(平成25年12月9日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、原処分庁が、J社の滞納国税を徴収するため、審査請求人(以下「請求人」という。)に対して国税徴収法(以下「徴収法」という。)第35条《同族会社の第二次納税義務》に規定する第二次納税義務の各納付告知処分を行ったのに対し、請求人が、同各納付通知書を発した時点においてJ社は請求人の株式を所有しておらず、第二次納税義務を負わないなどとして、その全部の取消しを求めた事案である。

(2) 審査請求に至る経緯及び基礎事実

 以下の事実については、請求人と原処分庁との間に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。

イ 当事者等について
(イ) K社及びL社について
 K社及びL社は、いずれもMが代表者ないし取締役を務め、同人が事実上経営している主に古物販売を業とする法人である。
(ロ) J社について
 J社(以下「本件滞納会社」という。)は、不動産賃貸等を業とする法人であり、その全発行済株式を同社の代表者であるGが所有する同族会社(法人税法第2条《定義》第10号)であったが、平成23年12月31日に解散し、Gが代表清算人となった。
 なお、本件滞納会社が賃貸していた不動産は、K社及びL社から譲り受けたものであった。
(ハ) 請求人について
 請求人は、平成23年10月○日付で本件滞納会社の新設分割により設立され、Gを代表者とする、主に不動産賃貸を業とする法人である。
 請求人は、設立に当たり株式100株(以下「本件株式」という。)を発行して、本件滞納会社に割り当てた。なお、請求人には株券を発行する旨の定款の定めがない。

ロ 審査請求に至る経緯等について
(イ) K社及びL社に対する処分等
A 原処分庁は、平成22年6月1日から平成23年8月19日までの間、K社及びL社が納付すべき各滞納国税について、国税通則法(以下「通則法」という。)第43条《国税の徴収の所轄庁》第3項の規定に基づき、P税務署長からそれぞれ徴収の引継ぎを受けた。
B K社及びL社は、平成23年8月○日午後1時30分に、P地方裁判所においてそれぞれ破産手続開始決定を受けた。
 これに対し、原処分庁は、K社及びL社が納付すべき各滞納国税を徴収するため、上記裁判所及び破産管財人に対して平成23年8月22日付及び平成24年4月6日付で徴収法第82条《交付要求の手続》第1項の規定に基づきそれぞれ交付要求した。
(ロ) 本件滞納会社に対する処分等
A 本件滞納会社は、K社から不動産を購入していたところ、原処分庁は、同購入代金が著しく低額であるとして、平成24年3月16日付で、K社が納付すべき滞納国税を徴収するため、徴収法第32条《第二次納税義務の通則》第1項及び同法第39条《無償又は著しい低額の譲受人等の第二次納税義務》の規定に基づき、本件滞納会社に対して、徴収しようとする金額の限度額をそれぞれ□□□□円及び△△△△円とし、納付の期限をいずれも平成24年4月16日とする第二次納税義務の各納付告知処分を行った(以下、□□□□円を限度とする納付告知処分を「甲納付告知処分」、及び、甲納付告知処分に係る第二次納税義務を「甲第二次納税義務」といい、△△△△円を限度とする納付告知処分を「乙納付告知処分」、及び、乙納付告知処分に係る第二次納税義務を「乙第二次納税義務」という。)。
B 本件滞納会社は、L社からも不動産を購入していたところ、原処分庁は、同購入代金が著しく低額であるとして、平成24年3月16日付で、L社が納付すべき滞納国税を徴収するため、徴収法第32条第1項及び同法第39条の規定に基づき、本件滞納会社に対し、納付すべき金額の限度額を○○○○円とし、納付の期限を平成24年4月16日とする第二次納税義務の納付告知処分を行った(以下、この納付告知処分を「丙納付告知処分」、丙納付告知処分に係る第二次納税義務を「丙第二次納税義務」といい、甲第二次納税義務及び乙第二次納税義務と併せて「先行各第二次納税義務」という。)。
C 原処分庁は、本件滞納会社が先行各第二次納税義務に係る各滞納国税を、その納期限である平成24年4月16日までに完納しなかったことから、本件滞納会社に対し、平成24年4月17日付で、徴収法第32条第2項の規定に基づき、各納付催告書を送付することによりその納付を督促した。
D 原処分庁は、本件滞納会社が本件株式を所有していると認定した上で、上記イ(ロ)のとおり、本件滞納会社が解散していることから、徴収法第47条《差押の要件》第2項の規定が適用されるとして、先行各第二次納税義務に係る各滞納国税を徴収するため、平成24年4月19日付で、本件株式についての各差押処分(以下、この各差押処分を併せて「本件各差押処分」という。)を行った。
 なお、本件滞納会社は、平成24年4月12日及び同年12月7日に先行各第二次納税義務に係る各滞納国税につき各○○○○円合計○○○○円を納付している。
E 原処分庁は、本件滞納会社が納付すべき乙第二次納税義務に係る滞納国税を徴収するため、平成24年11月○日に本件株式を入札の方法により公売に付したが入札者はなかった。
 また、原処分庁は、再度、本件滞納会社が納付すべき乙第二次納税義務に係る滞納国税を徴収するため、平成24年12月○日に本件株式を入札の方法により公売に付したが入札者はなかった。
(ハ) 請求人に対する処分等
 原処分庁は、先行各第二次納税義務に係る各滞納国税のうち、既に本件滞納会社が納付した○○○○円を差し引いた金額を徴収するため、徴収法第32条第1項及び同法第35条の規定に基づき、請求人に対し、平成24年12月20日に、先行各第二次納税義務それぞれについて、いずれも納付すべき金額の限度を○○○○円とし、また、納付の期限を平成25年1月21日と記載した同日付の各納付通知書(以下「本件各納付通知書」という。)により、第二次納税義務の各納付告知処分を行った(以下、これらの処分を併せて「本件各納付告知処分」という。)。
(ニ) 審査請求
 請求人は、本件各納付告知処分を不服として、平成25年1月14日に国税不服審判所長に対し、本件各納付告知処分の全部の取消しを求めて審査請求をした。

(3) 関係法令の要旨

 別紙のとおり。

(4) 争点

イ 本件各納付通知書を発した時点において、本件滞納会社は、本件株式を有していたか否か。
ロ 本件各納付通知書を発した時点における本件株式の価額はいくらか。
ハ 本件各納付告知処分は信義則に反する違法な処分か否か。

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2 主張

(1) 争点イについて

イ 原処分庁
 本件滞納会社は、以下の事実からすると、本件各納付通知書を発した平成24年12月20日時点において、本件株式を有していたといえる。
(イ) 本件滞納会社の元代表者及び請求人の代表者であるGは、原処分に係る調査を担当した職員(以下「原処分担当職員」という。)が行った、平成24年3月7日、同月16日及び同年4月19日の質問調査に対して、本件株式は本件滞納会社が有しており、売却した事実はない旨申述している。Gは、本件滞納会社の元代表者及び請求人の代表者であり、最も本件株式の状況を知り得る立場にある者であるから、その申述は信用できる。
(ロ) 請求人が、本件滞納会社からQ(旧姓R。平成25年3月12日改姓。以下「Q」という。)へ本件株式が譲渡されたことを証する証拠とする平成23年12月18日付株式譲渡確認書(以下「本件確認書」という。)と平成23年12月19日付株式譲渡契約書は、譲渡したとされる日が書面によって異なっており、両資料とも信用できない。
(ハ) 請求人は、本件滞納会社はQに対して本件株式を売却することにより、同売却代金請求債権と本件滞納会社がQに対して負っていた債務を相殺したと主張するが、そもそも本件滞納会社は、その当時、Qに対して債務を負っていなかった。
ロ 請求人
 本件滞納会社は、以下の事実からすると、本件各納付通知書が発せられた平成24年12月20日時点において、本件株式を有していなかった。
(イ) 本件滞納会社は、Qに対し借入金債務を負っていたところ、本件株式を同人に売却することで、同売却代金請求債権と借入金債務を相殺し、更に、GがQから本件株式を購入することで、本件滞納会社の負債額を減らすとともにQに現金を取得させることを目的として、平成23年12月18日にQへ売却し、更に、同月19日にQがGへ売却している。
(ロ) 上記本件株式の譲渡については、本件確認書及び契約書が存すること、また、平成23年10月○日から平成23年12月31日までの事業年度に係る請求人の法人税確定申告書において、本件株式の株主はGと記載されており、請求人の株主名簿においても本件株式の株主はGとなっている。
(ハ) 本件滞納会社は、株主名簿の作成及び本件株式の譲渡について請求人の関与税理士であるS税理士(以下「本件関与税理士」という。)及びT司法書士に任せていたため、Gは本件株式の譲渡等についての詳細を把握しておらず、原処分担当職員に対し、事実と異なる申述をしたものである。したがって、Gの原処分庁に対する平成24年3月7日付、同月16日付及び同年4月19日付の各申述には信用性がない。

(2) 争点ロについて

イ 原処分庁
 原処分庁は、本件株式を平成24年4月19日付で差し押さえているところ、滞納処分による差押えは、差押処分の時点で目的財産についての権利関係を固定することによって、差押え後における目的財産の価値を減少ないし消滅させる行為を禁止するとともに、権利関係の変動を防止して公売手続の円滑な遂行を確保することを目的とするものである。したがって、滞納処分による差押えは、目的財産に対する債務者の処分行為を禁止し、これに反して債務者が行った処分行為の効力を否定、制限するとともに、その後の第三者の目的財産に対する権利行使の効力をも否定、制限するものであると解されている。
 ところで、本件滞納会社は、平成24年11月21日に請求人と共通の代表者であったGを通して請求人に新株200株を発行しているが、これは差押財産である本件株式の価値を減少させる行為といえ、かかる行為の効力は否定されることから、請求人は、原処分庁に対し、上記新株発行の効力を主張できない。
 したがって、本件株式の価額は、請求人の発行済株式の総数が100株であることを前提に算出すべきであり、そうすると○○○○円となる。
ロ 請求人
 仮に、請求人が第二次納税義務を負うのだとしても、本件各納付通知書を発した平成24年12月20日時点における請求人の発行済株式の総数は300株であるから、本件株式の価額は、これを前提に算出すべきであり、そうすると○○○○円となる。

(3) 争点ハについて

イ 原処分庁
 租税法規に適合する税務官庁の処分について、信義則の法理の適用により、これを違法として取り消す場合には、租税法規の適用における納税者間の平等、公平という要請を犠牲にしてもなお、処分を取り消して納税者の信頼を保護しなければ正義に反するといえるような特別の事情が存在することが必要であると解されるところ、本件において、租税法規の適用における納税者間の平等、公平という要請を犠牲にしてもなお本件各納付告知処分を取り消して請求人の信頼を保護しなければ正義に反するといえるような特別の事情は何ら認められない。
ロ 請求人
 そもそも、請求人は、第二次納税義務を負うとして本件各納付告知処分を受けたところ、原処分庁は、K社とL社の各破産財団から滞納国税全額を徴収することができるのであるから、信義則上、請求人に第二次納税義務を負わせるべきではない。よって、本件各納付告知処分は信義則に反する違法な処分である。

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3 判断

(1) 争点イについて

イ 認定事実
 請求人提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
(イ) MとQは婚姻していたが、平成25年3月8日、離婚した。
(ロ) 本件滞納会社及び請求人の申告は、本件関与税理士が代理人となっていた。
(ハ) 本件株式の譲渡に関する資料について
 本件株式の譲渡に関し、要旨以下のとおりの記載のある資料(以下、AからDまでを併せて「本件各資料」という。)が存在する。
A 本件確認書
(A) 譲渡日 平成23年12月18日
(B) 売買代金 金10,000,000円
(C) 譲渡人 本件滞納会社(記名押印)
(D) 譲受人 R(記名押印)
B 平成23年12月19日付株式譲渡契約書
(A) 譲渡日 平成23年12月19日
(B) 売買代金 金10,000,000円
(C) 譲渡人 本件滞納会社(記名押印)
(D) 譲受人 R(署名押印)
C 平成23年12月19日付株式譲渡契約書(以下、上記Bの契約書と併せて「本件両契約書」という。)
(A) 譲渡日 平成23年12月19日
(B) 売買代金 金10,000,000円
(C) 譲渡人 R(署名押印)
(D) 譲受人 G(署名押印)
D 領収書5通(以下「本件各領収書」という。)
本件各領収書の宛名はいずれもGであり、発行者として「R」と記名押印されている。また、ただし書には「本日F社(請求人)株式譲渡における代金の一部として受領いたしました。」と記載されている。
(A) 領収日 平成23年12月19日
 受領金額 金100万円
(B) 領収日 平成24年6月23日
 受領金額 金100万円
(C) 領収日 平成24年7月30日
 受領金額 金30万円
(D) 領収日 平成24年9月18日
 受領金額 金20万円
(E) 領収日 平成24年11月26日
 受領金額 金30万円
(ニ) 請求人の株主名簿について
 請求人の株主名簿(以下「本件株主名簿」という。)には、平成23年12月18日に本件株式が本件滞納会社からQへ、翌19日に本件株式がQからGへ各譲渡された旨記載されている。
(ホ) 請求人の申告書における本件株式の保有者の記載状況について
 請求人の平成23年10月○日から同年12月31日までの事業年度(以下「平成23年12月期」といい、以下同様の用法にて事業年度を表すことがある。)の法人税確定申告書の別表二「同族会社等の判定に関する明細書」には、請求人の総発行済株式である本件株式の株主はGである旨記載されている。
(ヘ) 本件滞納会社の決算報告書及び総勘定元帳の記載状況について
A 本件滞納会社の平成22年12月期の法人税確定申告書添付の決算報告書(勘定科目内訳書)には、借入先としてK社のみが記載されており、同社からの期末時点での借入残高は127,196,988円と記載されているが、平成23年5月頃、同借入金はK社ではなくGからの借入金であった旨記載された書面がP税務署長に提出されている。
 本件滞納会社の平成23年12月期の法人税確定申告書添付の決算報告書(勘定科目内訳書)には、借入先としてQのみが記載されており、期末時点でのQからの借入残高は31,951,197円と記載されている。
 また、同申告書添付の貸借対照表の資産の部には、「投資有価証券」として10,000,000円が記載されている。
B 本件滞納会社の平成23年12月期の総勘定元帳には、前期からの繰越しとして127,196,988円の借入金が記帳され(総勘定元帳にはその借入先の記載はない。)、その後借入金額の増減を経て、平成23年12月31日に、借入金のうち76,567,540円をMが債務免除した旨記載され、期末借入金残高は31,951,197円となっている。
 また、同総勘定元帳には、「投資有価証券」の項目に、平成23年10月19日付で摘要欄に「F社(請求人)」、借方欄に「10,000,000」の記載があるが、Qや本件株式の売却代金に関する記載はない。
(ト) Gの答述について
 Gは、平成25年4月16日及び同年7月8日、当審判所に対し、大要、以下のとおり答述した。
A 私は、平成24年3月7日及び同月16日に原処分担当職員に対し、本件滞納会社が本件株式を有していると申述をしたが、同月16日から数日後、本件関与税理士から、本件滞納会社が本件株式をQに売却し、更に自分がQから本件株式を購入するようにしたと聞かされた。本件関与税理士は、本件滞納会社がQに対し本件株式を売却した理由を本件滞納会社がQに対し負っていた債務を返済するためと説明し、私がQから本件株式を購入した理由をそのようにしたほうが良いからと説明していたが、Qから本件株式を買うことが、何にどう良いのかは分からなかった。
 私は、意味も分からないまま代金1,000万円を分割でQに支払っている。なお、代金はMに手渡しで支払い、Mから本件各領収書を受け取っていたが、平成24年11月26日以降は、請求人の事業の先行きが不透明であるため支払っていない。
 私は、本件関与税理士に、事前に本件滞納会社及び私の資産売買を許諾したり、何らかの代理権を与えたりしたことはない。
B 私は、本件両契約書及び本件確認書には、書面記載の日付に近い時期に署名押印していると思う。しかし、私は、この当時は、本件関与税理士に言われるままに書類に判をついていたので、書類の意味などは分かっていなかった。
C 本件株主名簿は、本件関与税理士が作成したものである。
(チ) Qは、当審判所に対し、大要、以下のとおり、平成25年9月10日付及び同月28日付書面にて回答した。
A 私は、請求人及びGのことは知らない。
B 私は、本件滞納会社から本件株式を購入したことはない。
C 私は、本件各資料に署名押印ないし記名押印したことはないし、署名押印ないし記名押印を誰かに頼んだこともない。
D 私は、本件滞納会社に金銭を貸したことはない。
(リ) 本件関与税理士は、平成25年7月29日、当審判所に対し、大要、以下のとおり答述した。
A 私は、平成24年2月頃、請求人の平成23年12月期の法人税確定申告書を作成していたところ、Mから、請求人の株主はGであるから、申告書にもそのように記載してほしいと言われた。このとき、私は、Mから本件株式の譲渡に関する契約書の作成を依頼されたので、本件確認書の文案を作成し、印刷してMに渡した。本件両契約書は私が作ったものではなく、今まで見たことすらない。
 私は、本件株式の譲渡に関連して行ったのは、上記の本件確認書の文案の作成だけで、本件滞納会社、G及びQのやり取りを仲介したり、代理したりしたことはない。
B 私は、本件株主名簿を作成していないし、これまで見たこともない。
C 本件滞納会社の総勘定元帳には、Qからの借入金の存在を示す記載はなく、また、本件滞納会社の決算報告書(勘定科目内訳書)の借入金の記載も、Mに言われたままに私が記載しただけである。私には、本件滞納会社にQからの借入金があったのかなかったのか、分からない。
ロ 答述の信用性及び本件各資料の成立の真正について
 本件では、本件各納付通知書を発した時点(平成24年12月20日)において、本件滞納会社が本件株式を有していたか否かが争いの一つ(争点イ)となっているところ、請求人は、本件滞納会社が平成23年12月18日に本件株式をQに譲渡し、翌19日、QがGに本件株式を譲渡し(以下、一連の本件株式の譲渡を併せて「本件株式の移転」という。)、以後は、Gがそのまま本件株式を所持していると主張して、本件各資料を提出し、Gも請求人主張に沿うような答述をしている。他方でQは、本件株式の移転及び本件各資料への署名押印を否定する答述をし、また、本件関与税理士もGの答述に反する答述をするので、以下、Q、本件関与税理士及びGの各答述の信用性とともに、本件各資料の成立の真正について判断する。
(イ) Q、本件関与税理士及びGの答述の信用性
A Qの答述について
 Qは、本件株式を本件滞納会社から購入し、かつ、本件株式をGに売却した事実はなく、また、本件両契約書等に署名押印したことはない旨答述している。
 この点、本件両契約書等におけるQの署名の字体と当審判所に提出したQの回答書の署名の字体は明らかに異なっており、Qの答述はかかる客観証拠の状況と整合する。また、Qは、請求人とは無関係の第三者であり、本件審査請求に関して利害関係を有しておらず、その答述を求められた内容についても、本件株式の売買や本件滞納会社に対する債権の有無といった内容であり、いずれも同人にとって虚偽を述べる必要がない事柄に関するものであるから、Qにおいて、あえて虚偽の答述をする動機は見当たらない。そうすると、Qの答述については、特段、その信用性を疑わせるような事情は認められないというべきである。
 この点、Qは、本件滞納会社に対し、金員を貸し付けたことはない旨答述しているところ、本件滞納会社の平成23年12月期の決算報告書には、Qから31,951,197円の借入金がある旨記載されており、Qの答述が客観的証拠と矛盾しているかのようである。
 しかし、上記イ(ヘ)Bのとおり、平成23年12月期の本件滞納会社の総勘定元帳には、Qからの借入金の存在を示すような記載はない上、前期の平成22年12月期の決算報告書には、Qではなく、K社から127,196,988円の借入金が存する旨記載されており(なお、これは後日、Gからの借入金である旨記載された書面がP税務署長に提出されている。)、同記載と総勘定元帳の記載を併せ鑑みると、Qからの借入金とされている金員は、K社改めGからの借入金として申告されていたものと認められる。そうすると、本件滞納会社の決算報告書の記載内容は、通常、間違いが混入するとは考えられない借入先の記載が変更されており、そもそも信用し難い上、その内容を裏付ける帳簿の記帳もないのであるから、平成23年12月期の決算報告書のうち、Qからの借入金がある旨の記載内容は信用することはできず、その記載内容によってQの上記答述の信用性が減殺されることにはならない。
 以上からすると、Qの答述には信用性が認められる。
B 本件関与税理士の答述について
 本件関与税理士は、自らが本件株式の移転を決定したり、GとQの間を仲介する等をしたりしたことはないとし、また、本件各資料のうち本件確認書のみが自らの作成に係るものである旨答述している。
 本件関与税理士は、自らが本件株式の移転を仲介したことはないとしながらも、本件株式の移転の事実の有無そのものについては、Mから本件株式の移転があったと聞いただけであり、本件株式の移転が本当にあったか否かは分からない旨答述し、また、本件滞納会社のQからの借入金の有無についても、本件滞納会社の総勘定元帳や決算報告書(勘定科目内訳書)の借入金の各記載に整合性が取れていないことを踏まえた上で、Qからの借入金の存否も自分では分からない旨答述するなど、自身が知っていることと知らないことを明確に区別して答述していることからすると、その答述態度は真摯なものといえる。
 また、本件関与税理士は、本件滞納会社及び請求人の法人税申告の代理人を務める者であり、あえて虚偽の答述をしてまで、請求人やGの不利益を図る動機は認められない上、本件確認書及び本件両契約書の作成に関しても、本件確認書の文案を作成したとしながら、本件両契約書については作成していない旨あえて虚偽の答述をする動機も見当たらない。
 以上からすると、本件関与税理士の答述には信用性が認められる。
C Gの答述について
(A) Gは、本件株式の移転は全て本件関与税理士が行ったことであり、自分は売買から約3か月後に同事実の報告を受けてこれを追認したものである旨答述する一方、本件関与税理士には本件滞納会社及びG自身の資産売買に関する代理権を授与したことはない旨も答述している。
 しかしながら、何らの権限も有していない本件関与税理士が、Gに無断で本件株式の移転を決定すること自体が不自然であるし、そもそも、本件関与税理士が独断で本件株式の移転を決定する動機やメリットが何ら認められない。また、Gが、自らが1,000万円もの代金を支払って株式を購入することを無権限者である本件関与税理士から事後報告のようにして聞かされながら、それを何の抵抗もなく承諾したというのも極めて不自然というほかない。
 さらに、Gは、Qから本件株式を購入することを承諾した理由について、本件関与税理士からそのようにしたほうが良いと言われたからであるとし、更に、何にどう良いのか分からないまま代金を支払っているなどと答述しており、真に本件株式の購入を承諾して1,000万円もの代金債務を負った者であれば、通常、その理由を問いただすであろう点について、これをせずにひたすら代金だけを支払っていたという、極めて不可解としか考えられないような答述をしている。
 そして、Gは、本件両契約書への署名押印も本件関与税理士に言われるまま行ったものであり、本件両契約書の意味が分からなかった旨も答述するが、「契約書」という体裁の書面に言われるままに署名押印をするということ自体不合理である上、本件両契約書の記載内容の単純さからしても、その意味が分からなかったというのも不自然極まりない。
 さらに、Gは、本件株式の代金をMを通じてQに支払い、Mを通じてQから本件各領収書を受け取った旨答述しているが、本件各領収書には、Gが本件関与税理士から本件株式の移転の話を聞いたとする平成24年3月より以前の平成23年12月19日付のものがある。Gは、その答述によれば、平成23年12月19日当時、本件株式を購入したことの認識がなかったはずであるにもかかわらず、Mを通じてQに100万円もの代金を支払った上、「株式譲渡における代金の一部として受領」などと記載された領収書を受領していたというのであって、Gの答述は、自ら代表者を務める請求人が提出した本件各資料とすら整合しないものである。
(B) 以上のとおり、Gの答述は、その内容自体が極めて不自然、不合理であり、また、請求人自身が提出した証拠(本件各資料)とすら整合しないものである上、上記A及びBのとおり、信用性の認められるQ及び本件関与税理士の答述とも反するものであり、到底信用することはできない。
(ロ) 本件各資料の成立の真正について
 次いで、本件各資料の成立の真正について判断するに、信用性の認められるQの答述によれば、Qは、本件各資料に署名押印ないし記名押印したことはなく、誰かにこれを依頼したこともないというのであるから、本件各資料のQの署名押印部分はQの意思に基づいたものではなく、本件各資料の成立の真正は認められない。
ハ 結論
(イ) 以上のとおり、信用性の認められるQ及び本件関与税理士の各答述からすると、本件滞納会社が、Qに対し、平成23年12月18日に本件株式を譲渡した事実は認められず、本件各差押処分がなされた平成24年4月19日時点までは本件滞納会社が本件株式を有していたと認められ、平成24年4月19日以降においても、本件滞納会社が本件株式を他に譲渡したことを認めるに足りる証拠もない。
 したがって、原処分庁が本件各納付通知書を発した平成24年12月20日時点において、本件滞納会社は、本件株式を有していたものと認められる。
(ロ) なお、請求人は、本件株式の移転を証する証拠として、本件各資料を提出するが、上記ロ(ロ)のとおり、本件各資料の成立の真正は認められないから、本件各資料によって本件株式の移転を認めることはできない。また、本件株主名簿や請求人の平成23年12月期の法人税確定申告書の別表二(請求人の株主がGである旨記載されている。)も、その作成経緯が不明であったり本件関与税理士がMから言われたままに作成したものであることからするとその記載内容も信用することはできず、上記認定を覆す証拠とはならない。

(2) 争点ロについて

イ 認定事実
 請求人提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
(イ) 請求人は、平成24年11月21日、新たに請求人株式200株を発行し、これをGに割り当てた(以下「本件増資」という。)。
(ロ) 請求人の平成24年12月20日の直前の決算期における資産の総額は○○○○円、また、負債の総額は59,721,674円であった。
ロ 結論
(イ) 徴収法第35条に基づく第二次納税義務における限度額は、同条第1項により、滞納者が所有する株式の価額である旨規定されており、同条第2項により、その株式の価額は、納付通知書を発する時における同族会社(本件においては請求人)の資産の総額から負債の総額を控除した額をその株式の数で除した額を基礎として計算した額によると規定されている。
 これを本件でみると、上記イのとおり、本件各納付通知書が発せられた平成24年12月20日時点における請求人の資産の総額は○○○○円、負債の総額は59,721,674円であり、発行済株式の総数は300株であることが認められるから、本件各納付告知書を発した時点における本件株式の価額は○○○○円となる。
(ロ) 原処分庁の主張
 この点、原処分庁は、本件株式は本件各差押処分により差し押さえられているところ、本件増資は、本件滞納会社が請求人と共通の代表者であるGを通して請求人に行わせたことであり、これは差押財産である本件株式の価値を減少させる行為であるから、本件各差押処分の効果により、請求人は、原処分庁に対し、本件増資の効果を主張できず、本件株式の価額は請求人の発行済株式の総数が本件株式の100株のみであることを前提に計算すべきと主張する。
 しかしながら、そもそも差押処分による処分禁止効とは、被差押財産そのものに対する処分を禁止する効力をいうところ、請求人が新株発行により増資することは、被差押財産である本件株式そのものに対する処分ではない。確かに本件では、請求人が本件増資を行ったことにより、本件株式の価額が減じられることになっているが、それは増資によって請求人の発行済株式の総数と資産の額に変動が生じた結果にすぎないのであって、そのことを捉えて、本件増資が本件株式そのものに対する処分であるということはできない。したがって、この点に関する原処分庁の主張には理由がない。

(3) 争点ハについて

イ 法令解釈
 租税法規に適合する処分について、法の一般原理である信義則の法理の適用によりこれを違法として取り消すことができるのは、租税法規の適用における納税者間の平等、公平という要請を犠牲にしてもなお、当該処分による滞納国税の徴収を免れしめて納税者の信頼を保護しなければならない特別の事情が存在する場合に限られるべきであり、この特別の事情が存在するか否かの判断に当たっては、税務官庁が納税者に対し公的見解を表示したことにより、納税者がその表示を信頼しその信頼に基づいて行動したところ、後に当該表示に反する処分が行われ、そのために納税者が経済的不利益を受けることになったかどうか、また、納税者が税務官庁の当該表示を信頼しその信頼に基づいて行動したことについて納税者の責めに帰すべき事由がないかどうかという点の考慮は不可欠なものであるというべきである。
ロ 結論
 請求人は、原処分庁はK社とL社の各破産財団から滞納国税全額を徴収することができるのであるから、信義則上、請求人に第二次納税義務を負わせるべきではない旨主張する。しかしながら、本件各納付告知処分に関し信義則が適用される要件は上記イのとおりであるところ、請求人の主張は上記各要件のいずれにも該当せず、かつ、当審判所の調査によっても、他に上記各要件を満たす事実は認められない。したがって、請求人の主張には理由がない。

(4) 本件各納付告知処分について

 以上のとおり、本件滞納会社は、本件各納付通知書が発せられた平成24年12月20日時点において、本件株式を有しており、請求人は、本件滞納会社を判定の基礎となる株主として選定した場合に法人税法第2条第10号に規定する同族会社に該当し、また、本件滞納会社は本件各納付告知処分を行った時点で既に解散しており見るべき資産がなく、徴収不足が認められる。そして、本件株式は2度公売に付されながら買受人がなかったこと、及び、本件株式については株券が発行されておらず、譲渡につき支障があることが認められる。したがって、請求人は徴収法第35条に基づく第二次納税義務を負うが、その納付すべき限度の額は、本件株式の価額である○○○○円となる。
 そうすると、本件各納付告知処分は、いずれも○○○○円を超える部分について取り消すべきである。

(5) 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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