「審判所での主張整理と弁護士実務の関係」

井上 陽介

 本コラムでは、審判所で行われている主張整理と、弁護士実務の関係について書きたいと思います。審判所で行われている主張整理では、弁護士の実務経験、特に裁判実務の経験をダイレクトに生かすことができます。
 審判所では、審査請求人と原処分を行った原処分庁の双方から主張を聴くことで、争点に主眼を置いた調査・審理を行うこととなっており、審査請求についての判断を示す裁決においても、争点に対する判断に重きが置かれます。そのため、当事者の主張を整理し、適切な争点を設定することが、適正かつ迅速な事件処理を実現するに当たって大切になります。
 実際の審査請求手続では、当事者双方から提出された主張書面に基づいて主張を整理するのですが、それだけにとどまらず、書面や口頭での求釈明、面談での質問、事件の性質によっては審査請求人、原処分庁、審判所の合議体の三者が同席の上で当事者双方の主張を説明してもらい、主張の内容や争点を相互に確認するなど、担当審判官が主体的に関与しながら主張整理を進めていくことになります。そして、主張整理の終盤では、争点と主張の要約を記載した「争点の確認表」という書面を作成して当事者双方に送付し、当該事件の争点と主張について関係者の認識の共有を図ります。
 このような主張整理の手続を適切に進めるためには、要件事実論や事実認定の知識、主張全体の中から判断に必要な事実を洗い出して争点を絞り込んでいく能力、整理した主張を適切に書面にする能力などが必要となりますが、これらの知見は、司法修習やその後の事件処理、特に裁判での争点整理手続を通じて、弁護士であれば誰でも身に付けているものだと思いますので、審判所における主張整理の手続では、弁護士としての実務経験を存分に生かすことができます。
 弁護士としての実務経験を生かすことができると言っても、一般的な弁護士であれば事件として扱うことがほとんどない法令を扱うことになるので、租税実務の経験がなくても大丈夫だろうかという不安があるかと思います。しかし、審判所には各税目に精通した経験豊富な国税職員、税理士や公認会計士出身の任期付審判官が在籍していますので、租税実務を経験していないことで困ったということはほとんどありません。私も司法試験の選択科目として租税法を選択したわけではなく、租税実務に精通していたわけでもありませんが、経験豊富な他の職員と協力しながら事件処理を進めることができています。
 本コラムでは、主張整理と弁護士実務の関係について書いてみましたが、主張整理だけでなく、職権調査、議決書の起案、研修の講師など、他にも弁護士の知識・経験を生かすことのできる場面が数多くあります。租税実務の経験がないことによって審判官の職務に支障が出ることはありませんので、審判官の職務に少しでも興味を持たれた方は、租税実務の経験がないという方でも、是非、応募を検討されてみてはいかがでしょうか。

○ 本コラムは、全てテーマに関する執筆者個人の感想や視点に基づいて書かれたものであることをお断りしておきます。

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