別紙3

当事者の主張

1 争点1 本件各差押処分は、民法第935条により除斥された債権に基づく違法又は不当な処分であるか否か。

原処分庁 請求人ら
 本件各差押処分は、次の理由から除斥された債権に基づくものではないことから、違法又は不当な処分ではない。  本件各差押処分は、次の理由から除斥された債権に基づくものであることから、違法又は不当な処分である。
1 徴収法第8条の規定により、国税は、原則として、全ての公課その他の債権に優先して徴収するものとされており、通則法第40条《滞納処分》及び徴収法第47条の規定により、自力執行権が認められている。
 相続財産に対しては、民法第927条又は同法第957条《相続債権者及び受遺者に対する弁済》第1項に規定する債権申出期間内であっても通則法基本通達第5条関係21《清算手続と滞納処分》の定めにより、滞納処分をすることができることから、民法において特に滞納処分の制限・除外規定がないため、原処分庁による自力執行権の行使は妨げられない。当該通達は、通則法及び徴収法の趣旨を明確にするためのものであって、債権申出期間後における自力執行権を禁止する趣旨ではない。
1 本件被相続人に係る本件相続について、請求人らの限定承認の申述が受理されているが、本件各差押処分に係る国税債権は、官報公告掲載の翌日から2か月以内に請求の申出を行っていないため、民法第935条の規定に基づき、弁済から除斥されている。
2 国税債権は、民法第935条ただし書が規定する「特別担保」に準ずるものと解されている(東京地裁昭和63年9月14日判決)。
 したがって、たとえ原処分庁が、官報公告掲載の翌日から2か月以内に請求の申出を行わなかったとしても、本件各滞納国税は除斥された債権ではないので、本件各差押処分は除斥された債権に基づく不当なものではない。
2 民法第935条ただし書に規定する「特別担保を有する者」とは、先取特権、質権、抵当権など、いわゆる優先権を有する債権者とほぼ同義語であるとされており、国税債権は含まれない。

2 争点2 本件各差押処分は、民法第932条ただし書の規定に従い、本件相続によって得た本件各不動産の価額弁済がなされた後に行われた違法又は不当な処分であるか否か。

原処分庁 請求人ら
 本件各差押処分は、以下の理由から違法又は不当な処分ではない。  本件各差押処分は、以下の理由から、違法又は不当な処分である。
1 民法第932条ただし書の規定に基づく価額弁済(以下「本件価額弁済」という。)がなされたとしても、本件各不動産は次の理由から相続財産のままである。
 民法第896条《相続の一般的効力》の規定により、相続人は、相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継し、当該規定は限定承認に係る相続においても等しく適用される。そのため、本件被相続人が所有していた本件各不動産は、相続開始時において、相続人である請求人らに包括承継されていることから、本件各不動産は同法第922条《限定承認》に規定する「相続によって得た財産」である。
 そして、本件価額弁済の効果は、相続開始時点まで遡及しないため、請求人Fが本件価額弁済をした時に、本件各不動産に関して請求人Hが本件被相続人から本件相続によって承継した持分(以下「請求人H持分」という。)が本件価額弁済をした請求人Fへ移転するにすぎない。したがって、本件相続によって得た財産は、価額弁済金ではなく、本件各不動産である。
 不動産に関する物権の得喪及び変更の対抗要件は登記であるとされており、徴収実務上も不動産の帰属については登記を参考にして判定する(徴収法基本通達第47条関係20《一般の帰属認定》(3))。
 本件被相続人が所有する本件各不動産の持分は、平成24年5月15日付で、同人から請求人らに対して、相続を原因とする持分移転登記が経由されているが、その後請求人H持分について請求人らは「民法第932条ただし書の価額弁済」を登記原因として請求人Fへの持分移転登記を申請することができるにもかかわらず、当該登記が経由されていない。
 したがって、請求人Hから、請求人Fに対する本件各不動産の本件価額弁済による持分移転と原処分庁による差押えとの優劣は、民法第177条の規定に基づく第三者対抗要件の先後関係で決せられるが、本件各不動産の請求人ら持分は、平成24年10月25日現在、登記記録上いずれも144分の23であり、原処分庁の帰属認定に違法又は不当な点は存在しない。
 また、国税債権は、民法第935条ただし書に規定する「特別担保」に準ずるものと解されているため、限定承認者は、原処分庁に対しては、申出の有無に関わりなく優先弁済しなければならず(同法第929条ただし書)、申出をしなかったため弁済を受けなかった場合には、時期を問わずその権利を行使し、他の債権者に優先して弁済を受けられるものと解されている(新版注釈民法(27)有斐閣569ページ)。
 したがって、本件各不動産は、本件価額弁済に従って、請求人Fが取得していることを理由として、原処分庁に対して、相続債権者の債権の責任財産としての拘束から解放されているということはできない。
1 民法第932条ただし書の規定は、鑑定人の評価した価額を限定承認者が固有財産で支払うことによって、相続財産を取得する権利を認めている。
 そこで、民法第932条ただし書の規定の手続により、当該相続財産は、相続債権者の債権の責任財産ではなくなり、その支払った価額が責任財産として取り扱われることとなる。
 本件各不動産は、平成24年9月11日に限定承認者である請求人Fが鑑定人の鑑定価額と同額の900,000円を本件相続財産管理人に支払っており、この価額弁済により、本件各不動産は責任財産ではなくなっている。
 よって、本件各不動産は、法定の手続に従って、請求人Fが取得しており、既に相続債権者の債権の責任財産としての拘束から解放されている。
 したがって、本件価額弁済の後になされた本件各差押処分は、相続財産ではない本件各不動産に対しなされたものである。
2 請求人らの主張は、請求人らに不服申立てを行う利益が存在する趣旨の主張にすぎず、原処分の違法又は不当を理由付けるものではない。また、先取特権者等の他の「特別担保」を有する者がその権利を行使する場合にもこれらの費用は同様に発生することから、このような場合を法が既に予定しているものとみることができる。 2 滞納処分を進められた場合、請求人Fの支出した相続財産に関する費用(鑑定評価報酬、官報公告掲載料、内容証明郵便代金)は無駄な支出となり、不合理な結果といわざるを得ない。

3 争点3 本件各差押処分は、本件各滞納国税に係る請求人らの法定相続分全額を請求債権とした違法又は不当な処分であるか否か。

原処分庁 請求人ら
 本件各差押処分は、以下の理由から違法又は不当な処分ではない。  本件各差押処分は、以下の理由から、違法又は不当な処分である。
1 原処分庁は、滞納国税が完納にならない限り、限定承認者からの弁済の有無等にかかわらず、国税債権を徴収するために自力執行権を行使することが認められているため、たとえ本件被相続人の滞納国税が相続債務全体の1パーセントにも満たない割合であったとしても、本件各滞納国税を徴収するために行った原処分が、不当な差押えであるということはできない。 1 本件各差押処分は、本件各滞納国税が本件被相続人の相続債務全体の1パーセントにも満たない割合にもかかわらず、本件各滞納国税の法定相続分全額を請求債権としている点で徴収法第47条第1項に違反し、違法又は不当な差押えである。
2 民法第929条ただし書に規定する「優先権を有する債権者」とは、同法第935条ただし書に規定する「特別担保を有する者」とほぼ同義語とされているところ(新版注釈民法(27)有斐閣569ページ)、裁判例において国税債権は民法第935条ただし書に規定する「特別担保」に準ずるものと解されているので、請求人らの主張に理由はない。 2 民法第929条ただし書は、「優先権を有する債権者」を除いては、債権額の割合に応じて配当弁済すべきことを規定している。「優先権を有する債権者」とは相続財産を構成する財産の全部又は一部の上に先取特権、質権、抵当権又は留置権を有する債権者のこと(新版注釈民法(27)有斐閣536ページ)であることから、本件各差押処分に係る国税債権は、同法第929条ただし書の「優先権を有する債権」には該当せず、また、限定承認手続に関する規定中、国税債権に優先権を認める内容の規定も存在しないことから、本件各差押処分に係る国税債権は、弁済から除斥されないとしても配当弁済を受けるにとどまるというべきである。
 したがって、本件各滞納国税の法定相続分全額を請求債権とするのは違法又は不当な差押えである。
3 限定承認手続において、租税債権者の地位等に関する諸規定が存在しないことは、国税債権の優先権が制限されたり、国税債権に基づく自力執行権が禁止されることを意味するものではない。 3 限定承認手続については、破産法第148条《財団債権となる請求権》、同法第151条《財団債権の取扱い》及び同法第152条《破産財団不足の場合の弁済方法等》のように債権の優先順位及び債務の弁済等配当に関する諸規定が存在しないため、債権者平等の原則に従うべきであって、国税債権が優先権を有するとの見解は妥当ではない。

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