More Active Way of Knowing

小北 大樹

 税法は、税目が多数、規定が詳細、改正が頻繁といった特徴があり、税法の専門家たる税理士においても、その全てに深度ある対応をすることは事実上不可能な分野である。その一定の限界の中で、税理士は、日々顧客に寄り添い、顧客からの質疑に対応する。そして、申告納税制度という、時にハードな枠組みの中で、申告期限までに具体的な解決策を模索するのであるが、グレーゾーンに属する難解な問に対しては、「白」なのか「黒」なのかをはっきり判断することができないことも少なくない。少なくとも小職は、許された工数の中で、「白」に近いグレーか、「黒」に近いグレーかを判断の材料として顧客に提示することまでが仕事であると恩師から教わり、税理士の実務に携わってきた。また、顧客のニーズは、その難解な問いについての結論を、今すぐに、かつ、ざっくり知りたいというものであることも多く、顧客が求めていない中で、どこまで純粋な「白」か、どこまで灰色がかった「白」なのかの精度を上げることに時間を費やすと、チャージ先を失うことにもなりかねない。
 しかし、「知」を追い求める志を捨ててしまっては、もはや職業専門家ではなく、また、その場しのぎの対応で、まるで既存知識の貯金を取り崩すかのような対応を続けているようでは、中長期の持続可能な成長も望めない。
 こういった税理士実務によくある相克に対して、審判所での審判実務においては、3名の審判官等で構成する合議体に与えられた数か月間の調査審理期間において、絞り込んだ争点(当事者双方の主張の対立点)に徹底的に向き合うことができる。国税通則法第97条《審理のための質問、検査等》第1項を基に、審理関係人や、取引先・関係機関等の参考人に対して職権で調査を行う。現地に足を運び、対象物件を丹念に踏査する。先例や学説等を事細かくリサーチする。地道に事実を積み上げ、税法を解釈した上でこれらの事実の当てはめを行い、「白」か「黒」かの答えを導き出して、合議体の合議において1票を投じる。そして、その1票は、課税の公平と個別の審査請求人の権利救済との狭間に立つプレッシャーの中で、税務行政部内の最終的な判断を行う公正な第三者的機関の一員として、評論家ではなく当事者として投じる。
 税理士実務において、審判所での審判実務と同様の時間労力を割くことは非常に困難ではあるものの、当事者意識を持って争点に徹底的に向き合った経験は、申告実務のスピード感の中においても、大局観や直観力の形で、今後の実務対応能力に成長と変貌をもたらすものと実感している。
 税理士の方々、あるいは中長期的な視点から人材育成をされている社員税理士の方々、ご自身や部下職員のキャリア形成の選択肢の1つに、法と証拠に向き合う「審判所ハイウェイ1095日間」を検討されてみてはいかがでしょうか。

○ 本コラムは、すべて本テーマに関する執筆者個人の感想や視点に基づいて書かれたものであることをお断りしておきます。

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