(平成27年6月1日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が、匿名組合契約の出資者である外国法人との間で締結した参加利益契約に基づく当該匿名組合契約に係る利益の分配を受ける権利を当該外国法人に譲渡したことにより生じた損失を譲渡所得の金額の計算上生じた損失の金額として所得税の確定申告をしたところ、G税務署長が、当該損失の金額は資産の譲渡による所得に該当しないなどとして、所得税の更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分を行ったのに対し、請求人が、当該更正処分の理由附記に不備があるなどとして、これらの処分の全部の取消しを求めた事案である。

(2) 審査請求に至る経緯

イ 請求人は、平成22年分の所得税について、青色の確定申告書に別表の「確定申告」欄のとおり記載して、法定申告期限までに確定申告した。

ロ G税務署長は、これに対し、原処分庁所属の調査担当職員の調査に基づき、平成26年3月14日付で別表の「更正処分等」欄のとおりの更正処分(以下「本件更正処分」という。)及び過少申告加算税の賦課決定処分(以下「本件賦課決定処分」といい、本件更正処分と併せて「本件更正処分等」という。)をした。

ハ 請求人は、本件更正処分等を不服として、平成26年5月8日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、同年8月5日付でいずれも棄却の異議決定をした。

ニ 請求人は、異議決定を経た後の本件更正処分等になお不服があるとして、平成26年9月5日に審査請求をした。

(3) 関係法令の要旨

イ 理由附記に関するもの
 行政手続法第14条《不利益処分の理由の提示》第1項は、行政庁は、不利益処分をする場合には、その名宛人に対し、同時に、当該不利益処分の理由を示さなければならない旨規定し、同条第3項は、不利益処分を書面でするときは、同条第1項の理由は、書面により示さなければならない旨規定している。
 なお、当該各条項は、国税通則法(以下「通則法」という。)第74条の14《行政手続法の適用除外》第1項に基づく適用除外の対象になっていない。

ロ 所得区分に関するもの

(イ) 所得税法第33条《譲渡所得》第1項は、譲渡所得とは、資産の譲渡による所得をいう旨規定している。

(ロ) 所得税法第35条《雑所得》第1項は、雑所得とは、利子所得、配当所得、不動産所得、事業所得、給与所得、退職所得、山林所得、譲渡所得及び一時所得のいずれにも該当しない所得をいう旨規定している。

(ハ) 所得税法第51条《資産損失の必要経費算入》第4項は、居住者の雑所得の基因となる資産の損失の金額(資産の譲渡により又はこれに関連して生じたものを除く。)は、その者のその損失の生じた日の属する年分の雑所得の金額(この項の規定を適用しないで計算した所得の金額とする。)を限度として、当該年分の雑所得の金額の計算上、必要経費に算入する旨規定している。

(ニ) 所得税法第69条《損益通算》第1項は、総所得金額を計算する場合において、不動産所得の金額、事業所得の金額、山林所得の金額又は譲渡所得の金額の計算上生じた損失の金額があるときは、政令で定める順序により、これを他の各種所得の金額から控除する旨規定している。

ハ 匿名組合契約に関するもの
 商法第535条《匿名組合契約》は、匿名組合契約は、当事者の一方が相手方の営業のために出資をし、その営業から生ずる利益を分配することを約することによって、その効力を生ずる旨規定している。

ニ 過少申告加算税に関するもの

(イ) 通則法第65条《過少申告加算税》第1項は、期限内申告書が提出された場合において、更正があったときは、当該納税者に対し、その更正に基づき同法第35条《申告納税方式による国税等の納付》第2項の規定により納付すべき税額に100分の10の割合を乗じて計算した金額に相当する過少申告加算税を課する旨規定し、同法第65条第2項は、同条第1項の規定に該当する場合において、同項に規定する納付すべき税額がその国税に係る期限内申告税額に相当する金額と50万円とのいずれか多い金額を超えるときは、同項の過少申告加算税の額は、同項の規定にかかわらず、同項の規定により計算した金額に、当該超える部分に相当する税額に100分の5の割合を乗じて計算した金額を加算した金額とする旨規定している。

(ロ) 通則法第65条第4項は、同条第1項又は第2項に規定する納付すべき税額の計算の基礎となった事実のうちにその更正前の税額(還付金の額に相当する税額を含む。)の計算の基礎とされていなかったことについて正当な理由があると認められるものがある場合には、これらの項に規定する納付すべき税額からその正当な理由があると認められる事実に基づく税額として政令で定めるところにより計算した金額を控除して、これらの項の規定を適用する旨規定している。

(4) 基礎事実

以下の事実は、請求人と原処分庁との間に争いがなく、当審判所の調査の結果によっても認められる事実及び証拠によって容易に認められる事実である。

イ 関係者について

(イ) 請求人は、平成○年○月○日に土木建築工事請負及び設計、施工、管理並びに不動産の賃貸、管理、売買及びその仲介等を目的として設立されたH社の○○であり、平成17年○月○日に解任されるまで同社の代表取締役を務めていた。

(ロ) J社は、平成16年3月○日に設立された、信託受益権の売買、保有及び管理等を目的とする法人である。

(ハ) K社は、平成16年8月○日にg国において設立された外国法人であり、Lは、同年9月27日にK社のDirector(取締役)に就任した。

ロ 本件に関する契約書及び合意書について

(イ) J社及びK社は、平成16年9月30日、同日付の「優先匿名組合契約書」(以下「本件匿名組合契約書」という。)を取り交わし、これに沿う匿名組合契約(以下「本件匿名組合契約」という。)を締結した。なお、本件匿名組合契約については、平成16年11月30日付「優先匿名組合契約変更に関する覚書」ほか3通の書面に基づき、一部変更が加えられている。
 本件匿名組合契約書の要旨は、別紙(なお、略称等は本文中の例による。)の1のとおりであり、本件匿名組合契約の内容について、J社が行う事業(具体的には、H社から同社とM信託銀行(現、N信託銀行。以下同じ。)との間の不動産管理処分信託契約に基づく信託受益権を取得し、当該信託契約上の受益者としての利益を得ること。以下「本件事業」という。)のために、K社がJ社に出資し、J社が本件事業から生じる利益及び損失をK社に分配するというものであることなどが記載されている。

(ロ) K社を参加利益譲渡人とし請求人を参加利益譲受人とする平成16年9月30日付「○○参加利益契約」と題する書面(以下「本件参加利益契約書」という。)の要旨は、別紙の2のとおりであって、請求人が、同日、K社との間で、K社から金銭の分配を受ける権利(K社が本件匿名組合契約に基づきJ社から受ける期間利益及び信託受益権等の売却益のうち一定額の分配を受ける権利。以下「本件参加利益権」という。)を○○○○円(以下「本件拠出金」という。)で取得した旨などが記載され、請求人の署名押印及びK社のDirectorとしてLのサインがされている(以下、本件参加利益契約書に係る契約を「本件参加利益契約」という。なお、その内容については、後述するとおり争いがある。)。

(ハ) 請求人とK社との平成22年11月22日付「参加利益買戻及び解約合意書」と題する書面(以下「本件買戻合意書」という。)の要旨は、別紙の3のとおりであって、K社が、同日、本件参加利益権を請求人から○○○○円で買い戻し、また、当該買戻代金の第1回支払日に、本件参加利益権は、請求人からK社に確定的に移転すると同時に本件参加利益契約を解約することを合意する旨などが記載され、請求人の署名押印及びK社のDirectorとしてLのサインがされている(以下、本件買戻合意書に係る合意を「本件買戻合意」という。なお、その内容については、後述するとおり争いがある。)。

ハ 請求人とK社との間の金銭の授受について

(イ) 請求人は、平成16年9月26日、上記ロの(ロ)の本件参加利益契約に基づく本件拠出金として、Lが指定した口座(P銀行h支店のQ社名義の銀行口座)へ○○○○円を送金した。

(ロ) K社は、請求人に対して、本件参加利益契約に基づく期間利益の分配として、平成19年10月10日、平成20年3月5日、平成21年3月5日及び平成22年3月3日の4回にわたり、各○○○○円の合計○○○○円を支払った。

(ハ) K社は、請求人に対して、上記ロの(ハ)の本件買戻合意に基づく本件参加利益権の買戻代金として、平成22年12月21日に○○○○円、平成23年2月15日に○○○○円及び同年5月13日に○○○○円の合計○○○○円を支払った。

ニ 確定申告及び原処分について

(イ) 請求人は、平成22年分の所得税について、上記ハの(イ)の本件拠出金と同(ハ)の本件参加利益権の買戻代金との差額○○○○円(以下「本件損失額」という。)を譲渡所得の金額の計算上生じた損失の金額として、事業所得の金額及び不動産所得の金額と損益通算をした上で、別表の「確定申告」欄のとおり、確定申告をした。
 なお、請求人が平成22年分の所得税の確定申告書に添付して提出した所得の内訳書によれば、雑所得に係る収入金額は○○○○円(上記ハの(ロ)の平成22年3月3日に支払われた期間利益の分配の○○○○円を含む。)、雑所得に係る貸倒損失は○○○○円である。

(ロ) G税務署長は、本件損失額は譲渡所得の金額の計算上生じた損失の金額に該当しないとして、別表の「更正処分等」欄のとおり、本件更正処分等をした。

ホ 本件更正処分等に係る通知書(以下「本件更正等通知書」という。)に記載された処分の理由について
 本件更正等通知書には、本件更正処分の理由が、要旨以下のとおり記載されている。

(イ) 譲渡所得の金額
 請求人は、平成16年9月30日付でK社と本件参加利益契約を締結し、本件参加利益権を○○○○円で取得したとして、また、平成22年11月22日付で同社との間で本件買戻合意を締結し、同社が本件参加利益権を○○○○円で買い戻したとして、本件買戻合意により受け取った金員○○○○円と本件参加利益契約により支払った本件拠出金との差額○○○○円(本件損失額)を所得税法第33条第1項に規定する譲渡所得(損失)としている。
 しかしながら、本件損失額は、下記AないしCの理由から、同項に規定する資産の譲渡による所得に該当しないため、譲渡所得の金額は○○○○円となる。

A 本件参加利益契約は、請求人がK社に対して○○○○円の出資を行い、一定の金額を限度に当該出資額に応じた配当を受ける契約であったと認められる。

B 本件買戻合意は、本件参加利益契約を解除するものであったと認められる。

C 本件拠出金と返還された○○○○円との差額である本件損失額は、雑所得の基因となる資産の損失に該当すると認められる。

(ロ) 雑所得の金額
 本件参加利益契約による期間利益の分配金は雑所得に該当することから、上記(イ)の本件損失額は、所得税法第51条第4項に規定する雑所得の基因となる資産の損失の金額に該当すると認められ、その損失の額は、請求人の雑所得の金額を限度として必要経費に算入されることになる。そして、同項を適用しないところで計算した請求人の雑所得の金額は○○○○円であるところ、請求人の同項に規定する損失の金額は、確定申告書に記載した貸倒損失額○○○○円及び本件損失額の合計額○○○○円となるから、同項の規定により必要経費に算入される金額は○○○○円となる。
 したがって、請求人の当年分(平成22年分)の所得税法第35条第1項に規定する雑所得の金額は○○○○円となる。

(ハ) 総所得金額
 請求人の総所得金額は、不動産所得の金額○○○○円、事業所得の金額○○○○円及び雑所得の金額○○○○円を合計した○○○○円となる。

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2 争点

(1) 本件更正等通知書における本件更正処分の理由附記に不備があり、本件更正処分は違法となるか否か。(争点1)

(2) 本件損失額は、事業所得の金額等との損益通算が認められるか否か。具体的には、本件損失額は、譲渡所得の金額の計算上生じた損失の金額に該当するか否か。(争点2)

(3) 仮に、通則法第65条第1項に規定する「更正に基づき同法第35条第2項の規定により納付すべき税額」が生じていた場合、通則法第65条第4項に規定する正当な理由があると認められる場合に該当するか否か。(争点3)

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3 主張及び判断

(1) 争点1(本件更正等通知書における本件更正処分の理由附記に不備があり、本件更正処分は違法となるか否か。)について

イ 主張

(イ) 原処分庁
 以下のとおり、本件更正等通知書における本件更正処分の理由附記に不備はないから、本件更正処分は適法である。

A 更正をするに当たり、ある事実の法的評価を納税者と異にする場合は、附記理由において、帳簿以上に信ぴょう力のある資料を摘示することまでは必要ではなく、そのような法的評価の判断に至った過程自体を具体的に明示する必要があると解される。

B 本件更正等通知書には、1本件参加利益契約は、請求人がK社に対して出資を行い、一定の金額を限度に出資に応じた配当を受ける旨を約す契約であったこと、2本件買戻合意は、本件参加利益契約を解除するものであったこと及び3本件損失額は、雑所得の基因となる資産の損失の金額に該当することが記載されており、原処分庁の法的評価の判断に至った過程自体を具体的に明示しているものと認められるから、本件更正処分の附記理由は、行政手続法第14条に規定する不利益処分の理由の提示として十分な記載である。

(ロ) 請求人
 以下のとおり、本件更正等通知書における本件更正処分の理由附記に不備があり、本件更正処分は違法であるから、本件更正処分は取り消されるべきである。

A 処分の理由は、更正通知書に附記された更正の理由の文面から明らかであることが必要であり、更正通知書には、原処分庁の判断過程を省略することなく、具体的に記載する必要があると解される。

B 本件更正等通知書には、原処分庁が、本件参加利益契約及び本件買戻合意について、どのような事実に基づき、配当を受ける旨を約す契約及び本件参加利益契約を解除する契約であると認定したのか、具体的な事実が摘示されておらず、その法的評価の判断に至った過程自体を明示したものではなく、更正処分庁の恣意抑制及び不服申立ての便宜という理由附記制度の趣旨から著しく逸脱するものであるから、行政手続法第14条に規定する不利益処分の理由の提示として不十分である。

ロ 判断

(イ) 法令解釈
 通則法第24条《更正》は、税務署長は、納税申告書に記載された課税標準等又は税額等の計算が国税に関する法律の規定に従っていなかったとき、その他当該課税標準等又は税額等がその調査をしたところと異なるときは、その調査により、課税標準等又は税額等を更正する旨規定し、同法第28条《更正又は決定の手続》第1項は、更正は、税務署長が更正通知書を送達して行う旨規定している。そして、更正によって課税標準等又は税額等が増加する場合は、その更正が不利益処分に当たることから、行政手続法第14条第1項の規定により、更正通知書にその理由を示さなければならないこととなる。
 行政手続法第14条第1項が、不利益処分をする場合に同時にその理由を名宛人に示さなければならないとしているのは、名宛人に直接に義務を課し又はその権利を制限するという不利益処分の性質に鑑み、行政庁の判断の慎重と合理性を担保してその恣意を抑制するとともに、処分の理由を名宛人に知らせて不服の申立てに便宜を与える趣旨に出たものと解される(最高裁平成23年6月7日第三小法廷判決・民集65巻4号2081頁参照)。

(ロ) 当てはめ
 本件更正等通知書には、上記1の(4)のホの(イ)のとおり、まず、本件参加利益契約は、請求人がK社に対して○○○○円の出資を行い、一定の金額を限度に当該出資額に応じた配当を受ける契約であったと認められるとして、本件参加利益契約の性質が示され、次いで、本件買戻合意は、本件参加利益契約を解除するものであったと認められるとして、原処分庁において、本件買戻合意を権利の譲渡ではなく契約の解除と捉えていることが明らかにされており、本件損失額が所得税法第33条第1項に規定する資産の譲渡により生じたものでないことが示されている。
 そして、上記1の(4)のホの(ロ)のとおり、本件参加利益契約により支払った本件拠出金と本件買戻合意により受け取った金員○○○○円との差額である本件損失額は、所得税法第51条第4項に規定する雑所得の基因となる資産の損失の金額に該当する旨記載されているところ、本件においては、本件参加利益契約に基づいて請求人が受領する分配金が雑所得に該当することについては当事者双方の間に争いはなく、同項に規定する資産損失の必要経費算入に係る各要件(1請求人が雑所得の基因となる資産を有していること、2請求人が同資産に関し損失を被ったこと及び3資産の損失が資産の譲渡又はこれに関連して生じたものでないこと)のうち、3の点のみについて請求人と原処分庁の判断が異なるものであるが、この点については、本件更正等通知書において、上記のとおりの原処分庁の判断の過程が示されている。
 したがって、本件更正等通知書における本件更正処分の理由附記に不備はない。

(ハ) 請求人の主張について
 請求人は、本件更正等通知書には、原処分庁において、本件参加利益契約は配当を受ける旨を約す契約であり、本件買戻合意は本件参加利益契約を解除する契約であると認定した根拠となる具体的な事実が摘示されておらず、また、その法的評価の判断に至った過程自体を明示したものではないから、更正処分庁の恣意抑制及び不服申立ての便宜という理由附記制度の趣旨から著しく逸脱したものである旨主張する。
 しかしながら、本件更正等通知書には、本件更正処分の理由として、1本件参加利益契約は、請求人がK社からJ社との本件匿名組合契約の持分の譲渡を受けるものではなく、本件匿名組合契約と別の契約をK社との間で締結したものであり、2請求人が買い戻したと主張する行為は、持分の譲渡ではなく契約の解除であることが記載されていることから、原処分庁が恣意的な判断をする余地は乏しい。加えて、上記(ロ)のとおり、請求人と原処分庁が判断を異にする点、すなわち、本件損失額が資産の譲渡等により生じたものであるか否かという点に関する原処分庁の判断の過程が明示されており、不服申立ての便宜も図られている。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。

(2) 争点2(本件損失額は、事業所得の金額等との損益通算が認められるか否か。具体的には、本件損失額は、譲渡所得の金額の計算上生じた損失の金額に該当するか否か。)について

イ 主張

(イ) 原処分庁
 以下のとおり、本件損失額は、所得税法第33条第1項に規定する資産の譲渡による所得には該当せず、雑所得の基因となる資産の損失に該当し、雑所得の金額を限度として雑所得の金額の計算上必要経費に算入されるから、他の所得と損益通算をすることはできない。

A 本件参加利益契約について

(A) 次のことから、本件参加利益契約によりK社の本件匿名組合契約の匿名組合員としての権利の一部が請求人に譲渡されたとは認められない。

a 本件参加利益契約と本件匿名組合契約では、配当(利益分配)の計算期間及び支払日、配当額(分配額)の計算根拠などの利益分配等に関する取決めが異なること。

b 本件参加利益契約では、本件匿名組合契約の解除、変更及び追加並びに当該契約に基づく匿名組合員としての権利の行使及び義務の履行は、K社の独自の裁量により行うことができるものとし、請求人の承認を要しないこととされており、本件参加利益契約と本件匿名組合契約では、匿名組合員としての権利義務の内容が異なること。

c 本件匿名組合契約では、当該契約の当事者は書面による事前の承諾なくして当該契約のいかなる権利、地位及び義務も第三者に譲渡してはならないとされているにもかかわらず、本件匿名組合契約に係る当事者等の承諾なく本件参加利益権を譲渡することは、本件匿名組合契約の定めに反するものであること。

(B) 次のことから、営業者をJ社、出資者を請求人とする匿名組合契約は、成立していないものと認められる。

a 請求人は、J社との間で匿名組合契約書を作成していない旨申述していること。

b J社の取締役兼関与税理士は、1匿名組合員としてJ社に出資しているのは、K社、H社及びR社だけであり、他に出資している者はいない旨、2J社が匿名組合損益計算書を作成しているのは、K社及びR社のみである旨及び3請求人とは面識がなく、また、本件匿名組合契約において、請求人との関係は全くない旨申述していること。

(C) 請求人及びLの各申述等によれば、本件参加利益契約に基づき請求人がK社に対して出資金を支払ったと認められることや、本件参加利益契約に基づき請求人がK社から金員を受領したことなどの外形的事実を参酌して請求人及びK社の合理的意思を解釈すると、本件参加利益契約は、請求人がK社の行う営業(K社が本件匿名組合契約に出資して利益を得る営業)に対して出資をし、K社はその営業から生ずる利益を請求人に分配することを約したものと解され、請求人とK社との間で新たな匿名組合契約が締結されたものと認めるのが相当である。

B 本件買戻合意について

(A) 上記Aの(C)の契約解釈を踏まえると、本件買戻合意は、請求人及びK社の合意により、同(C)にいう新たな匿名組合契約を終了させる合意であると解される。

(B) そうすると、K社は、当該匿名組合契約の終了により、請求人に対して商法第542条《匿名組合契約の終了に伴う出資の価額の返還》に規定する出資の価額の返還を行うことになるから、請求人には本件拠出金相当額の出資金返還請求権が、K社には本件拠出金相当額の返還義務が生じることになる。

C 本件損失額について

(A) 上記Bの(B)のとおり、請求人は、K社に対して本件拠出金相当額の出資金返還請求権があるにもかかわらず、同社からの返還額を○○○○円で合意したことにより、返還を受けられなかった本件損失額○○○○円は、当該匿名組合契約の終了に基づき、匿名組合出資金に生じた損失と認められる。

(B) そして、匿名組合契約に基づく営業者から受ける利益の分配は、原則として雑所得に該当するものであることからすれば、本件拠出金は、雑所得の基因となる資産であって、上記の本件損失額は、雑所得の基因となる資産の損失となるから、所得税法第51条第4項に規定する資産損失に該当することとなる。

D なお、商法上の匿名組合契約は、一般に、その法的性質について有償双務の諾成契約とされ、また、その法律構成についても営業者と匿名組合員との二当事者間の関係を前提とされていることからすれば、匿名組合契約において、営業者自身がその人格において匿名組合員の地位を譲り受けることは予定されていない。
 そして、請求人が引用する租税特別措置法第67条の12《組合事業等による損失がある場合の課税の特例》第1項の規定や平成14年7月1日裁決(大裁(所)平14第2号)も、それぞれ匿名組合員又はその承継者・譲受者と営業者という二当事者の関係が存在することを前提としているから、これらを根拠に、営業者が匿名組合員の地位を譲り受けることが可能であると解釈することはできない。

(ロ) 請求人
 以下のとおり、本件損失額は、匿名組合員の地位の譲渡により発生した損失であり、譲渡所得の金額の計算上生じた損失の金額に該当するから、他の所得と損益通算をすることができる。

A 本件参加利益契約について
 下記(A)ないし(C)からして、本件参加利益契約は、本件匿名組合契約の営業者であるJ社に対する匿名組合出資に係る契約であり、また、本件拠出金は、譲渡所得の対象となる資産である匿名組合出資の性質を有する金員であることが明らかである。

(A) 本件参加利益契約書には、1K社がJ社と本件匿名組合契約を締結していること(第1条第1項)を前提に、2K社は、請求人に対し、本件匿名組合契約に基づきJ社から分配を受け取る権利を譲渡すること(第1条第2項)及び3当該譲渡により本件参加利益権に係る経済的利益とリスクは、完全に請求人に移転し(第1条第3項)、その譲渡対価が○○○○円であること(第2条)が明記されている(なお、括弧内の条番号はいずれも本件参加利益契約書の条番号を指す。以下同じ。)。

(B) また、本件参加利益契約書には、本件参加利益権の内容として、年率○○%を上限とする利益の配当受領権、出資額の比率に応じたキャピタルゲイン受領権が約定されており(第3条第1項及び第2項)、また、本件拠出金の払戻し及び毀損に関しても損失額の補填は出資額の比率に応じて負担する旨定められている(第4条第2項)ことからも、その性質上、譲渡所得の対象となる資産である匿名組合出資であることに疑問の余地はない。

(C) そして、Lは、平成26年3月11日付及び同年6月11日付の各回答書において、1本件参加利益契約書は、請求人が本件匿名組合契約への匿名組合出資を行うために作成した旨、2請求人が直接J社と匿名組合契約を結ぶとH社との利益相反の可能性があったので、K社を介在させた形式とした旨、3本件参加利益契約の内容は、実質的に匿名組合契約であり、参加利益契約というのは標題にすぎない旨、4本件拠出金は、請求人が匿名組合員の地位を取得するために支払った金額である旨及び5双方の合意は、請求人が本件匿名組合契約へ匿名組合出資をするというものであり、営業者をJ社、匿名組合員を請求人とする二当事者間の契約である旨述べており、本件拠出金がJ社に対する匿名組合出資であることを明言しているところ、Lと請求人の認識は完全に一致している。

B 本件買戻合意について

(A) 本件買戻合意書には、K社が請求人から本件参加利益権を○○○○円で買い戻し、同社が3回に分割して請求人へ支払うこと、その上で、本件参加利益契約を解約することが約定されている。

(B) 同種のファンド実務の商慣習として、財産の移動又は移転と契約に基づく権利義務を別々に考え、財産の買戻しを先行させた後に原契約を解約する手法が定着しているところ、本件買戻合意書においても、この商慣習に従って、第1条において、本件参加利益権の買戻しと本件参加利益契約の解約を別建てとしている。

(C) したがって、本件参加利益権の買戻代金○○○○円は、請求人がK社に譲渡した匿名組合出資(匿名組合員としての地位)の対価という性質を有する金員であることは明らかである。

C 本件損失額について
 本件拠出金は、上記Aのとおり、譲渡所得の対象となる資産である匿名組合出資の性質を有する金員であり、また、本件参加利益権の買戻代金○○○○円は、同Bのとおり、請求人がK社に譲渡した匿名組合出資の対価という性質を有する金員であることから、本件損失額は、匿名組合員の地位の譲渡により発生した損失であり、譲渡所得の金額の計算上生じた損失の金額に該当する。

D なお、仮に、原処分庁が主張するように、本件参加利益契約がK社を営業者とし請求人を匿名組合員とする新たな匿名組合契約であったとしても、本件参加利益契約書に匿名組合員が営業者にその地位を譲渡することを禁止する特約が規定されていない以上、本件買戻合意により、請求人の当該匿名組合員としての地位をK社に譲渡することは商法上有効である。
 このことは、1匿名組合の実務においてそのような譲渡は一般的に行われていること、2租税特別措置法第67条の12第1項は、匿名組合員の地位の譲渡が行われることを前提とした規定であること及び3平成14年7月1日裁決(大裁(所)平14第2号)において、匿名組合員たる地位の譲渡が可能である旨明言されていることからしても、明らかである。
 したがって、仮に、原処分庁が主張するように本件参加利益契約は新たな匿名組合契約であったとしても、請求人は、本件買戻合意により、匿名組合員の地位、すなわち、金銭債権には当たらない資産をK社に譲渡したものであるから、本件損失額は、譲渡所得の金額の計算上生じた損失となる。

ロ 判断

(イ) 法令解釈

A 匿名組合契約では、法律的には営業者が単独で事業を行い、出資者との間に団体的法律関係は存在しないが、経済的に見れば営業者と出資者との共同事業であることから、匿名組合契約が経済的には共同事業であることを反映して、匿名組合員には営業者の業務及び財産の状況を検査する権利(監視権)を有するとされていることから、匿名組合員というためには、その組合員に監視権が認められていることが必要であると解される。

B また、匿名組合契約とは、当事者の一方(匿名組合員)が相手方(営業者)の営業のために出資をし、相手方がその営業から生ずる利益を分配することを約する有償双務の諾成契約であるから、匿名組合員は、営業者の同意がない限り、その地位を他人に譲渡することはできないと解するのが相当である。

(ロ) 認定事実
 原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。

A 本件参加利益契約書の作成に至る経緯について

(A) Lは、平成16年9月中旬頃、請求人が代表取締役を務めていたH社から、同社所有の不動産(d市j町に所在する土地)の流動化に関する依頼を受け、J社を営業者とする匿名組合方式による当該不動産の流動化スキーム(以下「本件流動化スキーム」という。)を組成した。

(B) 請求人は、平成16年9月末頃、Lから、本件流動化スキームに対する出資を依頼され、1出資額の○○%の利益の分配を受けること及び2出資持分に応じた当該不動産の売却益の分配を受けることを条件として、○○○○円を出資することで合意した。

(C) 請求人は、上記(B)の合意に基づき、上記1の(4)のハの(イ)のとおり、本件拠出金をLが指定した口座へ送金した。

(D) Lは、平成17年秋頃、上記(B)の合意に基づく本件参加利益契約書を作成して、同契約書に請求人は署名押印し、LはK社のDirectorとしてサインした。

B 本件拠出金について
 K社作成の同社の請求人口座に係る各資料には、1平成20年12月31日現在における請求人の出資に係る残高は○○○○円であり、同年3月5日に期間利益の分配として○○○○円を支払った旨、2平成21年11月11日現在における請求人の出資に係る残高は○○○○円であり、同年3月5日に期間利益の分配として○○○○円を支払った旨がそれぞれ記載されており、これらの期間利益の分配に関する記載内容は、上記1の(4)のハの(ロ)のとおりのK社の支払状況と符合するから、本件拠出金は、同(イ)の送金後、K社において留保されていたものと認められる。

C J社と他の匿名組合員との間の匿名組合契約等について

(A) J社は、平成16年9月30日、H社との間で、J社を営業者としH社を出資者とする劣後匿名組合契約を締結し、同日付で、本件匿名組合契約書と同旨の内容が記載された「劣後匿名組合契約書」を取り交わした。

(B) H社は、平成22年6月25日、K社に対し、上記(A)の匿名組合契約上の権利義務その他匿名組合員としての地位を一括して譲渡し、同日付で、K社及びJ社との間で、J社は当該譲渡を承諾する旨などが記載された「匿名組合契約地位譲渡契約書」を取り交わした。

(C) J社は、平成22年7月21日、R社との間で、J社を営業者としR社を出資者とする匿名組合契約を締結し、同日付で、本件匿名組合契約書と同旨の内容が記載された「匿名組合契約書」を取り交わした。

(ハ) 当てはめ

A 本件参加利益契約の内容について

(A) 前提として本件参加利益契約書の信用性について検討するに、上記1の(4)のロの(ロ)のとおり、請求人の署名押印及びK社のDirectorとしてLのサインがされているという体裁や、同契約書の記載内容に加え、当事者が、文書の成立の真正について特段問題にする具体的主張をしていないことからすると、事後的に作成された点を踏まえても、同契約書は、請求人及びK社の意思に基づいて作成された真正な文書であると認められる。
 以上の点に加え、本件参加利益契約書の内容は、作成に至る経緯(上記(ロ)のA)とも整合性があること、さらに、1請求人は本件拠出金をLが指定した口座へ送金しており(上記1の(4)のハの(イ))、本件参加利益契約書第2条に沿うものであること、2K社は、請求人に対して、期間利益の分配をしており(同(ロ))、同契約書第3条第1項に沿うものであること及び3本件拠出金はK社において留保されており(上記(ロ)のB)、同契約書第4条第1項に沿うものであることなど、請求人及びK社において、同契約書の条項に沿う権利義務の履行がなされていることを併せると、同契約書の信用性は高いというべきである。よって、本件参加利益契約書の記載に沿う内容こそが本件参加利益契約の内容であると認めるのが相当であり、その記載内容と別異に解すべき特段の事情も見当たらない。

(B) 続いて、本件参加利益契約書の記載を踏まえて、本件参加利益契約の内容を検討する。
 本件参加利益契約書の条項をみると、1期間利益の分配は、飽くまでもK社からのみ請求人へ支払われること(別紙の2の(5)のイ及びハ)、2本件拠出金の払戻しも、期間利益の分配と同様に、K社からのみ行われること(同(6)及び(7))、3請求人は、J社と直接の関係が一切存在しないこと(同(8))、4K社の本件匿名組合契約に係る匿名組合員としての権利の行使及び義務の履行は、K社のみが行い、請求人は何らの権限を有しないこと(同(9))とされている。これらの条項からすると、請求人とJ社との関係は、飽くまでK社を間に挟んだ間接的な関係にすぎず、直接の法律関係は存在しないものと認められる。
 さらに、上記(イ)のAのとおり、匿名組合員には監視権が認められていることが必要であると解されるところ、本件匿名組合契約では、出資者の権利として、K社に監視権が認められているものの(別紙の1の(8)及び(9))、本件参加利益契約書では、上記4のとおり、本件匿名組合契約に関し、請求人は何らの権限を有しないこととされていることからすると、請求人は、本件参加利益契約によって、本件匿名組合契約に係る匿名組合員の地位を取得したものとは認められない。

(C) 以上のことからすると、本件参加利益契約は、請求人が本件拠出金を拠出した見返りとして、K社が享受する本件匿名組合契約に係る利益の一部の分配を受けるという契約(本件参加利益権に基づく利益の分配に係る契約)であると認められ、本件匿名組合契約の営業者であるJ社に対する匿名組合出資に係る契約ではないといえる。

B 本件買戻合意の内容について

(A) 前提として本件買戻合意書の信用性について検討するに、上記1の(4)のロの(ハ)のとおり、請求人の署名押印及びK社のDirectorとしてLのサインがされているという体裁や、同合意書の記載内容に加え、当事者が、文書の成立の真正について特段問題にする具体的主張をしていないことからすると、同合意書は、請求人及びK社の意思に基づいて作成された真正な文書であると認められる。
 以上の点に加え、K社が、上記1の(4)のハの(ハ)のとおり、請求人に対して、本件参加利益権の買戻代金を支払っており、本件買戻合意書の条項第2条第1項に沿うものであることをも踏まえると、同合意書の記載に沿う内容こそが本件買戻合意の内容であると認めるのが相当であり、その記載内容と別異に解すべき特段の事情も見当たらない。

(B) そして、本件買戻合意書の条項(別紙の3の(1))によれば、本件参加利益権の買戻しと本件参加利益契約の解約を別建てとする法形式を採っているところ、本件参加利益契約は、上記Aの(C)のとおり、本件参加利益権に基づく利益の分配に係る契約であって、請求人及びK社の二当事者間でなければ成立し得ない法律関係にあることからすると、本件買戻合意は、その法律関係が今後とも成立し続け得ることを前提とする本件参加利益権の買戻しとは認められず、本件参加利益契約の解約であると認めるのが相当である。
 そうすると、本件買戻合意によって、K社には、本件拠出金相当額の返還義務が生じることになり、一方、請求人には、本件拠出金相当額の返還請求権が生じることになったものであると認められる。

(C) 以上のことからすると、上記1の(4)のハの(ハ)の本件参加利益権の買戻代金としての○○○○円は、上記(B)のK社の本件拠出金相当額の返還義務(請求人の本件拠出金相当額の返還請求権)に基づき、請求人及びK社の二当事者間で合意した返還額であって、請求人からK社に対する匿名組合出資(匿名組合員としての地位)の譲渡の対価とは認められない。

C 本件損失額の評価について

(A) 本件損失額(○○○○円)は、本件参加利益契約に基づく本件拠出金(○○○○円)と本件買戻合意に基づく本件参加利益権の買戻代金(○○○○円)との差額であるが、既に述べたとおり、1本件参加利益契約が、本件参加利益権に基づく利益の分配に係る契約であること、2本件買戻合意が、本件参加利益契約の解約であり、また、当該買戻代金が、K社の本件拠出金相当額の返還義務に基づき、請求人及びK社の二当事者間で合意した返還額であることからすると、本件買戻合意によって、本件拠出金相当額の返還請求権が生じることとなったものの、請求人及びK社の二当事者間で同請求権に基づく返還額を○○○○円で合意した結果、本件損失額の発生に至ったものと認められる。

(B) これを踏まえて検討するに、本件参加利益権に基づく期間利益の分配は、J社からK社に分配する現金分配金の金額を上限として、本件拠出金に対して年率○○%の配当が請求人に支払われるものであること(別紙の2の(5)のイ)からすると、利子所得、配当所得、不動産所得、事業所得、給与所得、退職所得、山林所得、譲渡所得及び一時所得のいずれにも該当せず、所得税法第35条第1項の規定により雑所得に該当するものと認められる。
 そして、本件参加利益権に基づく期間利益の分配は、上記Aの(C)のとおり、請求人が本件拠出金を拠出した見返りとして、K社から分配を受けるものであることから、本件拠出金は、雑所得の基因となる資産に該当すると認められる。

(C) 以上のことからすると、本件損失額は、雑所得の基因となる資産に該当する本件拠出金に係る損失の金額であると認められるから、本件損失額は、譲渡所得の金額の計算上生じた損失の金額とはいえず、本件損失額を事業所得等の金額と損益通算することはできない。
 なお、上記1の(4)のニの(イ)のとおり、平成22年分の雑所得に係る収入金額が○○○○円であり、また、雑所得に係る貸倒損失が○○○○円であり、所得税法第51条第4項の規定により、雑所得の金額は○○○○円であるから、本件損失額が同項に規定する資産損失に該当するか否かを判断するまでもなく、雑所得の金額は○○○○円となる。

(ニ) 請求人の主張について

A 本件参加利益契約に関する請求人の主張(上記イの(ロ)のA)について
 請求人は、本件参加利益契約書の条項及びLの各回答書の内容からして、本件参加利益契約は、本件匿名組合契約の営業者であるJ社に対する匿名組合出資に係る契約であり、本件拠出金は、譲渡所得の対象となる資産である匿名組合出資の性質を有する金員であることが明らかである旨主張する。
 しかしながら、本件参加利益契約は、上記(ハ)のAの(C)のとおり、本件参加利益権に基づく利益の分配に係る契約であって、本件匿名組合契約の営業者であるJ社に対する匿名組合出資に係る契約であるとはいえず、また、本件拠出金は、同Cの(B)のとおり、雑所得の基因となる資産に該当すると認められる。
 また、上記(イ)のBのとおり、匿名組合員の地位は、営業者の同意がない限り、他人に譲渡できないと解されるところ、1本件匿名組合契約では、貸主の事前の書面による承諾なく、同契約上のいかなる権利、地位及び義務も第三者に譲渡できないこと(別紙の1の(10))、2J社を営業者としH社を出資者とする別件の匿名組合契約の譲渡の際には、J社がH社とK社との間の匿名組合員の地位の譲渡を承諾していること(上記(ロ)のCの(B))、3本件参加利益契約では、請求人はJ社と直接の関係は一切存在せず、いかなる接触もしてはならないとされていること(別紙の2の(8))からすると、本件参加利益契約自体は、およそ匿名組合員の地位の譲渡を念頭に置いたものということはできない。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。

B 本件買戻合意に関する請求人の主張(上記イの(ロ)のB)について
 請求人は、本件買戻合意書では、同種のファンド実務の商慣習に従い、本件参加利益権の買戻しと本件参加利益契約の解約を別建てとしており、本件参加利益権の買戻代金○○○○円は、請求人がK社に譲渡した匿名組合出資(匿名組合員としての地位)の対価という性質を有する金員であることは明らかである旨主張する。
 しかしながら、本件買戻合意は、上記(ハ)のBの(B)のとおり、本件参加利益契約の解約であり、また、本件参加利益権の買戻代金○○○○円は、同(C)のとおり、K社の本件拠出金相当額の返還義務に基づき、請求人及びK社の二当事者間で合意した返還額であって、請求人からK社に対する匿名組合出資(匿名組合員としての地位)の譲渡の対価には当たらない。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。

C 本件損失額に関する請求人の主張(上記イの(ロ)のC及びD)について
 請求人は、1本件損失額は、匿名組合員の地位の譲渡により発生した損失であり、また、2仮に、本件参加利益契約がK社を営業者とし請求人を匿名組合員とする新たな匿名組合契約であったとしても、請求人は、本件買戻合意により、匿名組合員の地位(金銭債権には当たらない資産)をK社に譲渡したのであるから、本件損失額は、譲渡所得の金額の計算上生じた損失となる旨主張する。
 しかしながら、本件損失額は、上記(ハ)のCの(A)及び(B)のとおり、本件拠出金相当額のうち本件買戻合意によって返還されなかった部分の金額であり、また、雑所得の基因となる資産に該当する本件拠出金に係る損失の金額であるから、本件損失額は、譲渡所得の金額の計算上生じた損失とは認められない。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。

(3) 争点3(仮に、通則法第65条第1項に規定する「更正に基づき同法第35条第2項の規定により納付すべき税額」が生じていた場合、通則法第65条第4項に規定する正当な理由があると認められる場合に該当するか否か。)について

イ 主張

(イ) 請求人
 以下のとおり、本件の場合、通則法第65条第4項に規定する正当な理由があると認められる場合に該当する。

A 通則法第65条第4項に規定する正当な理由があると認められる場合とは、「真に納税者の責めに帰することのできない客観的な事情があり、過少申告加算税の趣旨に照らしても、なお、納税者に過少申告加算税を賦課することが不当又は酷になる場合をいう」とされている。

B 請求人は、J社に対して匿名組合出資をしたのであり、原処分庁が主張するような他の匿名組合員との利益分配等に関する取決めや匿名組合員としての権利義務の内容が異なるなどという事実関係について不知である上、本件参加利益契約が匿名組合契約に相当するという認識は全くなく、Lからも本件損失額は譲渡所得に係る損失であり損益通算できると聞かされていたのであるから、真に請求人の責めに帰すべき事情は存在しない。
 また、過少申告加算税は「適正な申告をしない者に対して一定の制裁を加え、もって申告秩序を維持しようとするもの」とされており、このような過少申告加算税の趣旨に照らしても、本件賦課決定処分は不当又は酷である。
 したがって、本件損失額を譲渡所得の金額の計算上生じた損失の金額とした確定申告は、通則法第65条第4項に規定する正当な理由があると認められる場合に該当する。

(ロ) 原処分庁
 以下のとおり、本件の場合、通則法第65条第4項に規定する正当な理由があると認められる場合には該当しない。

A 通則法第65条第4項に規定する正当な理由があると認められる場合とは、過少申告が真にやむを得ない理由によるものであり、納税者に過少申告加算税を課すことが不当又は酷になる場合を意味するものであって、単に納税者が税法を知らなかったことや誤解したことに基づく過少申告は、これに該当しない。

B 請求人の主張する事情は、事実関係の確認を怠ったことによる誤解に基づくものや税法の不知に基づくものであり、請求人の責めに帰すべき事情に他ならないから、通則法第65条第4項に規定する正当な理由があると認められる場合に該当しない。

ロ 判断

(イ) 法令解釈
 通則法第65条第1項に規定する過少申告加算税は、過少申告による納税義務違反の事実があれば、原則としてその違反者に対して課されるものであり、これによって、当初から適正に申告し納税した納税者との間の客観的不公平の実質的な是正を図るとともに、過少申告による納税義務違反の発生を防止し、適正な申告納税の実現を図り、もって納税の実を挙げようとする行政上の措置である。
 過少申告加算税の上記の趣旨に照らせば、通則法第65条第4項にいう「正当な理由があると認められる場合」とは、真に納税者の責めに帰することのできない客観的な事情があり、上記のような過少申告加算税の趣旨に照らしても、なお、納税者に過少申告加算税を賦課することが不当又は酷になる場合をいうものと解するのが相当である(最高裁平成18年4月20日第一小法廷判決・民集60巻4号1611頁参照)。

(ロ) 当てはめ
 請求人は、1原処分庁が主張するような事実関係(他の匿名組合員との取決内容等に係る事実関係)について不知であり、2本件参加利益契約が匿名組合契約に相当するという認識はなく、3Lからも、本件損失額は譲渡所得に係る損失であり、損益通算できると聞かされていたのであるから、真に請求人の責めに帰すべき事情は存在せず、また、過少申告加算税の趣旨に照らしても、本件賦課決定処分は不当又は酷であるから、請求人には、通則法第65条第4項に規定する正当な理由がある旨主張する。
 しかしながら、本件損失額が所得税法上どのように取り扱われるかは、上記(2)のロの(ハ)のA及びBのとおり、基本的に、請求人とK社との間で作成された契約書ないし合意書の記載内容を踏まえて判断できるのであって、請求人のいう上記1の事実関係について、請求人が不知であるからといって直ちに当該判断に影響を与えるものではなく、また、同2の点は、請求人の主観をいうにすぎず、同3の点は、利害関係を有する一私人の発言にとどまる。結局、いずれにせよ、真に請求人の責めに帰することのできない客観的な事情があるとは認められず、過少申告加算税の趣旨に照らしても、なお、請求人に過少申告加算税を賦課することが不当又は酷になる場合に当たらない。
 したがって、請求人に通則法第65条第4項にいう「正当な理由」があるとは認められない。

(4) 本件更正処分について

上記(2)のとおり、本件損失額は、雑所得の基因となる資産に係る損失の金額であって、譲渡所得の金額の計算上生じた損失の金額とは認められず、事業所得等の金額と損益通算することはできないから、これに基づき、平成22年分の総所得金額、納付すべき税額、翌年へ繰り越す純損失の金額及び翌年へ繰り越す株式等に係る譲渡損失の金額をそれぞれ算定すると、総所得金額が○○○○円、納付すべき税額が○○○○円、翌年へ繰り越す純損失の金額が○○○○円及び翌年へ繰り越す株式等に係る譲渡損失の金額が○○○○円となり、これらの各金額は、いずれも本件更正処分の額と同額となるから、本件更正処分は適法である。

(5) 本件賦課決定処分について

上記(4)のとおり、本件更正処分は適法であり、また、上記(3)のとおり、本件更正処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が本件更正処分前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、通則法第65条第4項に規定する正当な理由があるとは認められないことから、同条第1項及び第2項に基づきなされた本件賦課決定処分は適法である。

(6) その他

原処分のその他の部分については、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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