「国税不服審判所とは―着任前の自分自身に答える―」

吉田 渉

 本稿では、私自身が着任前に抱いていた不安や疑問に対して現在の私が回答するという形式で、国税不服審判所をご紹介したいと思います。なお、本稿の回答内容は専ら私個人の感想である旨念のため申し添えます。

Q1  弁護士として税務調査対応や租税訴訟等の経験がなくとも、国税審判官の職務に支障はないのだろうか。
A1  国税不服審判所には経験豊富な国税職員、税理士・公認会計士出身の任期付審判官が在職しており、私自身に上記の経験がないことで職務に支障を感じたことはありません。無論、租税法の勉強も必要ですが、弁護士出身の任期付審判官としては、民法・商法や行政法一般の知識、要件事実論的分析、事実認定の考え方など法曹としての一般的な知見が求められており、かつ、こうした知見を活かすことができる仕事であると感じています。
Q2  国税通則法第97条第1項によると、担当審判官は職権調査を行うそうだけれども、具体的にはどのようなことをするのだろうか。
A2  審査請求手続は職権探知主義を採用しているので、担当審判官は、当事者の申立ての有無にかかわらず、審理に必要な範囲で職権調査(質問、帳簿書類等の提出要求・留置、検査、鑑定)を行い、その内容は事案によって多種多様です。
 調査の対象者は、審査請求人、原処分庁、審査請求人の代理人など関係人にとどまらず、審査請求人の取引先などその他の参考人も含みます。
 これらの調査方法のうち、とりわけ「質問」はなかなか具体的なイメージが付きづらかったのですが、審判官から対象者に審理に必要な事項を尋ねるもので、弁護士の職務に関連付けていえば、訴訟における尋問というよりも、当事者対審の形式をとらない非訟手続での審尋や第三者委員会によるヒアリングに近いかもしれません。
 このような調査において、審理に必要な事項を分析した上で、誰にどのようなことを尋ねるべきか、又は誰からどのような書類等を収集すればよいかなどを検討することは、弁護士としての経験を活かすことができる仕事であると考えております。
Q3  国税不服審判所の雰囲気はどのような感じだろうか。
A3  支部・支所にもよると思いますが、私が所属する支部は都市部ということもあって職員数が多く、職員のバックボーンも様々で(国税出身の職員、特定任期付職員、裁判所・検察庁出向者という区分だけでなく、国税出身の職員でも様々な出身事務系統の方が入り混じっています)、外部から着任した特定任期付職員も溶け込みやすい雰囲気です。
 本稿執筆時点では残念ながら新型コロナウイルス感染症の影響で実施がなかなか難しい状況ですが、例年は有志による各種サークル・レクリエーション活動(日本酒研究、落語、野球観戦等々…)等も活発に行われているとのことです。

 本稿が国税不服審判所のイメージを掴む一助となれば幸甚に存じます。

○ 本コラムは、すべてテーマに関する執筆者個人の感想や視点に基づいて書かれたものであることをお断りしておきます。

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