(平成26年5月14日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、原処分庁が、審査請求人(以下「請求人」という。)はその所有する不動産を賃貸する等しており、当該不動産賃貸に基因する不動産所得を有する等として、平成21年分の所得税の更正処分及び無申告加算税の賦課決定処分並びに平成22年分及び平成23年分の所得税の各決定処分並びに無申告加算税の各賦課決定処分を行ったことに対し、請求人が、不動産所得の帰属並びに所得金額の計算を誤った等の違法があるとして、その全部の取消しを求めた事案であり、争点は、次の6点である。
争点1 調査手続等に原処分の取消事由となるべき違法があったか否か。
争点2 帳簿書類が差し押さえられているときにされた原処分が違法か否か。
争点3 原処分関係書類の送達があったか否か。
争点4 不動産賃貸に基因する所得が請求人に帰属するか否か。
争点5 不動産所得の金額の算出は、適法にされているか否か。
争点6 国税通則法(平成23年12月法律第114号による改正前のもの。以下「通則法」という。)第66条《無申告加算税》第1項に規定する「正当な理由」があると認められる場合に該当するか否か。

(2) 審査請求に至る経緯

 審査請求(平成25年5月23日請求)に至る経緯は、別表1のとおりである。

(3) 関係法令等

 別紙3のとおりである。

(4) 基礎事実

 以下の事実は、請求人と原処分庁との間に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。
イ 請求人は、d市○○所に勤務する地方公務員であり、平成21年分、平成22年分及び平成23年分(以下「本件各年分」という。)において、別表2の表の区分AないしHの建物(以下、順に「本件A建物」ないし「本件H建物」といい、これらの各建物を併せて「本件各建物」という。また、本件各建物の所在地を順に「本件A建物所在地」ないし「本件H建物所在地」という。なお、同表の記載内容は登記事項証明書等による。)を所有し、本件各建物並びに本件B建物及び本件D建物に係る駐車場等(以下、併せて「本件各不動産」という。)をそれぞれ賃貸等の用に供していた。
 なお、本件A建物及び本件C建物は、請求人及び請求人の夫のP2(d市××所に勤務する地方公務員であり、以下、請求人と併せて「請求人ら」という。)の共有(請求人らの持分は、それぞれ2分の1である。)である。
ロ 請求人の住民票上の住所地は、本件各年分を通じてd市e町○−○(以下、当該住所地を「本件旧住所地」という。)であったが、平成24年2月6日付で、同市○町○−○所在のマンション(以下、「本件マンション」といい、本件マンションの所在地を「本件マンション所在地」という。)が請求人及び請求人らの子であるP3の共有(持分は、各自2分の1ずつである。)で取得され、請求人らは、同年3月29日付で、その住民票上の住所地を本件旧住所地から本件マンション所在地に異動させた。
ハ 請求人の父であるP4は、現在、同人の妻であるP5(以下、P4と併せて「P4ら」という。)と共にh市j町○−○に居住している。
 P4らは、その住民票上の住所地を、平成9年11月12日付でh市j町○番地から同町○番地の○(以下、当該住所地を「本件j住所地」という。)に異動させ、その後、平成12年7月14日に現住所地に異動させているが、これまでに、その住民票上の住所地を本件旧住所地に異動させたことはない。
ニ 請求人は、平成21年分の所得税について、青色の確定申告書以外の申告書(いわゆる白色申告書)をその法定申告期限後である平成22年5月14日に原処分庁に提出し、同年6月10日に、別表1の「修正申告」欄のとおり記載した平成21年分の所得税の修正申告書を原処分庁に提出した。
ホ 請求人は、平成22年分及び平成23年分の所得税の各確定申告書を原処分庁に提出していない。

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2 主張

(1) 争点1 調査手続等に原処分の取消事由となるべき違法があったか否か。

請求人 原処分庁
 以下の事実からすると、調査手続には刑罰法規に抵触する著しい違法があるから、原処分は違法である。
イ 請求人は、捜索・差押の際に、嫌疑事実が請求人に係るものではないにも関らず、また、令状を示されることなく、請求人のカバンの中身を全て出してチェックされたほか、上着を脱ぐように指示され、上着をチェックされた上、請求人の体に触れて全身くまなくチェックされたセクシャルハラスメントに当たる行為を受けた。
ロ P2は、原処分庁所属の酒税の調査担当職員(以下「酒税調査担当職員」という。)2名による調査を受けた際に、酒税調査担当職員の指示を受けて売上金の勘定をしていたところ、倉庫の現況を確認したい旨の依頼を受けて、勘定を中断し売上金の入ったバケツを置いたまま、酒税調査担当職員1名を残して、上記指示をした酒税調査担当職員を倉庫に案内した。P2は、倉庫から戻り、酒税調査担当職員が帰った後、売上金を数えたところ、明らかに千円札が減るなどしており、また、上記以外の調査の際にも現金が紛失しており、これらは酒税調査担当職員による窃盗によるものというほかなく、少なくとも酒税調査担当職員による上記調査は、誤解を招く行為であったというべきである。
ハ P2は、平成23年10月19日、酒税法違反嫌疑事件に係る臨検、捜索及び差押えの各手続の終了の際に、差押目録の受領を拒絶したところ、酒税調査担当職員がその場で無理に受け取らせようとしてP2の右手背を負傷させた。
 酒税調査担当職員が請求人に対しセクシャルハラスメントに当たる行為をした事実はなく、また、請求人は、任意に所持品を提出するなどした。また、酒税調査担当職員が請求人の自宅を訪れた際に売上金を盗んだ事実、P2に対し暴力をふるい負傷させた事実はない。

(2) 争点2 帳簿書類が差し押さえられているときにされた原処分が違法か否か。

請求人 原処分庁
 請求人は、P2に係る酒税の調査の際に書類などの物件(以下「本件差押物件」という。)を差し押さえられ、また、差押えも2年間にもわたったため、確定申告や修正申告をすることができなかった。
 請求人は、差押えが解除されて書類が返還されていれば、確定申告や修正申告することができたにもかかわらず、原処分庁は、差押えを解除することなく平成21年分の所得税の更正処分並びに平成22年分及び平成23年分の所得税の各決定処分をしており違法である。
 平成21年分の所得税の法定申告期限は平成22年3月15日であり、平成22年分の所得税の法定申告期限は平成23年3月15日であるところ、本件差押物件の差押えが行われた時期は、上記各法定申告期限より後の平成23年10月19日であり、請求人の主張は失当である。
 平成23年分の所得税の法定申告期限は、本件差押物件の差押えが行われた時期より後の平成24年3月15日であるところ、P2は、平成23年10月24日及び同年11月16日に本件差押物件の中の書類の一部を閲覧しており、必要に応じて本件差押物件のうち確定申告に必要な書類を閲覧又は謄写して平成23年分の所得税の確定申告を行うことは可能であったから、請求人の主張は失当である。また、原処分庁は、P2に対し、平成23年12月15日から平成24年3月7日にかけて本件差押物件の一部を返却するとともに、平成25年4月3日には未返却の本件差押物件の写しを交付しており、差し押さえされた書類の全部を把握できたにもかかわらず、異議調査において具体的主張立証を行っていないから、差押えが法定申告期限内に申告しなかったことの理由とは考えられない。

(3) 争点3 原処分関係書類の送達があったか否か。

原処分庁 請求人
 原処分庁所属の個人納税者等の課税に係る調査担当職員(以下「個人調査担当職員」という。)は、平成24年12月21日、請求人の住所を訪問したが、請求人らが不在であったため、本件マンションに設置されている集合ポスト(以下「本件ポスト」という。)に別表1の「更正処分等」欄のとおりの更正処分及び各決定処分(以下「本件更正処分等」という。)並びに無申告加算税の各賦課決定処分に係る各通知書を差置きにより送達した。  原処分庁は、他の書類を書留郵便で送っているにも関らず、原処分に係る通知書については差置きによる送達を選択した理由を明らかにすべきであり、また、請求人は、原処分に係る各通知書の送達を受けていないから、原処分は無効ないしは違法である。

(4) 争点4 不動産賃貸に基因する所得が請求人に帰属するか否か。

原処分庁 請求人
 資産から生ずる収益は、資産の真実の権利者に帰属すると解されるところ、本件各不動産の所有者は、請求人であり、請求人が単なる名義人である事情もないから、本件不動産の収益は、請求人に帰属すると認められる。  本件各不動産のうち、本件B建物に係る賃貸は、P4の名義で行われ、その賃料が同人名義の口座に入金されていることから、P4に帰属する。
 x1社からの送金は、P2がx1社から依頼を受けてマンションの集会所の使用のための予約を取り、それをx1社に貸したことによる実費の支払であり、請求人はx1社と賃貸借契約を交わしておらず、賃料も収受していないから、x1社に係る賃料は請求人に帰属しない。
 本件各不動産のうち、本件C建物に係る賃貸料を請求人が取得する代わりに、本件A建物に係る賃貸料をP2に渡す約束をしたので、本件A建物に係る賃貸料は請求人に帰属しない。
 原処分庁が告発した酒税法違反被疑事件についてP2が不起訴処分となったことからも、P4名義の口座へ送金された賃料は、P4に帰属することは明らかである。

(5) 争点5 不動産所得の金額の算出は、適法にされているか否か。

原処分庁 請求人
 原処分庁は、請求人が不動産所得に係る書類を提出しないことから、本件各年分の不動産所得に係る収入金額及び必要経費等を計算して不動産所得の額を適法に計算しており違法はない。  不動産賃料のうちP4名義の口座に入金されている賃料はP4に帰属しているにもかかわらず、本件更正処分等には、本件各年分の不動産所得の額に係る根拠が示されず、計算根拠に関する記載が不足しており、また、証拠も記載されていないことからすると、本件更正処分等は、本件各年分の不動産所得の額を適法に計算していないというべきであり、違法である。

(6) 争点6 通則法第66条第1項に規定する「正当な理由」があると認められる場合に該当するか否か。

請求人 原処分庁
 請求人は、書類の差押えにより期限内申告書を提出することができなかったから、書類の差押えは、無申告加算税が賦課されない「正当な理由があると認められる場合」に当たる。  差押えの時期は平成23年10月19日であり、平成21年分及び平成22年分の所得税の各法定申告期限の後であるから、請求人の平成21年分及び平成22年分の所得税の期限後申告又は無申告に関する「正当な理由があると認められる場合」に係る主張は失当である。
 平成23年分の所得税の法定申告期限は、差押えの時期より後であるが、請求人は、本件差押物件のうち確定申告に必要な書類を閲覧又は謄写することができたから、平成23年分の所得税に係る申告書を提出しなかったことについて「正当な理由があると認められる場合」に当たらない。
 したがって、本件更正処分等は、いずれも「期限内申告書の提出がなかったことについて正当な理由があると認められる場合」に当たらず違法はない。

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3 判断

(1) 争点1 調査手続等に原処分の取消事由となるべき違法があったか否か。

イ 法令解釈
 酒税法上、酒類の販売業等をしようとする者は、販売場ごとに当該販売場の所在地の所轄税務署長の免許を受けなければならない(同法第9条第1項)。また、上記販売業免許を受けないで酒類の販売業をした者は刑事罰の対象となる(同法第56条第1項第1号)。
ロ 認定事実
 原処分関係資料、請求人ら提出資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
(イ) 酒類販売業免許について
A 原処分庁は、平成11年○月○日、P4に対し、本件旧住所地を酒類販売場とし、販売方法を小売に限る旨の販売条件を付した酒類販売業免許(一般酒類小売業免許。以下、「本件先行免許」という。)を付与した。
 本件先行免許に係る申請書には、酒類販売所の名称が「○○(P4らの姓)商店」と記載され、また、当該申請書に添付されている「販売設備状況書」には、本件旧住所地所在の建物のうち50平方メートルを酒類販売店舗等とし(1階部分97.71平方メートルのうち約半分の広さ)、冷蔵ケース及び陳列ケース等の酒類販売に必要な備品を備え付ける旨の記載がされていた。
 当該申請書に係る添付資料は、d市の関係機関で使用される「d市市章」が印字された罫紙を用いて作成されており、当該添付資料の筆跡は、P4の筆跡とは異なるものであった。
 また、本件先行免許に係る通知書は、本件旧住所地に郵送されたが、P2は、当該通知書をP4に手交することなく、自身で所持し続けていた。
B 原処分庁は、平成18年○月○日、P2に対し、d市e町○−○を酒類販売場とし、販売方法を小売に限る旨の販売条件を付した酒類販売業免許(一般酒類小売業免許。以下「本件後続免許」という。)を付与した。
 本件後続免許に係る申請書には、販売場の名称が「x3」と記載されていた。
(ロ) 酒税に係る調査の経過について
A 酒税調査担当職員は、平成22年11月29日午後3時15分頃、酒税法違反(無免許販売)の事実があればこれを是正する目的で、本件旧住所地に係る酒類等販売所(以下「第1x3」という。)に臨場し、酒税法に規定する質問検査権に基づき、P2と面談したが、その際、P2は、自身を「P4」であると名乗り、まる1第1x3の店舗の営業日は、土曜日及び日曜日のみであり、営業時間は不定期である旨、まる2本件後続免許に係る酒類等販売所(以下、「第2x3」といい、第1x3と併せて「各x3」という。)の酒類の自動販売機は、P4名義で設置した旨、及び、まる3開業後間もなく、第1x3の近くにスーパーマーケットが開店したため、販売所での酒類販売ができなくなり、現在、第1x3の販売所は、学習塾に貸している旨等を申述した。
B 酒税調査担当職員は、平成22年12月6日午前9時頃、第1x3に臨場してP2と面談を行った。
 P2は、酒税調査担当職員の質問に対し、まる1P2が第2x3の酒類自動販売機(1台)の売上金を管理している旨、まる2P2が第1x3のたばこ自動販売機(2台)及び酒類自動販売機(2台)の各売上金を回収して保管し、約10日ごとにx4銀行○○支店のP2名義の普通預金口座(以下「本件x4銀行口座」という。)に入金している旨、まる3現金売上げは、金銭出納帳で請求人が管理しているが、詳細は不明である旨、まる4各x3の売上区分は、パソコンで管理しているが、現在パソコンが不調のため出力できない旨、及び、まる5各x3に係る事業は赤字であり、確定申告をしていない旨等を申述した。
 そして、酒税調査担当職員は、P2に対し、現金売上高の手持残高を確認するため、監査を要請したところ、P2は、応接場所である1階の部屋に売上金を保管したバケツを持参して、バケツに投入されていた青色生地の巾着袋から1,000円札を取り出し、酒税調査担当職員の目前で1,000円札が96枚あることを確認した。
 酒税調査担当職員は、当該バケツ内の硬貨の枚数を確認することは省略し、P2に対して当該バケツを元の場所に戻すこと及び在庫酒類の保管場所への案内を依頼する等した。
 その後、P2は、昼を過ぎたので調査の終了を強く要求したため、酒税調査担当職員は、調査の継続が困難と判断し、同日における調査を終了して午後1時15分頃第1x3を辞去した。
C 酒税調査担当職員は、平成22年12月6日午後3時40分頃、同月9日午後零時45分頃及び同月14日午後3時頃にそれぞれP2の携帯電話に連絡し、次回の調査日程の調整を行って、平成23年1月21日午前10時に第1x3のある本件旧住所地に係る建物に臨場して調査を行う旨の約束をしたが、結局、P2からの要請により、平成23年1月28日午前10時に臨場することとなった。
D 酒税調査担当職員は、平成23年1月28日午前10時頃、第1x3に臨場し、P2と面談したが、P2は、前回調査時に売上げに係る現金を勘定した際に1,000円札の数量を2枚分故意に少なく勘定して、実際には現金が77,000円あったところ75,000円である旨酒税調査担当職員に申告したが、調査が終了した後に再度現金を勘定すると75,000円しかなく、2,000円が窃取された旨、及び、P2が納得できる説明がされるまで調査には協力しない旨を申し向けた。
 これに対して、酒税調査担当職員は、酒税法違反(無免許販売)の嫌疑により国税犯則取締法に基づく調査に移行するためP2に調査に協力するよう説得を繰り返したところ、P2は、調査協力に同意した。そこで、酒税調査担当職員は、国税犯則取締法に規定する調査手続に基づき、P2の立会いの下で本件旧住所地に係る建物内の検査を実施し、酒類等の納品書等のほかに本件各不動産に係る賃貸借契約書の入ったリュックサック等を確認したため、当該納品書等及び賃貸借契約書の領置を行いたい等旨依頼したが、P2は、領置に同意せず、さらに、領置に係るてん末書等にも署名押印しなかった。
 そのため、酒税調査担当職員は、その日の調査を終了し、午後6時35分頃第1x3を辞去した。
E P2は、平成23年1月31日付で、同月28日の調査の際に、本件旧住所地に係る建物の2階に置いていたリュックサックから250,000円の現金が窃取された旨記載された文書を原処分庁に送付し、さらに、同年2月20日に、N警察署長に対し、同年1月28日に現金280,000円、たばこ530箱及び500ml入りのビール72本が窃取された旨の被害届を提出した。
 なお、酒税調査担当職員は、上記被害届について、警察から事情聴取を受けておらず、何らの刑事処分も受けていない。
F 酒税調査担当職員は、平成23年3月19日及び同月26日、第1x3に臨場し、P2に対し質問調査及び自動販売機による酒類等の販売に係る事業等に関する書類等の領置を実施しようとしたが、P2は、本件先行免許に係る酒類販売業についてP2が管理することは酒税法違反ではないから調査には応じない旨を申し立て、当該関係書類の領置を拒否した。
G 酒税調査担当職員は、平成23年10月19日午前8時頃、第1x3に臨場し、P2の立会いの下、P2の酒税法違反嫌疑に係る臨検・捜索・差押許可状に基づいて第1x3を含む本件旧住所地に係る建物の臨検及び捜索(以下「本件強制調査」という。)を実施して、まる1酒類の自動販売機、まる2本件旧住所地に係る建物1階倉庫及び当該酒類の自動販売機内部に存する販売用酒類合計992本、まる3本件旧住所地に係る建物の2階に存したx5銀行○○支店のP4名義の普通預金口座(以下「本件口座」という。)に係る使用済み通帳13冊並びにまる4本件旧住所地に係る建物内に設置していたP2使用のパソコン(以下「本件パソコン」という。)内部に保存されていた本件各不動産の賃貸に係る契約書書式原稿等の文書のデータないしその他事件等に関係すると思われる書類等を差し押さえるとともに、「○○(P4らの姓)」名義ほか数種の他人名の印顆が保管されている事実を確認した。
 平成23年10月31日付の収税官吏調査報告書には、同月19日、酒税調査担当職員が請求人に対し、請求人に係る臨検・捜索・差押許可状が交付されている旨及び、できるなら任意で所持品の提出に応じてもらいたい旨を説明したところ、請求人は、酒税調査担当職員の説明に応じ、自ら上着を広げて当該上着に内ポケットがない旨及び所持品等がない旨を申し述べたこと、P2は、本件強制調査開始後、裁判所に出頭する用がある旨申し立てたため、酒税調査担当職員は、やむを得ず、午前11時12分頃から、N警察署所属の司法警察職員2名の立会いの下に本件強制調査を続行したこと、その後、酒税調査担当職員は、臨検、捜索及び差押えを終えた上で、P2に対し差押目録謄本等の文書を交付しようとしたが、P2は、その受領を拒絶し、差し置かれた当該文書を屋外へ投げ捨てる等を行ったこと、そのため、酒税調査担当職員は、やむを得ず当該文書を持ち帰って後日に郵送することとし、午後9時40分頃に立会いの司法警察職員と共に第1x3を辞去したことなどの記載がある。
H P2は、平成23年10月24日午前10時50分頃、M税務署を訪れ、同日付の「抗議及び質問及び請求状」と題する文書(以下「本件請求状」という。)を提出した。本件請求状には、P2が酒類を無許可販売していないにもかかわらず本件強制調査がされたことなどを抗議する旨の記載がされていたが、身体・着衣の捜索ないし暴行に抗議する旨の記載はなかった。
 また、P2は、酒税調査担当職員の上司(以下「本件上司」という。)との面談を求め、本件上司に対して、まる1自動販売機及び書類等の差押えの解除をしてほしい旨、まる2調査の際に現金がなくなった旨及びまる3本件強制調査の際に酒税調査担当職員により作成された各種書類の作成時刻が実際の時刻と異なっている旨等を申し向けた。
 これに対して、本件上司は、P2に対し、酒税調査担当職員を泥棒呼ばわりすることは許さない旨抗議したところ、P2は、現金が無くなったのは酒税調査担当職員が盗んだとは言っていない旨弁解した。
I P2は、平成23年10月26日に、酒税調査担当職員がP2に本件強制調査に係る関係書類を交付する際に酒税調査担当職員から暴行を受け傷害を負ったとして、d市k町所在のQ整形外科を受診し、同月28日付で、右手背尺側の疼痛及び軽度の腫脹があり右手背打撲傷として初診より全治5日間と考える旨記載された診断書(以下「本件診断書」という。)の交付を受けた。本件診断書には、受傷の原因として、同月19日、相手とのトラブルになり右手をつかまれた際シャッターで詰めたなどと記載されていた。
 なお、酒税調査担当職員は、P2の上記の傷害について警察による事情聴取を受けておらず、刑事処分も受けていない。
J P2は、平成23年11月16日午後3時10分頃、M税務署を訪れ、本件差押物件の一部について閲覧を行うとともに、応対した本件上司に対して、まる1本件強制調査において差し押さえた文書を早急に返してほしい旨及びまる2早急に返却できない場合、差押目録の記載内容を変更する等してほしい旨申し入れたが、本件上司は、まる1差し押さえた文書について内容の検討中であり直ちには返却できない旨及びまる2差押目録の記載に不備はないため訂正しない旨回答した。
 その後、P2は、平成23年11月17日付の「通知書兼請求書」と題する文書を内容証明郵便で原処分庁に郵送したが、当該文書には、まる1本件強制調査において酒税調査担当職員の暴行により受傷したことによる治療費及び慰謝料、まる2本件強制調査により差し押さえられた文書が返還されなかったことにより、別件訴訟が敗訴したことに伴い逸失した当該訴訟に係る訴額相当額4,938,000円の補償及び訴訟費用の弁済並びにまる3酒類自動販売機の差押えに伴う損失の補填等をそれぞれ請求する旨が記載されていた。
K 原処分庁は、平成23年12月15日付、平成24年3月6日付及び同月7日付で本件差押物件の一部について解除通知を発送し、P2は、差押えを解除された書類等を受領した。
L 原処分庁は、調査の結果などを踏まえ、国税犯則取締法に基づく通告処分を試み、平成24年3月8日付の通告書及び同年8月22日付の通告書をP2に手交又は書留郵便により受領させようとしたものの、P2が受け取らなかったため、同年12月○日付でd地方検察庁に酒税法第9条第1項違反で告発した。
 d地方検察庁は、平成25年9月○日に、被疑者をP2とする酒税法違反被疑事件について刑事訴訟法第248条に基づく不起訴処分(起訴猶予処分)とした。
(ハ) 個人課税に係る調査について
A P2は、平成23年5月30日、個人調査担当職員による関係書類及び収支明細の提示依頼に対し、請求人の本件B建物に係る賃貸契約書及び重要事項説明書のコピー等を提出したが、その後の個人調査担当職員からの平成22年分以後の賃貸契約書や貸付物件の売買契約書などに係る再三の提出要請に対し、P2はその都度提出する意思を示すものの提出しなかった。
B 個人調査担当職員は、平成24年9月5日午前11時55分頃、請求人の勤務先であるd市○○所に臨場し、請求人と面談して、まる1平成22年分及び平成23年分の所得税の申告書が提出されていない旨及びまる2所得金額を計算するために収入及び経費が分かる資料等が必要となることから、資料等が揃ったら個人調査担当職員まで連絡してほしい旨依頼し、請求人に対して連絡先が記載された連絡せんを手交した。
 その後も、個人調査担当職員は、請求人に対する調査への協力依頼及び調査内容の説明のため、平成24年9月18日から同年12月17日の間に、10回に渡って本件マンションに臨場し、個人調査担当職員まで連絡してほしい旨記載した文書を本件ポストに投かんしたが、請求人から個人調査担当職員への連絡はなかった。
ハ 判断
(イ) セクシャルハラスメント行為等の存否について
 請求人は、平成23年10月19日に請求人の夫であるP2に係る酒税法違反の疑いによる捜索・差押えの際に、嫌疑事実が請求人に係るものではないにもかかわらず、また、令状を示されることなく、請求人のカバンの中身を全てチェックされたほか、上着を脱ぐように指示され、上着をチェックされた上、請求人の体に触れて全身くまなくチェックされたなどと申述し、請求人はセクシャルハラスメントに当たる行為を受けたのであり、そのことが原処分の取消事由に当たる旨主張する。
 しかしながら、かかる行為があったことを示す適切な証拠はない。そして、上記ロの(ロ)のG及びHのとおり、平成23年10月31日付の収税官吏調査報告書には、請求人は、酒税調査担当職員から、請求人に係る臨検・捜索・差押許可状が交付されているが、できるなら任意で所持品の提出に応じてもらいたい旨の説明を受けて、自ら上着を広げて、当該上着に内ポケットがない旨及び所持品等がない旨を申し述べたとの記載がある。
 また、請求人の夫であるP2は、本件強制調査がされた後の平成23年10月24日にM税務署を訪れ、本件強制調査に抗議する内容の本件請求状を提出したが、本件請求状には請求人の主張するセクシャルハラスメント行為には一切触れておらず、さらに、このときP2と面談した本件上司に対しても、セクシャルハラスメント行為があったことに対する抗議を行っていない。これらの事情からすると、請求人が主張するように酒税調査担当職員によるいわゆる「セクシャルハラスメント行為」があったとは認められない。
(ロ) 盗難の存否について
 請求人は、P2が平成22年12月6日の酒税調査の際、1,000円札が77枚あったところ、わざと少なく75枚と勘定したが、調査終了後に勘定しなおすと77枚あるべきところが75枚しかなかったなどと申述し、現金が窃取された著しく違法な調査がされた旨を主張する。
 しかしながら、かかる窃盗があったことを示す証拠はP2の申述等のほかにないところ、上記ロの(ロ)のC及びDのとおり、酒税調査担当職員は、平成22年12月6日の調査終了後、P2と4度に渡り電話による次回の調査日程の調整を行っているにもかかわらず、P2は、酒税調査担当職員に対して現金の盗難について何らの抗議を行っておらず、1月以上も経過した平成23年1月28日の酒税法違反嫌疑に係る調査の際に初めて抗議している。なお、売上げに係る現金は、1,000円札で96枚保管されており、P2が主張する金額及び1,000円札の枚数よりも実際の現金残高及び1,000円札の枚数が多い。また、そもそも、売上げに係る現金は、酒税調査担当職員の立会いの下でP2が1,000円札の枚数を確認しているところ、請求人の申述は、その際にP2が当該1,000円札を2枚少なく勘定しておいたというものであるが、そのようなことをする合理的な理由も認められない。そうすると、請求人が主張するような売上げに係る現金の盗難があったとは認められない。
 なお、請求人は、平成23年1月28日のP2に対する酒税の調査の際に、現金250,000円の盗難があった旨の申述もしている。
 しかしながら、同盗難に関する証拠は、P2の申述のほかない。そして、上記ロの(ロ)のDないしF及びHのとおり、酒税調査担当職員は、P2の立会いの下で本件旧住所地に係る建物内の検査等を行ったものである。また、P2は同日の窃盗について、N警察署長に被害届を提出しているが、同被害届には、現金280,000円のほかにたばこ530箱及び500ml入りのビール72本といった多量の物品が窃取された旨記載されており、当該届出の被害は、請求人の主張内容と齟齬している。加えて、酒税調査担当職員は、平成23年3月19日及び同月26日、第1x3に臨場してP2と面談したが、P2は、このとき酒税調査担当職員に対して何らの現金窃取に係る非難等を行っていない上、平成23年10月24日に本件上司と面談した際、酒税担当職員を泥棒呼ばわりすることは許さない旨の本件上司の発言に対し、現金がなくなったのは酒税調査担当職員が盗んだとは言っていない旨の弁明を行っている。以上のことからすれば、請求人の主張する酒税調査担当職員による現金の窃取の事実があったと認めることはできない。
(ハ) 暴力行為の存否について
 請求人は、本件強制調査の終了の際、酒税調査担当職員がP2に対し無理に差押目録等の文書を受け取らせるようとして暴力行為によりP2を負傷させたとして、初診時から全治5日間の右手背打撲傷(右手背尺側に疼痛及び軽度の腫脹)などと記載のある本件診断書を提出し、調査手続に著しい違法がある旨主張する。
 しかしながら、本件診断書の受傷原因に関する記載は、P2が医師に対して述べたところによるものと推認され、P2が本件診断書記載の負傷をしていたとして、それが酒税調査担当職員の暴力行為の結果であったことに関する証拠は、結局はP2の申述等のほか存しない。そして、上記ロの(ロ)のGないしIのとおり、まる1P2は、本件強制調査がされた後の平成23年10月24日にM税務署を訪れ、本件請求状を提出したが、本件請求状には暴力行為には一切触れておらず、さらに、P2と面談した本件上司に対しても、暴力行為があったことに対する抗議を行っていない。また、まる2本件診断書によれば、P2は、本件強制調査から1週間が経過した平成23年10月26日に初めて病院で受診している。加えて、まる3本件強制調査の際には、差押目録の交付時まで司法警察職員(警察官)が立ち会っていたにもかかわらず、当該司法警察職員による制止ないし当事者双方への事情聴取等がされたといった事実も認められない。以上のことからすれば、請求人が主張するような酒税調査担当職員による暴力行為があったとは認められない。
(ニ) まとめ
 上記(イ)ないし(ハ)のとおり、酒税に係る調査を通じてセクシャルハラスメント行為、現金の盗難及び暴力行為は認められず、ほかに原処分を違法とするような調査手続に係る違法があったと認めることができないから、この点における請求人の主張は採用することができない。

(2) 争点2 帳簿書類が差し押さえられているときにされた原処分が違法か否か。

イ 法令解釈
(イ) 収税官吏が犯則嫌疑者に対し国税犯則取締法に基づく調査を行った場合に、収税官吏は、その所属官署の所在地を管轄する地方裁判所ないし簡易裁判所の裁判官の許可を得て臨検・捜査又は差押えを行うことができ(国税犯則取締法第2条第1項)、当該犯則事件の調査に基づき告発した場合には、当該差押物件又は領置物件を差押目録又は領置目録と共に検察官に引き継ぐこととなる(同法第18条第1項)。
(ロ) 申告納税方式をとる租税においては、課税標準等又は税額等は、第一次的には、納税義務者の提出する納税申告書によって確定するが(通則法第16条第1項第1号)、この納税申告書に記載された税額に過不足がある等その内容が税務署長の調査したところと異なるときは、税務署長は、その調査により、これを更正する(通則法第24条)。また、納税義務者が納税義務を怠り、納税申告書を提出しなかった場合には、税務署長は、その調査により、当該申告書に係る課税標準等及び税額等を決定する(通則法第25条)。
 そして、当該調査の方法、時期等その具体的な手続については、何ら規定されておらず、いつ調査等を開始するか、さらに、どの段階で調査等を打ち切って更正処分ないし決定処分を行うかについて、課税庁には広範な裁量権が認められているものと解される。
ロ 判断
(イ) 上記(1)のロの(ロ)のG、K及びL並びに(ハ)のとおり、平成23年10月頃、請求人の夫であるP2に対する酒税法違反に関する本件強制調査が行われ、関係書類が差し押さえられるなどしたのと並行して、個人調査担当職員による請求人の所得税及び消費税等に係る調査が行われたが、本件強制調査により差押えないし領置された書類の中に請求人の所得税の申告に必要な書類が存した可能性もないとはいえない。これら書類は、その一部は差押えが解除されてP2に返却されたが、その余については差押えないし領置されたままで原処分がされている事実が認められる。
(ロ) 請求人は、原処分庁が確定申告に必要な書類を差し押さえ、早期に差押えを解除して確定申告に必要な書類をP2に返還せず、また、本件差押物件の写しも判読不明であったから、所得税の確定申告や修正申告することができなかったのであり、このような状況で行われた原処分には取り消すべき瑕疵がある旨主張する。
 しかしながら、納税義務者が納税申告書を提出しなかった場合には、税務署長は、その調査により、当該申告書に係る課税標準等及び税額等を決定する(通則法第25条)のである。納税申告に必要な書類について、別件で国税犯則取締法による差押えがされている場合に、決定処分を行ったとしても、そのことをもって直ちに、決定処分を行う時期等について課税庁に認められている広範な裁量権の範囲を逸脱するものではない。
 そうすると、仮に請求人の主張するように、原処分庁が納税申告書の作成に必要な書類をP2に返還して請求人の自主的な申告の用に供さしめることなく、請求人に対する所得税の更正処分ないし決定処分等を行ったとしても、そのことがこれら処分の適法性に影響を及ぼすものではなく、この点に関する請求人の主張は失当である。なお、無申告加算税の賦課決定処分との関係で、通則法第66条の正当な事由があるかについては、争点6において論ずる。
 以上のとおり、この点に関する請求人の主張は採用することができない。

(3) 争点3 原処分関係書類の送達があったか否か。

イ 法令解釈
(イ) 通則法第12条第1項は、国税に関する法律の規定に基づいて税務署長等が発する書類の送達方法について、郵便等による送達と交付送達(差置送達を含む。)を認めているが、両者間に優先順位があるわけでなく、どの方法を選択するかは、税務署長の裁量に任されているというべきである。ところで、同条第5項第2号に定める差置送達も交付送達の一態様であり、同号所定の要件がある場合、すなわち、書類の送達を受けるべき者その他同項第1号に規定する者(書類の送達を受けるべき者の使用人その他の従業者又は同居の者で書類の受領について相当のわきまえのあるもの)が送達すべき場所にいない場合又はこれらの者が正当な理由がなく書類の受領を拒んだ場合には、送達すべき場所において送達すべき者に書類を交付するという方法に代えて、送達すべき場所に書類を差し置く方法による送達が認められている。
(ロ) 通則法第12条第5項第2号の差置送達が認められた趣旨に照らし、送達すべき書類が、社会通念上、了知できると認められる客観的状況に置かれることにより、有効な送達になると解すべきであるから、税務署長が内容証明ないし配達証明などにより相手方が受け取ったことを立証できなければ「差し置く」に該当しないということにはならない。
ロ 認定事実
 原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
(イ) 個人調査担当職員は、平成24年12月21日午後2時35分頃、原処分に係る通知書を送達するため、本件マンションに臨場したが、請求人の居宅の呼び鈴を鳴らしても何ら反応がなかった。
(ロ) 個人調査担当職員は、午後2時47分頃、本件ポストに原処分に係る通知書を投かんし、その投かんの状況を持参したカメラで撮影した。
ハ 判断
(イ) 上記ロのとおり、原処分に係る各通知書は、平成24年12月21日、個人調査担当職員が請求人の自宅マンションに臨場して呼び鈴を鳴らしても応答がなかったため、個人調査担当職員により本件ポストに投かんされて差置送達されたものと認められる。
 上記の送逹は、書類の送達を受けるべき者又はその者の使用人その他の従業者又は同居の者で書類の受領について相当のわきまえのあるものが送達すべき場所にいないか正当な理由がなく書類の受領を拒んだ場合であったものと認めるのが相当であるから、当該書類を本件ポストに投かんし、送達すべき場所に差し置くことにより送達を行ったことは、上記イの(イ)のとおり通則法第12条第5項第2号が規定する要件を満たしており適法である。
(ロ) 請求人は、ほかの書類を書留郵便で送っているにもかかわらず、原処分に係る通知書について差置きによる送達を選択した理由を明らかにしておらず違法である旨や原処分に係る各通知書の送達を受けていない旨主張する。
 しかしながら、上記イで説示したとおり、郵便による送達と交付送達の間に優先順位があるわけではなく、どの方法を選択するかは税務署長の裁量に任せられており、交付送達は、通則法第12条第5項第2号の要件を満たせば差置送達の方法によることができるのであって、その際請求人の主張するように、差置送達を選択した理由を明らかにしなければならないものではない。また、本件に関する経緯等に照らし、交付送達を選択した上、請求人らが不在と判断した後差置送達による送達をしたことが税務署長の裁量に逸脱又は濫用に当たるともいえない。
 また、差置送達は、社会通念上、書類が了知できると認められる客観的状況に置かれたことにより、送達の効果が生じるのであり、相手方が受け取ったことの立証までは要求されない。そして、本件では、個人調査担当職員が本件ポストに当該書類を投かんしたことが認められ、社会通念上、書類が了知できると認められる客観的状況に置かれたものといえるから、送達の効果は発生している。
 したがって、この点に関する請求人の主張は採用することができない。

(4) 争点4 不動産賃貸に基因する所得が請求人に帰属するか否か。

イ 法令解釈
 所得税法第26条第1項は、不動産所得とは、不動産、不動産の上に存する権利、船舶又は航空機の貸付けによる所得をいう旨規定している。
 ところで、所得税法第12条は、資産又は事業から生ずる収益の法律上帰属するとみられる者が単なる名義人であって、その収益を享受せず、その者以外の者がその収益を享受する場合には、その収益は、これを享受する者に帰属するものとする旨規定しているが、所得税法基本通達12−1は、資産から生ずる収益を享受する者が誰であるかは、その収益の基因となる資産の真実の権利者が誰であるかにより判断すべきであるとし、それが明らかでない場合には、その資産の名義人が真実の権利者であるものと推定すると定めており、当審判所においても、当該通達の定める取扱いは相当であると認める。
ロ 認定事実
 請求人提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
(イ) 本件各不動産に係る賃貸借契約について
 原処分庁は、請求人の本件各年分における本件各不動産の賃貸に基因する不動産所得の金額の調査に際し、本件各不動産の賃借人等に対して不動産賃貸借契約の内容を確認するとともに、本件各不動産の賃料が入金されていると認められる預金口座に係る入出金状況を確認する等して、本件各年分における本件各不動産の賃借人名及び本件各不動産に係る本件各年分の不動産所得の金額の計算上総収入金額に算入すべき金額を、別表4−1の「賃借人等」及び「原処分庁主張額」のとおり認定した。なお、不動産の賃貸に係る関係者等の略語については、別紙4のとおりである。
 本件各不動産に係る賃貸借契約書における貸主の名義は、本件A建物及び本件C建物についてはP2名義、「P2 P1(請求人)」名義又は「レンタルスタジオx6 代表P4」名義(ただし、後記ハの(ハ)の本件C建物に係るマンションの共用部分であるカルチャールームに関するもの)、本件B建物については「スタジオx6 代表P4」名義、本件B土地における駐車場については「x3 P4」名義及び本件D建物については請求人名義であった。
(ロ) 本件各不動産に係る賃貸料収入について
 本件各不動産に係る賃料収入は、まる1本件A建物(ただし、平成23年1月31日振込みに係る賃料までのもの。)及び本件C建物に係る賃料については本件x4銀行口座へ、まる2本件B建物及び本件B土地に係る賃料については本件口座へ、まる3本件D建物ないし本件F建物に係る賃料については、x4銀行○○支店の請求人名義の普通預金口座(以下「本件請求人口座」という。)へ、まる4本件G建物に係る賃料については本件請求人口座ないしx5銀行○○支店の請求人名義の普通預金口座(以下「本件請求人x5銀行口座」という。)へ、並びに、まる5本件A建物(ただし、平成23年5月19日振込みに係る賃料からのもの。)に係る賃料についてはx5銀行○○支店のP2名義の普通預金口座へ、それぞれ振り込む方法により入金されていた。
(ハ) 本件各不動産に係る必要経費について
 本件D建物の管理費のほか、不動産の固定資産税及びマンションの管理組合等に支払われるべき管理費等と認められる金額は、本件請求人口座から振替の方法等により支払われていた。
(ニ) 本件口座について
 本件口座(上記(1)のロの(ロ)のGのとおり、本件強制調査の際、本件旧住所地に係る建物の2階から発見されたx5銀行○○支店のP4名義の普通預金口座)は、平成13年2月22日に開設され、預金者の住所を「h市j町○」として届出がされたが、平成14年6月3日にその住所地を本件旧住所地に変更した旨の届出がされた。
 なお、当該住所地変更届に記載された住所及び氏名に係る筆跡は、P2の筆跡に酷似している。
 また、上記(ロ)のとおり、本件口座には、取引先等からの振込入金がされているが、現金入金がされることはほとんどなかった。そして、出金については、本件各年分を通じて、上下水道使用料金及びケーブルテレビに係る料金が引き落とされている以外は、P2の勤務先であるd市××所(所在地・d市k町○丁目)に近いx5銀行m支店(所在地・同市m町○丁目)ないし同行本店営業部(所在地・同町○丁目)の各現金自動預払機から不定期に現金出金がされていた。
(ホ) 本件パソコン内の文書ファイル等
 本件強制調査に際し、本件パソコン内に、以下の各文書ファイル等が保管されている事実が確認された。
A 借主名義の記名がなく、貸主名義を「P4」と記載された不動産の賃貸借契約書の原稿
 なお、当該原稿には、貸主の連絡先としてP2の固定電話ないし携帯電話の各番号が記載入力されていた。
B 本件C建物に係るマンションの共用部分であるカルチャールーム(以下「共用カルチャールーム」という。)に係る契約書
 当該契約書には、表題をx6契約書(絵画教室)、1時間当たりの使用料を1,400円、1回当たりの使用時間を4時間とする旨及び貸主の名義を「レンタルスタジオx6 代表P4」である旨記載されていた。
C 共用カルチャールームの年間開催予定日を確認する旨の業務連絡と題する平成18年12月28日付書面
 当該書面には、連絡先としてP2の携帯電話の番号が記載されていた。
(ヘ) 共用カルチャールームに係る使用状況や利用料の入金口座について
 P2は、本件各年分において、x1社から「スタジオx6 ○○(P4らの姓)」宛への絵画教室の年間の開催予定日時に係る連絡を受けると、x7団地管理組合に対し、責任者をP2、使用目的を絵画教室として共用カルチャールームの利用の申込みをし、コミュニティホール棟使用規定が定める1時間当たり400円の利用料を支払っており、x7団地管理組合は、P2を名宛人とする共用カルチャールームの利用料に係る領収証を発行していた。
 そして、x1社は、P2に対して、共用カルチャールームの利用料として1時間当たり1,400円で計算した金額を本件口座へ振り込む方法により支払っていたが、本件各年分の共用カルチャールームの利用料の合計金額は、平成21年分が246,400円、平成22年分が252,000円及び平成23年分が246,400円であった。
(ト) 請求人の提出資料について
 請求人は、当審判所に対し、本件B建物の賃貸に基因する所得がP4に帰属する証拠である等として、以下のとおりの資料等を提出した。
A 平成26年1月10日付の「陳述書」と表題のある文書(以下「本件陳述書」という。)
 本件陳述書は、作成名義人をP4とするものであり、要旨、まる1本件旧住所地所在の建物の取得に要した費用30,000,000円及び開業準備費用20,000,000円を請求人夫婦から借りた旨、まる2請求人が取得した本件B建物を無償で提供してもらい、本件B建物に係る収益をP4が得ている旨、及び、まる3P2が所有する「e町○−○」(まま)所在の不動産に係る収益についてもP4が得ている旨が各記載され、同人名義の記名、押印がされていた。
 なお、本件陳述書は、P4の住所及び氏名を含めて全ての文字が機械印字されており、さらに、「P4」の文字の右側に押印された「○○(P4らの姓)」の印影は、本件強制調査の際に本件旧住所地所在の建物内で確認されたP2保管の印顆の印影と同一である。
B x1社が平成23年3月11日及び平成24年3月9日に作成した共用カルチャールームの年間使用予定年月日に係る連絡文書、P2名義のx7団地管理組合宛の共用カルチャールームの使用申込書、x7団地管理組合が平成22年3月から平成24年12月にかけて作成した共用カルチャールームの利用料に係る領収証
 上記連絡文書には、宛先として「スタジオx6」又は「スタジオx6 ○○(P4らの姓)」の記載がある。
 また、上記領収証の宛先は、21通のうち6通が「○○(請求人らの姓)」と記載され、残りの15通が「P2」と記載されている。
(チ) P4の申述等について
 P4は、酒税調査担当職員及び個人調査担当職員に以下のとおりの申述し、並びに、当審判所に対して答述を行った。
A P4の申述内容
(A) P4らは、かつて、h市j町○番地に住んでいたが、○○により同市n町の○○住宅に住むこととなった。その後、平成9年11月に新築された本件j住所地に係る居宅(以下「本件j居宅」という。)に入居したが、平成12年6月頃に現住所に移り住んだ。一時期、本件旧住所地への引っ越しを考えたことはあるが、実際に住んだことはなく、一度も行ったことがない。
(B) h市n町の○○住宅に住んでいるときに、請求人らからd市e町に二世帯住宅を建てようといわれ、何か商売をしようと考えた。酒類販売は、請求人らから持ちかけられた話であり、私は具体的に考えていなかったが、結果的に請求人らの考えに従ったものである。
 請求人らから、酒類販売の免許があれば商売をすることができると言われたので、ルール違反にならないようにやればいいと承諾したものである。
(C) 当初、P4は、請求人らの申入れに従って請求人らと同居をし、酒類の販売に係る事業を行うことを考えていた。
 しかしながら、○○後に○○住宅に住んでいたP4らと同世代の人々が、その息子や娘夫婦などと同居したが、若い者たちとうまくいかずに戻ってきた旨の話しを聞き、請求人らからの同居の話がでたときに、あえてd市e町ではなく、平成9年頃に請求人らが購入した本件j居宅に入居した。その後、P2が何度か本件j居宅を訪れるうちに、同人と気が合わないことが分かり、さらに、請求人らと同居すると自分自身の自由もなくなってしまうと考えたことから、請求人に同居を断る旨申し入れた。
 すると、請求人から、本件j居宅を売却するから出ていくように言われ、やむを得ず現住所である市営住宅の申込を行い、当該市営住宅に入居することとなった。
 以上のことから、請求人らと疎遠になり、現住所に移り住むことが決まった平成12年5月の時点で請求人らとの同居を断念し、酒類の販売を行う考えはなくなった。
 なお、請求人らが本件j居宅及び本件旧住所地に係る建物の建設費用等を負担したので、その資金の一部として請求人らに約10,000,000円を渡したが、請求人から毎月家賃代として50,000円をP4名義のx24銀行の口座に振込みしてもらっている。
(D) P4は、現在、何の事業も行っておらず、不動産も所有していない。今住んでいる家以外の物件を借りたこともない。
B P4の答述内容
(A) 私は、不動産賃貸を行っていないし、請求人に代理権の授与も経営の委託もしていない。P4名義で行われている不動産賃貸に係る利益の分配や損失の負担について聞いたことがなく、また、P4名義で行われている不動産賃貸について追認する意思はなく、今後も追認することはない。
(B) 本件口座については全く知らず、本件口座の通帳やキャッシュカードは所持していない。また、本件口座に不動産の賃借人からの家賃の振込みもあるとのことであるが、全く知らないし、請求人らから入出金の明細を知らされたこともない。本件口座からm町近辺で現金出金されていることを知らないし、請求人らから出金について連絡を受けたこともない。
(C) P2と10年以上会っておらず、請求人とは親類の冠婚葬祭時に会う程度で、会った際もP4名義の不動産賃貸について話題になることはなかった。
(D) 当初、請求人らと同居する予定であったので、本件j居宅及び本件旧住所地に係る建物の建築資金の一部として、約10,000,000円の残高のあるx8信用組合のP4名義の定期預金証書と印顆を渡したものの、現在は、請求人から毎月50,000円ずつ家賃援助名目で返済してもらっている。
 これは、私が建築資金として渡した約10,000,000円の返済であり、P2が行っている事業や不動産賃貸業又は請求人の不動産賃貸業の収益分配ではない。
(E) P4らは、文書をワープロ等の機械で作成することができない。
ハ 判断
(イ) 上記1の(4)のイ並びに上記ロの(イ)及び(ロ)のとおり、請求人は、本件各不動産のうち本件A建物及び本件C建物をP2と持分2分の1ずつで共有しているほかは本件各不動産のうちのその余の不動産を単独で所有している。
 本件各不動産のうち、本件B建物については「スタジオx6 代表P4」名義、及び、本件B土地における駐車場については「x3 P4」名義で賃貸されているが、これについて、P4は、上記ロの(チ)のとおり、自分は本件各不動産の賃貸業に関与していない、本件旧建物の所在地に住んだこともないなどと申述ないし答述するところ、同人の申述ないし答述は、上記(1)のロの(ロ)のG及び上記ロの(ホ)のAのとおり、P2が本件パソコンにおいて、貸主をP4名義とする不動産の賃貸借契約書の原稿のデータを保管していたことや、後記まる2及びまる3の賃料の管理状況、上記1の(4)のハのとおりP4が一度も住民票を本件旧住所地に異動させたことがないことなどとも整合し、大筋において信用できる。
 そして、上記ロの(チ)のP4の申述等に、上記1の(4)のイ並びに上記ロの(イ)ないし(ニ)及び(ホ)のAの各事実を併せると、まる1請求人は、本件各不動産のうち本件A建物及び本件C建物をP2と持分2分の1ずつで共有しているほかは本件各不動産のうちのその余の不動産を単独で所有し、登記に係る所有名義もその所有の実態に即していること、まる2本件各不動産のうち、P2と共有する本件A建物及び本件C建物に関する賃料がP2名義の本件x4銀行口座に振り込まれ、本件B建物及び本件B土地に係る賃料がP4名義の本件口座に振り込まれているほか、その余の各不動産の各賃借人は、請求人の管理する本件請求人口座及び本件請求人x5銀行口座に本件各不動産に係る賃借料を振り込む方法で支払っていること、まる3P2は、本件口座に係る使用済み通帳を所持しており、本件口座からの出金について同人の勤務先周辺の現金預払機から行われ、本件口座に係る住所地は平成14年6月の時点で本件旧住所地に変更されていたことなどから、本件口座は同人が自己の管理下に置き、本件口座をP4名義の借名口座として使用していたものとみることができること、まる4本件D建物の管理費のほか、不動産に係る固定資産税や管理費などの経費と認められる金額を本件請求人口座から振替により支払っていること、まる5P4は、同人名義で賃貸借契約が締結されている事情を知らず、請求人らから本件各不動産の賃貸に係る収支又は損益に係る説明を受けていないこと、まる6結局、P4は、請求人から本件各不動産の賃貸に基因する所得の分配を受けたことがなく本件各不動産の賃貸業に何ら関係していないことが認められるのである。
 以上のことから、請求人が本件各不動産(ただし、本件A建物及び本件C建物については、その2分の1)を実体的に所有するとともに、本件各年分において、現に、「P4」名義ないし「スタジオx6 代表P4」等の名義で賃貸借契約がされたものを含めてその利得を支配管理し、自己のためにそれを享受していると優に認めることができるから、本件各年分の本件各不動産の賃貸に基因する所得は、請求人に帰属すると認めるのが相当である。
(ロ) 請求人の主張について
A 請求人は、本件B建物及び本件B土地に係る不動産所得がP4に帰属する旨主張し、当該主張に沿う内容が記載された賃貸借契約書等及び本件陳述書を提出する。
 しかしながら、上記(イ)で認定説示したとおり、本件各不動産の賃貸に基因する所得は、請求人に帰属するのであって、本件各不動産の賃貸借契約の一部についてP4名義が使用されていたとしても、それは請求人においてP4の名義を借用したにすぎないとみるべきであるから、賃貸人をP4名義とする賃貸借契約書の存在をもって上記結論を左右しない。
 また、上記ロの(チ)のBの(E)のとおり、P4らは、文書をワープロ等の機械で作成することができないが、本件陳述書は、P4の住所及び氏名を含めて全ての文字が機械打ちされている。さらに、本件陳述書に押印されている「○○(P4らの姓)」名義の印影は、P2の所持していた印顆によるものである可能性も存する。そして、本件陳述書に記載されている内容は、信用することができるP4の申述及び答述内容と反するものであることからすれば、本件陳述書がP4の記憶ないし意思に沿うものであると認めることができず、その信用性は低いものであるといわざるを得ない。
 以上のことからすれば、この点に関する請求人の主張は採用することができない。
B 請求人は、P2との間で、本件A建物に係る賃貸料を請求人が取得する代わりに、本件C建物に係る賃貸料をP2に渡す約束をしたことから、本件C建物に係る賃貸料について請求人に帰属しない旨主張する。
 しかしながら、そもそも請求人主張の約束を認めるに足りる適切な証拠はないし、上記1の(4)のイのとおり、本件C建物は請求人らの共有(持分は、それぞれ2分の1)であり、これらの部分の賃貸に基因する不動産所得については、請求人及びP2に帰属するものとみるべきであって、この点に関する請求人の主張は採用することができない。
C 請求人は、酒税法違反被疑事件についてP2が不起訴処分となったことから、本件口座に送金された賃料がP4に帰属することは明らかである旨主張する。
 しかしながら、上記イで認定説示したとおり、本件口座は、単にP4の名義の借名口座であって、本件各不動産に係る所得は、請求人に帰属していることに加え、酒税法違反被疑事件についてP2が不起訴処分になったことは、本件B建物及び本件B土地の賃貸借に係る所得の帰属の判断を左右するものではないことからすれば、この点に関する請求人の主張は採用することができない。
(ハ) 共用カルチャールームに係る所得の帰属について
 原処分庁は、共用カルチャールームに係る収益に基因する所得を不動産所得であり、本件C建物の請求人とP2との各持分に応じ、当該不動産所得の2分の1が請求人に帰属する旨主張する。
 しかしながら、上記ロの(ホ)のB及びC、(ヘ)並びに(ト)のBのとおり、共用カルチャールームは、請求人らが占有する物件ではないこと、P2は、x7団地管理組合に責任者を同人として共用カルチャールームの使用申込をして、x1社に使用させていること、x7団地管理組合が発行する利用料に係る領収証の宛先は、P2であること、及び、共用カルチャールームの年間使用予定日を確認する書面には、連絡先としてP2の携帯電話の電話番号の記載があることなどからすると、P2は、x1社に共用カルチャールームを又貸しすることにより、共用カルチャールームに係る使用料をx1社から得ており、x1社からの共用カルチャールームの賃貸に基因する収益は、P2のみがこれを享受していると認められる。
 そして、共用カルチャールームは、x7団地管理組合が管理している物件であり、共用カルチャールームに係る使用料についてx7団地管理組合が行う業務の対価としての性質を有するものと解されることからすれば、共用カルチャールームの賃貸に係る収益は、P2のみが享受する雑所得に当たるものと解される。

(5) 争点5 不動産所得の金額の算出は、適法にされているか否か。

イ 不動産所得の総収入金額について
(イ) 法令解釈
 所得税法第36条第1項は、その年分の不動産所得の金額の計算上総収入金額に算入すべき金額は、別段の定めのあるものを除き、その年において収入すべき金額とする旨規定しており、ここでいう「その年において収入すべき金額」とは、その年において収入すべきことが確定した金額によるべきことを示しているものと解されるところ、所得税基本通達36−5において、不動産所得の総収入金額は、別段の定めのある場合を除き、契約等により支払日等が定められているものについては、その支払日に収入すべきものとされており、当審判所においても、上記通達の定める契約内容に基づく取扱いは相当であると認める。
 さらに、所得税基本通達36−7において、不動産等の貸付けをしたことに伴い敷金、保証金等の名目により収受する金銭等の額のうち、当初から、あるいは一定期間の経過後その全部又は一部の金額が賃貸人に帰属することが契約書などの上で取り決められているものは、当然にその全部又は一部の金額が不動産所得の収入金額となり、その収入金額の帰属時期は返還を要しないことが確定した都度、その確定した金額を確定した日の属する年分の収入金額として計上すべきものとするなどとされているが、このことは、その賃貸人に帰属することとなった部分の金員は賃貸人においてこれを自己の所有として自由に処分することができる趣旨の金員として授受されたもの、すなわち、一種の権利の確定の対価として返還されない確定収入となることから、当該返還しない部分の金員の収入金額計上の時期についてはその返還しないことが確定した日の属する年分であることを確認的に定めたものと解され、当審判所においても、上記通達の定める取扱いは相当なものと認める。
(ロ) 認定事実
 原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
A x9社との不動産賃貸契約の変更等について
 x9社は、平成19年8月17日に、賃貸人を請求人ら、賃借人をx9社とし、月額賃料を145,000円及び保証金(敷金)を500,000円とする条件で本件A建物に係る不動産賃貸借契約を締結していたところ、請求人らは、x9社に対し、x9社の関係者である入居者が請求人らに無断で犬を飼育していた旨を申し立てたことにより、x9社と請求人らとの間で、平成22年11月24日付で、まる1賃料を平成20年8月分から160,000円に変更すること、まる2平成22年12月分の賃料は、160,000円とすること、まる3平成20年8月分から平成22年11月分までの差額賃料の合計420,000円を平成22年12月末までに支払うこと、まる4契約変更手数料として平成22年12月分賃料とは別に160,000円を支払うこと、まる5保証金を300,000円追加すること、及び、まる6退去の際に請求人らが指定する業者によるハウスクリーニングの見積代金を返礼する保証金から差し引くことの合意を行い、当該合意に係る「合意書」と題する文書を作成した。
 その後、上記の本件A建物に係る賃貸借契約は、平成23年2月に終了したが、P2は、同年6月、x9社に対し、x10社作成のハウスクリーニング代金を466,476円とする見積書を添付した敷金精算書を送付すると共に、当該見積書に係るハウスクリーニング代とは別に、台所周辺などの修繕費用として合計207,732円が必要であるとして、同年12月26日に、保証金800,000円からハウスクリーニング代金相当額466,476円及び工事代金相当額207,732円を差し引いた残額である125,792円をx11銀行d支店のP2名義の普通預金口座(以下「本件x11銀行口座」という。)からx9社が使用する銀行の預金口座に振り込む方法により返金した。
B x12社との不動産賃貸契約の変更等について
 x12社は、平成16年3月30日付で、賃貸人を請求人ら、賃借人をx12社とし、その使用目的を学習塾、月額賃料を170,000円、賃料の支払時期を翌月分について当月末日まで、保証金を1,500,000円及び契約終了時に保証金のうち750,000円を返金する旨の条件で本件C建物のうちの一部(延床面積145.56平方メートルのうち41.79平方メートル)に係る不動産賃貸借契約を締結していたところ、月額賃料につき、平成20年12月分より250,000円と、平成21年12月分より260,000円と、さらに、平成22年12月分より270,000円とする旨の契約内容の改定に合意した。
 そして、x12社は、請求人らとの間で、平成23年11月27日付で、まる1本件C建物のうちの残りの部分を含めて本件C建物一体として賃貸借すること、及び、まる2月額賃料を平成23年12月1日から280,000円、平成24年12月1日から290,000円に変更すること及び保証金を2,000,000円に変更し、契約終了時に返金する保証金の金額を1,000,000円に変更することの合意を行った。
(ハ) 判断
 本件について、上記(イ)に基づいて、上記(4)の認定・判断及び上記(ロ)の各事実を踏まえ、請求人の本件各年分の不動産所得の金額の計算上総収入金額に算入すべき金額を審理した結果は、別表4−1の「審判所認定額」のとおりである。
 このうち、争点に関して上記のとおり認定・判断した理由は、以下のとおりである。
 なお、原処分庁は、請求人の本件各年分の不動産所得に係る総収入金額にx1社からの収入金額を加算して計算しているが、上記(4)のハの(ハ)のとおり、x1社に対する賃貸料に基因する所得は、その全部がP2の雑所得であるから、請求人の本件各年分の不動産所得の総収入金額の計算上、平成21年分123,200円、平成22年分126,000円及び平成23年分123,200円をそれぞれ減算すべきである。
A 平成21年分
 原処分庁は、請求人の平成21年分の不動産所得の金額の計算上総収入金額に算入すべき金額について、別表4−1の「まる3総収入金額」の「合計」欄のとおり○○○○円と認定しているところ、当審判所の調査の結果によれば、同表の「まる6総収入金額」の「合計」欄のとおり○○○○円と認められる。
(A) 原処分庁は、P6に係る賃料収入について100,000円と、P7に係る賃料収入について90,000円とそれぞれ認定しているが、P6及びP7に係る平成21年中の本件口座への入金状況等からすれば、P6により平成21年中に本件口座に振り込まれた金額の合計額は79,000円と、P7により平成21年中に本件口座に振り込まれた金額の合計額は100,000円であると認められ、請求人は、当該各賃料を受領していたと推認でき、これを覆すに足りる証拠はないから、当該各金額を請求人の平成21年分の不動産所得の金額の計算上総収入金額に算入すべきである。
(B) 原処分庁は、x12社に係る賃料収入について1,505,000円と認定しているが、上記(ロ)のBのとおり、本件C建物に係る月額賃料は平成21年11月末日支払期限である同年12月分より250,000円から260,000円に増額改定されており、同年中にx12社が請求人らに支払うべき賃料は、合計で3,020,000円となる。
 そうすると、本件C建物に係る請求人の持分が2分の1であることを考慮すれば、x12社に係る賃料収入は1,510,000円と認められ、当該金額を請求人の平成21年分の不動産所得の金額の計算上総収入金額に算入すべきである。
B 平成22年分
 原処分庁は、請求人の平成22年分の不動産所得の金額の計算上総収入金額に算入すべき金額について、別表4−1の「まる3総収入金額」の「合計」欄のとおり○○○○円と認定しているところ、当審判所の調査の結果によれば、同表の「まる6総収入金額」の「合計」欄のとおり○○○○円と認められる。
(A) 原処分庁は、x9社に係る賃料収入について1,080,000円と認定しているが、上記(ロ)のAのとおり、同年11月24日付で、x9社が請求人らに支払う賃料は、これまでの月額145,000円が同年12月から160,000円に増額され、さらに、平成20年8月分から平成22年11月分までの差額賃料420,000円及び契約変更手数料160,000円の支払が確定したと認められる。
 そうすると、請求人がx9社に賃貸している本件A建物に係る請求人の持分が2分の1であることを考慮すれば、請求人の平成22年分のx9社に係る賃料収入は1,087,500円及び礼金敷金等に係る収入は80,000円の合計1,167,500円と認められ、当該金額を請求人の平成22年分の不動産所得の金額の計算上総収入金額に算入すべきである。
(B) 原処分庁は、P6に係る賃料収入について120,000円と認定しているが、P6に係る平成22年中の本件口座への入金状況等からすれば、P6により平成22年中に本件口座に振り込まれた金額の合計額は132,000円であると認められ、請求人は、当該賃料を受領していたと推認でき、これを覆すに足りる証拠はないから、当該金額を請求人の平成22年分の不動産所得の金額の計算上総収入金額に算入すべきである。
(C) 原処分庁は、x12社に係る賃料収入について1,565,000円と認定しているが、上記(ロ)のBのとおり、本件C建物に係る月額賃料は平成22年11月末日支払期限である同年12月分より260,000円から270,000円に増額改定されており、同年中にx12社が請求人らに支払うべき賃料は、合計で3,140,000円となる。
 そうすると、本件C建物に係る請求人の持分が2分の1であることを考慮すれば、x12社に係る賃料収入は1,570,000円と認められ、当該金額を請求人の平成22年分の不動産所得の金額の計算上総収入金額に算入すべきである。
C 平成23年分
 原処分庁は、請求人の平成23年分の不動産所得の金額の計算上総収入金額に算入すべき金額について、別表4−1の「まる3総収入金額」の「合計」欄のとおり○○○○円と認定しているところ、当審判所の調査の結果によれば、同表の「まる6総収入金額」の「合計」欄のとおり○○○○円と認められる。
(A) 上記(ロ)のAのとおり、x9社が本件A建物を賃借するに際して請求人らに差し入れた保証金800,000円については、平成23年2月にx9社と請求人らとの賃貸借契約が終了した後、同年12月26日にハウスクリーニング代金相当額466,476円及び工事代金相当額207,732円の合計674,208円を差し引かれた残金相当額である125,792円のみがx9社に返還されたのであり、このことは、同日に、当該未返還相当額である674,208円について返還を要しないことが確定したものであると解される。
 そうすると、当該金額に本件A建物に係る請求人の共有持分の2分の1を乗じた金額337,104円を請求人の平成23年分の不動産所得の金額計算上収入金額に算入すべきである。
(B) 原処分庁は、P8に係る賃料収入について40,000円と、P9に係る賃料収入について70,000円とそれぞれ認定しているが、P8により平成23年中に本件口座に振り込まれた金額の合計額は30,000円と、P9により同年中に本件口座に振り込まれた金額の合計額は60,000円と認められ、請求人は、当該各賃料収入を受領していたと推認でき、これを覆すに足りる証拠はないから、当該各金額を請求人の平成23年分の不動産所得の金額の計算上総収入金額に算入すべきである。
(C) 原処分庁は、x12社に係る賃料収入について1,625,000円と認定しているが、上記(ロ)のBのとおり、本件C建物に係る月額賃料は平成23年11月末日支払期限である同年12月分より270,000円から280,000円に増額改定されており、同年中にx12社が請求人らに支払うべき賃料は、合計で3,260,000円となる。
 また、平成23年11月27日付で保証金を2,000,000円に変更したことにより、これまでの保証金と比べ返還を要しない部分の金額が250,000円増加したことが認められる。
 そうすると、本件C建物に係る請求人の持分が2分の1であることを考慮すれば、請求人の平成23年分のx12社に係る収入金額は、賃料収入1,630,000円及び礼金、敷金等に係る収入125,000円の合計1,755,000円となるから、当該金額を請求人の平成23年分の不動産所得の金額の計算上総収入金額に算入すべきである。
ロ 不動産所得の必要経費について
 当審判所が、不動産所得に係る必要経費について審理した結果によれば、本件各年分の不動産所得に係る必要経費の額は別表3の各「審判所認定額」欄のとおりである。
 このうち、争点に関して上記のとおり認定、判断した理由は以下のとおりである。
(イ) 法令解釈
A 所得税法第37条第1項は、その年分の不動産所得の金額の計算上必要経費に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、不動産所得の総収入金額を得るために直接要した費用の額及びその年における販売費、一般管理費その他不動産所得を生ずべき業務について生じた費用の額とする旨規定しているところ、ここでいう費用とは、当該所得を生ずべき業務の遂行上必要な諸費用全般であると解される。
B また、具体的な支出が必要経費に該当するか否かが争われている場合の立証責任については、所得の存在について課税庁に主張立証責任がある以上、原則として課税庁において収入のみならず経費についても、課税庁の主張額以上に経費が存在しないことを立証すべき責任があると解すべきではあるが、納税者が更正等の原処分時に存在しない、あるいは提出されなかった資料等に基づき、当該支出が必要経費に該当すると主張するときは、当該証拠との距離から見ても納税者において経費該当性を合理的に推認させるに足りる程度の具体的な立証を行わない限り、当該支出が必要経費に該当しないとの事実上の推定が働くものと解するのが相当である。
(ロ) 管理費について
A 認定事実
 原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、本件D建物に係る管理費の額は、平成21年分が398,000円及び平成22年分が342,000円であり、本件E建物に係る管理費の額は、平成21年分が78,000円であることが認められ、る。
B 判断
 原処分庁は、請求人の本件各年分の不動産所得の必要経費に算入されるべきマンション等の管理費の額について、別表4−2の「原処分庁主張額」の各「合計」欄のとおり認定しているが、上記Aのとおり、本件D建物に係る管理費の額が平成21年分で398,000円及び平成22年分で342,000円であり、また、本件E建物に係る管理費の額が平成21年分で78,000円であるから、請求人の本件各年分の不動産所得に係る管理費の額は、「審判所認定額」の各「合計」欄のとおりである。
(ハ) 修繕費について
 請求人は、本件審査請求後、当審判所に対し、請求人の本件各年分の不動産所得の必要経費に算入されるべき修繕費に係る証拠資料であるとして、以下のとおりの資料等を提出するので、上記(イ)の法令解釈に基づき、当審判所の調査の結果を踏まえて判断したところは、以下のとおりである。
A 請求人の提出資料等
(A) 請求人は、当審判所に対して、宛先がP2、請求者がx13名義、日付が平成23年5月28日、工事場所が本件A建物所在地、工事内容が内装工事及び請求金額が207,732円の請求書(別表4−3の順号「9」)を提出した。
 なお、P2は、x13に対して同年5月30日に207,732円を本件x11銀行口座から振り込む方法により支払った。
(B) 請求人は、当審判所に対して、まる1宛先がx14社 P10名義、作成者がx15社名義、日付が平成22年12月20日、工事場所が本件A建物、工事内容が外壁工事等及び工事代金が2,465,400円とする見積書(別表4−3の順号「3」)、まる2宛先が「○○(請求人らの姓)」名義、作成者がx16社名義、日付が平成23年5月13日、工事場所が本件A建物、工事内容が外装工事及び工事代金が494,235円とする見積書(同「8」)、まる3宛先が請求人、作成者がx13名義、日付が平成23年8月19日、工事内容がフェンス柱補修工事及び工事代金が39,900円とする見積書(同「10」)、並びに、まる4宛先が「○○(請求人らの姓)」名義、作成者がx10社名義、見積り有効期限が2011年(平成23年)7月20日、工事内容が美装工事及び工事代金が466,476円とする見積書(同「11」。以下、上記同「3」、同「8」及び同「10」と併せて「各見積書」という。)をそれぞれ提出し、各見積書については本件A建物に係るリフォーム費用、補修費ないし庭のクリーニングに係る経費である旨回答した。
B 取引先の答述
 請求人の取引先の各担当者は、当審判所に対して以下のとおり答述を行うところ、各担当者は、原処分に関し請求人と利害関係がなく、その答述内容には格別不自然な点は認められず、明瞭かつ合理的であって信用することができるから、以下のとおりの事実が認められる。
(A) x16社は、x13の名称で内装工事を行っている。x13作成の内装工事代金を207,732円とする請求書は、本件A建物の内装工事に係るものであり、当該工事は施工され、平成23年5月30日に支払を受けた。
 一方、上記Aの(B)のまる2の平成23年5月13日付のx16社作成の見積書及びまる3の同年8月19日付のx13作成の見積書は、いずれも工事が施工されていない。
(B) x15社は、上記Aの(B)のまる1の平成22年12月20日付の見積書をx14社のP10氏からの依頼により作成したが、当該見積書記載の工事について施工しなかった。
 また、x10社は、上記Aの(B)のまる4の見積り有効期日を2011年(平成23年)7月20日とする見積書を作成したが、当該見積書記載の工事について施工しなかった。
C 判断
(A) 上記Aの(A)及びBの(A)のとおり、P2は、x13に対し、本件A建物の内装工事に係る工事費として同年5月30日に207,732円を支払っていることが認められるから、x13に対する支払金額に請求人の本件A建物に係る持分2分の1を乗じて計算した金額103,866円は、平成23年分の請求人の不動産所得の金額計算上必要経費に算入すべきである。
(B) 請求人は、各見積書が本件各年分の不動産所得の必要経費に係る証拠である旨主張する。
 しかしながら、各見積書に係る支出が必要経費に該当する旨の主張がされたのは本件審査請求後であることからすると、上記(イ)のBのとおり、納税者である請求人において経費該当性を合理的に推認させるに足りる程度の具体的な立証を行わない限り、当該支出が経費に該当しないとの事実上の推定が働くものであるところ、上記Aの(B)及びBのとおり、本件伝票及び各見積書に記載された工事については、いずれも施工されることがなく、当該工事に係る債務ないし支出それ自体が存在しない。
 そうすると、本件伝票及び各見積書は、請求人の不動産所得の金額の計算に何らの関係を持たないから、これに反する請求人の主張は採用することができない。
D 小括
 請求人の不動産所得に係る修繕費については、平成23年分について、外壁塗装工事代金などのうち合計103,866円を支払ったと認められるから、本件各年分の修繕費の額は、別表3の「審判所認定額」の各「修繕費」欄記載のとおりである。
(ニ) その他の経費について
 請求人は、本件審査請求後、当審判所に対し、請求人の本件各年分の不動産所得の必要経費に算入されるべき支出に係る証拠資料であるとして、以下のとおりの資料等を提出したので、上記(イ)の法令解釈に基づき、当審判所の調査の結果を踏まえて判断したところは、以下のとおりである。
A 不動産購入の際に支払われた仲介手数料並びに管理費、固定資産税及び都市計画税に係る精算金に係る領収証
(A) 事実認定
 請求人は、当審判所に対して、まる1宛先が請求人、受領者がx17社名義の本件E建物の売却に係る仲介手数料として受領した旨の記載のある領収証(別表4−3の順号「2」)、まる2宛先が請求人、受領者がx18社及びx19○○店名義の本件G建物及び本件H建物に係る各売買契約に基づく仲介手数料として受領した旨の記載のある各領収証(同「12」ないし「14」)、まる3不動産の売買契約に基因して当該不動産の前所有者又は不動産管理会社等に対して支払った管理費、固定資産税及び都市計画税に係る精算書等(同「15」ないし「17」)をそれぞれ提出し、本件各年分の不動産所得の必要経費である旨回答した。
(B) 判断
 不動産の売却の際に支払った仲介手数料は、当該不動産に係る譲渡所得の金額を計算する際に控除されるべきものであって(所得税法第33条第3項)、不動産所得の必要経費とは認められない。
 また、不動産購入の際に支払った仲介手数料は、当該不動産の取得費又は取得価額に算入されるものであり(所得税法施行令第126条第1項第1号)、また、売買当事者の合意に基づき管理費、固定資産税及び都市計画税の未経過分を買主が分担する場合の分担金又は精算金については、管理費や地方公共団体に対して納付すべき固定資産税や都市計画税そのものではなく、売買当事者の間で行う利益調整のための金銭の授受であって、当該不動産の取得費又は取得価額の一部を構成するものであって(同号)、いずれも不動産所得の必要経費とは認められない。
 以上のことからすれば、この点に関する請求人の主張は採用することができない。
B 不動産を賃貸する際に支払われた仲介手数料等の領収証及び修繕保証契約料
(A) 請求人の提出資料等
a 請求人は、当審判所に対し、宛先がP2、受領者がx16社、日付が平成23年4月19日、領収の趣旨が「e町一戸建貸家の広告料」、領収金額が147,000円の領収証(別表4−3の順号「7」)を提出した。
b 請求人は、当審判所に対し、宛先が請求人、対象住宅が本件各不動産、保証開始日が2011年(平成23年)7月1日及び管理会社がx16社の「リビングワランティ保証書」と題する各文書(別表4−3の順号「6」)をそれぞれ提出した。
c P2は、x16社に対し、「リビングワランティ保証書」と題する文書に基因する修理保証料(以下「本件修理保証料」という。)を平成23年中に本件x11銀行口座から支払っているところ、請求人らの共有による本件A建物及び本件C建物に係る本件修理保証料の合計額は11,640円であり、また、請求人所有の建物に係る本件修理保証料の合計額は23,280円であった。
(B) 関係者の答述
 これらについて、信用できるx16社の担当者の答述によれば、以下の事実が認められる。
a x16社発行の領収証は、広告料と記載されている場合もあるが、その実体については賃貸借契約に係る仲介手数料に近いものであり、平成23年4月19日付領収証は、本件A建物に係るものである。
b 請求人らは、平成23年中にx20社と住宅設備機器の修理保証契約を締結しており、請求人から仲介会社であるx16社の口座に振り込んでもらっている。
(C) 判断
a 上記(A)のa及び(B)のaとおり、P2は、x16社に対し、本件A建物についての賃貸借のための広告料又は手数料として147,000円を支払っていることが認められるから、P2の支払金額147,000円に請求人の本件A建物に係る持分2分の1を乗じて計算した金額73,500円は、平成23年分の請求人の不動産所得の金額の計算上必要経費に算入すべきである。
b 上記(A)のb及びc並びに(B)のbのとおり、P2は、x16社を通じてx20社に対し、平成23年分の本件各不動産に係る本件修理保証料を本件A建物及び本件C建物について11,640円並びにその他の請求人所有の建物について23,280円をそれぞれ支払っていることが認められるから、本件A建物及び本件C建物に係る本件修理保証料の合計額11,640円に請求人の本件A建物及び本件C建物に係る持分2分の1を乗じて計算した金額5,820円とその他の請求人所有の建物に係る本件修理保証料23,280円との合計金額29,100円は、平成23年分の請求人の不動産所得の金額の計算上必要経費に算入すべきである。
C その他の領収証
(A) 請求人の提出資料等
 上記A及びBのほかに、請求人は、当審判所に対し、宛先が「○○(請求人らの姓)」名義、受領者がx21管理組合、日付が平成21年4月25日、受領の趣旨が5月分駐車場使用料金である旨記載された領収証(別表4−3の順号「1」)及び宛先が不明の交通機関の利用控(同「4」、「5」、「18」及び「19」。以下、x21発行の領収証と併せて「その他領収証等」という。)を提出し、いずれも本件各年分の不動産所得の必要経費に該当する支出に係る証拠資料である旨回答した。
(B) 判断
 請求人は、その他領収証等に係る支出が本件各年分の不動産所得に係る必要経費に該当する旨主張する。
 しかしながら、その他領収証等に係る支出が必要経費に該当する旨の主張がされたのは本件審査請求後であることからすると、上記(イ)のBのとおり、納税者である請求人において経費該当性を合理的に推認させるに足りる程度の具体的立証を行わない限り、当該支出が経費に該当しないとの事実上の推定が働くものであるところ、その他領収証等は、宛先が「○○(請求人らの姓)」名義ないし宛先不明であり、それらについては請求人がその他領収証等に係る支出をしたことさえ明らかでない。
 また、仮に、請求人がその他領収証等に係る支出をしていたとしても、その他領収証等に係る支出の用途は、駐車場代及び交通費であると認められるところ、請求人は、これらの支出が請求人の本件各年分の不動産所得に係る業務の遂行上必要なものであることを明らかにする資料を提示せず、また、当審判所の調査によっても、これを合理的に明らかにするに足りる証拠は確認できない。
 そうすると、その他領収証等に係る支出は、請求人の本件各年分の不動産所得に係る必要経費であると認めることはできず、これに反する請求人の主張は採用することができない。
D 小括
 上記Bの(C)のとおり、請求人は、平成23年分の不動産所得に係る必要経費に算入すべきその他の経費を合計102,600円支払ったと認められ、ほかに必要経費に算入すべき金額があると認められる証拠はないから、本件各年分のその他の経費の額は、別表3の「審判所認定額」の各「上記以外の必要経費」欄記載のとおりである。
(ホ) 請求人の主張について
 請求人は、原処分には、本件各年分の事業所得及び不動産所得の金額に係る計算根拠が示されず計算根拠記載が不足しており、証拠も記載されていないことから、原処分は違法であるなど主張する。
 しかしながら、通則法第74条の2第1項は、国税に関する法律に基づき行われる処分については、行政処分に係る一般規定である行政手続法第2章及び第3章の規定は適用しない旨規定しているところ、原処分は、通則法第2章《国税の納付義務の確定》第2節《申告納税方式による国税に係る税額等の確定手続》第3款《更正又は決定》の規定に基づき行われる処分であるから、行政手続法第3章に定められている同法第14条《不利益処分の理由の開示》等の規定は適用されない。
 また、所得税法第155条第2項は、居住者の提出した青色申告に係る年分の総所得金額等の更正をする場合には、更正通知書にその更正の理由を附記しなければならない旨規定しているが、いわゆる白色申告書による申告の場合には、これに相当する規定はない。
 これらの規定によると、原処分庁は、いわゆる白色申告書を提出した請求人に対する更正処分及び決定処分について、それに係る通知書に理由を附記する法的義務はないと解されるから、この点に関する請求人の主張は採用することができない。

(6) 争点6 通則法第66条第1項に規定する「正当な理由」があると認められる場合に該当するか否か。

イ 法令解釈
 通則法第66条第1項は、所得税等申告納税方式(通則法第16条第1項)に係る国税について、まる1通則法第25条の規定による決定があった場合又はまる2期限後申告書の提出等があった後に更正があった場合には、当該納税者に対し、当該更正又は決定に基づき、通則法第35条第2項の規定により納付すべき税額に100分の15の割合を乗じて計算した金額に相当する無申告加算税を課する旨規定している。このような無申告加算税の制度が設けられた趣旨について検討すると、所得税等のように申告納税方式により納付すべき税額が確定するものとされている国税については、納税義務者によって法定申告期限内に適正な申告が自主的にされることが納税義務の適正かつ円滑な履行に資し、税務行政の公正な運営を図る上での大前提となるのであり、納税申告書を法定申告期限内に提出することは、正に申告納税方式による国税の納税手続の根幹を成す納税義務者の重要な行為であるといわなければならない。通則法は、このような納税申告書の期限内提出の重要性に鑑み、当初から適正に法定申告期限までに申告した者とこれを怠った者との間に生じる客観的不公平の実質的な是正を図るとともに、無申告ないし期限後申告に係る過少申告による納税義務違反の発生を防止し、適正な納税義務の実現を図り、もって納税の実を挙げるために、納付すべき税額の確定のための納税申告書の期限内提出という納税義務者に課された税法上の義務の不履行に対する一種の行政上の制裁として、決定処分ないし期限後申告書の提出後の更正処分があった場合には、「正当な理由」があると認められる場合を除いて、一律に無申告加算税を課すこととしているものと解するのが相当である。
 そして、このような無申告加算税の趣旨に照らせば、決定処分ないし期限後申告書の提出後の更正処分があっても例外的に無申告加算税が課されない場合として通則法第66条第1項ただし書に規定する「正当な理由」があると認められる場合とは、真に納税者の責めに帰することのできない客観的な事情があり、上記のような無申告加算税の趣旨に照らしてもなお納税者に無申告加算税を賦課することが不当又は酷になる場合をいうものと解するのが相当である。
ロ 判断
 請求人は、原処分庁による長期にわたる帳簿書類の差押えは、無申告加算税が賦課されない正当な理由に該当する旨主張する。
 しかしながら、上記(1)のロの(ロ)のG及び(ハ)、(2)のロ並びに上記イのとおり、当該書類等はP2に対する差押許可状に基づいて差し押さえされており差押手続に違法な点は認められない。そして、書類が差し押さえられた平成23年10月19日は、平成21年分及び平成22年分の所得税の確定申告の各法定申告期限を経過した後の日付であるから、これらの年分について請求人が期限内申告書を提出しなかったことが、当該差押えの結果であるとはいえない。
 また、平成23年分の所得税の確定申告の法定申告期限は平成24年3月15日であり、このとき本件差押物件は差押中であるが、当審判所の調査によれば、P2が平成23年10月24日及び同年11月26日、本件差押物件の一部について閲覧を申請しており、同申請をしたものについては閲覧を許されていることが認められる。そうすると、請求人が期限内に申告すべく申告に必要な書類について自ら、又は夫であるP2を通じるなどして閲覧等を求めたとして、これが認められなかったということはできない。そもそも、P2は、個人調査担当職員に対し、不動産の賃貸に基因する所得についてP4に帰属し、かつ、それぞれ赤字である旨を申し立てていたのであり、請求人についても所得税の確定申告や修正申告を行う意思を有していなかったものと認められることなどからすれば、原処分庁による帳簿書類の差押えにより所得税の確定申告や修正申告ができなかった旨の請求人の主張は採用できない。
 その他、請求人が、本件各年分の所得税の期限内申告書等を提出しなかったことついて、真に請求人の責めに帰すことのできない客観的な事情があるとは認められず、無申告加算税の趣旨に照らしてもなお請求人に無申告加算税を賦課することが不当又は酷になる場合に該当するものとは認められない。
 したがって、通則法第66条第1項ただし書に規定する「正当な理由」があると認められる場合に該当せず、請求人の主張は採用することができない。

(7) 本件更正処分等について

 上記(5)のイの(ハ)、ロの(ロ)のB、(ハ)のD及び(ニ)のD並びに当審判所の調査の結果によれば、請求人の本件各年分の不動産所得の金額を計算した結果は、別表3の「審判所認定額」の各「不動産所得の金額」欄のとおり、平成21年分が○○○○円、平成22年分が○○○○円及び平成23年分が○○○○円となり、平成23年分は原処分の金額を上回るから同年分の決定処分は適法であるが、平成21年分及び平成22年分は原処分の金額を下回るから、平成21年分の所得税の更正処分及び平成22年分の所得税の決定処分は、いずれもその一部を別紙1及び別紙2のとおり取り消すべきである。

(8) 無申告加算税の賦課決定処分について

 上記(7)のとおり、平成21年分の所得税の更正処分及び平成22年分の所得税の決定処分は、いずれもその一部を取り消すべきであるから、それに伴って、その無申告加算税の計算の基礎となる金額は、別紙1及び別紙2の「取消額計算書」の「加重分の無申告加算税がある場合の無申告加算税の税額の計算書」の「変更決定後の賦課決定額」の各「無申告加算税の額」欄のとおり、平成21年分が○○○○円及び平成22年分が○○○○円となる。
 そうすると、平成21年分の所得税に係る無申告加算税の金額については、原処分の金額を下回るので、平成21年分の所得税に係る無申告加算税の賦課決定処分は、別紙1のとおり、その一部を取り消すべきである。
 また、平成22年分の所得税に係る無申告加算税の金額は、原処分の金額と同額になるため、適法である。
 さらに、平成23年分の所得税の決定処分は適法であり、期限内申告書の提出がなかったことについて、通則法第66条第1項ただし書に規定する正当な理由がある場合に該当しないので、平成23年分の所得税に係る無申告加算税の賦課決定処分は適法である。

(9) 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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