「税理士が衝撃を受けた『事実認定』の世界!」

村山 昌義

 私は、都内の税理士法人に長年勤めており、税務相談や申告業務のほか、セミナー講師や執筆活動等に従事していましたが、税理士としての知見を深めるべく国税不服審判所に応募し、現在は東北地方最大の都市で勤務しています。
 審判所での業務は、担当審判官や参加審判官として事件に関与することはもちろん、地元税理士会でのセミナー講師や部内での研修発表等様々ありますが、このうち審判実務を通じて痛感した事実認定の精度について述べたいと思います。
 審判所では様々な研修が行われ、争訟実務の経験が乏しい税理士でも十分ついていける内容で勉強になるものばかりです。とりわけ、審判所で求められる事実認定の精度には衝撃を受けました。
 事実認定は直接証拠や間接証拠を基に争いのある主要事実について認定を行うプロセスをいい、書証や人証、処分証書や報告文書、さらには形式的証拠力や実質的証拠力、「動かしがたい事実」など、通常の税理士業務では聞き慣れないワードが飛び交います。最初に研修を受けたときの正直な印象は、「そこまでやる必要あるの?」と思ったものですが、実際に議決書案を書いてみると、事実認定について相当の精度が必要不可欠であると思い知らされました。私自身、事実認定の本来の意味、証拠構造や手法等に至るまで何も知らず、今まで事実認定だと思い込んでいたことが、上辺だけの非常に薄っぺらいものであったと反省しています。
 税理士が行う税務相談業務は、今まさに進行している事柄や、将来想定される事柄を取り扱うケースが多く、税務調査以外では過去に起こった事実を認定するという機会はあまりないような気がします。
 もちろん、調査権限のない民間の税理士が収集できる資料には限界があるため、自ずと事実認定にも限界がありますが、事実認定のプロセスを理解し、証拠構造をイメージできるか否かは、税理士の実務においても重要なポイントだと思います。その一方で、「事実認定」というワードを使用する税理士は数多くいても、事実認定を体現できる税理士はそれほど多くないのでは?という印象を受けます。
 その点、審判所には法曹界出身の職員も多く在籍しており、それこそ事実認定のプロです。このような職員から事実認定とは何たるものかを学べるのは審判所の魅力ですし、税理士に戻ったときの業務に役立つスキルだと思います。

 このように記載すると、なんだか難しそうなイメージを持たれるかもしれませんが、研修内容も充実しており、職場内も自由に意見を言える雰囲気ですので、話についていけず一人で取り残されるということは絶対にないので安心してください。
 このほか、多くの任期付職員が紹介していますが、審判所ではワーク・ライフ・バランスが徹底されています。私も週末は東北各所をドライブしながら四季折々の景色や東北グルメを満喫しています。

○ 本コラムは、全てテーマに関する執筆者個人の感想や視点に基づいて書かれたものであることをお断りしておきます。

トップに戻る