(平成26年2月21日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)の法人税について、原処分庁が、国税通則法(平成23年法律第114号による改正前のものをいい、以下「通則法」という。)第68条《重加算税》に規定する「隠ぺい又は仮装」の行為に該当する雑収入計上漏れの事実が認められ、また、販売促進費は租税特別措置法(以下「措置法」という。)第62条《使途秘匿金の支出がある場合の課税の特例》に規定する使途秘匿金に該当し、旅費交通費のうち業務に関連した事実が明らかでない支出は損金の額に算入されないなどとする更正処分等を行ったのに対し、請求人が、当該更正処分の理由として記載された内容には不備があり、雑収入計上漏れの事実はなく、また、販売促進費及び旅費交通費の一部はいずれも損金の額に算入されるべきであるとして、原処分の一部の取消しを求めた事案である。

(2) 審査請求に至る経緯

イ 請求人は、平成16年11月1日から平成17年10月31日まで、平成18年11月1日から平成19年10月31日まで、平成19年11月1日から平成20年10月31日まで、平成20年11月1日から平成21年10月31日まで、平成21年11月1日から平成22年10月31日まで及び平成22年11月1日から平成23年10月31日までの各事業年度(以下、順次「平成17年10月期」、「平成19年10月期」、「平成20年10月期」、「平成21年10月期」、「平成22年10月期」及び「平成23年10月期」といい、これらの各事業年度を併せて「本件各事業年度」という。)の法人税について、青色の確定申告書に別表1の「確定申告」欄のとおり記載して、いずれも法定申告期限までに申告した。

ロ 原処分庁は、原処分庁所属の調査担当職員(以下「本件調査担当者」という。)の調査に基づき、平成24年12月25日付で、本件各事業年度の法人税の各更正処分(以下、本件各事業年度に係る区分ごとに、順次「平成17年10月期更正処分」、「平成19年10月期更正処分」、「平成20年10月期更正処分」、「平成21年10月期更正処分」、「平成22年10月期更正処分」及び「平成23年10月期更正処分」といい、これらの各更正処分を併せて「本件各更正処分」という。)並びに過少申告加算税及び重加算税の各賦課決定処分(以下「本件各賦課決定処分」という。)をした。
 なお、本件各更正処分及び本件各賦課決定処分(以下、これらを併せて「本件各更正処分等」という。)のそれぞれの金額等は、別表1の「更正処分等」欄のとおりである。

ハ 請求人は、本件各更正処分等に不服があるとして、通則法第75条《国税に関する処分についての不服申立て》第4項第1号の規定により、平成25年2月22日に審査請求をした。

(3) 関係法令の要旨

 関係法令の要旨は、別紙6のとおりである。

(4) 基礎事実

 以下の事実は、請求人と原処分庁との間に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。

イ 請求人の概要等
 請求人は、昭和62年11月○日に設立された、資本金を20,000,000円、代表取締役をG(以下「G代表」という。)とする法人であり、主に冷凍食料品の販売を業としている。
 また、J(以下「J課長」という。)は、請求人の設立時以来の使用人である。
 なお、請求人の取引先の会社として、y国内にG社長を社長兼最高経営責任者とするK社と称する法人が所在する。

ロ 更正通知書に記載された更正の理由

(イ) 平成17年10月期更正処分
 平成17年10月期更正処分に係る更正通知書(以下「平成17年10月期更正通知書」という。)には、更正の理由として、要旨次のとおり記載されている。

A 標題 雑収入の計上漏れ300,000円

B 内容 貴社は、貴社の従業員であるJ課長と取り交わした覚書において、当従業員から差入れを受けた金額のうち300,000円については、平成17年9月27日に当該従業員が貴社に対し発生させた事業上の損失を補填させるための弁償金として、返金しないこととしたにもかかわらず、帳簿への記録をせず雑収入を除外していた事実が判明しましたので、当該金額を雑収入の計上漏れとして当事業年度の所得金額に加算しました。

(ロ) 平成19年10月期更正処分
 平成19年10月期更正処分に係る更正通知書(以下、平成17年10月期更正通知書と併せて「本件各更正通知書」という。)には、更正の理由として、要旨次のとおり記載されている。

A 標題 雑収入の計上漏れ1,200,000円

B 内容 貴社は、貴社の従業員であるJ課長と取り交わした覚書において、当従業員から差入れを受けた金額のうち1,200,000円については、平成19年10月31日に当従業員が貴社に対し発生させた事業上の損失を補填させるための弁償金として、返金しないこととしたにもかかわらず、帳簿書類への記録をせず雑収入を除外していた事実が判明しましたので、当該金額を雑収入の計上漏れとして当事業年度の所得金額に加算しました。

ハ 請求人とJ課長との間の金銭の授受等

(イ) 預け金の交付
 J課長が、G代表に提出した平成7年12月12日付の「決意表明」と題する書面には、J課長が「目標を成し遂げる強い意志を約束」し、「その為には会社に私個人の財産200万円を預け」るとの記載があり、また、J課長から当審判所への平成25年10月4日付の陳述書(以下「J陳述書」という。)及び当審判所からの同年11月25日の質問調査において、当該決意表明と同日に請求人へ預け金として2,000,000円を交付した(以下、この金員を「本件預け金」という。)旨陳述している。

(ロ) 請求人とJ課長が取り交わした書面
 J課長の署名押印がある請求人宛の次の書面(以下「本件覚書」という。)には、日付順に要旨次のとおり記載されている。

A 平成9年1月30日付の記載
 私、この般、平成8年10月よりの販売目標であった商品につき、平成9年1月31日までの期限でこの商品を販売目標に達することができませんでしたので、このペナルティとして、先に、お預けしてある金額より金500,000円をお支払い致します。

B 平成17年9月27日付の記載
 私、この般、会社への貸付金1,500,000円のうち、300,000円を顧客交際費のため使用し、返金頂きました。

C 平成19年10月31日付の記載
 私、この般、商品の損失責任及び稟議違反につき、1,200,000円を貸付金1,200,000円のうちお支払い致します。

(ハ) 平成9年2月3日付の書面
 J課長がG代表に提出した平成9年2月3日付の「第10期決意表明」と題する書面(以下、平成7年12月12日付の「決意表明」と題する書面と併せて「本件各決意表明」という。)には、「第10期、先物販売予約55,000万円の注文を取る」として、「販売予約が達成できなかった場合、会社に預けてある150万円は没収して頂いて結構です。」と記載されている。

(ニ) 帳簿書類への記録
 請求人が、J課長との間の上記(イ)及び(ロ)の本件預け金に関して、帳簿書類への記録を行ったとの事実はない。

ニ 販売促進費

(イ) 総勘定元帳
 請求人の本件各事業年度における総勘定元帳の販売促進費勘定のうち、「摘要」欄に支出内容又は支出の相手方等が記載されていないため、原処分庁が支出先が明らかでないとして損金の額に算入されないと判断した費用(以下「本件各販売促進費」という。)は別表2のとおりである。

(ロ) 小口現金出納帳
 請求人の平成21年10月期、平成22年10月期及び平成23年10月期における小口現金出納帳において、上記(イ)の総勘定元帳の販売促進費の支出の日と同日に同額が計上された支払金額については、当該支払金額の「科目」欄に「社長」、「摘要」欄に「支払手数料」等とそれぞれ記載されている。

ホ 旅費交通費
 請求人の本件各事業年度における総勘定元帳の旅費交通費勘定のうち、原処分庁が支出内容及び支出の相手方等が明確でなく損金の額に算入されないと判断した「摘要」欄にy国出張等と記載された各現金支出(以下「本件各現金支出」という。)は別表3のとおりであり、また、原処分庁が業務に関連した事実が明らかでないとして損金の額に算入されないと判断したL社発行のクレジットカード(以下「本件クレジットカード」という。)により決済された各支出(以下、「本件各カード支出」といい、本件各現金支出と併せて「本件各旅費交通費」という。)は別表4のとおりである。

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2 争点

(1) 争点1 本件各更正通知書の理由付記に不備があるか否か。

(2) 争点2 雑収入計上漏れの事実があるか否か。

(3) 争点3 平成17年10月期に「偽りその他不正の行為」があるか否か。

(4) 争点4 平成17年10月期及び平成19年10月期に「隠ぺい又は仮装」の行為があるか否か。

(5) 争点5 本件各販売促進費は使途秘匿金に該当するか否か。

(6) 争点6 本件各旅費交通費は損金の額に算入されるか否か。

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3 主張及び判断

(1) 争点1(本件各更正通知書の理由付記に不備があるか否か。)について

イ 主張

請求人 原処分庁
 次のとおり、本件各更正通知書の理由付記に不備があり違法である。  次のとおり、本件各更正通知書の理由付記に不備はなく適法である。
(イ) 「偽りその他不正の行為」の理由付記に不備があること
 平成17年10月期更正通知書には、税額を免れる意図、何らかの偽計、工作を伴う不正な行為等に該当する事実など、「偽りその他不正の行為」にどのような事実が該当するのか一切記載がなく、通則法第70条第5項が適用されているのか否かも不明確である。また、「覚書」の作成日、内容等が明らかにされていないことからすれば、「覚書」との記載のみをもって、帳簿書類の記載以上に信ぴょう力のある資料を摘示したとはいえない。  
(イ) 「偽りその他不正の行為」の理由付記に不備がないこと
 平成17年10月期更正通知書には、「弁償金として、返金しないこととしたにもかかわらず、帳簿への記録をせず雑収入を除外していた」と記載されており、当該部分が、税額を免れる意図の下に、税の賦課徴収を不能又は著しく困難にするような何らかの偽計その他の工作を伴う不正な行為(東京地裁平成16年4月19日判決(平成13年(行ウ)第368号))に該当する。
 また、特に帳簿書類の記載以上に信ぴょう力のある資料を摘示して処分の具体的根拠を明らかにすることを必要とする(最高裁昭和38年5月31日判決(民集17巻4号617頁))という点については、平成17年10月期更正通知書において「覚書」と明記されている。
 なお、法人税法第130条第2項は、除斥期間についてまで記載することを規定していない。また、東京地裁昭和61年12月17日判決(昭和56年(行ウ)第115号)(東京高裁昭和63年5月16日判決(昭和61年(行コ)第96号)参照)によれば、法人税法は、原則として、3年の更正期間を超えて更正する場合であっても、その点に関する理由の付記を要求しておらず、通則法等他の法令においても、右の点に関する理由付記を要するとした規定はないから、これがされていないことをもって、更正が違法となる余地はない。
(ロ) 雑収入計上漏れの理由付記に不備があること
 本件各更正通知書に記載された「雑収入を除外していた事実」は存しない。
(ロ) 雑収入計上漏れの理由付記に不備がないこと
 本件各更正通知書に記載された雑収入計上漏れの事実が真実であることは、後述のとおりである。仮に、更正通知書に記載された事実が誤りであったとしても、青色申告に係る更正の理由付記の程度については、その趣旨に沿うものであれば、付記された理由の内容自体が不当違法であったとしても、理由付記に違法があることにはならない(東京地裁平成8年11年29日判決(平成6年(行ウ)第300号))。

ロ 判断

(イ) 法令解釈
 法人税法第130条第2項が青色申告に係る法人税について更正をする場合に、更正通知書に更正の理由をすべきものとしているのは、法が、青色申告制度を採用し、青色申告に係る所得の計算については、それが法定の帳簿組織による正当な記載に基づくものである以上、その帳簿の記載を無視して更正されることがないことを納税者に保障した趣旨に鑑み、更正処分庁の判断の慎重、合理性を担保してその恣意を抑制するとともに、更正の理由を相手方に知らせて不服申立ての便宜を与える趣旨に出たものというべきであり、したがって、帳簿書類の記載自体を否認して更正をする場合において更正通知書に付記すべき理由としては、単に更正に係る勘定科目とその金額を示すだけではなく、そのような更正をした根拠を帳簿書類の記載以上に信ぴょう力のある資料を摘示することによって具体的に明示することを要すると解するのが相当である。

(ロ) 当てはめ

A これを本件についてみると、本件各更正通知書には、上記1の(4)のロのとおり、単に勘定科目とその金額が記載されているのみでなく、所得加算の内容、その判断の根拠、雑収入計上漏れの具体的態様等が詳細に記載されているとともに、請求人とJ課長との間で取り交わした客観的な証拠である本件覚書という帳簿書類の記載以上に信ぴょう力のある資料が摘示されている。
 そうすると、本件各更正通知書の理由付記は、請求人において更正の理由を理解し、これに対する不服申立てをすべきかどうかを判断するに十分な具体的説明及び更正した根拠となる資料の具体的な明示がなされており、その記載の内容と程度について、原処分庁の判断の慎重、合理性を担保してその恣意を抑制するとともに、更正の理由を相手方に知らせて不服申立ての便宜を与えるという更正の理由付記制度の趣旨目的を充足する程度であると認められることから、法人税法第130条第2項の要求する更正の理由付記として欠けるところはないというべきである。

B 請求人は、平成17年10月期更正通知書には、「偽りその他不正の行為」にどのような事実が該当するのか記載がなく、通則法第70条第5項が適用されているのか否かも不明確である旨主張する。
 しかしながら、法人税法第130条第2項によれば、更正通知書に付記しなければならない理由とは、法人税の課税標準又は欠損金額の更正をする場合のその理由であり、通則法第70条第5項が適用されるか否かの理由まで付記すべきと規定した法令は存在せず、仮に請求人主張のように解するとしても、上記1の(4)のロの(イ)のとおり、平成17年10月期更正通知書には、雑収入計上漏れの具体的態様として、J課長から差し入れを受けた本件預け金のうち返金しないこととした金員について、「帳簿への記録をせず雑収入を除外していた」旨が記載されており、その記載は、当該行為が「偽りその他不正の行為」に該当するとの判断を示したものと評価することができる。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。

C また、請求人は、本件各更正通知書には本件覚書の作成日、内容等が明らかにされていないことから、「覚書」との記載のみをもって、帳簿書類の記載以上に信ぴょう力のある資料を摘示したとはいえない旨主張するが、上記1の(4)のロのとおり、本件各更正通知書には本件覚書が請求人とJ課長との間で取り交わされたものであることのほか、本件覚書に示されている年月日、金額及び内容等が具体的に記載されており、どの覚書であるかを十分に特定できると認められるから、帳簿書類の記載以上に信ぴょう力のある資料を摘示しているものと認められる。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。

D さらに、請求人は、本件各更正通知書に記載された「雑収入を除外していた事実」は存しないことから、理由付記に不備がある旨主張する。
 しかしながら、青色申告に係る更正の理由付記の程度については、その趣旨に沿うものであれば、仮に、更正通知書に記載された事実が存在せず、付記された理由の内容自体に誤りがあったとしても、理由付記に不備があることにはならない。
 したがって、この点に関する請求人の主張は採用できない。

(2) 争点2(雑収入計上漏れの事実があるか否か。)について

イ 主張

原処分庁 請求人
 次のとおり、平成17年10月期及び平成19年10月期には、雑収入計上漏れの事実が認められる。  次のとおり、平成17年10月期及び平成19年10月期には、雑収入計上漏れの事実が認められる。
(イ) 平成17年10月期
A 「無償による資産の譲受け」に該当すること。
 次のBのとおり、請求人は、J課長が顧客交際費として300,000円を費消したことを理由として、本件預け金のうち300,000円を同人に対し返金しないこととしたものであり、これは、法人税法第22条第2項の「無償による資産の譲受け」に該当することから、雑収入になるものである。
(イ) 平成17年10月期
A 本件預け金のうち300,000円がJ課長に返金されたこと
 次のBのとおり、J課長は、平成7年12月12日に請求人へ2,000,000円を差し入れたところ、平成17年9月頃、子の進学などにより資金が必要となり、手元不如意に陥ったため、G代表に対し、本件預け金のうち300,000円の返還を求め、同人もこれを了承したことから、同月27日、請求人からJ課長に対し300,000円が返還されたものであり、雑収入となるものではない。
B J課長の申述内容
 J課長は、要旨次のとおり申述しており、また、その内容は合理的であり信用できる。
(A) 本件覚書は、業務で失敗した場合にG代表から書かされるものであり、文面はいずれもG代表が記載し、J課長が当該内容を確認した上で署名押印したものであり、その内容は、J課長が請求人に損害を与えたという理由で本件預け金を取り上げられたことが記載されている。
(B) 本件覚書の平成17年9月27日付の記載については、J課長が、これ以前に取引先との継続的な取引を行うため、請求人の現金300,000円を顧客交際費として取引先に渡したものの、結果的に、当該取引先との取引がなくなってしまったため、当該300,000円が無駄になった責任として、本件預け金から填補することになり、その旨の文面をG代表が記載し、J課長に署名押印させたものである。
B 平成7年12月12日にJ課長が請求人に差し入れた2,000,000円の趣旨
 J課長は、請求人に対し、平成7年12月12日に、同日付の「決意表明」と題する書面とともに現金で本件預け金を交付した。また、J課長は、本件預け金を差し入れるに当たり、将来目標とする売上額等を達成できなかった又は稟議違反等により請求人に損害を与えた場合には、当該損害等を本件預け金により填補することを申し入れ、請求人もこれを了解していた。以上の経緯からすると、請求人とJ課長との間では、平成7年12年l2日、J課長を寄託者、請求人を受寄者とする本件預け金の寄託契約(民法第657条《寄託》)が成立した(以下「本件寄託契約」という。)。
 また、両者の間に、本件寄託契約とともに、J課長が請求人に対し損害等を与えた場合には、請求人のJ課長に対する損害賠償請求権とJ課長の請求人に対する寄託物返還請求権を対当額で相殺する旨の合意(以下「本件相殺合意」という。)が成立した。つまり、両者の間には、本件相殺合意という特約付の本件寄託契約が成立したことになる。
(ロ) 平成19年10月期
 請求人は、J課長に対し、平成19年10月31日に1,200,000円を返金しないこととしたのであり、これは法人税法第22条第2項の「無償による資産の譲受け」に該当することから、雑収入になるものである。
(ロ) 平成19年10月期
 J課長は、平成19年8月30日の売上分に関し、請求人の稟議内容に違反し、請求人の商品を決められた価格よりも低い価格で顧客に販売し、請求人に損害を与えた。また、J課長の平成19年10月期における営業成績も不振であったため、かかる稟議違反及び成績不振に基づく請求人のJ課長に対する損害賠償請求権とJ課長の請求人に対する本件預け金の残額の返還請求権を対当額で相殺することを合意したものであり、雑収入となるものではない。

ロ 判断

(イ) 法令解釈
 法人税法第22条第2項では、内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上当該事業年度の益金の額に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、資産の販売、有償又は無償による資産の譲渡又は役務の提供、無償による資産の譲受けその他の取引で資本等取引以外の取引に係る収益の額とするものとされ、同条第4項において当該事業年度の収益の額は、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従って計算すべきものとされているところ、ある収益をどの事業年度に計上すべきかについては、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従うべきであり、収益は、その実現があった時、すなわち、その収入すべき権利が確定したときの属する事業年度の益金に計上すべきものであると解される。

(ロ) 認定事実
 請求人提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。

A G代表の陳述書
 G代表が当審判所に対し提出した平成25年10月16日付の「陳述書」(以下「代表者陳述書」という。)には、要旨次のとおり記載されている。

(A) J課長より、平成17年9月頃、子供の大学進学、その引越しの支出のため一時的に手元不如意に陥ったことを理由に相談を受けたことから、請求人は、本件預け金のうち300,000円をJ課長に返還することになった。

(B) 平成19年8月30日の売上分について、J課長が社内稟議に反する価格で販売したことにより、請求人が損害を被ったので、本件覚書の平成19年10月31日付の記載のとおり、J課長から、当時決意表明の証として請求人に預けてあった本件預け金の残額1,200,000円を没収することの了解を得て、同金員を請求人が被った損害に補填した。

B J課長の陳述書
 J陳述書には、要旨次のとおり記載されている。

(A) 平成7年頃、J課長は、営業成績が低迷していたことから、自らの目標とする売上高達成の決意をG代表に示すため、平成7年12月12日に自ら署名押印した決意表明の交付とともに、J課長個人の財産である2,000,000円を請求人に預けた。その際、将来、売上高目標等を達成できないなどの成績不振、稟議違反等により請求人へ損害を与えた場合には、当該損害額を本件預け金から補填することを了解した。

(B) J課長は、平成17年9月頃、子供の教育費や部活動の遠征費、生活費等の出費が重なり一時的に手元不如意に陥り、G代表に相談したところ、本件預け金のうち300,000円が返金されることになり、請求人から、同月27日に300,000円の返金を受けた。

(C) J課長は、平成19年8月30日の売上分に関し、請求人の稟議に違反し、決められた価格よりも低い価格で商品を顧客に販売しており、また、J課長の同事業年度における営業成績も不振であった。そこで、かかる稟議違反及び成績不振により請求人に与えた損害を補填するために、本件預け金の残額1,200,000円を使用することになった。

C 本件調査担当者作成のJ課長に対する質問てん末書
 本件調査担当者が、平成24年11月13日にJ課長に対し質問し、J課長の答弁の内容を記載したとされる質問てん末書と称する書面(以下「本件質問てん末書」という。)には、要旨次のとおり記載されている。

(A) 本件覚書の内容は、業務で失敗するとG代表に書かされるもので、本件覚書の文面は、いずれもG代表が記載し、その内容をJ課長が確認し署名押印したものである。

(B) 本件覚書には、J課長が請求人に対し預けてあった2,000,000円を、J課長が請求人に損害を与えたことを理由に取り上げられたことが記載されている。

(C) 平成17年10月期については、当時新規に近い得意先である問屋に対し継続的な取引をお願いするに当たり、請求人の現金300,000円を「ご自由にお使いください」と交付したが、結果として翌年から、その問屋との取引がなくなってしまったため、当該支出額を、本件預け金から引いておくといわれ、そのような記述になったと記憶している。
 この点、本件覚書の平成17年9月27日付の記載には「返金頂きました」との記載があるが、J課長は請求人から現金の返金を受けたのではなく、上記のとおり、平成17年9月27日に、問屋に交付した300,000円が無駄になってしまった責任を、その日に署名をもって責任を負わされたということである。

(D) 平成19年10月期については、当時J課長が請求人に対し具体的に何の損害を与えたか記憶は定かではないが、G代表から本件預け金はこれでなくなったと言われたことを記憶している。商品クレームから損害を出したとか、又は安く売って損害を与えたとかではなく、G代表の理屈により支払わされたものである。

D 審判所に対するG代表の答述
 G代表は、当審判所に対し、要旨次のとおり答述した。

(A) 平成17年10月期において、J課長が、カードのオーバーローン、子供の教育費等で困っていたので、同人から相談があり、お金を用立てしてほしいと頼まれたため、本件預け金の中から返金することになった。

(B) J課長からは、当初500,000円又は1,000,000円という金額の返金を要求されたが、協議した結果、最低でも300,000円は返金してほしいという要請があったので、最終的に返金する金額は300,000円ということに落ち着いた。

(ハ) 当てはめ

A 平成17年10月期
 上記1の(4)のハの(ロ)のBのとおり、本件覚書の平成17年9月27日付の記載には、「300,000円を顧客交際費のため使用し、返金頂きました」と記載されているところ、上記(ロ)のAの(A)のとおり、代表者陳述書には、平成17年9月頃、本件預け金のうち300,000円をJ課長に返還することになった旨、また、上記(ロ)のBの(B)のとおり、J陳述書には、平成17年9月27日にG代表より300,000円が返金された旨がそれぞれ記載されていることに加え、上記(ロ)のDの(A)のとおり、G代表は、当審判所に対し、平成17年10月期において、J課長からお金を用立てしてほしいと頼まれたため、本件預け金の中から返金することになった旨答述していることからすると、当該代表者陳述書、J陳述書及びG代表の答述は、相互に符合し、いずれも本件覚書の平成17年9月27日付の「返金頂きました」との記載内容と合致する。
 反面、上記(ロ)のCの(C)のとおり、本件質問てん末書において、新規に近い得意先に対し300,000円を支出したとの記載については、本件覚書の「300,000円を顧客交際費のために使用し」たとの記載と合致するものの、本件質問てん末書における300,000円が無駄になった責任として当該支出額を本件預け金から引いておくと言われ、現金の返金を受けたのではないとの記載は、本件覚書の「返金頂きました」との記載内容と相反する。
 ところで、本件覚書の各記載については、当事者はいずれもG代表とJ課長であり、いずれも本件預け金に関する記載であるにもかかわらず、上記1の(4)のハの(ロ)のとおり、本件覚書の平成9年1月30日付及び平成19年10月31日付の各記載では「お支払い致します」との文言が使用されている一方、本件覚書の平成17年9月27日付の記載ではそのような文言は使用されておらず、「返金頂きました」との文言が使用されている。
 この点、本件質問てん末書では、J課長は300,000円の現金の返金を受けたものではないとしているが、仮にこのことが事実であれば、本件覚書の平成17年9月27日付の記載は、平成9年1月30日付及び平成19年10月31日付の各記載と同様となるのが自然であるところ、上記のとおり、本件覚書の平成17年9月27日付の記載は、平成9年1月30日付及び平成19年10月31日付の各記載と異なっている。
 また、本件質問てん末書以外には、請求人がJ課長に対し本件預け金のうち300,000円を返金しないこととしたか否かについて、請求人が現実に本件預け金から利得を享受したと認定できるような証拠は見受けられないことからすると、請求人がJ課長に対し本件預け金のうち300,000円を返金しないこととしたと認めることはできない。
 したがって、当該金員は雑収入となるものではなく、請求人の平成17年10月期において、原処分庁が主張するように300,000円の雑収入計上漏れがあったと認定することはできない。

B 平成19年10月期

(A) 平成19年10月期については、まる1上記(ロ)のAの(B)のとおり、代表者陳述書には、J課長から本件預け金の残額1,200,000円を没収することの了解を得て同金員を請求人が被った損害に補填した旨、まる2上記(ロ)のBの(A)のとおり、J陳述書には、2,000,000円をG代表に手渡す際、将来請求人へ損害を与えた場合にはそれによる損害額を本件預け金から補填することを了解した旨、まる3上記(ロ)のBの(C)のとおり、J陳述書には、請求人に与えた損害を補填するために本件預け金の残額1,200,000円を使用することになった旨及びまる4上記(ロ)のCの(B)のとおり、本件質問てん末書には、本件預け金はJ課長が請求人に損害を与えたことを理由に取り上げられた旨がそれぞれ記載されており、当該代表者陳述書、J陳述書及び本件質問てん末書の内容は、いずれも本件覚書及び本件各決意表明の記載内容と合致する。
 ところで、J課長が具体的に、いつ、どのような行為でもって、どの程度の金額の損害を請求人に与えたかは不明であるが、これらの事実関係を踏まえると、J課長は、自己の成績不振、稟議違反を理由に、平成19年10月期において、本件預け金のうち1,200,000円の返還請求権を放棄したか、少なくとも返還請求権の行使をしない旨の意思表示を請求人に対し行ったものと推認される。
 そして、この意思表示により、平成19年10月期に請求人は、法律上J課長からの預り金である1,200,000円の返還債務の免除を受けたか、あるいは1,200,000円の支払が不要となった状態となり、その段階で収益の実現があったと認められる。
 したがって、当該金員は雑収入に該当するものであり、請求人の平成19年10月期において、雑収入計上漏れがあったと認めることができる。

(B) 請求人は、J課長による稟議違反及び成績不振に基づく損害賠償請求権とJ課長の請求人に対する本件預け金の残額の返還請求権を対当額で相殺したことからすれば、平成19年10月期に雑収入計上漏れの事実はない旨主張する。
 しかしながら、この請求人の主張は、J課長による稟議違反及び成績不振によって、請求人は得べかりし利益が得られなかったという損失が発生したからその損失をJ課長に対する預り金の返還債務と相殺したというものであるとすれば、請求人は、当該相殺により当該得べかりし利益が実現したということになるから、当該相殺による収益を計上する必要があることになる。
 また、仮に請求人主張のように、J課長の故意又は過失により、請求人に損失が発生したというのであれば、原則として、その発生と同時期において、J課長に対する損害賠償請求権の発生益が生ずることになり、当該損害賠償請求権の発生時に同額の収益を計上しなければならないから、いずれにしても、請求人には、相殺額と同額の収益を計上する必要があるということになる。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。

(3) 争点3(平成17年10月期に「偽りその他不正の行為」があるか否か。)について

イ 主張

原処分庁 請求人
 次のとおり、平成17年10月期に「偽りその他不正の行為」を認めることができる。
 請求人は、J課長から本件預け金を受領し、本件覚書の平成17年9月27日付の記載のとおり、平成17年9月27日には、顧客交際費のため使用したことを理由に300,000円を返還しないこととした。また、本件覚書は、いずれの文面もG代表により作成され、J課長がその内容を確認し署名押印した上、関与税理士等に提示されることなく、社長室にあるG代表の机の引出しの中で、G代表自らにより管理されていた。
 その結果、請求人は、J課長から本件預け金を受領した事実、本件預け金のうち平成17年9月27日に300,000円を返還しないこととした事実について、いずれも帳簿に記載せず、雑収入として法人税法上の益金の額に算入すべきところ、法人税の確定申告に反映させていない。
 これらの行為は、発覚し難い客観的状況が存在する状況でなされており、納税者がそのような状況の存在を認識しながらあえてかかる過少申告に及んだ場合(さいたま地裁平成19年3月14日判決(平成15年(行ウ)第29号))に該当する。
 次のとおり、平成17年10月期に「偽りその他不正の行為」を認めることができない。
 請求人は、平成17年9月27日に、J課長に対し、本件預け金のうち300,000円を返金している以上、平成17年10月期に「偽りその他不正の行為」を認めることができない。
 また、請求人は、原処分庁から、本件覚書の内容について、税務調査中に何らの説明を求められておらず、平成17年9月27日に300,000円を返還した事実を説明する機会が与えられなかった。そもそも、本件覚書は、従業員の始末書ともいうべき書類にすぎないため、一般の証ひょう類と一緒に保管すべきものではない。また、本件預け金は、従業員からの預り金にすぎず、近い将来、従業員の目標達成、決意表明事項の達成により返還することになる以上、帳簿の記載から漏れたことをもって、積極的な隠ぺい行為に該当するとはいえない。まして、請求人が営む本来の事業に係る売上、請求人の重要な財産の処分による収入でもなく、金額的にも僅か300,000円である。

ロ 判断
 上記(2)のロの(ハ)のAのとおり、請求人には、平成17年10月期において、雑収入計上漏れの事実を認めることはできない以上、「偽りその他不正の行為」も認められず、当該事実が「偽りその他不正の行為」に該当することを前提とした平成17年10月期更正処分は、その前提を欠き違法である。

(4) 争点4(平成17年10月期及び平成19年10月期に「隠ぺい又は仮装」の行為があるか否か。)について

イ 主張

原処分庁 請求人
 次のとおり、請求人には、「隠ぺい又は仮装」の行為がある。
 請求人は、J課長から本件預け金を受領した事実、平成17年9月27日に300,000円、平成19年10月31日に1,200,000円を返還しないこととした事実について、G代表自らが本件覚書を社長室で管理していたにもかかわらず、いずれも帳簿に記載せず、雑収入として法人税法上の益金の額に算入すべきところ、法人税の確定申告に反映させていない。これらの行為は、積極的に事実と反する経理を行い、租税を免れようとする意思があったことが認められることから、重加算税賦課の要件を満たす。また、本件覚書は、関与税理士に提示されることはなく、G代表の机の引出しにおいて管理されていたことからも明らかなように、請求人の行為は容易に判明するものではなく、単なる過少申告に該当するものではない。
 次のとおり、請求人には、「隠ぺい又は仮装」の行為はない。
 請求人は、平成17年10月期及び平成19年10月期においては、いずれもJ課長に対し本件預け金の一部を返還したものであるから、雑収入に計上する理由はなく、仮に、これを返還した事実がないと認定されたとしてもそれは事実認定の問題であり、請求人の行為が隠ぺいに該当するとは到底いえない。また、法人税の確定申告に際し、関与税理士から雑収入について質問を受けた事実はなく、本件覚書は税務調査において容易に見い出されたことからすれば、請求人には隠ぺいの事実をうかがうことはできないのであり、せいぜい単なる不申告に相当する行為にすぎない。

ロ 判断

(イ) 法令解釈
 通則法第68条に規定する重加算税は、同法第65条ないし第67条に規定する各種の加算税を課すべき納税義務違反が事実の「隠ぺい又は仮装」という不正な方法に基づいて行われた場合に、違反者に対して課される行政上の措置であって、故意に納税義務違反を犯したことに対する制裁ではないから、同法第68条第1項による重加算税を課し得るためには、納税者が故意に課税標準等又は税額等の計算の基礎となる事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し、その「隠ぺい又は仮装」の行為を原因として過少申告の結果が発生したものであれば足り、それ以上に、申告に対し、納税者において過少申告を行うことの認識を有していることまでを必要とするものではないと解するのが相当である。また、「事実を隠ぺいした」とは、課税標準等又は税額等の計算の基礎となる事実を隠ぺいし、あるいは故意に脱漏したことをさすものと解される。

(ロ) 認定事実
 代表者陳述書によれば、G代表は本件覚書をG代表の机の引出しに保管していたと認められる。

(ハ) 当てはめ

A 平成17年10月期
 上記(2)のロの(ハ)のAのとおり、請求人には雑収入計上漏れの事実を認めることができない以上、「隠ぺい又は仮装」の行為も認められず、当該事実が「隠ぺい又は仮装」の行為に該当することを前提とした平成17年10月期の重加算税の賦課決定処分は、その前提を欠き違法である。

B 平成19年10月期

(A) 上記(2)のロの(ハ)のBの(A)のとおり、請求人には雑収入計上漏れの事実が認められるところ、上記1の(4)のハの(ニ)のとおり、請求人は、当該事実を帳簿書類に記録していない。
 しかしながら、上記(2)のイの請求人の主張からすると、請求人は、そもそも本件預け金を返還しないこととなった結果、収益が実現したとの認識を有していなかったと認められることに加え、請求人が、故意に当該事実を帳簿書類に記録しなかったとか、雑収入発生の事実を隠ぺいしたとかの証拠も見受けられないことからすると、平成19年10月期において、請求人には、「隠ぺい又は仮装」の行為があったとは認められない。

(B) この点、原処分庁は、請求人が雑収入発生の事実を故意に隠ぺいした根拠として、本件覚書が関与税理士に提示されることはなくG代表の机の引出しにおいて管理されていた点をあげる。
 しかしながら、上記(A)のとおり、そもそも請求人には収益が実現したとの認識がなかったと認められることから、単にG代表が本件覚書を机の引出しで管理していたとの事実のみにより、雑収入発生の事実を隠ぺいしたものであるとは認定できず、したがって、原処分庁の主張は採用できない。

(5) 争点5(本件各販売促進費は使途秘匿金に該当するか否か。)について

イ 主張

原処分庁 請求人
 次のとおり、本件各販売促進費は使途秘匿金に該当する。
(イ) 損金の額に算入されないこと
 原処分庁は、請求人に対し、口頭及び文書によって再三にわたって、本件各販売促進費の支出内容等を客観的に明らかにする書類の提示を求めたのに対し、請求人は、日付とイニシャルと金額のみが記載されたメモ(以下「本件販売促進費メモ」という。)を提出したのみで、これに応じず、本件各販売促進費が請求人の業務に関連した費用なのかを明らかにしなかった。
 また、本件各販売促進費は、支出内容、支出の相手方、支出の時期等、業務関連性がいずれも不明であり、法人税基本通達9−7−20が定める使途不明金に該当することから、法人税法上の損金の額に算入することはできない。
 そもそも、原処分庁が調査を行えば分かるとして、書類の提示に応じず、支出先を明らかにすることもなかったのであるから、損金の額に算入することが認められるものでもない。
 次のとおり、本件各販売促進費は使途秘匿金に該当しない。
(イ) 損金の額に算入されること
A 本件各販売促進費は売上割戻しの支出であること
 本件各販売促進費は、本件販売促進費メモ記載の日付において、同メモ記載のイニシャル表示された法人に対し、継続的に支出された売上割戻しである。また、本件各販売促進費は、請求人にとり、この種の売上割戻しを支払わない場合には、請求人の営業地域において、業務を継続することが事実上困難になるのであるから、業務に関連した支出といえる。よって、本件各販売促進費は、損金の額に算入されるべきである。
B 支出先の具体的氏名は不明でないこと
 本件販売促進費メモには、具体的な相手方を請求人限りで理解でき、かつ第三者からみても特定の誰かを指していることがわかる形で、具体的な取引先のローマ字表示等と日付金額等が時系列に沿って記載されており、特定の支出先に対し一定の規則に従い支出されていたことは明確である。また、本件販売促進費メモの記載であっても、請求人の販売先一覧があればすぐに具体的な相手方を特定できるものとなっており、請求人の販売先を知り得る原処分庁においては十分に把握できるものである。よって、支出先の具体的氏名が「不明」ではない。
C 業務関連性が肯定できること
 仮に、支出先の具体的氏名が不明であったとしても、支出先が法人の業務と関連のある相手方であることが明らかで、その支出内容、時期等からして法人の業務関連性が認められる場合であれば、損金の額に算入されるべきである。
(ロ) 使途秘匿金に該当すること
A 相手方の氏名等が帳簿書類に記載されていないこと
 請求人は、総勘定元帳に相手方の氏名、支出の使途等を記載せず、原処分庁の求めにも応じず、これらを明らかにしなかった。
B 「相当の理由」がないこと
 本件各販売促進費の支出の時期、相手方、その使途等を明確にし、法人の業務に関連した支出であることを明らかにしないことが社会通念上許されるものでない。また、商売継続が不能となるなどの請求人の主張する事情をもって、相手方の氏名等を秘匿したまま損金の額に算入することが許されるならば、租税の公平が歪められる結果となり許されるものでない。
(ロ) 使途秘匿金に該当しないこと
 本件各販売促進費の支出先の具体的な氏名住所等を開示すれば、当該相手方との取引継続ができなくなることを予想しており、開示できない合理的な理由があったのであるから、相手方の氏名等が帳簿書類に記載されていないことに関し、「相当の理由」が認められる。

ロ 判断

(イ) 法令解釈
 使途秘匿金とは、法人がした金銭の支出のうち、「相当の理由」がなく、その相手方の氏名等を当該法人の帳簿書類に記載していないもの(ただし、資産の譲受けその他取引の対価の支払としてされたものであることが明らかなものを除く。)をいう。
 この使途秘匿金の支出がある場合には、措置法第62条の課税の特例措置が適用されるが、当該課税の特例が設けられた趣旨は、法人が相手先を秘匿するような支出は、違法ないし不当な支出につながりやすく、それがひいては公正な取引を阻害することにもなるので、そのような支出を極力抑制することを目的として創設された制度であるとされている(以下、この制度を「使途秘匿金課税制度」という。)。
 そして、使途秘匿金とならない場合の「相当の理由」があるか否かは、法令上特に明らかにされていないので、制度の趣旨と社会通念に照らし判断することとなるが、例えば、不特定多数の者との取引で、その取引の性格上、相手方の氏名等がわからないものや小口の金品の贈与のように、相手方の氏名等を一々帳簿書類に記載しないことが通例となっている支出や、災害等による帳簿書類の紛失などは、「相当の理由」があると解される。

(ロ) 認定事実
 請求人提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。

A 本件販売促進費メモには、日付、イニシャル及び金額が記載されているのみであり、本件各販売促進費の支出の相手方の氏名等は記載されていない。

B 本件販売促進費メモに記載された金額と上記1の(4)のニの(イ)の総勘定元帳の販売促進費勘定に記載された本件各販売促進費の金額は合致しない。

(ハ) 当てはめ

A 上記1の(4)のニのとおり、請求人の総勘定元帳及び小口現金出納帳には、本件各販売促進費の支出の相手方の氏名等が記載されていない支出があることが認められ、また、上記(ロ)のAのとおり、本件販売促進費メモにはイニシャルが記載されているのみであり、支出の相手方の氏名及び住所等支出の相手方を特定できる記載とは到底いえないから、当該記載内容が措置法第62条第2項に規定する「帳簿書類に記載していない」ことに該当することは明らかである。

B この点に関し請求人は、相手方の氏名等を開示すれば、当該相手方との取引継続ができなくなることが予想され、開示できない合理的な理由があるから、相手方の氏名等を帳簿書類に記載していないことについて「相当の理由」がある旨主張する。
 しかしながら、上記(イ)のとおり、使途秘匿金課税制度の趣旨からすれば、帳簿書類に記載を要しない「相当の理由」とは、取引慣行上記載しないことが通例となっている場合や、災害等による帳簿書類の紛失等の場合のことをいい、当該制度は、請求人の主張する理由によって、相手方の氏名等を秘匿するような支出を極力抑制するためにあるというべきであるから、請求人の主張する上記理由が「相当の理由」となり得ないことは明らかであり、当審判所の調査によっても、他に「相当の理由」があると認めるに足る特段の事情は証拠書類からも見受けられない。

C また、請求人は、本件販売促進費メモには、具体的な相手方を請求人限りで理解でき、かつ、第三者からみても特定の誰かを指していることがわかる形で、具体的な取引先のローマ字表示等と日付金額等が時系列に沿って記載されており、また、請求人の販売先一覧があればすぐに具体的な相手方を特定できるものとなっており、請求人の販売先を知り得る原処分庁においては十分に把握できるものである旨主張する。
 しかしながら、本件販売促進費メモは、単に日付、イニシャル及び金額が記載されているのみであり、当該記載が支出の相手方の氏名等を帳簿書類に記載しているといえないことは上記Aのとおりであって、第三者や原処分庁が支出の相手方を知り得る状況にあるか否かは上記判断を左右するものではない。また、上記(ロ)のBのとおり、本件販売促進費メモに記載された金額と本件各販売促進費として計上されている金額は一致しないことからすると、本件販売費促進費メモが本件各販売促進費に関する補助的帳簿として作成されたものであるかどうかさえ疑わしいといわざるを得ない。

D 以上のとおり、本件各販売促進費は使途秘匿金に該当すると認められ、請求人の主張にはいずれも理由がない。

(6) 争点6(本件各旅費交通費は損金の額に算入されるか否か。)について

イ 主張

原処分庁 請求人
 次のとおり、本件各旅費交通費は損金の額に算入されない。
(イ) 本件各現金支出
 本件各現金支出は、総勘定元帳に旅費交通費として計上され、出張手当や宿泊代等の記載はあるものの、その詳細は明らかでなく、支出金額もいわゆるラウンド数字で記載されていたため、原処分庁は、請求人に対し、口頭及び文書によって再三にわたって、その支出内容等を客観的に明らかにする書類の提示を求めたのに対し、請求人は、旅費精算書と題する書類数枚と、辞令1枚を提出しただけでこれに応じなかった。
 また、上記旅費精算書には、「仮払い」、「国内交通費、宿泊代含む」、「日数不足の場合は調整返金のこと」等と記載されているだけで、当該書類においても、本件各現金支出の詳細は明らかではない。また、当該書類に記載のある日数も、「約70日」、「約100日〜110日」等と具体性のない日数が記載されているにすぎず、記載されている金額も、いわゆるラウンド数字で具体性を欠いており、総勘定元帳に記載された支出金額と合致していない。さらに、本件各現金支出について、精算が行われた事実は存在せず、支出金額が確定したとは認められない。
 したがって、本件各現金支出については、法人税基本通達2−2−12が定める債務確定基準をいずれも満たしておらず、さらに、その支出内容、支出の相手方、支出の時期等も明確でなく、当該費用が、法人の業務に関連した費用か明らかでないのであるから、損金の額に算入することはできない。
 次のとおり、本件各旅費交通費は損金の額に算入される。
(イ) 本件各現金支出
A 旅費日当
 G代表分については、請求人の役員及び従業員が海外に出張する際の旅費に関し定めた海外旅費規程(以下「本件旅費規程」という。)に基づき実際の出張日数に応じて計算された金額が請求人の業務に関連した支出であるから、同額が旅費日当として損金の額に算入することが認められるべきである。
 また、社員分については、本件旅費規程に基づき実際の出張日数に応じて計算された金額より少額の金員が支給されているのであれば当該額が、他方、本件旅費規程に基づき実際の出張日数に応じて計算された金額より多額の金員が支給されているのであれば、少なくとも本件旅費規程に基づく金額が、精算が行われた事実の有無にかかわらず、旅費日当として損金の額に算入することが認められるべきである。
B 宿泊費
 請求人の従業員等は、K社所有の宿泊施設を利用していたため、K社作成の請求書に記載されている時期に、現金でK社に対し宿泊費を支払っていることから、業務関連支出として、損金の額に算入することが認められるべきである。
C 交通費
 請求人の従業員等は、K社従業員等からレンタカーを借り、K社を通じその者に対しレンタカー代を支払っていることから、業務関連支出として、損金の額に算入することが認められるべきである。また、K社の作成したレンタカー代請求書の宛名は、請求人のアルファベット表記「○○○○」とあり、住所に「○○○○」と記載されていることからすれば、これが請求人を指すことは明らかである。
(ロ) 本件各カード支出
 本件各事業年度において、請求人は、総勘定元帳において、本件各カード支出の明細を何ら記載しておらず、利用明細を保存していなかった。このため、原処分庁は、本件各カード支出の明細の再発行をカード会社に依頼し、速やかに提出するように依頼したが、請求人は、一部の期間のみの利用明細を提出したにすぎなかった。
 また、当該利用明細には、飲食代金等のほか、G代表の個人的な旅行代金と認められる法人の業務と関連性のない支出も含まれていたため、原処分庁は、請求人に対し、当該支出に対する説明及び領収書等の提出を求めたものの、請求人からは、本件各更正処分に至るまで、当該支出について支出内容等の具体的な説明は行われず、また、そのことを証する領収書等の提出も行われなかった。
 したがって、支出内容が不明であり、業務関連性が認められない以上、本件各カード支出は損金の額に算入することはできない。
(ロ) 本件各カード支出
 本件各カード支出の金額は、いずれも1人当りおおむね2,000円ないし10,000円台のものであり、会議の際に「通常供与される昼食程度を超えない飲食物等の接待に要する費用」(措置法通達61の4(1)−21)の範囲に含まれる程度の額であることからすれば、会議費に該当する。また、本件各カード支出の対象となるメンバーは請求人の主要幹部であり、事業遂行等に係る話合いを行っていたものであり、会議としての実態を備えていた。さらに、請求人の本社所在地はp県m市であり、G代表とJ課長は同本社に執務しているところ、q及びr営業所を訪れる際、これら営業所が会議室を備えていない等のやむを得ない事情により、外部飲食店に会議の場を設け、営業報告を受けるなどして、事業遂行に必要な情報交換や検討等を行っていた。
 また、仮に、本件各カード支出が会議費に該当しないとしても、出張旅費に該当する。なぜなら、請求人においては、G代表らが勤務するp県所在の本社を離れ職務を遂行するために出張しており、宿泊費及び食事代等は、その出張に必要な支出に充てるために請求人から支給されている費用であり、また、国内各地の旅館等において、どのような○○が使われているかのリサーチを目的として旅館等を使用し、取引関係者等の宿泊のためにも旅館等を使用しており、これらの費用は利用者の業務上の必要に基づく旅行の実費弁済の性格を有するものといえるからである。

ロ 判断

(イ) 法令解釈
 法人税法第22条第1項は、内国法人の各事業年度の所得の金額は、当該事業年度の益金の額から損金の額を控除した金額とする旨規定し、同条第3項は、内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上当該事業年度の損金の額に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、当該事業年度の収益に係る売上原価等、販売費、一般管理費その他の費用の額とする旨規定している。当該各規定に照らせば、内国法人の所得金額の計算上、損金の額に算入することができる支出は、当該法人の業務の遂行上必要と認められるものでなければならないというべきであり、支出のうち、使途の確認ができず、業務との関連性の有無が明らかではないものについては、損金の額に算入することができないというべきである。
 また、法人税法第22条第3項第2号は、販売費、一般管理費その他の費用の範囲について、償却費以外の費用の場合には、当該事業年度終了の日までに債務の確定しているものとする旨規定し、法人税基本通達2−2−12は、上記の「当該事業年度終了の日までに債務の確定しているもの」とは、別に定めるものを除き、当該事業年度終了の日までに、まる1当該費用に係る債務が成立していること、まる2当該債務に基づいて具体的な給付をすべき原因となる事実が発生していること及びまる3その金額を合理的に算定することができるものであること(以下、これらの3つの要件を併せて「債務確定基準」という。)の3つの要件を全て満たしている場合をいう旨定めており、この取扱いは、当審判所においても相当であると認められる。
 また、法人税基本通達9−7−6は、法人がその役員又は使用人の海外渡航に際して支給する旅費(仕度金を含む。)は、その海外渡航が当該法人の業務の遂行上必要なものであり、かつ、当該渡航のため通常必要と認められる部分の金額に限り、旅費としての法人の経理を認められることから、法人の業務の遂行上必要とは認められない海外渡航の旅費の額はもちろん、法人の業務の遂行上必要と認められる海外渡航であってもその旅費の額のうち通常必要と認められる金額を超える部分の金額については、原則として、当該役員又は使用人に対する給与とし、また、その海外渡航が旅行期間のおおむね全期間を通じ、明らかに法人の業務の遂行上必要と認められるものである場合には、その海外渡航のために支給する旅費は、社会通念上合理的な基準によって計算されている等不当に多額でないと認められる限り、その全額を旅費として経理することができる旨定め、この取扱いは、当審判所においても相当であると認められる。
 ところで、更正処分については、本来、課税庁が主張、立証責任を負うべきものであるから、具体的な支出が損金の額に算入されるべきか否かが争われている場合には、課税庁において、当該支出が損金に算入されないことを主張、立証すべきであるものの、当該支出の存否自体が争われている場合には、課税庁は損金の存否に関連する事実に直接関与していないのに対し、納税者はより証拠に近い立場にあること、一般に不存在の立証は困難であることなどに鑑みると、更正時に存在し、又は提出された資料等を基に判断して、当該支出を損金の額に算入することができないことが事実上推認できる場合には、納税者において、その推認を破る程度の具体的な反証、すなわち、当該支出の存在及び当該支出と業務との関連性を合理的に推認させるに足りる具体的な立証を行わない限り、当該支出の損金への算入は否定せざるを得ないと解されている。

(ロ) 認定事実
 請求人提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。

A 本件各現金支出

(A) 原処分に至る事実経過

a 原処分庁は、請求人に対し、平成23年8月3日、同月19日、同年10月7日、平成24年1月20日、同年2月1日、同月29日及び同年5月22日に、本件各現金支出に係る資料の提出を要請した。

b これに対し、請求人が、原処分庁に対し、提出した資料は次のとおりである。

(a) 平成21年ないし平成23年のy国へ出張した者の氏名が記載されたメモ並びに氏名、住所及び生年月日が記載されたy国出張者名簿

(b) 平成23年8月19日に関与税理士がG代表から聴取した内容を記載した旅費交通費等に関するメモ

(c) 平成16年及び平成17年の旅費精算書

(d) 請求人の従業員であるM宛の平成21年4月20日付辞令

(e) 原処分庁の平成24年1月20日付の書類の提出依頼に対する同年3月1日付回答書

(B) 本件各現金支出に係る金銭の交付方法
 本件各現金支出に係る金銭は、G代表が費用請求用紙に旅費の請求内容を記入し、請求人へ請求することにより、現金で同人へ交付された。

(C) 旅費日当

a y国への出張者
 G代表、J課長、請求人の元従業員であるN及びPの答述によれば、本件各事業年度において、y国に出張した者は、次のとおりである。

(a) 平成19年10月期:G代表、J課長

(b) 平成20年10月期:G代表、J課長、Q、R、S、M

(c) 平成21年10月期:G代表、J課長、M、N、P、T

(d) 平成22年10月期:G代表、J課長、M、N、U、V

(e) 平成23年10月期:G代表、J課長、M、X、Y

b 費用請求用紙及び小口現金出納帳
 費用請求用紙及び小口現金出納帳には、G代表に係るものと認められる旅費日当として、別表5及び別表6のとおりそれぞれ記載されている。

c 辞令、海外出張辞令及び旅費精算書
 従業員による署名又は押印がある辞令、海外出張辞令及び旅費精算書には、従業員に係るものと認められる旅費日当として、要旨別表7のとおり記載されている。

d 当審判所に対するNの答述
 Nは、当審判所に対し、要旨次のとおり答述した。

(a) 平成21年のy国出張に行ったメンバーは、G代表、J課長、M、T、P及びNの合計6名であった。

(b) 平成21年4月頃、y国出張前に、現金100,000円を受領したが、その他出張中又は出張後に受領した金員はない。

(c) 平成22年のy国出張に行ったメンバーは、G代表、J課長、M、U、V及びNの合計6名であった。

(d) 平成22年4月2日付辞令の金額欄には188,000円と記載されているが、この記載は誤りである。平成22年のy国出張の際に受領した金額は、平成21年のy国出張の際に受領した100,000円より確実に少額である現金80,000円であり、その他出張中又は出張後に受領した金員はない。

e 当審判所に対するPの答述
 Pは、当審判所に対し、要旨次のとおり答述した。

(a) 平成21年のy国出張に行ったメンバーは、G代表、J課長、M、T、P及びNの合計6名であった。

(b) 平成21年4月頃、y国出張前に、社長室で現金100,000円を受領したが、その他出張中又は出張後に受領した金員はない。その際、N及びTも社長室で現金100,000円をそれぞれ受領した。

f 当審判所に対するG代表の答述
 G代表は、当審判所に対し、要旨次のとおり答述した。

(a) 請求人は、辞令及び海外出張辞令に基づき、従業員に対し、旅費日当を支給していた。

(b) 旅費日当は、出国前におおよその出張日数を見込んだ上で、精算も考慮した上で支給しており、仮に、出張日数が当初の予定より増えてしまった場合にはy国で追加支払するが、多少短くなっても、当初から精算を見込んで支給しているため、後日精算することはしない。

(c) G代表自身に対する旅費日当も、上記の従業員の場合と同様、当初から精算を見込んで支給しているため、後日精算することはない。

g 総勘定元帳
 請求人の総勘定元帳には、本件各現金支出以外に、本件各事業年度におけるy国出張に係る旅費日当の支払に該当する記載はない。

(D) 宿泊費

a Real property assessment and tax notice
 「Real property assessment and tax notice」と題する書面によれば、K社は、y国t市u町○−○に所在する宅地及び家屋を所有していることが認められる。

b 宿泊費に係る請求書及び領収書
 宿泊費に係る請求書及び領収書には、宿泊期間、日付及び金額につき、要旨別表8のとおり記載されている。

c 当審判所に対するPの答述
 Pは、当審判所に対し、要旨次のとおり答述した。

(a) y国出張の際に宿泊した建物の所在地は、t市u町であった。

(b) 平成21年の出張に際しては、G代表、J課長、M、T、N及びPの6名にはそれぞれ一部屋が割り当てられていた。

d 当審判所に対するNの答述
 Nは、当審判所に対し、要旨次のとおり答述した。

(a) y国出張の際に宿泊した建物の所在地は、t市であった。G代表及び従業員は、平成21年及び平成22年のy国への出張期間において、この建物に居住していた。

(b) 平成21年の出張に際しては、G代表、J課長、M、T、P及びNの6名にはそれぞれ1部屋が割り当てられていた。

e 当審判所に対するG代表の答述
 G代表は、当審判所に対し、本件各現金支出を外貨に交換することなく現金で日本からy国へ持ち出していた旨答述した。

f 総勘定元帳
 請求人の総勘定元帳には、本件各現金支出以外に、本件各事業年度におけるy国出張に係る宿泊費に該当する記載はない。

g 円換算
 当審判所による調査によれば、上記bの日付における宿泊費の円換算金額は別表9のとおりである。

(E) 交通費

a 交通費に係る請求書及び領収書
 K社発行のレンタカー代金と思われる請求書及び領収書には、それぞれ請求人宛に、平成19年10月期22,880y国ドル、平成21年10月期17,880y国ドル、平成22年10月期23,920y国ドル、平成23年10月期16,640y国ドルの支払金額が記載されている。

b 当審判所に対するPの答述
 Pは、当審判所に対し、要旨次のとおり答述した。

(a) 平成21年のy国出張において、K社の最寄りの空港のレンタカー業者(以下「本件レンタカー業者」という。)からレンタカーを合計4台調達した。本件レンタカー業者以外からは、レンタカーを借りていない。

(b) K社の従業員の知人からレンタカーを借りたという事実は知らない。平成21年において、Pが確認したレンタカーは上記4台のみであるため、y国で使っていたレンタカーは4台以外にはない。

c 当審判所に対するNの答述
 Nは、当審判所に対し、要旨次のとおり答述した。

(a) 平成21年及び平成22年のy国出張において、本件レンタカー業者からレンタカーを合計4台調達した。本件レンタカー業者以外からは、レンタカーを借りていない。

(b) K社の従業員の知人からレンタカーを借りたという事実は知らない。平成21年及び平成22年のいずれにおいても、Nが確認したレンタカーは上記4台のみであるため、y国で使っていたレンタカーは4台以外にはない。

d 当審判所に対するG代表の答述
 G代表は、当審判所に対し、要旨次のとおり答述した。

(a) 請求人は、K社従業員等に対するレンタカー代を、K社の経理担当者又はジェネラルマネージャーに支払い、同人らがK社従業員等に支払っていた。

(b) 本件各事業年度において、K社従業員等から、合計2、3台のレンタカーを借りていた。

B 本件各カード支出

(A) 原処分に至る事実経過

a 原処分庁は、請求人に対し、平成23年2月16日、同年8月19日及び平成24年2月29日、本件各カード支出に係る資料の提出を要請した。

b これに対し、請求人が、原処分庁に対し、提出した資料は、以下のとおりである。

(a) 平成19年ないし平成22年の本件クレジットカードの利用明細書

(b) 関与税理士からの平成23年8月31日付の口頭による回答

(B) 本件クレジットカードの利用明細書の内訳

a 上記(A)のbの(a)の資料のうち、平成20年5月1日のZ社に対しての支払金額59,968円は、特定小電力トランシーバの購入等であり、平成23年4月14日のv店に対しての支払金額170,000円は、自動車(○○)のタイヤ交換に伴うタイヤ購入等に係る金額である。

b 上記(A)のbの(a)の資料のうち、本件各事業年度に係る次の金額は、それぞれ請求人が取引先を伴ってゴルフを行った際の支払金額である。

(a) 平成19年8月28日 x1ゴルフクラブ  23,620円

(b) 平成19年9月18日 x2ゴルフクラブ  25,540円

(c) 平成20年8月28日 x2ゴルフクラブ  25,410円

(d) 平成20年10月6日 x2ゴルフクラブ  20,350円

(e) 平成21年8月27日 x3ゴルフクラブ  20,670円

(f) 平成21年9月25日 x2ゴルフクラブ  20,950円

(g) 平成21年10月28日 x2ゴルフクラブ  39,870円

(h) 平成21年12月2日 x4ゴルフクラブ  79,620円

(i) 平成22年10月4日 x2ゴルフクラブ  35,400円

(j) 平成23年8月30日 x1ゴルフクラブ  22,150円

(k) 平成23年10月5日 x2ゴルフクラブ  25,510円

(ハ) 当てはめ

A 本件各現金支出
 原処分庁が、請求人に対し、本件各現金支出に係る資料を提示するように要請したことにより、請求人から提出された上記(ロ)のAの(A)のbの各資料は、本件各現金支出に係る資料の全てとは認められないことに加え、当該各資料の内容からはその支払の事実及び内容並びに業務との関連性等を確認することもできず、本件各現金支出が損金の額に算入することができるか否かの判断が何らできないことからすれば、本件各更正処分時に存在し、又は提出された資料等を基に判断すると、本件各現金支出の使途は明らかでなく、当該支出を損金の額に算入することができないことが事実上推認できる。
 したがって、本件各現金支出が損金として認定されるためには、請求人において、その推認を破る程度の具体的な反証、すなわち、当該支出の内容、当該支出と業務との関連性及び当該支出金額等を合理的に推認させるに足りる具体的な立証を行わない限り、当該支出の損金への算入は否定せざるを得ないこととなる。

(A) 旅費日当

a 請求人は、本件各現金支出のうち、その一部は旅費日当に該当し、損金の額に算入される旨主張する。
 これについては、上記(ロ)のAの(C)のb及びcの費用請求用紙、小口現金出納帳、辞令、海外出張辞令及び旅費精算書の記載内容並びにN及びPの答述からすると、請求人は、G代表及び従業員に対し別表6及び別表7のとおり旅費日当を支給していたものと認められるところ、これらの旅費日当の支給については、上記(ロ)のAの(C)のaのとおり、本件各事業年度において、G代表及び従業員がy国へ出張した事実を認めることができ、当該出張の時期についても、本件各事業年度末の段階において、請求人が支払う旅費日当に係る債務が成立し、当該債務に基づいて具体的な給付をすべき原因となる事実が発生したと認めることができる。また、当該旅費日当は、上記(ロ)のAの(C)のfのG代表の答述からすれば、当初から精算を見込んだ上で支給されており、その金額を合理的に算定することができるといえ、債務確定基準の全ての要件を満たしていると認められる。

b そして、請求人から、y国出張の際にG代表及び従業員に対して旅費日当が支給されていることから、当該支出と業務との関連性も特段疑われるような事実はなく、支給額も、不当に多額であると認めることはできないことから、別表6及び別表7の旅費日当は、旅費交通費として損金の額に算入されると認定すべきである。
 したがって、本件各現金支出のうち、法人税法第22条第3項第2号に規定する損金の額に算入することが認められる旅費日当は、別表6及び別表7を合計した金額であり、別表10のとおりとなる。
 なお、平成22年10月期において、別表7の(3)では、Nに支給していた金額は188,000円と記載されており、上記(ロ)のAの(C)のdのNの答述内容と異なっているが、Nは、188,000円という金額は誤りであり、平成22年の出張に際し受領した金員は、平成21年の出張の際に受領した金員である100,000円より確実に少額である現金80,000円であったと答述しており、その内容は具体的かつ詳細といえることからすれば、Nの答述内容は、信用性が高い。以上のことから、Nに支給された旅費日当は80,000円であったと認めるのが相当である。

c また、請求人は、G代表分については本件旅費規程に基づき計算された金額が、また、従業員分については本件旅費規程に基づき計算された金額又は実際に支給された金額が旅費日当として認められる旨主張する。
 しかしながら、本件旅費規程に基づき計算された金額と、実際に旅費日当として支給された金額が一致していないことなどからすると、そもそも本件旅費規程が実際に運用されていたと認めることはできず、別表6及び別表7の旅費日当以外の金額については、G代表及び従業員に対し支給された事実を確認することができないことから、この点に関する請求人の主張は採用できない。

(B) 宿泊費
 請求人は、本件各現金支出のうち、その一部は宿泊費に該当し、損金の額に算入すべきである旨主張する。
 これについて、上記(ロ)のAの(D)の「Real property assessment and tax notice」と題する書面、請求書、領収書並びにP及びNの答述からすれば、請求人の各従業員は、本件各事業年度におけるy国への出張期間において、K社所有の不動産に宿泊している事実が認められ、請求人がK社に対し、宿泊の対価として現金で賃借料を支払っていたものと推認される。また、当該支出との業務関連性も特段疑われるような事実はなく、その支払金額も宿泊した人数及び期間等からみて妥当な金額の範囲内であると認められることから、別表9の金額は宿泊費として損金の額に算入されると認定すべきである。
 したがって、本件各現金支出のうち、法人税法第22条第3項第2号に規定する損金の額に算入することが認められる宿泊費は、別表11のとおりとなる。

(C) 交通費
 請求人は、本件レンタカー業者から借りたレンタカー以外に、K社従業員等からレンタカーを借り、K社の担当者を通じ当該K社従業員に対しレンタカー代を支払っており、これらは交通費として損金の額に算入すべきである旨主張する。
 しかしながら、上記(ロ)のAの(E)のaのK社からの請求書及び領収書の記載内容については、上記(ロ)のAの(E)のb及びcのとおり、P及びNが、本件レンタカー業者から借りたレンタカー以外にレンタカーを利用した事実はない旨答述していることと事実関係において異なり、また、上記(ロ)のAの(E)のdのとおり、G代表のK社従業員等からレンタカーを借り、従業員等に対して支払った旨の答述内容とも相手先が異なることなどに鑑みると、請求書及び領収書の記載内容は信用できず、請求人が借りた事実はなかったか、あるいは借りた事実を認めることができたとしても、業務関連性を有するような費用であったとは認められない。
 そして、その他請求人の主張を裏付ける証拠資料も見受けられないことから、この点に関する請求人の主張には理由がない。

B 本件各カード支出
 本件において、本件各更正処分時に存在し、又は提出された上記(ロ)のBの(A)の各資料は、本件各カード支出に係る資料の全てとは認められないことに加え、当該各資料の内容のみからはその支払の内容及び業務との関連性等を確認することもできない。
 請求人は、本件各カード支出が福利厚生費、旅費交通費、交際費などに該当し損金の額に算入される旨主張する。
 しかしながら、請求人は、本件各カード支出が損金の額に算入されることを認めるに足る具体的な証拠資料を何ら提出していないことに加え、当審判所の調査により判明した本件各カード支出の利用先の利用人員や利用者の性別が、請求人の主張と一致しないものがあることからすると、上記推認を破る程度の具体的な反証はなされていないといわざるを得ない。
 なお、本件各カード支出について、当審判所においてその支払先等を調査したところによれば、上記(ロ)のBの(B)のaの金額については、それぞれ消耗品費及び車両費に該当し、また同bの金額については、それぞれ交際費等に該当する支出であることが認められる。消耗品費及び車両費に該当する支出は、法人税法第22条第3項第2号に規定する損金の額に算入することが認められ、その金額は別表12のとおりであり、また、交際費等に該当する金額は別表13のとおりである。
 したがって、本件各カード支出から、これらの損金の額に算入されるものを除き、損金の額に算入することは認められず、この点に関する請求人の主張には理由がない。

(7) 本件各更正処分について

 以上のことから、本件各更正処分については、次のとおりとなる。

イ 上記(3)のロのとおり、平成17年10月期においては、請求人には通則法第70条第5項に規定する「偽りその他不正の行為」があったとは認められず、平成17年10月期の法人税の法定申告期限から5年を経過した日以後にされた平成17年10月期更正処分は、更正の期間制限を徒過しており違法であるから、その全部を取り消すべきである。

ロ 平成19年10月期、平成20年10月期、平成21年10月期、平成22年10月期及び平成23年10月期の各事業年度の所得金額等については、別表14−1ないし別表14−5の審判所認定額の記載のとおりとなり、原処分の金額をいずれも下回るので、当該各事業年度の各更正処分はいずれもその一部を別紙1ないし別紙5のとおり取り消すべきである。

(8) 本件各賦課決定処分について

イ 上記(7)のイのとおり、平成17年10月期更正処分は、その全部を取り消すべきであるから、当該事業年度の法人税に係る過少申告加算税及び重加算税の各賦課決定処分は、その全部を取り消すべきである。

ロ 上記(7)のロのとおり、平成19年10月期更正処分、平成20年10月期更正処分、平成21年10月期更正処分、平成22年10月期更正処分及び平成23年10月期更正処分は、いずれもその一部を取り消すべきであり、また、上記(4)のロの(ハ)のBのとおり、平成19年10月期については、請求人には通則法第68条第1項に規定する事実の「隠ぺい又は仮装」の行為があったとは認められないから、これらに伴い、当該各事業年度の法人税に係る加算税の基礎となる税額は別紙1ないし別紙5のとおりとなるところ、当該納付すべき税額の計算の基礎となった事実が更正処分前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、通則法第65条第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、平成19年10月期ないし平成23年10月期の各事業年度の法人税に係る加算税の各賦課決定処分については、いずれもその一部を別紙1ないし別紙5のとおり取り消すべきである。

(9) その他

 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所の調査の結果によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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