或る転機

ペンネーム:グリーンティー

 私は、保育園児と小学生の子どもを持つ弁護士でした。弁護士の頃は、日中は打ち合わせや外回りを中心に業務を進め、保育所の迎えの時間までには帰宅し、帰宅後は子どもを寝かしつけてから、持ち帰った文献、判例の調査や起案をすることもありました。やりがいは大きかったものの、常に締め切りに追われている状況であり、多忙でした。また、いつ緊急案件が発生するかわからないため、長期的な休暇予定なども立てづらい状況でした。
 そんな中、国税審判官(特定任期付職員)を経験した知人から、審判所がワークライフバランスのとれた執務環境であることを聞き、以前から、一度、弁護士と異なった立場、視点での仕事を経験してみたい、専門分野を身に付けたいという思いもあって、応募を決意しました。
 審判所では、自宅に持ち帰って仕事をすることが認められていませんので、起案を含むすべての業務を日中に終了させなければなりません(もちろん仕事の総量がそれを可能とさせる部分もありますが)。一方で、帰宅後にメールや電話が飛び交うこともないため、オンオフの切り替えが明確にでき、仕事から離れて家族との時間を楽しむことができています。また、審判所では、1年以内処理という目標はあるものの、今日明日中の対応を余儀なくされる緊急の飛び込み案件が発生することはなく、長期的な休暇予定も立てやすくなりました。このように恵まれた執務環境で、夏季休暇期間に、家族と一緒にスイスアルプスをハイキングしたり、連休をこまめに利用して、日本の山々を旅したりして、美しい四季の自然に親しむことができました。このほか、審判所の元同僚が遠方へ転勤したことを契機に、休日に、当時の同勤メンバーを募って、訪問したこともありました。審判所の職場は、外部から多数の特定任期付職員を受け入れていることもあってか、特定任期付職員も含む暖かな人間関係を大切にする雰囲気があると思います。
 そして、業務面については、審判所では、勤務地にもよりますが、裁判官、裁判所書記官、検察官、税理士、公認会計士、弁護士、国税職員等、異なる背景を有する構成員が、様々な角度から証拠に基づいて議論します。このことにより、多様な視点による合議の効果や重要性を体感することができます。また、思いのほか、契約の存否、事業主体は誰かというような事実認定が問題となるケースや、民法等の租税法以外の法律の解釈が問題となる事案も多く、審理の過程においては、弁護士業務で得た各種の経験を役立てることができます。さらに、審査請求手続は、職権主義によるため、訴訟手続と異なり、当事者の主張及び前提とする事実に必ずしも拘束されません。このため、当事者に対する不意打ちにならないよう配慮しつつ、当該事件の法令解釈、事実認定について、より深く審理することができます。このほか、勤務1年目の初めの頃には、埼玉県和光市にある税務大学校(司法研修所の近くにあり、修習生時代に入ってみたいと思われた方もいらっしゃるのでは。)において集合研修が実施されるなど、研修も充実していますし、同時期に入所した特定任期付職員とも交流することができます。
 このように、審判所での勤務は、程よいワークライフバランスにより、真に大切なものを見極めるゆとりが生まれますし、弁護士業ひいては人生に資する貴重な経験をすることができます。もし、少しでも興味を持って下さった方は、臆することなく、ぜひ挑戦して下さい。きっと良い転機となるに違いありません。

○ 本コラムは、すべて本テーマに関する執筆者個人の感想や視点に基づいて書かれたものであることをお断りしておきます。

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