(平成25年11月27日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、歯科医師である審査請求人(以下「請求人」という。)が、事業所得の金額の計算上必要経費に算入した業務委託費等について、原処分庁が、その一部については必要経費に算入できないなどとして所得税の更正処分等を行ったのに対し、請求人が、その認定に誤りがあるなどとして、その全部の取消しを求めた事案である。

(2) 審査請求に至る経緯

イ 請求人は、平成19年分、平成20年分、平成21年分及び平成22年分(以下、これらを併せて「本件各年分」という。)の所得税について、別表1の「確定申告」欄のとおり記載した青色の確定申告書を、いずれも法定申告期限までに提出した。
ロ 請求人は、原処分庁所属等の調査担当職員(以下、順次「P2調査官」等という。)の調査を受け、調査中の平成23年12月28日に、平成19年分、平成20年分及び平成21年分の所得税について、別表1の「修正申告」欄のとおり記載した各修正申告書を提出した。 
ハ 原処分庁は、平成24年2月27日付で、上記ロの修正申告により納付すべき税額を基礎として、別表1の「賦課決定処分」欄のとおり、当該各年分の過少申告加算税の各賦課決定処分をした。 
ニ 原処分庁は、平成24年5月14日付で、原処分庁所属の調査担当職員の調査に基づき、本件各年分の所得税について、別表1の「更正処分等」欄のとおり、本件各年分の所得税の各更正処分並びに過少申告加算税及び重加算税の各賦課決定処分をした。  
ホ 請求人は、上記ニの各処分を不服として、平成24年7月9日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、同年11月8日付で、平成22年分について棄却の異議決定をし、平成19年分、平成20年分及び平成21年分について、別表1の「異議決定」欄のとおり、各処分の一部を取り消す異議決定をした(以下、当該取消決定後の上記ニの各処分を、順に「本件各更正処分」及び「本件各賦課決定処分」という。)。
ヘ 請求人は、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成24年12月3日に、審査請求をした。

(3) 関係法令の要旨

別紙5記載のとおりである。

(4) 基礎事実

以下の事実は、請求人と原処分庁の間に争いがなく、当審判所の調査においてもその事実が認められる。
イ 請求人の事業
 請求人は、平成15年7月に、g市において、F歯科クリニック(以下「F歯科」という。)を、平成17年10月に、h県f市○町において、G歯科クリニック(以下「G歯科」という。)をそれぞれ開業した。
ロ 医療法人社団H会
 請求人は、平成21年8月に、請求人を理事長として、h県f市○町に医療法人社団H会(以下「H会」という。)を設立し、G歯科及びF歯科に係る事業を順次H会に譲渡した。
ハ 青色申告の承認等
(イ) 請求人は、平成18年分から平成22年分まで、所得税の青色申告の承認を受けていたところ、上記ロのとおり、個人事業をH会に譲渡したことにより、平成23年5月6日に、「所得税の青色申告の取りやめ届出書」を提出した。
(ロ) 請求人は、平成19年3月15日に、「青色事業専従者給与に関する変更届出書」を提出した。
 当該届出書には、平成19年1月以後、請求人の妻であるP3(以下「請求人の妻」という。)に対する青色事業専従者給与を月額500,000円とする旨の記載がある。 
ニ J社
(イ) J社は、医療用機器の販売等を目的とした法人であり、平成19年3月○日に、請求人の妻を代表取締役として資本金100万円(発行済株式数100株)で設立された。
(ロ) J社は、法人税法第2条《定義》第10号に規定する同族会社であり、請求人の妻が85株を出資した法人であった。
(ハ) J社は、平成21年10月に、代表取締役を請求人の父であるP4(以下「請求人の父」という。)へ変更するとともに、本店所在地についても請求人の住所地であるf市から請求人の父の住所地であるi県○市に変更した後、平成22年6月に休眠し、平成24年4月に解散した。
(ニ) 請求人は、J社の設立時から解散に至るまで取締役であった。
ホ K社
(イ) K社(以下J社と併せて「本件各法人」という。)は、医療用機器の販売等を目的とした法人であり、平成21年11月○日に、請求人の兄であるP5(以下「請求人の兄」という。)を代表取締役として資本金20万円(発行済株式20株)で設立された。
(ロ) K社は、法人税法第2条第10号に規定する同族会社であり、請求人の妻が20株を出資する法人であった。
(ハ) K社は、平成21年12月に、代表取締役を請求人の父へ変更するとともに、本店所在地をt市からi県○市へ変更した後、平成22年6月に休眠し、平成24年4月に解散した。
(ニ) 請求人及び請求人の妻は、K社の設立時から解散に至るまで取締役であった。
ヘ 請求人と本件各法人との業務委託契約
(イ) J社
 請求人は、平成19年4月1日に、J社との間で、下記Aの業務を委託し、下記Bの業務委託料を支払う旨の契約を締結した。
A まる1クリニックの受付業務、まる2クリニックの薬剤、材料、技工などの管理事務、まる3クリニックの診療補助業務、まる4クリニックの清掃、美化、販売促進に関する業務、まる5クリニックの経理、税理、総務事務、まる6クリニックの保険請求事務、まる7コンサルティング業務及びまる1からまる6における受託に附帯する一切の業務
B 請求人がJ社に月額として支払うべき金額は協議の上決定する。
(ロ) K社
 請求人は、平成21年11月○日に、K社との間で、下記Aの業務を委託し、下記Bの業務委託料を支払う旨の契約を締結した(以下、上記(イ)のJ社との業務委託契約と併せて「本件各委託契約」という。)。           
A まる1クリニックの受付業務、まる2クリニックの薬剤、材料、技工などの管理事務、まる3クリニックの診療補助業務、まる4クリニックの清掃、美化、販売促進に関する業務、まる5クリニックの経理、税理、総務事務、まる6クリニックの保険請求事務及びまる1からまる6における受託に附帯する一切の業務
B 請求人がK社に定例月額として支払う金額は2,000,000円(消費税込み)とし、契約範囲外の作業に関して、又は契約範囲外に関して発生する料金はその都度、協議の上決定する。
ト 業務委託費
(イ) J社
 請求人は、J社に対する委託費(以下「本件委託費1」という。)として、平成19年については総勘定元帳の外注工賃勘定に41,643,000円、平成20年及び平成21年については総勘定元帳の委託費勘定にそれぞれ45,664,000円及び21,000,000円を計上し、当該各年分の事業所得の金額の計算上必要経費に算入した。
(ロ) K社
 請求人は、K社に対する委託費(以下「本件委託費2」といい、本件委託費1と併せて、「本件各委託費」という。)として、平成21年に4,000,000円、平成22年に10,000,000円をそれぞれ総勘定元帳の委託費勘定に計上し、当該各金額を当該各年分の事業所得の金額の計算上必要経費に算入した。
(ハ) 原処分庁は、本件各委託費のうち、本件各法人の従業員に係る給与賃金及び当該従業員に係る法定福利費並びに請求人の妻が経理及び給与事務に従事することの対価として認識していた月額500,000円を除いた金額は、請求人の事業所得の金額の計算上必要経費に算入されないとして、更正処分を行った。
チ 旅費交通費
(イ) 請求人は、旅費交通費として、平成19年に2,875,250円、平成20年に4,719,426円、平成21年に5,548,334円及び平成22年に156,000円をそれぞれ総勘定元帳の旅費交通費勘定に計上し、当該各金額を本件各年分の事業所得の金額の計算上必要経費に算入した。
(ロ) 原処分庁は、請求人が計上した旅費交通費のうち、実際に支出した金額及び出張した事実が明らかでないものについて、請求人の事業所得の金額の計算上必要経費に算入されないとして更正処分(以下、本件各更正処分において必要経費に算入されないとした旅費交通費を「本件更正旅費交通費」という。)を行い、その後、異議審理庁は、本件更正旅費交通費のうち一部は必要経費に算入できるとして異議決定をした。異議決定後の必要経費に算入されないとした旅費交通費の金額は、平成19年分は1,168,100円、平成20年分は2,176,300円、平成21年分は3,436,190円である。
(ハ) 異議決定後の必要経費に算入されないとした旅費交通費の金額のうち、出張の事実が認められ、実費相当額を超えて支給された部分を除く旅費交通費(以下「本件旅費交通費」という。)の金額(出張した事実を裏付ける領収証等のない金額)は、平成19年分は850,400円、平成20年分は978,880円、平成21年分は1,975,340円である。
 なお、本件旅費交通費の明細は別表2のとおりである。
リ 住居手当及び通勤手当
(イ) 請求人は、F歯科に勤務していた歯科医師P6(以下「元勤務医」という。)に対して、毎月110,000円の住居手当(以下「本件住居手当」という。)を支払ったとして、平成19年、平成20年及び平成21年にそれぞれ1,320,000円を総勘定元帳の福利厚生費勘定に計上し、当該各金額を当該各年分の事業所得の金額の計算上必要経費に算入した。
(ロ) 請求人は、元勤務医に対して、毎月20,000円の通勤手当(以下「本件通勤手当」という。)を支払ったとして、平成19年、平成20年及び平成21年にそれぞれ240,000円、平成22年に120,000円を、平成19年分は総勘定元帳の福利厚生費勘定に、平成20年分、平成21年分及び平成22年分は総勘定元帳の旅費交通費勘定にそれぞれ計上し、当該各金額を本件各年分の事業所得の金額の計算上必要経費に算入した。
(ハ) 原処分庁は、本件住居手当及び本件通勤手当について、請求人が元勤務医へ支払う義務がないにもかかわらず、元勤務医へ支払ったことにして計上されたものであるから、請求人の事業所得の金額の計算上必要経費には算入されないとして、更正処分を行った。
ヌ 支払利息
(イ) 請求人は、請求人の父に対して、同人からの借入金に係る借入金利息(以下「本件支払利息」という。)として、平成19年に1,084,026円、平成20年に1,044,000円、平成21年に972,000円及び平成22年に900,000円をそれぞれ総勘定元帳の支払利息勘定に計上し、当該各金額を本件各年分の事業所得の金額の計算上必要経費に算入した。
(ロ) 請求人は、上記(2)のロのとおり、利息計算に誤りがあったとして、本件支払利息の額を平成19年分は1,044,000円、平成20年分は972,000円及び平成21年分は900,000円とする修正申告書を提出した(以下、平成19年分ないし平成21年分の修正申告及び平成22年分の確定申告に係る借入金利息を「本件利息」という。)。
(ハ) 原処分庁は、本件利息について、請求人が支配管理する預金口座に振り込まれたと認められることから、請求人の事業所得の金額の計算上必要経費には算入されないとして、更正処分を行った。
ル 労務費
(イ) 請求人は、請求人の義母であるP7(以下「請求人の義母」という。)に対して、平成19年1月から同年4月まで毎月180,000円の給与賃金(以下「本件給与」という。)を支払ったとして、平成19年分の総勘定元帳の看護婦給与勘定に計上し、当該金額を平成19年分の事業所得の金額の計算上必要経費に算入した。
(ロ) 原処分庁は、本件給与について、請求人が、従事の事実がない請求人の義母に対して支出したものであることから、請求人の事業所得の金額の計算上必要経費に算入されないとして、更正処分を行った。
ヲ 未収金
 原処分庁は、F歯科の患者であるP8に対する未収金100,000円(以下「本件未収金」という。)が、売上げに計上されていなかったため、本件未収金を平成19年分の診療報酬に加算し、同年分の更正処分を行った。
ワ 理由付記
 本件各更正処分に係る更正通知書(以下「本件各通知書」という。)に付記された更正の理由(以下「本件理由付記」という。)は、次のとおりである。
(イ) 本件更正旅費交通費、本件住居手当、本件通勤手当、本件利息及び本件給与の本件理由付記については、更正に係る勘定科目とその金額を示した上で、事業所得の金額の計算上必要経費とは認められない理由として、要旨次のように記載されている。
A 本件更正旅費交通費
 旅費交通費のうち、本件更正旅費交通費については、出張の事実が明らかではなく、また、実際に支払った金額を明らかにする書類もないこと。
B 本件住居手当及び本件通勤手当
 本件住居手当及び本件通勤手当について、元勤務医は請求人から本件住居手当及び本件通勤手当を一切受領していない旨の申述があること、並びに本件住居手当及び本件通勤手当を元勤務医に支払ったことを明らかにする書類等がないこと。
C 本件利息
 本件利息については、x1信託銀行(現x2信託銀行、以下同じ。)j支店の請求人の父名義の普通預金口座(口座番号○○○○、以下「本件利息振込口座」という。)の出金場所が、請求人の出張先と一致し、かつ、その一部が、請求人名義の普通預金に振り込まれていることから、請求人が支配管理していると認められ、請求人の父に対して支払われたものと認められないこと。
D 本件給与
 本件給与については、請求人の義母のタイムカードがないこと、当時の従業員の申述からも請求人の義母の勤務実態が認められないこと及び本件給与に係る給与支払報告書が住所地の市役所に提出されていないこと。
(ロ) 本件各委託費について
 本件各委託費の本件理由付記については、本件各委託費として支払われた金額及び本件各委託費として必要経費に算入できないとする金額が記載された上で、「本件各委託費の中には、個人事業としてのクリニック事業を従来どおりに継続する中で、当然に発生する人件費や青色事業専従者給与に相当するものが含まれていることから、この部分については通常必要とされる費用に該当し、必要経費として認められることになるが、それ以外の費用については、クリニック事業を従来どおりに遂行する上では、本来は必要とされないものであるから、この部分については必要経費として認められない。」旨記載されている。
カ 税務調査
 P2調査官及びP9調査官は、平成22年12月9日に、G歯科において請求人に対する税務調査に着手し、P2調査官及びP17調査官は、平成23年6月22日の午後と翌23日の午前中に、F歯科において、請求人及び関与税理士事務所の事務員と面接した。

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2 争点

(1) 争点1 本件理由付記に不備の違法があるか否か。

(2) 争点2 原処分に係る調査手続に違法・不当があったか否か。

(3) 争点3−1 本件各委託費のうち、原処分庁が必要経費として認められないと認定した部分について、本件各年分の請求人の事業所得の金額の計算上必要経費に算入されるか否か。

(4) 争点3−2 本件旅費交通費について、本件各年分の請求人の事業所得の金額の計算上必要経費に算入されるか否か。

(5) 争点3−3 本件住居手当及び本件通勤手当について、本件各年分の請求人の事業所得の金額の計算上必要経費に算入されるか否か。

(6) 争点3−4 本件利息について、本件各年分の請求人の事業所得の金額の計算上必要経費に算入されるか否か。

(7) 争点3−5 本件給与について、平成19年分の請求人の事業所得の金額の計算上必要経費に算入されるか否か。

(8) 争点4 原処分庁が平成19年分の診療報酬に加算した本件未収金は、平成22年分において必要経費に算入されるか否か。

(9) 争点5 請求人の行った行為について、通則法第68条第1項に規定する隠ぺい又は仮装の行為があったか否か。

 また、平成19年分及び平成20年分の請求人の行った行為について、通則法第70条第5項に規定する偽りその他不正の行為があったか否か。

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3 主張

 別紙6記載のとおりである。

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4 判断

(1) 争点1(本件理由付記に不備の違法があるか否か。)について

イ 法令解釈
 所得税法第155条第2項は、税務署長は、青色申告書に係る更正をする場合には、更正通知書にその更正の理由を付記しなければならない旨規定しているところ、その趣旨は、所得税法が青色申告制度を採用し、青色申告に係る所得の計算については、それが法定の帳簿組織による正当な記載に基づくものである以上、その帳簿の記載を無視して更正されることがないことを納税者に保障した趣旨に鑑み、更正をする処分庁の判断の慎重、合理性を担保してその恣意を抑制するとともに、更正の理由を相手方に知らせて不服申立ての便宜を与えることにあると解される。
 したがって、更正通知書に付記すべき理由としては、帳簿書類の記載自体を否認して更正をする場合においては、そのような更正をした根拠を帳簿記載以上に信ぴょう力のある資料を摘示することによって具体的に明示することを要するが、帳簿書類の記載自体を否認することなしに更正をする場合においては、それがいかなる事実に対する法的評価であるかを明確に判別することができる程度に理由が表示されていれば足り、それ以上に当該法的評価の根拠を示すことや資料を摘示することは要しないと解するのが相当である。
 なお、帳簿書類の記載自体を直接事実ではなく間接事実をもって否認して更正をする場合においては、公知又は顕著な事実により確認可能な事実以外の事実については、推論の過程と事実的根拠を明らかにすれば理由付記の程度において違法ということはできないものと解される。
 また、理由付記の趣旨は更正をする処分庁の判断の恣意の排除等に加え、不服申立ての便宜にあるのであって、理由付記の程度が前記の趣旨に沿うものであれば、付記された理由の内容自体に不当、違法があるとしても、理由付記に違法があることにはならない。したがって、理由付記の程度については、原処分庁の解釈上の立場において、理由付記の趣旨に適合しているか否かを判断すべきであると解される。
ロ 当てはめ
 本件理由付記について、各科目ごとに検討すると次のとおりである。
(イ) 本件更正旅費交通費、本件住居手当、本件通勤手当、本件利息及び本件給与について
 本件更正旅費交通費、本件住居手当、本件通勤手当、本件利息及び本件給与については、帳簿書類の記載自体を否認した更正に当たるところ、本件各通知書には、上記1の(4)のワの(イ)のとおり、間接事実の摘示と推認結果が記載されており、推論の過程と事実的根拠が明らかであると認められる。
 したがって、上記1の(4)のワの(イ)の本件理由付記において、本件更正旅費交通費、本件住居手当、本件通勤手当、本件利息及び本件給与については、上記イのとおり、単に更正に係る勘定科目とその金額を示すだけではなく、そのような更正をした根拠を帳簿記載以上に信ぴょう力のある資料を摘示することによって具体的に明示していると認められ、所得税法第155条第2項の要求する更正理由の付記として欠けるところはないから、請求人の主張は採用できない。
(ロ) 本件各委託費について
A 本件各委託費については、法的評価による更正に当たるところ、本件各通知書には、上記1の(4)のワの(ロ)のとおり、いかなる事実に対する法的評価であるかを明確に判別できる程度に理由が表示されていると認められる。
 したがって、本件各委託費についての本件理由付記は、原処分庁の恣意抑制及び納税者の不服申立ての便宜という理由付記の趣旨目的を充足する程度に具体的に明示するものであると認められ、所得税法第155条第2項の要求する更正の理由付記として欠けるところはないから、請求人の主張は採用できない。
B 請求人は、本件各委託費を、直接費用と間接費用に区分し、間接費用だけ否認する根拠が全くなく、しかも間接費用が認められないとする理由が付記されていないことから、本件理由付記に不備の違法がある旨主張する。
 しかしながら、上記イのとおり、理由付記の違法性を判断するに当たっては、原処分庁の見解の当否を問題とすることなく、原処分庁の解釈上の立場に立って本件理由付記が理由付記の趣旨に適合しているか否かを判断すべきであり、上記1の(4)のワの(ロ)の記載内容は、上記Aのとおり、更正の対象となった事実及びそれに対する法的評価が明確に判別できる程度のものといえることから、本件理由付記は、理由付記の趣旨に照らし十分なものであり、欠けるところはないから、請求人の主張は採用できない。
(ハ) その他について
 請求人は、本件理由付記について、平成19年分及び平成20年分の各更正通知書には更正期限を超えて処分したことの法的根拠が示されていないこと、また、重加算税の賦課理由の記載がないことから、本件理由付記に不備がある旨主張する。
 しかしながら、更正通知書には、その更正の理由付記に、偽りその他不正の行為があった事実を記載すべき旨を定めた法令上の規定はなく、また、仮装又は隠ぺいの行為があった事実を記載すべき旨を定めた法令上の規定もなく、さらには、通則法第32条《賦課決定》第3項及び第4項は、賦課課税方式による国税の賦課決定をする場合、その決定をした理由を付記すべきとの規定もないことから、この点に関する請求人の主張には理由がない。

(2) 争点2(原処分に係る調査手続に違法・不当があったか否か。)について

イ 法令解釈
(イ) 平成24年12月31日以前の所得税の税務調査に関しては、所得税法第234条に質問検査権の行使について規定されているところ、所得税法第234条第1項の規定は、調査権限を有する職員において、当該調査の目的、調査すべき事項、申請、申告の体裁内容、帳簿等の記入保存状況、相手方の事業の形態等諸般の具体的事情に鑑み、客観的な必要性があると判断される場合には、職権調査の一方法として、これらに規定する者に質問し、又はその事業に関する帳簿書類その他当該調査事項に関連性を有する物件の検査を行う権限を認めた趣旨であって、この場合の質問検査の範囲、程度、時期及び場所等、実定法に特段の定めのない実施の細目については、質問検査の必要があり、かつ、これと相手方の私的利益との衡量において社会通念上相当な程度にとどまる限り、権限ある税務職員の合理的な選択に委ねられているものと解するのが相当である。
 また、質問検査による税務調査は、租税実体法によって成立した抽象的な納税義務を具体的に確定するための実行行為であって、課税処分とは本来別個のものであり、調査手続の違法は、それが刑罰法規に触れたり、公序良俗に反する等およそ税務調査を行ったといえないと評価されるほどの違法性の程度が著しい場合を除いては課税処分の取消事由にはならないと解するのが相当である。
(ロ) そして、納税者の取引先に対する調査を行うかどうかについては、権限ある税務職員が納税者の事業内容、申告内容、調査に対する協力度、その納税者の個別事情を総合勘案して行う合理的な選択に委ねられており、その調査の実施に当たり納税者の承諾を得る必要はないと解するのが相当である。
ロ 認定事実
 請求人提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
(イ) 帳簿書類等の預かり及び返却について
 P2調査官及びP9調査官が作成した帳簿書類等預り証によると、P2調査官は、平成22年12月10日に、請求人から預金通帳、F歯科に関する日計表綴等を預かり、同月14日に請求人に返却したこと、P9調査官は、同月10日に、請求人から日計表綴等を預かり、平成23年1月14日に請求人に返却したことが認められる。
(ロ) 帳簿書類等の預かりに関するP2調査官の答述について
A 帳簿書類等の預かりに関して、P2調査官は、当審判所に対し、要旨次のとおり答述した。
(A) 帳簿書類等の預かりの件については、恐らく平成22年12月10日の話だと思うが、日計表及び経費関係書類を借りた。請求人に「お借りします。」と言ったところ、「どうぞ。」と答えた。
(B) 請求人から書類を預かる際には、帳簿書類等預り証を作成し、その記載内容と現物を一つずつ請求人に確認してもらい、確認が済んだ後に書類を預かった。
 なお、返却する際にも、請求人に現物と帳簿書類等預り証の記載内容を確認してもらい、確認が済んだ後に当該預り証に署名押印してもらった。
 書類を預かる際、何日ほど預かるとは言っていないが、請求人に対して「預かったものについて急きょ必要になった場合は連絡してもらえればすぐ返却します。」と伝えた。
(C) 平成22年12月14日に、請求人から、F歯科関係の預かり書類全てを返却してほしい旨電話で要請があったので、P9調査官が返却した。その際、P9調査官は「G歯科分についてはもうしばらく預からせてください。」と依頼し、請求人は「分かりました。」と答えた。その後、請求人からは返却してほしい旨の連絡はなかったが、長期間書類を預かっていたため、私が請求人に電話で連絡し、P9調査官が平成23年1月14日にG歯科分の預かり書類全てを返却した。
 P9調査官の報告によると、請求人に書類を確認してもらい、帳簿書類等預り証に署名押印してもらって返却を受けた際の対応は通常どおりで、請求人からは何ら特別な申立て等はなかった旨復命を受けた。
B 上記Aの(A)ないし(C)のP2調査官の答述は、具体的でありかつ内容に矛盾がないことから、十分に信用できる。
(ハ) F歯科内での調査に関するP2調査官の答述について
A 平成23年6月22日のF歯科内での調査の際のやり取りについて、P2調査官は、当審判所に対し、請求人が「今日は水曜日で本来営業日であるが午後は休診としています。」と言った後に、たまたま女性が入ってきたので請求人が応対して帰ってもらったようであったから、請求人に対し、「調査中にまた人が入ってきますよ。私たちは構いませんが、鍵を閉めたほうがいいのではないですか。」とアドバイスしたところ、請求人は鍵を閉めた旨答述した。
B 上記AのP2調査官の「鍵を閉めたほうがいいのではないか。」といった発言は、調査中に人が入ってきたため請求人が応対して帰ってもらったことから、来院者を断る請求人の手間を考慮し、また調査を円滑に実施するために協力を求めたものであり、請求人の事業に配慮して行われたと認められ、上記のP2調査官の答述は、具体的でありかつ内容に矛盾がないことから、十分に信用できる。
(ニ) 請求人の義母名義の預金口座に関するP2調査官の答述について
 P2調査官は、同人が請求人に対して、請求人の義母名義のx3信用金庫の口座から預金がf市で引き出された理由を質問したことについて、当審判所に対し、請求人に預金関係の話をした覚えはない旨答述した。
(ホ) 関係者に対する調査(反面調査)について
A P10調査官は、平成23年5月10日に、請求人の父に対し、本件各法人の代表取締役に就任した経緯や法人の業務内容、役員報酬の受領状況等の事実関係の確認のための調査を行った。
B P9調査官及びP11調査官は、平成23年12月6日に、元勤務医に対し、F歯科での勤務状況、本件各法人の業務内容、本件住居手当及び本件通勤手当の受給の有無、請求人の義母の勤務等の事実関係の確認のための調査を行った。
C P9調査官及びP11調査官は、平成24年1月24日に、本件各法人の役員であるP12及びP13に対し、本件各法人の取締役になった経緯や役員報酬の受領状況等の事実関係の確認のための調査を行った。
(ヘ) 修正申告のしょうよう等について
 P14調査官、P9調査官及びP11調査官は、平成24年2月17日に、原処分庁において、請求人並びに請求人の関与税理士であるP15税理士及びP16税理士に対して、調査結果を説明し、修正申告のしょうようを行ったところ、請求人から修正申告をする意思は全くない旨の申立てがあった。
(ト) 関係者から原処分庁に提出された書面について
A 請求人の義母は、平成24年2月24日付で、原処分庁に対し、「事実誤認を改めていただきたき件」と題する書面を提出した。
B 請求人の父は、平成24年2月24日付で、原処分庁に対し、「請求人の税務調査について弁明したいこと」(以下「本件弁明書」という。)と題する書面を提出した。 
C 請求人の妻は、平成24年2月25日付で、原処分庁に対し、「J社について」と題する書面を提出した。
(チ) その後の調査状況について
A P14調査官及びP11調査官は、上記(ト)の各書面の提出を受け、記載内容の事実確認のため、複数回にわたり、P16税理士を介し、請求人の義母及び請求人の妻との面談並びに本件各法人の帳簿書類等の提出を求めたが請求人側は応じなかった。
B P14調査官は、平成24年4月13日に、P16税理士に調査結果を記載した書面を郵送した旨連絡し、同月16日に、同税理士に対して調査結果を説明するとともに、翌17日には、同税理士を介し、請求人が修正申告をする意思があるかどうかを確認したところ、同税理士は、請求人には修正申告をする意思はないと申し立てた。
ハ 当てはめ
(イ) 請求人は、P2調査官が、まる1任意の調査において、証ひょう類を無断で35日間も返却しなかったこと、まる2平成23年6月24日のF歯科での調査の場で、急患の来院を無理やり断らせ、鍵をかけろと命令したこと、まる3請求人の義母名義のx3信用金庫の口座から預金がf市で引き出された理由を請求人に質問したが、そもそも架空の話でいたずらに恫喝したこと、また、まる4P9調査官が、反面調査の3要件(判例法理)を無視し、不必要な無予告調査をしたことは、違法又は不当な調査に当たる旨主張する。
 しかしながら、上記まる1については、上記ロの(イ)のとおり、P2調査官及びP9調査官は、請求人から書類等を預かる際に、帳簿書類等預り証を作成した上で請求人から帳簿書類等を預かっており、上記ロの(ロ)のAの(C)のとおり、P9調査官は「G歯科分についてはもうしばらく預からせてください。」と依頼し、請求人は「分かりました。」と答えていることからすれば、請求人の承諾を得た上で帳簿書類等を預かったと認められ、そして、上記ロの(ロ)のとおり、P2調査官及びP9調査官が請求人から書類等を預かる際に、請求人から抗議を受けた事実は特に窺えず、仮に、請求人が主張するように、P2調査官あるいはP9調査官が、請求人の意思に反して無断で帳簿書類等を預かっていたとすれば、P2調査官あるいはP9調査官が、帳簿書類等を預かった直後に、請求人は原処分庁に対して抗議するであろうところ、抗議があったことは認められず、当審判所に対しても、請求人からそのような抗議を行った旨の答述はなく、これを裏付ける証拠の提出もない。そうすると、帳簿書類等の預かりに関する調査手続は、社会通念上相当な限度にとどまっていると認められ、合理的な選択の範囲を逸脱するような違法又は不当は認められない。
 また、質問権の行使に当たっては、上記イの(イ)のとおり、質問検査の範囲、程度、時期及び場所等、実定法に特段の定めのない実施の細目については、質問検査の必要性と相手方の私的利益との衡量において、社会通念上相当な程度にとどまる限り、権限ある税務職員の合理的な選択に委ねられているものと解するのが相当であるところ、上記まる2については、上記ロの(ハ)のとおり、P2調査官の答述は、具体的でありかつ内容に矛盾がないことからすれば、十分に信用できること、また、請求人の主張を認めるに足りる証拠もないことからすると、上記のP2調査官の質問検査は、社会通念上相当な限度にとどまっていると認められ、合理的な選択の範囲を逸脱するような違法又は不当は認められない。
 上記まる3については、上記ロの(ニ)のとおり、P2調査官は、請求人に対して、預金関係の話をした覚えはない旨答述しており、請求人の義母名義の預金口座について質問されたとする主張とは食い違っているものの、請求人の主張を裏付ける証拠はなく、また、上記1の(4)のカのとおり、平成23年6月22日及び翌23日の調査には、関与税理士の事務員も同席の上で行われていることからすると、当該調査において公序良俗に反するような違法性があったとは認められない。
 納税者の取引先に対する調査の実施については、上記イの(ロ)のとおり、権限ある税務職員が納税者の個別事情を総合勘案して行う合理的な選択に委ねられており、その調査の実施に当たり納税者の承諾を得る必要はないと解するのが相当であるところ、上記まる4については、上記ロの(ホ)のとおり、本件各法人の業務内容等の事実関係の確認のために本件各法人の取締役等に対して調査を行ったものであることからすると、当該調査を当該取締役等に対して事前に連絡しないで行ったとしても、P9調査官による質問検査権の行使は、権限ある税務職員の合理的な選択に委ねられた範囲を逸脱するような違法又は不当は認められない。
 以上のとおり、原処分に係る調査手続に違法又は不当はないから、請求人の主張には理由がない。
(ロ) 請求人は、P2調査官の調査を引き継いだP14調査官が、請求人、請求人の父、請求人の妻及び請求人の義母に面談したことも自らが調査した事実もなく、裏付けや客観的証拠を何一つ挙げず、憶測に頼る認定をしたことは、違法又は不当な調査に当たる旨主張する。
 しかしながら、原処分庁の調査については、まる1P14調査官個人として行っているのではなく、原処分庁所属の調査担当職員が行っていること、まる2上記ロの(ホ)のAのとおり、請求人の父とはP10調査官が面接していること、まる3上記ロの(チ)のAのとおり、P14調査官が、P16税理士を介し、請求人を通じて、上記ロの(ト)の各書面の記載内容の確認のため、請求人の義母及び請求人の妻との面談並びに本件各法人の帳簿書類等の提出を求めたにもかかわらず、請求人側はその求めに応じなかったこと、まる4上記ロの(ヘ)のとおり、P14調査官は、平成24年2月17日に、請求人及び請求人の関与税理士に対して、調査結果を説明し、修正申告のしょうようを行っていること、まる5上記ロの(チ)のBのとおり、P14調査官は、その後もP16税理士を介し、調査結果の説明や修正申告のしょうようを行っていることから、請求人が主張するような事実は認められず、請求人の主張には理由がない。
(ハ) 請求人は、原処分庁が事実認定や法令適用の説明責任を怠り、原処分庁から具体的な説明や修正申告のしょうようそのものがなく、その不作為は、税務行政の指針を無視した手法であり、違法又は不当な調査に当たる旨主張する。
 しかしながら、上記ロの(ヘ)のとおり、P14調査官、P9調査官及びP11調査官が、平成24年2月17日に、原処分庁において、請求人及び請求人の関与税理士に対して、調査結果を説明し、修正申告のしょうようを行っていること及び上記ロの(チ)のBのとおり、P14調査官が同年4月16日及び翌17日に、P16税理士に対して、調査結果の説明及び修正申告のしょうようを行っていることが認められる。
 したがって、請求人の主張には理由がない。

(3) 争点3−1(本件各委託費のうち、原処分庁が必要経費として認められないと認定した部分について、本件各年分の請求人の事業所得の金額の計算上必要経費に算入されるか否か。)について

イ 法令解釈
 所得税法第37条に規定する必要経費に算入すべき金額は、総収入金額に係る売上原価その他当該総収入金額を得るために直接に要した費用の額及びその年における販売費、一般管理費その他所得を生ずべき業務について生じた費用の額とされている。
 そして、ある支出が所得税法第37条第1項に規定する必要経費に該当するというためには、それが納税者の営む業務との関連性及び業務遂行上の必要性という要件を満たすことを要するというべきであり、当該要件を満たすか否かは、納税者の主観的意図により決すべきではなく、客観的にみて、通常かつ必要な経費と認識することができるか否かにより判断するのが相当である。
 したがって、ある一定の役務の提供に対して代金が支払われることを内容とする契約が締結されている場合であっても、提供される役務の価値を超えて代金が支払われ、これが所得を生ずべき業務について生じた費用でないと評価されれば、役務の価値を超えて支払われた部分は必要経費に算入されないことになる。
ロ 認定事実
 請求人提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、以下の事実が認められる。
(イ) 本件各法人の業務請負見積り
A J社
(A) J社は、請求人に対し、平成19年4月から有効とする「G歯科、F歯科、業務請負見積(税抜)」を提出した。当該見積書には、請負業務及び金額について、まる1受付業務等2,877,000円、まる2薬品管理業務、消耗品補充、院内施設清掃保守管理等80,000円、まる3各種経費支払、窓口現金の収受等325,000円、まる4事務長業務1,250,000円、まる5その他附帯する一切の業務(金額は上記に含む)合計4,532,000円とすること及び請負金額が業務に比して不相当である場合には別途加算する旨記載されている。
(B) J社は、請求人に対し、平成19年11月から有効とする「G歯科、F歯科、業務請負見積(税抜)」を提出した。当該見積書には、請負業務及び金額について、まる1受付業務等2,522,000円、まる2薬品管理業務、消耗品補充、院内施設清掃保守管理等72,000円、まる3各種経費支払、窓口現金の収受等283,000円、まる4事務長業務1,091,000円、まる5その他附帯する一切の業務(金額は上記に含む)合計3,968,000円とすること及び請負金額が業務に比して不相当である場合には別途加算する旨記載されている。
(C) J社は、請求人に対し、平成20年11月から有効とする「F歯科、業務請負見積(税込)」を提出した。当該見積書には、請負業務及び金額について、まる1受付業務等1,540,000円、まる2薬品管理業務、消耗品補充、院内施設清掃保守管理等37,000円、まる3各種経費支払、窓口現金の収受等213,000円、まる4事務長業務210,000円、まる5その他附帯する一切の業務(金額は上記に含む)合計2,000,000円とすること及び請負金額が業務に比して不相当である場合には別途加算する旨記載されている。
B K社
 K社は、請求人に対し、平成21年11月から有効とする「F歯科、業務請負見積(税込み)」を提出した。当該見積書には、請負業務及び金額について、まる1受付業務等1,540,000円、まる2薬品管理業務、消耗品補充、院内施設清掃保守管理等37,000円、まる3各種経費支払、窓口現金の収受等213,000円、まる4事務長業務210,000円、まる5その他附帯する一切の業務(金額は上記に含む)合計2,000,000円とすること及び請負金額が業務に比して不相当である場合には別途加算する旨記載されている。
(ロ) 本件各委託費の支払
 J社は、請求人に対し、本件各委託費に係る請求書を発行し、請求人は、本件委託費1を、x4銀行k支店のJ社名義の普通預金口座(口座番号○○○○)に、本件委託費2をx5銀行m支店のK社名義の普通預金口座(口座番号○○○○)へ振り込んだ。
(ハ) 本件各法人の会計処理
A J社は、まる1平成19年3月○日から平成19年10月31日までの事業年度(以下「平成19年10月期」という。)の売上高を○○○○円、販売費及び一般管理費を35,301,905円、まる2平成19年11月1日から平成20年10月31日までの事業年度(以下「平成20年10月期」という。)の売上高を○○○○円、販売費及び一般管理費を51,383,099円、まる3平成20年11月1日から平成21年10月31日までの事業年度(以下「平成21年10月期」という。)の売上高を○○○○円、販売費及び一般管理費を25,935,359円とする法人税の申告をした。
B K社は、平成21年11月○日から平成22年10月31日までの事業年度(以下「平成22年10月期」という。)の売上高を○○○○円、販売費及び一般管理費を14,671,993円とする法人税の申告をした。
C 本件各法人の上記申告に係る販売費及び一般管理費の内訳は別表3のとおりである。
(ニ) 本件各法人の実体
A 請求人が異議審理庁に提出した本件各法人の活動実績に係る主な証拠は次のとおりである。
(A) 本件各法人が独立した企業体としての経営事実
a J社が法人市民税、法人事業税、消費税を納付した領収証書
b J社が平成20年5月22日に独立行政法人中小企業基盤整備機構と締結した中小企業倒産防止共済契約締結証書
c J社が支払った消耗品代、備品代、車の修理代等の領収証
d 会計事務所等からJ社への請求書
(B) 歯科医院院長業務の代行・歯科医師の業務補助、事務代行、支援
a 総会、セミナー等に請求人の代理で出席したとする資料
b J社が作成・管理・更新したとするホームページ
c J社が作成したとする歯科医師求人票
d J社から歯科医師にあてた「新居探しについて」と題する文書
e 連絡先を請求人の妻とする歯科医師求人の広告
(C) 開業支援・各種営業・情報収集・市場調査
 ○○各店舗パンフレット
(D) 従業員管理(事案によって歯科医師も含む。)
a J社と社会保険労務士との打合せ資料
b J社と従業員の保険加入についての手続等に関する書類
c J社と従業員の労務管理に関する書類等
B 請求人、請求人の父等の答述等
(A) 請求人は、当審判所に対し、本件各委託費の具体的な算定について、積み上げ式で本件各法人が算定しており、請求人が、見積られた金額の妥当性を判断し、話合いの結果委託費を決定したものであり、契約当時は資料を基に検討したが、現在その資料は恐らく残っていない旨答述した。
(B) 請求人の父は、平成23年5月10日、P10調査官に対し、要旨次のとおり申述した。
a J社は、請求人の節税のために、請求人の妻が設立した法人であり、請求人から名前を貸して欲しいと頼まれて、当該法人の代表取締役に就任した。
b K社の代表取締役には、当初、請求人の兄が請求人から頼まれて就任していたが、その後、私が請求人から頼まれて就任した。
c 本件各法人ともにi県○市が納税地となっているが、実態は全くなく、代表取締役としての業務は行っていないため、本件各法人がどのような業務を行っているのかは、全く分からない。
d 本件各法人から役員報酬を一度も受領したことがない。
e 毎月末に1か月分の領収証を請求人へ送付しているが、内容は自己の生活費である電気、ガス、水道料金、タクシー代、スーパーの領収証等である。
(C) 請求人の父は、平成24年2月24日付で、原処分庁に対し、要旨次のとおり記載された本件弁明書を提出した。
a J社の取締役及びK社の社長を務め、当該取締役及び社長業務を誠実に遂行したこと。
b 両社の役員報酬を口座振込で受け取ったこと。
c 本件各法人はしっかりと実体があること。
ハ 当てはめ
(イ) 請求人は、上記1の(4)のへのとおり、本件各法人と本件各委託契約を締結しているところ、その委託契約の内容については歯科業務の一環としてのものであり、上記ロの(イ)ないし(ハ)のとおり、請求人は本件各法人に対して本件各委託費を支払っていることが認められる。
 この点、上記イのとおり、業務に関する一定の役務の提供に対して代金が支払われる契約が締結されている場合であっても、提供される役務の価値を超えて代金が支払われるなどの評価がされるのであれば、役務の価値を超えて支払われた部分は必要経費に算入されないことになる。
 そこで、本件各委託費についてみると、上記ロの(ニ)のBの(A)のとおり、本件各委託費は、現存しない資料ではあるものの、資料に基づき、契約当事者間の話合いの結果により決定したというものであって、当審判所の調査によっても、これを否定するに足りる証拠がないことからすれば、本件各委託費は、提供される役務の価値を超えて代金が支払われたものとまでの評価ができるものではない。
 したがって、請求人が本件各法人に支払った本件各委託費は、その全額が事業所得の金額の計算上必要経費に算入することができる。
(ロ) 原処分庁は、まる1本件各法人が業務委託に係る契約金額の意思決定を請求人又は請求人の妻が意のままに行うことを企図して設立された会社であること、まる2契約金額について客観的又は合理的な算定根拠が明らかでないこと、まる3請求人の業務を遂行する上で業務委託を行う必要がなかったことからすれば、本件各委託契約の金額が請求人の主観的な判断あるいは恣意的に決定されているから本件各委託費が支払われていることをもって、直ちに事業所得の金額の計算上必要経費に算入することは認められない旨主張する。
 しかしながら、本件各委託費は、その決定方法は上記(イ)のとおりであり、請求人の主観的な判断あるいは恣意的に決定されているとまでは認められないから、原処分庁の主張には理由がない。
 なお、上記ロの(ニ)のBの(B)のとおり、請求人の父がP10調査官に対して本件各法人ともにi県○市が納税地となっているが、実態は全くない旨申述しているところ、当該申述の内容が事実であるとすれば、原処分庁の主張のとおり、本件各委託費の全額を直ちに必要経費に算入することは認められない。
 そこで、この点を検討するに、請求人の父は、当該申述の後、上記ロの(ニ)のBの(C)のとおり、本件各法人の活動実態がある旨弁明し、その内容は変遷しているところ、本件各法人は、上記1の(4)のニ及びホのとおり、登記された株式会社であり、上記ロの(ニ)のAのとおり、法人として実際に活動していると認められることからすると、法人としての実体があると認めるのが相当であるから、請求人の父の上記申述は上記判断を左右しない。

(4) 争点3−2(本件旅費交通費について、本件各年分の請求人の事業所得の金額の計算上必要経費に算入されるか否か。)について

イ 法令解釈
 ある支出が所得税法第37条第1項に規定する必要経費に該当するというためには、それが納税者の営む業務との関連性及び業務遂行上の必要性という要件を満たすことを要するというべきであり、当該要件を満たすか否かは、納税者の主観的意図により決すべきではなく、客観的にみて、通常かつ必要な経費と認識することができるか否かにより判断するのが相当である。
 なお、必要経費の立証責任については、原則として原処分庁にあると解すべきであるが、一般に必要経費は納税者にとって有利な事柄であり、納税者の支配領域内のこととして証拠資料を整えておくことが容易であるから、原処分庁が具体的な証拠に基づき一定額の経費の存在を明らかにし、これが収入との間に合理的対応関係を有すると認められる場合は、これを超える額の必要経費は存在しないものと事実上推定され、納税者は、経費の具体的内容を明らかにし、ある程度これを合理的に裏付ける程度の立証をしなければ、上記推定を覆すことはできないと解するのが相当である。
ロ 認定事実
 請求人提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
(イ) 本件旅費交通費については、請求人等が出張したという事実を認めるに足りる飛行機代や宿泊代等の領収証等はない。
 本件旅費交通費に関する領収証の保管について、請求人は、当審判所に対し、会計事務所から、旅費規程に基づいて出費していれば、証票は必要ないと指導を受け、また、引っ越しの際に捨ててしまった可能性もある旨答述した。
(ロ) 請求人は、当審判所に対し、請求人等が出張した事実を裏付ける資料として、請求人の自宅にあった平成19年、平成20年及び平成21年の仕事の予定等が記載されたカレンダー(以下「本件カレンダー」という。)を提出した。
(ハ) 当審判所の調査の結果、本件カレンダーには、請求人が出張したことを推認できるような記載が認められるが、当該各年分の総勘定元帳と整合しない箇所が散見される。
(ニ) 請求人は、本件旅費交通費に係る出張目的について、F歯科のカルテの状況及び帳簿確認等、ほとんどが請求人の業務に関連するものである旨答述した。
(ホ) 請求人は、元勤務医に対し旅費交通費を支払ったとして、平成20年5月4日付で145,580円、同年12月30日付で105,580円及び平成21年5月5日付で105,580円を、平成20年分及び平成21年分のそれぞれ総勘定元帳の旅費交通費勘定に計上し、当該各金額を当該各年分の事業所得の金額の計算上必要経費に算入した。
(ヘ) 請求人は、当審判所に対し、上記(ホ)の旅費交通費については、いずれも元勤務医から要求されて、同人がf市に出張したようにして経理処理したもので、金員は後日g市に出張した際に渡した旨答述した。
(ト) 請求人は、上記(ヘ)以外に、平成19年5月3日付で、元勤務医に対し旅費交通費勘定に258,000円計上しているが、元勤務医は、原処分庁に対し、数年前にゴールデンウィークに飛行機でf市に行ったが、f市に行ったのはこの1回だけであり、その際にG歯科に隣接する駐車場にて○○が開催されていた旨申述した。
ハ 当てはめ
(イ) 必要経費の立証責任については、上記イのとおりであるところ、原処分庁は、上記1の(4)のチのとおり、請求人が計上した旅費交通費のうち、実際に支出した金額及び出張した事実が明らかなものについて必要経費の算入を認めた上で、実際に支出した金額及び出張した事実が明らかにされていないものについて必要経費の算入を認めなかったものであり、原処分庁が認定した必要経費の内容及び金額は合理的である。
 したがって、請求人は、原処分庁が認定した必要経費の金額を超える額の経費があると主張する部分については、その具体的内容を明らかにし、ある程度これを合理的に裏付ける程度の立証をしなければならないところ、請求人は、上記ロの(ニ)のとおり、出張目的を答述するものの、上記ロの(イ)のとおり、必要経費の明細を明らかにする領収証等を保存していない。
 また、請求人は、上記ロの(ロ)のとおり、出張した事実を証するものとして本件カレンダーを提出したところ、本件カレンダーは、上記ロの(ハ)のとおり、総勘定元帳と整合しない箇所が散見されることから、本件カレンダーに請求人が出張をした旨の記載があるからといって、請求人等が出張したことを認めるに足りる証拠とまではいえず、その他、請求人等が出張したことを立証できる証拠資料の提出はない。
 そうすると、請求人が、本件旅費交通費について、その具体的内容を明らかにし、ある程度これを合理的に裏付ける程度の立証をしたとは認められないから、本件旅費交通費は、事業所得の金額の計算上必要経費に算入することができない。
(ロ) また、総勘定元帳に記載された本件旅費交通費のうち、上記ロの(ホ)のとおり、元勤務医に対して支払われたとする平成20年5月4日付145,580円、同年12月30日付105,580円、平成21年5月5日付105,580円については、上記ロの(ヘ)のとおり、元勤務医から要求されて、同人がf市に出張したようにして経理処理したものであると、請求人自ら自己に不利益な答述をしていることから、請求人の答述内容は信ぴょう性が高く、また、元勤務医の上記ロの(ト)の申述については、元勤務医の申述どおり、元勤務医がf市に来たときに、G歯科に隣接する駐車場で○○が開催されていたことが認められることから、元勤務医が、平成20年5月4日、同年12月30日及び平成21年5月5日においてf市に出張した事実はなく、架空なものと認められる。
(ハ) 請求人は、上記ロの(ヘ)のとおり、金員はg市に出張した際に元勤務医に渡した旨主張するが、渡した際に領収証など証拠となるものを受け取っておらず、元勤務医に金員を渡したという事実を確認することはできないのであるから、平成20年5月4日、同年12月30日及び平成21年5月5日において元勤務医に対して旅費交通費を支払ったものとは認められない。
 したがって、元勤務医に対して支払われたとする旅費交通費は、元勤務医がf市に出張した事実がないにもかかわらず、f市に出張したようにして総勘定元帳に記載し経理処理したものであり、架空に計上されたものと認められることから、事業所得の金額の計算上必要経費に算入することができない。

(5) 争点3−3(本件住居手当及び本件通勤手当について、本件各年分の請求人の事業所得の金額の計算上必要経費に算入されるか否か。)について

イ 法令解釈
 上記(4)のイのとおりである。
ロ 認定事実
 請求人提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
(イ) 請求人は、本件住居手当を、当該各年分の総勘定元帳の福利厚生費勘定に別表4のとおり記載していた。
(ロ) 請求人は、本件通勤手当を、平成19年分は総勘定元帳の福利厚生費勘定に、平成20年分、平成21年分及び平成22年分は総勘定元帳の旅費交通費勘定に、別表4のとおり記載していた。
(ハ) 請求人は、平成19年1月から平成21年12月まで、本件手当出金口座から、平成19年1月10日及び平成20年6月9日を除いて、月130,000円を出金していた。
(ニ) 総勘定元帳に記載されている本件住居手当及び本件通勤手当が支出された日と、請求人あるいは元勤務医に対する旅費交通費が支出された日については、約1か月のずれがあるなど、いずれも同一日ではないことが認められる。
(ホ) 請求人は、当審判所に対し、本件住居手当については、会計事務所の指導もあり、家賃の7割相当と決め、元勤務医は、家賃を160,000円支払っていたので110,000円を渡し、通勤手当については、夜遅く帰るときのタクシー代として、1回当たり約1,500円として月15回くらいで20,000円を渡していた旨答述した。
(ヘ) 請求人は、異議調査担当者に対し、本件住居手当及び本件通勤手当について、元勤務医から元妻に内緒でと言われて渡したものである旨申述し、併せて、原処分庁に対し、次の書面を提出した。
A 本件引受証
 本件引受証には、受取人欄に「F歯科クリニックP6先生」と記載され、「損害要償額」欄には「130,000円」と記載されている。
B 本件覚書      
 本件覚書は、請求人と元勤務医が、F歯科の分院長を委任する旨の契約に関し作成したものであり、要旨次の事項が記載されている。
 なお、本件通勤手当については、何ら記載されていない。
(A) 平成20年9月1日から、元勤務医は請求人が所有するF歯科の分院長を引き受ける。期間は3年以上とする(第一条)。
(B) 元勤務医の住居については社宅とし、家賃補助を月額の7割相当を請求人が補助し、支払方法は別途定める。ただし、元勤務医が望まない場合はこの限りではない(第十条)。
(ト) 元勤務医は、平成23年12月6日に、P9調査官に対して、本件住居手当及び本件通勤手当は請求人から受け取っていない旨申述した。
(チ) 請求人は、当審判所に対して、本件住居手当及び本件通勤手当については、本件手当出金口座から現金で出金し、F歯科の所在地であるg市に出張するまで手元に置き、g市に出張した際に茶封筒に入れて手渡し、数回は現金書留により郵送した旨答述した。
ハ 当てはめ
(イ) 上記ロの(ヘ)のBのとおり、本件覚書により、請求人が、元勤務医に対して本件住居手当を支払うことを取り決めていたことが認められる。
 そして、本件覚書が作成された時期は、平成20年9月1日であるが、上記ロの(イ)及び(ロ)のとおり、本件住居手当及び本件通勤手当については、平成19年当時から定期的かつ継続的に、総勘定元帳の福利厚生費勘定又は旅費交通費勘定に記載され、また、上記ロの(ハ)のとおり、本件住居手当及び本件通勤手当相当額が、本件手当出金口座から出金されていたことが認められ、上記ロの(ヘ)のAのとおり、本件引受証の存在から、少なくとも、請求人は、元勤務医に対し、平成19年2月28日に130,000円の金員を郵送したことは明らかであり、その金額は、上記ロの(ホ)から、本件住居手当が110,000円、本件通勤手当が20,000円の計130,000円であると認められる。
 このことから、本件住居手当については、平成19年当時から、請求人と元勤務医との間で、何らかの形で、元勤務医に対する110,000円の家賃補助を合意していたことが推認できる。
 また、本件通勤手当については、本件覚書には何ら記載されていないが、上記ロの(イ)及び(ロ)のとおり、平成19年当時から、本件住居手当とともに総勘定元帳の福利厚生費勘定又は旅費交通費勘定に記載され、本件通勤手当相当額が請求人名義の口座から出金されていたことからすると、本件通勤手当についても、本件住居手当とともに、請求人と元勤務医との間で、何らかの形で元勤務医に対する20,000円の支払が合意されていたと推認できる。
 加えて、当審判所の調査によっても、元勤務医が本件住居手当及び本件通勤手当を受領していないことを認めるに足りる証拠も認められない。
 したがって、元勤務医に対する本件住居手当及び本件通勤手当については、F歯科に従事する医師に対して支払われたもの、すなわち業務との関連性があると推認でき、さらにその必要性の判断においても、単に事業主の主観的判断のみによるのではなく、客観的に必要経費として認識できるとするのが相当である。
(ロ) 原処分庁は、本件引受証の存在は認めるものの、まる1上記ロの(ヘ)のBの(B)のとおり、本件覚書の第十条のただし書から、本件住居手当について請求人の支払義務が確定していたとは認められず、まる2上記ロの(ヘ)のBのとおり、本件通勤手当については、本件覚書に何ら記載がないことからその支払義務があるとは認められないことに加え、まる3上記ロの(ヘ)のAのとおり、本件引受証は存在するものの、本件住居手当及び本件通勤手当に係る領収証、受取証等が存在せず、請求人が、元勤務医に対して現金で支払ったとする本件住居手当及び本件通勤手当について、元勤務医が受領したとする唯一の証拠は、本件引受証1枚のみであることから、請求人が元勤務医に対して支払った本件住居手当及び本件通勤手当について、現金で手渡し又は現金書留で支給したという請求人の主張は認められず、本件住居手当及び本件通勤手当は、事業所得の金額の計算上必要経費に算入することはできない旨主張する。
 しかしながら、まる1については、本件覚書の第十条のただし書は、飽くまでも「ただし書」であり、同条本文の段階において、本件住居手当について請求人の支払義務が確定していたと解するのが自然であり、また、上記ロの(ヘ)のとおり、請求人は、異議調査担当者に対し、本件住居手当及び本件通勤手当について、元勤務医から元妻に内緒でと言われて渡したものである旨申述しており、原処分庁はこの点について何ら主張せず、まる2については、少なくとも元勤務医がF歯科に勤務していた事実を原処分庁は認めており、そうすると、本件覚書に何ら記載がなくても、口頭契約等のその他の手段によって、請求人及び元勤務医が本件通勤手当の支払について、何らかの合意を得ていたことは十分推認できることから、本件覚書に何ら記載がないことをもって、その支払義務があると認められないとまでは断定できず、まる3については、本件引受証が存在することから、請求人が本件住居手当及び本件通勤手当相当額を元勤務医に対して支払ったことが推認される。
 また、原処分庁は、上記ロの(ト)のとおり、本件住居手当及び本件通勤手当については、請求人から受け取っていない旨の元勤務医の申述をひとつの根拠として、元勤務医へ支払ったように装い架空に計上されたものと認めることが相当である旨主張しているが、元勤務医の申述については、少なくとも本件引受証が存在するのであるから、信用できず、原処分庁の主張は理由がない。
(ハ) 原処分庁は、請求人は、毎月130,000円を本件手当出金口座から出金し、当該出金日に、元勤務医へ本件住居手当及び本件通勤手当を支払ったとして総勘定元帳に記載しているが、本件手当出金口座からの出金の状況についてみると、請求人の住所地で引き出されているにもかかわらず、同日の総勘定元帳及び出金伝票等には、請求人がF歯科の所在地であるg市あるいはi県に出張した旨の記載及び出張した事実も認められず、そもそも当該出金日に請求人が元勤務医へ手渡すことはできなかったものと認められる旨主張する。
 確かに、上記ロの(ニ)のとおり、総勘定元帳に記載されている本件住居手当及び本件通勤手当が支出された日と、請求人あるいは元勤務医に対する旅費交通費が支出された日については、約1か月のずれがあるなど、いずれも同一日ではないことが認められるが、請求人は、上記ロの(チ)のとおり、本件手当出金口座から現金で出金した後は、F歯科の所在地であるg市に出張するまで手元に置き、g市に出張した際に手渡し、数回は現金書留により郵送した旨答述しており、原処分庁の主張する事実をもって、本件住居手当及び本件通勤手当が支払われていないと認めることはできず、したがって、原処分庁の主張には理由がない。

(6) 争点3−4(本件利息について、本件各年分の請求人の事業所得の金額の計算上必要経費に算入されるか否か。)について

イ 認定事実
 請求人提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
(イ) 請求人と請求人の父との間で取り交わしたとする、平成19年1月1日付の金銭消費貸借契約書には、要旨次のとおり記載されている。
A 借主である請求人は、契約書締結日時点において、37,200,000円の返還をなすことを約して貸主である請求人の父より借り受けていることを改めて確認する。
B 借入金は毎月200,000円を返済し、請求人は請求人の父の指定する口座に振り込む。
C 利息は、別紙計算書により、毎年12月31日までに、当該年分の利息を、請求人の父の指定する口座に振り込んで弁済する。
(ロ) 請求人と請求人の父との間で取り交わしたとする、平成20年1月1日付の金銭消費貸借契約書には、要旨次のとおり記載されている。
A 借主である請求人は、契約書締結日時点において、34,800,000円の返還をなすことを約して貸主である請求人の父より借り受けていることを改めて確認する。
B 借入金は毎月200,000円を返済し、請求人は請求人の父の指定する口座に振り込む。
C 利息については、毎年1月1日の元金に対して年○%とし、毎年12月31日までに、当該年分の利息を、請求人の父が指定する口座に振り込んで弁済する。
(ハ) 本件各金銭消費貸借契約書には、貸主及び借主の氏名を含めた全ての文言が印字されてはいるが、契約当事者の署名及び押印はない。
(ニ) 請求人は、本件各金銭消費貸借契約書に基づく借入金の元金返済として、本件元金振込口座へ、毎月200,000円を振り込んでいた。
 なお、本件元金振込口座からの出金は、n、pなどの支店から行われている。
(ホ) 請求人は、本件支払利息を、上記1の(4)のヌの(イ)のとおり、本件利息振込口座に振り込んでいた。
 本件利息振込口座の入出金状況は、別表5のとおりであり、本件支払利息のほか、J社からの入金がある。
(ヘ) 請求人は、当審判所に対して、本件元金振込口座と本件利息振込口座が相違する理由については、分からない旨答述した。
(ト) J社が提出した法人税の確定申告書には、請求人の父に対する役員報酬として、役員報酬手当等及び人件費の内訳書に、定期同額給与として次の金額が記載されている。
A 平成19年3月○日から平成19年10月31日・・・・○○○○円
B 平成19年11月1日から平成20年10月31日・・・○○○○円
 そして、本件利息振込口座には、別表5のとおり毎月○○○○円振り込まれており、当該振込額は請求人の父に対する役員報酬である月額○○○○円から源泉所得税○○○○円を差し引いた金額であると認められる。
(チ) 本件利息振込口座の出金状況と、請求人の出張の日付は、別表6のとおりであり、平成19年10月19日から平成21年12月21日までの間、本件利息振込口座からは、f市や請求人の出張先での500,000円の出金以外の出金はないことが認められ、また、請求人は、平成19年10月26日にq県へ出張していることが認められるところ、同日、本件利息振込口座から500,000円がx1信託銀行r支店において為替振込で出金されている。
(リ) 請求人の父は、平成23年5月10日、P10調査官に対し、本件各法人から一度も役員報酬を受領したことがない旨申述した。
(ヌ) 請求人の父は、平成24年2月24日付で、原処分庁に対し、要旨次のとおり記載された本件弁明書を提出した。
A 請求人の父は、本件支払利息を、自分の指定する口座に請求人から振り込んでもらい、自分がその口座から引き出したこと。
B 本件各法人からの役員報酬については、口座振込で受け取ったこと。
ロ 当てはめ
(イ) 原処分庁担当者に対する請求人の父の申述と本件弁明書については、上記イの(リ)及び(ヌ)のとおり、内容が矛盾していることから信用性を検討する。
 P10調査官に対する請求人の父の申述は、上記(2)のハの(イ)のとおり、適正な調査手続の中で行われたことが認められ、請求人の父の申述の内容は、上記イの(リ)のとおり、本件各法人から役員報酬を受領したことがない旨の自身の子である請求人に対して不利な内容である。
 一方、上記イの(ヌ)のとおり、本件弁明書では、本件支払利息については、請求人の父が指定した本件利息振込口座を通じて受け取り、請求人の父自身が本件利息振込口座から引き出したこと、また、役員報酬については、口座振込みで受け取った旨弁明しており、P10調査官に対する申述の後に提出された本件弁明書の内容は、明らかに請求人に対して有利な内容に変遷していることが認められ、かつ、内容が変遷した合理的根拠は認められない。
 そうすると、本件弁明書に記載されている内容について、信用することはできない。
(ロ) 請求人は、上記イの(イ)、(ロ)及び(ニ)のとおり、請求人の父と本件各金銭消費貸借契約書を取り交わしたとして、本件各金銭消費貸借契約書に基づく借入金の元金返済として本件元金振込口座へ毎月200,000円を振り込んでいるが、上記イの(ニ)及び(ホ)のとおり、本件支払利息として振り込んでいる本件利息振込口座は、本件元金振込口座とは別口座である事実が認められるところ、通常、口座振込により返済する場合、元金返済と利息返済の振込口座については同じ口座であることが自然であるのに、この点について、請求人は、上記イの(ヘ)のとおり、本件支払利息を別口座に振り込んでいる理由は分からない旨答述している。
 そして、請求人の父は、上記イの(リ)のとおり、本件各法人から役員報酬は受け取っていない旨申述しているが、上記イの(ト)のとおり、本件利息振込口座には、請求人の父が本件各法人から受け取っていないと申述しているJ社からの役員報酬が振り込まれており、また、上記イの(チ)のとおり、平成19年10月19日から平成21年12月21日までの間、本件利息振込口座からは、f市や請求人の出張先での500,000円の出金以外の出金はないことが認められ、また、請求人は、平成19年10月26日にq県へ出張していることが認められるところ、同日、本件利息振込口座から500,000円がx1信託銀行r支店において為替振込で出金されている。
(ハ) 本件利息振込口座については、まる1上記イの(ハ)のとおり、本件各金銭消費貸借契約書には、貸主及び借主の氏名を含めた全ての文言が印字されてはいるが、契約当事者の署名及び押印はないことから、本件各金銭消費貸借契約書が存することのみをもって、直ちに、請求人から請求人の父に対する利息の支払が約されていたものとは認められないこと、まる2本件利息振込口座と本件元金振込口座とを特段の理由なく別口座とすることは不自然である上に、本件利息振込口座には、上記イの(リ)のとおり、請求人の父が本件各法人から受け取っていないと申述していたJ社からの役員報酬が振り込まれていること、まる3上記イの(ニ)のとおり、本件元金振込口座からの出金は請求人の父の住所地であるi県○市のn、pなどの支店から行われているのに対し、本件利息振込口座からの出金は、上記(イ)のチのとおり、f市や請求人の出張先での500,000円の出金以外の出金はないことから判断すると、請求人が本件利息振込口座を支配管理していると認めるのが相当である。
(ニ) 以上のとおり、本件支払利息は、請求人が支配管理する請求人の父名義の本件利息振込口座に振り込むことにより、本件支払利息を請求人の父に支払ったように装い、架空に計上されたものと認められることから、本件利息は、事業所得の金額の計算上必要経費に算入することはできない。
(ホ) 請求人は、請求人の父が、自身で利息を受け取り、口座も自身で処分したと明確に言っている旨主張するが、上記(イ)のとおり、本件弁明書は信用できないことから、請求人の主張には理由がない。
(ヘ) 請求人は、本件利息振込口座からの出金について、請求人が出張した日に請求人の父と会食する機会が何度かあり、その際、請求人は銀行に請求人の父と同行したこともあるが、請求人が本件支払利息を受け取った事実はない旨主張するが、それを認めるに足りる証拠はないことから、請求人の主張には理由がない。
(ト) 請求人は、本件各金銭消費貸借契約書については、商人間の取引ではないことから、仮に書類に不備があったとしても、口頭契約により民法上の契約要件を満たしている旨主張するが、これを認めるに足りる証拠はなく、また、請求人は、原処分庁から修正申告書を提出するようしょうようを受け、平成23年12月に適正額に修正申告しているもかかわらず、本件各更正処分において、本件利息を否認しているのは禁反言であり信義則に反する旨を主張するが、原処分庁の修正申告のしょうようは、調査の過程における一応の意見を表明したものであって、税務官庁の公的見解を表示したものとは認められず、禁反言又は、信義則に反しないことから、請求人の主張は採用できない。

(7) 争点3−5(本件給与について、平成19年分の請求人の事業所得の金額の計算上必要経費に算入されるか否か。)について

イ 法令解釈
 上記(4)のイのとおりである。
ロ 認定事実
 請求人提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
(イ) 請求人は、x6銀行y支店の請求人の義母名義の普通預金口座(口座番号○○○○、以下「本件給与振込口座」という。)へ、本件給与を振り込んだ。
(ロ) 請求人は、請求人の義母のタイムカードを作成していない。
(ハ) 請求人は、本件給与に係る給与支払報告書を請求人の義母の住所地であるs市○町へ提出していない。
(ニ) 元勤務医及び元従業員は、P9調査官に対し、請求人の義母を知らない旨申述した。
(ホ) 請求人の義母は、当審判所に対し、要旨次のとおり答述した。
A 平成18年12月くらいから平成19年3月まで、F歯科に勤務し、また、平成19年4月にJ社が設立された後は、J社の役員になっていた。
B F歯科との雇用契約は、口頭で交わしており、勤務状況については、次のとおりである。
(A) 給与金額については、毎月末に、194,510円が本件給与振込口座に振り込まれていた。
(B) 勤務時間については、一応午前9時から午後5時までと決められていた。勤務日は、休診日である日曜日と木曜日で、祝日は依頼があれば行ったが、終日ではなかった。火曜日は依頼があったとき、掃除等で朝7時半から1時間くらい出勤した。
(C) 仕事の内容については、金庫の中のお金の確認、観葉植物の管理等の美化業務、留守番、清掃業務、幼児対象のデコレーションの企画及び清掃業務に必要な消耗品の購入等であった。
(ヘ) 請求人の義母は、原処分庁に対し、要旨次のとおり記載された平成24年2月24日付「事実誤認を改めていただきたき件」と題する書面を提出した。
A 請求人の義母が、F歯科の美化整理業務、幼児対象のデコレーション企画を担当していたこと。
B 本件給与は、本件給与振込口座に振り込まれ、請求人の義母自身が消費したこと。
(ト) 請求人の義母の住所地は、s市○町○−○である。
ハ 当てはめ
(イ) 上記ロの(ホ)のとおり、請求人の義母は、当審判所に対し、勤務日、勤務時間及び仕事内容等について具体的に答述しており、また、上記ロの(ト)のとおり、請求人の義母の住所地が、F歯科に容易に通勤できる範囲内にあったことも考慮すれば、請求人の義母という関係から、請求人の義母が、F歯科の仕事に携わっていたことは否定できない。
 そして、上記ロの(イ)のとおり、請求人は、本件給与振込口座に本件給与を振り込んでいるところ、請求人の義母は、上記ロの(ヘ)のとおり、勤務の対価として、本件給与振込口座に本件給与が振り込まれていたことを知っており、また、請求人の義母自身が、本件給与を消費した旨の書面を提出している。
 したがって、請求人の義母が、F歯科の業務に従事していたことを否定できず、また、請求人の義母自身が本件給与振込口座に本件給与が振り込まれたことを認識していたことからも、本件給与が、請求人の義母がF歯科の業務に従事していたことの対価として支払われた給与であることを否定することはできない。
(ロ) 原処分庁は、上記ロの(ロ)ないし(ニ)のとおり、まる1請求人の義母のタイムカードが作成されていないこと、まる2請求人の義母の給与支払報告書が管轄市役所へ提出されていないこと、まる3元勤務医及び元従業員が、F歯科において請求人の義母の姿を見たこともない旨申述していることから、請求人の義母は、請求人の営む事業に従事していた事実は認められない旨主張する。
 しかしながら、まる1については、請求人の義母は、請求人の妻の母という関係から、他の従業員と同様にタイムカードを作成する必要まではなかったこと、まる2については、請求人の義母の給与支払報告書が管轄市役所へ提出されていないことをもって、請求人の義母が勤務していなかったとまではいえない。
 また、まる3については、元勤務医及び元従業員の申述について、請求人の義母の答述からは接触する時間はないものの、元勤務医が請求人の義母を見たことがないというのは不自然である。しかし、請求人の義母の当審判所に対する答述は具体的であり、答述全てが信用できるとまでは言いがたいが、F歯科の休診日に、請求人の義母が、F歯科の清掃業務に従事していたこと、F歯科の消耗品の購入を行っていたこと、金庫内の現金のチェックに従事する業務を行っていたであろうことまでは否定できず、原処分庁は、これに対して否定できる証拠を提出しておらず、また、審判所の調査によっても、請求人の義母が勤務していなかったとの原処分庁の主張を認定するに足りる証拠は認められない。
 したがって、請求人の義母の勤務実態がなかったことを理由に本件給与が必要経費に算入されないとの原処分庁の主張は認められないことから、本件給与は、事業所得の金額の計算上必要経費に算入できる。

(8) 争点4(原処分庁が平成19年分の診療報酬に加算した本件未収金は、平成22年分において必要経費に算入されるか否か。)について

イ 法令解釈
 所得税法第51条第2項に規定する貸倒損失は、通常の事業活動によって必然的に発生する必要経費とは異なり、事業者が取引の相手方の資産状況について十分に注意を払う等合理的な経済活動を遂行している限り、必然的に発生するものではなく、取引の相手方の破産等の特別の事情がない限り生ずることのない、いわば特別の経費というべき性質のものである上、貸倒損失の不存在という消極的事実の立証には相当の困難を伴うものである反面、事業者においては、貸倒損失の内容を熟知し、これに関する証拠も事業者が保持しているのが一般であるから、事業者において貸倒損失となる債権の発生原因、内容及び帰属並びに回収不能の事実及び時期等について具体的に特定して主張し、貸倒損失の存在をある程度合理的に推認させるに足りる立証を行わない限り、事実上その不存在が推定されるものと解するのが相当である。
ロ 当てはめ
 請求人は、本件未収金の相手先であるP8に対して平成22年12月下旬に電話で督促したものの、同人から時効により拒否された旨主張するが、請求人から、その事実を認定できる証拠の提出はない。
 請求人は、貸倒損失の存在をある程度合理的に推認させるに足りる立証を行っておらず、また、当審判所の調査によっても、本件未収金が時効により消滅したことを認めるに足りる証拠は認められない。
 したがって、請求人は、貸倒損失の存在をある程度合理的に推認させるに足りる立証を行っていないのであるから、本件未収金は時効により平成22年分の必要経費に算入されるべきとする請求人の主張は認められない。

(9) 争点5(請求人の行った行為について、通則法第68条第1項に規定する隠ぺい又は仮装の行為があったか否か。また、平成19年分及び平成20年分の請求人の行った行為について、通則法第70条第5項に規定する偽りその他不正の行為があったか否か。)について

イ 法令解釈
(イ) 通則法第68条に規定する重加算税は、納税者がその国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となる事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺい、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出しているときに課されるものであるところ、ここでいう「事実を隠ぺいする」とは、課税標準等又は税額等の計算の基礎となる事実について、これを隠ぺいし又は故意に脱漏することをいい、また、「事実を仮装する」とは、所得、財産あるいは取引上の名義等に関し、あたかも、それが真実であるかのように装う等、故意に事実をわい曲することをいうものと解するのが相当である。
(ロ) 通則法第70条第5項は、「偽りその他不正の行為」によって国税の税額の全部又は一部を免れた納税者がある場合に、これに対して適正な課税を行うことができるよう、それ以外の場合よりも長期の除斥期間を定めたものであるから、ここにいう「偽りその他不正の行為」とは、税額を免れる意図の下に、税の賦課徴収を不能又は著しく困難にするような何らかの偽計その他の工作を伴う不正な行為を行うことをいうものと解するのが相当である。
ロ 当てはめ
(イ) 隠ぺい又は仮装の事実
 本件旅費交通費のうち元勤務医に対して支払われたとする旅費交通費については、上記(4)のハの(ロ)で判断したとおり、元勤務医がf市に出張したように装い架空に計上されたものと認められ、また、本件支払利息については、上記(6)のロの(ニ)で判断したとおり、請求人の父に支払ったように装い、請求人が支配管理する本件利息振込口座に振り込んだものと認められ、請求人があたかもこれらの取引が真実であるかのように装うことは、上記イの(イ)の「事実を仮装し」に該当することは明らかであり、通則法第68条第1項に規定する重加算税の賦課要件を満たすというべきである。
 なお、本件住居手当及び本件通勤手当については、上記(5)で判断したとおり、また、本件給与については、上記(7)で判断したとおり、事業所得の金額の計算上必要経費に算入できるのであるから、請求人において、隠ぺい又は仮装の行為があったとは認められない。
(ロ) 偽りその他不正の行為
 上記(イ)で判断したとおり、請求人が、本件旅費交通費のうち元勤務医に対して支払われたとする旅費交通費及び本件利息を事業所得の金額の計算上必要経費に算入し、所得税の確定申告書を提出したことは、税額を免れる意図の下に、税の賦課徴収を不能又は著しく困難にするような何らかの偽計その他の工作を伴う不正な行為を行うことに該当することは明らかであり、請求人において、偽りその他不正の行為があったと認められる。
 したがって、原処分庁が、平成19年分及び平成20年分について、通則法第70条第5項の規定により更正処分をしたことは適法である。

(10) 本件各更正処分について

 以上の各争点に対する結論を踏まえて、請求人の本件各年分の事業所得の金額を計算すると、別表7の本件各年分の「審判所認定額」欄の「事業所得の金額」欄のとおりとなり、これによる請求人の本件各年分の納付すべき税額を計算すると、別紙1ないし別紙4の「4課税標準等及び税額等の計算」の「裁決後の額B」欄の「差引納付すべき税額又は減少(△印)する税額」欄のとおりとなる。
 以上の結果、請求人の本件各年分の納付すべき税額は、本件各更正処分の額をいずれも下回るから、本件各更正処分は、いずれもその一部を別紙1ないし別紙4「取消額等計算書」のとおり取り消すべきである。

(11) 過少申告加算税の各賦課決定処分について

 本件各更正処分は、上記(10)のとおり、いずれもその一部を取り消すべきところ、過少申告加算税の賦課決定処分の対象とされていた事実のうち、取消額以外の本件各更正処分に係る上記(10)の納付すべき税額の計算の基礎となった事実に、本件各更正処分前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、通則法第65条第4項に規定する過少申告加算税を賦課しない場合の正当な理由があるとは認められないから、同条第1項の規定に基づき過少申告加算税が賦課されることとなり、請求人の本件各年分の過少申告加算税の額を計算すると、別紙1ないし別紙4の「4課税標準等及び税額等の計算」の「裁決後の額B」欄の「過少申告加算税、加算税の額」欄のとおりとなる。
 以上の結果、本件各年分の過少申告加算税の額は過少申告加算税の各賦課決定処分の額をいずれも下回るから、過少申告加算税の各賦課決定処分は、いずれもその一部又は全部を別紙1ないし別紙4の「取消額等計算書」のとおり取り消すべきである。

(12) 重加算税の各賦課決定処分について

 本件各更正処分は、上記(10)のとおり、いずれもその一部を取り消すべきところ、重加算税の賦課決定処分の対象とされていた事実のうち、取消額以外の本件各更正処分に係る上記(10)の納付すべき税額の計算の基礎となった事実については、通則法第68条第1項の規定に基づき、重加算税が賦課されることとなり、請求人の本件各年分の重加算税の額を計算すると、別紙1ないし別紙4の「4課税標準等及び税額等の計算」の「裁決後の額B」欄の「重加算税、加算税の額」欄のとおりとなる。
 以上の結果、本件各年分の重加算税の額は重加算税の各賦課決定処分の額をいずれも下回るから、重加算税の各賦課決定処分は、いずれもその一部を別紙1ないし別紙4の「取消額等計算書」のとおり取り消すべきである。

(13) その他

 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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