「挑戦に不安はつきもの」

代田 道和

 審判所勤務の良さなどポジティブな面については、他の任期付職員のコラムで頻繁に紹介されていますので、今回、私が取り上げるテーマは、ネガティブな面である「不安」にします。任期付審判官に応募したいけれど、やっていけるのか、任期終了後はどうするのか、といった様々な不安を感じている方が多いと思います。私が着任前後に感じたこと、実践したことなどを参考までにお伝えさせていただきます。
 私は税理士出身で、任期付審判官2年目になります。着任前は、所属税理士として、よくある小規模の会計事務所に勤務していました。税務に関しては、幅広く横断的な知識や経験はありましたが、国際税務や組織再編などを専門としていたわけではなく、特に得意分野を持たない税理士でした。
 さて、そんな私が採用の連絡を受けたときは、「選ばれた自負」と「本当にやっていけるのかという不安」の二つの心境がありました。ただ、やはり不安が大きく、着任前の期間は、公表裁決事例と民事事実認定に関する書籍を読むことを日課としました。
 着任後の最初のうちは、事案の論点がつかめず、合議にも積極的に参加できていないと感じることが多く、申し訳ない気持ちがありました。また、議決書の起案も、論理的思考力や文章力が不足していたため、大幅に修正されるなど悔しい思いもしました。
 しかし、合議体のメンバーに助言を頂き、裁判例などの類似の事案を数多く調べることにより理解が進み、徐々に、税理士業務での経験を生かした議論ができるようになりました。また、起案についても、他の裁決例を参考に試行錯誤を重ねることにより、これも徐々にではありますが、議決書が書けるようになりました。
 最初は続けられるか不安に感じることもありましたが、任期1年目が終わる頃には審判所での業務を面白いと感じていました。現在では、業務に関する不安はおおむね解消されたと思っています。
 業務以外での不安については、3年という期間、税理士実務から離れることになり、その間に、例えばインボイス制度の施行などの税制改正が行われた場合、税理士に復帰した際に「実務の浦島太郎」になっていることへの不安があります。しかし、事件の審理に当たっては、最新の税制改正内容も把握しておく必要があるため、審判所には税務専門誌などの書籍が備え付けられており、それら専門誌などにより定期的に知識のアップデートを行うことはできます。また、申告書作成などの技術スキルについては、多少のブランクによって失うものではありません。それよりも、審判所勤務によって得られる法的思考力などの知的スキルの方が、今後の実務に生かせるとても貴重な財産になると思います。
 とは言え、本コラムを執筆している現在においても、任期後の仕事のことなど、漠然とした不安はあります。ただし、税務の道を進んでいることには変わりがありませんので、立ち止まらず進んでいけば不安は自ずと解消されるはずと考えております。
 本コラムにより、応募に迷っている方の不安が少しでも払拭されれば幸いです。

○ 本コラムは、全てテーマに関する執筆者個人の感想や視点に基づいて書かれたものであることをお断りしておきます。

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