(平成26年2月17日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、弁当等調理食品の販売等を業とする審査請求人(以下「請求人」という。)が弁当の販売を行った販売員に支払った金員について、原処分庁が、所得税法第28条《給与所得》第1項に規定する給与等に当たるため、消費税法第2条《定義》第1項第12号に規定する課税仕入れに該当せず、また、所得税法第183条《源泉徴収義務》による源泉徴収義務があるとして、消費税及び地方消費税(以下「消費税等」という。)の更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分並びに源泉徴収に係る所得税の納税告知処分及び不納付加算税の賦課決定処分を行ったのに対し、請求人が、税務調査の手続が違法であること及び当該金員は給与等に該当しないこと等を理由として、その全部の取消しを求めた事案である。

(2) 審査請求に至る経緯

イ 消費税等
(イ) 確定申告
 請求人は、平成21年5月1日から平成22年4月30日まで及び平成22年5月1日から平成23年4月30日までの各課税期間(以下、順次「平成22年4月課税期間」及び「平成23年4月課税期間」という。)の消費税等の確定申告書に別表1の「確定申告」欄のとおり記載して、それぞれ法定申告期限までに申告した。
(ロ) 更正処分等
 原処分庁は、平成24年12月26日付で、別表1の「更正処分等」欄のとおり、平成22年4月課税期間及び平成23年4月課税期間の消費税等の各更正処分(以下、併せて「本件各更正処分」という。)及び過少申告加算税の各賦課決定処分(以下、併せて「本件各過少申告加算税賦課決定処分」といい、本件各更正処分と併せて「本件各更正処分等」という。)をした。
(ハ) 不服申立て
 請求人は、本件各更正処分等を不服として、平成25年1月21日に異議申立てをしたところ、異議審理庁が同年4月12日付で棄却する旨の異議決定をしたので、同年5月10日に審査請求をした。
ロ 源泉徴収に係る所得税について
(イ) 納税告知処分等
 原処分庁は、平成24年12月26日付で、別表2の「本件各納税告知処分等」欄のとおり、平成20年1月から同年6月まで、同年7月から同年12月まで、平成21年1月から同年6月まで、同年7月から同年12月まで及び平成22年1月から同年6月までの各期間分(以下「本件各源泉徴収期間分」という。)の源泉徴収に係る所得税(以下「源泉所得税」という。)の各納税告知処分(以下「本件各納税告知処分」という。)並びに同年1月から同年6月までの期間分の源泉所得税の不納付加算税の賦課決定処分(以下「本件不納付加算税賦課決定処分」といい、本件各納税告知処分と併せて「本件各納税告知処分等」という。)をした。
(ロ) 不服申立て
 請求人は、本件各納税告知処分等を不服として、平成25年1月21日に異議申立てをしたところ、異議審理庁が同年4月12日付で棄却する旨の異議決定をしたので、同年5月10日に審査請求をした。

(3) 関係法令の要旨

 関係法令の要旨は、別紙1のとおりである。
 なお、別紙1を含め、以下、国税通則法を「通則法」といい、所得税法及び消費税法については、いずれも平成23年法律第114号による改正前のものをいう。

(4) 基礎事実

 以下の事実は、請求人と原処分庁との間に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。
イ 請求人の事業概要等
(イ) 請求人は、平成8年5月○日に設立された、弁当等調理食品の販売等を業とする法人であり、全国各地の百貨店の物産展において○○弁当の調理・販売を行っている。
 なお、請求人は、所得税法第216条の規定による源泉所得税の納期の特例の適用を受ける事業者である。
(ロ) 別表3−1及び3−2の各「販売員」欄並びに別表4−1ないし4−5の各「販売員等」欄に記載された者のうち、別表4−3の「販売員等」欄記載の甲(以下「補助者甲」という。)を除いた各販売員(以下「本件各販売員」といい、このうち、別紙2又は3に掲げた各販売員以外を「本件各販売員A」、別紙2に掲げた各販売員を「本件各販売員B」、別紙3に掲げた各販売員を「本件各販売員C」という。)は、別表3−1及び3−2並びに別表4−1ないし4−5の各「役務の提供の期間」欄記載のとおり、平成20年4月30日から平成23年5月8日までの期間(以下「本件期間」という。)において、請求人が出展した各百貨店(以下、本件期間において請求人が出展した百貨店を「本件各百貨店」という。)の各物産展で、請求人の○○弁当の販売を行った。
(ハ) 補助者甲は、○○弁当の販売員ではなく、平成21年2月4日から同月11日、同月15日から同月22日、同月23日から同年3月1日までの合計23日間、物産展において、請求人との雇用契約に基づき○○弁当作りの補助業務を行い、これに対して、請求人は、同月5日、日当10,000円で計算した合計230,000円(交通費を除く。)を給与等として補助者甲に支払った。
ロ 消費税等の計算
 請求人は、別表3−1及び3−2の各「販売員」欄記載の各販売員が平成21年4月30日から平成23年5月8日までの間に行った役務の提供に関して支払った金員(交通費を除く。)について、別表3−1及び3−2の「総勘定元帳」欄のとおり、平成22年4月課税期間及び平成23年4月課税期間における外注費、雑給又は雑費として総勘定元帳に計上した上、これらの計上額全てを仕入れに係る消費税額の控除(以下「仕入税額控除」という。)の対象としていた。
 なお、請求人は、平成22年6月30日に雑給として総勘定元帳に計上した14,270円について、同日に誤って二重に計上した上、同額を仕入税額控除の対象としていた。
ハ 源泉所得税の納付の状況
 請求人は、別表4−1ないし4−5の各「販売員等」欄記載の本件各販売員A及び本件各販売員Bに対して平成20年6月30日から平成22年5月31日までに支払った金員(交通費を除く。)及び上記イの(ハ)のとおり補助者甲に支払った給与等について、源泉徴収をせず、源泉所得税を納付していなかった。
 なお、請求人が本件各販売員Cに支払った金員(交通費を除く。)については、いずれも源泉所得税が生じる額を満たしていない。
ニ 税務調査
(イ) 過去の税務調査
 原処分庁所属の調査担当職員は、平成20年10月頃、請求人に対する税務調査(以下「平成20年調査」という。)を行った。この際、請求人は、平成20年調査当時も、○○弁当の販売を行った販売員に支払った金員について、外注費として計上した上で仕入税額控除の対象とするとともに、源泉徴収せず源泉所得税を納付していなかったが、当該調査担当職員は、かかる税務上の取扱いについて指摘せず、また、請求人もかかる税務上の取扱いについて質問しなかった。
(ロ) 原処分に係る税務調査
 原処分庁所属の調査担当職員(以下「本件調査担当職員」という。)は、平成24年2月2日から、請求人の事務所等において、原処分に係る税務調査(以下「本件調査」という。)を行い、原処分庁は、本件調査の結果に基づき、同年12月26日付で本件各更正処分等及び本件各納税告知処分等(以下、併せて「本件各処分」という。)を行った。

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2 争点

(1) 争点1 本件調査の手続は違法であり、本件各処分が取り消されるべきか否か。

(2) 争点2 本件各販売員A及び本件各販売員Bによる役務の提供は雇用契約又は雇用関係に基づくものであって、請求人が本件各販売員A及び本件各販売員Bに支払った金員は給与等に該当するか否か。

(3) 争点3 本件各販売員Cの雇用主は請求人であって、請求人が本件各販売員Cに支払った金員は給与等に該当するか否か。

(4) 争点4 本件各処分は信義則に反するか否か。

(5) 争点5 消費税等の過少申告及び源泉所得税の不納付に関して、通則法第65条第4項及び第67条第1項ただし書に規定する正当な理由があったか否か。

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3 主張及び判断

(1) 争点1(本件調査の手続は違法であり、本件各処分が取り消されるべきか否か。)について

イ 主張

請求人 原処分庁
 本件調査の手続は、次に掲げた事情によれば、違法であり、本件各処分は取り消されるべきである。  税務調査の手続の違法は、刑罰法規に触れたり、公序良俗に反する等およそ税務調査を行ったといえないと評価されるほど違法性の程度が著しい場合を除いては、処分の取消事由にはならないものと解されるところ、本件調査は、次のとおり、違法性の程度が著しい場合には該当しない。
(イ) 請求人は、請求人の事務所にあるコピー機を使用しないよう申し入れていたにもかかわらず、本件調査担当職員は、請求人の監査役(以下「請求人監査役」という。)に書類をコピーするよう要求し、当該コピー機を使用させた。 (イ) 本件調査担当職員は、請求人の事務員に請求人の事務所のコピー機の使用の可否を確認した上で、書類をコピーしてもらったものである。
(ロ) 本件調査担当職員は、必要がないにもかかわらず、請求人監査役に対して、個人の携帯電話の番号を聞いた。 (ロ) 本件調査担当職員は、請求人監査役に連絡を取るため、同人の了解を得て携帯電話の番号を聞いたものである。
(ハ) 本件調査担当職員は、事前に連絡をせずに請求人の役員ら個人の銀行口座の調査を行った。 (ハ) 銀行口座の調査を行うか否かの判断は税務職員の合理的な判断に委ねられているため、請求人の役員らに断りなく銀行口座の調査を行ったことは違法ではない。
(ニ) 本件調査担当職員は、請求人及び本件各販売員の間に雇用契約があることについて、所得税基本通達に書いてあると主張するのみで、請求人が説明を求めても十分な説明をせず、源泉徴収票の作成方法や労働者災害補償保険への加入についても行政指導をしなかった。 (ニ) マネキン紹介所から紹介を受けた販売員との関係については、職業安定法によると、雇用関係であることが明らかであり、本件調査担当職員もこの点を説明していた。
 また、本件各処分は請求人が本件各販売員に対して支払った金員が給与等に該当することに基づくものであって、源泉徴収票をどのように発行するのかという実務的な行政指導の有無は、本件各処分の適法性に影響するものではないし、労働者災害補償保険への加入に関しては原処分庁が説明する立場にない。
(ホ) 本件調査担当職員は、預り証を交付しないまま、請求人の関連会社の総勘定元帳の写し(以下「本件写し」という。)を借用した。 (ホ) 本件調査担当職員は、請求人監査役から本件写しについて「持って帰ってください。」との発言があったため、もらったものと認識したことから、預り証を交付せずに持ち帰ったものである。
(ヘ) 本件調査担当職員は、本件調査に関して、個人の携帯電話を利用して請求人の事務所に3、4回電話を掛け、請求人監査役に嫌がらせを受けているものと感じさせた。 (ヘ) 本件調査担当職員は、執務時間終了後、本件写しの提出に対する預り証の交付がなかったことに関して請求人から連絡があった旨の報告を受けたため、自宅から請求人に2回電話したものである。
(ト) 本件調査担当職員は、「いい家だな。いくらかかっているのか。」と発言をする等、本件調査の期間中、終始横柄な態度で請求人に接していた。 (ト) 本件調査担当職員は、請求人の代表取締役(以下「請求人代表者」という。)等の資産の保有状況の確認のために請求人の主張する「いい家だな。いくらかかっているのか。」という旨の発言をしたものである。

ロ 判断
(イ) 法令解釈
 所得税法第234条第1項及び消費税法第62条第1項に規定する質問検査による税務調査は、租税実体法によって成立した抽象的な納税義務を具体的に確定するための事実行為であって、課税処分とは本来別個のものである。
 したがって、調査手続の違法は、それが刑罰法規に触れたり、公序良俗に反する等およそ税務調査を行ったといえないと評価されるほど違法性の程度が著しい場合を除いては、課税処分の取消事由にはならないものと解するのが相当である。
 そして、調査における質問検査の範囲、程度、時期及び場所等実定法上特段の定めのない実施の細目については、質問検査の必要があり、かつ、これと相手方の私的利益との衡量において社会通念上相当な限度にとどまる限り、権限ある税務職員の合理的な選択に委ねられているものと解される。
(ロ) 認定事実
 原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
A 事前通知等
 本件調査担当職員は、平成24年1月6日、請求人に対して本件調査を行う旨を事前に通知したところ、請求人の関与税理士から、原処分庁所属の別の職員に対して、本件調査に当たり請求人の事務所のコピー機を使用しないよう申入れがあり、本件調査担当職員も当該申入れがあったことの報告を受けた。
B 平成24年2月2日及び同月3日における本件調査の状況等
 本件調査担当職員は、平成24年2月2日及び同月3日に、請求人の事務所において、請求人監査役から事業の概要についての説明を受けるとともに、請求人の事業に関する書類の確認を行ったが、その過程において、次の事実があった。
(A) 本件調査担当職員の発言
 本件調査担当職員は、請求人の事務所を訪れた際、応対した請求人監査役に対して、「いい家だな。いくらかかっているのか。」と発言した。
(B) コピーの依頼
 本件調査担当職員は、請求人の事業に関する書類を確認していた際、その書類の中にカラーの書類があったことから、当該書類をカラーでコピーした方が分かりやすいと考え、請求人監査役に対して、請求人の事務所のコピー機を使用して当該書類をコピーするよう依頼した。
 これに対して、請求人監査役は、事前にコピー機の使用を控えるよう申し入れていたものの、そこでもめても仕方がないと考えて本件調査担当職員からの依頼に応じた。
(C) 携帯電話の番号の確認
 本件調査担当職員は、本件調査に立ち会っていた請求人監査役が用事のために席を外したいと申し出た際、請求人監査役に確認したいことが生じたときのために必要であるとして、請求人監査役の携帯電話の番号を聞いた。
C 税務上の取扱いに関する説明
(A) 本件調査担当職員は、平成24年3月27日、請求人監査役及び関与税理士に対して、職業紹介と人材派遣の相違について及び所得税基本通達204−21《給与等とすることができるモデルの業務に関する報酬又は料金》の内容について説明するとともに、これまでの本件調査の結果によると、請求人に対して役務の提供を行っていた販売員との間には雇用関係が認められるため、その対価として支払った金員は仕入税額控除の対象にならないこと、及び当該金員について源泉徴収をして源泉所得税を納付する必要があることを説明した。
 なお、上記通達は、いわゆるファッションモデル又はマネキン等のうちデパート等において常時役務を提供し、かつ、その役務の提供の状態が当該デパート等の職員の勤務の状態に類似しているものに対する報酬等については、給与等として源泉徴収して差し支えない旨定めるとともに、注書として、紹介所に求職登録されたマネキンが求人者たる企業の指示の下にデパート等で職務に従事して企業から対価の支払を受ける場合において、企業が当該対価をマネキン紹介所経由でマネキン個人に支払い、マネキン紹介所はマネキン個人に代わって対価を受領したにすぎないときは、企業が当該対価を支払う際に源泉徴収を要することに留意するとしている。
(B) 本件調査担当職員は、請求人監査役に対して、雇用契約に該当するか否かの一般的な基準について、作業に必要な材料や備品等を誰が負担するか、時間的な拘束があるか、指揮監督下にあるか等によって判断される旨説明した。
D 本件写しの借用等
 本件調査担当職員は、平成24年4月19日、請求人の事務所において、請求人と関連会社との間の取引に関して調査するため、同関連会社の監査役も務めていた請求人監査役に対し、同関連会社の総勘定元帳の提示を求めた。そして、本件調査担当職員が請求人監査役に対して本件写しの提出を依頼したところ、請求人監査役が本件写しを持ち帰ってよい旨答えたことから、本件調査担当職員は、請求人監査役に対し、コピーした後に本件写しを返す旨伝えて税務署に持ち帰ったが、この時、預り証を交付しなかった。
 その後、本件調査担当職員は、平成24年4月26日、本件写しを請求人監査役に返却した。
 請求人は、平成24年5月11日、関与税理士を通して、本件写しを本件調査担当職員に預けた際、預り証の交付がなかったのは不適切である旨を国税局所属の職員に申し入れた。そして、当該職員から報告を受けた原処分庁所属の職員が、関与税理士及び請求人監査役に電話で事情を聴くとともに、休暇中であった本件調査担当職員にも連絡して請求人監査役に事情を確認するよう伝えたことから、本件調査担当職員は、同日午後6時30分頃、数回にわたり、自宅から請求人の事務所に電話したが、いずれも請求人の事務員が応答し、請求人監査役は不在であった。
E 本件各処分
 本件調査担当職員は、平成24年7月23日及び同年9月11日、請求人代表者、請求人監査役及び関与税理士と面談し、職業安定法に基づく職業紹介がされた販売員と請求人との間には雇用関係が成立する旨、及び平成20年調査の際に、販売員に支払った金員を仕入税額控除の対象とすることができないことなどについて指摘がなかったとしても過去に遡って是正する必要がある旨を説明したが、請求人代表者、請求人監査役及び関与税理士は、これらの説明に納得することができなかった。
 そこで、本件調査担当職員は、更に、本件各販売員Aを請求人に紹介したマネキン紹介所(以下「本件各マネキン紹介所」という。)への調査を行うなどした上、本件調査の結果に基づいて、消費税等及び源泉所得税の額を計算し、平成24年12月19日、関与税理士に調査結果の説明を行い、同月26日、本件各処分に係る通知書を請求人に送達した。
(ハ) 当てはめ
A 上記イの「請求人」欄の(ホ)について
 本件調査担当職員は、上記(ロ)のDのとおり、請求人監査役に対し、コピーした後に本件写しを返す旨を伝えてこれを税務署に持ち帰っており、実際に本件写しを返却していたことからすれば、本件調査担当職員は、本件写しを借用したものと認められる。
 これに対して、原処分庁は、請求人監査役から、本件写しについて「持って帰ってください。」との発言があったために本件調査担当職員がもらったものと認識し、預り証を交付しなかった旨主張するが、かかる主張は、本件写しを返却する旨伝え、実際に返却した本件調査担当職員の言動と矛盾するものであって、これを採用することはできない。
 そうすると、本件調査担当職員は、請求人監査役に対して預り証を交付する必要があったといえるが、本件調査担当職員は、請求人から返却を求められるまでもなく、借用から約1週間で本件写しを返却したこと、請求人に相当な不利益が生じたことを示す事情が認められないことなどからすると、上記(イ)にいう違法性の程度が著しい場合に当たるとはいえない。
 したがって、請求人の主張を採用することはできない。
B 請求人のその他の主張について
 上記イの「請求人」欄の(イ)及び(ロ)のコピー機の使用や携帯電話番号の確認に関する主張については、上記(ロ)のBの(B)及び(C)のとおり、本件調査担当職員がコピー機の使用を依頼したり携帯電話の番号を聞いたりした際に強要があったというような事実は認められない。
 また、上記イの「請求人」欄の(ハ)の銀行口座の調査に関する主張については、上記(イ)のとおり、調査における質問検査の範囲等については、権限ある税務職員に一定の裁量が認められているところ、銀行口座を調査する際に事前連絡をしなければならないとする法令上の規定はない上、裁量権の濫用があったといえるような事情は見当たらない。
 さらに、上記イの「請求人」欄の(ニ)の本件調査担当職員が、請求人及び本件各販売員の間に雇用契約があることに関して、所得税基本通達に書いてあると主張するのみで十分な説明をしなかった旨の主張については、上記(ロ)のCのとおり、本件調査担当職員が請求人と本件各販売員との間に雇用関係が認められる理由について詳細な説明をしたとまでは認められないものの、雇用契約に該当するか否かの一般的な基準等については説明しているといえ、また、源泉徴収票の作成方法や労働者災害補償保険の加入に関する説明は本件各処分を行う前提として必要なものではないから、これらについての説明がなかったことをもって、本件各処分が違法になるということはできない。
 加えて、上記イの「請求人」欄の(ヘ)及び(ト)の本件調査担当職員から嫌がらせを受けたと感じたことや本件調査担当職員が横柄な態度であったとの主張については、上記(ロ)のBの(A)及び同Dの事実は認められるものの、いずれも本件調査が違法であるとまではいえない。
 以上のとおりであるから、上記イの「請求人」欄の(ホ)以外の請求人の主張については、いずれもそれが刑罰法規に触れたり、公序良俗に反したりする等およそ税務調査を行ったといえないと評価されるほど違法性の程度が著しい場合に該当するとはいえず、本件各処分の取消事由にはならない。
 したがって、請求人の主張はいずれも採用することはできない。
C 結論
 請求人の主張については、上記A及びBのとおり、いずれも採用することはできず、また、当審判所の調査の結果によっても、本件調査のその他の点について違法な点があったと認めるに足りる証拠はないため、本件調査の手続が違法であることを理由として、本件各処分が取り消されるべきとはいえない。

(2) 争点2(本件各販売員A及び本件各販売員Bによる役務の提供は雇用契約又は雇用関係に基づくものであって、請求人が本件各販売員A及び本件各販売員Bに支払った金員は給与等に該当するか否か。)について

イ 主張

原処分庁 請求人
 次の事情によれば、本件各販売員A及び本件各販売員Bによる役務の提供は雇用関係に基づくものと認められるため、請求人が本件各販売員A及び本件各販売員Bに支払った金員は給与等に該当する。  次の事情によれば、本件各販売員A及び本件各販売員Bによる役務の提供は業務委託契約に基づくものと認められるため、請求人が本件各販売員A及び本件各販売員Bに支払った金員は給与等に該当しない。
(イ) 本件各販売員Aの紹介等
 本件各販売員Aについては、請求人が、職業安定法上の有料職業紹介事業を行う者で雇用関係の成立をあっせんする本件各マネキン紹介所に対して、従事すべき業務の内容、賃金、労働時間その他の労働条件を明示して求人の申込みを行い、本件各マネキン紹介所から、雇用関係が成立するようあっせんを受けたものである。
(イ) 本件各販売員Aの紹介等
 請求人が本件各マネキン紹介所に伝えていたのは、物産展の期間、物産展初日の開始時間、場所及び必要な販売員の人数のみであった上、請求人は、物産展まで、本件各販売員Aと面会したことはなく、役務の提供の条件について話し合ったこともない。
 また、本件各マネキン紹介所から紹介を受けたからといって直ちに雇用契約が成立するものではない。
(ロ) 時間的拘束、指揮命令等
 本件各販売員A及び本件各販売員Bは、請求人が出展した店舗において販売業務に従事しており、販売業務のために拘束された日ないし時間によって役務の提供の対価の額が計算されていたことからすれば、請求人による空間的、時間的拘束を受けていたものと認められる。
 なお、役務の提供の時間が1日6時間又は6時間30分であったこと及び販売方法について具体的な指示がなかったことをもって、業務委託契約であったとは認められない。
(ロ) 時間的拘束、指揮命令等
 雇用関係であれば、被雇用者から1日8時間の役務提供を受けるべきであるところ、本件各販売員Aの役務の提供時間は、本件各マネキン紹介所により、1日6時間又は6時間30分とされていた。
 本件各販売員A及び本件各販売員Bは、販売のプロであり、請求人又は物産展の責任者は、販売方法について指示をしたことはなかった。
(ハ) 費用の負担等
 本件各販売員A及び本件各販売員Bは、請求人から交通費の支給を受けるなど販売業務に必要な費用を自己負担しておらず、また、商品が売れ残った場合にも対価の額が影響を受けることはなかった。
(ハ) 費用の負担等
 販売業務に必要なエプロン及び三角巾については、本件各販売員A、本件各販売員B又は本件各百貨店が用意していた。
(ニ) 代替性
 本件各販売員A及び本件各販売員Bは、販売業務に従事していた者であり、自己の責任において他の販売員を手配したり、当該他の販売員が販売業務を行ったことによって金員を受領したりしていたという事実は認められない。
 実際にも、本件各販売員Aが早退遅刻により役務の提供を行えなかった場合には、他の販売員を手配するのではなく、その時間に対応した金額が日当から減額されていた。
 以上によれば、本件各販売員A及び本件各販売員Bには他者をして代わりに販売業務に当たらせることが認められていなかった。
(ニ) 代替性
 過去に販売員の親族が代わりに販売業務に当たったこともあり、本件各販売員A及び本件各販売員Bには他者をして代わりに販売業務に当たらせることが認められていた。
(ホ) 源泉所得税の計算等
 本件各販売員B(別紙2の2の販売員を除く。)については、請求人が、マネキン賃金台帳において、源泉所得税の計算を行っていた。
 別紙2の2の販売員についても、同人から請求人への請求書には「源泉徴収税30円」と記載されており(30円は当該請求書の交通費を除いた請求額28,750円の源泉所得税の額に相当する。)、請求人も同金額を預り金として計上していた。
(ホ) 源泉所得税の計算等
 請求人は、原処分庁から本件各販売員に支払った金員について源泉徴収をする必要があるとの説明があったことから、平成22年6月以降、それに従って、源泉所得税の計算及び預り金の計上を行っていただけであり、本件各販売員Bに支払った金員が給与等に該当することを認めたものではない。
(ヘ) 当事者の意思
 本件各販売員Aについては、請求人が、本件各マネキン紹介所に対して、業務委託契約であれば支払う必要のない紹介手数料を支払っていたのだから、業務委託契約を締結する意思があったとは認められない。
 また、仮に請求人が業務委託契約を締結する意思であったとしても、本件各販売員A及び本件各販売員Bに明示し、承諾を受けていなければ、業務委託契約とは認められない。
(ヘ) 当事者の意思
 雇用契約を締結するか否かは契約 自由の原則に基づき当事者の判断に委ねられるところ、請求人は、本件各販売員A及び本件各販売員Bとの間で雇用契約を締結する意思はなく、業務委託契約を締結する意思であった。
(ト) 他の行政機関の説明
 本件各処分は、本件各販売員A及び本件各販売員Bに支払った金員が給与等に該当するために行われたものであり、請求人と本件各販売員A及び本件各販売員Bとの間に雇用契約があったか否かを判断するものではないため、労働基準監督署及び労働局の職員の説明は、本件各処分の適法性に影響するものではない。
(ト) 他の行政機関の説明
 雇用契約であるか否かは、厚生労働省、労働基準監督署又は労働局が判断するものであって、原処分庁がこれを判断するものではない。
 そして、請求人が本件各販売員A及び本件各販売員Bと面会したこともなく、役務の提供の条件を全て本件各百貨店が決めていたにもかかわらず、雇用契約が成立するのか質問したところ、労働基準監督署及び労働局の職員は、請求人及び本件各販売員との間に雇用契約は存在しないと説明した。

ロ 判断
(イ) 法令解釈
 本件は、本件各販売員A及び本件各販売員Bによる役務の提供が雇用関係に基づくものであるのか、それとも業務委託契約に基づくものであるのか、更には、請求人が支払った金員が給与等に該当するか否かが争われているところ、雇用契約とは、労働者が使用者に使用されて労働し、使用者がこれに対して賃金を支払うことについて、労働者及び使用者が合意することによって成立するものであり、その本質は、労働者が使用者との使用従属関係の下に賃金の支払を受けて労務を提供するところにあるものと解される。
 そして、給与等とは、給料、賃金、賞与等その他の名目のいかんにかかわらず、雇用契約又はこれに類する原因に基づき、自己の危険と計算によることなく、使用者の指揮命令に服して提供した労務の対価として使用者から受ける給付をいうものと解され、具体的には、まる1役務の具体的な内容や方法について対価の支払者から指揮監督を受けているかどうか、まる2対価の支払者から作業時間を指定されるなど時間的な拘束を受けているかどうか、まる3対価の支払者から材料や用具等の供与を受けているかどうか、まる4役務の提供を行う者が自己の責任において他者を手配し、その他者が代替して役務を提供することが認められるものではないかどうか等の事情を総合勘案して判断するのが相当であると解される。
(ロ) 認定事実
 原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
A 出展申込み、責任者の割当て等
 請求人は、物産展を開催することとなった本件各百貨店に対して、出展を申し込み、その物産展での出展が決まると、責任者を割り当て、この責任者が、本件各百貨店に仮設店舗等の機材を搬入、設置し、物産展開催中、現場において弁当作りを担当するとともに、商品及び金銭の管理等販売業務全体の管理・監督を行っていた。
 なお、本件期間においては、請求人の役員が責任者として販売業務全体の管理・監督に当たっていたほか、請求人から責任者として業務に当たるよう依頼を受けた第三者(以下「本件各役員外責任者」という。)が責任者として販売業務全体の管理・監督に当たることもあった。
B 本件各販売員A及び本件各販売員Bによる役務の提供
(A) 手配の経緯
a 本件各販売員Aについて
 請求人は、物産展での出展が決まると、直接若しくは本件各役員外責任者又は本件各百貨店を通して、有料職業紹介事業を行う本件各マネキン紹介所に物産展の開催場所、開催期間、物産展の初日の開始時間及び必要な販売員の人数を伝えて、販売員の紹介を依頼していた。
 そして、本件各マネキン紹介所は、上記依頼を受けて、雇用契約のあっせんをする意図で本件各販売員Aを選定し、本件各販売員Aに対しては、労働条件明示書等(以下「本件各明示書等」という。)の交付又は口頭により、求人者である請求人を紹介し、請求人に対しては、紹介状又は就労明示書等(以下、これらを併せて「本件各紹介状等」という。)を交付するか、本件各販売員Aを直接物産展に行かせることによって、本件各販売員Aを紹介していた。
 なお、本件各明示書等には、求人者名として請求人の名称、業務内容として○○弁当の販売業務である旨がそれぞれ記載されていたほか、雇用期間、就労時間、基本賃金、就労場所等の項目に、それぞれの具体的な内容が記載されていた。また、本件各紹介状等には、求職者氏名、雇用期間、基本賃金等の項目に、それぞれの具体的な内容が記載されていたほか、「賃金は、労働基準法第24条により直接本人に全額をお支払いください。」、「労災保険は必須加入です。」、「雇用契約は求人者(メーカー様)と求職者(マネキン)との間で結ぶ事になります。」と記載されているものもあった。
b 本件各販売員Bについて
 請求人は、本件各マネキン紹介所に販売員の紹介を依頼していたほか、f地方、g地方及びh地方で行われた物産展に出展した際には、別紙2の6の販売員乙に対して、物産展で○○弁当の販売をするよう依頼するとともに、他にも販売員を集めて連れてくるよう依頼していた。
 そして、販売員乙は、上記依頼を受けて、請求人の○○弁当の販売に当てるために、本件各販売員Bの手配を行っていた。
 なお、請求人は、販売員乙に対して本件各販売員Bの手配を依頼した際に書面等を作成しておらず、また、本件各販売員Bとの間で契約書等の書面も作成していなかった。
(B) 役務の提供の態様等
 本件各販売員A及び本件各販売員Bは、原則として、役務の提供の初日には物産展の開始時間前に、2日目以降は前日に責任者から指示を受けた時間に集合して、合計6時間30分から8時間の販売業務に当たることとされ、休憩時間は60分又は90分で、責任者が本件各販売員A及び本件各販売員Bに対して休憩を取るよう伝えると、各販売員間で休憩を取る順番を適宜決めて、交代で休憩を取っていた。
 そして、実際に販売業務を行うに当たっては、本件各販売員A及び本件各販売員Bは、販売業務に慣れた販売員であったことから、販売方法に関する詳細な指示が与えられることはなかった。
(C) 対価について
 本件各マネキン紹介所及び販売員乙は、物産展終了後、本件各販売員A及び本件各販売員Bから請求人に対する請求書又は賃金計算書等(以下、これらを併せて「本件各請求書等」という。)を取りまとめて請求人に交付し、請求人は、これを受けて、本件各販売員A及び本件各販売員Bに対して、直接又は本件各マネキン紹介所を通して、対価を支払っていた。
 この対価の額については、本件各販売員Aに関しては1日実働6時間30分ないし7時間の販売業務、本件各販売員Bに関しては1日実働7時間ないし8時間の販売業務に対して、日当が定められており、実際に行った販売業務の時間に過不足がある場合、超過分については残業手当が支給され、不足分については日当から算定した時給額に基づいて日当が減算されていた。ただし、本件各販売員Bが平成22年10月27日から同年11月9日まで及び同月17日から同月30日までに行った役務の提供については、日当が固定額とされていた。
 以上のほか、請求人は、本件各販売員A及び本件各販売員Bに対して、交通費を支払っており、また、繁忙手当、郊外手当及び遠地手当等を支払うこともあった。
 なお、本件各販売員Aに係る本件各請求書等には、就労期間、賃金、時間外賃金、交通費及び就労場所等がそれぞれ記載されていたほか、「雇用主は貴社になります」、「尚、マネキンの源泉所得税は貴社にて徴収願います」などと記載されているものもあった。また、本件各販売員Bに係る本件各請求書等にも、販売を行った場所、日時、休憩時間、対価の額、残業手当の額及び交通費の額の実績並びに対価の払込先となる銀行口座の情報がそれぞれ記載されていた。
(D) その他
 販売業務を行うに当たっては、エプロン及び三角巾が必要であったが、これらは、請求人が用意したものではなく、本件各販売員A、本件各販売員B又は本件各百貨店が用意していた。
 また、請求人専用のレジの備付けがなかった物産展においては、計算機を用いて○○弁当の販売に係る計算を行っていたことから、請求人がそのための計算機を準備していたが、使い慣れた計算機がよいとして自己の計算機を持参する本件各販売員A又は本件各販売員Bもいた。
 そのほか、本件各販売員Bが販売を行うに当たって、ちりとりや洗剤等の備品及び消耗品が必要になった際には、本件各販売員Bから請求を受けて、請求人がその費用を負担していた。
(ハ) 当てはめ
A 役務の内容や方法についての指揮監督
 上記(ロ)のAのとおり、責任者は、商品及び金銭の管理等販売業務全体の管理・監督を行っていたことに加え、同Bの(B)のとおり、本件各販売員A及び本件各販売員Bは、役務の提供の初日以外については、前日に責任者から指示を受けた時間に集合していたこと、休憩時間についても、責任者の指示を受けた上で、各販売員間で休憩を取る順番を決めて休憩を取っていたことからすると、本件各販売員A及び本件各販売員Bは、責任者から、役務提供の具体的な内容や方法について指揮監督を受けていたものと認められる。
 そして、本件各販売員A及び本件各販売員Bは、請求人の役員が責任者であった場合には、請求人から直接指揮監督を受けており、本件各役員外責任者が責任者であった場合には、本件各役員外責任者が、請求人の依頼に基づいて、本件各販売員の指揮監督を含む責任者としての業務を行っていることから、本件各販売員A及び本件各販売員Bは、本件各役員外責任者を介して、請求人から指揮監督を受けていたものと認められる。
 なお、実際に本件各販売員A及び本件各販売員Bに対して販売方法に関する詳細な指示を与えていなかったことが認められるが、本件各販売員A及び本件各販売員Bが行っていたのは○○弁当の販売であり、高度な専門性が要求されるものではなく、具体的な指示をする必要性が高いとはいえないから、販売方法に関する具体的な指示がなかったことのみをもって、請求人の指揮監督の下になかったということはできない。
 以上のとおりであるから、本件各販売員A及び本件各販売員Bは、役務の具体的な内容や方法について、請求人の指揮監督を受ける立場にあったものと認められる。
B 時間的な拘束
 本件各販売員A及び本件各販売員Bは、上記(ロ)のBの(B)のとおり、物産展の開始時間前又は前日に責任者から指示を受けた時間に集合し、原則として6時間30分から8時間の販売業務に当たることとされていたこと、休憩時間は60分又は90分とされており、責任者の指示を受けた上で、各販売員間で休憩を取る順番を決めて休憩を取っていたこと、同(C)のとおり、対価は日当とされていた上、販売業務の時間にかかわらず日当が固定額とされていた場合があるものの、実際に行った販売業務の時間に過不足がある場合、超過分については残業手当が支給され、不足分については日当から算定した時給に基づいて日当の額が減算されていたことからすれば、本件各販売員A及び本件各販売員Bは、販売業務を行うに当たって、請求人から時間的な拘束を受けていたものと認められる。
C 材料や用具等の供与
 上記(ロ)のBの(D)のとおり、物産展において販売業務を行う際に必要なエプロン及び三角巾については、本件各販売員A、本件各販売員B又は本件各百貨店が用意していたものと認められる。
 他方、販売業務において使用する計算機については、上記(ロ)のBの(D)のとおり、本件各販売員A又は本件各販売員Bが自己の計算機をもって業務に当たることがあったものの、基本的には請求人が準備していたものであって、本件各販売員A及び本件各販売員Bが本件各百貨店に行く際に必要な交通費については、同(C)のとおり、請求人がその費用を負担しており、また、販売を行うのに必要な備品や消耗品についても、同(D)のとおり、請求人がその費用を負担していたものと認められる。
D 役務の提供の代替性
 物産展において責任者として業務に当たっていた請求人代表者は、当審判所に対して、本件各販売員が自由に販売を他者に任せることはできなかった旨答述しており、これによれば、本件各販売員A及び本件各販売員Bが自己の責任において他者を手配し、その他者が代替して販売を行うことはできなかったものと認められる。
E その他の事情
(A) 本件各販売員Aの役務の提供に至る経緯等
 請求人は、上記(ロ)のBの(A)のaのとおり、本件各マネキン紹介所から本件各販売員Aの紹介を受けたところ、本件各マネキン紹介所は、職業紹介すなわち雇用契約のあっせんを行う事業者であり、実際にも雇用契約のあっせんを行う意図で本件各販売員Aを紹介していたこと、本件各紹介状等又は本件各明示書等において、雇用期間、基本賃金等の名目で役務の提供の具体的な条件の提示がなされることで、請求人及び本件各販売員Aに雇用条件が示されていたと認められ、本件各紹介状等又は本件各明示書等の交付がなかった場合についても、本件各マネキン紹介所が雇用契約のあっせんとは別の趣旨で紹介を行ったことを示す事情はうかがわれないことからすれば、本件各マネキン紹介所による本件各販売員Aの紹介は、雇用契約のあっせんであったと認められる。
 そして、請求人が本件各マネキン紹介所による紹介を拒絶することなく実際に本件各販売員Aから役務の提供を受け、毎回、販売業務に当たった時間に応じて計算された金額を日当として支払っていたことからすると、請求人と本件各販売員Aとの間では、本件各マネキン紹介所を通して、本件各販売員Aが役務の提供を行い、請求人がその役務の提供に対する対価を支払うことについて、少なくとも黙示による合意が成立していたものと認められる。
(B) 本件各販売員Bの役務の提供に至る経緯等
 請求人は、上記(ロ)のBの(A)のbのとおり、販売員乙に販売に当たるよう依頼するとともに他にも販売員を集めるよう依頼し、これを受けた販売員乙が本件各販売員Bを手配したものであるところ、この請求人から販売員乙への依頼の趣旨に関しては、請求人監査役が当審判所に対して販売員乙の立場が他の販売員と同じである旨答述しており、実際にも、販売員乙が他の本件各販売員Bを雇用して販売に当たらせたというような事情は認められないこと、本件各販売員Bがそれぞれ個別に請求人に対して対価の請求を行っていたことからすると、請求人は、販売員乙に自ら他の販売員を雇用するなどして販売に当たらせるよう依頼したものではなく、他の販売員の紹介を依頼したのみであったと認められる。そして、請求人が販売員乙の紹介した本件各販売員Bを拒絶することなく実際に役務の提供を受け、その対価を支払っていたことからすると、請求人と本件各販売員Bとの間では、販売員乙を通して、本件各販売員Bが役務の提供を行い、請求人がその役務の提供に対する対価を支払うことについて、少なくとも黙示による合意が成立していたものと認められる。
F 結論
 上記Cのとおり、販売業務を行う際に必要なエプロン及び三角巾については請求人が用意したものでなかったことが認められるが、上記A及びBのとおり、本件各販売員A及び本件各販売員Bは、役務の具体的な内容や方法について請求人による指揮監督を受けるとともに、請求人から時間的拘束も受けていたこと、上記Dのとおり、本件各販売員A及び本件各販売員Bには役務の提供の代替が認められていなかったこと、さらに、上記Eのとおりの本件各販売員A及び本件各販売員Bの役務の提供に至る経緯等を併せ考慮すれば、本件各販売員A及び本件各販売員Bに支払われた金員は、いずれも雇用契約に基づき、自己の危険と計算によることなく、使用者の指揮命令に服して提供した労務の対価として支給されたものといえ、給与等に該当すると認められる。
 なお、原処分庁は、上記イの「原処分庁」欄の(ホ)のとおり、本件各販売員B(別紙2の2の販売員を除く。)については、請求人が、マネキン賃金台帳において、源泉所得税の計算を行っていた旨主張するが、請求人は、原処分庁からの指導を受けて源泉所得税の徴収を行っていたにすぎないと認められるから、この点は結論に影響を与えるものではない。
(ニ) 請求人の主張について
A 上記イの「請求人」欄の(イ)について
 請求人は、本件各販売員A及び本件各販売員Bと物産展まで面会したことはなく、役務の提供の条件について話し合ったこともない旨主張する。
 しかしながら、請求人が、本件各マネキン紹介所又は販売員乙の紹介によって、本件各販売員A及び本件各販売員Bから実際に役務の提供を受け、本件各請求書等に基づいて金員を支払っていた点に鑑みれば、請求人の主張を前提としたとしても、上記(ハ)のFの結論に影響を与えるものとはいえない。
 したがって、請求人の主張には理由がない。
B 上記イの「請求人」欄の(ロ)について
 請求人は、雇用関係であれば被雇用者から1日8時間の役務の提供を受けるべきである旨主張するが、役務の提供の時間は、当事者間の合意によって定められるべき条件であって、8時間の役務の提供がなければ雇用契約に当たらないとする法令の規定は存在しない。
 したがって、請求人の主張には理由がない。
C 上記イの「請求人」欄の(ハ)について
 請求人は、販売業務に必要なエプロン及び三角巾については、本件各販売員A、本件各販売員B又は本件各百貨店が用意していた旨主張する。
 しかしながら、雇用契約が認められる場合であっても、制服等の着用が義務付けられていない場合において、業務を行う際に着用する衣服やエプロン等を被雇用者自身が準備することは一般的にあり得ることであるから、請求人が販売業務に必要なエプロン等を準備していなかったという事情のみをもって、請求人と本件各販売員A及び本件各販売員Bとの間に雇用契約が認められず、請求人が支払った金員が給与等に該当しないということはできない。そして、給与等に該当するか否かについては、上記(ハ)のAないしEの各事情を総合勘案して判断することになるところ、同A、B、D及びEの各事情はいずれも本件各販売員A及び本件各販売員Bに支払われた金員が給与等に該当することを示すものといえるから、請求人の主張は、同Fの結論を左右するものではない。
 したがって、請求人の主張には理由がない。
D 上記イの「請求人」欄の(ニ)について
 請求人は、過去に販売員の親族が代わりに販売業務に当たったこともあり、本件各販売員A及び本件各販売員Bは他者をして代わりに販売に当たらせることが認められていた旨主張する。
 しかしながら、仮に販売員の親族が代わりに販売に当たった前例があったとしても、当該販売員の裁量による役務の代替が認められていたのではなく、請求人等の承諾を得て販売員の親族が代わりに販売に当たったにすぎない可能性もあるから、本件各販売員A及び本件各販売員Bが自己の責任において他者を手配し、その他者が代替して役務を提供することができたとまでは認められない上、上記(ハ)のDのとおり、本件各販売員A及び本件各販売員Bが自己の責任において他者を手配し、その他者が代替して販売を行うことはできなかったものと認められる。
 したがって、請求人の主張には理由がない。
E 上記イの「請求人」欄の(ヘ)について
 請求人は、本件各販売員A及び本件各販売員Bとの間で業務委託契約を締結する意思であった旨主張するが、本件各紹介状等及び本件各請求書等には、上記(ロ)のBの(A)のa及び同(C)のとおり、請求人が雇用主である旨や請求人が源泉徴収をする必要がある旨の記載があるのだから、請求人の主張をにわかに採用することはできないし、仮に請求人が業務委託契約であると認識していたとしても、請求人と本件各販売員A及び本件各販売員Bとの間で締結されていたのが業務委託契約であるか雇用契約であるかは、請求人の認識のみによって決まるものではなく、上記(ロ)の各事実によれば、雇用契約であったと認められる。
 したがって、請求人の主張には理由がない。
F 上記イの「請求人」欄の(ト)について
 請求人は、労働基準監督署及び労働局の職員に対し、本件各販売員A及び本件各販売員Bと面会したこともなく、役務の提供の条件を全て本件各百貨店が決めていたにもかかわらず、雇用契約が成立するのか質問した際、請求人と本件各販売員との間に雇用契約は存在しないと説明を受けた旨主張するが、そもそも本件各販売員A及び本件各販売員Bの役務の提供の条件全てを本件各百貨店が決めていたという事実は認められないから、かかる事実を前提とした労働基準監督署及び労働局の職員から、上記説明があったとしても、上記(ハ)のFの結論に影響を与えるものではない。
 したがって、請求人の主張には理由がない。

(3) 争点3(本件各販売員Cの雇用主は請求人であって、請求人が本件各販売員Cに支払った金員は給与等に該当するか否か。)について

イ 主張

原処分庁 請求人
 次の事情によれば、本件各販売員Cの雇用主は請求人であって、請求人が本件各販売員Cに支払った金員は給与等に該当する。  次の事情によれば、本件各販売員Cの雇用主はM百貨店i店(以下「百貨店丙」という。)であって、請求人が本件各販売員Cに支払った金員は給与等に該当しない。
(イ) 販売業務に係る報告及び金員の支払について
 本件各販売員Cは、アルバイト従業者明細表により、請求人の出展した店舗で就業したこと及び販売業務に従事した時間によって計算された役務の提供の対価の額を請求人に報告していた。
 そして、請求人は、上記報告に基づいて本件各販売員Cに対して役務の提供の対価を支払い、マネキン賃金台帳において賃金計算も行っていた。
(イ) 販売業務に係る報告及び金員の支払について
 請求人が本件各販売員Cに金員を支払っていたのは、百貨店丙の指示に従っていただけであり、この点をもって本件各販売員Cと雇用関係にあるのは請求人であるとはいえない。
(ロ) 本件各販売員Cの手配及び指揮命令について
 本件各販売員Cを手配したのが、百貨店丙であったとしても、それをもって百貨店丙が本件各販売員Cを雇用していたものとは認められないし、役務の提供の時間や休憩場所の指示は、販売業務のための指揮命令とはいえない。
(ロ) 本件各販売員Cの手配及び指揮命令について
 本件各販売員Cを手配したのは百貨店丙であった。
 また、百貨店丙が本件各販売員Cの役務の提供の開始時間、終了時間、休憩時間及び休憩場所を指定していたことから、本件各販売員Cは百貨店丙の指揮命令に服していたといえる。

ロ 判断
(イ) 認定事実
 原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
A 本件各販売員Cが販売に従事するに至った経緯
 請求人は、百貨店丙に出展申込みをする際、○○弁当の販売を行ってもらう販売員を確保するために、出展申込書の「マネキン・アルバイト希望」欄に、必要とするアルバイトの人数及び指名するアルバイトの氏名を記載して、百貨店丙に提出して、アルバイトの手配を依頼していた。
 なお、上記出展申込書には、「アルバイトは、希望人数紹介できない場合があります」と記載されていた。
 これに対して、百貨店丙は、物産展のための販売員を新規に募集して面接するか、過去に販売に当たったことのある者に直接連絡して、本件各販売員Cを手配していた。
 そして、百貨店丙は、本件各販売員Cのうち、初めて販売に当たる販売員に対しては、上記面接の際、業務の内容が販売及び調理補助であること、勤務の期間、勤務時間、時給の下限及び服装等を記載した書面を交付して説明を行うとともに、時給については出展する事業者に確認するように伝えていたほか、実際の勤務の初日に現場において口頭により、請求人の出展する店舗で販売に当たることを伝えていた。
 また、百貨店丙は、本件各販売員Cのうち、過去に物産展で販売に当たったことがある販売員に対しては、当該販売員に直接連絡した際、請求人の出展する店舗において販売に当たることになると伝えていた。
 なお、百貨店丙は、出展する事業者である請求人の依頼によって販売員を手配するのは販売員の紹介であって、請求人が雇用主になるものと認識しており、請求人が百貨店丙において出展を始めた当時、請求人に対して、請求人が販売員の雇用主になることや請求人が時給の額を決定することについて口頭で説明したものと考えていたことから、本件各販売員Cを紹介した時点においては、それまで継続的に出展して請求人との間に暗黙の了解が存在するものとして、請求人に対し、請求人が販売員の雇用主になることや請求人が時給の額を決定することについて説明していなかった。
B 業務の内容及び指揮監督関係
 本件各販売員Cは、請求人が出展した店舗において、○○弁当の販売業務に当たっていたところ、必ずしも販売に慣れているわけではなかったことから、責任者から、釣銭を渡すときにどういう言葉を顧客に掛けるかということや、弁当を渡す時に斜めにして渡してはいけないことなどの基本的な事項についての指導を受けて販売業務に当たっていた。
 なお、百貨店丙は、本件各販売員Cに対して具体的な販売方法の指示や命令を行ってはいなかったものの、本件各販売員Cが百貨店丙の物産展において販売に当たるものであることから、その勤務態度によっては、一般的な心得を指導することとしていた。
C 本件各販売員Cへの金員の支払
 請求人は、物産展終了後、本件各販売員Cからアルバイト従業者明細表の交付を受け、直接、本件各販売員Cに対して、販売に当たった時間に応じて計算した金員を支払っていた。
 なお、アルバイト従業者明細表には、本件各販売員Cが請求人の出展した店舗において就業した旨のほか、「勤務日」、「勤務開始時間」、「勤務終了時間」、「休憩時間」、「労働時間」及び「日給」の各項目に、それぞれの実績が記載されていた。
(ロ) 当てはめ
 本件では、本件各販売員Cの雇用主が請求人であるか百貨店丙であるかが争われているところ、上記(2)のロの(イ)のとおり、雇用契約とは、労働者が使用者に使用されて労働し、使用者がこれに対して賃金を支払うことについて、労働者及び使用者が合意することによって成立するものであり、その本質は、労働者が使用者との使用従属関係の下に賃金の支払を受けて労務を提供するところにあるものと解されることからすれば、雇用主に関する判断については、雇用契約締結の意思の合致が認められるか否かにより判断するのが相当である。
 そこで、本件についてみると、本件各販売員Cは、百貨店丙の手配により販売に当たったものであるが、請求人、百貨店丙及び本件各販売員Cのそれぞれの間で、誰が雇用主となるか明確にされた契約書等の書面が作成された事実は認められない。
 次に、百貨店丙が本件各販売員Cを手配することとなった経緯をみると、上記(イ)のAのとおり、請求人は、出展申込書のアルバイト希望欄に必要事項を記載した上で、百貨店丙にアルバイトの手配を依頼した際、アルバイトの人数を指定するのみではなく従事してほしい者の指名まで行っていたことからすれば、本件各販売員Cの採用に請求人の意向が反映されていたものと認められる。また、百貨店丙は、本件各販売員Cに対して、勤務初日に時給の額を出展する事業者に確認するよう伝えており、このことからすれば、最終的に本件各販売員Cの時給額を決めていたのは、百貨店丙ではなく、出展する事業者である請求人であったものと認められる。そして、請求人が百貨店丙に提出した出展申込書には「アルバイトは、希望人数紹介できない場合があります」と記載され、アルバイトが「紹介」である旨が明記されていたことが認められる。
 なお、上記(イ)のAのとおり、百貨店丙は、新規に募集した本件各販売員Cについては、面接を行い、勤務の時期や勤務時間等についての条件を伝えていたことが認められるが、これについては、請求人が販売員の手配を百貨店丙に依頼したことに基づくものであると考えることもできるのであって、かかる事実のみをもって、百貨店丙が雇用主として本件各販売員Cの雇用条件を決めていたものということはできない。
 さらに、本件各販売員Cの業務内容及び指揮監督関係についてみると、上記(イ)のBのとおり、本件各販売員Cは、請求人が出展した店舗において責任者の指揮監督の下で請求人の○○弁当の販売業務を行っていたものであり、直接又は本件各役員外責任者を介して、請求人の指揮監督を受けていたといえ、また、金員の支払方法についてみると、同Cのとおり、本件各販売員Cが請求人に対して、アルバイト従業者明細表を提出した上、請求人が、本件各販売員Cに販売に当たった時間に応じて計算した金員を直接支払っていたことが認められる。
 以上の事実によれば、請求人は、本件各販売員Cによる役務の提供を受け、本件各販売員Cに対して賃金を支払う意思を有していたものと認められる。
 また、本件各販売員Cも、請求人が出展した店舗において責任者の指揮監督の下で○○弁当の販売に当たり、請求人から対価の支払を直接受け、アルバイト従業者明細表にも請求人の出展した店舗において就業した旨記載していたのであるから、請求人に対して役務を提供し、請求人から賃金の支払を受ける意思を有していたものと認められる。
 以上のとおり、請求人と本件各販売員Cとの間には、少なくとも黙示による雇用契約締結の意思の合致が認められ、本件各販売員Cの雇用主は請求人であるといえるから、請求人が本件各販売員Cに支払った金員は、請求人及び本件各販売員Cの間の雇用契約に基づき使用者の指揮命令に服して提供した労務の対価として支給されたものであり、給与等に該当すると認められる。
(ハ) 請求人の主張について
A 上記イの「請求人」欄の(イ)について
 請求人は、本件各販売員Cに金員を支払っていたのは、百貨店丙の指示に従っていただけである旨主張するが、百貨店丙が請求人に対して本件各販売員Cに金員を支払うよう伝えていたのは、請求人が本件各販売員Cを雇用していたからにほかならないといえる。
 したがって、請求人の主張には理由がない。
B 上記イの「請求人」欄の(ロ)について
 請求人は、百貨店丙が役務の提供の開始時間等を指定しており、本件各販売員Cは百貨店丙の指揮命令に服していた旨主張する。
 しかしながら、百貨店丙が役務の提供の開始時間等を示したのは、請求人が販売員の手配を百貨店丙に依頼したことに基づくものであると考えることもでき、このことから直ちに百貨店丙が雇用主として雇用条件を定めたものということができないことは上記(ロ)のとおりである。また、百貨店丙は、同(イ)のBのとおり、本件各販売員Cに対して、勤務態度について一般的な心得を指導していたことが認められるが、これらは本件各販売員Cが百貨店丙内において販売業務に当たることとの関係に基づく指示であると考えられ、実際にも、本件各販売員Cは、同Bのとおり、請求人が出展した店舗において責任者から基本的な事項の指導を受けて販売業務を行っていたのであるから、百貨店丙の指揮命令に服していたとはいえない。
 したがって、請求人の主張には理由がない。

(4) 争点4(本件各処分は信義則に反するか否か。)について

イ 主張

請求人 原処分庁
(イ) 本件各納税告知処分等のうち、平成20年1月から同年6月までの期間分(以下「平成20年6月期間分」という。)の納税告知処分について
 平成20年調査において、調査担当職員から、本件各販売員に支払った金員について、源泉所得税を納付すべきとの指摘がなかったのであるから、原処分庁が、その後になって平成20年調査の結果を覆して平成20年6月期間分の納税告知処分を行うことは信義則に反する。
(ロ) 本件各処分(平成20年6月期間分の納税告知処分を除く。)について
 請求人は、本件各販売員に支払った金員について、仕入税額控除の対象とすることはできず、源泉所得税を納付すべきとの指摘がなかった平成20年調査の結果を信頼して、本件各販売員に支払った金員について、仕入税額控除を行うとともに、源泉所得税を納付していなかったのであるから、本件各処分(平成20年6月期間分の納税告知処分を除く。)についても信義則に反する。
 信義則の法理の適用により、課税処分を違法なものとして取り消すには、少なくとも、税務官庁が納税者に対し信頼の対象となる公的見解を表示したことにより、納税者がその表示を信頼し、その信頼に基づいて行動したところ、後に当該表示に反する課税処分が行われ、そのために納税者が経済的不利益を受けることになったものであるかどうか、また、納税者が税務官庁の当該表示を信頼し、その信頼に基づいて行動したことについて納税者の責めに帰すべき事由がないかどうかという点の考慮が不可欠である。
 そして、納税者は、自己の責任と判断の下に行動すべきものであることからすれば、信頼の対象となるべき公的見解の表示であるというためには、少なくとも、税務署長その他の責任ある立場にある者の正式な見解の表示であることが必要であるところ、平成20年調査において、本件各販売員に支払った金員について、仕入税額控除の対象とすることはできず、源泉所得税を納付すべきとの指摘がなかったことは信頼の対象となるべき公的見解の表示であるとはいえないため、本件各処分は信義則に反するものではない。

ロ 判断
(イ) 法令解釈
 租税法規に適合する課税処分について、法の一般原理である信義則の法理の適用により、当該課税処分を違法なものとして取り消すことができる場合があるとしても、法律による行政の原理、とりわけ租税法律主義の原則が貫かれるべき租税法律関係においては、同法理の適用については慎重でなければならず、租税法規の適用によって実現されるべき納税者間の平等、公平という要請を犠牲にしてもなお当該課税処分に係る課税を免れしめて納税者の信頼を保護しなければ正義に反するといえるような特別の事情が存する場合に、初めて同法理の適用の是非を考えるべきであると解される。
 そして、特別の事情が存するかどうかの判断に当たっては、税務官庁が納税者に対し信頼の対象となる公的見解を表示したことにより、納税者がその表示を信頼し、その信頼に基づいて行動したところ、後にその表示に反する課税処分が行われ、そのために納税者が経済的不利益を受けることになったものであるかどうか、また、納税者が税務官庁の表示を信頼し、その信頼に基づいて行動したことについて納税者の責めに帰するべき事由がないかという点の考慮が不可欠であると解される。
(ロ) 当てはめ
 平成20年調査においては、前記1の(4)のニのとおり、調査担当職員から、請求人が弁当の販売を行った販売員に支払った金員に関して、仕入税額控除をすることはできず、源泉所得税を納付する必要がある旨の指摘がなかったことが認められる。
 しかしながら、本件各処分のうち、平成20年6月期間分の納税告知処分については、平成20年調査よりも前に法定納期限を経過していた源泉所得税に係るものであって、当該法定納期限の時点においては、そもそも税務官庁が納税者に対し信頼の対象となる公的見解を表示したといえる事情は存在しないし、上記指摘がなかったことによって、原処分庁が請求人による源泉所得税の不納付を是認したものということはできず、請求人の税務処理に誤りがあると確認された段階で処分を行うことに不合理な点も認められないため、上記(イ)の特別の事情があるものとはいえない。
 また、本件各処分のうち、本件各更正処分及び本件各納税告知処分(平成20年6月期間分の納税告知処分を除く。)については、平成20年調査の後に法定申告期限又は法定納期限が到来する消費税等又は源泉所得税に係るものであるが、上記指摘がなかったことによって、平成20年調査の後もそれまでの消費税等の申告や源泉所得税の不納付を継続することが許されるというような信頼の対象となるべき公的見解の表示があったものとは認められず、上記(イ)の特別の事情があるものとはいえない。
 したがって、本件各処分はいずれも信義則に反するものとはいえない。

(5) 争点5(消費税等の過少申告及び源泉所得税の不納付に関して、通則法第65条第4項及び第67条第1項ただし書に規定する正当な理由があったか否か。)について

イ 主張

請求人 原処分庁
 請求人は、平成20年調査において、本件各販売員に支払った金員について、仕入税額控除の対象ではないし、源泉所得税を納付する必要があるとの指摘がなかったため、その結果を信頼して、本件各販売員に支払った金員について、仕入税額控除を行うとともに、源泉所得税(平成20年6月期間分の源泉所得税を除く。)を納付していなかったのであるから、消費税等の過少申告及び源泉所得税の不納付に関して、通則法第65条第4項及び第67条第1項の「正当な理由」が認められる。  通則法第65条第4項の「正当な理由」とは、法定申告期限内に正しい申告をしなかったことについて真にやむを得ない理由があり、納税者に加算税を課すことが不当又は酷になる場合をいうのであり、税務職員の説明又は助言がなかったことは、これに該当しない。
 通則法第67条第1項の「正当な理由」とは、法定納期限内に納付しなかったことについて、源泉徴収義務者の責めに帰することのできない客観的な事情があり、そのためかかる源泉徴収義務者にこのような制裁を課することはかえって不当又は酷と評されるような場合であって、法定納期限内に完納した者との間の公平を損ねることになっても、なお、その制裁を免除するのが相当である場合をいうのであり、税務職員の説明又は助言がなかったことは、これに該当しない。
 したがって、平成20年調査において指摘がなかったことは、通則法第65条第4項及び第67条第1項の「正当な理由」に該当しない。

ロ 判断
(イ) 法令解釈
 過少申告加算税は、過少申告による納税義務違反の事実があれば、原則としてその違反者に対し課されるものであり、これによって、当初から適法に申告し納税した納税者との間の客観的不公平の実質的な是正を図るとともに、過少申告による納税義務違反の発生を防止し、適正な申告納税の実現を図り、もって納税の実を挙げようとする行政上の措置である。
 また、不納付加算税は、源泉所得税の不納付による納税義務違反の事実があれば、原則としてその違反者に対して課されるものであり、これによって、当初から適正に徴収及び納付をした納税者との間の客観的不公平の実質的な是正を図るとともに、源泉所得税の不納付による納税義務違反の発生を防止し、適正な徴収及び納付の実現を図り、もって納税の実を挙げようとする行政上の措置である。
 そして、上記過少申告加算税及び不納付加算税の趣旨に照らせば、通則法第65条第4項及び通則法第67条第1項ただし書が定めた「正当な理由があると認められる場合」とは、真に納税者の責めに帰することのできない客観的な事情があり、上記のような過少申告加算税及び不納付加算税の趣旨に照らしても、なお、納税者に過少申告加算税及び不納付加算税を賦課することが不当又は酷になる場合をいうものと解するのが相当である。
(ロ) 当てはめ
 上記(4)のロの(ロ)のとおり、平成20年調査において、調査担当職員から、請求人が弁当の販売を行った販売員に支払った金員に関して、仕入税額控除をすることはできず、源泉所得税を納付する必要がある旨の指摘がなかったことが認められるが、そもそも税務調査においては、必ずしも帳簿書類の全てを調査しなければならないものではなく、また、税務調査において上記指摘がないことをもって、請求人による消費税等の申告や源泉所得税の不納付を是認したものということはできないことからすると、消費税等の過少申告又は源泉所得税の不納付が生じたのは、原処分庁の責任によるものではなく、かえって、請求人が、上記(2)のロの(ロ)及び上記(3)のロの(イ)記載の各事実が存在するにもかかわらず、本件各販売員に支払った金員が給与等に該当しないと誤認したことによるものであるといえる。
 そうすると、消費税等の過少申告又は源泉所得税の不納付が生じるに当たって、真に納税者の責めに帰することのできない客観的な事情があったものとはいえないから、通則法第65条第4項及び第67条第1項ただし書に規定する正当な理由があるとは認められない。

(6) 本件各更正処分について

 請求人が前記1の(4)のロのとおり誤って二重に雑給として計上した額は、仕入税額控除の対象にはならず、また、請求人が本件各販売員に支払った金員は、上記(2)のロの(ハ)のF及び上記(3)のロの(ロ)のとおり給与等に該当することから、これも仕入税額控除の対象にはならない。
 そして、請求人が納付すべき消費税等の税額は、別表5の「まる7納付すべき消費税等の合計税額」欄の「審判所認定額」欄のとおり、平成22年4月課税期間が○○○○円、平成23年4月課税期間が○○○○円となる。
 そうすると、請求人の平成22年4月課税期間及び平成23年4月課税期間の消費税等の額は、それぞれ本件各更正処分の額を上回るかこれと同額となるから、これらの範囲内でされた本件各更正処分は適法である。

(7) 本件各過少申告加算税賦課決定処分について

 本件各更正処分は上記(6)のとおり適法であり、また、上記(5)のロの(ロ)のとおり、本件各更正処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が本件各更正処分前の税額の計算の基礎とされなかったことについて、通則法第65条第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、同条第1項並びに地方税法附則(平成23年法律第115号による改正前のものをいう。)第9条の4《譲渡割の賦課徴収の特例等》及び第9条の9《譲渡割に係る延滞税等の計算の特例》第1項の規定により本件各過少申告加算税賦課決定処分は適法である。

(8) 本件各納税告知処分について

 補助者甲に支払った金員は前記1の(4)のイの(ハ)のとおり給与等に該当する上、請求人が本件各販売員A及び本件各販売員Bに支払った金員も上記(2)のロの(ハ)のFのとおり給与等に該当することから、請求人は、補助者甲、本件各販売員A及び本件各販売員Bに金員を支払う際、源泉所得税を徴収し、法定納期限までにこれを国に納付しなければならない。
 そして、請求人が納付すべき本件各源泉徴収期間分の源泉所得税の額は、別表4−1ないし4−5の「審判所認定額」欄の「日額」欄記載の金額に対応する所得税法第185条《賞与以外の給与等に係る徴収税額》第1項第3号の規定する給与所得の源泉徴収税額表の丙欄による金額に別表4−1ないし4−5の「審判所認定額」欄の「日数」欄記載の日数を乗じた金額の合計を算定した結果、別表6の「審判所認定額」欄のとおり、それぞれ○○○○円、○○○○円、○○○○円、○○○○円及び○○○○円となる。
 そうすると、請求人が本件各源泉徴収期間分において納付すべき源泉所得税の額は、いずれも本件各納税告知処分の額を上回ることになるから、これらの範囲内でされた本件各納税告知処分は適法である。

(9) 本件不納付加算税賦課決定処分について

 本件各納税告知処分は上記(8)のとおり適法であり、また、上記(5)のロの(ロ)のとおり、平成22年1月から同年6月までの期間分の源泉所得税が法定納期限までに納付されなかったことについて、通則法第67条第1項ただし書に規定する正当な理由があるとは認められないから、同項の規定により行われた本件不納付加算税賦課決定処分は適法である。

(10) その他

 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所の調査の結果によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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