審判所に来て驚いたこと

和田 和純

 私は、弁護士になる前は公認会計士として監査法人での勤務経験があり、弁護士になった後も民間企業に勤務した経験があるなど、組織の一員として働いた経験の方が長いのですが、公務員としての勤務はここ審判所が初めてなので、これまでとの違いに驚いたことも少なくありません。
 そこで、審判官の業務については他の任期付職員の方のコラムをご参照いただくこととして、私が審判所に来て驚いたことをご紹介したいと思います。

1 情報の取扱いが非常に厳格である

 「ここまでするのか。」と思ったことは、情報セキュリティに対する徹底ぶりです。例えば、職員に貸与される事務用PCはインターネットに接続されていません。メールは、LANシステム内でメールアドレスの割当てがあるので職員間のメールは可能ですが、審査請求人など外部の方とメールすることはできません。
 もっとも、イントラネットにおいてデータベースが利用できるので、税法についてはもちろん、裁判例のアクセスで困ることはありません。しかし、審査請求人の業界のことなど、一般的なことを調べるにはインターネット検索が便利なので、その場合にはインターネットが利用できる共用PCを利用することになります。
 確かに、インターネット環境がある限り、不正アクセスのリスクをゼロにできないので、多少の利便性は犠牲にしてでも、リスクを減らすことを優先させているのは、高度なセキュリティが求められる職場ならではと思いました。
 また、センシティブな情報を取り扱っていることを痛感する場面は、書面を庁舎の外に持ち出す場合です。例えば、審査請求人と面談目的等で外出する場合、審査関係資料を持参することになりますが、その場合、持ち出す書類について上席者の許可を受けなければなりません。また、帰庁後速やかに、持ち出した書類と持ち帰った書類が一致していることを上席者に確認してもらう必要があります。
 このように業務に必要な持出しでさえ制限されているので、自宅への書類の持ち帰りは当然禁じられていますし、外部とメールすることができないので、例えば、作業の続きを自宅で行うために、作業途中のデータをメール添付して自宅PCに送ることもできません。

2 有給休暇のルールが違う

 民間では、入社して半年が経過して初めて10日間の有給休暇が付与され、その後1年経過するごとに10日間と経過年数に1日を乗じた日数が付与される会社が多いと思われます。しかし、ここ審判所では、在職年数に関係なく、原則、毎年1月1日に一律20日付与されます(もっとも、任期付職員は7月10日採用なので、採用初年度の付与日数は半分の10日になりますが、それでも採用日である7月10日から有給休暇が付与されます)。
 以前は、転職すると最初の半年は有給休暇がないため迂闊に病気にもなれないとプレッシャーに感じることも多かったのですが、審判所では採用された日から有給休暇が付与されるので安心感が違います。また、審判所にはデューデリジェンスや刑事事件のように突発的な案件は発生しないので、計画的に事件処理が進められるようにスケジューリングできれば、計画的に有給休暇を取得することが可能なので、非常にワークライフバランスが取りやすい職場だと思います。

 この他にも、所内手続に必要な書類が多く、いろいろな場面で印鑑の押なつを求められることにアナログだなと感じたり、私が審判官として行った職権調査に対して、回答をいただけなかったことが一度もないなど、審判所と弁護士との情報収集能力の違いを痛感させられたりもしました。このように、審判官として日々勤務する中で驚くことが様々ありますが、民間では経験できない貴重な経験ができますので、審判官の仕事に少しでも興味を持った方は、是非応募してください。

○ 本コラムは、すべて本テーマに関する執筆者個人の感想や視点に基づいて書かれたものであることをお断りしておきます。

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