「国税審判官を経験することによって得られるスキル」

青山 英樹

 私が審判所に採用されて一年を経過しましたので、審判所の仕事を経験することによって得られるスキルについて述べたいと思います。
 結論としては、①法解釈及び事実認定の能力、②論理的思考力、③文章力を向上させることができると思います。
 まず、前提として、私が経験した弁護士法人及び税理士法人における仕事と比較して、審判所における仕事は、一つの案件に掛けられる時間が圧倒的に多いといえます。弁護士法人や税理士法人においては、依頼者やクライアントの方々との面談及び電話、相手方代理人との交渉、裁判所への出廷、クライアントへの訪問といった仕事があり、移動時間も多かったのに対し、審判所においては、請求人(及びその代理人)や原処分庁の担当者等と接触する時間はそれほど多くなく、また、関連しそうな裁判例や過去の裁決、論文等の検索等は審査官が徹底的にサポートしてくれます。参考として、私が同時に関与している案件は、担当審判官として5件前後、参加審判官として5件前後です(なお、担当審判官とは、その案件を主担当として担当する審判官であり、参加審判官は、関与する審判官のうち主担当でない審判官です。)。
 上記のとおり、一つの案件に掛けられる時間が多いため、関連しそうな裁判例や過去の裁決、論文等を熟読し、それを自分の頭で理解し、応用させるために思考する時間が十分に確保できます。また、法解釈や事実認定について、国税出身者、裁判官出身者など様々なバックグラウンドを持った職員と深い議論を行う機会が多いので、様々な視点からの意見に触れることにより、視野が広がり、税法の解釈等について、広い視点が身に付くと思います。このように、審判所においては、①法解釈及び事実認定の能力、②論理的思考力を向上させる経験が積めると思います。
 更に、審判所で作成する書面の精度、緻密さは、非常に高いです。当然、民事訴訟における訴状や準備書面も精度や緻密さを求められますが、公的機関として作成する裁決書は、誤字・脱字は許されませんし、正確な文法、緻密な論理の積み重ね等が要求されますので、議決書や裁決書は、参加審判官等の他の多くの職員の意見を集約して修正されて、作成されます。自分の書いた文章が、第三者の批判的検討を通じて修正されていくという経験は、司法修習を終えて実務に就くと得難い経験です。私自身、司法試験の勉強を通じて文章力を身に付けた、という自負はありましたが、他の審判官等から文章の修正案を提案されると、納得のいく提案ばかりであり、審判所の職員のレベルの高さに驚くとともに、審判所においては、②論理的思考力、③文章力を向上させる経験を積めると思いました。
 以上のようなスキルは、弁護士、税理士、公認会計士のいずれの仕事にとっても、重要なスキルだと思いますので、貴重な経験ができると思います。興味がある方は、任期付審判官採用の説明会等に参加して頂ければと思います。

○ 本コラムは、すべて本テーマに関する執筆者個人の感想や視点に基づいて書かれたものであることをお断りしておきます。

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