「何をするところ?」

川畑 大

1 ちょうど1年前、私が国税審判官に就任したことを弁護士の友人らに話した際、表題の質問を何度受けたでしょうか。私はその都度、かくかくしかじかと抽象的、かつ、教科書的な回答をしながら、審判所そのものの認知度が未だ弁護士業界においても低いことを実感しました。そこで、国税不服審判所に着任してから1年間の職務経験を踏まえ、私は、このコラムを通じて「国税不服審判所って何をするところ?」という問いに、今一度具体的に答えたいと思います。そうすることで、国税不服審判所の特定任期付職員に興味を持ち、このコラムを読んでいただく方が、審判所とはどんなところかということを少しでもより具体的にイメージできるようになっていただければと思います。

2 まず、国税不服審判所において取り扱っている税務紛争もまた法的紛争の一つであることに違いはありません。ですから、その紛争を解決するため、国税審判官が証拠から事実を認定して、法令解釈に当てはめて正当な結論を下すという点では、裁判所を舞台に行われている通常の紛争と何ら異なるところはありません。そして、国税不服審判所は、通常の訴訟で言えば、公正中立な第三者の立場で判断を下す裁判所としての役割を果たします。つまり、税金の裁判官、いわばジャッジとしての立場で課税庁と納税者両者の意見を聴き、税務紛争の解決に当たることになります。

3 もっとも、通常弁論主義の下で行われる裁判は、当事者双方の主張立証以上に、裁判官が疑問点について独自に証拠を収集し真実を解明するということは原則的にできません。しかし、国税不服審判所では、審理の中で当事者双方の主張立証を経ても未だ不明確な点について、物証の収集や関係者に対する質問検査等の職権調査を行うことができます。つまり、国税不服審判所は、通常の裁判所と異なり、自ら真実を解明する手段を与えられています。そのため、私も代理人時代に培った尋問技術や証拠収集能力を生かしながら、日々、尋問のような形で正確に事実を聴取し、その結果を質問調書にまとめたり、双方当事者の主張の真偽を検証するために必要不可欠な物件を遠方まで調査に赴くなどしています。したがって、国税不服審判所には、ジャッジという公正な第三者の立場でありながら、真実解明の職権調査をすることも求められています。

4 このように国税不服審判所とは一言で言ってしまえば、「税務行政部内における公正な第三者的機関として自らも真実解明を図るジャッジ」です。このため、国税審判官には事実認定や法令解釈といった能力に加えて、自らも真実解明をするために質問調査する能力や証拠収集能力が求められます。そして、このような能力はまさに弁護士が実務で培っているものであり、弁護士出身の任期付職員に対して特に期待されている点でもあります。
 弁護士としての職務経験を生かしながら新たな分野に挑戦したいと思っていらっしゃる方の中で、少しでも国税不服審判所に興味を持たれた方がいらっしゃるなら、この機会に国税審判官への応募を検討されてみてはいかがでしょうか。「国税不服審判所とは何をするところか」ということもより分かると思います。

○ 本コラムは、すべて本テーマに関する執筆者個人の感想や視点に基づいて書かれたものであることをお断りしておきます。

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