(平成26年1月28日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、給与所得者である審査請求人(以下「請求人」という。)が、租税特別措置法第41条《住宅借入金等を有する場合の所得税額の特別控除》第1項の規定を適用して源泉徴収に係る所得税額の還付を受けるために、所得税の確定申告をしたところ、原処分庁が、財務省令に規定する書類の添付がないから、同条第17項の規定に基づき同条第1項の規定を適用できないとして更正処分等をするとともに、請求人の当該申告により生じた還付金を当該更正処分等に係る納付すべき税額に充当処分をしたことに対し、請求人が、財務省令に規定する書類を添付しており、また、当該更正処分等によって還付金は消滅し充当できない状態に至っているなどとして、これらの処分の全部の取消しを求めた事案である。

(2) 関係法令

 別紙のとおり。

(3) 審査請求に至る経緯及び基礎事実

 次の事実については、請求人と原処分庁との間に争いはなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。
イ 平成23年分の所得税について
(イ) 請求人は、平成23年分の所得税について、措置法第41条第1項に規定する所得税額の特別控除(以下「住宅借入金等特別控除」という。)を適用し、別表の「平成23年分」の「確定申告」欄のとおり記載した確定申告書(以下「本件23年分確定申告書」という。)に「平成23年分の申告書等送信票(兼送付書)」及び「平成23年分(特定増改築等)住宅借入金等特別控除額の計算明細書」を添付し、国税電子申告・納税システム(以下「e-Tax」という。)を利用して、平成24年3月13日に原処分庁へ提出した。
 なお、請求人は、e-Taxの利用に伴うものとして、「平成23年分給与所得の源泉徴収票」の記載事項を入力し、その提出を省略した。
(ロ) 請求人は、措置法施行規則第18条の21第9項(以下「本件条項」という。)に規定する事項を明らかにする書類であるとして、次の各書類(以下「本件各書類」という。)を郵送の方法により、平成24年3月13日に原処分庁へ提出した。
A 平成24年2月10日付でa市長が発行した請求人の世帯全員の住民票の写し(以下「本件住民票」という。)
 本件住民票の内容は、次のとおりである。
(A) 請求人の世帯は、請求人及びHを含めた3名とされている。
(B) 請求人の世帯全員の異動年月日及び届出年月日は、いずれも平成23年4月○日とされている。
(C) 住所は、a市b町○−○とされており、a市d町○−○からの転入とされている。
B 平成24年3月9日付で金融機関が発行した平成23年分の「住宅取得資金に係る借入金の年末残高等証明書」(以下「本件年末残高証明書」という。)
 本件年末残高証明書の内容は、次のとおりである。
(A) 「住宅取得資金の借入れ等をしている者」は請求人であり、その住所はa市b町○−○とされている。
(B) 「住宅借入金等の金額」の「年末残高」は29,632,237円と、「当初金額」は平成23年3月○日30,000,000円とされている。
C 平成23年2月13日付「土地付区分所有建物売買契約書」と題する書類の一部の写し(以下「本件売買契約書」という。)及び本件売買契約書のうち売買代金・支払方法を変更する同日付「売買代金及び支払方法の変更に関する覚書」と題する書類の写し(以下「本件覚書」といい、これらを併せて「本件売買契約書等」という。)
 本件売買契約書等の内容を総合すると、次のとおりである。
(A) 売買の対象は、a市b町○−○の宅地及び同宅地上に所在する区分所有建物「J」○階○号(以下「本件物件」という。)とされている。
(B) 本件物件の専有面積は95.92平方メートルとされている。
(C) 本件物件の買主は請求人及びHとされ、本件物件の売主はK社、L社及びM社とされている。
(D) 本件物件の売買代金の額は58,000,000円(本件覚書による変更前の売買代金の額は72,400,000円)であり、本件売買契約書による契約締結時に手付金2,000,000円を支払い、本件物件の引渡時に現金26,000,000円(本件覚書による変更前の現金の額は40,400,000円)及びプロパーローン30,000,000円により支払うこととされている。
(E) 本件物件の引渡予定日及び建物所有権保存登記申請時期は平成23年3月31日とされている。
D 平成23年3月23日付の「登記手続依頼書兼最終資金構成表(お客様控)」と題する書類の写し(以下「本件依頼書」という。)
 本件依頼書の内容は、次のとおりである。
(A) 本件依頼書は、宛名を司法書士事務所と、登記手続の対象となる物件を本件物件とし、「登記名義人及び共有持分割合・借入金額は下記の通りですので、登記申請手続きを依頼致します。」と記載されている。
(B) 本件依頼書の「登記名義人(兼登記依頼人)」欄には、それぞれ請求人及びHの氏名が記載された上で、それぞれに対する「共有持分割合」欄には、いずれも2分の1と記載され、それぞれに対応する「実印」欄には、押印がされている。本件依頼書の「引渡日」欄には、平成23年3月○日と記載されている。
(ハ) 原処分庁は、請求人に対し、平成24年10月25日付で、別表の「平成23年分」の「更正処分等」欄のとおりの平成23年分の所得税の更正処分(以下「本件23年分更正処分」という。)及び過少申告加算税の賦課決定処分(以下「本件23年分賦課決定処分」といい、本件23年分更正処分と併せて「本件23年分更正処分等」という。)をし、また、平成24年11月12日付で、本件23年分確定申告書に記載された源泉徴収による所得税額の還付金の額(以下「本件還付金」という。)を本件23年分更正処分により新たに納付すべきこととなった税額(以下「本件納付税額」という。)に充当する処分(以下「本件充当処分」といい、本件23年分更正処分等と併せて「本件23年分各処分」という。)をした。
(ニ) 請求人は、本件23年分各処分を不服として、平成24年11月27日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、平成25年1月25日付で、いずれも棄却の異議決定をした。
(ホ) 請求人は、異議決定を経た後の本件23年分各処分に不服があるとして、平成25年2月18日に審査請求をした。
(ヘ) 請求人は、平成25年4月4日付反論書に次の資料を添付して、当審判所へ提出した。
A 本件物件が、平成23年3月○日に、本件物件の売主3社の担当者から請求人及びHへ引き渡された旨が記載された「物件引渡証」の写し(以下「本件引渡証」という。)
B 本件物件について、平成23年3月○日売買を原因として、請求人及びHを共有者(各持分2分の1)とする所有権保存登記の記載がある登記事項証明書の写し(以下「本件登記事項証明書」という。)
ロ 平成24年分の所得税について
(イ) 請求人は、平成24年分の所得税について、住宅借入金等特別控除を適用し、別表の「平成24年分」の「確定申告」欄のとおり記載した確定申告書(以下「本件24年分確定申告書」という。)に「平成24年分の申告書等送信票(兼送付書)」及び「平成24年分(特定増改築等)住宅借入金等特別控除額の計算明細書」を添付し、e-Taxを利用して、平成25年2月26日に原処分庁へ提出した。
(ロ) 請求人は、e-Taxの利用に伴うものとして、「平成24年分給与所得の源泉徴収票」の記載事項及び「平成24年分住宅取得資金に係る借入金の年末残高等証明書」の記載事項をそれぞれ入力し、これらの書類の提出を省略した。
(ハ) 原処分庁は、請求人に対し、平成25年7月4日付で、別表の「平成24年分」の「更正処分等」欄のとおりの平成24年分の所得税の更正処分(以下「本件24年分更正処分」という。)及び過少申告加算税の賦課決定処分(以下「本件24年分賦課決定処分」といい、本件24年分更正処分と併せて「本件24年分更正処分等」という。)をした。
(ニ) 請求人は、本件24年分更正処分等を不服として、平成25年7月11日に異議申立てをした。
ハ 合意によるみなす審査請求について
 異議審理庁は、本件24年分更正処分等に対する異議申立てについて、通則法第89条《合意によるみなす審査請求》第1項の規定により審査請求として取り扱うことを適当であると認め、平成25年7月18日付で請求人に同意を求めたところ、同月29日に請求人から同意する旨の回答書を受理したため、同日審査請求がされたものとみなした。
ニ 審査請求の併合審理について
 上記ハのとおり、本件24年分更正処分等に対する異議申立てを合意によるみなす審査請求として取り扱うことに伴い、本件24年分更正処分等を本件23年分各処分と併合して審理する。

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2 争点

(1) 争点1 平成23年分の所得税について、住宅借入金等特別控除を適用することができるか否か。

(2) 争点2 本件23年分賦課決定処分について、通則法第65条第4項に規定する「正当な理由があると認められるものがある場合」に該当するか否か。

(3) 争点3 本件充当処分は違法か否か。

(4) 争点4 平成24年分の所得税について、住宅借入金等特別控除を適用することができるか否か。

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3 主張

(1) 争点1(平成23年分の所得税について、住宅借入金等特別控除を適用することができるか否か。)について

請求人 原処分庁
イ 本件各書類について
 本件各書類は、次のとおり、本件条項に規定する事項を明らかにするものであるから、請求人に住宅借入金等特別控除を適用すべきである。
 なお、原処分庁は、本件各書類をそれぞれ単体でみて本件条項に規定する事項を明らかにしていないと判断するが、本件各書類の全体から総合的に判断すべきである。
イ 本件各書類について
 措置法第41条第17項に規定するとおり、住宅借入金等特別控除は、本件条項に規定する事項を明らかにする書類を確定申告書に添付している場合に限り適用することができるところ、次のとおり、本件各書類は、本件条項に規定する事項のうち、まる1居住用家屋の取得をしたこと、まる2居住用家屋の取得をした年月日及びまる3居住用家屋の取得の対価の額を明らかにするものではないから、請求人には住宅借入金等特別控除を適用できない。
(イ) 請求人は、本件売買契約書等により、平成23年2月13日に本件物件の売買契約を締結し、本件依頼書の「引渡日」欄に記載のとおり、同年3月○日に本件物件の引渡しを受け、さらに、本件住民票のとおり、同年4月○日から本件物件に居住している。
 また、本件覚書のプロパーローンの支払時期が本件物件の引渡時とされており、本件年末残高等証明書によれば、プロパーローンが平成23年3月○日に支払われたことが認められる。
 したがって、請求人が平成23年3月○日には、本件物件の引渡しを受け、同日(遅くとも同年4月○日)には、本件物件を取得していたことは、本件各書類を総合的に評価すれば明らかである。
 なお、本件売買契約書等の本件物件の引渡予定日が平成23年3月31日とされているが、それは遅くとも同日までに引渡しをすることについての合意であり、いずれも「予定」とされているから、本件依頼書の「引渡日」欄の記載と矛盾するものではない。
(イ) 本件売買契約書等に本件物件の引渡し予定日等として記載されている平成23年3月31日は、本件物件の引渡し等を予定している日であり、本件物件を取得した年月日ではなく、また、本件依頼書に引渡日が同月○日と記載されているが、請求人が本件物件を取得したこと及び本件物件を取得した年月日も明らかではない。
(ロ) 本件売買契約書上、共有者間に特段の合意がなくとも、民法第250条《共有持分の割合の推定》の規定により、各共有者間の共有持分割合は等分(2分の1ずつ)である旨の合意がなされたことが民法上合理的に推定される。
 本件においては、上記推定を覆す事実は全くないばかりか、本件依頼書には、共有持分割合が2分の1である旨の記載があり、本件売買契約書等にされた署名・押印と同じ請求人及びHによる自署・実印の押印がなされているところ、社会通念上、実印を押印するということは、押印者自身が、そこに記された内容を確認し、間違いがない意思を証するために行うものであるから、本件依頼書により、請求人及びHのいずれもが本件物件の共有持分を等分であると合意しているものであり、請求人の共有持分が2分の1であることは明らかである。
 そもそも登記の事実を証明することを本件条項は求めておらず、共有持分割合の合意は共有者間で行うことに鑑みれば、本件依頼書によって請求人及びHの共有者が合意していることが明らかとなれば足りるから、登記の有無と合意の有無は全く別問題である。
 したがって、本件各資料を総合すれば、本件物件の全体の取得対価の額が58,000,000円であり、共有持分割合が2分の1となることによって、請求人の共有持分に係る本件物件の取得対価の額が29,000,000円となることは明らかである。
 なお、そもそも登記事項証明書には対価の額が記載されないから、原処分庁のいう「請求人の共有持分に係る本件物件の取得対価の額」が記載された書類というものは、現実問題として存在しない。
(ロ) 本件物件のように住宅借入金等特別控除の適用を受けようとする家屋が共有となる場合、住宅借入金等特別控除の金額は、共有持分割合に応じた対価の額に基づき計算することになる。
 ところが、本件売買契約書等で、売買代金の額とされている58,000,000円は、本件物件の全体の取得対価の額であって、請求人の共有持分に係る本件物件の取得対価の額ではない。
 また、本件依頼書には、請求人とHを本件物件の名義人とし、それぞれ2分の1の共有持分割合で登記手続を行うことを依頼する旨が記載されているが、そのとおりに登記手続が行われたことを明らかにする事項は記載されていない。
 したがって、本件各書類のいずれにも、請求人の共有持分に係る本件物件の取得対価の額は記載されていない。
(ハ) 本件条項が「明らかにする書類」との文言を使用しているにもかかわらず、原処分庁は、答弁書等において「明らかにする証明書類」といった文言に置き換え、これを規範として判断している。
 本件条項は、登記により確認できることや本件各書類が単体で本件条項に規定する事項を明らかにすることを求めているものではなく、また、「明らかにする証明書類」といった文言に置き換えて判断することを求めているものではないから、原処分庁がこのような要件を勝手に付け加えることは、租税法律主義に反するものである。
(ハ) 原処分庁は、請求人の住宅借入金等特別控除の適用に当たって、本件各書類では本件条項に規定する事項が明らかとはならないと主張しているのであって、登記により確認できることや本件各書類が単体で本件条項に規定する事項を明らかにする必要があると主張しているのではない。
(ニ) 本件引渡証及び本件登記事項証明書のとおり平成23年3月○日付で本件物件の引渡しを受け、本件依頼書のとおり共有持分割合を2分の1とする登記が完了しているから、請求人に、住宅借入金等特別控除の適用を受ける権利が実体法上あることは明らかである。
 なお、原処分庁は「その依頼どおりに登記が完了していることは本件登記事項証明書により初めて確認できる」と主張するが、登記が完了しているか否かは、法律上要求されていない事項であり、そのようなことを考慮すること自体が租税法律主義に反するものである。
(ニ) 請求人は、本件登記事項証明書によって住宅借入金等特別控除の適用を受ける権利が実体法上ある旨主張するが、本件依頼書には、請求人及びHの共有持分割合をそれぞれ2分の1とする登記手続を行うことを依頼する旨が記載されているだけで、その依頼どおりに登記が完了していることは本件登記事項証明書により初めて確認できることであり、請求人が国税不服審判所に本件登記事項証明書を提出したのはその証左である。
ロ その他の主張について
 本件のような事例においては、原処分庁が本件23年分確定申告書の内容及び添付書類の有無や内容を確認の上、不備があるとする事項について、適切に指導していれば、請求人が追完することによって、解決できたものである。
 したがって、原処分庁が住宅借入金等特別控除の実体的要件を備えている請求人から追完する機会を奪わなければ、請求人は、住宅借入金等特別控除の適用が認められ、更正されなかったはずである。
 しかしながら、原処分庁は、まる1本件条項に登記により証明をしなければならない旨の規定がないにもかかわらず、再三にわたり、登記事項証明書の提出を求めるなど、法令を無視した不合理、不適切な指導を行い、まる2請求人がその指導内容の誤りを指摘すると、説明内容を二転三転するなど請求人を混乱させ、さらにまる3請求人が登記事項証明書の添付がないと共有持分割合が2分の1であることを確認できないとする理由や法令解釈などについて、正式な書面による回答を求めていたにもかかわらず、何らの合理的な説明や書面による回答もしないまま、突然に本件23年分更正処分を行ったものである。
 また、本件の審査請求においても、さも当初から、本件各書類が、本件条項に規定する事項のうち居住用家屋の取得などの3点全てを明らかにするものではない旨を指摘していたかのように主張するが、原処分に至るまで問題にしていたのは、本件条項に規定する事項の一つである居住用家屋の取得の対価の額のうち共有持分割合のみであって、その余の部分は、本件の審査請求以降、初めて主張されたものであるから、事実関係と相容れない後付けの主張である。
 以上のことは、次の状況によって明らかである。
ロ その他の主張について
 原処分庁は、請求人に対して、平成24年5月9日付及び同年6月15日付で「添付書類等提出のお願い」と題する文書を送付し、まる1居住用家屋の取得をしたこと、まる2居住用家屋の取得をした年月日、まる3居住用家屋の取得の対価の額及びまる4居住用家屋の床面積が50平方メートル以上であることを明らかにする書類を提出するよう依頼し、同年10月3日付「添付書類等提出のお願い」と題する文書でも、再度、これらの書類の提出を依頼するとともに、その提出がない場合には、更正処分を行う旨説明している。
 さらに、原処分庁は、平成24年5月24日及び同年6月1日にも、本件税理士に対して、住宅借入金等特別控除の適用に当たって本件条項に規定する事項を明らかにする書類を本件23年分確定申告書に添付する必要がある旨、これらの事項を明らかにする書類を添付すれば、必ずしも登記事項証明書を添付する必要はない旨及び本件各書類では本件物件の共有持分割合を確認できない旨を説明している。
 したがって、請求人の主張には理由がない。
(イ) 請求人の平成23年分の所得税について税務代理の委任を受けた税理士(以下「本件税理士」という。)は、平成24年3月21日に原処分庁所属の担当職員(以下「担当職員」という。)からの「登記事項証明書の添付が漏れている」旨の連絡に対し、その法的根拠を確認したところ、「法律が優先する」「措置法41条に記載してある」との説明があったため、その誤りを指摘した。  
(ロ) 本件税理士は、平成24年4月11日に担当職員から「床面積が50平方メートル以上である旨が確認できないため、登記事項証明書が必要である。」旨の連絡があったが、本件各書類から床面積が50平方メートル以上あることが確認できたとする発言があり、同年5月7日にも、同様の回答を受けた。  
(ハ) 本件税理士は、平成24年5月24日に、原処分庁所属の統括国税調査官(以下「担当統括官」という。)から、共有持分割合が明らかではないため、共有持分に係る対価の額が明らかではなく、登記事項証明書を提出すべきである旨の説明を受けた。  
(ニ) 原処分庁が請求人に送付した平成24年5月9日付「添付書類等提出のお願い」と題する文書には、「確定申告書に次の書類が添付されていないため、計算金額の確認ができませんでした。」として、複数ある書類から、「(特定増改築等)住宅借入金等特別控除の必要書類」を丸印で表示して「登記事項証明書(家屋・土地)等で次に掲げる項目が明らかになる書類」を指定し、原処分庁が主張するまる1ないしまる4の項目を明らかにする書類のうち、「ご自身の所有割合に応じた対価の額」との記載部分だけに下線が引かれ、その余の項目には下線が引かれず、問題とされていなかった。
 なお、原処分庁は、その後の「添付書類等提出のお願い」と題する文書においても、登記事項証明書の提出を求めた。
 
(ホ) 担当統括官は、平成24年5月24日及び同年6月1日に本件税理士に、登記で確認したいとして登記事項証明書の提出依頼を繰り返すだけで、その必要性や理由を法的根拠に基づいて示さなかった。
 特に、平成24年5月24日には、担当統括官は、本件各書類では持分が明らかではないと説明しながらも、共有者の合意に基づき作成された本件依頼書が提出されている旨の指摘を受けると、「書類の内容に疑義があるという話をしているのではない」と発言し、本件各書類の内容には疑義はないこと、すなわち明らかであることを認めた。
 

(2) 争点2(本件23年分賦課決定処分について、通則法第65条第4項に規定する「正当な理由があると認められるものがある場合」に該当するか否か。)について

請求人 原処分庁
 更正前の税額の計算の基礎とされていなかったことに正当な理由があるかを判断するに当たっては、本件23年分確定申告書の提出以降、本件23年分更正処分に至るまでの事情も考慮すべきであるところ、上記(1)のロのとおり、原処分庁は、適切な指導もせず、突然に本件23年分更正処分を行い、請求人から適正な書類を追完する機会を奪った。
 したがって、仮に、本件23年分更正処分が違法でないとしても、請求人には、通則法第65条第4項に規定する「正当な理由」に該当する事情が存在する。
 原処分庁が、住宅借入金等特別控除の適用を受けるためには本件条項に規定する事項を明らかにする書類を本件23年分確定申告書に添付する必要がある旨を請求人に説明したのは、請求人が自らの判断で、本件条項に規定する事項を明らかにする書類を添付せずに本件23年分確定申告書を提出した後のことである。
 したがって、請求人の主張する事情は、更正前の税額の計算の基礎とされていなかったことの理由ではないことから、通則法第65条第4項に規定する「正当な理由」に該当する余地はない。

(3) 争点3(本件充当処分は違法か否か。)について

原処分庁 請求人
 本件充当処分は、以下の理由のとおり、適法である。
 本件充当処分は、以下の理由のとおり、違法である。
イ 課税処分と徴収処分である充当処分とは、それぞれ別個の法律効果の発生を目的とする独立の行為であって、一つの法律効果の発生を目指す一連の手続を構成するものではないことから、前者の違法性は後者に承継されないと解されている。
 そのため、仮に、本件23年分更正処分に取り消し得べき瑕疵が存在していたとしても、いまだ取り消された事実はないから、本件充当処分に影響を及ぼすものではない。
イ 請求人は、住宅借入金等特別控除の適用を認めるべきであるとして、本件充当処分の前提となる本件23年分更正処分の全部の取消しを求めて争っているものであって、本件23年分更正処分はその全部が取り消されるべきであるから、本件充当処分もその全部を取り消すべきである。
ロ 通則法第57条第1項の規定は、還付金と納付すべきこととなっている国税とが同一の納税者について存在する場合には、還付金を納付すべきこととなっている国税に充当することを義務付けているところ、原処分庁は、次のとおり、請求人には本件還付金と本件納付税額とが存在していたから、本件充当処分を行ったものである。 ロ 納付すべき税額又は還付金は、納税者が行う申告によって第一次的に確定するが、その申告が国税に関する法律の規定に従っていない場合等は税務署長の更正又は決定によって第二次的に確定するとされており、また、充当処分に当たっては、債権債務が相対立していなければ行えない行為であるところ、次のとおり、本件充当処分の対象となった本件還付金は、本件23年分更正処分によって消滅し、本件充当処分の対象となった本件納付税額は、本件23年分更正処分によって零円であることが確定しているのであるから、本件充当処分を行うことはできない。
(イ) 請求人が還付される税金の金額を○○○○円とする本件23年分確定申告書を提出したことによって、請求人に本件還付金は発生していた。 (イ) 原処分庁が、本件23年分更正処分をし、住宅借入金等特別控除の適用を認めないとするのであれば、その論理的帰結として、本件還付金は消滅し、本件充当処分が行われた平成24年11月12日時点では、還付金がある場合に該当しない。
(ロ) 原処分庁が本件23年分更正処分を行い、その通知書が平成24年10月30日に請求人に送達されたことによって、請求人は、当該通知書に記載された更正により新たに納付すべき税額を当該通知書が発せられた日の翌日から起算して1月を経過する日までに国に納付しなければならず、本件23年分更正処分が取り消された事実もないから、請求人には、本件充当処分が行われた平成24年11月12日時点において、本件納付税額の納付義務が存在していた。 (ロ) 請求人は、源泉徴収に係る所得税を期日までに支払っているところ、本件23年分更正処分の通知書の送達日現在、本件還付金の還付を受けておらず、また、本件23年分更正処分の通知書や異議決定通知書のいずれの書類の計表にも納付すべき税額が零円と記載されているから、平成24年11月26日を納期限とする本件納付税額の納税義務を負っていない。
ハ 請求人は、充当日までの還付加算金を付加すべき旨主張するが、所得税法第138条第4項の規定によって、本件還付金に還付加算金は付されないため、請求人の主張は法的根拠を欠くものである。 ハ 仮に充当処分をするにせよ、還付金が発生していたと評価するのであれば、充当日までの還付加算金を付加すべきである。
 なお、原処分庁が主張の根拠とする所得税法第138条第4項は、未納の税額に関する規定であるところ、請求人が源泉徴収により納付した納付税額は本件23年分更正処分による増額後の税額と同額であり、本件23年分更正処分の日までに還付を受けていないのであるから、未納の税額は存在しない。

(4) 争点4(平成24年分の所得税について、住宅借入金等特別控除を適用することができるか否か。)について

請求人 原処分庁
 本件23年分更正処分等については、取り消される可能性があるところ、請求人は、本件24年分確定申告書を住宅借入金等特別控除の適用2年目のものとして提出しているのであって、措置法施行規則第18条の21第11項の規定に従って、2年目の適用をする際の申告手続にのっとり、適法な税務申告を行っている。
 したがって、平成24年分の所得税についても、請求人に住宅借入金等特別控除を適用すべきである。
 なお、登記事項証明書を提出すれば、請求人が黙示の承認を行ったものとみなされるおそれがあるため、その添付を省略している。
 原処分庁が、本件23年分確定申告書に記載された住宅借入金等特別控除の適用を認めないとする内容の本件23年分更正処分を行っていることから、本件24年分確定申告書は、住宅借入金等特別控除を適用する2年目のものには当たらず、1年目のものとなる。
 そうすると、請求人は、措置法施行規則第18条の21第11項の規定及び国税関係法令に係る行政手続等における情報通信の技術の利用に関する省令第5条第2項の規定の適用を受けることができないため、本件条項に規定する事項を明らかにする書類を本件24年分確定申告書に添付しなければならない。
 しかしながら、請求人は、本件24年分確定申告書にこれらの書類を添付せず、その後に原処分庁が提出を依頼した際にも当該書類を提出しなかったことから、平成24年分の所得税の確定申告において、住宅借入金等特別控除の適用を受けることはできない。

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4 判断

(1) 争点1(平成23年分の所得税について、住宅借入金等特別控除を適用することができるか否か。)について

イ 法令解釈
(イ) 住宅借入金等特別控除について
 住宅借入金等特別控除の適用を受けようとする場合には、その実体的要件を備えた納税者が、措置法第41条第17項の規定によって、確定申告書に、住宅借入金等特別控除の適用を受けようとする金額についてのその控除に関する記載(以下「適用金額記載」という。)をし、かつ、本件条項において、その柱書に規定する書類のほか、本件条項各号に規定する居住の用に供する家屋の区分に応じて、それぞれの要件となる事項を明らかにする書類の添付(以下「本件条項書類添付」という。)をしなければならないこととされており、適用金額記載又は本件条項書類添付のない場合には、住宅借入金等特別控除を適用しないものとされている。
 この趣旨は、住宅借入金等特別控除に係る制度が、持家取得の促進等に伴う国民福祉の向上や住宅投資の活性化を通じた景気対策などの政策目的を税制面において補完するための特別の優遇措置として、本来課税されるべき所得税額をその政策的な見地から特に軽減する制度であるから、他の納税者との公平を図る上で、住宅借入金等特別控除の適用要件を備えているか否かを厳格に判定することが求められるところ、所得税については具体的な税額が申告によって確定するという申告納税方式を採用していることに鑑み、大量かつ反復する事務を画一的かつ的確に処理することを旨とする租税確定手続の明確化及び円滑化の観点から、課税庁が、納税者から提出された確定申告書及びその添付書類に基づき、住宅借入金等特別控除の適用に係る実体的要件の充足を確認できる方法を採るため、あえて納税者が住宅借入金等特別控除の適用を受けられる場合を、適用金額記載と本件条項書類添付がされた場合に限定して法定したものと解するのが相当である。
(ロ) 措置法第41条第1項に規定する居住用家屋の取得の日について
 措置法第41条第1項は、住宅借入金等特別控除の適用要件の一つとして、「これらの家屋をその新築の日若しくはその取得の日又はその増改築等の日から6月以内にその者の居住の用に供した場合に限る。」と規定しているから、同項に規定する居住用家屋の取得の日とは、現実に自己の居住の用に供することが可能となったと認められる日、すなわち、その家屋について、支配が移転したときを指す。したがって、例えば、その家屋の所有権を有することを前提として、その家屋の引渡しないし所有権移転登記がされた日はこれに該当するが、売買の合意があったのみではこれに当たらないと解するのが相当である。なお、上記の引渡しと所有権移転登記とは、居住用家屋の取得の具体的態様により、いずれが支配の移転として適切かが判断されるべきであるが、一般的には居住用家屋の新築や増改築の場合には引渡しがこれに当たり、建築後使用されたことのない居住用家屋の譲受けである場合には所有権移転登記がこれに当たるといえよう。
ロ 認定事実
 請求人提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
(イ) 上記1の(3)のイの(ロ)のAないしDの各基礎事実に基づき、本件各書類についてみると、次のとおりである。
A 請求人及びその世帯は、平成23年4月○日以降、本件物件の所在地である肩書地に居住している。
B 肩書地に住所を有する請求人は、金融機関から平成23年3月○日に30,000,000円を借り入れ、その借入金の同年12月31日現在の残高は29,632,237円である。
C 請求人及びHは、本件物件の買主となって、本件物件の売買代金の額を58,000,000円とし、契約締結時に手付金2,000,000円、本件物件の引渡時に現金26,000,000円及びプロパーローンにより30,000,000円をそれぞれ支払うこと、平成23年3月31日を本件物件の引渡予定日及び所有権保存登記申請時期とすることなどを契約内容とする売買契約を締結し、本件売買契約書等を作成した。
D 請求人及びHは、両名を登記名義人とし、本件物件の引渡日を平成23年3月○日とし、それぞれの共有持分割合を2分の1とする所有権保存登記の申請手続を司法書士事務所に依頼する内容の本件依頼書を作成した。
(ロ) 原処分庁は、平成24年5月9日付、同年6月15日付及び同年10月3日付で、請求人に対して、本件23年分確定申告書に「次の書類が添付されていないため、計算金額の確認ができませんでした」として、添付書類の提出方を依頼する旨が記載された「添付書類等提出のお願い」と題する文書をそれぞれ送付した。
 なお、当該各文書には、いずれも番号が付された複数の添付書類名が列挙され、その4番目に記載された添付書類が必要であり、「まる4(特定増改築等)住宅借入金等特別控除の必要書類」として、その番号に丸印が付されて指定され、下線が付された上、次のとおり、その具体的内容の一部にも下線が付されている。
A 平成24年5月9日付文書には、「登記事項証明書(家屋・土地)等で次に掲げる項目が明らかになる書類」として「(1)居住用家屋を取得したこと」、「(2)居住用家屋を取得した年月日」、「(3)居住用家屋の取得に係る対価の額(ご自身の所有割合に応じた対価の額)」、「(4)居住用家屋の床面積が50平方メートル以上あること」と列挙されている。
B 平成24年6月15日付文書には、「登記事項証明書(家屋・土地)等で次に掲げる項目が明らかになる書類」と二重下線の表示範囲が上記Aと異なり、また、列挙された項目の3番目が「(3)居住用家屋の取得に係る対価の額」とされた以外は、上記Aと同様の内容となっている。
C 平成24年10月3日付文書には、上記Bと同一の記載がされた上、添付書類の提出期限を平成24年10月12日とし、提出のない場合には、後日、更正通知書を送付することになる旨及び加算税が賦課されることがある旨記載されている。
(ハ) 請求人又は本件税理士は、平成24年5月16日付、同年6月1日付及び同年10月12日付で、原処分庁に対して、次のとおりの文書をそれぞれ送付した。
A 平成24年5月16日付「質問状」と題する文書において、上記(ロ)のAの文書に対して、まる1登記事項証明書を提出しなければならないとする根拠条文を明らかにすること、まる2原処分庁は対価の額が明らかになる書類として、共有持分割合に応じた対価の額が記載されていない登記事項証明書の提出を求めるが、あえて、このような行政指導をする意向なのかということ及びまる3上記(ロ)のAの文書を納税者へ直接送付し、担当職員に税務代理権限証書を提出している本件税理士を無視するよう指導しているのか否かなどについて、書面による回答を求めた。
B 平成24年6月1日付文書において、同日の本件税理士と担当職員との電話応答では、担当職員が本件条項第1号イを根拠規定として説明したこと並びに本件各書類では不足するとして登記事項証明書の提出を求める法的根拠及び本件依頼書に証明力がないとする根拠を示さなかったことに問題点があるなどとして、税務代理権限を無視したことなども掲げた上で、書面による回答を求めた。
C 平成24年10月12日付文書において、請求人が、上記(ロ)のCの文書に対して、これまでの経緯などを簡記した上、無条件に提出を拒んでいるものではなく、本件税理士が納得する説明があれば、提出できるとして、再度、書面による回答を求めた。
ハ 判断
(イ) 本件においては、請求人及び原処分庁のいずれも、本件物件が本件条項第2号に規定する居住用家屋で建築後使用されたことのないものであることを前提として主張しており、これに反する証拠も認められないことなどから、本件物件が本件条項第2号に規定する居住用家屋に該当するものと認め、請求人が提出した本件各書類が、住宅借入金等特別控除の適用要件のうち本件条項第2号に規定する事項を明らかにしているか否かについて検討したところ、次のとおりである。
(ロ) 措置法第41条第1項は、住宅借入金等特別控除の適用を、居住者が国内において居住用家屋で建築後使用されたことのないものの取得等をして、これらの家屋を同取得等の日から6月以内にその者の居住の用に供した場合に限るなどと定めており、これを受けて本件条項第2号イは、同適用を受けようとする者は、確定申告書に当該居住用家屋等に係る登記事項証明書、売買契約書、補助金等の額又は住宅取得等資金の額を証する書類その他の書類で、当該居住用家屋等をまる1取得したこと及びまる2取得の年月日等を明らかにする書類又はその写しを添付すべきことを定めているのであるから、まる2取得の年月日については、当然、措置法第41条第1項にいう「取得の日」をいうものと解するのが相当であるところ、上記イの(ロ)の法令解釈のとおり、措置法第41条第1項に規定する居住用家屋の「取得の日」とは、その家屋について現実に自己の居住の用に供することが可能となったと認められる日、すなわち、その家屋について支配が移転したときを指し、例えば、居住用家屋について所有権を有することを前提として引渡しないし所有権移転登記がされた日はこれに該当するものの、単に売買の合意があったのみではこれに当たらない。
 そして、請求人が提出した本件各書類(本件住民票、本件年末残高証明書、本件売買契約書等、本件依頼書)を総合しても、請求人が本件物件を上記の意味で取得した日が明らかにならないことは、以下のとおりである。
A 本件住民票は、請求人及びその世帯を特定し、その住所と異動年月日等の登録内容を証しているものである。
 上記のとおり、措置法第41条第1項は、「取得」の日と「居住の用に供した」日を区別した上で、取得の日等から6月以内に居住の用に供したことを要件とするなどしているところ、住民票記載の住所の異動年月日は、居住の用に供した日として請求人が登録した日を示すものであって、取得の日とは必ずしも一致しない。そして、本件住民票には、ほかに取得の日に関する記載はない。
B 本件年末残高証明書は、金融機関が、措置法施行令第26条の3第1項の規定に基づき、住宅取得資金に係る借入金の年末残高等証明書の交付を受けようとする者の氏名及び住所、住宅取得資金に係る借入金の年末残高、当初借入れ時における当該借入金の額、その契約締結年月日及び償還期間など措置法施行規則第18条の22第2項に規定する事項を証明するために発行した証明書であり、請求人が本件物件を取得したこと及び取得した年月日について明らかにするものではない。
C 本件売買契約書等の記載事項は上記ロの(イ)のCの認定事実のとおりであり、請求人及びHが本件売買契約書等によって本件物件の売買契約を締結したことは認められるが、本件売買契約書等には本件物件の引渡予定日が記載されているものの、現実に引渡しがされ、あるいは所有権移転登記がされて、支配の移転があった日が分かる書類ではない。
D 本件依頼書は、請求人及びHが本件物件に係る登記手続を依頼する内容の文書であって、現実にこれに沿う内容で登記手続がされたかは必ずしも明らかでない。また、本件依頼書には、引渡予定日が記載されたものであるが、本件物件の引渡しがされていない段階で作成されたものであるから、予定通りに本件物件の引渡しを受けたかは不明である。
 上記AないしDのとおり、本件各書類のいずれによっても、少なくとも、請求人が本件物件を取得した日は明らかではないから、これらによって本件物件に係る請求人の共有持分割合や取得の対価が明らかになるかについて検討するまでもなく、本件各書類は、本件条項の要件を満たすものとはいえない。そして、措置法第41条第17項は、確定申告書に、本件条項書類添付のない場合には、住宅借入金等特別控除を適用しない旨定めていることは、上記イの(イ)で述べたとおりであり、法が租税確定手続の明確化及び円滑化の観点等から、あえて実体的要件の充足のほかに、かかる手続上の要件を定めた趣旨からすれば、本件条項に定める書類の添付がない以上、原処分庁において、本件各書類等から請求人が住宅借入金等特別控除の適用の実体的要件を充足しているとしていることを推認できたかなどにかかわらず、請求人の平成23年分の所得税について、住宅借入金等特別控除を適用することはできない。
(ハ) この点について、請求人の主張を検討したところ次のとおりである。
A 請求人は、本件売買契約書等によって平成23年2月13日に本件物件の売買契約を締結し、本件依頼書の「引渡日」欄に記載のとおり、同年3月○日に本件物件の引渡しを受け、さらに、本件住民票のとおり、同年4月○日から本件物件に居住しているところ、本件覚書には、プロパーローンの支払時期が本件物件の引渡時とされており、本件年末残高等証明書によれば、プロパーローンが同年3月○日に支払われたことが認められるから、請求人が同日には、本件物件の引渡しを受け、同日(遅くとも同年4月○日)には、本件物件を取得していたことは、本件各書類を総合的に評価すれば明らかである旨主張する。
 しかしながら、本件売買契約書等の記載は、その作成日である平成23年2月13日において、請求人がプロパーローンにより用立てる予定の30,000,000円を本件物件の引渡時に売主側に支払う旨を約したことが明らかになることにとどまる。また、本件年末残高証明書の「住宅借入金等の金額」の「当初金額」欄中、「平成23年3月○日30,000,000円」の記載は、本件依頼書において本件物件の引渡予定日とされた平成23年3月○日に、金融機関が請求人に対して、30,000,000円を貸し付けたことを明らかにするにとどまる。これらの書類を併せて見ても、同日に予定どおり本件物件が引き渡され、請求人が、同日付で用立てた売買代金を実際に売主へ支払ったかなどは明らかでない。
 請求人は、住民票上の異動年月日である平成23年4月○日には、請求人が本件物件を居住の用に供したのであり、同日までには本件物件の引渡しを受けていたことは明らかであるという趣旨の主張もするが、住民票上の異動は申請者が単独で比較的簡単に行えるのであり、住民票の記載は、取得の日が明らかであることを前提に居住の用に供した日を証明するものとはいえるにせよ、それだけで、居住の用に供した日に加えて取得の日である引渡しの日まで証明するものとはいえない。
 結局、本件各書類を総合的に評価しても、少なくとも本件条項が要求する内容のうち、請求人が本件物件を取得した日は明らかにはならない。したがって、この点に関する請求人の主張は採用することができない。
B 請求人は、本件条項は所定の事項について「明らかにする書類」との文言を使用しており、登記事項証明書に限定しておらず、登記されたことの確認を求めていない、本件条項は、これに規定する事項を、本件各書類を単体でみて明らかにするよう求めていないにもかかわらず、原処分庁はこれを求め、また、原処分庁は、本件条項について所定の事項を「明らかにする証明書類」と置き換えて判断しているが、これは原処分庁が要件を勝手に付け加えたものであるなどとして、租税法律主義に反する旨主張する。
 本件条項第2号イは、「登記事項証明書、売買契約書、補助金等の額又は住宅取得等資金の額を証する書類その他の書類で次に掲げる事項を明らかにする書類又はその写し」と、登記事項証明書を例示として規定しているものと認められるから、登記事項証明書の添付がないことのみをもって直ちに本件条項書類添付の要件を満たさないというものではない。
 しかしながら、請求人の提出した本件各書類を総合してみても、本件条項第2号イ所定の事項のうち、少なくとも本件物件を取得した日を「明らかにする書類」であるとはいえないことは先に述べたとおりである。
C この点、請求人は、本件23年分確定申告書の提出後における担当統括官及び担当職員の説明内容等から原処分庁に不適切な指導があったことは明らかであるとして、原処分庁が、登記事項証明書の提出に固執し、適切な指導をせず何らの合理的な説明や書面による回答もしないまま、突然に本件23年分更正処分をして請求人から書類を追完する機会を奪わなければ、住宅借入金等特別控除が適用されたことを考慮すべきである旨主張する。
 しかし、そもそも、措置法上の優遇措置である住宅借入金等特別控除の適用に必要な添付書類は、基本的には当該措置の適用を受けようとする納税者の責任において確定申告書時に添付されるべきものであることは上記イの(イ)のとおりである。請求人が本件23年分確定申告書を提出した後において担当統括官等が指導し追完の機会を与えたか否かなどによって、直ちに住宅借入金等特別控除の適用の可否についての判断が左右されるものではない。
 もっとも、措置法第41条第18項は、税務署長は、本件条項書類添付がない確定申告書の提出があった場合においても、その提出又は記載若しくは添付がなかったことについてやむを得ない事情があると認めるときは、当該書類の提出があった場合に限り、同条第1項の規定を適用することができる旨規定しているところ、本件では、原処分庁が特に登記事項証明書の追完等を指示しているから、この措置について検討する。
 仮に登記事項証明書が追完され、本件物件に係る所有権移転登記がされた日が明らかになれば、同日において本件物件の支配が請求人に移転し、請求人が現実に自己の居住の用に供することが可能となったとみることができ、これに反する特段の事情もうかがえない本件では、請求人が本件物件を取得した日が明らかにされたものといえるのである。
 また、登記事項証明書は、住宅借入金等特別控除の適用に係る実体的要件の適否判定に必要な事項の多くが、国の認めた不動産登記制度の下で登記され、記載されているのであって、これと住民票、売買契約書などの添付書類と対照することで、家屋に対する支配が移転した日のほか、いくつかの実体的要件の充足の有無を確認できるものである。このように登記事項証明書が住宅借入金等特別控除の適用に係る実体的要件の適否判定に必要な事項が比較的簡便に確認できるものであることから、措置法自体にも(第41条第17項)、添付書類として例示されているのである。
 他方で、登記事項証明書に代わる書類をもって本件条項書類添付の要件を満たそうとする場合、当該居住用家屋の取得等に伴う取引形態等によって納税者が保有している書類の名称や記載内容は必ずしも一様でないから、当該書類の名称や内容も分からない原処分庁が必要な書類を特定の上指示することは困難であるし、本件では請求人は登記事項証明書を提出することのできないやむを得ない事情を具体的に示したなどの経緯もうかがえないのであって、請求人が主張するように原処分庁がそれに代わる書類を特定の上、提出を指示しなければならないものともいえない。
 加えて、上記ロの(ロ)及び(ハ)の各認定事実によれば、原処分庁は、平成23年分確定申告書が提出された後、請求人に対し、本件条項第2号イに規定する事項の全てを文書に記載した上で、登記事項証明書等に下線を付して提出を依頼していたのであり、登記事項証明書の提出を念頭に置いてこれを強調したものの、本件条項が要求する添付書類の内容について法令に記載されたとおりを請求人に示している。そうすると、大量かつ反復する事務を画一的かつ的確・円滑に処理する必要も有する原処分庁が、登記事項証明書の提出を指示したことが、租税法律主義に反するとはいえず、不適切な指導を行ったということはできない。
 その他、これに関して請求人が主張する内容は、いずれも本件の結論を左右するものではない。
D 請求人は、当審判所に対して本件引渡証及び本件登記事項証明書を提出し、これら書面によれば、平成23年3月○日付で本件物件の引渡しを受け、本件依頼書のとおり、共有持分割合を2分の1とする登記が完了しており、請求人に、住宅借入金等特別控除の適用を受ける権利が実体法上あることは明らかである旨主張する。
 しかしながら、上記イの(イ)の法令解釈のとおり、住宅借入金等特別控除に係る制度が、その適用を受けるに当たり確定申告書に適用金額記載と本件条項書類添付をすることを手続上の要件として法定したものであるから、確定申告書に本件条項書類添付のない場合には、実体法上の適用要件を満たすかどうかにかかわらず、住宅借入金等特別控除の適用は認められないことになる。請求人は、原処分庁に対し、本件条項の要求する書類を、本件23年分確定申告書の添付書類として提出しなかったのであるから、住宅借入金等特別控除の適用を受けることはできないのであって、この点に関する請求人の主張は採用することができない。
 そして、本件においては、確定申告書の提出後、原処分庁が本件条項書類添付の補完をする機会を与えたにもかかわらず、請求人は、本件各書類が本件条項に規定する事項の全てを明らかにしており追加で提出する添付書類はないとの前提に立ち、原処分庁に対しては、登記事項証明書を添付できない事情を説明したり登記事項証明書に代わる他の書類を提案し、提出をすることもなく、殊更、原処分庁が登記事項証明書の提出を指導したことなどの是非等に関する書面回答を求めることに終始し、結局原処分庁に対しては追完に応じなかった一方で、その後当審判所に対しては登記事項証明書等を示した経緯等からして、請求人に平成23年分確定申告書に本件条項書類添付がなかったことについてやむを得ない事情があったものとは認められない。また、そもそも請求人が原処分庁に対して登記事項証明書その他の書類を提出し、本件条項書類添付を補完した事実はない。そうすると、確定申告書に本件条項書類添付がなかったことについてやむを得ない事情があると認められるときは、登記事項証明書その他の書類の提出があった場合に限り、措置法第41条第1項の規定を適用することができる旨規定している同条第18項を請求人に適用する余地はない。
(ニ) 小括
 以上のとおり、請求人は、平成23年分の所得税について、住宅借入金等特別控除の適用を受けることはできないというべきであり、その他本件23年分更正処分に不適法や不当な点は存在しないから、本件23年分更正処分は適法である。

(2) 争点2(本件23年分賦課決定処分について、通則法第65条第4項に規定する「正当な理由があると認められるものがある場合」に該当するか否か。)について

イ 法令解釈
 過少申告加算税は、過少申告による納税義務違反の事実があれば、原則としてその違反者に対して課されるものであり、これによって、当初から適正に申告し納税した納税者との間の客観的不公平の実質的な是正を図るとともに、過少申告による納税義務違反の発生を防止し、適正な申告納税の実現を図り、もって納税の実を挙げようとする行政上の措置である。この趣旨に照らせば、過少申告があっても例外的に過少申告加算税が課されない場合として通則法第65条第4項が定めた「正当な理由があると認められる場合」とは、真に納税者の責めに帰することのできない客観的な事情があり、上記のような過少申告加算税の趣旨に照らしてもなお納税者に過少申告加算税を賦課することが不当又は酷になる場合をいうものと解するのが相当である。
ロ 判断
 上記(1)のハで説示したとおり、本件23年分更正処分は適法であるところ、請求人に通則法第65条第4項に規定する「正当な理由があると認められるものがある場合」に該当する事情が存在すると認めるためには、上記イの法令解釈に照らせば、請求人が平成23年分の所得税の申告に際し、過少な申告を行ったことについて、真に請求人の責めに帰することのできない客観的な事情があり、過少申告加算税の趣旨に照らしてもなお請求人に過少申告加算税を賦課することが不当又は酷になる場合であることが求められる。
 しかしながら、請求人が過少な申告を行ったのは、確定申告書に本件条項書類としての要件を満たす書類を添付していないのであるから住宅借入金等特別控除の適用を受けられないにもかかわらず、自己の提出した本件各書類が、本件条項書類としての要件を満たし、同控除の適用を受けられるものと誤信したことによるものであると推認されるところ、請求人がこのように誤信したことについて真に請求人の責めに帰することのできない客観的な事情の存在はうかがえない。
 請求人は、平成23年分確定申告書に本件条項書類添付をせずに提出した後、原処分庁が適切な指導もせず突然に本件23年分更正処分を行い、請求人から適正な書類を追完する機会を奪ったことを考慮すべきであるなどと主張するが、これらの事情は請求人が申告をした後の事情である上、原処分庁が不適切な指導を行ったり、請求人から同機会を奪ったものといえないことは、争点1に関して認定・説示したとおりであるから、請求人の主張は採用できない。
 以上のとおり、請求人の主張には理由がなく、他に通則法第65条第4項に規定する「正当な理由があると認められるものがある場合」に該当する事情は認められないから、本件23年分賦課決定処分は適法である。

(3) 争点3(本件充当処分は違法か否か。)について

イ 法令解釈
(イ) 更正処分がされた場合について
 申告納税方式による国税については、納税義務が成立すると、まず第一次的に納税者が申告を行い、その申告により納付すべき税額が確定し、その申告による税額等に過不足があるときに、第二次的に課税庁が通則法第24条の規定による更正を行って、納付すべき税額を確定させることになる。
 そして、通則法第28条第2項第3号ロは、更正通知書には、その更正前の還付金の額に相当する税額がその更正により減少するときは、その減少する部分の税額を記載しなければならない旨規定し、同法第35条第2項第2号は、更正通知書に記載された同法第28条第2項第3号ロに掲げる金額は、その更正通知書が発せられた日の翌日から起算して1月を経過する日までに納付しなければならない旨規定している。
 これらの規定を前提に、実務上、申告により生じた還付金請求権について、いまだ還付されていない場合であっても、実体法上、増額の更正がされて還付金の額に相当する税額が減少する場合、申告により確定した還付金請求権はそれにより影響を受けないでそのまま存続し、他方で、納税者は、更正により減少した還付金の額に相当する税額を納付しなければならない取扱いとされているのである。
(ロ) 還付留保した還付金の国税への充当処分について
 そして、通則法第57条第1項は、税務署長等は、還付金等がある場合において、その還付を受けるべき者につき納付すべきこととなっている国税があるときは、同法第56条第1項の規定による還付に代えて、還付金等をその国税に充当しなければならない旨を規定していることから、税務署長は、還付金と納付すべきこととなっている国税とが同一の納税者につき存在している場合には、納税者の意思に関わりなく、還付金をその国税に充当しなければならないと解するのが相当である。
ロ 認定事実
 請求人提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
(イ) 原処分庁は、本件還付金○○○○円について、還付を留保した上、本件充当処分をした。
(ロ) 請求人は、本件充当処分が行われた時点までに、本件納付税額○○○○円(本件還付金と同額)を納付していない。
(ハ) 本件23年分更正処分は、本件充当処分が行われた時点までに取り消された事実はない。
ハ 判断
(イ) 上記1の(3)のイの(イ)ないし(ハ)の各基礎事実のとおり、請求人が本件23年分確定申告書に納付すべき税額(△○○○○円)と記載して還付金の額を○○○○円とする所得税の確定申告書を提出したこと及び原処分庁が本件23年分更正処分をしたことは、明らかであり、また、上記ロの(イ)ないし(ハ)の各認定事実のとおり、本件充当処分に至るまで、本件還付金○○○○円又は本件納付税額○○○○円が消滅した事実はないから、本件充当処分がされた平成24年11月12日現在で、請求人は、本件還付金○○○○円の還付請求権を有しており、本件納付税額○○○○円の納付義務を負っていたものと認めることができる。
 そうすると、上記イの(ロ)の法令解釈のとおり、通則法第57条第1項に基づいてなされた本件充当処分は適法であるというべきである。
(ロ) この点について、請求人は本件充当処分が違法である旨主張するので、以下検討する。
A 請求人は、住宅借入金等特別控除の適用を認めるべきであるとして、本件充当処分の前提となる本件23年分更正処分の全部の取消しを求めて争っているものであって、本件23年分更正処分は違法であり、その全部を取り消すべきであり、かかる処分を前提として行った本件充当処分も違法である旨主張するが、本件23年分更正処分が適法であることは、上記(1)のハで説示したとおりである。なお、本件23年分更正処分が既に取り消されたなどの事実もないところ、本件23年分更正処分と本件充当処分は租税債務の確定手続とその徴収に係る手続というそれぞれ別個の目的及び法律効果を有する独立した行政処分であるから、仮に本件23年分更正処分に違法があるとしても、同処分が取り消されるか、その違法が重大かつ明白で当該更正処分が無効とならない限り、これによって納付すべきこととなった国税について行われる本件充当処分が違法となることはないのであって、請求人の主張はこの点からも採用できない。また、請求人は本件23年分更正処分について不服を申し立てている旨主張するが、国税に関する法律に基づく処分に対する不服申立ては、その目的となった処分の効力、処分の執行又は手続の続行を妨げない(通則法第105条第1項)から、請求人の主張には理由がない。
B 請求人は、原処分庁が本件23年分更正処分によって住宅借入金等特別控除の適用を認めなかったことの論理的帰結として本件還付金は消滅し、請求人は現に本件還付金を受け取っておらず、また、本件23年分更正処分の通知書や異議決定書のいずれの書類にも納付すべき税額が零円と記載されているから、本件還付金及び本件納付税額はいずれも存在せず、債権債務が相対立していない以上、本件充当処分を行うことはできない旨主張する。
 しかしながら、本件納付税額の納税義務は、本件23年分更正処分によって確定する一方、本件還付金の請求権は、本件23年分確定申告書の提出によって既に確定しており、本件23年分更正処分による影響を受けないでそのまま存続することとなるとするのが、上記イの(イ)のとおり、実務上の法令解釈である。
 そして、所得税法施行令第267条第4項は、税務署長は、源泉徴収税額等の還付金に係る金額の記載がある確定申告書の提出があった場合に、当該金額が過大であると認められる事由がある場合には、その還付を一時留保できる旨を規定しているところ、上記ロの(イ)ないし(ハ)の各認定事実のとおり、本件還付金は、原処分庁が本件還付金の金額が過大であるとして、同項の規定により、本件充当処分に至るまで還付せずに留保されていたのであり、本件納付税額は、本件充当処分に至るまで納付されず、本件23年分更正処分が取り消された事実はない。そうすると、本件充当処分が行われた時点で本件還付金請求権及び本件納付税額の納付義務は共に存在していたのであって、請求人の主張は、上記の実務上の法令解釈には反するというべきである
C 請求人は、仮に充当処分をするにせよ、還付金が発生していたと評価するのであれば、充当日までの還付加算金を附すべきであり、それを附さずに行った本件充当処分は誤りである旨主張する。
 しかしながら、所得税法第138条第4項は、源泉徴収税額等の還付金を同年分の未納の所得税に充当する場合には、その充当相当額について還付加算金を附さないとともに、他方、未納の所得税の延滞税を免除する旨規定しており、上記ロの(ロ)及び(ハ)の各認定事実のとおり、本件納付税額は、納付されず、消滅もしておらず未納であり、また、請求人が還付金を受領していない理由は、上記Bで説示したとおり、原処分庁が本件還付金を還付せずに留保した結果によるものであるから、上記の実務上の法令解釈によれば、本件納付税額の延滞税は免除され、本件還付金には還付加算金を附さないことになるのであって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
D 平成23年分更正処分の通知書では、「差引納付すべき税額又は減少(△印)する税額」の欄に、更正前の額が「△○○○○」、更正後の額が「0」、「増減(△印)差額」が「○○○○円」と記載されており、上記の実務上の法令解釈によれば、同額等が新たに納付すべき税額として記載されており、納付すべき税額を零円としたものではないと説明できる。また、異議決定書の付表では「平成23年分」の項目の「納付すべき税額」の欄に「0」と記載されているが、上記の実務上の法令解釈によれば、これと、平成23年分の確定申告における納付すべき税額(△○○○○円)との差額が本件納付税額(○○○○円)となるという意味での記載であると説明することになる。
 しかしながら、これらの記載に関しては、本件充当処分の対象となった本件還付金は、本件23年分更正処分によって消滅し、本件充当処分の対象となった本件納付税額は、本件23年分更正処分によって零円であることが確定しているとする請求人の主張と矛盾しないし、むしろより整合的であるということができる。そうすると、上記の限度では、請求人の見解には理由があるというべきである。
 もっとも、請求人の見解を前提にするなら、取り消すべき充当処分はそもそも存在しないから、取消しの対象にはならないし、本件還付金請求権及び本件納付税額の納付義務が共に存在しないだけであれば、上記の実務上の法令解釈に従った場合と、請求人の利益状況には何ら相違がないことになり、この点に関する審査請求が不適法となるだけである。
 よって、この点についてはこれ以上の判断をしない。
(ハ) 以上のとおり、請求人の主張はいずれも理由がなく、上記(イ)で説示したとおり、本件充当処分は適法である。

(4) 争点4(平成24年分の所得税について、住宅借入金等特別控除を適用することができるか否か。)について

イ 認定事実
 請求人提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
(イ) 原処分庁は、平成25年3月14日付、同年5月14日付、同年5月30日付及び同年6月17日付で、請求人に対して、本件24年分確定申告書に、添付書類の提出方を依頼する旨が記載された文書をそれぞれ送付した。
A 平成25年3月14日付及び同年5月14日付「書類の提出について」と題する文書には、「以下チェックボックスのある書類の添付がございませんので、提出していただくようお願いします。」として「チェックボックス(特定増改築等)住宅借入金等特別控除の必要書類」を指定し、「登記事項証明書、売買契約書、その他の書類で、次の事項を明らかになる書類又はその写し」として「まる1当該家屋を取得したこと」、「まる2当該家屋を取得した年月日」、「まる3当該家屋の取得に係る対価の額」及び「まる4当該家屋の床面積が50平方メートル以上であること」と記載されている。
B 平成25年5月30日付及び同年6月17日付「書類提出の督促について」と題する文書には、上記Aと同趣旨の内容が記載された上、書類の提出のない場合には、所得控除や税額控除などが適用できなくなるので、更正を行う旨記載されている。
(ロ) 本件税理士は、平成25年4月5日付で、上記(イ)のAの同年3月14日付文書に対して、本件24年分確定申告書が「適用2年目ですので、法令上必要とする書類は電子申告で送付しており、何ら措置法や措置法施行規則等に定められている他に必要とする書類はないものと考えています。」及び「当該行政指導をされる法的根拠及びその理由を文書でご教示下さい。」と記載した文書を原処分庁へ送付し、請求人からも本件条項柱書に規定する書類及び本件条項第2号イに規定する事項を明らかにする書類の提出はなかった。
ロ 判断
 措置法施行規則第18条の21第11項は、措置法第41条第1項に規定する居住の用に供した日の属する年分等の所得税につき同項の住宅借入金等特別控除の適用を受けた居住者が、その翌年分以後の各年分の所得税につき同項の規定による控除を受けようとする場合には、当該控除を受けようとする年分の確定申告書に、当該居住日の属する年分等の所得税につき本件条項各号に定める書類を添付して措置法第41条第1項の規定の適用を受けている旨及び当該居住日の年月日を記載することにより、本件条項各号に定める書類の添付に代えることができる旨規定している。
 しかしながら、上記(1)のハで判断したとおり、住宅借入金等特別控除の適用を認めないとしてされた本件23年分更正処分は適法であり、請求人は、これまでに住宅借入金等特別控除の適用を受けた居住者に当たらないから、請求人は本件24年分の所得税について措置法施行規則第18条の21第11項の適用を受けることができない。
 そうすると、請求人は、本件条項書類を本件24年分確定申告書に添付しなければ平成24年分の所得税について住宅借入金等特別控除の適用を受けることができないことになるところ、上記1の(3)のロの(イ)及び(ロ)及び上記イの(イ)及び(ロ)の各認定事実によれば、請求人は同添付をせず、原処分庁から提出依頼を受けた後も、これらの書類を追完していない。そうすると、請求人は、平成24年分の所得税について、住宅借入金等特別控除の適用を受けることはできないというべきである。
 したがって、本件24年分更正処分は適法であり、また、同更正処分により新たに納付すべき税額の計算の基礎となった事実が更正処分前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、通則法第65条第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、同条第1項の規定に基づいてされた本件24年分賦課決定処分は適法である。

(5) その他

 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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