仮装」に該当する。 イ 以下のことからすれば、偽りその他不正の行為がない平成19年分及び平成20年分の更正処分及び加算税賦課決定処分は違法であり、また、重加算税の対象とされた所得については、隠ぺい又は仮装の行為がないので重加算税の賦課事由に該当しない。
(イ) 元勤務医に対する本件旅費交通費について
 平成19年5月6日付の出金に係る出張以外については、請求人は、元勤務医が出張していないにもかかわらず、出金伝票を作成の上出金し、総勘定元帳の旅費交通費勘定に計上し、請求人の事業所得の金額の計算上必要経費に算入したこと。
(イ) 元勤務医に対する本件旅費交通費について
 本件旅費交通費については、請求人は、支払事実に基づき、経費計上したものである。
(ロ) 本件住居手当及び本件通勤手当について
 平成19年2月20日に福利厚生費勘定に「元勤務医(家賃)110,000円」及び「元勤務医(交通費)20,000円」と記載された以外の出金については、請求人は、元勤務医へ支払った事実がないにもかかわらず、出金伝票を作成の上出金し、総勘定元帳の旅費交通費勘定に計上し、請求人の事業所得の金額の計算上必要経費に算入したこと。
(ロ) 本件住居手当及び本件通勤手当について
 本件住居手当及び本件通勤手当については、請求人は、支払事実に基づき、経費計上したものである。
(ハ) 本件利息について
 請求人は、本件各金銭消費貸借契約書としての外形が存すること及び本件利息振込口座が請求人の父の名義である状況を利用して、本件支払利息は請求人の事業所得の金額の計算において必要経費とならないと認識しながら、出金伝票を作成の上出金し、総勘定元帳の支払利息勘定に計上し、請求人の事業所得の金額の計算上必要経費に算入したこと。
(ハ) 本件利息について
 本件利息については、借入れの事実が存すること、本件各金銭消費貸借契約書が作成されていること、本件支払利息を本件利息振込口座に振り込んでいる事実があることを原処分庁は確認しているところであり、本来の経費であることが明らかである。
(ニ) 本件給与について
 請求人は、従事の事実がない者に対して支出した金員を、あたかも従業員に対する給与賃金であるかのように出金伝票を作成の上出金し、総勘定元帳の給与賃金勘定に計上し、請求人の事業所得の金額の計算上必要経費に算入したこと。
(ニ) 本件給与について
 本件給与について、請求人は、勤務実態に基づき支払い、経費計上したものである。
ロ 請求人は、上記イの(イ)から(ニ)の行為により必要経費を過大に計上していたものと認められ、当該過大経費の計上により申告が過少となり本来納付すべき税額を免れているため、通則法第70条第5項に規定する「偽りその他不正の行為」にも該当する。 ロ 偽りその他不正の行為がない平成19年分及び平成20年分の更正処分及び加算税の賦課決定処分は違法である。

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