「地方支部の魅力」

中村 和寛

 私は元々、自分の知見を広げるため他職経験の希望を持っていたのですが、大学入学以降ずっと大阪に住み、弁護士としても大阪で働いていましたので、地域的にも違う空気を吸ってみたいという希望も持つようになっていました。
 そこで、日本全国に支部・支所のある国税不服審判所の国税審判官としての初任地は、あえて大阪近辺を希望せず、結果として現在は中国地方の都市に所在する地方支部にて勤務しています。本コラムでは、地方支部の魅力について2点ほど、お話をしたいと思います。
 やはりまず一番は、自分の知らない地域の特色に触れられることです。私の勤務地の県で言えば、中国山地や四国山地から流れ込む豊富な栄養で満ちた瀬戸内海で育った魚介類と、日本三大酒処に数えられる酒処の地酒の組み合わせは最高の一言ですし(個人的には牡蠣フライとビールの組み合わせも捨てがたいですが)、お好み焼きのソースの香ばしい香りには、抗いがたい魔力があります(お好み焼きとビールの組み合わせもいいですね)。プロ野球のシーズンになれば、球団愛が新聞すらも赤く染め上げ、秋になれば、県の木である紅葉が日本三景をはじめとする優美な風景を赤く染め上げます。有名な2つの世界文化遺産は、県の歴史を雄弁に物語っています。特色を挙げていけば、枚挙にいとまがありません。
 地方支部において、審判所に審査請求を行うのはその地域の方ですし、事件処理において調査・審理を共に行うのもまた、その地域の方です。そのため、国税審判官としての業務を円滑に行うためには、その地域の特色に触れ、その地域の人々を形成する社会的・文化的背景を知ることは必須であるともいえます。そのような広い意味での業務遂行の一環として、自分の知らない地域の特色に触れられることは、地方支部の大きな魅力です。
 もう一つは、特定任期付職員の(良い意味での)責任の重さです。地方支部は、都市部の大規模支部と比べると人員が少なく、必然的に任期付職員の数も少なくなります。そのため、民間の専門職からの意見は貴重なものとして、担当事件かどうかにかかわらず求められることになります。民間の専門職の意見を代表するようなものなので、発言の責任は重くなりますが、その分重宝もされるので、とてもやりがいがあります。
 ある地域で仕事をしていると、その地域で地縁が形成されてくるので、一転してゆかりのない地域で働く機会はだんだんとなくなってきます。特定任期付職員としての国税審判官は、将来民間職に戻った際に役に立つであろう、異なる組織の知見が得られるというだけでなく、異なる地域の知見を得ることのできる、とても良い機会だと思います。
 このような観点から、応募の際には、希望勤務地を広く考えてみてはいかがでしょうか。

○ 本コラムは、すべてテーマに関る執筆者個人の感想や視点に基づいて書かれたものであることをお断りしておきます。
 なお、本コラムは令和元年7月に執筆されたものです。

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