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(平成26年2月17日裁決)
《裁決書(抄)》
1 事実
(1) 事案の概要
本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が、その居住の用に供している家屋の一部を取り壊し、その取り壊した部分の敷地の用に供されていた土地の譲渡に係る譲渡所得について、租税特別措置法(平成25年法律第5号による改正前のもの。以下「措置法」という。)第35条《居住用財産の譲渡所得の特別控除》第1項に規定する特例(以下「本件特例」という。)を適用して平成22年分の所得税の確定申告をしたところ、原処分庁が、当該家屋の一部取壊し後に残存する家屋は、機能的にみて生活をするために必要な機能を有していることなどから、本件特例を適用することはできないなどとして、所得税の更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分を行ったのに対し、請求人が、これらの処分の一部の取消しを求めた事案である。
(2) 審査請求に至る経緯
イ 請求人は、要旨、別表1の「確定申告」欄のとおり記載した平成22年分の所得税の確定申告書を法定申告期限までに原処分庁に提出して、所得税の期限内申告(以下「本件申告」という。)をした。
ロ 原処分庁は、請求人の平成22年分の所得税について、平成24年11月28日付で、別表1の「更正処分等」欄のとおりの更正処分(以下「本件更正処分」という。)及び過少申告加算税の賦課決定処分(以下「本件賦課決定処分」といい、本件更正処分と併せて「本件更正処分等」という。)をした。
ハ 請求人は、平成25年1月24日、本件更正処分等を不服として異議申立てをしたところ、異議審理庁は、同年3月19日付でいずれも棄却する旨の異議決定をした。
ニ 請求人は、平成25年4月16日、異議決定を経た後の本件更正処分等に不服があるとして、審査請求をした。
(3) 関係法令等
関係法令等の要旨は、別紙2のとおりである。
(4) 基礎事実
以下の事実は、請求人と原処分庁との間に争いはなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。
イ 土地の譲渡に至る経緯
(イ) 請求人の父であるH(以下「父H」という。)は、昭和42年2月25日、e県f市g町(現在の同市g町○丁目)○番○の宅地(地積198.37。以下「本件土地」という。)を、第三者から売買(代金額4,800,000円)により取得した。
本件土地については、昭和42年2月27日受付で、同月25日売買を原因とする父Hへの所有権移転登記が経由された。
(ロ) 父Hは、昭和42年3月10日、本件土地上に、木造瓦葺2階建ての居宅兼店舗の建物(床面積1階72.09、2階45.36
。以下「本件旧家屋」という。)を新築した。
本件旧家屋については、昭和42年3月23日受付で、父Hを所有者とする所有権保存登記が経由された。
(ハ) 本件旧家屋については、平成3年9月25日、構造を木造スレート・亜鉛メッキ鋼板葺2階建てと変更し、床面積を1階119.02、2階95.08
(総床面積214.10
)とする増築がされた(以下、平成3年に増築された部分を「平成3年増築部分」といい、本件旧家屋と平成3年増築部分を併せた家屋全体を「平成3年増築後家屋」という。)。
(ニ) 請求人の母であるJ(以下「母J」という。)は、平成10年6月○日、本件土地及び平成3年増築後家屋を、父Hから相続により取得した。
本件土地及び平成3年増築後家屋については、いずれも、平成12年11月15日受付で、平成10年6月○日相続を原因とする母Jへの所有権移転登記が経由された。
(ホ) 平成3年増築後家屋については、平成11年8月日不詳、増築がされた(以下、平成11年に増築された部分を「平成11年増築部分」といい、平成3年増築後家屋と平成11年増築部分を併せた家屋全体を「本件家屋」という。)。
(ヘ) 請求人は、平成14年12月○日、本件土地及び本件家屋を、母Jから相続により取得した。
本件土地及び本件家屋については、いずれも、平成20年7月11日受付で、平成14年12月○日相続を原因とする請求人への所有権移転登記が経由された。
(ト) 請求人は、平成21年8月24日、本件家屋のうち本件旧家屋の部分を取り壊し(以下「本件一部取壊し」という。)、その後、本件一部取壊しにより残存した家屋(以下「本件残存家屋」という。)についての改修工事(以下「本件改修工事」という。)等を行い、構造を木造スレート葺2階建てと変更し、床面積を1階52.61、2階52.59
(総床面積105.20
)とした(なお、本件改修工事の具体的な内容については、下記3の(2)のロの(ハ)のBで後述する。)。
(チ) 本件土地については、平成21年10月27日付で、錯誤により地積を200.83
と更正する旨の登記が経由されるとともに、
e県f市g町○−○、同番○1ないし同番○3に分筆され、その旨の登記が経由された(分筆後の各土地の地番、地目及び地積は次表のとおりであり、以下、同表の順号1及び順号2の各土地を併せて「本件残存土地」、同表の順号3及び順号4の各土地を併せて「本件譲渡土地」という。)。
順号 | 地番 | 地目 | 地積(![]() | 略称 |
---|---|---|---|---|
1 | e県f市g町○−○ | 宅地 | 102.61 | 本件残存土地 |
2 | e県f市g町○−○1 | 宅地 | 1.16 | |
3 | e県f市g町○−○2 | 宅地 | 96.16 | 本件譲渡土地 |
4 | e県f市g町○−○3 | 宅地 | 0.88 | |
合計 | 200.81 |
(注1)本件残存土地の上には、本件残存家屋が存している。
(注2)本件譲渡土地は、本件一部取壊しによりいわゆる更地となった土地で あり、地積の合計は97.04である。
(リ) 請求人は、平成21年11月27日、Kとの間で、本件譲渡土地について、請求人を売主、Kを買主、売買代金を○○○○円とする不動産売買契約を締結し、
平成22年1月22日、Kに対して、本件譲渡土地を引き渡した(以下、本件譲渡土地の譲渡を「本件譲渡」という。)。
本件譲渡土地については、平成22年1月22日受付で、同日売買を原因とするKへの所有権移転登記が経由された。
ロ 請求人の本件申告における本件譲渡に係る譲渡所得の金額の計算の根拠
請求人は、本件譲渡に係る譲渡所得の金額の計算について、本件譲渡土地は全て個人の居住の用に供している家屋の敷地であるとして本件特例を適用し、また、
資産の譲渡に要した費用の額として本件旧家屋に係る資産損失の金額を控除せず、本件申告をした。
ハ 原処分庁の本件更正処分等の処分の理由
原処分庁は、原処分庁所属の調査担当職員の調査により、本件残存土地上にある本件残存家屋は機能的にみて生活をするために必要な機能を有していることなどから、本件譲渡に係る譲渡所得の金額の計算において、本件特例を適用することはできないなどとして、平成24年11月28日付で、本件更正処分等をした。
ニ 請求人の本審査請求における本件譲渡に係る譲渡所得の金額の計算の根拠
請求人は、本審査請求においては、本件申告の際と異なり、本件譲渡土地のうち個人の居住の用に供している家屋の敷地に対応する部分については本件特例を適用できる旨、また、
本件旧家屋に係る資産損失の金額及び
本件残存家屋に係る改修工事の費用の金額を本件譲渡に係る譲渡所得の金額の計算上資産の譲渡に要した費用として控除すべきである旨主張している。
2 争点
(1) 争点1
本件譲渡に係る譲渡所得の金額の計算において、本件譲渡が措置法第35条第1項に規定する「その居住の用に供している家屋…とともにするその敷地の用に供されている土地…の譲渡」に準ずるものであるとして、本件特例を適用することができるか否か。
(2) 争点2
本件譲渡に係る譲渡所得の金額の計算において、請求人の主張する各費用(下記4の(1)のイの(イ)及び(ロ)、同ロの(イ)ないし(ホ))が所得税法第33条《譲渡所得》第3項に規定する譲渡所得の基因となった資産に係る「資産の譲渡に要した費用」に該当するものであるとして、当該各費用を控除することができるか否か。
3 争点1について
(1) 主張
原処分庁 | 請求人 |
---|---|
次の理由から、本件譲渡に係る譲渡所得の金額の計算において、本件特例を適用することはできない。 | 次の理由から、本件譲渡に係る譲渡所得の金額の計算において、本件特例を適用すべきである。 |
イ 個人が、その居住の用に供している家屋の敷地の用に供されている土地の一部を更地として譲渡するために、当該家屋の一部を取り壊し、その取壊し部分の敷地の用に供されていた土地の部分の譲渡をした場合における本件特例の適用の可否については、![]() ![]() ![]() |
イ 個人が、その居住の用に供している家屋の敷地の用に供されている土地の一部を更地として譲渡するために、当該家屋の一部を取り壊し、その取壊し部分の敷地の用に供されていた土地の部分の譲渡をした場合における本件特例の適用の可否については、![]() ![]() ![]() つまり、本件特例の趣旨は、居住用財産を譲渡する場合には新たな住居を取得しなければならなくなるのが通常であることから、当該譲渡による税負担をできるだけ軽減しようとする点にあるところ、新たな住居を取得する代わりに相当額の経済的負担をして残存部分の改修工事を行った場合には、当該譲渡による担税力が高いとはいえないから、このような場合には、本件特例が適用されるべきである。 |
ロ 本件では、上記イの![]() ![]() ![]() ![]() |
ロ 本件では、上記イの![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() 次に、上記イの ![]() |
(2) 判断
イ 法令解釈等
(イ) 措置法第35条第1項は、個人がその居住の用に供している家屋とともにその敷地の用に供している土地の譲渡をした場合の譲渡所得について特別控除を認めているが、その趣旨は、このような居住用財産の譲渡によって住居を失った場合には、これに代わる新たな住居を取得しなければならなくなるのが通常であるなど、一般の資産の譲渡に比して特殊な事情があり、担税力も高くない例が多いことなどを考慮して設けられた特例であると解される。
そして、措置法第35条第1項は、土地の譲渡に関しては、災害により当該土地の上に存する家屋が滅失した場合を除いては、個人の居住の用に供し、又は供されていた家屋が現存し、かつ、その家屋とともにその敷地の用に供されている土地の譲渡がされる場合を特別控除の対象としており、家屋を任意に取り壊すなどした上でその敷地の用に供されていた土地のみの譲渡をする場合については、直接の規定が置かれていない。
(ロ) ところで、その上に家屋の存する土地の取引において、当該家屋を必要としない買主が、当該家屋を売主の負担において取り壊すことを求めることがしばしば見られるのは公知の事情であり、上記に述べた措置法第35条第1項の趣旨からすれば、個人が、その居住の用に供している家屋を、その敷地の用に供されている土地を更地として譲渡する目的で取り壊した上、当該土地のみを譲渡した場合は、居住用の家屋をその敷地とともに譲渡した場合に準ずるものとして、措置法第35条第1項の要件に該当すると解するのが相当である。
一方、個人が、その居住の用に供している家屋の敷地の一部を更地として譲渡するために当該家屋の一部を取り壊し、その取壊し部分の敷地を譲渡した場合については、措置法第35条第1項の文理のほか、建物の所有権その他の権利の対象としての特性に照らし、同項にいう家屋の譲渡が当該家屋の全体の譲渡を意味するものと解されることを勘案すると、当該家屋の全体が取り壊された場合と当然には同列に論じ難いが、この一部の取壊しが当該家屋の取壊し部分の敷地の部分を更地として譲渡するために必要な限度のものであり、かつ、上記の取壊しによって当該家屋の残存部分がその物理的形状等に照らし居住の用に供し得なくなったということができるときは、当該家屋の全体が取り壊された場合に準ずるものとして、当該譲渡につき本件特例を適用し得ると解される。
ロ 認定事実
請求人提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、以下の事実が認められる。
(イ) 本件家屋の間取り等
A 本件家屋は、本件旧家屋、平成3年増築部分及び平成11年増築部分からなる、木造スレート・亜鉛メッキ鋼板葺2階建ての居宅兼店舗の建物であった(上記1の(4)のイの(ロ)、同(ハ)及び同(ホ))。
B 本件旧家屋の1階には、玄関、店舗兼倉庫、居間兼台所、便所、浴室及び4.5畳間1室があり、2階には、4.5畳間2室、6畳間1室及び便所があった(本件旧家屋の間取りの略図は、別図1のとおりである。)。
C 平成3年増築部分は、本件旧家屋の北側に増築されたものであり、平成3年増築部分の1階には、店舗、居間兼台所及び便所があり、2階には、6畳間、4.5畳間、5.76畳間が各1室ずつと、浴室及び便所があった(平成3年増築後家屋の間取りの略図は、別図2のとおりである。)。
なお、本件旧家屋の2階と平成3年増築部分の2階は、行き来ができない構造であった。
D 平成11年増築部分は、平成3年増築部分の北側の壁際に造られた物置であった(本件家屋の間取りの略図は、別図3のとおりである。)。
(ロ) 本件残存家屋の間取り等
本件残存家屋は、本件一部取壊しの後に残存した平成3年増築部分及び平成11年増築部分からなり、平成3年増築部分に玄関を設置したものであって、1階には、店舗、居間兼台所、便所及び玄関があり、2階には、6畳間、4.5畳間、5.76畳間が各1室ずつと、浴室及び便所があった(本件残存家屋の間取りの略図は、別図4のとおりである。)。
なお、本件残存家屋には、本件一部取壊しの前後を通じて店舗の出入口があり、上記の新たに設置された玄関からでなくとも当該出入口から出入りが可能であった。
(ハ) 本件一部取壊し及び本件改修工事の状況等
A 本件一部取壊しは、平成21年8月から約1か月間にわたり行われ、本件改修工事は、同年9月から約5か月間にわたり行われた。
B 本件改修工事の内容等については、次のとおりであった。
(A) 本件旧家屋との断面の壁の工事
本件一部取壊しの結果(すなわち、本件家屋のうち本件旧家屋の部分を取り壊した結果)、本件残存家屋の本件旧家屋との断面の壁については、内壁は残っていたものの、断熱材がむき出しになるような状態であったため、工事業者が、モルタルの下地の板を貼り直した後、板の上に防水シートとラス(モルタルを付着させるために用いる金属でできた網状のもの)を貼り、その上にモルタルを塗るなどの工事を行った。
なお、上記工事に要した期間は、本件旧家屋の部分を解体してから約1か月半であった。
(B) 本件残存家屋の補修工事
工事業者が、台所の塗装工事などを行った。
(C) 屋根の工事
本件家屋のうち本件旧家屋の部分を取り壊したことにより、一体となっていた屋根の下地が使えなくなったため、工事業者が、当該下地の一部を造り直し、本件残存家屋の屋根の一部をふき替えた(なお、請求人は、屋根全体をふき替えた旨主張するが、当審判所の調査の結果によれば、一部のふき替えにとどまるものと認められる。)。
なお、上記工事に要した期間は、3日程度であった。
(D) 玄関の新規設置工事
玄関が本件旧家屋にあったため、工事業者が、本件残存家屋の平成3年増築部分の南側(店舗部分)にサッシを取り付けるなどして、玄関を設けた。
なお、玄関の設置に要した期間は、1日であった。
(E) ライフライン(電気・ガス・水道)工事
a 電気工事については、工事業者が、本件一部取壊しの際に電気を止める工事を行い、一時的に電気を使用できないことがあった。
b ガス工事については、工事業者が、本件旧家屋のガスを止め、配管工事を行った。
なお、ガスを使用できなかった期間は、1日であった。
c 水道工事については、工事業者が、本件残存家屋の東側道路の本管から新たに水道を引き込むために、給水管取出工事及び給水管敷設工事などを行った。
なお、本件残存家屋の水道が使えなかった期間は、1日から2日程度であった。
(ニ) 本件家屋の使用状況等
A 本件旧家屋は、父H及び母Jの生前は、同人らの住居及び父H又は請求人が営む自転車小売業の店舗として使用されていた。
B 平成3年増築部分は、いわゆる二世帯住宅とする目的で増築されたものであり、父H及び母Jの生前は、両名が本件旧家屋の住居部分で引き続き居住しており、平成3年増築部分は、請求人、請求人の妻、同長女及び同長男(以下、この4名を併せて「請求人ら家族」という。)の住居並びに請求人が営む自転車小売業の店舗として使用されていた。
C 本件一部取壊しの直前における本件家屋は、本件旧家屋の一部、平成3年増築部分の一部及び平成11年増築部分については、請求人の事業(自転車小売業)の店舗又は倉庫として使用され、その余の部分については、請求人ら家族の住居として使用されていた。
(ホ) 本件一部取壊し及び本件改修工事の期間中の本件残存家屋の使用状況等
A 請求人ら家族は、本件一部取壊し及び本件改修工事の期間中、一時的に屋根及び壁にブルーシートなどを張るなどして風雨が入らない状態にして、本件残存家屋(本件一部取壊しの工事期間中は平成3年増築部分)に居住していた。
B 請求人ら家族のうち、請求人の長女は、本件譲渡の後である平成22年4月頃、本件残存家屋から転居したが、その余の者は、本件譲渡の後も引き続き本件残存家屋に居住していた。
C 本件一部取壊しの前後を通じて、請求人ら家族は住民登録を異動させていなかった。
ハ 当てはめ
(イ) 本件特例の適用の可否を判断するに当たっては、本件一部取壊しが本件譲渡土地を更地として譲渡するために必要な限度のものであり、かつ、
本件一部取壊しによって本件残存家屋がその物理的形状等に照らし居住の用に供し得なくなったということができることが必要である(上記イの(ロ))ところ、上記
の点については、請求人及び原処分庁の双方に争いはなく(上記(1)のロ)、当審判所の調査の結果によってもこれを認めることができる。
そこで、上記の点、すなわち、本件一部取壊しによって本件残存家屋がその物理的形状等に照らし居住の用に供し得なくなったということができるか否かについて、以下検討する。
(ロ) まず、本件一部取壊しによっても、本件残存家屋の本件旧家屋との断面の壁は内壁を備えており(上記ロの(ハ)のBの(A))、また、本件残存家屋の屋根のふき替えはその一部にとどまっていた(上記ロの(ハ)のBの(C))。そのため、本件一部取壊し及び本件改修工事の各工事期間中、本件残存家屋の屋根及び壁にブルーシートなどを張るなどといった対策を施して風雨の侵入を防ぐことができたのであって、本件残存家屋は、客観的に見て上記工事期間中も人が居住することが可能な建物としての構造を備えていたといえる。
また、本件残存家屋には、1階に、店舗、居間兼台所、便所及び玄関が、2階に、6畳間、4.5畳間、5.76畳間が各1室ずつと、浴室及び便所があり(上記ロの(ロ))、客観的に見て人が居住して日常生活を送るのに必要な部屋である台所、便所、浴室及び居室の全てを備えているものと認められる。このように、本件残存家屋が人が居住して日常生活を送るのに必要な部屋を備えていたことは、本件残存家屋は、平成3年増築部分に新たな玄関が設置されたものであって、本件一部取壊しがされたことにより平成3年増築部分の間取り自体が変更されたものではないこと(上記ロの(ロ))、
請求人ら家族は、
父H及び母Jの両名の生前は、平成3年増築部分に4人で居住しており(上記ロの(ニ)のB)、また、
本件一部取壊し及び本件改修工事の各工事期間中も、請求人ら家族は転居することなく本件残存家屋に4人で居住していたこと(上記ロの(ホ)のA)からみても明らかである。
(ハ) 以上からすると、本件一部取壊しによって本件残存家屋がその物理的形状等に照らし居住の用に供し得なくなったということはできない。
(ニ) したがって、本件譲渡に係る譲渡所得の金額の計算において、本件譲渡が措置法第35条第1項に規定する「その居住の用に供している家屋…とともにするその敷地の用に供されている土地…の譲渡」に準ずるものであるとして、本件特例を適用することはできない。
ニ 請求人の主張について
(イ) 請求人は、本件残存家屋に対して、
本件旧家屋との断面の壁の取付け、
補修、
屋根全体のふき替え、
玄関の新規設置、
水道、ガスといったライフラインの引込みなどの改修工事(本件改修工事)を行った結果、機能的にみて居住可能な独立した家屋となったものであって、本件改修工事をしなければ、機能的にみて居住可能な独立した家屋であるとはいえなかったこと、
本件一部取壊し及び本件改修工事の各工事期間中は、居住し難い相当な不便を我慢しながら居住していたにすぎないこと、
本件残存家屋の居住スペースの減少により家族4人の居住空間が十分確保できず、請求人の長女は本件残存家屋から転居したことからすると、本件残存家屋は、その物理的形状に照らし居住の用に供し得なくなった旨主張する。
しかしながら、上記ハで述べたとおり、本件残存家屋の構造や部屋の機能等を客観的に見ると、本件一部取壊しによって本件残存家屋がその物理的形状等に照らし居住の用に供し得なくなったとはいえないのであって、このことは、本件改修工事がされたことや、実際に居住していた者が不便を感じたことによって結論を異にするものではない。
また、本件残存家屋の間取り(上記ロの(ロ))や、面積(総床面積105.20。上記1の(4)のイの(ト))からすると、店舗として使用していた部分はあるものの、請求人ら家族4人が居住できる間取りと広さは確保されていたものといえるのであって、請求人の長女が転居をしたことが結論を左右することもない。
したがって、請求人の主張には理由がない。
(ロ) また、請求人は、本件の場合、新たな住居を取得する代わりに相当額の経済的負担をして本件改修工事を行ったのであるから、本件譲渡による担税力は高いとはいえず、居住用財産の譲渡による税負担をできるだけ軽減しようとする本件特例の趣旨からすれば、本件特例が適用されるべきである旨主張する。
しかしながら、本件特例の趣旨は、上記イの(イ)のとおり、居住用財産を譲渡したことによって住居を失った場合には、これに代わる新たな住居の取得が必要になるのが通常であることなどから、当該譲渡の担税力が高くない例も多いことなどを考慮して、当該譲渡による税負担をできるだけ軽減しようとするものである。そうすると、居住用の家屋の敷地の一部を更地として譲渡するために当該家屋の一部を取り壊し、その取壊し部分の敷地を譲渡した場合については、住居を失ったのと同視し得るとき、すなわち、当該家屋の全体が取り壊されたのと同様に家屋の一部取壊しによって当該家屋の残存部分がその物理的形状等に照らし居住の用に供し得なくなったということができるときに限り、本件特例を適用し得るものである。
そうすると、請求人が主張するように新たな住居を取得する代わりに相当額の経済的負担をして本件改修工事を行ったとしても、本件残存家屋がその物理的形状等に照らし居住の用に供し得るものである以上、住居を失ったのと同視することはできず、本件特例を適用することはできない。
したがって、請求人の主張には理由がない。
4 争点2について
(1) 主張
原処分庁 | 請求人 |
---|---|
イ 次の理由から、下記(イ)及び(ロ)の各費用については、所得税法施行令第142条《必要経費に算入される資産損失の金額》第1号の規定に準じて計算した金額に相当する金額であるとはいえないから、所得税法第33条第3項に規定する譲渡所得の基因となった資産に係る「資産の譲渡に要した費用」に該当するものとして直ちに採用することはできない。したがって、当該各費用については、本件譲渡に係る譲渡所得の金額の計算上控除することはできない。 | イ 次の理由から、下記(イ)及び(ロ)の各費用については、本件譲渡に係る譲渡所得の金額の計算において本件特例が適用されるか否かにかかわらず、所得税法施行令第142条第1号の規定に準じて計算した金額に相当する金額であるといえるから、所得税法第33条第3項に規定する譲渡所得の基因となった資産に係る「資産の譲渡に要した費用」に該当するものである。したがって、当該各費用については、本件譲渡に係る譲渡所得の金額の計算上控除すべきである。 |
(イ) 本件旧家屋の新築費用に係る資産損失の金額(108,356円) この金額は、実際の建築に要した費用を基に算出された金額ではなく、建物の標準的な建築価額表に基づき計算された目安にすぎないものであるから、所得税法施行令第142条第1号の規定に準じて計算した金額であるとはいえない。 |
(イ) 本件旧家屋の新築費用に係る資産損失の金額(108,356円) この金額は、建物の標準的な建築価額表に基づき計算したものであるところ、平成12年11月16日付裁決で容認されている方法と同様の合理的な計算に基づく方法により求めた金額であるから、目安にすぎないものではなく、所得税法施行令第142条第1号の規定に準じて計算した金額であるといえる。 |
(ロ) 本件旧家屋の改修費用に係る資産損失の金額(2,950,690円) この金額は、平成3年2月1日付の見積書に記載された金額に基づき計算されたものであるところ、上記見積書の記載内容からは当該金額が本件旧家屋の改修工事に係るものであるか否かを判断することはできないから、所得税法施行令第142条第1号の規定に準じて計算した金額であるとはいえない。 |
(ロ) 本件旧家屋の改修費用に係る資産損失の金額(2,950,690円) この金額は、平成3年2月1日付の見積書に記載された金額に基づき計算した金額であるところ、本件旧家屋の改修工事に係る建設工事請負契約書に記載された金額と大きな差異はなく、当該改修工事の追加分として出金した旨が記載されている通帳に係る口座から当該改修工事費用相当額の出金があることなどからすると、当該金額は与えられた条件の中での自然かつ合理的な計算によるものであるから、所得税法施行令第142条第1号の規定に準じて計算した金額であるといえる。 |
ロ 下記(イ)ないし(ホ)の各費用については、いずれも、本件譲渡の実現後に本件残存家屋を居住の用に供するために本件残存家屋について行った工事のための費用であると認められ、本件譲渡の実現とは無関係な支出であるから、客観的に見て本件譲渡を実現するために当該各費用が必要であったとは認められない。したがって、当該各費用については、所得税法第33条第3項に規定する譲渡所得の基因となった資産に係る「資産の譲渡に要した費用」に該当するものではなく、当該各費用については、本件譲渡に係る譲渡所得の金額の計算上控除すべきではない。 | ロ 仮に、本件譲渡に係る譲渡所得の金額の計算において本件特例が適用できないのであれば、本件の場合、本件譲渡を実現した際に、本件残存家屋の壁、屋根、ライフライン等に不可避的・直接的な損失が生じたことは明らかであるから、当該損失の原状回復のために支出した下記(イ)ないし(ホ)の各費用は、客観的に見て本件譲渡を実現するために必要であったものと認められる。したがって、当該各費用については、所得税法第33条第3項に規定する譲渡所得の基因となった資産に係る「資産の譲渡に要した費用」に該当するものであるから、当該各費用については、本件譲渡に係る譲渡所得の金額の計算上控除すべきである。 |
(イ) 本件旧家屋との断面の壁取付工事費 | (イ) 本件旧家屋との断面の壁取付工事費 |
(1,194,585円) | (1,194,585円) |
(ロ) 本件残存家屋の補修工事費 | (ロ) 本件残存家屋の補修工事費 |
(1,354,124円) | (1,354,124円) |
(ハ) 屋根全体のふき替え工事費 | (ハ) 屋根全体のふき替え工事費 |
(603,225円) | (603,225円) |
(ニ) 玄関の新規設置費 | (ニ) 玄関の新規設置費 |
(138,915円) | (138,915円) |
(ホ) ライフライン引込み工事費 | (ホ) ライフライン引込み工事費 |
(1,352,900円) | (1,352,900円) |
(2) 判断
イ 法令解釈
(イ) 譲渡所得に対する課税の趣旨について
譲渡所得に対する課税は、資産の値上がりによりその資産の所有者に帰属する増加益を所得として、その資産が所有者の支配を離れて他に移転するのを機会に、これを清算して課税する趣旨のものである(最高裁昭和47年12月26日第三小法廷判決・民集26巻10号2083頁、最高裁昭和50年5月27日第三小法廷判決・民集29巻5号641頁参照)。
(ロ) 所得税法第33条第3項に規定する「資産の譲渡に要した費用」及び「取得費」について
A 法の定め
所得税法第33条第3項は、譲渡所得の金額は、同項各号に掲げる所得につき、それぞれその年中の当該所得に係る総収入金額から当該所得の基因となった資産の取得費及びその資産の譲渡に要した費用(以下「譲渡費用」という。)の額の合計額を控除し、その残額の合計額から譲渡所得の特別控除額を控除した金額とする旨規定している。
そして、所得税法第38条《譲渡所得の金額の計算上控除する取得費》第1項は、譲渡所得の金額の計算上控除する資産の取得費は、別段の定めがあるものを除き、その資産の取得に要した金額並びに設備費及び改良費の額の合計額とする旨規定している。
B 譲渡費用
(A) 譲渡所得に対する課税の趣旨は、上記(イ)のとおりである。しかしながら、所得税法上、抽象的に発生している資産の増加益そのものが課税の対象となっているわけではなく、原則として、資産の譲渡により実現した所得が課税の対象となっているものである。そうであるとすれば、資産の譲渡に当たって支出された費用が所得税法第33条第3項にいう譲渡費用に当たるかどうかは、一般的、抽象的に当該資産を譲渡するために当該費用が必要であるかどうかによって判断するのではなく、現実に行われた資産の譲渡を前提として、客観的に見てその譲渡を実現するために当該費用が必要であったかどうかによって判断すべきものである(最高裁平成18年4月20日第一小法廷判決・集民220号141頁参照)。
これを資産の譲渡に当たって譲渡価額を増額させるために費用が支出された場合についていえば、客観的に見て、その費用を支出したからこそ当該譲渡価額での譲渡を実現することができたという関係が認められる限り、その費用は、取得費に当たるものを除き、譲渡費用に当たるものというべきである。
(B) ところで、土地の譲渡に際しその土地の上にある建物を取り壊し、当該土地をいわゆる更地として譲渡する場合があるところ、所得税基本通達33−8《資産の譲渡に関連する資産損失》は、土地の譲渡に際しその土地の上にある建物を取り壊したような場合において、その取壊しが当該譲渡のために行われたものであることが明らかであるときは、当該取壊しの時において当該資産につき所得税法施行令第142条の規定に準じて計算した金額に相当する金額は、当該譲渡に係る譲渡費用とする旨定めている。
この定めは、土地の譲渡に際して行われる当該土地上の建物の取壊しは、その土地を譲渡するためのもので、いわばその土地の価値増加のためのものであると考えられることから、当該取壊しによる損失(資産損失)の金額は、土地の譲渡による収入金額に対応する資産の譲渡に要した費用として譲渡所得の金額の計算上控除するのが、土地の取引実態により即することから定められたものであり、当審判所においてもかかる取扱いは相当であると考える。
C 取得費
(A) また、譲渡所得に対する課税の趣旨は、上記(イ)のとおりであるところ、上記Aのとおり、所得税法第33条第3項が総収入金額から控除し得るものとして、当該資産の客観的価格を構成すべき金額のみに限定せず、取得費と並んで譲渡に要した費用をも掲げていることに徴すると、同項にいう「資産の取得に要した金額」には、当該資産の客観的価格を構成すべき取得代金の額のほか、登録免許税、仲介手数料等当該資産を取得するための付随費用の額も含まれると解される(最高裁平成4年7月14日第三小法廷判決・民集46巻5号492頁参照)。
(B) 他方、所得税法第60条《贈与等により取得した資産の取得費等》第1項は、居住者が同項第1号所定の贈与、相続(限定承認に係るものを除く。)又は遺贈(包括遺贈のうち限定承認に係るものを除く。)により取得した資産を譲渡した場合における譲渡所得の金額の計算については、その者が引き続き当該資産を所有していたものとみなす旨を規定している。
上記(イ)の譲渡所得課税の趣旨からすれば、贈与、相続又は遺贈であっても、当該資産についてその時における価額に相当する金額により譲渡があったものとみなして譲渡所得課税がされるべきところ(所得税法第59条《贈与等の場合の譲渡所得等の特例》第1項参照)、同法第60条第1項第1号所定の贈与等にあっては、その時点では資産の増加益が具体的に顕在化しないため、その時点における譲渡所得課税について納税者の納得を得難いことから、これを留保し、その後受贈者等が資産を譲渡することによってその増加益が具体的に顕在化した時点において、これを清算して課税することとしたものである。同項の規定により、受贈者の譲渡所得の金額の計算においては、贈与者が当該資産を取得するのに要した費用が引き継がれ、課税を繰り延べられた贈与者の資産の保有期間に係る増加益も含めて受贈者に課税されるとともに、贈与者の資産の取得の時期も引き継がれる結果、資産の保有期間(所得税法第33条第3項第1号及び第2号参照)については、贈与者と受贈者の保有期間が通算されることとなる。
このように、所得税法第60条第1項の規定の本旨は、増加益に対する課税の繰延べにあるから、この規定は、受贈者の譲渡所得の金額の計算において、受贈者の資産の保有期間に係る増加益に贈与者の資産の保有期間に係る増加益を合わせたものを超えて所得として把握することを予定していないというべきである。そして、受贈者が贈与者から資産を取得するための付随費用の額は、受贈者の資産の保有期間に係る増加益の計算において、「資産の取得に要した金額」(所得税法第38条第1項)として収入金額から控除されるべき性質のものである。そうすると、上記付随費用の額は、所得税法第60条第1項に基づいてされる譲渡所得の金額の計算において「資産の取得に要した金額」に当たると解すべきである(最高裁平成17年2月1日第三小法廷判決・集民216号279頁参照)。そして、この理は、相続により資産を取得した場合の付随費用の額についても、何ら異なるものではない。
ロ 認定事実
請求人提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
(イ) 平成3年に行われた本件旧家屋の改装工事及び平成3年増築部分の増築工事について
A 工事に係る請負契約の内容について
父Hは、平成3年3月6日、L社との間で、要旨次のとおり、注文者を父H、請負者をL社とする本件旧家屋の増築及び改装に係る建設工事請負契約を締結した(以下、当該契約を「平成3年請負契約」といい、平成3年請負契約に係る本件旧家屋の増築工事を「平成3年増築工事」と、本件旧家屋の改装工事を「平成3年改装工事」とそれぞれいう。)。
(A) 工事名
H邸増築及び改装工事
(B) 請負代金の額
23,700,000円
(C) 支払方法
注文者(父H)は請負代金を次のように請負者(L社)に支払う。
a この契約成立のとき 1,000,000円
b 部分払(第1回) 着工金 7,000,000円
c 部分払(第2回) 上棟時 8,700,000円
d 完成引渡しのとき 7,000,000円
B 見積書の記載内容について
(A) 平成3年2月1日付のL社が請求人に宛てて作成した見積書(以下「当初工事見積書」という。)の内訳書には、H邸新築工事一式17,820,000円、
H邸改修工事一式5,660,000円、
合計23,480,000円などと記載されている。
(B) 日付不詳のL社が作成した見積書(以下「追加工事見積書」という。)の内訳書には、工事名として「追加工事」、「H邸追加工事」と記載されているほか、
本邸一式259,670円、
h町一式148,200円、
新邸一式1,091,130円、
消費税3%44,970円、
合計1,543,970円などと記載されている。
C 領収証の存在及び通帳の記載内容について
(A) 平成3年請負契約に係る代金支払について、平成3年3月6日付、同月19日付、同年6月18日付及び同年10月8日付でL社が父Hに宛てて発行した、1,000,000円、7,000,000円、8,700,000円及び7,000,000円の各領収証がある。
(B) 父H名義のM銀行i支店の普通預金口座の通帳には、平成3年10月9日に7,000,000円を出金した記録と、
同月18日に1,300,000円を出金した記録があり、上記
の摘要欄には手書きで「L社」と、また、上記
の摘要欄には手書きで「L社追加工事代」とそれぞれ記載されている。
D 平成3年増築工事及び平成3年改装工事とその後の追加工事について
(A) 平成3年増築工事及び平成3年改装工事とその後の追加工事について
当初工事見積書及び追加工事見積書の各記載内容(上記B)からすると、本件旧家屋については、平成3年増築工事及び平成3年改装工事(以下、この2つの工事を併せて「平成3年当初工事」という。)と、
その後に本件旧家屋の部分と平成3年増築部分についてされた追加工事(以下「平成3年追加工事」という。)が行われたものと認められる。
なお、当初工事見積書の記載内容からすると、平成3年改装工事の内容は、浴室、台所、便所、屋根、給排水設備などの改修工事であり、追加工事見積書の記載内容からすると、平成3年追加工事のうち本件旧家屋の部分についてされた工事の内容は、便所の壁の工事などであった。
(B) 平成3年当初工事について
a ところで、当初工事見積書に記載された「H邸改修工事」とは平成3年改装工事を、また、「H邸新築工事」とは平成3年増築工事を、それぞれ指すものと認められるところ、当初工事見積書に記載された各工事の見積金額の合計額23,480,000円(上記Bの(A))と、平成3年請負契約に係る契約書に記載された請負代金の額23,700,000円(上記Aの(B))との間には、220,000円の差額がある。
この点、請求人は、当審判所に対して、上記差額は、当初工事見積書の作成後に発生した平成3年増築工事に係る費用の額であり、平成3年改装工事としては当初工事見積書のとおりの工事が行われた旨答述しており、この答述からすると、平成3年当初工事に係る費用(平成3年請負契約に係る請負代金23,700,000円)のうち、平成3年改装工事の費用の金額は、当初工事見積書に記載された5,660,000円(上記Bの(A))であり、
平成3年増築工事の費用の金額は、当初工事見積書に記載された17,820,000円(上記Bの(A))と上記差額220,000円との合計18,040,000円であったと認められる。
b そして、L社から父Hに宛てた領収証4通が存在すること(上記Cの(A))からすると、父Hは、L社に対して、上記Aの(C)のとおり4回に分けて、平成3年請負契約に係る請負代金23,700,000円を支払ったものと認められ、また、
父H名義の預金通帳に平成3年10月9日に7,000,000円を出金した記録及びその摘要欄に「L社」と手書きの記載があること(上記Cの(B))からすると、上記4回にわたる請負代金の支払のうち完成引渡しのときに支払われるべき残代金7,000,000円(上記Aの(C)のd)の支払時期は、平成3年10月9日頃であったものと認められる。
(C) 平成3年追加工事について
a ところで、追加工事見積書に記載された「本邸」とは本件旧家屋を、また、「新邸」とは平成3年増築部分を、それぞれ指すものと認められるところ、追加工事見積書の記載(上記Bの(B))からすると、平成3年追加工事に係る費用の金額は、本件旧家屋の部分についてされた267,460円(259,670円×1.03≒267,460円)と、
平成3年増築部分についてされた1,123,864円(1,091,130円×1.03≒1,123,864円)との合計1,391,324円であったと認められる。
b そして、平成3年追加工事に係る費用については、父H名義の預金通帳に平成3年10月18日に1,300,000円を出金した記録及びその摘要欄に「L社追加工事代」と手書きの記載があること(上記Cの(B))、
父H名義の預金通帳には同月9日に7,000,000円を出金した記録及びその摘要欄に「L社」と手書きの記載があり(上記Cの(B))、その頃父HがL社に対して当該金額の支払をしたと認められること(上記(B)のb)からすると、同月18日頃、父HからL社に対して、上記
の出金された1,300,000円を原資の一部として、平成3年追加工事に係る費用の全額の支払がされたものと推認される。
(ロ) 請求人が主張する本件旧家屋に係る資産損失の額について
A 本件旧家屋の新築費用に係る資産損失の金額(108,356円)について
請求人は、昭和42年に新築した本件旧家屋の新築工事の費用の金額108,356円について、所得税法施行令第142条第1号の規定に準じて計算した金額である(所得税法第38条第1項の「資産の取得に要した金額」を合理的に算定し、同条第2項の規定を適用した金額である)として、当該金額を資産損失の額として、本件譲渡に係る譲渡所得の金額の計算上控除できるとしている。
請求人は、当該新築工事に実際に要した金額を証明する資料がなく不明であるとして、国税庁ホームページに掲載されている「建物の標準的な建築価額表」に基づき上記金額(108,356円)を算出している。
B 本件旧家屋の改修費用に係る資産損失の金額(2,950,690円)について
請求人は、平成3年に行われた本件旧家屋の部分の改修に係る工事の費用の金額2,950,690円について、所得税法施行令第142条第1号の規定に準じて計算した金額である(所得税法第38条第1項の「資産の取得に要した金額」を合理的に算定し、同条第2項の規定を適用した金額である)として、当該金額を資産損失の額として、本件譲渡に係る譲渡所得の金額の計算上控除できるとしている。
請求人は、当該改修工事に要した金額は、当初工事見積書に記載された平成3年改装工事の費用の額5,660,000円(上記(イ)のBの(A))及び追加工事見積書の記載から認められる平成3年追加工事の費用の額のうち本件旧家屋の部分についてされた267,460円(上記(イ)のDの(C)のa)との合計5,927,460円であるとして、上記金額(2,950,690円)を算出している。
(ハ) 請求人が主張する本件改修工事の各費用(本件旧家屋との断面の壁取付工事費、
本件残存家屋の補修工事費、
屋根全体のふき替え工事費、
玄関の新規設置費、
ライフライン引込み工事費)の額について
A 請求人は、本件改修工事の各費用の金額(本件旧家屋との断面の壁取付工事費(1,194,585円)、
本件残存家屋の補修工事費(1,354,124円)、
屋根全体のふき替え工事費(603,225円)、
玄関の新規設置費(138,915円)、
ライフライン引込み工事費(1,352,900円))について、客観的に見て本件譲渡を実現するために必要であったと認められるとして、当該金額を所得税法第33条第3項の譲渡費用の額として、譲渡所得の金額の計算上控除すべきであるとしている。
B 上記Aの各費用については、本件残存家屋に係る工事費用であり、平成21年8月18日から平成22年1月29日にかけて、請求人から工事業者に対して支払済みである。
(ニ) 本件土地及び本件家屋に係る相続登記費用等の金額について
請求人は、平成20年7月22日、N司法書士に対して、母Jを被相続人とする相続に係る本件土地及び本件家屋の相続登記に要した費用及び報酬(以下「本件相続登記費用等」という。)として、407,900円を支払った。
このうち、本件土地に係る費用等相当額は309,300円、本件家屋に係る費用等相当額は98,600円であった。
(ホ) 本件旧家屋の使用目的による割合について
請求人は、昭和42年から本件家屋の一部(当初は本件旧家屋の一部、平成3年の増築後は本件旧家屋及び平成3年増築部分の各一部並びに平成11年増築部分)で事業(自転車小売業)を営んでいたところ、本件旧家屋のうち、8分の7相当を居住用として、また、残りの8分の1相当を事業用として、使用していた。
(ヘ) 本件譲渡に至る経緯について
請求人は、当初、本件旧家屋の部分を取り壊さずに本件譲渡土地を売りに出していたが、買い手がつかなかったことから、譲渡を成立させるため、本件旧家屋の部分を取り壊した。
ハ 当てはめ
(イ) 請求人が主張する本件旧家屋に係る資産損失の額について
A はじめに
上記イの(ロ)のBの(B)のとおり、土地の譲渡に際しその土地の上にある建物を取り壊したような場合において、その取壊しが当該譲渡のために行われたものであることが明らかであるときは、当該取壊しの時において当該資産につき所得税法施行令第142条の規定に準じて計算した金額に相当する金額を当該譲渡に係る譲渡費用とする取扱いをするのが相当である(所得税基本通達33−8)ところ、所得税法施行令第142条第1号は、固定資産について生じた所得税法第51条《資産損失の必要経費算入》第1項に規定する損失の金額の計算の基礎となるその資産の価額は、当該損失の生じた日にその資産の譲渡があったものとみなして、所得税法第38条第1項又は第2項の規定を適用した場合にその資産の取得費とされる金額に相当する金額である旨規定している。
そして、本件の場合、請求人は本件譲渡のために本件旧家屋の部分の取壊し(本件一部取壊し)を行ったものと認められる(上記ロの(ヘ))ことから、本件一部取壊しが本件譲渡のために行われたものであることが明らかであるといえるので、以下においては、請求人の主張する本件旧家屋の新築費用及び改修費用の額(上記(1)のイの(イ)及び(ロ))が、本件旧家屋に係る所得税法第38条第1項の取得費とされる金額に相当する金額であるか否かについて検討する。
B 本件旧家屋の新築費用に係る資産損失の金額について
請求人は、本件旧家屋の新築工事に実際に要した費用の金額を証明する資料がなく、その額が不明であるとして、国税庁ホームページに掲載されている「譲渡所得の申告のしかた(記載例)」の「建物の標準的な建築価額表」(建築統計年報(国土交通省)の「構造別:建築物の数、床面積の合計、工事費予定額」表を基に、1当たりの工事費予定額を算出(工事費予定額÷床面積の合計)したもの)を基に、当該資産損失の金額(108,356円)を算出している(上記ロの(ロ)のA)。
しかしながら、「建物の標準的な建築価額表」とは、建物と土地を一括で購入した時に売買代金の総額は判明しているものの建物と土地の価額が区分されていない場合において、建物の償却費相当額の基となる建物の取得価額を計算する必要があるときに、当該建物の建築年に対応する「建物の標準的な建築価額表」によって建物の取得価額を計算することとしても差し支えないとされているものであり、そもそも建物の建築費用の額が全く不明である場合にその額を推算する根拠として用いる目的で作成されたものではない。
したがって、本件旧家屋の新築工事に実際に要した費用の金額を証明する資料が全く存在しない本件において、「建物の標準的な建築価額表」を用いて算出した金額が本件旧家屋に係る所得税法第38条第1項の取得費とされる金額に相当する金額であるとは認められない。
そうすると、請求人が主張する本件旧家屋の新築費用に係る資産損失の金額(108,356円)を、本件譲渡に係る譲渡所得の金額の計算上控除することはできない。
C 本件旧家屋の改修費用に係る資産損失の金額について
(A) 請求人は、平成3年改装工事の費用の金額である5,660,000円及び
平成3年追加工事のうち本件旧家屋の部分についてされた分の金額267,460円の合計額である5,927,460円を基礎として、当該資産損失の金額(2,950,690円)を算出している(上記ロの(ロ)のB)。
そして、本件旧家屋については、平成3年に台所の改修などの平成3年改装工事が行われ(上記ロの(イ)のA及び同Dの(A))、その工事費用の額は5,660,000円であって(上記ロの(イ)のDの(B)のa)、当該費用は支払済みである(上記ロの(イ)のDの(B)のb)と認められることから、当該費用の額は、本件旧家屋に係る所得税法第38条第1項の改良費とされる金額に相当する金額であると認められる。
また、本件旧家屋については、便所の壁の工事などの平成3年追加工事も行われており(上記ロの(イ)のDの(A))、その工事費用の額は267,460円であって(上記ロの(イ)のDの(C)のa)、当該費用は支払済みである(上記ロの(イ)のDの(C)のb)と認められることから、当該費用の額も、本件旧家屋に係る所得税法第38条第1項の改良費とされる金額に相当する金額であると認められる。
(B) そうすると、平成3年改装工事の金額(5,660,000円)及び平成3年追加工事のうち本件旧家屋の部分についてされた分の金額(267,460円)の合計額5,927,460円を基礎として、所得税法第38条第2項及び所得税法施行令第142条の規定に基づいて計算した金額は、本件譲渡に係る資産損失として、本件譲渡に係る譲渡所得の金額の計算上、譲渡費用として控除することができる。
なお、上記ロの(ホ)のとおり、本件旧家屋は、8分の7に相当する部分が居住用として、8分の1に相当する部分が事業用として使用されていたことから、これを基に本件譲渡に係る譲渡所得の金額の計算上控除することができる資産損失の金額を計算すると、別表2のとおり計算した未償却残高208,008円及び別表3の未償却残高2,581,854円の合計額2,789,862円となる。
(ロ) 請求人が主張する本件改修工事の各費用(本件旧家屋との断面の壁取付工事費、
本件残存家屋の補修工事費、
屋根全体のふき替え工事費、
玄関の新規設置費、
ライフライン引込み工事費)について
A 資産の譲渡に当たって支出された費用が譲渡費用に当たるかどうかは、現実に行われた資産の譲渡を前提として、客観的に見てその譲渡を実現するために当該費用が必要であったかどうかによって判断すべきものである(上記イの(ロ)のBの(A))ところ、請求人が主張する本件改修工事の各費用(上記ないし
)は、いずれも、請求人が本件譲渡の実現後も引き続き居住する本件残存家屋について行った改修工事のための費用であると認められるから(上記ロの(ハ)のB)、本件譲渡の実現とは関係のない支出であり、客観的に見て本件譲渡を実現するために当該各費用が必要であったとは認められない。
したがって、請求人が主張する本件改修工事の各費用(上記ないし
)については、所得税法第33条第3項にいう譲渡費用には該当せず、本件譲渡に係る譲渡所得の金額の計算において、これらを控除することはできない。
B 請求人は、本件譲渡を実現した際に、本件残存家屋の壁、屋根、ライフライン等に不可避的・直接的な損失が生じたことは明らかであるから、当該損失の原状回復のために支出した本件改修工事の各費用(上記ないし
)は、客観的に見て本件譲渡を実現するために必要であったものと認められる旨主張する。
しかしながら、請求人が主張する本件改修工事の各費用(上記ないし
)は、上記Aのとおり、請求人が本件譲渡の実現後も本件残存家屋に引き続き居住するに当たり行った改修工事に係るものであって、本件譲渡を実現するために必要であったとは認められないのであるから、請求人の主張には理由がない。
5 本件更正処分について
(1) 本件譲渡に係る譲渡所得の金額の計算上控除する取得費及び譲渡費用について
イ 本件更正処分では、本件譲渡に係る譲渡所得の金額の計算において、本件譲渡土地の取得費として、本件相続登記費用等407,900円のうち本件譲渡土地に係る金額197,095円(407,900円×97.04/200.83
≒197,095円)が計上されている。
しかしながら、当審判所の調査の結果によれば、当該金額(197,095円)には譲渡の対象ではない建物(平成3年増築部分)に係るものなどが含まれていたことから、当審判所において、次のロのとおり、本件譲渡土地の取得費(本件相続登記費用等のうち本件譲渡土地に係る金額)及び
本件旧家屋の資産損失として譲渡費用に該当する本件相続登記費用等を計算した。
ロ 上記4の(2)のロの(ニ)のとおり、本件相続登記費用等のうち本件土地に係る金額は309,300円であるところ、このうち本件譲渡土地に係る部分の金額は、上記1の(4)のイの(チ)の面積の比によりあん分すると、149,467円(309,300円×97.04/200.81
≒149,467円)となる(なお、平成21年10月27日付で分筆される前の本件土地の地積は200.83
であるが、当該分筆後の本件残存土地及び本件譲渡土地の地積の合計は200.81
である(上記1の(4)のイの(チ))ことから、200.81
を採用した。)。
ハ また、上記4の(2)のロの(ニ)のとおり、本件相続登記費用等のうち本件家屋に係る金額は98,600円であるところ、このうち本件旧家屋に係る部分の金額は、上記1の(4)のイの(ハ)及び同(ト)の面積の比によりあん分すると、50,152円(98,600円×(214.10−105.20
)/214.10
≒50,152円)となる。
ニ そして、上記4の(2)のロの(ホ)のとおり、本件旧家屋のうち8分の7に相当する部分が居住用として、8分の1に相当する部分が事業用として使用されていたことからすると、本件譲渡に係る譲渡所得の金額の計算上控除できる本件相続登記費用等は上記居住用部分に相当する部分となる。
そうすると、本件相続登記費用等のうち、上記ロの本件譲渡土地に係る部分の金額149,467円のうち居住用部分8分の7に相当する金額は、取得費に計上することになり、また、
上記ハの本件旧家屋に係る部分の金額50,152円のうち居住用部分8分の7に相当する金額は、本件旧家屋の資産損失として譲渡費用に計上することになる。
そして、これらをそれぞれ計算すると、本件譲渡に係る譲渡所得の金額の計算上、取得費に計上できる本件相続登記費用等は、別表5のの「審判所認定額」欄のとおり130,784円となり、譲渡費用として計上できる本件相続登記費用等は、別表4のとおり42,659円となる。
(2) 本件譲渡に係る譲渡所得の金額について
本件譲渡に係る譲渡所得の金額の計算上控除する取得費の額は、別表5のの「審判所認定額」欄のとおり2,520,420円となり、本件譲渡に係る譲渡所得の金額の計算上控除する譲渡費用の額は、別表5の
の「審判所認定額」欄のとおり5,978,261円となるので、本件譲渡に係る分離長期譲渡所得の金額は、別表5の
の「審判所認定額」欄のとおり○○○○円となる。
(3) 請求人の納付すべき税額について
上記(2)に基づき、請求人の平成22年分の所得税の納付すべき税額を計算すると、別表6ののとおり○○○○円となり、本件更正処分の額(○○○○円)を下回るから、本件更正処分は、その一部を別紙1「取消額等計算書」のとおり取り消すべきである。
6 本件賦課決定処分について
上記5の(3)のとおり、本件更正処分はその一部が取り消されるべきであるところ、その他の部分の納付すべき税額の計算の基礎となった事実が本件更正処分前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、国税通則法第65条《過少申告加算税》第4項に規定する正当な理由があるとは認められない。
そこで、請求人の過少申告加算税の額を、上記5の(3)により取り消した後の本件更正処分に係る納付すべき税額(別紙1の「4 課税標準等及び税額等の計算」の「納付すべき税額」の「裁決後の額 B」欄の金額)を基礎として計算すると、別紙1の「4 課税標準等及び税額等の計算」の付表のとおりとなる。
そうすると、請求人の過少申告加算税の額(別紙1の「4 課税標準等及び税額等の計算」の「過少申告加算税の額」の「裁決後の額 B」欄の金額である○○○○円)は、本件賦課決定処分に係る過少申告加算税の額(○○○○円)を下回るから、本件賦課決定処分についても、その一部を別紙1「取消額等計算書」のとおり取り消すべきである。
7 その他
原処分のその他の部分については、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。
別表1 審査請求に至る経緯(省略)
別表2 平成3年に行われた本件旧家屋の改装工事費用(事業用部分)(省略)
別表3 平成3年に行われた本件旧家屋の改装工事費用(居住用部分)(省略)
別表4 本件旧家屋に係る本件相続登記費用等(居住用部分)(省略)
別表5 分離長期譲渡所得金額の計算明細表(原処分庁主張額及び審判所認定額)(省略)
別表6 平成22年分所得税の税額計算表(審判所認定額)(省略)
別紙1 取消額等計算書(省略)