国税不服審判所での「調査」

市川 聡毅

 私が国税審判官として勤務する国税不服審判所の支部は、プロ野球のシーズン開始とともに赤く染まる、とある地方都市に所在しています。その熱気は、毎年ますます熱く燃え上がるばかりです。そして、支部の管轄区域は、この地方都市だけでなく、複数の県にわたっています。温暖な気候と果物で有名な県もあれば、ノスタルジックな日本を感じるブランディングを進めている県、多くの歴史遺産や絶景と巨大な工場地帯が並存する県などがあります。それぞれ、気候も、文化も、さらには住む人やことばも様々です。しかも、同じ県でも、歴史的、地理的な事情等から、隣り合う地域が全く別の地域のようだと感じることも多いです。巨大な工業地域、商業地域に農村、あるいは、有名な観光地や鄙びた温泉街など、多様な街があり、それぞれの街に様々な人が住んでいます。そうして、支部の管轄区域の中に、それらの多様な街、地域を管轄する数十もの税務署があります。
 これらの税務署や国税局等の長が行った課税処分や徴収処分に対して、納税者が審査請求を行った場合に、納税者と処分庁の双方の主張を整理し、必要な調査と審理を行った結果、事実を認定し、税法などの関係法令を解釈、適用して行政機関としての最終判断を示すのが国税不服審判所であり、その調査及び審理を実際に担当するのが、我々国税審判官や、国税審判官らと協働してそれぞれの事件を担当する分担者です。
 国税不服審判所では、裁判所での民事訴訟手続とは異なり、職権での証拠収集が禁止されておらず、しかも、その範囲は判断に必要な全般に及びます。そして、たとえ1歩でも、より事実に近づくことは、紛争当事者の納得を得る判断を行うために重要です。その結果、我々国税審判官や分担者にとっては、自ら調査に出て、関係者の話を聞き、関係者の協力を得て事件に関係する証拠物等を確認することが重要な職務の1つになってきます。これまで、調査を通じて初めて聞いた話、見た物、知ったことがたくさんありました。
 あちこちの街に調査に出掛けていると、私の勤務する支部からは公共交通機関によるアクセスが悪い遠くの街まで、何時間もかけて行くことがあり、結果として、泊り掛けでの出張となることも稀ではありません。移動や宿泊に多くの時間を費やしますが、そうした時間に見たもの、聞いたもの、感じたことが事実に近づくことに役立つことだってあるように思います。
 国税審判官等による調査は、審査請求事件に関して、より事実に近づくために不可欠な職務ですが、それだけでなく、幾多の調査を通じ、私自身も、見聞を広め、成長し、いずれ弁護士としての職務に復帰する際にも役立つ知識や経験を得ることができたように感じています。
 このような職務に興味を持たれたあなた。国税不服審判所の国税審判官への応募を選択肢の1つにしてみてはいかがでしょう。

○ 本コラムは、すべて本テーマに関する執筆者個人の感想や視点に基づいて書かれたものであることをお断りしておきます。

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