「司法修習の再来!?」

野田 陽一

 法曹実務家は司法修習を経験する。これは、司法試験合格後に全国の地方裁判所所在地に配属され、各裁判所、検察庁等で行われる実務修習を中心とするものである。
 司法修習は私の人生の中で最も充実した時間の1つであった。特に弁護士となった後は、裁判官、裁判所書記官、検察官及び検察事務官等が組織内部の人間のように接して下さり、外部からでは知り得ない組織の実情を学べる大変貴重な機会であったと感じる。
 誤解を恐れずに言えば、審判所勤務の環境は司法修習の環境と似ていると思う。もちろん、国税審判官と司法修習生では立場や職責が大きく異なり、研修生気分で勤務することは許されない。ここで言いたいのは、税務調査を行う調査官や税務訴訟に関与する訟務官等として長年勤められた国税職員の方が同じ組織の人間として接して下さり、国税組織の実情を学べることが特に司法修習を思い出させるということである。審判所に配属される国税職員は税務署長経験者等の大ベテランが多い。人生経験も、30代前半で採用された私よりも概ね10〜25年ほど長い。合議や雑談の際に登場する過去の税務調査や税務訴訟等の話は、(弁護士出身者として耳の痛い話を含め)大変興味深く、一社会人として勉強になるものが多い。
 国税審判官の職務面を見ても、判断者としての立場から、租税法やその適用の前提となる私法関係・事実関係等を調査して議決書の起案を行い、合議を重ねて妥当な結論及び説得的な理由付けを探求するものであり、裁判修習や検察(捜査)修習で担当した職務に類似性を感じる。出向中の裁判官や検察官と接する機会もあり、これらの方と一緒に事件を検討するとまさに司法修習を思い出す。民法解釈、事実認定及び法的三段論法に従った起案等、弁護士経験を活かせる場面は多い。一方で、裁判官、検察官及び国税職員からの各指摘は大変良い刺激になり、着眼点や思考の幅が広がる。起案の大半を書き直されるという悔しい思いもしたが、その分得られるものも大きい。
 ワーク・ライフ・バランスという点も司法修習に近い。終業後や土日祝日、有給休暇取得日には電話もメールも来ない。プライベートでは子どもとの時間が大幅に増えた。有給休暇とは別に夏季休暇や子の看護休暇等を取得できるのも大変ありがたい。スキルアップに向けた取り組みを行う時間もあり、採用同期は社会人向け大学院へ入学した。私は週2〜4回スポーツジムへ通っているが、心身がより健康になった実感がある。なお、私が独身であれば、おそらく地方支部への配属を希望し、(まさに司法修習のように)地域を満喫していただろう。
 私は弁護士業務にやりがいも面白みも感じている。採用前には、弁護士キャリアを考えると国税審判官を経ることがプラスになるか懐疑的な面もあった。しかし、縁あって採用された今では、長い人生にとって必要な時間であると確信している。日時を問わず仕事を優先する生活から一定期間離れ、弁護士とは異なる専門的な知見や情報を得られる職務を担いながら、自分の今後や幸せを改めて考えることができるこの時間は、司法修習を思い出させるほど充実したものとなっているからである。

○ 本コラムは、全てテーマに関する執筆者個人の感想や視点に基づいて書かれたものであることをお断りしておきます。

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