「『公認会計士・弁護士』の知識・経験を活かす場として」

佐久間 玄任

1 はじめに

 私は、もともと、公認会計士試験に合格してから監査法人で勤務していました。監査を通じて様々な業界のこと、様々な会社等のことを垣間見ることができるのはとても興味深かったのですが、提供できる業務の幅をより広げることで依頼者により大きく貢献できるようになりたいと思い「公認会計士・弁護士」のダブルライセンスを目指しました。
 「公認会計士・弁護士」となった後、公認会計士試験で学習した租税法について、計算の側面と法律の側面があり、両側面を担えるようになりたいという気持ちもありましたが、審判所で勤務するまでは、正直なところあまりダブルライセンスを活かせていませんでした。

2 公認会計士として

 審査請求では、代理人の資格に制限はないため、訴訟の場合とは異なり、弁護士以外が代理人となることも多いです。守秘義務の関係で詳細は述べられませんが、公認会計士が代理人となって、会計基準や実務指針等を持ち出して、監査の観点から審査請求をするという事案を担当したことがありました。
 国税職員は、税法については詳しいのですが、会計学に精通している人はそう多くはいません。代理人の主張をしっかりと受け止め、他の国税職員に正しくつなぐために、会計・監査の知識が大いに役立っています。
 また、監査法人で様々な監査に従事して、会社の内部統制を見てきた経験は、理想的な会社がどのようなルールを作り、どのように動いているのかを理解するのに役立っています。請求人となる会社は、誰もが知る大企業から、個人商店まで様々ありますが、在るべき姿と比べてどうなのかが、事件処理の方向性を決めるヒントにもなります。

3 弁護士として

 着任して以来感じていることですが、国税職員は、税務に関する法令・通達はもちろん、周辺分野についてもとても詳しいです。しかも、関係法令・通達の複雑な条文を見事に読みこなします。異動の過程で訴訟を担当する国税訟務官を経験されている職員も多く、行政訴訟についても詳しいです。
 そういうことばかり言うと、税法に詳しくないと任期付審判官が務まらないのかということになりそうですが、弁護士の価値はもっと別のところにあります。
 例えば、相続案件は、審査請求と同時に民事訴訟が並行していることが多く、法律問題と税務問題が密接に関連しています。弁護士は、司法試験を通じて基本的な法律の学習をしているため、民法・民事訴訟をはじめ、基本的な法律の理解については一日の長があります。また、これまでの訴訟経験に基づく「勘」から、並行する訴訟の流れを読むことができます。具体的説明は省きますが、訴訟の流れを読んだ結果、民法の基本中の基本が事件処理のヒントとなったこともありました。
 なお、審判所本部及び大規模支部には、検事出身の審判官が在籍しています。担当事件の性質から、検事出身の審判官の助言を受けながら事件処理に当たることもありました。弁護士になってからだと、検事と一緒に仕事をするような機会はないので、とても貴重な経験になりました。

4 最後に

 任期付審判官の仕事は、国税職員と一緒に仕事をすることで、税法に詳しくなれることはもちろんですが、会計・法律の知識・経験で自らの価値を発揮し、貢献するためにふさわしい場だと感じています。
 また、法律・税務・会計について別々にではなく、ワンストップで解決できれば難しい問題になるのを未然に防ぐことができたのにという事件もありました。
 一人でも多くの読者の皆様が、任期付審判官に興味を持っていただければ幸いに思います。

○ 本コラムは、全てテーマに関する執筆者個人の感想や視点に基づいて書かれたものであることをお断りしておきます。

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