「弁護士と税」

森田 康子

 司法改革による弁護士数の増大、都市部の飽和による弊害が叫ばれて久しいですが、税法を専門とうたうことのできる弁護士の数は、今も昔と変わらず少ないのが現状です。原因はひとえに、多数の税目に膨大な関係法令、通達、それらの解釈どころか存在の把握すら(時には素読みすら)困難であるのに頻発される改正、税務署における実務の縁遠さ、といった税務分野の見果てぬ広大さ(手に負えなさ)にあるように思います。私も、弁護士として10年近く稼動しながら、その深淵に足を踏み入れる勇気はなく、生来の数字嫌いもあいまって、受任した事件の税務処理が必要な場合にはすぐさま税理士の皆さんに頼りきりという状況で、現実に求められる税務処理まで見据えたトータルリーガルサービスの提供には程遠いことに、日々忸怩たる思いを抱いていました。
 それでも、出産後の復職先を探す際、審判所の扉を叩いてみようと思ったのは、審判所が非常にワークライフバランスの取れた、ママにも優しい職場であると聞いたからというのも大きいですが(実際、そうでした。)、この先、長く弁護士としてやっていくには、あらゆる事件に絡んでくる「税」について避けては通れないと観念し、上記の忸怩たる思いに向き合う覚悟を決めたこともあります。
 飛び込んだ審判所で待ち受けていたのは、暗い深淵でも広大な迷宮でもなく、課税要件事実に忠実に、当事者の主張を整理し、設定された争点について、証拠を収集しつつ事実を認定して、合議体で何度も議論を重ねる日々でした。これは、弁護士実務と大いに通じる内容ですが、審判所での議論は非常に活発で、法律家としての視点だけでなく、各税目につき蓄積された租税実務や調査に精通した国税職員、税理士・会計士といった他の任期付審判官とも協同しながら、多角的かつ緻密に検討し、堅固な根拠をもって一つの裁決を作り上げていくという作業は、自分の論理構築力や事実認定の甘さを懇切に鍛え上げてくれるものでした。
 また、訴訟活動において、裁判所の考えていることがよく分からない、というのは弁護士としてよく直面する悩みかと思いますが、審判官として、裁判官のように中立的に事件を検討する立場になってはじめて、俯瞰的に当事者の主張を整理する視点を得られたことも貴重でした。
 税法を専門とうたうにはまだまだ自己研さんを積まなければなりませんが、このように、審判官の職務は、この先の弁護士人生を照らす明かりとなってくれるものと確信しています。
 審判官の職務に少しでも興味を持たれた方は、ぜひ応募を検討されてみてはいかがでしょうか。

○ 本コラムは、すべてテーマに関る執筆者個人の感想や視点に基づいて書かれたものであることをお断りしておきます。
 なお、本コラムは令和元年8月に執筆されたものです。

トップに戻る