相続税の課税価格の計算

非課税財産

  1. 分割財産に係る課税価格
  2. 非課税財産(3件)
  3. 債務控除
  4. 相続開始前3年以内の贈与
  5. その他

相続により取得した土地は、宗教法人である寺院の尊厳を維持するための土地であるから非課税財産である旨の請求人の主張を排斥した事例

裁決事例集 No.67 - 491頁

  1.  相続税法第12条第1項第2号の適用について
     民法第896条は、相続人は、相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継すると規定するが、同法第897条第1項において、系譜、祭具及び墳墓の所有権は、前条の規定にかかわらず、慣習に従って祖先の祭祀を主宰すべき者がこれを承継すると規定し、一般の相続財産とは別個に承継されるべきことを規定している。この民法第897条第1項に規定する「系譜、祭具及び墳墓」と相続税法第12条第1項第2号に規定する「墓所、霊びょう及び祭具並びにこれらに準ずるもの」とは、その範囲を同じくすると解される。
     これを本件についてみると、本件甲土地はK寺の境内地と同様に管理している山林であり、請求人らの祖先を祭祀するための墓所等の尊厳の維持に要する土地として利用されている事実は認められないから、本件甲土地は同号に規定する非課税財産に該当しない。
  2.  相続税法第12条第1項第3号の適用について
     相続税法第12条第1項第3号は、宗教、慈善、学術その他公益を目的とする事業を行う者が相続等により取得した財産であることが要件であるところ、請求人らは、本件相続開始日において、請求人らが個人として公益を目的とする事業を行っていた事実は認められないから、本件甲土地は同号に規定する財産に該当するとは認められない。
     租税特別措置法第40条は、所得税法第59条の適用による譲渡所得を、一定の要件(受贈者の公益性、事業性等)を満たした場合に非課税とするものであって、また、相続税法第12条第1項第3号は、相続財産が一定の要件を満たした場合に相続税を非課税とする規定であり、各々非課税とする対象が異なり、また各々に規定する非課税となるための要件も異なるのであるから、租税特別措置法第40条の規定をもって、同号の適用を判断することはできない。

トップに戻る

被相続人が配偶者のために負担した介護付有料老人ホームの入居金は、相続税法第21条の3第1項第2号に規定する「扶養義務者相互間において生活費に充てるためにした贈与により取得した財産のうち通常必要と認められるもの」に該当するから、当該入居金は相続開始前3年以内の贈与として相続税の課税価格に加算する必要はないとした事例

平成22年11月19日裁決

 原処分庁は、本件被相続人の配偶者(本件配偶者)が介護付有料老人ホーム(本件老人ホーム)へ入居する際の入居金(本件入居金)を本件被相続人が支払ったことについて、本件入居金のうち定額償却部分については、生活保持義務の履行のための前払金的性格を有するものであり、本件配偶者はその履行に係る役務提供を受けていない部分について返還義務があるから、本件被相続人は本件配偶者に対して金銭債権を有している旨主張する。
 しかしながら、本件配偶者は、本件被相続人が本件入居金を支払ったことにより、本件老人ホームに入居し介護サービスを受けることができることになったところ、本件配偶者には本件入居金を一時に支払うに足る資産がないこと等にかんがみれば、本件入居金は、本件被相続人がこれを支払い、本件配偶者に返済を求めることはしないというのが、本件被相続人及び本件配偶者間の合理的意思であると認められるから、本件入居金支払時に、両者間で、本件入居金相当額の金銭の贈与があったと認めるのが相当である。加えて、本件配偶者は高齢かつ要介護状態にあり被相続人による自宅での介護が困難になり、介護施設に入居する必要に迫られ本件老人ホームに入居したこと、本件入居金を一時に支払う必要があったこと、本件配偶者には本件入居金を一時に支払う金銭を有していなかったため本件被相続人が代わりに支払ったこと、本件被相続人にとって本件入居金を負担して本件老人ホームに本件配偶者を入居させたことは、自宅における介護を伴う生活費の負担に代えるものとして相当であると認められること及び本件老人ホームは本件配偶者の介護生活を行うための必要最小限度のものであったことが認められることからすれば、本件入居金相当額の金銭の贈与は、本件においては、介護を必要とする本件配偶者の生活費に充てるために通常必要と認められるものであると解するのが相当である。
 したがって、本件入居金相当額の金銭は、相続税法第21条の3《贈与税の非課税財産》第1項第2号に規定する贈与税の非課税財産に当たるから、その贈与が本件相続の開始前3年以内に行われているとしても、同法第19条《相続開始前3年以内に贈与があった場合の相続税額》の規定が適用されるものでもない。

《参照条文等》
 相続税法第19条第1項、第21条の3第1項第2号

トップに戻る

被相続人が配偶者のために負担した有料老人ホームの入居金は、贈与税の非課税財産に該当しないから、当該入居金は相続開始前3年以内の贈与として相続税の課税価格に加算する必要があるとした事例

平成23年6月10日裁決

《ポイント》
 被相続人が配偶者のために負担した有料老人ホームの入居金が贈与税の非課税財産(相続税法第21条の3第1項第2号)に該当するか否かについて、平成22年11月19日裁決(裁決事例集No.81)では非課税財産に該当すると判断したのに対し、本事例は、非課税財産に該当しないと判断したものである。

《要旨》
 請求人は、請求人及び本件被相続人が本件相続開始の約2か月半前に入居した老人ホーム(本件老人ホーム)の入居金(本件入居金)を本件被相続人が支払ったことについて、本件入居金の性質は終身利用権の対価であり、請求人は本件被相続人から終身利用権を死因贈与により取得したことになるところ、終身利用権は一身専属権であって贈与税の対象とはならないから、相続開始前3年以内の贈与として本件相続税の課税価格に加算されない旨主張する。
 しかしながら、本件被相続人は、自らに支払義務のない請求人に係る入居金のうちの一部に相当する金額を支払ったものであり、これによって請求人は、入居金全額の支払によって初めて取得することのできる施設利用権を、低廉な支出によって取得したものと認められることからすると、請求人は著しく低い対価で本件老人ホームの施設利用権に相当する経済的利益を享受したものということができ、本件被相続人と請求人との間に実質的に利益の移転があったことは明らかであるから、相続税法第9条により、請求人は、その利益を受けた時における当該利益の価額に相当する金額を本件被相続人から贈与により取得したものとみなすのが相当である。また、本件入居金は極めて高額であり、請求人に係る居室面積も広く、本件老人ホームの施設の状況等をかんがみれば、本件老人ホームの施設利用権の取得のための金員は、社会通念上、日常生活に必要な住の費用であるとは認められないから、相続税法第21条の3《贈与税の非課税財産》第1項第2号の規定する「生活費」には該当せず、贈与税の非課税財産に該当しない。したがって、贈与により取得したものとみなされた金額は、相続開始前3年以内の贈与として本件相続税の課税価格に加算されることとなる。

《参照条文等》
 相続税法第21条の3第1項第2号、第19条第1項
 相続税法基本通達21の3−3、21の3−6

《参考判決・裁決》
 平成22年11月19日裁決(裁決事例集No.81)

トップに戻る