ワーク・ライフ・バランスは重要!

苅米 裕

 開業税理士であった頃の私は、ワーク・ライフ・アンバランスで過ごしていても、ごくごく自然なこととして受け止めていました。そんな私が「ワーク・ライフ・バランスは重要!」などと公言するようになったのですから、国税不服審判所での日々がいかに公私に亘って充実したものであるかおわかりになるでしょう。本日は、私の生活を180度変えた『私流ワーク・ライフ・バランス』について簡単にご紹介したいと思います。
 転機は、国税不服審判所に着任して間もなくやって来ました。着任日、私は、まるで新入社員のようなワクワク感、高揚感の中で辞令交付を受けました。その後、整然とした執務デスクに案内されるまでは良かったのですが、事務室内のキャビネットに保管された、厚さ10センチほどのパイプ式ファイルがパンパンになるほどの事件書類の束を目の当たりにした瞬間、私はなにやら先制パンチを食らったような気分になり、フワフワした気持ちもどこかに吹き飛んで行きました。気の焦りからか、キャビネットの事件書類が「早く私達を読んで・・・」と誘っているように思えた私は、それからの数日間、とにかく事件書類に一通り目を通すことに費やすことにしました。いわば事件書類達との親密なコミュニケーションのスタート・・・のはずが、少しばかりリーガル・リサーチの心得があった私の脳裏に浮かんだのは、善光寺の戒壇めぐりさながら、暗闇の中を恐る恐る進む己の姿。「今のままではアカン」。私は都内の社会人向けの大学院に通学することを決意したのです。
 かくして、私の国家公務員と学生の二足の草鞋生活が始まりました。まさに『(国の)仕事』と『(学生)生活』の両立です。仕事上の危機感から通い始めた大学院ですが、プライベートで重要な位置を占めるようになりました。私の通う大学院では、平日の夜と土曜日に講義が設定されており、私は、平日の夜に講義を受講し、土曜日はもっぱら大学院に篭って、たくさんの研究熱心な仲間達と意見を交わすなどして交流をしています。学生には、税理士などの専門家、国税職員、そして民間企業勤務の方々がいて、一緒に教室で席を並べることは、日ごろ国税不服審判所の事務室で異なるバックグラウンドの専門家と机を並べている私であっても、とても新鮮に感じられるから不思議です。
 一方で、入学当初、学術研究に縁遠かった私の思考回路は、簡単にショートをしてしまいました。そこで、例えて言うなら、コノハチョウが枯葉に擬態するように、ひたすら他の学生を真似ていたら、1年が経過する頃には本物の枯葉ならぬ本物の修士学生に成長していました。大学院では税法コースを選択したこともあり、大学院の講義で得た税法知識、授業中のディスカッションやケーススタディで習得した法的思考、修士論文作成を通じて涵養したリーガルリサーチ(調査)のスキルや説得力のある主張を展開する力など、そのほとんどすべてが国税審判官としての私の日々の業務に生かされています。もちろん、任期終了後に実務家に戻ってからも、大いに役立つものです(私の実務家としての湯加減は、今や40度前後の適温です)。
 さて、大学院の修了と国税審判官としての任期満了を迎えた後、現在の私のワーク・ライフ・バランスは、再び転換期を迎えます。形態を変えて、また新たに構築しなければなりません・・・。あっ!難しく考えなくとも、家族に目を向ければ良い事でした。私流「ワーク・ライフ・バランス」。変化を遂げながら、これからも続いていきます。

○ 本コラムは、すべて本テーマに関する執筆者個人の感想や視点に基づいて書かれたものであることをお断りしておきます。

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