(平成25年10月15日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、団地共用部分の一部を無線基地局等の設置のため携帯電話会社に賃貸して得た収入について、原処分庁が、当該団地の管理組合である審査請求人(以下「請求人」という。)は法人税法第2条《定義》第8号に規定する人格のない社団等(以下「人格のない社団等」という。)に該当し、当該収入は請求人の収益事業による収入であるとして、法人税の各決定処分及び無申告加算税の各賦課決定処分をしたことに対し、請求人が、当該収入は団地建物の各区分所有者の不動産収入であって請求人の収入でないなどとして、その全部の取消しを求めた事案であり、争点は次の3点である。

争点1 請求人は、人格のない社団等に該当するか否か。

争点2 団地共用部分の賃貸収入は、請求人と団地建物の各区分所有者のいずれに帰属するか。

争点3 団地共用部分の賃貸は、収益事業(不動産貸付業)に該当するか否か。

(2) 審査請求に至る経緯

 審査請求(平成24年11月29日請求)に至る経緯は、別表1のとおりである。
 なお、平成19年4月1日から平成20年3月31日まで、平成20年4月1日から平成21年3月31日まで、平成21年4月1日から平成22年3月31日まで、平成22年4月1日から平成23年3月31日まで及び平成23年4月1日から平成24年3月31日までの各事業年度を、以下順次「平成20年3月期」、「平成21年3月期」、「平成22年3月期」、「平成23年3月期」及び「平成24年3月期」といい、平成20年3月期から平成24年3月期までの各事業年度を併せて「本件各事業年度」という。
 また、別表1の「決定処分等」欄に記載の法人税の各決定処分及び無申告加算税の各賦課決定処分を、それぞれ以下「本件各決定処分」及び「本件各賦課決定処分」という。

(3) 関係法令等

 別紙1のとおりである。

(4) 基礎事実

 以下の事実については、請求人と原処分庁との間に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。

イ 請求人について

(イ) 請求人は、a市b町○−○、同町○−○及び同町○−○に所在する、物件名を「E」とする、三棟の建物(A棟、B棟及びC棟と称し、専有部分の住戸戸数の合計は○○戸である。)と付属施設、敷地から成る団地(共に、昭和○年3月○日新築。以下、併せて「本件団地」という。)に属する各建物の区分所有者(以下「本件団地建物所有者」という。)全員をもって構成される団体で、当該団地の共用部分及び共用施設並びに土地を管理している。

(ロ) 請求人は、区分所有法第47条第1項の規定による管理組合法人として登記されていない。

(ハ) 請求人は、区分所有法第30条に基づき「E管理組合規約」(平成○年6月○日以後のもの。以下「本件規約」という。)を定めている。

 本件規約は、要旨以下のように定めている。

A 請求人は、「E」の共有部分及び共用施設並びに土地を管理し、かつ、これらの共同利益を維持することのほか、管理の円滑化のための居住者の理解と意思疎通及び共同の生活環境の向上を図る自治活動のために必要な業務を行うことを目的とする。(第○条第1項)

B この規約の対象となる建物の範囲は、物件名をEとする前記土地、建物(本件団地)及び付属施設とする。(第○条)

C 土地及び付属施設、団地共用部分は、本件団地建物所有者の共有とし、各棟の共用部分は、各棟の専有部分の区分所有者の共有とする。また、塔屋は各棟の共用部分とする。(第○条、第○条)

D 本件団地建物所有者は、請求人が総会の決議を経て、土地及び共用部分等(専用使用部分等を除く。)の一部について、第三者に使用させることができる。土地及び共用部分等のうち、専用使用部分を除いた部分については、請求人がその責任と負担において管理する。(第○条第2項及び第○条第1項)

ロ 賃貸借契約の経緯等について

(イ) 請求人は、別表2のとおり、J社と、平成8年4月30日付で、本件団地A棟の塔屋の一部に係る賃貸借契約(以下「本件賃貸借契約A−1」という。)を締結した。

 また、請求人は、別表2のとおり、K社と、平成15年8月5日付で、本件団地C棟の塔屋の一部に係る賃貸借契約(以下「本件賃貸借契約C」という。)を、さらに、平成18年8月10日付で、本件団地B棟の塔屋の一部に係る賃貸借契約(以下「本件賃貸借契約B」という。)を、それぞれ締結した。

 なお、本件賃貸借契約A−1は、契約期間満了後2年間延長され、その後、新たに平成20年3月12日付賃貸借契約(以下「本件賃貸借契約A−2」といい、本件賃貸借契約A−1、本件賃貸借契約B及び本件賃貸借契約Cと併せて「本件各賃貸借契約」という。)が締結された。

(ロ) 本件各賃貸借契約に基づき、J社は本件団地A棟の塔屋に、K社は本件団地B棟及びC棟の塔屋に、それぞれ自動車電話・携帯電話無線基地局等(以下「アンテナ基地局」という。)を設置した。

(ハ) 本件各事業年度において、本件各賃貸借契約に基づき請求人が収受した団地共用部分の賃貸収入(以下「本件賃貸収入」という。)の金額は、別表3のとおりである。

2 主張

 別紙2のとおり。

3 判断

(1) 争点1 請求人は、人格のない社団等に該当するか否か。

イ 法令解釈等

(イ) 法人は、民法その他の法律の規定によらなければ、成立することができない(民法第33条《法人の成立等》)が、法人税法は、法人でない社団又は財団で代表者又は管理人の定めのあるものを「人格のない社団等」と定義し、法人とみなして同法の規定が適用されることとしている(同法第2条第8号、第3条)。

(ロ) これは、私法上の概念である「法人格を有しない社団(いわゆる権利能力のない社団。民事訴訟法第29条《法人でない社団等の当事者能力》参照)」が、その構成員から独立して活動を行うことがあり、私法上も法主体性が認められていることから、法人税法においても、これを法人とみなし、その構成員から独立した納税の主体としたものと解される。

(ハ) ところで、私法上の概念である「法人格を有しない社団」といい得るためには、共同の目的のために結集した人的結合体であって、まる1団体としての組織を備え、まる2多数決の原則が行われ、まる3構成員の変更にかかわらず団体そのものが存続し、まる4その組織において代表の方法、総会の運営、財産の管理その他団体としての主要な点が確定している団体でなければならないものと解されている。

 そして上記(ロ)で述べた法の趣旨からすれば、法人税法上の人格のない社団等の範囲については、私法上の「法人格を有しない社団」と同様の考え方によるべきである。

 法人税基本通達1−1−1が、法人税法第2条第8号にいう「法人でない社団」を、多数のものが一定の目的を達するために結合した団体のうち法人格を有しないもので、単なる個人の集合体でなく、団体としての組織を有して統一された意志の下にその構成員の個性を超越して活動を行うものをいい、民法上の組合等はこれに含まれない旨定めているのは、このことを明らかにしたものであり、当該通達の取扱いは、当審判所においても相当と認める。

ロ 認定事実

 請求人提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。

(イ) 請求人を構成する組合員(以下「組合員」という。)の資格は、本件団地の各建物の区分所有権を有する者とし、組合員の包括承継人及び特定承継人は、組合員としての一切の権利義務を承継している(本件規約第○条第1項及び第2項)。

(ロ) 請求人には、請求人の総会において選出された理事長1名、副理事長2名以上、理事19名以上及び監事3名の役員を置く(本件規約第○条第1項及び第2項)。当該役員は、本件団地建物所有者でなければならない(同第○条)。

(ハ) 理事長は、請求人を代表し、その業務の統括等をする。また、理事長は区分所有法第25条《選任及び解任》に規定する管理者とする(本件規約第○条第1項及び第2項)。

(ニ) 請求人の総会は、総組合員で組織する(本件規約第○条第1項)。

(ホ) 組合員は、その所有する住戸1戸につき各1個の議決権を有し(本件規約第○条第1項)、請求人の総会の会議は、議決権総数の2分の1以上を有する組合員が出席しなければならない(同第○条第1項)。また、総会の議事は、出席組合員の議決権の過半数で決し、可否同数の場合においては、議長の決するところによる(同条第2項)。

(ヘ) 請求人の会計年度は、毎年4月1日から翌年3月31日までとし(本件規約第○条)、理事長は、毎会計年度の収支予算案を定期総会に提出し、その承認を得なければならない(同第○条第1項)。また、毎会計年度の収支決算案を監事の会計監査を経て、定期総会に報告し、その承認を得なければならない(同第○条)。

ハ 判断

(イ) 請求人は、人格のない社団等に該当するか否かについて

 請求人は、上記1の(4)のイの(イ)及び(ロ)のとおり、管理組合法人として登記されていないものの、本件団地建物所有者の全員をもって構成される団体である。かかる団体が、法人税法上の人格のない社団等に該当するには、共同の目的のために結集した人的結合体であって、まる1団体としての組織を備え、まる2多数決の原則が行われ、まる3構成員の変更にかかわらず団体そのものが存続し、まる4その組織において代表の方法、総会の運営、財産の管理その他団体としての主要な点が確定している団体でなければならないことは、上記イのとおりである。

 請求人は、「E」の共有部分及び共用施設並びに土地を管理し、これらの共同利益を維持すること及び、管理の円滑化のための居住者の理解と意思疎通及び共同の生活環境の向上を図る自治活動のための必要な業務を行うことという共同の目的のために結集した人的結合体である。そして、上記1の(4)のイの(ハ)及び上記ロのとおり、まる1「E管理組合」の名称を有し、本件規約を定め、これに基づいて本件団地の土地及び共用部分等の管理を行うこととし、総会を組織し、理事長以下の役員を置くなど、団体としての組織を備えていること、まる2請求人の総会において組合員は、その所有する住戸1戸につき各1個の議決権を有し、組合は議決権総数の2分の1以上の組合員の出席により成立し、出席者の過半数をもって議事を決定するなど多数決の原則が行われていること、まる3請求人の構成員である組合員は本件団地の区分所有権を有する者とされているから、当該区分所有権が譲渡された場合は請求人の構成員が変更されることとなるが、その変更にかかわらず、請求人は引き続き存在すること、まる4請求人の理事長、副理事長、理事及び監事の役員は上記まる2のとおり運営される総会で選出され、理事長は請求人を代表し、その業務を統括すること、総会は定期的に開催されること、また、独立した会計をもち、請求人の会計年度を毎年4月1日から翌年3月31日までとし、総会において収支予算案及び収支決算案の承認を得なければならないことなどが確定しており、代表の方法、総会の運営、財産の管理等団体としての主要な点が確定していることが認められる。これらの事実等からすれば、請求人は、上記イの(ロ)の私法上の法人格のない社団としての要件を充足した団体であると認められる。

 したがって、請求人は、人格のない社団等に該当する。

(ロ) 請求人の主張について

 請求人は、原処分庁は周知や指導をしていないのであるから、請求人には、人格のない社団等に該当するか否かの認識がない旨主張する。

 しかしながら、請求人が人格のない社団等に該当するか否かについては上記(イ)で認定説示したとおりであり、請求人に人格のない社団等に該当するか否かの認識がなかったとしても、法の不知により、法人税法の規定を適用しないとする規定はないから、この点に関する請求人の主張には理由がない。

(2) 争点2 本件賃貸収入は、請求人と本件団地建物所有者のいずれに帰属するか。

イ 法令解釈等

 区分所有法は民法の特別法であるところ、区分所有法第12条により、区分所有関係が成立している建物の共用部分の共有関係については、民法の共有に関する規定(民法第249条《共有物の使用》から第262条《共有物に関する証書》まで)に優先して、区分所有法第13条から第19条までの規定が適用される。

 区分所有建物においては、各区分所有者は、1棟の建物の一部を構成する専有部分に対して排他的な所有権を有する一方で、専有部分がその機能を保つために必要不可欠の補充的機能を営む共用部分に対して有する共有持分については、その分割又は解消を禁止され、専有部分と分離しての処分ができない(区分所有法第15条《共有部分の持分の処分》)など、相互の拘束を受ける関係にある。区分所有者らのこのような関係に照らすと、区分所有者らの間には、一種の人的結合関係が性質上当然に成立しており、各区分所有者は、当該結合関係に必然的に伴う種々の団体的拘束を受けざるを得ない関係にあると解するのが相当である。

 ところで、区分所有法第19条によれば、共用部分から生ずる利益は、規約に別段の定めがない限り区分所有者各人がこれを収取するものとされているものの、これとて必然的に団体的拘束を受けざるを得ないものであり、分配についての具体的な団体としての意思決定を経ないまま、その発生と同時に当然に各区分所有者が収受するものと解することはできない。同規定の定める区分所有者の権利は、区分所有者集会決議等により団体内において具体的に当該利益を区分所有者らに分配すべきこと並びにその金額及び時期が決定されて初めて、各区分所有者らにおいて具体的に行使可能ないわば支分権としての収益金分配請求権が生ずるということにすぎないものと解するべきである。結局、共用部分から生じた利益は、一旦区分所有者らの団体に帰属して団体の財産を構成するのであり、利益が一度団体に帰属した以上は、当該団体が法人税の納税主体であるなど一定の場合には、法人税の課税対象となり得ると解するほかない。

ロ 認定事実

 請求人提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。

(イ) 本件規約について

 本件規約は、要旨以下のように定めている。

A 本件規約には、共用部分から生ずる利益の収取について別段の定めはない。

B 本件団地建物所有者は、1戸につき月額12,000円の修繕積立金を請求人に納入しなければならない。

 また、修繕積立金は、土地及び共用部分に係る費用として積み立てこれに充当し、修繕積立金及びその利息は、理由のいかんを問わず払い戻さない。(第○条第1項及び第2項及び第○条第1項並びに別表第5)

(ロ) 請求人の定期総会等における本件賃貸収入に係る処理についての検討状況

A 平成8年4月21日に行われた定期総会において、本件賃貸借契約A−1に基づきJ社から支払われる賃貸収入を、本件団地建物所有者に分配せず、修繕積立金会計に繰り入れることが合意された。

B 平成8年5月15日に行われた定例理事会において、出席者から、J社から一月分増額して支払われた賃貸収入につき、自治会等への支払との関連から、管理費会計の収入の部への算入を検討する必要がある旨の発言があったが、同年6月12日に行われた定例理事会において、同社から支払われた1年分の賃貸収入を、修繕積立金会計の収入の部に計上することが承認された。

C 平成15年6月12日に行われた定例理事会において、本件賃貸借契約Cに基づきK社から支払われる賃貸収入については、今年度(平成15年4月から平成16年3月まで)は修繕積立金会計の収入とするが、来年度以降の運用は来年度総会で決定することとされた。

D 平成18年3月8日に行われた定例理事会において、本件賃貸借契約Bが締結されるならば、K社から支払われる賃貸収入を組合員に還元すべきであるとして、大規模災害時の必要経費として積み立てること、自治会活動やサークル活動への助成金とすること、遊具の設置等に充てることなどが提案されたが、請求人としては、管理費や修繕積立金の値上げが難しいことから、少しでも資金を貯めておく必要があるとして、その後も議論することとされた。

(ハ) 本件各事業年度における請求人の会計について

 請求人の会計は、管理組合費会計、修繕積立金会計及び水道料会計に区分されているところ、本件各事業年度の修繕積立金会計には、本件団地建物所有者が本件規約に基づいて納入する修繕積立金等とともに、本件賃貸収入が「移動通信網賃貸料」等として繰り入れられ、同会計からは、本件団地の共用部分に係る修繕費が支出された。

(ニ) その他

A 本件団地建物所有者が本件規約により納入すべき修繕積立金は、平成8年頃から平成24年3月期までの間、一月当たり12,000円であった。

B 請求人が当審判所に提出した本件団地建物所有者のうち○○戸の各区分所有者の署名・押印がある「○○書」と題する書面によれば、当該各区分所有者は、本件賃貸収入が本件賃貸借契約A−1の締結時から区分所有者(本件団地建物所有者)の収入であること及び本件団地建物所有者の同意を得て本件賃貸収入を修繕積立金会計に繰り入れ、修繕費の支払に充てていることにつき認識している旨の記載がある(日付は、平成25年2月15日ないし同月24日)。

ハ 判断

(イ) 本件賃貸収入の帰属について

 原処分庁が、本件団地の共用部分から生ずる本件賃貸収入が、本件団地建物所有者らの団体である請求人に帰属したとして、請求人に対して法人税の課税処分をしたのに対し、請求人は、本件賃貸収入は、請求人に属する各組合員であるところの本件団地建物所有者に帰属し、請求人には帰属せず、これに関して請求人に法人税の課税処分をすることはできない旨主張するから、以下本件賃貸収入の帰属について検討する。

A まず、上記(1)で述べたとおり、請求人は人格なき社団であるから、法人税法上、その構成員から独立した収益の帰属主体として扱い得ることとなる。

 ところで、上記ロの(イ)のAのとおり、本件規約には別段の定めはないから、区分所有法第19条の規定によれば、共用部分から生ずる利益は、区分所有者である本件団地建物所有者がその持分に応じて収取する権利を有していることとなる。

B しかしながら、上記1の(4)のイの(ハ)のDのとおり、本件規約第○条及び第○条に基づいて共有部分を管理する請求人が、請求人団体内部における意思決定である定期総会の決議に基づき、請求人を当事者として本件各賃貸借契約を締結し、本件賃貸収入を収受しているのであるから、上記イの法令解釈等のとおり、本件賃貸収入は一旦人格なき社団である請求人に帰属して請求人の財産を構成する。そして、本件賃貸収入が、一旦請求人に帰属した段階で、法人税の納税主体である請求人の収益として、法人税の課税対象となり得るのである。

 請求人の主張する区分所有法第19条の規定は、区分所有者集会決議等により団体内において具体的にこれを区分所有者(同法第66条により団地建物所有者と読み替えられる。)らに分配された後、初めて行使可能な収益分配請求権が生ずることをいうものにすぎないことは上記イの法令解釈等記載のとおりであって、これをもって、本件賃貸収入が請求人に帰属しないものということはできない。また、本件規約にも、本件賃貸収入が特段の分配手続を必要とせず当然に団地建物所有者各人に帰属するという請求人の主張を根拠づけるに足る規定はない。

 なお、本件において、請求人に帰属した後の本件賃貸収入については、結局、上記ロの(ロ)のとおり、定期総会等において、当該賃貸収入に係る金員を本件団地建物所有者に分配する旨の決議はされず、同(ハ)のとおり、当該金員は、一貫して、請求人の会計に繰り入れられ、団地共用部分の修繕費の支出に充てられていることが認められる。

 このことは、本件団地建物所有者の総意の下、本件賃貸収入を本件団地建物所有者へは分配せず、請求人に帰属した状態において、これを団体的拘束の下に支出しているものと認めるのが相当である。

C 以上からすると、本件賃貸収入は、本件団地建物所有者らの団体、すなわち請求人に帰属する収益であると認められる。

(ロ) 請求人の主張について

A 請求人が代理人であるとの主張について

 請求人は、区分所有法第26条第2項の規定等により、本件団地建物所有者の代理人として賃貸借契約を締結したのであり、代理人たる請求人が行った行為の効果は、直接、本人である本件団地建物所有者に帰属する旨主張する。

 しかしながら、上記1の(4)のロの(イ)のとおり、請求人は、本件各賃貸借契約を締結した当事者であると認められる。なお、請求人が本件団地建物所有者各人の代理人として当該契約を締結したのではないことは、本件各賃貸借契約の契約書中に、本件団地建物所有者各人の記載はなく、請求人が、本件団地建物所有者各人のために契約を行うことを示したとも認められないことや、仮に本件団地建物所有者各人を当事者として各賃貸借契約を締結したのであれば、契約の相手方としては、本件団地建物所有者の一部が交代するごとに新たな所有者と契約を締結する必要があるところ、本件各賃貸借契約の内容や、契約締結当時の請求人の定期総会の議事録の内容等からしても、かかる事態が想定されていたとは考え難いことからも明らかである。

 したがって、管理者がその職務に関し団地建物所有者を代理する旨定めた区分所有法第26条第2項及び第66条の規定等を根拠とした請求人の主張が、団地共用部分から生じる利益の帰属に係る上記(イ)の認定を妨げることにはならない。

B 本件賃貸収入に係る金員は、請求人の資産・資金でないとの主張について

 請求人は、まる1本件賃貸収入を本件団地建物所有者に分配し、修繕積立金の上乗せとして徴収する手続が煩雑かつ実現不可能であること、まる2本件団地建物所有者の入退去の際に、修繕積立金の徴収や払戻しの手続を行うことは実際には不可能であること、まる3請求人は独自の判断において費用配分を決定することができないことなどを理由として、修繕積立金会計に繰り入れたが、本件賃貸収入に係る金員は、本件団地建物所有者各人に帰属するものであって請求人の資産・資金ではない旨主張し、その証拠として、本件団地建物所有者のうち、8割以上の区分所有者が署名・押印した上記ロの(ニ)のBの○○書を提出している。

 しかしながら、上記1の(4)のロの(イ)及び上記(イ)のとおり、本件各賃貸借契約は請求人を当事者として締結され、これに基づく本件賃貸収入は、その費途等が定まる前に一旦請求人に帰属し、これをもって請求人の収益を構成したとみるほかないものであり、本件賃貸収入が修繕積立金に使用されるに至った個別の事情や、本件団地建物所有者の多くの者の認識によって左右されるものでもない。

 そして、請求人が本件賃貸収入に係る金員を本件団地建物所有者に分配していない理由とした上記まる1ないしまる3の内容はどうあれ、当該金員を本件団地建物所有者へは分配せず、これを団体的拘束の下に支出することが合意されていることについては、上記(イ)で説示したとおりである。

 したがって、これらの事情等があるからといって、本件賃貸収入に係る金員が請求人の資産・資金でないということはできない。

C 以上のことから、請求人の主張は、いずれも採用することができない。

(3) 争点3 本件団地の共用部分の賃貸は、収益事業(不動産貸付業)に該当するか否か。

イ 法令解釈等

 人格のない社団等は、収益事業を行う場合に限り、当該収益事業から生じた所得についてのみ法人税が課される(法人税法第4条第1項)ところ、収益事業とは、販売業、製造業その他法人税法施行令第5条第1項に掲げられた34事業に該当する事業で、継続して事業場を設けて行うものをいう。そして、当該34事業の一つである「不動産貸付業」(同項5号)とは、不動産を他の者に利用させ、対価を得る事業のことであり、賃貸借契約に基づいて土地や建物の一部を他の者に使用させる行為なども、これに当たることがある。法人税基本通達15−1−17が、同項の不動産貸付業には、店舗の一画を他の者に継続的に使用されるいわゆるケース貸し及び広告等のために建物その他の建造物の屋上、壁面等を他の者に使用させる行為なども含まれるものとしているのは、かかる趣旨を明らかにしたものであり、当該通達の取扱いは、当審判所においても相当と認める。

ロ 判断

 上記1の(4)のロのとおり、請求人は、本件団地の共用部分である塔屋の一部を賃貸して本件賃貸収入を収受しているところ、上記イのとおり、法人税法上の不動産貸付業とは、不動産を他の者に利用させ、対価を得る事業のことをいい、建物の屋上や壁面等不動産の一部を他の者に使用させて対価を得る行為も不動産貸付業に含まれ得る。そして、請求人の行った当該共用部分の賃貸は、営利目的で、建物の一画である塔屋の一部を、本件団地建物所有者以外の第三者に賃貸し、継続的に電気通信事業に関する基地局等の設備設置のために使用させて、対価を得るものであると認められるから、不動産貸付業に該当する。

 また、貸付けの対象である本件共用部分である塔屋の一部が、上記不動産貸付業の事業場に当たることは明らかであり、上記不動産貸付業は法人税法第2条第13号にいう収益事業に該当する。

 この点について、請求人は、請求人が自己の責任と負担において管理する業務とは本件規約に掲げられた業務をいうのであって、事業場を設け、業として不動産貸付けを行っているわけではない旨主張する。

 しかしながら、請求人は営利を目的として対価を得て継続的に本件共用部分の貸付けを行っているものであり、事業場を設けて不動産貸付業を行ったものと認められ、また、上記(2)のロの(ロ)及び(ハ)のとおり、請求人の定期総会の承認を得て、本件賃貸収入を本件各事業年度における請求人の会計に繰り入れるなどして管理していたのであるから、本件規約に本件の不動産貸付けが掲げられていないことによりその認定が左右されるものではない。

 したがって、この点に関する請求人の主張は、採用することができない。

ハ 請求人の予備的主張について

 請求人は、仮に、本件団地の共用部分の賃貸が収益事業に該当し、本件賃貸収入に法人税が課されるとしても、修繕積立金会計から修繕費として支出した金額の一部の損金算入を認めるべきである旨主張するので、以下、本件賃貸収入から控除すべき費用があるか否か検討する。

(イ) 法令解釈等

 上記イのとおり、人格のない社団等の当期の益金の額に算入されるのは、収益事業及びその付随行為から生じた収益に限られるのであるから、当然のこととして、当期の損金の額に算入される費用及び損失も、収益事業及びその付随行為について生じた金額に限られる。

 このため、収益事業を行う人格のない社団等は、収益事業から生ずる所得に関する経理と、収益事業以外の事業から生ずる所得に関する経理とを区分して経理することとされているところ(法人税法施行令第6条)、法人税基本通達15−2−5は、この場合の費用又は損失の区分経理について、収益事業に直接要したものについてはその収益事業に固有の費用又は経費とし、また、収益事業と収益事業以外の事業とに共通するものについては、合理的な基準によりそれぞれの事業に配賦することとし、区分経理の基準を明らかにしたものであり、当該通達の取扱いは、当審判所においても相当と認める。

 なお、この場合の費用又は損失の額は、常に一律の基準で配賦するのではなく、個々の費用又は損失の性質及び内容などに応じた合理的な基準により、それぞれ収益事業と収益事業以外の事業に配賦することとなる。

(ロ) 認定事実

 請求人提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。

A 本件各賃貸借契約における費用負担に関する条項

(A) 本件賃貸借契約A−1によれば、J社が設置したアンテナ基地局に係る固定資産税その他の公租公課は、同社の負担とし(第○条)、契約を解約又は解除したときは、同社の負担において原状回復を行い(第○条)、アンテナ基地局の維持管理は、同社の責任において行う(第○条)こととされており、本件賃貸借契約A−2によれば、J社が設置したアンテナ基地局の補修工事に要する費用は同社が負担し(第○条第3項)、賃貸借期間の満了又は解約等により契約が終了する際、同社の費用で同設備を撤去し、原状回復する(第○条(1))こととされている。

(B) 本件賃貸借契約Bによれば、K社が賃貸借物件に設置したアンテナ基地局の電気料金及び管理費を請求人に支払い(第○条)、アンテナ基地局を同社の責任と費用負担において維持管理し(第○条第3項)、契約が期間満了や契約の解除等により終了したときは、同社の費用負担によりアンテナ基地局を撤去し、賃貸借物件を原状に回復して明け渡す(第○条)こととされている。

(C) 本件賃貸借契約Cによれば、K社は、契約終了の日までに賃貸借物件を原状回復するとともにアンテナ等を除却して請求人に返還する(第○条)こととされている。

B アンテナ基地局に係る電気料金

 本件団地A棟に設置されたアンテナ基地局に係る電気料金は、J社がL社に直接支払い、本件団地B棟及びC棟に設置されたアンテナ基地局に係る電気料金は、その他の団地共用部分に係る電気料金とともに請求人がL社に支払い、後日、K社から、本件団地B棟及びC棟のアンテナ基地局に係る電気料金相当額の支払を受けている。

 なお、本件各事業年度における決算報告書(組合費会計)の支出の部には、請求人がL社に支払った団地共用部分に係る電気料金が計上されており、また、収入の部には、K社から支払を受けた電気料金相当額が雑収入として計上されている。

C 修繕積立金会計から支出した修繕費

 請求人の本件各事業年度における決算報告書(修繕積立金会計)の支出の部には、平成20年3月期に支出した、電気室内住宅用電気設備工事及び自家用変電設備改修工事、外部階段改修工事、ピロティ集合郵便箱取替、植栽用散水栓改修工事、東側外壁上部目隠パネル補修工事、各戸水道量水器取替工事、消防設備不具合箇所修理及び検査費用、設計監理委託に要した費用が、平成21年3月期に支出した、外部階段改修工事、南側ブロック塀塗装工事、集会室1階東面ブロック塀アルミフェンス化改修工事、構内標識及び看板更新、各棟外壁補修工事、設計監理に要した費用が、平成22年3月期に支出した、外部階段改修工事、地上波デジタル放送対応工事、住宅用火災警報機取付工事、C棟西側ブロック塀塗装改修工事、消火器の更新、各棟柱・壁爆裂補修工事、設計監理に要した費用が、平成23年3月期に支出した、外部鉄骨階段改修工事、同階段付属設備火災報知器配管更新工事、ブロック塀塗装改修工事、各戸引込電源容量改修工事・同改修事前調査費用、設計監理、駐輪シール作成に要した費用が、平成24年3月期に支出した、外部鉄骨階段改修工事、同階段付属設備火災報知器配管更新工事、本件団地A棟東面境界塀改修工事、外壁塗装補修工事、消防設備点検修理工事、避雷設備点検工事、管理棟共用トイレ改修工事、設計監理、植栽等整備工事に要した費用が、本件団地の共用部分に係る修繕費等として計上されている。

(ハ) 判断

A まず、上記(ロ)のAのとおり、本件各賃貸借契約によれば、賃借人であるJ社及びK社が設置したアンテナ基地局の維持管理等に係る費用は、各社が負担することとされているところ、同Bのとおり、J社が設置したアンテナ基地局に係る電気料金は、同社が個別に支払い、また、K社が設置したアンテナ基地局に係る電気料金もまた、一旦請求人が支払った後、K社から同額を受け取っているなど、それぞれ本件各賃貸借契約に則って処理していることからみて、請求人は、アンテナ基地局の維持管理等に係る個別の費用を負担していない。

B 次に、本件各事業年度の修繕積立金会計から支出した修繕費が、収益事業と収益事業以外の事業に共通する費用であるか否かについて検討するが、上記(ロ)のCのとおり、当該修繕費は、本件団地の共用部分の工事に係る費用であると認められる。

 しかしながら、上記工事費用は、外部鉄骨階段の改修、本件団地A棟東面境界塀の改修、管理棟共用トイレの改修等、上記(ロ)のC記載の工事等にかかったものと認められるが、アンテナ基地局の設置された本件団地の塔屋が、その位置からして、本件団地の躯体の存在に依存しているといえるとしても、上記各工事費用は、いずれも、本件団地の塔屋をアンテナ基地局の設置場所として賃貸するか否かにかかわらず、本件団地の維持のために要した費用であり、アンテナ基地局の維持管理等を目的として支出したとは認め難いのであって、当該修繕費が、請求人の不動産貸付業に係る費用であるとか、収益事業である不動産貸付業とそれ以外の事業に共通する費用であるとはいえない。

 その他、上記修繕費以外の費用のうちに、収益事業である不動産貸付業に要した費用や、同不動産貸付業とそれ以外の事業に共通する費用があったとは認められない。

(ニ) 以上のとおり、請求人の本件各事業年度の本件賃貸収入から控除すべき費用はないから、この点に関する請求人の主張は採用することができない。

(4) 原処分について

 上記(1)ないし(3)のとおり、請求人は人格のない社団等に該当し、本件賃貸収入が請求人の収益事業による収入であるとしてされた本件各決定処分は、いずれも適法である。

 また、本件各事業年度に係る期限内申告書の提出がなかったことについて、国税通則法第66条《無申告加算税》第1項ただし書に規定する正当な理由がある場合には該当しないので、本件各賦課決定処分は、いずれも適法である。

(5) その他

 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によってもこれを不相当とする理由は認められない。

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