(平成25年12月2日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、原処分庁が、D社(以下「本件滞納法人」という。)の滞納国税を徴収するため、当該滞納国税についての第二次納税義務の納付告知処分を受けた審査請求人(以下「請求人」という。)が所有する不動産の差押処分をしたのに対し、請求人が、当該第二次納税義務の納付告知処分は無効であるから、これを前提として行われた当該差押処分も無効であるなどとして、その全部の取消しを求めた事案である。

(2) 審査請求に至る経緯及び基礎事実

 以下の事実は、請求人と原処分庁との間に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。
イ 原処分庁は、平成19年2月27日、本件滞納法人の平成15年10月、同年11月及び平成16年1月から平成17年12月までの各月分の源泉徴収に係る所得税(以下「源泉所得税」という。)の各納税告知処分をした。
ロ 本件滞納法人は、平成24年1月17日現在、上記イの源泉所得税のうち、別表1記載の国税(以下「本件滞納国税」という。)を滞納していた。
ハ 原処分庁は、本件滞納国税を徴収するため、国税徴収法(以下「徴収法」という。)第32条《第二次納税義務の通則》第1項及び同法第33条《無限責任社員の第二次納税義務》の規定に基づき、請求人に対し、平成24年1月17日付の納付通知書により、第二次納税義務の納付告知処分(以下「本件告知処分」という。)をした。
ニ 原処分庁は、本件告知処分による納付期限までに本件滞納国税が完納されなかったとして、請求人に対し、平成24年2月29日付で徴収法第32条第2項の規定に基づき、納付催告書による督促処分をした。
ホ 原処分庁は、上記ニの納付催告書の発せられた日から起算して10日を経過した日までに本件滞納国税が完納されなかったとして、平成24年7月4日付で、徴収法第47条《差押の要件》第1項の規定に基づき、請求人が所有する別表2記載の各不動産の差押処分(原処分)をした。
ヘ 請求人は、原処分に不服があるとして、平成24年9月2日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、平成24年11月7日付で棄却の異議決定をし、その決定書謄本は、同月8日に請求人に送達された。
ト 請求人は、平成24年12月10日、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして審査請求をした。

(3) 関係法令等の要旨

 別紙のとおりである。

(4) 争点

イ 原処分の前提となる本件告知処分は無効か否か。
ロ 原処分は不当か否か。

トップに戻る

2 主張

(1) 争点イについて

イ 請求人
 原処分は、本件告知処分によって請求人が負うとされた徴収法第33条の第二次納税義務に基づきなされたものである。したがって、本件告知処分が無効であれば、これを前提とする原処分も当然に無効又は違法なものとして取り消されるべきである。
 これを本件でみるに、徴収法第33条の規定によれば、本件告知処分時において無限責任社員の地位にあった者が第二次納税義務を負うと解されるところ、請求人は、本件告知処分に係る納付通知書が発せられた平成24年1月17日時点において、本件滞納法人の定款の定めにより退社しており、本件滞納法人の無限責任社員の地位にはなかった。したがって、請求人については徴収法第33条の要件が満たされていないにもかかわらず、本件告知処分を行ったことになり、これは重大かつ明白な瑕疵であるといえるから、本件告知処分は無効である。
 そして、前提となる本件告知処分が無効である以上、上記のとおり、原処分も当然に無効又は違法なものとして取り消されるべきである。
ロ 原処分庁
 徴収法基本通達第47条関係3の定めのとおり、 本件告知処分は、第二次納税義務という租税の賦課処分であり、その後の滞納処分とは別個の法律的効果の発生を目的とする独立の行為であるから、本件告知処分と原処分との間では違法性の承継はないと解するのが相当である。したがって、仮に、本件告知処分が違法な処分であったとしても、原処分には何ら影響はない。
 なお、本件滞納国税の納税義務が成立し、滞納処分が可能となった時点においては、請求人はいまだ無限責任社員であったから、請求人について徴収法第33条に規定する無限責任社員であることの要件は満たされている。
 したがって、本件告知処分は適法であり、無効ではない。

(2) 争点ロについて

イ 請求人
 請求人は、原処分の時点において、求職中であり、収入が基準額以下の家庭に支給される職業訓練受講給付金を受けている状態であったにもかかわらず、このような請求人に対して差押処分を行うことは、不当である。
ロ 原処分庁
 原処分は、徴収法の規定に基づき適法になされており、原処分が不当とされるような事情もない。

トップに戻る

3 判断

(1) 争点イについて

 請求人は、上記2(1)イのとおり、原処分が無効又は違法である理由として、本件告知処分時には既に請求人は無限責任社員ではなく、したがって、請求人が第二次納税義務を負うとしてなされた本件告知処分は無効である旨主張するので、請求人が徴収法第33条の規定により第二次納税義務を負うか否かについて、以下、検討する。
イ 法令解釈
 合資会社の債務については当該合資会社の無限責任社員が当該合資会社と連帯して弁済する責任を負うことは、会社法第580条に規定されているところ、同条は同条にいう債務について何ら限定していないから、同条の債務には租税債務は含まれると解される。そして、無限責任社員が同責任を負うには、同条第1項各号の規定により、当該合資会社の財産をもってその債務を完済することができない場合、又は、当該合資会社の財産に対する強制執行がその効を奏しなかった場合のいずれかの要件を満たすことが必要である。しかしながら、反復的かつ大量に発生する滞納国税を徴収するために、債務名義を取得した上で滞納者の財産に対する強制執行により当該滞納国税を徴収することは、国家財源である国税の早期かつ確実な徴収という観点からは妥当ではなく、このことは、国税の納税義務を本来の納税義務者以外の者に二次的に負わせる第二次納税義務についてもいえることである。
 そのため、徴収法第33条は、合資会社の無限責任社員に対し、合資会社の財産について滞納処分を執行してもなおその徴収すべき額に不足すると認められるときは、合資会社の無限責任社員に対して第二次納税義務を負わせ、債務名義を要せずに直接無限責任社員に対して滞納処分を行うことを可能とすることで、国税の徴収確保を図ったものと解される。かかる徴収法第33条の趣旨からすると、無限責任社員が会社法の規定により弁済責任を負う範囲の租税債務については、当然に徴収法第33条によって第二次納税義務を負わせるのが妥当であるところ、無限責任社員の弁済責任が会社債務の発生と同時に生じることからすると、会社債務の発生時、すなわち第二次納税義務に係る租税債務が成立した時点において無限責任社員であった者は、同条により第二次納税義務を負うと解するのが相当である。
ロ 認定事実
 請求人提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の各事実が認められる。
(イ) 請求人は、平成12年3月28日、本件滞納法人の無限責任社員となり、その旨の登記がなされた。
(ロ) 本件滞納法人の定款には、「社員の在職期間中に税金滞納処分としての差し押さえを受けた者」は社員の欠格事由に該当する旨の条項がある。
(ハ) 請求人は、平成19年11月16日、a市長による差押処分を受けたことにより、同日、本件滞納法人を法定退社した。
ハ 判断
 本件滞納国税は、上記1(2)イ及びロのとおり、本件滞納法人の平成15年10月、同年11月及び平成16年1月から平成17年12月までの各月分の源泉所得税であるから、当該各月の源泉徴収の対象となる所得の支払時にそれぞれ納税義務が成立していたと認められる(通則法第15条第2項第2号)。
 そうすると、本件滞納国税に係る租税債務は、上記各月の源泉徴収の対象となる所得の支払時である平成15年10月、同年11月及び平成16年1月から平成17年12月までの各月に成立していたものと認められ、請求人は、いずれの時点においても本件滞納法人の無限責任社員であった。そうすると、上記イのとおり、請求人は、第二次納税義務に係る租税債務が成立した時点において無限責任社員であったことになるから、当該債務について、第二次納税義務を負うこととなり、一旦成立した第二次納税義務が法定退社により消滅する旨の法令上の規定はない。
 したがって、請求人が第二次納税義務を負うとしてなされた本件告知処分にその要件を欠くところはなく無効ではないから、これを前提とする請求人の主張も理由がない。

(2) 争点ロについて

 請求人は、収入が基準額以下の家庭に支給される職業訓練受講給付金を受けている状態であったにもかかわらず、このような請求人に対して差押処分を行うことは、不当である旨主張するので、以下審理する。
 この点、 徴収法第47条第1項第1号は、滞納者が督促を受け、その督促に係る国税をその督促状(納付催告書)を発した日から起算して10日を経過した日までに完納しないときは、徴収職員は滞納者の国税につき、その財産を差し押さえなければならない旨規定しているところ、本件においては、上記1(2)ホのとおり、同号に該当する事実が認められ、これに基づいてなされた原処分には何ら不当な点などなく、その他、当審判所の調査の結果によっても原処分が不当となるような事情は見当たらず、請求人の主張には理由がない。

(3) 原処分について

 原処分庁は、上記1(2)ハからホまでのとおり、徴収法第32条の規定に基づく本件告知処分及び督促処分を経た上、徴収法第47条第1項第1号の規定に基づき原処分を行ったことが認められるから、原処分は適法である。

(4) その他

 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

トップに戻る