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国税と他の債権との調整

法定納期限等以前に設定された質権の優先

  1. 譲渡担保
  2. 法定納期限等以前に設定された質権の優先(2件)

株式に根質権を設定した後、質権者がその株券を質権設定者に返還し、改めて預金債権に質権を設定した場合に、その預金の差押えに係る配当において、株券の質権設定日と法定納期限等とで優劣を決すべきであるとの請求人の主張が排斥された事例

裁決事例集 No.59 - 427頁

 債権に質権が設定されたのは、滞納国税の法定納期限等の後となり、この質権については国税徴収法第15条1項は適用されず、本件取立金は、同法8条の規定により、質権により担保される請求人の債権に優先して、滞納国税に配当されることになり、配当処分は適法である。
 また、民法第350条において準用する同法第304条1項は、質権はその目的財産の売却、賃貸、滅失又は毀損によって質権設定者が受けるべき金銭その他の物に対しても行うことができる旨規定し、質権の効力は、質権の目的財産だけでなく、異体化した当該財産の交換価値にも及ぶとしている。そして、この規定の趣旨からすれば、「売却、賃貸、滅失又は毀損」は例示で、交換も含まれると解される。
 しかし、請求人は、株式を根質権の目的財産から除外し根質権を解除した上で、滞納会社が第三債務者に金銭を預け入れることにより生じた預金債権に質権を設定したのであり、預金債権は、株式との交換によって根質権の設定者である滞納会社が受けるべき金残その他の物に該当しないことは明らかである。
 したがって、根質権の効力は預金債権に及ばないというべきであり、請求人の主張には理由がない。

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債権を目的とする質権の設定承諾請求書に当該債権の債務者が記名押印して承諾したことは認められるものの、当該請求書に確定日付が付されていないから、質権者である請求人は当該債権を差し押さえた原処分庁に対抗することができないとした事例

裁決事例集 No.77 - 543頁

 本件質権により担保される請求人の債権が本件滞納国税に優先するには、請求人が原処分庁に対し、国税徴収法第15条第2項に規定する方法により、本件質権が本件滞納国税の法定納期限等以前に設定されたことを証明する必要があり、指名債権に対する質権が滞納国税の法定納期限等以前に設定されたことが証明されたといい得るためには、第三債務者に対する質権設定の通知又は第三債務者による質権設定の承諾が確定日付のある証書によって行われることを要し、かつ、当該証書に付された確定日付が滞納国税の法定納期限等以前のものであることを要するところ、本件の第三債務者が本件質権の設定の通知を受け、これを承諾した本件質権設定承諾請求書には確定日付が付されておらず、請求人は、本件質権の設定を第三者である原処分庁に対抗することができないから、本件滞納国税の法定納期限等以前に本件質権が設定されたことが証明されたということはできない。
 これに対し、請求人は、第三債務者が本件質権の設定を承諾した証書には確定日付が付されていないが、本件生命保険証券には質権設定を第三債務者が承認する旨の裏書があり、かつ、確定日付が付されているので、両証書を一体とみなし得る事情が存在し、本件質権は上記確定日付の年月日に設定されたものとみなされるから、本件質権は本件滞納国税の法定納期限等以前に設定されたことが証明されたものといえる旨主張する。
 しかしながら、上記裏書事項は、第三債務者が保険金支払請求権上に質権が設定されることを承認するということが記載されているにすぎず、その文言からは、請求人が質権者であることも、設定される質権により担保される債権が本件被担保債権であることもうかがうことはできず、まして、これを質権設定契約書とみることもできないのであるから、本件生命保険証券に確定日付が付されていることをもって、第三債務者の承諾が確定日付のある証書によってなされたものとみることはできない。また、請求人の主張を認めると、質権が設定される債権の債権者と債務者が共謀して、質権設定日をさかのぼらせ、第三者の権利を害することが可能となり、承諾が第三者に対する対抗要件足り得るためには、確定日付のある証書をもってすることを必要としている法の趣旨を没却してしまうことになりかねない。そうすると、本件質権が第三者である原処分庁に対する対抗要件を備えていない以上、本件質権は、本件滞納国税の法定納期限等以前に設定されたことが証明されたものということはできないから、この点に関する請求人の主張には理由がない。

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