「今までの経験のすべてを活かせる仕事です。」

ペンネーム:井伊田 舞奈

 私は税理士出身で、着任前は開業税理士として一人で仕事をしていました。その前は個人の会計事務所での勤務経験と、一般企業での経理部員の経験があります。現在、今までの職歴の中で一番居心地が良い職場でやりがいのある仕事ができる喜びを毎日感じているので、国税審判官の業務や国税不服審判所の魅力について色々と書きたいところですが、それらの点は今までのコラムで皆さんがたくさん触れていらっしゃいますので、今回は、税理士出身者として、現在の業務に活かせていると感じている点について書きたいと思います。
 私が任期付審判官に応募する際に一番不安だったこと、それは、「私のような税理士が審判所で活かせることって何だろう?」ということでした。法律的な知識は弁護士・法曹出身の職員、会計の専門的なことは公認会計士出身の職員、そして、税に関しては国税出身の職員が強いのはもちろん、大きな法人で専門的に経験を積まれてきた税理士出身の職員もいる、そのような中で仕事をするのを想像すると、広く浅く税に触れてきた経験しかなかった私にとって、自分の強みなどないように感じられ、採用していただくことが決まった後も不安でいっぱいでした。
 しかし、1年半やってみて、それは杞憂だということが分かりました。もちろん、皆さんに頼ってしまっているところの方が多くありますが、自分の経験も役立てるところは十分にあると感じています。
 国税審判官として事件の調査・審理をするに当たり、審査請求人の主張を理解するため、提出書面を読み解き、面談で的確な質問をして審査請求人が本当に主張したいことを引き出すことが重要です。その際、今まで仕事で接してきた納税者とのやりとりや、自分が関与税理士又は企業の経理担当者であった時にやっていた作業内容や税務調査の際の記憶等と照らし合わせることが、相手の立場を想像しながら考えることの助けとなっています。
 また、審査請求人の主張する事実を証明する証拠の提出を促す際や、職権調査を検討する際にも、税理士の頃に作成していた書類や、経理部員であった頃に直面していた企業の内部の意思決定のプロセスなどを思い返すことで、「こういう書類が存在するかもしれない」「こういう立場の人に話を聞くといいかもしれない」等思いつくことが多いです。これは、納税者という立場に寄り添った仕事を長くやってきた税理士の持つ強みだと思います。
 今まで自分が税理士としてやってきたことの全てを活かして公正な裁決に貢献できるというのはめったにない貴重な経験です。たくさんの税理士の方に経験していただきたいと思いますので、この文章が任期付審判官に応募しようか迷っている方の不安解消の助けとなれば幸いです。

○ 本コラムは、全てテーマに関する執筆者個人の感想や視点に基づいて書かれたものであることをお断りしておきます。

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