(平成26年5月13日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が役員及び従業員に対して支給した食事について、原処分庁が、当該食事は所得税基本通達36−38《食事の評価》(2)の「使用者が購入して支給する食事」として評価すべきであり、食事の支給による給与所得に係る経済的利益があるとして、源泉徴収に係る所得税の納税告知処分及び不納付加算税の賦課決定処分を行ったのに対し、請求人が、当該食事は同通達(1)の「使用者が調理して支給する食事」として評価すべきであり、経済的利益はないとして、その全部の取消しを求めた事案である。

(2) 審査請求に至る経緯

イ 原処分庁は、平成24年12月21日付で、別表1の「原処分」欄の「納税告知処分」及び「賦課決定処分」欄記載のとおり、源泉徴収に係る所得税(以下「源泉所得税」という。)の各納税告知処分及び不納付加算税の各賦課決定処分をした。
ロ 請求人は、これらの処分を不服として平成25年2月20日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、同年4月19日付で別表1の「異議決定」欄記載のとおり、原処分の一部を取り消す異議決定をした(以下、異議決定を経た後の源泉所得税の各納税告知処分を「本件各納税告知処分」といい、不納付加算税の各賦課決定処分を「本件各賦課決定処分」という。)。
 なお、異議決定書の謄本は、平成25年4月23日に請求人に送達された。
ハ 請求人は、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成25年5月21日に審査請求をした。

(3) 関係法令等の要旨

 別紙2のとおりである。

(4) 基礎事実

 以下の事実は、請求人と原処分庁との間に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。
イ 請求人は、○○の製造、加工及び販売等を目的として設立された法人であり、f市g町○−○に所在する工場(以下「本件工場」という。)を有している。
ロ 請求人は、本件工場に勤務する役員及び従業員(以下「本件従業員等」という。)に支給する給与及び賞与(以下「給与等」という。)の支払事務を本件工場において行っており、当該給与等に係る源泉所得税の納税地は、本件工場の所在地であった。
ハ 請求人は、平成9年12月25日、E社(以下「本件受託業者」という。)との間で、本件工場の給食業務に関する委託契約(以下「本件委託契約」という。)を締結した。
 本件委託契約の要旨は、以下のとおりである。
(イ) 請求人は、本件工場の給食業務を本件受託業者に委託する。
(ロ) 本件受託業者は、主食及び副食材料(以下「本件材料」という。)の調達費用(以下「本件材料費」という。)を負担する。
(ハ) 請求人は、本件受託業者に対し、厨房設備を併設する食堂を無償で貸与し、当該食堂における水道光熱費等の間接費を負担する。
ニ 請求人は、平成15年2月に、本件受託業者との間で、給食業務委託料の額(以下「本件委託料」という。)及びメニューごとの材料費の額に関する覚書を、その後、平成20年10月に、平成15年2月の覚書に係る当該メニューごとの材料費の額を改定する旨の覚書をそれぞれ取り交わした。
ホ 本件従業員等は、各自が所持するカードを食券販売機に読み込ませて食券を購入し、食事の提供を受けていた(以下、本件従業員等が提供を受けた食事を「本件食事」という。)。
ヘ 請求人は、本件従業員等が購入した食券について、食券販売機に蓄積された食券購入履歴データを基に、月初から月末までの食券代金を各人別に集計し、当該集計の対象とした月(以下「本件各集計対象月」という。)の翌月に、当該食券代金を本件従業員等に支払う給料から差し引いていた(以下、請求人が各月において各人別に集計した食券代金の合計額を「本件各集計金額」という。)。
ト 請求人は、本件受託業者に対し、本件各集計対象月の翌月に、本件各集計金額を報告していた。
チ 本件受託業者は、上記トの報告を受けた翌月の初めに、「品名・摘要」欄に「御食事代」、「金額」欄に本件各集計金額を記載した請求書(以下「本件各請求書」という。)及び本件各集計対象月に調達したマヨネーズやドレッシング等の副食材料の費用(以下「本件副食費」という。)に係る請求書を作成し、請求人に送付していた。
リ 本件受託業者は、上記チに掲げる請求書とは別に、本件受託業者が給食業務に係る役務提供を行った翌月の初めに、本件委託料に係る請求書を作成し、請求人に送付していた。
ヌ 請求人は、本件受託業者に対し、本件各集計金額及び本件副食費を本件受託業者に報告した月の月末に、また、本件委託料を本件受託業者が給食業務に係る役務提供を行った翌月の月末に、それぞれ支払っていた。

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2 争点

 本件食事は、所得税基本通達36−38(以下「本件通達」という。)に定める「使用者が調理して支給する食事」又は「使用者が購入して支給する食事」のいずれにより評価すべきか。

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3 主張

(1) 原処分庁

イ 本件委託契約では、本件材料費を本件受託業者が負担する旨定めている。
 また、本件材料の調達は本件受託業者の判断で行われており、請求人は、その明細や在庫状況について関知せず、帳簿にも計上していなかった。
ロ 本件各請求書に記載された金額は、本件食事の各単価に食数を乗じて計算した金額であり、本件各請求書の「品名・摘要」欄に「御食事代」と記載されていたことなどからしても、本件食事の代金であって、本件材料費の金額ではない。
ハ 以上により、請求人は、本件受託業者に調理のみを委託したのではなく、本件受託業者が自らの判断で本件材料を調達・管理し、それらを調理加工後、本件従業員等に対し本件食事を支給することを一括で委託していたものと認められるから、本件食事は、請求人が調理して支給する食事ではなく、本件受託業者が販売する食事と認められる。
 したがって、本件食事は「使用者が購入して支給する食事」として評価すべきである。

(2) 請求人

イ 本件委託契約における、本件材料費を本件受託業者が負担する旨の定めは、本来、請求人が負担すべき本件材料費を、本件受託業者が一旦請求人の代わりに、本件材料を仕入れた業者に支払うことを明記したものである。
 なお、請求人は、従業員を構成員とし、本件受託業者がオブザーバーとして参加する給食委員会において、調達すべき本件材料の内容及びメニューごとの材料費の額を討議しており、本件受託業者は、覚書で設定されたメニューごとの材料費の額に基づき本件材料を調達することとなっていたため、請求人は、本件材料費の明細を把握する必要がなかった。
 また、請求人は、本件受託業者に本件材料の調達及び管理と、本件食事の調理を区分して委託しており、実際に、本件受託業者が作成する請求書は、本件各請求書及び本件副食費に係る請求書と、本件委託料に係る請求書に分けられていた。
 そして、本件材料費の明細及び金額は、全て本件受託業者が整然と記録及び保存していたのであるから、請求人は自ら本件材料の調達及び管理を行い、本件受託業者に対し、本件食事の調理のみを委託していたというべきである。
ロ 本件受託業者が保存していた本件材料費の明細の合計額と、請求人が本件受託業者に対して支払った金額は、別表2記載のとおり、ほぼ同額であることから、請求人は、本件従業員等から本件材料費相当額を徴収し、本件受託業者に支払っていたということができる。
 また、平成11年頃、本件各請求書の「品名・摘要」欄は、「御食事代」ではなく「材料費」と記載されていたことからしても、本件各請求書における請求金額は、本件材料費相当額である。
 したがって、本件食事は「使用者が調理して支給する食事」として評価すべきである。

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4 判断

(1) 法令解釈等

 所得税法第36条第1項は、各種所得の金額の計算上収入金額とすべき金額には、経済的利益等の額を含む旨規定しており、給与所得者が使用人たる地位に基づいて、経済的利益等を受ける場合には、これら経済的利益等の額についても、給与所得の収入金額に含まれることになるところ、この経済的利益等は、一般に「現物給与」といわれている。
 ところで、現物給与については、金銭に比べ選択性が乏しく、換金性が低いあるいは換金性がないものも多く、使用人等の福利厚生としての性質を有するものであるところ、所得税基本通達36−38の2は、使用者が使用人等に支給する食事について、一定の条件に該当する場合には、食事の支給による経済的利益はないものとして取り扱う旨定めており、食事の支給による現物給与が福利厚生的な性質を有すること、そして、その経済的利益が少額である場合にはあえて課税しないこととしても弊害がないことを考慮すると、この通達の取扱いは、当審判所においても相当と認められる。
 そして、本件通達は、「使用者が調理して支給する食事」については、「その食事の材料等に要する直接費の額に相当する金額」をもって評価する一方、「使用者が購入して支給する食事」については、「その食事の購入価額に相当する金額」をもって評価する旨定めているところ、この趣旨は、経済的利益の価額はその支給時の価額(時価)により評価するのが原則であるから、使用者が自己の食堂施設等において調理して支給する食事についても、材料等に要する直接費だけでなく水道光熱費や人件費等の間接費を含めて評価すべきであるが、これは実際には極めて困難であるため、材料等の仕入れの記録と在庫管理によって比較的容易に計算できるように、その食事の材料等に要する直接費相当額により評価することとし、飲食店等から取り寄せて支給する食事については、その購入価額が時価そのものであるから、購入価額により評価する趣旨であると考えられ、調理して支給された食事の評価の困難性及び源泉徴収義務者における実務上の配慮から、調理して支給した場合と購入して支給した場合とに区分して評価方法を設けたものであり、合理性を有するものとして当審判所においても相当と認められる。

(2) 認定事実

 請求人提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の各事実が認められる。
イ 本件受託業者は、本件材料の内訳及びその金額を自ら記録・保存していたものの、平成22年10月までは請求人に対し、当該内訳及びその金額を明らかにしていなかった。
ロ 請求人は、本件材料の在庫について、請求人の帳簿書類に記載していなかった。
ハ 覚書に記載されたメニューごとの材料費の額は、本件受託業者が本件材料の調達を行う際の目安の額として設定されたものであり、かつ、本件従業員等が購入する食券代金と同額であった。
ニ 請求人は、本件各集計金額について、請求人の帳簿書類に「預り金食堂資金」という勘定科目(負債)で経理し、これを本件受託業者への支払の際に、減額する経理処理をしていた。

(3) 当てはめ

 本件は、本件食事が本件通達に定める「使用者が調理して支給する食事」又は「使用者が購入して支給する食事」のいずれにより評価すべきかに争いがあり、「使用者が調理して支給する食事」に該当するとした場合には、所得税基本通達36−38の2の本文に定める経済的利益がないものとする場合に該当することとなるので、上記のいずれにより評価すべきかについて、以下審理する。
イ 請求人は、本件食事を自ら調理していたものではなく、上記1(4)ハのとおり、本件受託業者に本件食事の調理を委託していたものであるところ、請求人が本件食事の調理に係る材料費、厨房設備費及び水道光熱費等の一切を負担し、調理に係る人的役務のみを外部の業者に委託していた場合には、調理人等が自社の従業員であるか給食業者の従業員であるかの違いしかないことから、このような場合の食事は、使用者が調理して支給する食事と同様に評価するのが相当である。
ロ これを本件についてみると、請求人は、上記1(4)ハ(ハ)のとおり、請求人の食堂を本件受託業者に無償で使用させ、水道光熱費等の間接費を負担しているものの、上記1(4)ハ(ロ)のとおり、本件材料費は本件受託業者が負担することとされており、現に、上記(2)イ及びロのとおり、請求人は本件材料の内訳及び金額を一切関知せず、本件材料の在庫を帳簿書類に記録することもなかったのであるから、請求人が本件材料を本件受託業者に提供し本件食事の調理のみを委託していたとみることはできない。
 また、本件受託業者が作成した請求書は、本件各請求書、本件副食費に係る請求書及び本件委託料に係る請求書に区分されてはいるものの、本件各請求書に記載された金額は、上記1(4)ト及びチのとおり、本件各集計金額、すなわち、請求人が本件従業員等から徴収した食券代金を集計し本件受託業者に報告した金額であり、当該金額は、上記1(4)ニ及び上記(2)ハのとおり、覚書によりあらかじめメニューごとの材料費の額として定められ、本件受託業者が本件材料の調達を行う際の目安として設定された額に基づくものであるから、当該金額及び本件副食費の合計額は、本件材料費の額そのものとはいえず、請求人が本件材料費を負担していたとみることもできない。
ハ さらに、請求人は、上記1(4)へのとおり、本件従業員等が購入した食券代金を本件従業員等の給料から差し引いた上、その金額を上記(2)ニのとおり、請求人の帳簿書類に預り金勘定として経理しており、その後、当該金額を本件受託業者に支払う際、預り金勘定から減額する経理処理をしていたのであるから、これらの事実関係からすれば、請求人は、本件受託業者が本件従業員等から受領すべき食事代金を、本件受託業者に代わって徴収し、これを本件受託業者に支払っていたものと認められること、そして、上記1(4)ヌのとおり、請求人が本件受託業者に対して毎月一定の本件委託料及び本件副食費を支払っていたことを併せ考えると、請求人は、本件受託業者が提供する本件食事を本件従業員等が安い料金で購入できるようにするため、本件委託料及び本件副食費を本件受託業者に支払っていたとみるのが相当である。
ニ 以上のことを総合すると、本件受託業者は、本件食事の調理を有償で行っていただけではなく、自己の計算に基づき本件材料の調達及び管理を行っていたものと認められるから、本件食事を「使用者が調理して支給する食事」として評価することは相当ではない。他方で、請求人は、本件従業員等が本件食事を本件受託業者から比較的安価で購入できるようにするために、本件受託業者に対し食堂設備を無償で貸与するとともに、水道光熱費等の費用を負担し、さらに、本件委託料及び本件副食費を本件受託業者に支払っていた、すなわち、請求人は、本件従業員等が本件食事を本件受託業者から低額で購入できるよう、その購入対価の一部を補助していたものとみるのが相当である。これを本件受託業者からみた場合、本件各集計金額、本件委託料及び本件副食費の合計額をもって本件食事を本件従業員等に販売していたものとみるのが相当であるから、本件食事は「使用者が購入して支給する食事」と同様に、当該合計額により購入したものと評価することが相当である。
ホ この点に関して請求人は、請求人が本件材料費の明細を把握する必要がなく、本件材料の調達及び管理を委託していた本件受託業者が、本件材料費の明細等の記録などをしていたのであるから、請求人自ら本件材料の調達及び管理を行い、本件受託業者に調理のみを委託していた旨、また、請求人が本件受託業者に対して支払った額は、本件材料費に相当する額であるから、本件食事は「使用者が調理して支給する食事」として評価すべきである旨主張する。
 しかしながら、請求人が本件受託業者に調理のみを委託していたとみることはできず、また、本件材料費を負担していたとみることもできないのは上記ロのとおりであり、請求人の主張はいずれも理由がない。

(4) 本件各納税告知処分について

 本件食事は、上記(3)のとおり、「使用者が購入して支給する食事」と同様に評価するのが相当であると認められる。したがって、本件食事の金額(本件各集計金額、本件委託料及び本件副食費の合計額)と本件各集計金額との差額は、請求人が本件従業員等に対し経済的利益を供与したということになるところ、所得税基本通達36−38の2の定めにより経済的利益はないものとする場合に該当するか否かを判断した上で、本件食事を購入した本件従業員等ごとに当該経済的利益の額を算出し、これを本件従業員等ごとの課税済みの給与等の金額に加算して本来の源泉徴収税額及び差引不足税額を算出すべきである。しかしながら、原処分庁における税額の算出過程において、本件従業員等ごとに加算する経済的利益の額の計算などに誤りがあると認められることから、当審判所において、納付すべき源泉所得税の額を再計算すると、別表3−1ないし別表3−3の「源泉所得税の額」欄の「D審判所認定額」及び「E差引」欄記載のとおりとなる。
 その結果、請求人が納付すべき源泉所得税の額は、別表4の「源泉所得税の額」欄の「D審判所認定額」欄記載のとおりとなるところ、平成20年1月から平成20年12月まで、平成21年3月、平成21年4月、平成21年6月、平成21年7月、平成21年9月から平成21年11月まで、平成22年2月、平成22年3月、平成22年6月及び平成22年9月の各月分の源泉所得税の額は、いずれも当該各月分の各納税告知処分の額を上回るから適法であるが、平成21年1月、平成21年2月、平成21年5月、平成21年8月、平成21年12月、平成22年1月、平成22年4月、平成22年5月、平成22年7月、平成22年8月及び平成22年10月の各月分の源泉所得税の額は、当該各月分の各納税告知処分の額を下回るから、いずれもその一部を別紙1「取消額等計算書」のとおり取り消すべきである。

(5) 本件各賦課決定処分について

 本件食事の経済的利益の額に係る納付すべき源泉所得税を法定納期限までに納付しなかったことについて、請求人には国税通則法第67条第1項ただし書に規定する正当な理由があるとは認められないことから、同項の規定により不納付加算税の額を計算すると、別表4の「不納付加算税の額」欄の「G審判所認定額」欄記載のとおりとなる。
 その結果、平成20年1月から平成20年8月まで、平成20年10月から平成20年12月まで、平成21年3月、平成21年4月、平成21年6月、平成21年7月、平成21年10月、平成21年11月、平成22年1月から平成22年3月まで、平成22年6月、平成22年7月、平成22年9月及び平成22年10月の各月分の不納付加算税の額は、いずれも当該各月分の各賦課決定処分の額と同額であるか、又はその額を上回るから適法であるが、平成21年1月、平成21年2月、平成21年5月、平成21年8月、平成21年12月、平成22年4月、平成22年5月及び平成22年8月の各月分の不納付加算税の額は、当該各月分の各賦課決定処分の額を下回るから、いずれもその一部を別紙1「取消額等計算書」のとおり取り消すべきである。

(6) その他

 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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