税理士出身者の視点から

武井 宏貴

 私が配属された国税不服審判所の支部は、風光明媚な島々に恵まれ、うどんの消費量では他の追随を許さない、とある県に所在しています。職員数は所長以下20名弱と小規模ですが、その分風通しも良く連帯感があり、より良い裁決書の作成という目的のため、日々活発な議論を交わしています。私はこのような支部に税理士出身者として採用されたので、その目線でのお話を何点かしたいと思います。
 まず、審判官への応募を迷われている方の中には、自分に務まるだろうかと不安に思う方もいらっしゃるのではないでしょうか。個人的なことで恐縮ですが、私は争訟実務上の高度の専門的な知識や経験として特筆すべきものを有していたわけではなく、また、裁決書のような長さの法的な文章を書いたこともなかったので、少なからず不安はありました。もちろん、このような知識や経験は大切ですが、税理士が審判官として期待されることはそれだけではなく、税の横断的な知識・経験を事件の調査審理に役立てることでもあるように、今は感じています。
 というのも、基本的に審判所に配属される国税出身者は、20年30年の経験がある各税目のスペシャリストがほとんどですが、逆に、様々な税目を満遍なく経験した職員はあまりいないからです。税理士は、多種多様な事件について、横断的な視点から意見を述べることで、十分にその役割を果たせると思いますし、現に、他の事件を担当する審判官から職業専門家としての視点からの意見を求められることも多く、民間視点の意見については大変尊重して頂けるように感じています。
 また、税理士が審判官を経験する利点は多々あると感じます。具体的には、担当事件を通じて多数の文献に当たる(合議の際には、事前に、ときに数千ページに及ぶ事件冊子(参考資料、主張書面、証拠書類等が綴られたもの)の全てについて十分読み込んで臨みます。)ことにより、実践的に税務を学ぶことができます。また、広報活動に参加したり、所内外で研修を担当したりと、小規模支部での任期付職員の役割は大きく、貴重な経験ができます。
 さらに、国税出身者をはじめ、弁護士等の専門家、裁判官・検事出身者など多様な背景を持つ方々と議論し又は経験談等を直接聞くこと、審判実務の基礎となる民事訴訟の理論と相違点、民事事実認定の手法を習得すること、調査手続や第二次納税義務、推計課税等の事件から実務上あまり馴染みがない知識を得ることもできます。
 興味はあるが顧問先との関係を考えると任官は難しい、裁決書なんて書けそうにないという声も聞きますが、職業専門家として幅が広がることは間違いありませんので、状況の許す方は是非応募されることをお勧めします。

 最後に。私は応募の際、特に勤務地を制限しなかったので、現在の勤務地への配属となったのですが、そこに住み、出張等で各地に訪れたりする中で、地域の様々な魅力に触れることができました。また、各地の事件には、その地域独自の興味深いものや先例性のあるものも少なくありません。
 応募の際は、全国の各地方支部における勤務も、是非検討されてみてはいかがでしょうか。

○ 本コラムは、すべて本テーマに関する執筆者個人の感想や視点に基づいて書かれたものであることをお断りしておきます。

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