(平成26年10月28日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、原処分庁が、審査請求人(以下「請求人」という。)の「お客様返金伝票」と題する伝票つづりは印紙税法に規定する課税文書である「判取帳」に当たるとして、印紙税の過怠税の各賦課決定処分を行ったのに対し、請求人が、当該伝票つづりは「判取帳」に当たらないとして、その全部の取消しを求めた事案である。

(2) 審査請求に至る経緯

イ 原処分庁は、平成25年7月5日付で、請求人が保管していた270冊の「お客様返金伝票」と題する各伝票つづりが、それぞれ印紙税法の別表第一の課税物件表(以下「課税物件表」という。)の第20号の課税文書である「判取帳」に当たるとして、別表1記載のとおり印紙税の過怠税の各賦課決定処分(以下「本件各賦課決定処分」という。)を行った。
ロ 請求人は、本件各賦課決定処分を不服として、平成25年8月29日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、同年10月28日付で棄却の異議決定をした。
ハ 請求人は、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成25年11月25日に審査請求をした。

(3) 関係法令等の要旨

 別紙のとおりである。

(4) 基礎事実

 以下の事実は、請求人と原処分庁との間に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。

イ 請求人の事業等
(イ) 請求人は、昭和47年10月○日、a市b町○−○を本店所在地とし、製材・木材の販売及び加工等を目的として設立された法人である。
(ロ) 請求人は、L社との間のフランチャイズ契約に基づき、M社d店、M社e店及びM社f店において、○○等の販売を行っている。
ロ 伝票の作成等
(イ) 請求人は、上記イ(ロ)の各店舗において、顧客から商品の返品若しくは交換又は売価が異なるなどの申出を受けた際、その処理のために、表紙に「お客様返金伝票」と印字された伝票つづり(以下「本件伝票つづり」という。)を使用して記録を取り、返金又は商品の交換等に応じていた。
(ロ) 本件伝票つづりの形態及び様式は、以下のとおりであった。
A 本件伝票つづりは、冊子形態のものであり、「お客様返金伝票(売場控)」、「お客様返金伝票(事務所控)」及び「お客様返金伝票(商品貼付用)」の3枚一組複写式の伝票が、1冊に100組つづられている。
 そして、一組の伝票のうち、「お客様返金伝票(事務所控)」及び「お客様返金伝票(商品貼付用)」は、切り取り線に沿って本件伝票つづりから切り取ることができるようになっており、「お客様返金伝票(売場控)」には切り取り線がない。
 なお、一組の「お客様返金伝票(売場控)」、「お客様返金伝票(事務所控)」及び「お客様返金伝票(商品貼付用)」には、それぞれ枠外右上に同一の伝票番号が印字されており、本件伝票つづりにつづられた各組の伝票番号は連番となっている。
B 「お客様返金伝票(売場控)」には、枠外右上に受付年月日を記載する箇所があるとともに、伝票番号が印字されているほか、枠内に「お買上日」、「品名」、「金額」、「品番」、「JAN」、「返品理由」、「お買上げレシート(有・無)」、「不良箇所」、「ご返金受領サイン」、「ご住所」、「TEL」及び「受付」の各欄が設けられている。
C 「返品理由」欄には、「1.不良品(キズ・部品不足)」「2.売価違い(売価違い・二重登録)」「3.その他(不要・サイズ違い・色・柄)」と印字されており、対象の番号に○印を記載する形式になっている。
(ハ) 請求人は、別表2及び3記載のとおり、平成21年12月から平成24年11月までの間、本件伝票つづりを使用し、その後、記入済みとなった「お客様返金伝票(事務所控)」及び「お客様返金伝票(商品貼付用)」を本件伝票つづりから切り取り、「お客様返金伝票(売場控)」(以下、記入済みの「お客様返金伝票(売場控)」を「本件各伝票」という。)が残った状態の本件伝票つづりを冊子形態で270冊(以下「本件各文書」という。)保管していた。
 なお、本件各文書には、「お客様返金伝票(事務所控)」又は「お客様返金伝票(商品貼付用)」が切り取られずに数枚残っているものも存在する。
(ニ) 本件各伝票において、それぞれ記入されている事項等は、以下のとおりである。
A 枠外右上の受付年月日の箇所、枠内の「お買上日」、「品名」、「金額」、「品番」、「JAN」及び「受付」の各欄にはそれぞれ該当事項が記載されている。
B 「返品理由」欄には、おおむね、「1.不良品(キズ、部品不足)」、「2.売価違い(売価違い・二重登録)」、「3.その他(不要・サイズ違い・色・柄)」の項目のうち該当する項目に○印が記載されているほか、返品、返金又は交換等の文言が記載されている。
C 「お買上げレシート(有・無)」欄には、おおむね、該当項目に○印が記載されているものの、○印が記載されていないものも存在する。
D 「不良箇所」欄には、具体的な不良状況の内容が記載されたものが存在するものの、おおむね、何ら記載がされていない。
E 「ご返金受領サイン」欄には、個人の姓名又は姓のみが記載されているもの、「上様」との文言が記載されているもの及び屋号の名称が記載されているものがあるほか、何ら記載がないものも混在している。
F 「ご住所」欄には、住所の記載があるものも見受けられるが、おおむね、何ら記載がされていない。
G 「TEL」欄には、電話番号の記載があるものも見受けられるが、おおむね、何ら記載がされていない。
(ホ) 請求人は、本件各文書に収入印紙を貼り付けていなかった。
 また、請求人は、本件各文書について、印紙税法第9条《税印による納付の特例》、第10条《印紙税納付計器の使用による納付の特例》又は第11条《書式表示による申告及び納付の特例》に規定する収入印紙を貼り付ける方法以外の一定の納付方法による印紙税の納付も行っていなかった。
(ヘ) 原処分庁は、請求人に対する印紙税の調査の結果、本件各文書が印紙税法上の課税文書である判取帳であるにもかかわらず、収入印紙が貼り付けられていないと判断し、平成25年5月15日、印紙税法第20条第2項に規定する申出を行うか請求人に確認した。
 これに対して、請求人は、原処分庁に対して上記申出を行わなかった。

(5) 争点

 本件各文書は判取帳に当たるか否か。

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2 主張

(1) 原処分庁

イ 一の文書
 本件伝票つづりは、「お客様返金伝票(売場控)」、「お客様返金伝票(事務所控)」及び「お客様返金伝票(商品貼付用)」の3枚一組の伝票100組が連続してつづられており、このうち「お客様返金伝票(事務所控)」及び「お客様返金伝票(商品貼付用)」は切り取り線に沿って冊子から切り離して使用される。一方、「お客様返金伝票(売場控)」は、切り取り線がなく、切り離して使用されることなく冊子のまま、顧客からの金銭の受領事実につき継続的又は連続的に付込証明を受ける形態の文書であり、実際にその1枚1枚が切り離されることなく、冊子のまま使用されている。
 したがって、本件各文書は、その形態からみて、本件各伝票1枚1枚が一の文書に該当するものではなく、全体として一の文書に該当する。
ロ 課税文書に備わるべき証明力について
 請求人は、課税文書に当たるためには、その文書に、課税物件表の「課税物件」欄に掲げる文書により証されるべき事項(以下「課税事項」という。)を証明する効力が備わっている必要がある旨主張する。
 この点、本件各伝票には一定の署名の形態を整えているものがあることから、一定程度の証明力を有しているものといえ、このような署名を受けることで、金銭の受領事実が証されているため、本件各文書が課税文書であることを否定できない。
ハ 金銭受領の付込証明を受ける目的(以下「金銭受領証明目的」という。)で作成されたこと
(イ) 本件各文書の作成目的
 本件各伝票は、「ご返金受領サイン」の欄があり、本件伝票つづりの記入方法を周知するための「返金伝票記入手順T」と称する文書の内容に従って、請求人が返金する際に相手方から署名を受けるための書類である。
 そして、実際に、本件各伝票のうちには、顧客が返金の際に「ご返金受領サイン」の欄に署名したものが存在する。
 したがって、上記署名のある本件各伝票を含む本件各文書は、金銭受領証明目的で作成されたものと認められる。
(ロ) 請求人の主張に対して
A 金銭の授受がない場合にも作成されていることについて
 本件各文書は、請求人から返金を受ける顧客が、本件各伝票の「ご返金受領サイン」欄に、最初に署名した時において、金銭受領証明目的で作成されたものと認められる。
 そして、本件各文書に、本件各伝票のうち金銭の授受がない場合に作成されたものが一部含まれていたとしても、そのことで、金銭受領証明目的が失われるものではない。
B 相手方の特定が不能であるとの主張について
 本件各伝票には、一定の署名のあるものが存在し、一定の証明力を有している。
 このような状況を客観的にみれば、本件各文書は、金銭受領証明目的を有していると認めるのが相当であり、本件各伝票の署名全てが真正であるか否かや、本件各文書に本件各伝票のうち署名のないものが一部含まれているか否かによって、金銭受領証明目的が失われるものではない。
C 請求人の主観について
 金銭受領証明目的で作成されたか否かは、その文書の形式、内容等を取引社会の一般通念に照らして客観的に判断されるべきであり、一般にその文書が課税事項を証明する目的で作成されると認められるようなものは、かかる目的で作成された文書として取り扱うのが相当であり、作成者の恣意的・主観的な判断で行うものではない。
 したがって、請求人が内部的な事務処理目的を有していたか否かは、金銭受領証明目的が認められるか否かの判断に影響しない。
ニ 二以上の相手方からの付込証明を受ける目的であること
 本件伝票つづりの表紙その他の部分には、1冊ごとに記入を受ける相手方を特定の一人に限定して用いることを示す表示はない。
 また、「返金伝票記入手順T」と称する文書には、本件伝票つづり1冊ごとに記入を受ける相手方を特定の一人に限定して用いることを周知するための記載はない。
 以上によれば、本件各文書は、二以上の相手方からの付込証明を受ける目的で作成されたものと認められる。
ホ 帳簿に当たること
(イ) 帳簿の意義
 通達第6条は、課税物件表第1号から第17号までの文書と第18号から第20号までの文書について、課税事項を1回限り記載証明する目的で作成されるか、継続的又は連続的に記載証明する目的で作成されるかによって区別する旨定めていることから、帳簿とは、課税事項を継続的又は連続的に記載証明する目的で作成される文書をいう。
(ロ) 帳簿に当たるか否か
 本件各文書は、冊子形態のものであり、請求人が顧客に返金する際に、顧客から、本件各伝票の「ご返金受領サイン」欄に署名を受けることにより、金銭の受領事実につき継続的又は連続的に付込証明を受ける目的で作成されたものである。
 したがって、本件各文書は帳簿に該当する。
(ハ) 請求人の主張に対して
A 帳簿が1枚の紙に数多の欄を画する文書であるとの主張について
 印紙税法及び通達には、帳簿について、1枚の紙に数多の欄を画する文書に限定する旨の規定等はないため、帳簿をこのような文書であると限定的に解釈する請求人の主張に理由はない。
B 証書は冊子形態であっても帳簿にならないとの主張について
 本件各文書は、その全体が一の文書に該当するものであって、本件各伝票1枚1枚が切り離され、課税事項を1回限り記載証明する目的で作成された文書、すなわち、証書として作成されたものではないから、本件各伝票1枚1枚が証書であることを前提とする請求人の主張に理由はない。
C 会計帳簿の意義等を根拠として帳簿を判断する主張について
 課税物件表の第20号に掲げる帳簿は、会社法、所得税法又は法人税法に規定する「会計帳簿」や「帳簿」と同じ範囲のものであることを予定しているわけではなく、本件各文書が1枚1枚の伝票から構成されているからといって、印紙税法に規定する帳簿と認められなくなるものではないため、会計帳簿の意義等を根拠として印紙税の帳簿を判断しようとする請求人の主張に理由はない。
ヘ 担税力があること等
(イ) 担税力があること
 印紙税は、経済取引に伴い作成される文書の背後には経済的利益があると推定されること及び文書を作成することによって取引事実が明確化し法律関係が安定化することに着目し、文書の作成行為の背後に担税力を見いだして広範な文書に軽度の負担を求める文書課税であるのであって、必ずしも、経済的利益を享受する者に対して課税することを予定しているわけではない。
 そして、本件各文書の作成の背後には、返金の取引があり、本件各文書の作成によって、請求人及び顧客の間の取引事実が明確化し法律関係が安定化するため、印紙税の担税力が存在する。
(ロ) 二重課税ではないこと
 二重課税とは、一般に、同じ納税者が一つの課税要件事実、課税物件等に対し、同種の租税を二度以上課されることをいうものと解されるところ、印紙税は、経済取引そのものではなく、経済取引に伴う文書の作成行為を捉えて文書に課税するものであるから、一つの取引について複数の文書を作成した際に、各文書が課税要件を満たす場合には、各文書に印紙税が課されることとなり、これは二重課税に当たらない。
 そして、売買代金の受領事実を証明するために作成する領収書等及び売買代金返金の受領事実を継続的又は連続的に付込証明を受ける目的で作成する本件各文書は、それぞれ課税要件を満たすのだから、それぞれに印紙税が課されても二重課税ではない。
 また、同一商品について、2回にわたって印紙税が課せられることに着目しても、それぞれの文書が取引に係る法律関係の安定化に寄与するものであると考えられることから、それぞれの文書について課税することは文書課税である印紙税の趣旨に合致するものであり、不合理であるとはいえない。

(2) 請求人

イ 一の文書
 印紙税法における一の文書とは、その形態からみて1個の文書と認められるものをいい、文書の記載証明の形式、紙数の単複は問わない。
 したがって、本件各文書が冊子形態であるからといって、直ちに全体として一の文書といえるものではない。
 そして、本件各伝票の1枚1枚は、単なる欄ではなく、様々な情報が記載された、それ自体として完結した1個の文書であることからすると本件各伝票の1枚1枚が一の文書である。
ロ 課税文書に備わるべき証明力がないこと
 通達第2条が、課税文書とは課税事項が記載され、かつ、当事者の間において課税事項を証明する目的で作成された文書のうち非課税文書以外のものをいう旨定めていることからすると、課税文書に当たるためには、課税事項の証明目的での作成に加えて、その文書に課税事項を証明する効力があることが必要と解される。
 そして、かかる効力があるというためには、少なくとも、その文書に形式的証拠力が備わっている必要がある。
 この点、本件各伝票には、顧客の押印がない上、「返品・商品交換の受付」と題するマニュアル(以下「本件マニュアル」という。)に記載されたとおり、顧客がレシートを持参したときなどには、顧客にとって最も返金を要求したい不良品の返品の場合であっても署名を求めていないし、その他署名を求めた場合も、判読不能な署名等がなされているにすぎない上、身分証の提示も受けていない。
 さらに、レシートがある場合には返金に応じていたため、連絡先はほぼ記入されていない。
 以上のとおり、本件各伝票には、金銭受領の相手方が特定できない程度の記載があるにすぎない上、本人による署名であるかの検証もできないのだから、形式的証拠力がない。
 よって、本件各伝票又は本件各文書には課税事項を証明する効力が認められない。
ハ 金銭受領証明目的で作成されていないこと
(イ) 金銭の授受がない場合にも作成されていること
 本件各伝票には、商品の交換を記録したものが多数含まれており、これらは、金銭受領証明目的で作成されたものではない。
(ロ) 相手方の特定が不能なこと
 商品の交換以外の場合に作成された本件各伝票についても、上記ロのとおり、本件各伝票には、金銭受領の相手方が特定できない程度の記載があるにすぎないのであって、金銭受領証明目的があったとはいえない。
(ハ) 請求人の主観
 請求人は、従業員の不正防止、不良品の割合や内容把握といった商品管理及び返金額の確認等、専ら内部的な事務処理目的で本件各伝票を作成した。
(ニ) 結論
 上記(イ)から(ハ)によれば、本件各伝票又は本件各文書が金銭受領証明目的で作成されたものではないことは明らかである。
ニ 二以上の相手方からの付込証明を受ける目的ではないこと
 本件各文書は、一の書類につき一の相手方を記載した本件各伝票が冊子となったものであるところ、一の書類につき一の相手方を記載した書類をつづったものは、書類を切り離すことで容易に連番が崩れる。
 また、相手方を特定できて初めて二以上の相手方といえるところ、本件各文書には、上記ロのとおり、相手方の特定が不能な本件各伝票が相当数含まれている。
 以上によれば、本件各文書は、二以上の相手方からの付込証明を受ける目的のものに当たらない。
ホ 帳簿に当たらないこと
(イ) 印紙税法上の帳簿に該当しないこと
A 帳簿とは、反復継続して同種類の事項を記載することを目的とする文書であり、1枚の紙に数多の欄を画することを本質的な特徴とするもので、財産権に関する証明事項の一時的記録を目的とする証書と区別される。
 以上については、通達第6条でも同様のことが定められているとともに、印紙税法第2条、第3条、第5条及び課税物件表等が文書と帳簿を明確に区別していること、旧印紙税法(明治32年法律第54号)第4条《税率》も伝票を含む証書と1枚の紙に数多の欄を画することを本質とする帳簿を区別していたこと、所得税法施行規則第63条《帳簿書類の整理保存》第1項や法人税法施行規則第59条《帳簿書類の整理保存》第1項等印紙税法以外の各税法も、伝票を含む書類と帳簿を区別していること、総務省が公表する「政治資金監査に関するQ&A」も伝票と判取帳を明確に区別していること、及び、世間一般の用法も伝票と帳簿を区別していることからも明らかである。
 また、帳簿は、個々の証明部分を切り離すと独立して証書としての効用を有しないものを指すのであって、個々の証明部分に作成者の署名若しくは押印があり、又は相手方を表示するようなものについては、帳簿の観念と異なり、独立した同一形式の証書が反復して作成されるにすぎず、例えば、個々の証明部分ごとに承諾文書を記載し受注者が署名又は押印した注文請書帳はその証明事項ごとに証書となる。このほか、取引相手が手形を発行した際に作成した手形の控えや出金伝票に受領印を押した場合、当該手形の控え等は、通常冊子形態で作成されるものの、課税物件表の第17号の1の文書に該当し、判取帳に該当するとは考えられていないが、これも、手形の控え等の1枚1枚が証書に該当する余地があるにすぎず、帳簿には該当しないためである。本件各文書も、以上の注文請書帳や手形の控え等に類似するものであって、1枚1枚の本件各伝票が証書になるにすぎない。
 さらに、印紙税法第4条第4項は、通帳等に同項各号に掲げる事項の付込みがされた場合において、記載金額が一定の額を超える場合、当該付込事項に係る部分については、当該通帳等への付込みがなく、当該各号に規定する課税文書の作成があったものとみなすとしている。このように、同項が「みなす」という法令用語を利用していることは、付込みがされた事項に係る部分は、課税文書たる通帳等に当たらないことを意味している。このような規定ぶりからすると、同項の通帳等に付込みがされた事項に係る部分とは、数多の欄が設けられる通帳等の各欄ごとの記載、すなわち、本来その部分だけを抜き出すと一の文書とはいえない記載部分を意味していることが明らかである。なぜなら、付込みがされた事項に係る部分が一の文書に該当するのであれば、同項が「みなす」と規定する必要がないからである。換言すれば、印紙税法にいう通帳等の帳簿とは、数多の欄が設けられ、各欄にそこだけを抜き出すと一の文書とはいえない同種類の事項が継続反復して記載されるものであることを当然の前提としている。そして、仮に、証書が冊子形態であれば通帳等に当たるとすると、印紙税法第4条第4項の適用の余地がなくなり、同項の存在意義がないことになる。
B 通達第6条は、証書として作成されたものであれば、作成後、さらに課税事項が追加して記載証明されても、法令に別段の規定がある場合を除き通帳等になることはない旨等を定めている。
 これによれば、証書として作成された文書は、冊子形態であっても全体として帳簿になることはない。
C 以上のとおりであるところ、本件各文書は、金銭受領の事実とは関係のない商品の交換といった取引事実が記載された伝票も多数含まれていて、金銭受領の事実が間断なく連続して記載されているわけではなく、1枚の紙に数多の欄を画し反復継続して同種類の事項を記載することを目的とするものでもないことから、帳簿には当たらないのであって、せいぜい、本件各伝票の1枚1枚が課税事項の一時的記録を目的として作成される証書に該当する余地があるにすぎない。
(ロ) 会社法上の会計帳簿に該当しないこと
A 租税法は侵害規範であり法的安定性が強く求められるため、その解釈は厳格な文理解釈によるべきであり(最判平成22年3月2日等)、特別に定義されている用語以外の用語は一般の用法に従って解釈されるべきである。
 特に、印紙税法は課税文書について限定列挙主義を採用し、懲罰的制裁というべき過怠税制度を採用していることから、さらに厳格な文理解釈を要する。
B 印紙税法における帳簿の概念は、会社法及び旧商法の借用概念であると解すべきところ、会社法第433条第1項は、「会計帳簿」と「これに関する資料」を区別しており、ここでいう「会計帳簿」の意義は会社計算規則第59条第3項にいう会計帳簿、すなわち計算書類及び仕訳帳(伝票を仕訳帳に代用する場合には伝票を含む。)等の附属明細書の作成の基礎となる帳簿をいう一方、「これに関する資料」とは伝票、受領証、契約書、信書等会計帳簿作成の材料となった資料をいうものと解されている(横浜地判平成3年4月19日)。
 本件各文書は、伝票である本件各伝票のつづりであるところ、本件各伝票は仕訳帳に代用されていなかったから、会社法上の帳簿に該当せず、印紙税法上の帳簿にも該当しない。
(ハ) 会計学上の帳簿に該当しないこと
 印紙税法における帳簿の意義については、会計学上の帳簿の意義も参考とされるべきところ、会計学上の帳簿とは、経済主体の継続的、組織的な記録と計算を記載した物件であり、これらの各記録、計算の相互に関連性が必要であるとされている。
 本件各文書には、かかる記録、計算の継続性、組織性、相互関連性がなく、会計学上の帳簿に該当しない。
(ニ) 結論
 以上のとおり、上記(イ)から(ハ)のいずれによる解釈をとっても、本件各文書は帳簿に該当しない。
ヘ 担税力がないこと等
(イ) 担税力が必要であること等
 判取帳というためには、文書の作成に担税力が認められる必要があるし、二重課税にならないような解釈をする必要がある。
(ロ) 担税力がないこと
A 商品を交換する場合においては、単に商品を交換しているだけであるから、本件各文書の作成に担税力を見いだせない。
B 商品を返品する場合においては、請求人の売上が取り消され、経済取引に伴う担税力が失われるのだから、本件各文書の作成に担税力を見いだせない。
(ハ) 二重課税となること
 請求人が商品を販売した際に作成する領収証等には、販売代金に応じて印紙税が課される場合があるところ、返品の際に作成した本件各文書に対して印紙税が課されるのであれば、同一の商品について、二重に課税されることになる。

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3 判断

(1) 法令解釈

イ 印紙税の性質
 印紙税法は、経済取引等に伴い作成される契約書や領収書等の広範な文書に対して軽度の税負担を求めるものであるが、文書の作成行為に対して課税するものであって、その作成された文書を課税物件としていることから、行為税及び文書税の性質を有するとともに、課税物件となる文書が主として経済取引に関して作成されるものであることからすると、間接的にその文書の背後にある経済取引を課税対象としているものといえるため、流通税としての性質も有するものである。
ロ 一の文書
 印紙税法は、課税物件表の適用に関する通則2及び3並びに課税物件表の「課税標準及び税率」欄のとおり、1通又は1冊、すなわち、一の文書を課税の単位としている。
 ここでいう一の文書の意義については、通達第5条が定めている。
 この点、一の文書が課税の単位になるものであって、その判断は客観的かつ容易になし得るのが望ましいところ、一の文書という文言からすると、一の文書の判断については、文書の物理的な形状を重視して判断すべきであるため、通達第5条の取扱いは当審判所においても相当であると認められる。
ハ 課税事項の付込証明目的
 課税文書とされる判取帳とは、一定の課税事項につき二以上の相手方から付込証明を受ける目的をもって作成する帳簿をいうところ、上記イのとおり、印紙税法が作成された文書自体を課税物件としていることからすれば、課税事項の付込証明目的が認められるかどうかの判断については、文書の形式、内容等から取引社会の一般通念に照らして客観的に行うべきである。
ニ 帳簿
 印紙税の課税標準については、課税物件表の第1号から第17号までの課税文書については「1通」ごとに判断される一方、課税物件表第18号から第20号までの課税文書については「1冊」ごとに判断されるところ、これは、課税事項を1回限り記載証明する目的で作成する文書であるのか、又は、継続的若しくは連続的に記載証明する目的で作成する文書であるのかとの観点に基づいて課税文書を整理し、印紙税を課する趣旨によるものと解される。  かかる趣旨によれば、通達第6条の取扱いは当審判所においても相当であると認められ、これによれば、課税物件表の第20号に規定する帳簿とは、継続的又は連続的に課税事項を記載するための文書をいうものと解される。

(2) 認定事実

 請求人提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。

イ 上記1(4)イ(ロ)の各店舗には、一又は複数の本件伝票つづりが備え付けられており、請求人の従業員は、顧客から商品の返品又は交換の申出を受けて代金を返還又は商品を交換する際、それぞれの本件伝票つづりを伝票番号の順に従って使用していた。
ロ 請求人は、本件伝票つづりの記入方法を従業員に周知するために使用される本件マニュアルを備え置いていた。本件マニュアルには、本件伝票つづりの記入方法として、要旨以下の内容が記載されている。
 レシートを持参した顧客が返金を求めた場合について、「お客様返金伝票(売場控)」に受付年月日、買上日、品名、返品商品の金額、品番、JANコード、返品理由、買上げレシートの有無及び受付者名を記入するとともに、返品理由が「1.不良品」又は「2.売価違い」に当たらない「3.その他」の場合のみ、顧客に受領のサインをもらう。
ハ 請求人の従業員は、本件マニュアルに記載されたとおり、顧客から返品等の申出があった場合、買上時のレシートと返品対象商品を確認し、受付年月日、買上日、返品商品の金額及び返品理由を記入した上で、受付欄に署名した後、顧客に対して返金金額を渡し、返品理由が「1.不良品」又は「2.売価違い」に当たらない「3.その他」の場合には、おおむね、本件伝票つづりの「ご返金受領サイン」欄に顧客から署名を受け、その後、品名、品番及びJANコードを記入していた。
ニ 本件各文書には、それぞれ、返金する際に使用され、「ご返金受領サイン」欄に顧客から署名を受けた本件各伝票が複数枚含まれている。

(3) 当てはめ

イ 一の文書について
 本件各文書は、本件各伝票をつづったものであるため、課税文書に該当するか否かの判断に当たり、まず、本件各文書の1冊1冊又は本件各伝票のいずれが一の文書であるのかについて検討する。
 この点、一の文書の判断については、通達第5条の取扱いが相当であることは上記(1)ロのとおりであるところ、具体的には、文書の形態や内容等から一部を切り離して行使することや保存されることが予定されているかなどを鑑みつつ、文書の形態からみて1個の文書といえるかによって判断されることとなる。
 本件伝票つづりは、上記1(4)ロ(ロ)Aのとおり、「お客様返金伝票(事務所控)」及び「お客様返金伝票(商品貼付用)」が切り取り線に沿って切り離すことができる状態になっている一方で、「お客様返金伝票(売場控)」には切り取り線がない。また、「お客様返金伝票(売場控)」は、連番となった伝票番号が印字されているとともに、顧客への返金等一定の事項が記録されるものである。
 これらによれば、本件各伝票は、○○等を販売する一連の事業の過程で顧客に対する返金等が発生した場合に、請求人が用意した本件伝票つづりにその事実を請求人が記載していったものを記録として集積し、その集積した全体を一つの情報体として保存していくことを目的としているものといえ、本件各文書から切り離して行使することや保存されることが予定されていたものとはいえない。
 そして、請求人も、本件各伝票を切り離さずに1冊につづった状態で保管していたのであるから、実際の文書の形態からみても、一定の目的をもった本件各伝票をつづった本件各文書の1冊1冊が全体として1個の文書といえる。
 したがって、本件各文書の1冊1冊が一の文書であって課税の単位になるため、以下、本件各文書が判取帳に該当するか否かを検討する。
ロ 本件各文書の証明力について
 請求人は、課税文書には、課税事項を証明する効力が備わっている必要があるが、本件各伝票又は本件各文書には、金銭受領の相手方が特定できない程度の記載があるにすぎない上、本人による署名であるかの検証もできないのだから、形式的証拠力がなく、課税文書が備えるべき証明力がない旨主張する。
 この点、課税文書には課税事項を証明する効力が必要であるとの見解を取ったとしても、課税文書は、当事者間において一定の事実を明確にする目的で作成されるものであるから、そこでいう証明する効力とは、当事者間で一定の事実があったことが明らかとなる程度の証明力があれば足りるというべきである。
 そして、返金の際に作成された本件各伝票には、上記(2)ハのとおり、受付年月日、買上日、品名、返品商品の金額及び品番が記載されているのであるから、顧客の署名が姓のみのものであるなど不完全なものであっても、いつどの商品を購入し、いつ返金を求めた顧客であるのかなどが把握でき、その顧客との間で、請求人が金員を支払った事実が明らかとなる程度の証明力が本件各伝票に備わっているものといえる。
 そうすると、以上のような本件各伝票が複数つづられている本件各文書も同様の証明力を有しており、これをもって、当事者間で一定の事実があったことが明らかとなる程度の証明力があると認められるため、課税文書が備えるべき証明力に欠けるとはいえず、本件各文書が課税文書に当たらないと認めることはできない。
ハ 本件各文書が判取帳に当たるかについて
(イ) 金銭受領証明目的
A 請求人は、上記(2)ロのとおり、本件マニュアルを備え置くことで、本件各伝票に返品商品の金額を記載するとともに、顧客がレシートを持参していても返品理由が「3.その他」の場合については、顧客に対して受領のサインを求めることとしていたところ、実際に、請求人が顧客に対して返金を行った際に作成された本件各伝票には、上記(2)ハのとおり、返品商品の金額が記載され、顧客がレシートを持参していても返品理由が不良品又は売価違いに当たらない場合については、おおむね、顧客から署名を受けていた。
 この点、課税事項の付込証明目的については、上記(1)ハのとおり、文書の形式、内容等から取引社会の一般通念に照らして客観的に判断すべきところ、以上のような本件各伝票の記載事項から客観的に判断すれば、請求人には、返金を行う場合において、顧客から本件各伝票に署名を受けることによって、返金があったことの付込証明を受ける目的、すなわち、金銭受領証明目的があったと認めるのが相当である。
 そうすると、請求人が顧客に対して返金を行った場合に作成した本件各伝票をつづった本件各文書も、金銭受領証明目的をもって作成したものと認められる。
B これに対して、請求人は、1 本件各文書には金銭受領証明目的で作成されたものではない本件各伝票が含まれていること、2本件各伝票には金銭受領の相手方が特定できない程度の記載があるにすぎないこと、3請求人が内部的な事務処理目的で本件各文書を作成したことから、金銭受領証明目的が認められない旨主張する。
 しかしながら、本件各文書に金銭受領証明目的でない本件各伝票が含まれていたとしても、それは、本件各文書が金銭受領証明目的のみで作成されたわけではないことを示すにとどまり、この点をもって、金銭受領証明目的が認められなくなるものではないため、この点に係る請求人の主張を採用することはできない。
 また、上記ロによれば、金銭受領証明目的についても、当事者間において一定の事実を明確にする目的があれば足りると解される。そして、返金の際に作成された本件各伝票には、上記(2)ハのとおり、受付年月日、買上日、品名、返品商品の金額及び品番が記載されているのであるから、請求人には、本件各伝票を作成するに当たって、いつどの商品を購入し、いつ返金を求めた顧客に対して、金員を支払ったかの事実を明確にする目的があったことは明らかであり、これをもって、当事者間において一定の事実を明確にする目的があったといえるから、本件各伝票は顧客の特定が困難であるために金銭受領証明目的が認められないものとはいえず、この点に係る請求人の主張も採用することができない。
 さらに、一般的には本件各文書のような文書が作成者の内部的な事務処理目的で作成されることも考えられることからすると、請求人が内部的な事務処理目的で本件各文書を作成していたとしても何ら不自然ではない。しかしながら、文書を作成する目的は必ずしも一つに限られるものではないことからすると、たとえ、請求人が内部的な事務処理目的を有していたとしても、同時に金銭受領証明目的を有していたとの判断を覆す事情にはならないため、この点に係る請求人の主張も採用することはできない。
(ロ) 二以上の相手方からの証明目的
A 本件伝票つづりは、上記1(4)ロ(イ)のとおり、請求人が、多数の顧客が来店する店舗において、顧客に販売した商品について返金する場合等に使用されるものであるから、複数の顧客から証明を受けることを予定しているものと認められ、特定の顧客一人に対して1冊の本件伝票つづりを使用することを予定しているものとはいえない。
 また、当審判所の調査の結果によれば、実際に作成された本件各伝票の「ご返金受領サイン」欄の署名の筆跡も、それぞれ異なっていると認められることから、実際に複数の顧客に対する返金について本件各文書を使用したことも認められる。
 以上によれば、請求人は、二以上の相手方から、返金等があったことなどの証明を受ける目的で、本件各文書を作成したものと認められる。
B これに対して、請求人は、1 一の書類につき一の相手方を記載した書類をつづったものは、書類を切り離すことで容易に連番が崩れること、2相手方の特定が不能なものが相当数含まれていることから、二以上の相手方からの証明目的が認められない旨主張する。
 しかしながら、物理的には本件各伝票の1枚1枚を切り離すことができるとはいっても、そもそも本件各伝票は上記イのとおり切り離されることが予定されていたとは認められないし、実際にも、請求人は、本件各伝票1枚1枚を切り離すことなく1冊の本件各文書として保管していたのであるから、二以上の相手方からの証明目的を否定する根拠にはならず、この点に係る請求人の主張を採用することはできない。
 また、相手方の特定が不能なものが相当数含まれていたとしても、上記Aによれば、本件各文書が一の相手方からの証明目的で作成された可能性があるとは認められないため、この点に係る請求人の主張も採用することはできない。
(ハ) 帳簿
A 帳簿の該当性
 上記(1)ニのとおり、帳簿とは、継続的又は連続的に課税事項を記載するための文書をいうため、本件各文書がこのような文書に該当するか否かについて以下検討する。
 本件各伝票は、上記1(4)ロ(ロ)Aのとおり、連番となった伝票番号が印字されており、そこに記録される内容も顧客に対する返金の事実を含む一定の事項とされていることからすると、本件各伝票をつづった本件各文書は、継続的又は連続的に、顧客に対する返金の事実を含む一定の事項を記録するためのものと認められる。
 そして、上記(2)イによれば、実際に、請求人も、顧客に対する返金等があった際、継続的又は連続的に返金等の事実を記載し本件各文書を作成していた。
 以上によれば、本件各文書は、継続的又は連続的に、金銭受取の事実、すなわち、課税事項を記載するための文書といえるため、課税物件表第20号に規定する帳簿であると認められる。
B 請求人の主張について
(A) 請求人は、帳簿とは、反復継続して同種類の事項を記載することを目的とする文書であることから、1枚の紙に数多の欄を画することを本質的な特徴とするものであり、一時的記録を目的とする証書と区別される旨主張する。
 この点、確かに、帳簿とは継続的又は連続的に一定の事項を記載するための文書をいい、1回限りの記載証明を目的とする証書とは区別される。また、1枚の紙であっても、数多の欄を画する場合には継続的又は連続的に一定の事項を記載するための文書として帳簿と認める余地があるといえる。
 しかし、そうであるからといって、直ちに、1枚の紙に数多の欄を画することが帳簿の本質的な特徴であるとはいえず、かえって、帳簿とは継続的又は連続的に課税事項を記載するための文書であることからすると、1枚の紙に数多の欄を画する文書でなくとも、一の文書が継続的又は連続的に一定の事項を記載するための文書と認められる限り帳簿に該当するというべきであるから、請求人の主張を採用することはできない。
(B) 請求人は、注文請書帳や手形の控え等を例に挙げて、1枚1枚の本件各伝票が証書になるにすぎない旨主張する。
 しかしながら、本件各文書は、○○等を販売する一連の事業の過程で顧客に対する返金等が発生した場合に、請求人が用意した本件伝票つづりにその事実を請求人が記載していったものの集積であって、上記イのとおり、その集積全体を一つの情報体として保存していくためのものであるといえる上、顧客のサインも、その返金の事実があったことの確認を受けるために記載してもらったものにすぎないのであるから、本件各伝票の1枚1枚が、それぞれ独立して金員の受領の事実を1回限りで記載証明するために作成されたものとはいえず、請求人の主張を採用することはできない。
(C) 請求人は、印紙税法第4条第4項が「みなす」との用語を利用していることは、通帳等に付込みがされた部分が課税文書たる通帳等に当たらないことを意味しており、帳簿とは、数多の欄が設けられ、各欄にそこだけを抜き出すと一の文書とはいえない同種類の事項が反復継続して記載されるものである旨主張する。
 この点、印紙税法第4条第4項の趣旨は、通帳等において課税事項を証明している場合であっても、一定の付込みを行う場合においては、当該付込み部分に対する印紙税を負担させることで、課税の公平を保つ点にあると解され、そのため、同項は、当該付込み部分について、通帳等への付込みがなく課税文書の作成があったものとみなす旨規定しているものと解される。しかしながら、このような規定の文言から、帳簿とは数多の欄が設けられ各欄にそこだけを抜き出すと一の文書とはいえない同種類の事項が継続反復して記載されるものであると導く請求人の主張は、独自の見解であって採用することはできない。
 また、請求人は、証書が冊子形態であれば通帳等に当たるとすると、印紙税法第4条第4項の適用の余地がない旨主張する。
 しかし、上記Aの判断は、証書である本件各伝票が冊子形態であることを理由に本件各文書として通帳等に該当するというものではなく、本件各伝票は、1回限りの記載証明を目的とする証書に当たらないのであって、継続的又は連続的に一定の事項を記載する帳簿に該当するというものである。
 したがって、この点に係る請求人の主張は、上記Aの判断に対する反論にならないため、採用することができない。
(D) 請求人は、証書が作成された後の課税事項の記載証明の追加があっても、通帳等にはならない旨主張する。
 しかしながら、本件各文書は、返金に係る付込みを最初に行った時点で証書ではなく判取帳として請求人により作成されたものと解されるのであって、課税事項の記載証明が追加されることによって、判取帳に変わるというわけではないため、この点に係る請求人の主張を採用することはできない。
(E) 請求人は、本件各文書は、金銭受取以外の事実が記載された伝票も多数含まれていて、金銭受取の事実が間断なく連続して記載されているわけではない旨主張する。
 しかしながら、帳簿の意義における継続的又は連続的とは、1回限り記載証明する目的の証書と区別される趣旨のものであり、一定の課税事項に係る付込みと付込みの間に、他の課税事項や課税事項に該当しない事項に関する記載があっても、直ちに、それぞれの付込みが1回限り記載証明する目的であったとされるものではないことからすると、本件各文書に金銭受取の事実が記載されていない伝票もつづられていることのみで、本件各文書が継続的又は連続的に金銭受取の事実を記載するための文書であることを否定する理由にはならないから、この点に係る請求人の主張を採用することはできない。
(F) 請求人は、印紙税法における帳簿は会社法及び旧商法の借用概念である旨並びに会計学上の帳簿の意義も参考とすべきである旨主張する。
 しかしながら、印紙税には、上記(1)イのとおり、間接的にその文書の背後にある経済取引を課税対象とする流通税としての性質があることに鑑みると、印紙税法の帳簿は、会社の財産及び損益の状況を明らかにする目的で作成される会社法の会計帳簿や所得金額を正確に計算する目的で備え付けられる所得税法等の帳簿とは別異に解すべきであって、この点に係る請求人の主張を採用することはできない。
(ニ) 小括
 本件各文書は、上記(イ)から(ハ)のとおり、金銭受取の事実につき二以上の相手方から付込証明を受ける目的をもって作成する帳簿に該当するため、判取帳に該当する。
ニ 請求人のその他の主張について
(イ) 担税力
 請求人は、商品を返品する場合においては、請求人の売上が取り消され、経済取引に伴う担税力が失われるのだから、本件各文書の作成に担税力を見いだせない旨主張する。
 しかし、課税物件表の「課税標準及び税率」欄のとおり、印紙税の額の算定については、課税文書の作成の背後にある経済取引の規模を基準とする場合があるものの、その経済取引から生じる利益を基準とするものではないのであって、経済取引から利益が生じる場合に限って印紙税が課されるものでないことは明らかである。
 一方で、印紙税の行為税又は文書税としての性質からすると、印紙税法は、文書を作成することによって取引事実が明確化し法律関係が安定化することに着目して課税しているものといえる。
 そして、請求人が顧客に対して返金をする場合においても、本件各文書を作成することによって、返金の事実について明確化され法律関係が安定化することからすると、本件各文書の作成について担税力がないとは認められない。
 よって、この点に係る請求人の主張を採用することはできない。
(ロ) 二重課税
 請求人は、同一の商品について、販売時点と返金時点において二重に印紙税が課されている旨主張する。
 しかしながら、印紙税の課税物件は文書であって、課税標準も1通又は1冊ごととされていることからも明らかであるとおり、印紙税は、作成される文書ごとに課される国税である。
 よって、同一の商品に関してのものであっても、2通の文書が作成される場合においては、各文書が一の文書として課税文書に該当する限り、それぞれに印紙税が課され得るのであって、これをもって、二重課税であると認めることはできないため、この点に係る請求人の主張を採用することはできない。
ホ 結論
 以上のとおり、本件各文書は判取帳に該当するところ、請求人が顧客から最初に金銭受取の付込証明を受けて本件各文書を作成したことによって印紙税を納める義務が生じることから、原処分庁が、印紙税法第20条第1項を適用して印紙税の過怠税を賦課決定したことは相当であり、過怠税の金額を算定すると、別表2及び3記載のとおり本件各賦課決定処分の額と同額となるため、本件各賦課決定処分は適法である。

(4) 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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