審判所における職権調査

ペンネーム:シマリス

 既に他の方のコラムで書かれているとおり、審判所における審理の大きな特徴として、職権探知主義というものがあります。訴訟手続と異なり、審判官が職権で調査を行うことができるというものです(国税通則法第97条第1項)。審判官の職務は、法令の解釈や事実の認定など、弁護士の仕事と重なる部分もあるのですが、職権調査は、審判官の職務において独特な点ですので、私が感じたことを書いてみようと思います。

 職権探知主義といっても、何でも職権調査をすればよいという訳ではなく、第一次的には当事者からの主張、立証により審理は進みます。当事者の主張、立証の程度によって、どこまで、何を職権で調査しなければならないかは変わりますが、当事者からの主張、立証を受けて、存否または正否を明らかにする必要があると判断したときに、当事者の有利、不利に関わらず、職権調査を行っていきます。職権調査を行うときは、審判所の建物内で行う場合もありますが、審判所を出て、外部で行う場合もあります。採用される前は、職場内でずっと書類を起案しているイメージがあったのですが、実際には、職権調査のために審判所の外に出て行くことも多くありました。事件によっては、普段であればなかなか行けない場所にまで出張することもあります。
 また、職権調査の中には、関係人に質問をするというものがあります。審判官の質問に対する応答を調書にまとめるもので、訴訟における尋問手続と似ていますが、対審制を採っている裁判所とは異なり、反対尋問や補充尋問をする者が同席していません。ですので、私としては、質問を行う際には、当事者の代理人、反対当事者の代理人、裁判官の全ての立場に立ったつもりで質問することを心掛けています。
 現地で、自らの目で見て、耳で聞いたことを証拠としてまとめ、判断をしていくというのは、審判官の仕事の中でも、面白く感じています。
 一方で、行政審判機関として、適正・公平な処理だけでなく迅速な処理という要求にも応じなくてはなりません。このため、審判所においては、審理期間の目安となるものとして「通常要すべき標準的な期間」を1年と定めており、事件の進行管理は常に意識しています。

 私は、審判官としては2年目ですが、まだまだ学ばなければならないと思うことを多く感じています。職権調査に限らず、自ら見て、聞いたものを通じて、成長していくことは、任期を終え、弁護士に戻った後にも役立つものと思っています。
 審判官の職務にご興味を持たれた方は、是非、自ら経験するべく、応募してみてはいかがでしょうか。

○ 本コラムは、すべて本テーマに関する執筆者個人の感想や視点に基づいて書かれたものであることをお断りしておきます。

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